説明

樹脂組成物及びこれを用いた成形体

【課題】優れた外観特性を有し、成形加工性と耐熱性とのバランスが良好で、かつ実用上充分な機械的強度を有する成形体を作製可能な樹脂組成物及びこれを用いた成形体を提供する。
【解決手段】(A)ポリフェニレンエーテル10〜90質量部、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン90〜10質量部、(C)難燃剤としてのリン化合物0〜40質量部、(D)離型剤0.05〜1.0質量部、(E)顔料系着色剤、を、含有し、前記ゴム変性ポリスチレンは、ゴム粒子を含有するハイインパクトポリスチレンであるHIPS(a)、HIPS(b)からなり、HIPS(a)/HIPS(b)の重量比が98/2〜70/30であり、HIPS(a)は、ゴム粒子の形態が1個のポリスチレンコア(単一細胞構造)からなるものを含む樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びこれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリフェニレンエーテル(以下、「PPE」ともいう)樹脂とスチレン系樹脂とをベースとする混合樹脂(以下、「変性PPE樹脂」ともいう)は、PPE樹脂とスチレン系樹脂との混合比率に応じて、スチレン系樹脂単独からPPE樹脂単独までの全範囲に亘り、所定の耐熱性を発揮し、さらには電気特性、寸法安定性、耐衝撃性、耐酸性、耐アルカリ性、低吸水性及び低比重などにも優れることが知られている。
【0003】
また、変性PPE樹脂は、有害なハロゲン系化合物や三酸化アンチモンを用いずに難燃化を図ることができるため、環境面や安全衛生面にも優れていることが知られている。
そのため、変性PPE樹脂は、各種の電気・電子部品、事務機器部品、外装材や工業用品などに利用されている。
【0004】
ところで、近年では、テレビ等の家電製品において、高い光沢性を有する外装部材を用いて、商品を高付加価値化しようという試みがなされている。
一般的には、通常の樹脂材料を用いて外装材料を成型した後、その表面にクリア塗装を施すことで、装飾性を有する外装材を得る技術が知られているが、最近の傾向として、高光沢性を有する樹脂材料を用いることにより、無塗装で装飾性を有する外装材を得ようとする試みがなされている。
無塗装で装飾性を有する外装材料は、必然的にその成形体の外観が重要な品質管理項目となり、成型時の微小な不具合が品質に大きく影響するため、このような不具合を起こさない樹脂材料への期待は高まってきている。
上述したような成形体への要望に対応するため、例えば、特許文献1には、樹脂組成物に特定の有機染料を配合することにより、高光沢性を有する樹脂組成物を得るための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−132970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術においては、高い外観上の品質を有する各種成形体を作製するために十分な特性を有する樹脂組成物としては、未だ不十分である。
すなわち、外装材の成型時に金型汚染(モールドデポジット、樹脂染料の金型への移行)が生じたり、成形体の不具合(白化、曇りの発生、色調の異方性、色むら)等が生じたりしている。
【0007】
そこで、本発明においては、成型時に発生する不具合、及び得られる成形体の不具合を解決するべく、優れた外観特性を有し、成形加工性と耐熱性とのバランスが良好で、かつ実用上充分な機械的強度を有する成形体を作製可能な樹脂組成物及びこれを用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討結果、(A)ポリフェニレンエーテル、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン、(C)難燃剤としてのリン化合物、(D)離型剤、(E)顔料系着色剤を、含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物であり、前記(B)ゴム変性ポリスチレンとして、ゴム粒子の形態の異なる2種類のHIPSを組み合わせることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕
下記(A)+(B)+(C)の合計を100質量部としたとき、
(A)ポリフェニレンエーテル10〜90質量部、
(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン90〜10質量部、
(C)難燃剤としてのリン化合物0〜40質量部、
(D)離型剤0.05〜1.0質量部、
(E)顔料系着色剤
を、含有し、
前記ゴム変性ポリスチレンは、ゴム粒子を含有するハイインパクトポリスチレンであるHIPS(a)、HIPS(b)からなり、HIPS(a)/HIPS(b)の重量比が98/2〜70/30であり、
HIPS(a)は、前記ゴム粒子の形態が、1個のポリスチレンコア(単一細胞構造)からなるものを含み、当該ゴム粒子の平均粒子径は0.1〜0.5μmであり、
HIPS(b)は、前記ゴム粒子の形態が、サラミ構造(複数細胞構造)からなるものを含み、当該ゴム粒子の平均粒子径0.9〜4μmである、
樹脂組成物。
【0010】
〔2〕
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、前記(D)を0.05〜0.8質量部含有する前記〔1〕に記載の樹脂組成物。
【0011】
〔3〕
前記(D)離型剤が、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸アミド及び/又はビスアミド、高級脂肪酸エステル、パラフィンワックスからなる群より選ばれる一種以上を含有する前記〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
【0012】
〔4〕
前記(D)離型剤が、高級脂肪酸の金属塩を含有する前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の樹脂組成物。
【0013】
〔5〕
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、前記(E)顔料系着色剤を0.1〜5質量部を含有する前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の樹脂組成物。
【0014】
〔6〕
前記(C)難燃剤が、
下記式(I)
【0015】
【化1】

【0016】
又は、下記式(II)
【0017】
【化2】

【0018】
で示される縮合リン酸エステルを含有し、
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、前記(C)難燃剤を3〜35質量部含有している前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の樹脂組成物。
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R1、R2、R3、R4は、水素又はメチル基を表す。nは1以上の整数を、n1、n2は0〜2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は、1〜3の整数を示す。)
【0019】
〔7〕
前記(C)難燃剤が、下記式(I)
【0020】
【化3】

【0021】
で示される縮合リン酸エステルを含有し、
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、前記(C)難燃剤を5〜30質量部含有している前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の樹脂組成物。
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R1、R2、R3、R4は、水素又はメチル基を表す。nは1以上の整数を、n1、n2は0〜2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は、1〜3の整数を示す。)
【0022】
〔8〕
前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載の樹脂組成物を用いた成形体。
【0023】
〔9〕
テレビ、ビデオ、事務機の外装用成形体である前記〔8〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、成型時に発生する不具合、及び得られる成形体の不具合を解決し、優れた外観特性を有し、成形加工性と耐熱性とのバランスが良好で、かつ実用上充分な機械的強度を有する成形体を作製可能な樹脂組成物及びこれを用いた成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の樹脂組成物中のゴム粒子形状を示す透過型電子顕微鏡の撮影写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0027】
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物は、
下記(A)+(B)+(C)の合計を100質量部としたとき、
(A)ポリフェニレンエーテル:10〜90質量部、
(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン:90〜10質量部、
(C)難燃剤としてのリン化合物:0〜40質量部、
(D)離型剤:0.05〜1.0質量部、
(E)顔料系着色剤、
を、含有する樹脂組成物である。
ここで、前記(B)ゴム変性ポリスチレンは、ゴム粒子を含有するハイインパクトポリスチレンであるHIPS(a)、HIPS(b)からなり、HIPS(a)/HIPS(b)の重量比が98/2〜70/30である。
HIPS(a):前記ゴム粒子の形態は、主として1個のポリスチレンコア(単一細胞構造)からなり、当該ゴム粒子の平均粒子径は0.1〜0.5μmである。
ここで、「主として」とは、当該ゴム粒子の90%以上、好ましくは95%以上が1個のポリスチレンコア(単一細胞構造)からなるものとする。
HIPS(b):前記ゴム粒子の形態は、主としてサラミ構造からなり、当該ゴム粒子の平均粒子径0.9〜4μmである。
ここで、「主として」とは、当該ゴム粒子の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上がサラミ構造(複数細胞構造)からなるものとする。
【0028】
以下、樹脂組成物の各構成成分について、詳細に説明する。
((A)ポリフェニレンエーテル)
(A)ポリフェニレンエーテルは、下記式(III)及び/又は(IV)で表される構造単位の繰り返しである単独重合体、又は共重合体である。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
前記式(III)、式(IV)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基からなる群より選ばれるいずれかである。
【0032】
ポリフェニレンエーテルの単独重合体としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテルポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、及びポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテルが挙げられる。
入手の容易性及び価格の観点から、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましい。
【0033】
ここでいうポリフェニレンエーテルの単独重合体には、繰り返し単位構造中の一部の構造単位が、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位及び/又は2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位で置換された構造を有するものも含まれる。
【0034】
ポリフェニレンエーテルを溶融混練する際に、熱によりポリフェニレンエーテルの分子量が変化するが、その分子量が大きくなり過ぎたり、小さくなり過ぎたりせず安定して所望の分子量に調整することを容易にする観点から、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルの一部の構造単位が、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位及び/又は2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル構造単位で置換された共重合体が好ましい。
【0035】
一方、ポリフェニレンエーテルの共重合体とは、フェニレンエーテル構造を主たる構造単位とする共重合体であり、前記共重合体としては、上記式(III)及び/又は(IV)で表される構造単位からなるものが使用できる。
【0036】
前記ポリフェニレンエーテルの共重合体の具体例として、以下に制限されないが、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、及び2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとo−クレゾールとの(3元)共重合体が挙げられる。
【0037】
実用上の観点から、30℃のクロロホルム溶液で測定した還元粘度(ηsp/c)が好ましくは0.3〜0.7であり、より好ましくは0.4〜0.6であるとともに、[重量平均分子量/数平均分子量]の比が好ましくは1.8〜5.0であり、より好ましくは2.2〜3.5であるような、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好適に使用可能である。
かかる物性・特性を具備するポリフェニレンエーテルは、樹脂組成物の成形流動性(成形のし易さ)と、耐衝撃性や耐薬品性などの機械物性とのバランスの観点からも好適である。
なお、本明細書における重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算の分子量を基準として算出された値である。
【0038】
さらに、本実施形態においては、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリフェニレンエーテルの一部又は全部を不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性した、変性ポリフェニレンエーテルを用いることもできる。
このような変性ポリフェニレンエーテルは、特開平2−276823号公報、特開昭63−108059号公報や特開昭59−59724号公報などに記載されており、例えばラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその誘導体を溶融混練し、これらを反応させることによって得られる。
また、上記変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で有機溶剤に溶解し、かかる溶液中で反応させることによっても得られる。
【0039】
ポリフェニレンエーテルを変性する不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びエンド−シス−ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、並びにこれらのモノカルボン酸のエステル化合物及びアミド化合物や、これらのジカルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物及びイミド化合物が挙げられ、さらにはアクリル酸及びメタクリル酸も挙げられる。
また、飽和カルボン酸であるが、変性ポリフェニレンエーテルを製造する際の反応温度でそれ自身が熱分解し、不飽和カルボン酸やその誘導体となり得る化合物も用いることができる。かかる化合物として、以下に制限されないが、例えば、リンゴ酸やクエン酸が挙げられる。
上記のポリフェニレンエーテル樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(A)ポリフェニレンエーテルの含有量は、当該(A)ポリフェニレンエーテル、後述する(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン、後述する(C)難燃剤の合計を100質量部とした場合に、10〜90質量部であり、好ましくは20〜80質量部であり、より好ましくは30〜60質量部である。
【0041】
((B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン)
上記(B)成分中のゴム変性ポリスチレンとは、スチレン系化合物とスチレン系化合物と共重合可能な化合物とを、ゴム質重合体存在下で重合して得られる重合体であるものとする。
上記スチレン系化合物として、以下に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレンが挙げられる。中でもスチレンが好ましい。
また、上記スチレン系化合物と共重合可能な化合物としては、以下に制限されないが、例えば、メチルメタクリレートやエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリルやメタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸などの酸無水物が挙げられる。
スチレン系化合物と共重合可能な化合物の使用量は、スチレン系化合物との合計量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0042】
上記ゴム質重合体としては、以下に制限されないが、例えば、共役ジエン系ゴム、共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体、エチレン−プロピレン共重合体系ゴムが挙げられる。
例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体及びスチレン−ブタジエンブロック共重合体、並びにこれらを部分的に又はほぼ完全に水素添加したゴム成分が挙げられる。
【0043】
上記ゴム変性ポリスチレンは、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)であり、このHIPSを構成するゴム質重合体としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好適である。
HIPSを構成するゴム質重合体のゴム粒子の形態として、サラミ構造(複数細胞構造)、ポリスチレンコア(単一細胞構造)の2種が挙げられる。
【0044】
前記「サラミ構造」とは、ポリスチレンマトリックス中に、ゴム粒子(サラミソーセージ断面状)が分散しており、薄肉の外郭層を有する当該ゴム粒子相の中に複数のポリスチレン粒子が蜂の巣状に内蔵された構造である。
前記「ポリスチレンコア」とは、ポリスチレンマトリックス中に単一細胞構造からなるゴム粒子が分散したコアシェル構造である。
上記ゴム変性ポリスチレンは、塊状重合法又は塊状懸濁重合法により製造することができ、ゴム粒子形態は、重合工程における撹拌の状態、ゴム粒子生成時の混合状態などをコントロールすることにより制御できる。
なお、ゴム粒子の形態は、当該業者によく知られた超薄切片を四酸化オスミウム水溶液で染色して作製した試料の透過型電子顕微鏡写真を用いることで観察できる。
図1に、ゴム粒子の形態を透過型電子顕微鏡にて10000倍で撮影した写真を示し、樹脂組成物中におけるサラミ構造(複数細胞構造)と、ポリスチレンコア(単一細胞構造)のゴム粒子形態の例を示す。図1の下部のスケールは1μmを示す。
【0045】
本実施形態において用いるHIPSのゴム粒子の形態は、ポリスチレンコアであるHIPS(a)と、サラミ構造であるHIPS(b)とから構成される混合物である。
HIPS(a)/HIPS(b)の質量比は、98/2〜70/30であり、好ましくは96/4〜80/20、より好ましくは94/6〜85/15の範囲である。
上記併用範囲により、本実施形態の樹脂組成物が、着色性及び表面特性の優れたものとなる。
また、上記2種のHIPS(a)、HIPS(b)の併用は、2種類のHIPSを別々に作り、樹脂組成物を溶融混練する際に押出機などでブレンドしたり、又はHIPSを重合反応機にて混合したりすることにより行うことができる。
樹脂組成物の着色性は色目で評価でき、表面特性は、白化や曇り、フローマークの有無により評価できる。
【0046】
HIPS(a):ゴム粒子の形態は、当該ゴム粒子の90%以上、好ましくは95%以上が1個のポリスチレンコア(単一細胞構造)からなり、平均粒子径が0.1〜0.5μm、好ましくは0.2〜0.4μmである。HIPS(a)100質量%中のゴム含有量は、好ましくは3〜20質量%である。ゴム粒子の形態を上記の範囲に制御することにより、本実施形態の樹脂組成物において、着色性、表面特性に優れたものとなる。
HIPS(b):ゴム粒子の形態は、当該ゴム粒子の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上がサラミ構造(複数細胞構造)からなり、平均粒子径0.9〜4.0μmであり、好ましくは1.2〜2μmである。
HIPS(b)100質量%中のゴム含量は、好ましくは3〜20質量%である。HIPSのゴム粒子の平均粒子径は、レーザー粒度計を用いて測定できる。
HIPSのゴム粒子の平均粒子径は、従来公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定でき、体積基準の粒子径に基づいて測定する。
また、ゴム変性ポリスチレンの3質量%メチルエチルケトン溶液を用いることができる。
【0047】
また、樹脂組成物中のゴム粒子の形態だけではなく、ゴム含量を制御することによって、着色性及び表面特性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
ゴム含量は、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレンの合計量100質量%中、1〜15質量%が好ましく、4〜10質量%がより好ましい。
ゴム含量は、(B)ゴム変性ポリスチレンのゴム含量を調節すること、及びゴム変性ポリスチレンとホモポリスチレンとの比率を調整することによって制御できる。
具体的に、ゴム含量は、ゴム変性ポリスチレン中のゴムをホモポリスチレンによって希釈することにより制御する。
例えば、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)中のゴム含量が15質量%であるとき、ゴム変性ポリスチレン/ホモポリスチレン=50/50の比率で配合することにより、全体のゴム含量を7.5質量%にでき、30/70の比率で配合することにより、全体のゴム含量を4.5質量%にできる。
すなわち、ゴム含量が15質量%であるHIPSを、(B)成分中のゴム変性ポリスチレンとして用いる場合、ゴム含量を、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレンの合計量100質量%中、1〜15質量%とするためには、HIPS/ホモポリスチレン=7/93〜100/0の比率で配合すればよく、ゴム含量を4〜10質量%とするためには、HIPS/ホモポリスチレン=27/73〜67/23の比率で配合すればよい。
なお、ホモポリスチレンの含有量は、目的とするゴム含量や、用いるゴム変性ポリスチレン(HIPS)中のゴム含量に応じて適宜調整すればよく、上記のように含有量が0である場合もある。
【0048】
上記したゴム粒子の形態及びゴム含量を、上記の範囲に制御することにより、得られる樹脂組成物は、色むらやフローマークの少ない、優れた着色性及び表面特性を有し、さらにはセルフタッピング性及び表面硬度にも優れるため、装飾品の用途に対し、より有用なものとなる。色むらは後述する色調異方性試験により評価できる。
【0049】
前記(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレンの含有量は、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン、(C)難燃剤の合計を100質量部とした場合に、90〜10質量部であり、好ましくは80〜20質量部、より好ましくは60〜30質量部である。
【0050】
なお、上述したように、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン、(C)難燃剤の合計を100質量部とした場合に、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量は、10〜90質量部であり、好ましくは20〜80質量部であり、より好ましくは30〜60質量部である。
【0051】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂と、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレンとの比率は、目的とする樹脂組成物の耐熱性及び難燃性等を考慮した上で、耐熱性と難燃性とのバランスを良くするためには、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を比較的多くすることが好ましく、優れた成形流動性を得るためには、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレンの含有量を比較的多くすることが好ましく、要求される特性に応じて任意にこれらの含有量を適宜設定すればよい。
【0052】
((C)リン系難燃剤)
本実施形態の樹脂組成物を構成する(C)リン系難燃剤として、以下に制限されないが、例えば、下記の有機リン酸エステル化合物が挙げられる。
有機リン酸エステル化合物としては、例えば、トリフェニルホスフェート、フェニルビスドデシルホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェート、フェニルビス(3,5,5'−トリメチル−ヘキシルホスフェート)、エチルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジ(p−トリル)ホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)p−トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ−(ノニルフェニル)ホスフェート、ジ(ドデシル)p−トリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2−クロロエチルジフェニルホスフェート、p−トリルビス(2,5,5'−トリメチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ビスフェノールA・ビス(ジフェニルホスフェート)、ジフェニル−(3−ヒドロキシフェニル)ホスフェート、ビスフェノールA・ビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジキシレニルホスフェート)、2−ナフチルジフェニルホスフェート、1−ナフチルジフェニルホスフェート及びジ(2−ナフチル)フェニル、並びにホスフェートレゾルシノール及びビスフェノールA等のフェノール類(2官能フェノールや多官能フェノール等)を原料とした(芳香族)縮合リン酸エステル化合物が挙げられる。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記(C)リン系難燃剤の中でも、耐熱性に優れ、射出成型時の発煙や金型への難燃剤の付着を有意に抑制できる観点から、好ましくは芳香族縮合リン酸エステル化合物であり、より好ましくは下記の式(I)又は式(II)で表される(芳香族)縮合リン酸エステル化合物を主成分として含有する芳香族縮合リン酸エステル化合物である。この場合「主成分」とは50質量%以上であることを言う。
【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
上記式(I)、(II)中、Q1、Q2、Q3及びQ4は水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R1、R2、R3及びR4は水素又はメチル基を表し、nは1以上の整数であり、n1及びn2は0〜2の整数であり、m1、m2、m3及びm4は1〜3の整数である。
【0057】
(C)リン系難燃剤としては、市販品を使用してもよく、以下に制限されないが、例えば、大八化学(株)製の商品名CR−741、CR−747、CR733S、PX−200が挙げられる。
【0058】
上記式(I)及び式(II)の中でも、上記式(I)で表される縮合リン酸エステルは、樹脂組成物の製造工程における溶融混練において、分解や脱水反応による黒色異物の発生を効果的に防止でき、樹脂組成物の吸水性の低減化も図られるため、好ましい。
また、上記式(I)で表される縮合リン酸エステルは、得られる樹脂組成物の表面硬度やセルフタッピング特性が優れたものとなるため、かかる観点においても好ましい。
【0059】
より好ましくは、上記式(I)におけるQ1、Q2、Q3及びQ4が水素又はメチル基であり、R1及びR2が水素であり、R3及びR4がメチル基であり、nが1〜3(中でも特に1)である縮合リン酸エステルを、樹脂組成物中に含有されている縮合リン酸エステルを100質量%としたとき50質量%以上含むものである。
【0060】
また、前記縮合リン酸エステル化合物の酸価については、0.1未満であることが好ましい。
ここで、前記酸価とは、JIS K2501に準拠し、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される値である。
縮合リン酸エステル化合物の酸価が上記範囲内の場合、目的とする樹脂組成物の成型時に金型が一層腐食されにくく、縮合リン酸エステル化合物が易分解性に起因する加工時のガス発生を有意に抑制でき、樹脂組成物の電気特性を一層向上させることができる。
【0061】
(C)リン系難燃剤は、上述した各種化合物のうち、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
また、(C)リン系難燃剤は、求められる難燃性のレベルに応じて添加され、上記(A)成分及び(B)成分と(C)難燃剤との合計量を100質量部としたとき、0〜40質量部であるものとし、好ましくは3〜35質量部、より好ましくは5〜30質量部である。
(C)リン系難燃剤を、(A)+(B)+(C)100質量部に対して3質量部以上添加することにより難燃効果が得られる。
一方、40質量部以下とすることにより、樹脂組成物の機械的強度や耐熱性の低下を実用上十分な程度に抑制でき、35質量部以下とすることにより、樹脂組成物の機械的強度や耐熱性の低下を実用上、一層十分な程度まで抑制できる。
なお、上記した有利な効果を十分発揮させるために、上記式(I)又は(II)で表される縮合リン酸エステルを主成分とする(C)リン系難燃剤を3〜35質量部含有するように、目的物の樹脂組成物を製造することが好ましい。
【0063】
((D)離型剤)
(D)離型剤としては、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸アミド及び/又はビスアミド、高級脂肪酸エステル、パラフィンワックス、並びにポリオレフィンなどが挙げられる。
高級脂肪酸の金属塩とは、高級脂肪酸と金属水酸化物の塩であり、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム等が好ましく用いられる。
高級脂肪酸アミド及び/又はビスアミドとは、高級脂肪酸のモノアミド、ビスアミド等であり、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等が好ましい。
【0064】
高級脂肪酸エステルとは、高級脂肪酸と炭素数1〜20の一価アルコール、二価アルコール及び三価以上の多価アルコールをから成る高級脂肪酸エステルであり、例えば、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ベヘン酸メチル、モンタン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジモンタネート、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールモノステアレート、1,3−プロパンジオールジラウレート、1,3−プロパンジオールジステアレート、1,3−プロパンジオールジモンタネート、1,4−ブタンジオールジラウレート、1,4−ブタンジオールジステアレート、1,4−ブタンジオールジモンタネート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノモンタネート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジオレエート、グリセリントリステアレート、グリセリントリオレエート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジパルミテート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリパルミテート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0065】
上記の高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、ベヘン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、カプリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、モンタン酸、ヤシ油系脂肪酸、パーム油系脂肪酸、牛脂系脂肪酸等の炭素数が4〜30の高級脂肪酸が挙げられる。
【0066】
パラフィンワックスとは、直鎖の飽和炭化水素を主成分とする常温で固体であり、主成分としてn−パラフィンを含有し、少量のi−パラフィン、ナフテンを含有する、炭素数20〜48のワックスである。これらは一般に市販されているものを使用できる。
【0067】
ポリオレフィンとは、エチレンの単独重合体(ホモポリマー)又は共重合体(コポリマー)である。
本実施形態において使用可能なポリオレフィン系樹脂としては、以下に制限されないが、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、並びにエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体及びエチレン−オクテン共重合体などのエチレン−α−オレフィン共重合体、並びにエチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体及びエチレン−エチルアクリレート−メチルメタクリレート共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0068】
良好な成形性を確保する観点から、高級脂肪酸の金属塩と高級脂肪酸アミド及び/又はビスアミドが好ましく、更にステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、エチレンビスステアリン酸アミドが特に好ましい。
【0069】
本実施形態の樹脂組成物における(D)離型剤の含有量は、上述した(A)成分+(B)成分+(C)成分の合計を100質量部としたとき、0.05〜1.0質量部とする。
(D)離型剤の含有量が0.05質量部未満であると、外観改良効果が十分に得られず、また、1.0質量部を超えると、(D)離型剤が分散不良を起こし、ブリードアウトや耐熱温度の低下を招来する。
【0070】
((E)顔料系着色剤)
本実施形態の樹脂組成物は、(E)顔料系着色剤を含有する。
(E)顔料系着色剤としては、カーボンブラック等の顔料系着色剤を用いることができ、各種組み合わせにより所望の着色が可能であり、無機顔料、有機顔料を併用してもよい。
また、(A)ポリフェニレンエーテル、(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン、(C)リン系難燃剤の合計100質量部に対して、(E)顔料系着色剤を0.1質量部以上含有(添加)することが好ましく、0.2質量部以上含有(添加)することがより好ましく、0.3質量部以上含有(添加)することがさらに好ましく、0.5質量部以上含有(添加)することがさらにより好ましい。
(E)顔料系着色剤の含有量(添加量)を0.1質量部以上とすることにより、着色性に優れた樹脂組成物が得られる。
一方、経済性及び組成物特性に対する影響の観点から、含有量(添加量)の上限は、5質量部とすることが好ましく、3質量部とすることがより好ましく、1質量部程度とすることがさらに好ましい。
また、上記した(E)顔料系着色剤に染料を併用することにより、着色性に優れウェルド部の色むらが少なく、MD(モールドデポジット)による外観不良の少ないポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が得られるため好適である。
【0071】
((F)水添ブロック共重合体)
本実施形態の樹脂組成物は、(F)水添ブロック共重合体をさらに含有してもよい。
水添ブロック共重合体とは、ビニル芳香族単量体と共役ジエン単量体とのブロック共重合体を水素添加して得られる共重合体である。
例えば、ビニル芳香族単量体単位の重合体ブロックと共役ジエン単量体単位の重合体ブロックとを水素添加して得られる、ランダム共重合体部分を含有しないか又はほとんど含有しないブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体が挙げられる。
市販品としては、クレイトンポリマー社のクレイトンG(商品名)、旭化成社のタフテック(商品名)、クラレ社のセプトン(商品名)が知られている。
【0072】
その他のランダム水添ブロック共重合体としては、例えば、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる(非水添)ランダム共重合体ブロックを水添して得られる水添共重合体が挙げられる。市販品としては、旭化成社のSOE(商品名)が知られている。
【0073】
(F)水添ブロック共重合体は、PPE及びスチレン系樹脂との相溶性を向上させるという観点より、ビニル芳香族単量体単位を40質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは50〜85質量%、さらに好ましくは55〜80質量%含有する。
すなわち、(F)水添ブロック共重合体は、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックを40質量%以上と、共役ジエン単量体単位を含む重合体ブロックを60質量%以下有する水添ブロック共重合体であることが好ましい。
ビニル芳香族単量体単位の重合体ブロック含有量が上記範囲内にあるものとすることにより、本実施形態の樹脂組成物は一層優れた外観特性を有するとともに、機械的強度と成形加工性とのバランスにも一層優れたものとなる。
より優れた着色性及び成形加工性を確保する観点から、ビニル芳香族単量体単位成分をブロック共重合体に対して60〜80質量%とすることが好ましい。
【0074】
水添ブロック共重合体の重量平均分子量は3万〜100万であることが好ましい。
これにより、本実施形態の樹脂組成物は、機械的強度と成形加工性とのバランスが良好なものとなる。
本実施形態の樹脂組成物において、より高い機械的強度を確保するとともに、衝撃吸収性と成形加工性とのバランスを一層優れたものとする観点から、水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、4万〜50万が好ましく、5万〜30万がより好ましく、7万〜20万がさらに好ましい。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により測定できる。
また、前記水添ブロック共重合体は、上述した(D)離型剤であるポリオレフィン系樹脂との併用により、一層優れた効果を発揮する。
【0075】
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態に所望の効果を損なわない範囲で、所定の添加剤、以下に制限されないが、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤、その他の樹脂を含有してもよい。
また、公知の各種難燃剤及び難燃助剤、例えばテトラフロロエチレンの単独重合体(ポリテトラフロロエチレン)、テトラフロロエチレンを含む共重合体、シリコンオイル及びシリコンレジンを添加することにより、さらに難燃性が向上しうる。
【0076】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の樹脂組成物を製造する方法については、特に限定されるものではないが、一般的には、押出機を用いて溶融混練することにより製造できる。
特に、原材料成分を製造工程の途中で添加可能な二軸押出機を用いる方法が、高い生産性を確保し、良質な樹脂組成物を得る観点から好ましい。
混練温度は、ベース樹脂となる(A)、(B)の好ましい加工温度に従えばよく、一般的には240〜360℃の範囲、好ましくは260〜320℃の範囲である。
本実施形態の樹脂組成物は、全成分を一括溶融混練してもよいが、上記(A)及び(B)、又は上記(A)、(B)及び(C)を、予め溶融混練しておき、後工程で他の成分を添加してもよい。
予め溶融混練したペレット状の中間組成物を得、次工程で他の混練機器を用いて上記他の成分を添加する二段階で樹脂組成物を製造してもよい。
【0077】
〔樹脂組成物を用いた成形品〕
本実施形態の樹脂組成物は、射出成型法、押出成型法等の一般的な成型方法により成形品に加工できる。
特に、金型表面の温度を、射出樹脂の熱変形温度近傍以上に上げておき、樹脂の射出と保圧工程の間は熱変形温度以上に保ち、保圧工程終了後、短時間で金型温度を下げて、樹脂を冷却し、成形品を取り出すヒートサイクル成型法は、ウェルドラインが目立たず、外観特性が良好な成形品が得られる方法として優れている。
【0078】
従来公知のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、ヒートサイクル成型法により成形品を得た場合においてもウェルドラインが目立ってしまい、またウェルド部での色むらが発生し、実用上十分な外観特性が得られず、商品としての価値も低くなるという欠点を有していた。
本実施形態に係る成形体は、上述した樹脂組成物を用いて成型したものであるため、従来の樹脂組成物においては、十分とはいえないような、外観特性(着色性や表面特性など)、実用レベルの離型性(射出成型時に金型への付着物など)、成形加工性及び難燃性に優れる。
さらに、成型時における、成形体の表面の曇り、白化やフローマークの発生を顕著に防止できるため、所望の成形体を得ることができる。
その結果、装飾性や、光沢度の高い外観特性が特に要求される用途(例えば、テレビ外装用体)においても、本実施形態に係る成形体であれば好適に使用可能である。
【実施例】
【0079】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
〔実施例及び比較例の樹脂組成物を構成する成分〕
(A)ポリフェニレンエーテル(PPE)
ポリ−2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル(旭化成プラスチックス シンガポール社製、ザイロン S201A)。
【0081】
(B)ゴム変性ポリスチレン(HIPS)及びホモポリスチレン(GPPS)
<HIPS(a)>
(a−1):ゴム粒子の形態が、当該ゴム粒子の95%以上が1個のポリスチレンコア(単細胞構造)からなり、ゴム粒子の平均粒子径が0.3μm、ゴム含量がスチレン−ブタジエンブロック共重合体15質量%
(a−2):ゴム粒子の形態が、当該ゴム粒子の95%以上が1個のポリスチレンコア(単細胞構造)からなり、ゴム粒子の平均粒子径が0.6μm、ゴム含量がスチレン−ブタジエンブロック共重合体15質量%
<HIPS(b)>
(b−1):ゴム粒子の形態が、当該ゴム粒子の90%以上がサラミ構造(複数細胞構造)からなり、ゴム粒子の平均粒子径が1.5μm、ゴム含量がポリブタジエン12質量%
(b−2):ゴム粒子の形態が、当該ゴム粒子の90%以上がサラミ構造(複数細胞構造)からなり、ゴム粒子の平均粒子径が0.7μm、ゴム含量がポリブタジエン12質量%
(b−3):ゴム粒子の形態が、当該ゴム粒子の90%以上がサラミ構造(複数細胞構造)からなり、ゴム粒子の平均粒子径が1.0μm、ゴム含量がポリブタジエン12質量%
(b−4):ゴム粒子の形態が、当該ゴム粒子の90%以上がサラミ構造(複数細胞構造)からなり、ゴム粒子の平均粒子径が3.4μm、ゴム含量がポリブタジエン12質量%
<GPPS>
ホモポリスチレン(PSJポリスチレン 680、PSジャパン社製)を用いた。
なお、ゴム粒子の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−910(堀場製作所(株)製)」を用いて測定した。
【0082】
(C)リン系難燃剤
(C−1:表1中のBDP):ビスフェノールAのビスジフェニルホスフェート(BDP)を主成分とする酸価=0.05の縮合リン酸エステル(CR−741、大八化学(株)製)を用いた。
(C−2:表1中のTPP):トリフェニルフォスフェート(TPP、大八化学(株)製)を用いた。
【0083】
(D)離型剤
(D−1)ステアリン酸亜鉛(大日化学工業(株)ダイワックスZ)
(D−2)ステアリン酸マグネシウム(大日化学工業(株)ダイワックスM)
(D−3)EBS(花王(株)花王ワックスEB・FF)
(D−4)LD−PE(旭化成ケミカルズ(株)のサンテック(登録商標)M2004)
(D−5):エチレン−プロピレン共重合体(三井化学(株)のタフマー(登録商標)P−0680)
【0084】
(E)顔料系着色剤
(E−1)カーボンブラック(三菱化学(株)製、三菱カーボンブラック#960)
(E−2)有機染料 赤系染料、黄色系染料、緑色系染料、紫色系染料を下記に示す比率で組合せて使用した。
赤系染料 ;SOLVENT RED 179 0.1質量部
黄色系染料;DISPERSE YELLOW 160 0.1質量部
緑色系染料;SOLVENT GREEN 3 0.15質量部
紫色系染料;SOLVENT VIOLET 13 0.65質量部
【0085】
(F)水添ブロック共重合体(SEBS)
スチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体(クレイトンポリマー社製、クレイトン(登録商標)G1651)を使用した。
【0086】
〔樹脂組成物の評価方法〕
((1)白化及び曇り)
鏡面光沢を有する150mm×150mm×2mmの平板の中央部にウェルドラインができる2点ピンゲートの平板金型を用い、加熱シリンダー温度240℃、金型温度60℃の条件下で射出成型して平板を作製し、目視によりゲート近辺部分、その他平板全体の白化および曇りを評価した。
<白化> 平板表面に白化する外観不良が発生しないものを○(良い)、1〜2箇所に発生するのを○〜△、3〜7箇所に発生するのを△(普通)、8〜15数箇所に発生するものを△〜×、15箇所以上に発生するものを×(悪い)の5段階で評価した。
<曇り> 平板表面に曇りがほとんど目立たないものを○(良い)、僅かに目立つもの○〜△、やや目立つものを△(普通)、少し目立つものを△〜×、明らかに目立つものを×(悪い)の5段階で評価した。
【0087】
((2)色調異方性)
鏡面光沢を有する150mm×150mm×2mmの平板の中央部にウェルドラインができる2点ピンゲートの平板金型を用い、加熱シリンダー温度240℃、金型温度60℃の条件下で射出成型して平板を作製し、目視によりウェルドラインの色調を判定した。
異方性確認できないものを○(良い)、僅かに目立つもの○〜△、やや目立つものを△(普通)、少し目立つものを△〜×、明らかに目立つものを×(悪い)の5段階で評価した。
【0088】
((3)セルフタッピング強度)
150mm×150mm×3mmの平板に、肉厚3mm、内径3.6mmφのボスがついた成形体を射出成形し、ボス口に4mmφのタッピングネジを締め付け、トルク15kg・cmより1kg・cm刻みでトルクを上げて繰り返し締め付け、タッピング部が崩れて空回りしたときのトルク(kg・cm)で表した。
セルフタッピング強度は略30であれば、実用上十分であると判断した。
【0089】
((4)金型表面への付着物(モールドデポジット;MD))
鏡面光沢を有する50mm×90mm×2.5mmの平板を作製するための金型を用い、加熱シリンダー温度260℃、金型温度60℃の条件下で、上記平板を作製するための金型をフル充填させずに10〜20mmショートする条件で30枚作製後、金型の鏡面光沢の状態を目視評価した。
ショートさせた部分の金型の鏡面に付着物がほとんど目立たないものを○(良い)、やや目立つものを△(普通)、及び明らかに目立つものを×(悪い)とする3段階で評価した。
【0090】
((5)難燃性)
UL−94 垂直燃焼試験に基づいて、厚さ1.6mmの射出成型した試験片を用いて測定し、10回接炎時の合計燃焼時間と燃焼時の滴下物の有無を評価した。
V−0:平均燃焼時間5秒以下、最大燃焼時間10秒以下、有炎滴下なし。
V−1:平均燃焼時間25秒以下、最大燃焼時間30秒以下、有炎滴下なし。
V−2:平均燃焼時間25秒以下、最大燃焼時間30秒以下、有炎滴下あり。
HB :上記3項目に該当しないもの及び試験片を保持するクランプまで燃え上がってしまったもの。
平均燃焼時間(秒)は、各サンプルを2本即ち計10回接炎後の消炎時間の平均燃焼時間であり、最大燃焼時間(秒)には、同じく計10回接炎後の消炎時間のなかで最も長く燃焼が継続した試験片の燃焼時間を表している。
【0091】
((6)HDT(フラットワイズ(℃)))
ISO−75−2に基づき、1.80Pa下にて測定した。
【0092】
〔実施例1〜12〕、〔比較例1〜10〕
下記表1に示す割合(質量部)で材料を配合し、スクリュー直径40mmのニーディングディスクを組み合わせた同方向回転二軸押出機を用いて、溶融混合を行い、樹脂組成物を作製した。
ポリフェニレンエーテル(PPE)、ホモポリスチレン(GPPS)又はHIPSの一部及び安定剤としてのトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト0.2質量部を、押出機の上流投入口からフィードし、HIPS、着色剤、離型剤を予備ブレンドして押出機中流投入口からサイドフィードし、難燃剤を押出機下流から圧入添加した。
押出機の運転条件は、加熱シリンダーの上流温度を300℃、下流温度を270℃、スクリュー回転数400rpmとし、ベント口から真空脱揮しながら溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂組成物のペレットを得た。
次に、得られた樹脂組成物ペレットを用いて、射出成型により最高設定温度220℃、金型温度60℃の条件下で評価用の物性試験片を成型した。
上述した(1)〜(6)の試験法により評価した。
評価結果を下記表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示すように、実施例1〜12においては、いずれも良好な外観特性を有し、実用上十分な機械的強度を有し、難燃性、耐熱性、成形加工性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の樹脂組成物及びこれを用いた成形体は、テレビ、ビデオ、事務機の外装用成形体、PC、プリンター、複写機、ゲーム機、電話、アダプター等、外観要求のある用途に産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)+(B)+(C)の合計を100質量部としたとき、
(A)ポリフェニレンエーテル10〜90質量部、
(B)ゴム変性ポリスチレン及びホモポリスチレン90〜10質量部、
(C)難燃剤としてのリン化合物0〜40質量部、
(D)離型剤0.05〜1.0質量部、
(E)顔料系着色剤
を、含有し、
前記ゴム変性ポリスチレンは、ゴム粒子を含有するハイインパクトポリスチレンであるHIPS(a)、HIPS(b)からなり、HIPS(a)/HIPS(b)の重量比が98/2〜70/30であり、
HIPS(a)は、前記ゴム粒子の形態が、1個のポリスチレンコア(単一細胞構造)からなるものを含み、当該ゴム粒子の平均粒子径は0.1〜0.5μmであり、
HIPS(b)は、前記ゴム粒子の形態が、サラミ構造(複数細胞構造)からなるものを含み、当該ゴム粒子の平均粒子径0.9〜4μmである、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、
前記(D)を0.05〜0.8質量部含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)離型剤が、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸アミド及び/又はビスアミド、高級脂肪酸エステル、パラフィンワックスからなる群より選ばれる一種以上を含有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)離型剤が、高級脂肪酸の金属塩を含有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、
前記(E)顔料系着色剤を0.1〜5質量部含有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)難燃剤が、
下記式(I)
【化1】

又は、下記式(II)
【化2】

で示される縮合リン酸エステルを含有し、
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、前記(C)難燃剤を3〜35質量部含有している請求項1乃至5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R1、R2、R3、R4は、水素又はメチル基を表す。nは1以上の整数を、n1、n2は0〜2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は、1〜3の整数を示す。)
【請求項7】
前記(C)難燃剤が、下記式(I)
【化3】

で示される縮合リン酸エステルを含有し、
前記(A)+前記(B)+前記(C)の合計100質量部に対して、前記(C)難燃剤を5〜30質量部含有している請求項1乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、水素又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R1、R2、R3、R4は、水素又はメチル基を表す。nは1以上の整数を、n1、n2は0〜2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は、1〜3の整数を示す。)
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた成形体。
【請求項9】
テレビ、ビデオ、事務機の外装用成形体である請求項8に記載の成形体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−153259(P2011−153259A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17036(P2010−17036)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】