説明

樹脂組成物及びその製造方法、並びにこれ用いたトナー

【課題】植物起源の化合物を利用することにより地球環境の保全に貢献し、トナーとするときの製造適性に優れ、かつトナーとして十分な性能を発揮させることができる樹脂組成物及びその製造方法、並びにこれ用いたトナーを提供する。
【解決手段】デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位と、下記式(I)で表される構造単位とを主鎖に含む樹脂Aと、下記式(IIa)で表される構造単位を含む樹脂Bとを含有してなる樹脂組成物。


(Gは炭素数4以上のアルキレン基またはアルケニレン基を表し、X、Yはそれぞれ独立に二価の連結基を表す。)


(R及びRはそれぞれ独立に置換基を表す。n1及びn2は0〜4の整数を表す。naは0〜3の整数を表す。Zは二価の連結基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物及びその製造方法、並びにこれ用いたトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機をはじめとして適用される電子写真法は、いまや広く普及し、これを利用して、白黒画像のみならず、良好なカラー画像を瞬時に多数複写することもできる。この電子写真法は典型的には下記のような装置及びプロセスで行われる(図1参照)。まず、光導電性物質を利用した感光体(潜像保持体)1の表面を帯電手段8により帯電し、そこに露光Lを施して電気的に潜像を形成する。ここで形成された潜像に、トナー供給室2に格納されたドラム3からトナーを付与し、トナー像を形成する。このとき、トナー5は上記感光体とは逆の電荷に帯電されている。その後、このトナー像を、必要により中間転写体(図示せず)を介して、紙4等の被転写体表面に転写する。この転写画像51を、加熱、加圧、溶剤蒸気等により定着することで所望の画像を得ることができる。上記の感光体表面に残ったトナーは、必要に応じてクリーナー7によりクリーニングし、再びトナー像の現像に利用される。さらに、感光体は次の複写に備えるため除電器9により除電される。
【0003】
近年、電子写真分野の技術進化により、電子写真プロセスは複写機、プリンターのみならず、印刷用途にも使用されるようになってきた。装置の高速化、高信頼性はもとより、複写物が印刷物同等の高画質、色相を有することが益々厳しく要求されてきている。かかる要求性能の向上の取り組みを挙げれば、枚挙に暇がないが、例えば特許文献1では、ケミカルトナーにおける光沢度差やむらの低減への試みが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−165017号公報
【特許文献2】特開2010−20170号公報
【特許文献3】特開2010−210959号公報
【特許文献4】特開2009−3136号公報
【特許文献5】特開2011−2802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、トナーは高分子化合物を主体とした樹脂を含んでなるものであり、その製造に関する環境への影響は無視できない。成形体のような外形があるわけではないので、見落とされがちであるが、大量消費される樹脂製品として環境適合性の改善への可能性は大きい。現在流通されているトナーにおいては通常化石燃料由来のポリマーが用いられており、昨今の環境問題の観点からは二酸化炭素の換算排出量の低い天然資源由来のものへの代替が望まれる。
【0006】
天然素材であるロジンの成分あるいはロジンエステルをトナー材料に活用した例がある(特許文献2〜5)。これによれば、上記天然素材への代替を実現することができる。しかし、上記のトナーでは十分な性能が得られず、さらに特性を良化した樹脂が望まれた。
【0007】
ところで、本出願人は先に天然資源由来のアビエタン系の化合物に注目し、これを主鎖に組み込んだ重合体とすることに成功した。そしてその重合体の物性を確認し、高耐熱性および耐湿耐水性を発現させることができることを見出した(特開2011−26569号公報、特開2011−74249号公報)。その後の研究開発を通じ、上記重合体を特定の構造を有する共重合体とし、特定の樹脂と配合することで、トナー材料として好適な性質を発現させることに成功した。
【0008】
すなわち本発明は、植物起源の化合物を利用することにより地球環境の保全に貢献し、トナーとするときの製造適性に優れ、かつトナーとして十分な性能を発揮させることができる樹脂組成物及びその製造方法、並びにこれ用いたトナーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は下記の手段により解決された。
(1)デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位と、下記式(I)で表される構造単位とを主鎖に含む樹脂Aと、下記式(IIa)で表される構造単位を含む樹脂Bとを含有してなる樹脂組成物
【0010】
【化5】


(Gは炭素数4以上のアルキレン基またはアルケニレン基を表し、X、Yはそれぞれ独立に二価の連結基を表す。)
【0011】
【化6】

(R及びRはそれぞれ独立に置換基を表す。n1及びn2は0〜4の整数を表す。naは0〜3の整数を表す。Zは二価の連結基を表す。)
(2)前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記式(U)で表される構造を含む(1)に記載の樹脂組成物。
【0012】
【化7】

(R及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜3を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。)
(3)前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記式A1又はA2で表される繰り返し単位である(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
【0013】
【化8】

【0014】
(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
(4)前記式(IIa)のZがアルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、アミノ基、またはスルホニル基である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(5)前記樹脂Bがロジン由来の構造単位を含む(1)〜(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(6)前記式(A2)中のL21、L22が、いずれも−(C=O)−*又は−(C=O)O−*である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(*は上記式中の結合手の側を表す。)
(7)前記式(A1)中のL12が−(C=O)−*又は−(C=O)O−*であり、かつL11が−L13−(C=O)−*又は−(C=O)−L13−*で現される構造である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(*は上記式中の結合手の側を表す。式中、L13は二価の連結基を表す。)
(8)前記樹脂の酸価が5mgKOH/g以上25mgKOH/g以下である(1)〜(7)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(9)前記樹脂Aの重量平均分子量が7,000以上25,000以下であり、前記樹脂Bの重量平均分子量が25,000超70,000以下であり、前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(10)さらに結晶性樹脂を含んでなる(1)〜(9)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(11)前記結晶性樹脂が結晶性ポリエステルである(10)記載の樹脂組成物。
(12)(1)〜(11)のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるトナー。
(13)(1)〜(11)のいずれか1項に記載の樹脂組成物の樹脂成分を乳化分散させた状態で混合し、凝集させる樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、植物起源の化合物を利用することによる環境適合性を有する。そして、結晶性樹脂との相溶性が良いためトナー材料として適しており、また定着性などトナーとしたときに十分な性能を発揮させることができる。また、本発明の製造方法によれば、上記の樹脂組成物を好適に製造することができる。さらに、本発明のトナーは、上記優れた性質を有する樹脂を用いたためトナーとして優れた特性を発揮し、環境に適合しつつ、人工起源の樹脂を十分に代替することができるという次世代型トナーとしての利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子写真法による複写機及びその複写プロセスを説明するために模式的に示した装置側面図である。
【図2】実施例で調製した重合体P−1のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂は、植物起源の化合物を利用した特定重合体からなり、植物由来でありながらトナー用の樹脂として良好な性質を有する。この理由は以下のように推定される。すなわち、上記特定重合体は、その基本骨格として、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を有する。このベンゼン環を含む三環状部分が母格として二次元的に連結した構造は安定であり、トナーの特性の安定化に寄与することが考えられる。一方、特定のアルキレン鎖ないしアルケニレン鎖を共重合成分として組み込んだことにより、トナーとしては高すぎるTgが改善されている。その上、上記三環状部分の母核及びアルキレン・アルケニレン鎖の組合せによる効果と推定されるが、芳香族を含む樹脂Bとの相溶性が良く、トナーとするときの樹脂のブレンドに好適に対応することができる。以下、本発明の好ましい実施態様を中心に詳細に説明する。
【0018】
[樹脂A]
(デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位)
本発明において樹脂A(特定重合体Aともいう)には、下記式(AA)で表されるデヒドロアビエチン酸又はその誘導体を原料モノマーとして使用する。これを重合させて得られる単独重合体であっても、当該原料モノマーと他のモノマーとを重合させて得られる共重合体であってもよい。すなわち、上記特定重合体は、その分子構造中にデヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位を有してなる。
【0019】
【化9】

【0020】
ここで、本発明において「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」とは、上記のデヒドロアビエチン酸に由来する構造を有していればよく、言い変えれば、所望の効果を奏する範囲で、デヒドロアビエチン酸から誘導化できる構造骨格であればよい。ただし、デヒドロアビエチン酸の三環状の母核構造が維持されており(環を構成する原子の数が維持されていなくてもよい)、その1つにベンゼン環が含まれていることを必須とする。好ましい例としては下記が挙げられる。
【0021】
【化10】

【0022】
「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」はさらに置換基を有してもよい。有してもよい置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基などが挙げられる
【0023】
好ましくは(AA−1)、(AA−3)、(AA−10)であり、最も好ましくは(AA−1)である。
【0024】
特定重合体Aにおいては、一般式化していうと、前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格として下記式(U)で表される構造を含むことが好ましい。
【0025】
【化11】

【0026】
及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜3を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。Rはメチル基であることが好ましい。Rは炭素原子数1〜4のアルキル基であることが好ましく、i−プロピル基であることがより好ましい。Cyはシクロヘキサン環もしくはシクロヘキセン環であることが好ましく、シクロヘキサン環であることがより好ましい。n,mは1であることが好ましい。
【0027】
上記式(U)は下記式(U1)であることが好ましい。
【0028】
【化12】

式中、*,**は結合手を表す。Rは式(U)と同義である。
【0029】
デヒドロアビエチン酸は、植物起源の松脂に含まれるロジンを構成する成分の1つである。すなわち、天然起源の材料をその基質として利用することができるため、二酸化炭素の排出量において相殺され、化石燃料起源のプラスチック材料に比し、大幅にその換算排出量を削減することができる。次世代材料として望まれる環境適合型の、バイオマス資源由来の素材である。なお、上記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格、式UないしはU1で表される骨格を総称してデヒドロアビエタン主骨格と呼ぶことがあり、これを「DA主骨格」と省略して呼ぶことがある。
【0030】
さらに、本発明の好ましい実施形態において重要な骨格構造として、下記式U2及びU3で表されるものが挙げられる。下記式U2のものをデヒドロアビエタン骨格(DA骨格)と呼び、式U3のものをデヒドロアビエチン酸骨格(DAA骨格)という。
【0031】
【化13】

【0032】
前記特定重合体Aは、下記式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれることが好ましい。
【0033】
【化14】

【0034】
式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。DA主骨格のさらに好ましい態様については、後で特定重合体(1)(2)に区分して詳細に説明する。
【0035】
前記特定重合体中で、デヒドロアビエチン酸由来の骨格をもつ繰り返し単位は、後記共重合成分との関係で、モル比において5〜40%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましい。この共重合比が上記下限値以上であることで、樹脂中の天然物由来成分の量を高めることができ好ましく、上記上限値以下であることで、樹脂に適度な柔軟性を付与することができ好ましい。
【0036】
(式(I)で表される構造単位)
本発明における特定重合体Aは下記式(I)で表される構造単位を共重合成分として有する。
【0037】
【化15】

【0038】
・G
は総炭素数4以上のアルキレン基またはアルケニレン基を表す。Gは直鎖または分岐であってよく、一つ以上の水素原子が特定の置換基に置換されていても、無置換でもよい。置換されているときの置換基としては、後記置換基Tが挙げられ、なかでもアルキル基、アルケニル基が好ましい。また、一つ以上の炭素原子がヘテロ原子によって置換されていてもよく、置換されているときのヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が挙げられ、なかでも酸素原子が好ましい(典型的にはアルキレン鎖の一部がエーテル結合に置き換わり連結された形である。)。なお、総炭素数とはアルキレン基またはアルケニレン基が置換基を有する場合、その炭素原子の数も含む意味である。
【0039】
は、なかでも、総炭素数4〜18のアルキレン基またはアルケニレン基であることが好ましく、炭素数6〜14がより好ましい。アルキレン基、アルケニレン基は、置換または無置換であったよく、一部がヘテロ原子に置換されていてよいことは上記のとおりである。さらに具体的には、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−(CHRa)CH−、−CH−Rb−CH−、−(CHCHO)−CHCH−、−(CHCHO)−CHCH−がより好ましい。Raは炭素数6〜16のアルキル基であることが好ましく、C1223もしくはC815であることがより好ましい。Rbは炭素数4〜12のシクロアルキレン基が好ましく、シクロヘキサンジイル基がより好ましい。
【0040】
・X、Y
X、Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−NR−、−(C=O)−、−O(C=O)−、−(C=O)O−、−(C=O)NR−、及びこれらの組合せからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。好ましくは、−O−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、又は−(C=O)−である。
【0041】
(分子量)
本発明における特定重合体A(樹脂A)は、DA主骨格を主鎖の一部を構成するように含んでいれば、その結合態様は特に限定されるものではない。前記特定重合体の重量平均分子量は限定的でないが、好ましくは10,000以上25,000以下、より好ましくは7000以上25000以下である。重量平均分子量がこの範囲であることにより、特にトナー用樹脂として適する溶融粘度、ガラス転移温度、可撓性等が実現され良好となる。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフェィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られた値である。なお、本明細書では特に断らない限り、キャリアとしてはテトラヒドロフランを用い、カラムとしてはトーソー(TOSOH)株式会社製 TSK−gel Super AWM−H(商品名)用いた値で分子量を示す。
【0042】
(Tg)
ガラス転移温度(Tg)は限定的でないが、好ましくは30℃以上、より好ましくは40〜80℃、更に好ましくは45〜65℃である。ガラス転移温度がこの範囲であることにより、特にトナーとして用いた場合の定着性と経時での熱安定性とを両立することができる。なお、前記ガラス転移温度は、特に断らない限り、後記実施例で採用した方法及び条件による。
【0043】
なお、前記特定重合体には、DA主骨格を含む繰返し単位を有するものに対して、更に化学処理等を施した誘導体も含む。
【0044】
本発明においては、前記特定重合体は、DA主骨格がそのジカルボン酸から誘導されたポリエステル構造を有する共重合体(特定重合体(1))か、あるいはDA主骨格がそのジオールから誘導されたポリエステル構造を有する共重合体(特定重合体(2))であることが好ましい。以下、それぞれの実施形態について説明する。
【0045】
[特定重合体(1)]
<ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位>
〜式A1で表される繰り返し単位〜
・L11
式A1中のL11は、*−CO−L13−**、*−L13−CO−**であることが好ましい。*は5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロフェナントレン環(母核)側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。L13が、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、カルボニル基、単結合、またはこれらの組合せであることが好ましい。さらに好ましくは、L11が*−CO−**又は*−COO−**である。
なお、本明細書においては、「連結基」という用語を、2つの構造部を連結するものであれば、原子や単結合を含む意味で用いる。
【0046】
前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖の鎖状であっても、環状であってもよい。L13は、ガラス転移温度、粘度、また合成しやすさの観点から、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、酸素原子、又は単結合であることが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状のアルキレン基、炭素数2〜4の鎖状のアルケニレン基、炭素数5〜6の環状のアルケニレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、酸素原子、又は単結合である。
【0047】
なお、本明細書において「化合物」という語を末尾に付して呼ぶとき、あるいは特定の名称ないし化学式で示すときには、当該化合物そのものに加え、その塩、錯体、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換・無置換を明記していない置換基については、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。これは置換・無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0048】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基、例えば、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20のアミノ基、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20のスルホンアミド基、例えば、N,N−ジメチルスルホンアミド、N−フェニルスルホンアミド等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、シアノ基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はシアノ基が挙げられる。
【0049】
13で表される連結基の具体例として以下のものを挙げることができるが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。なお、以下の例示化学構造式では、結合手*はヒドロフェナントレン環に結合する側であり、結合手**がその反対側を意味する。
【0050】
【化16】

【0051】
式(A1)におけるL13としては、樹脂とした際の諸物性及び、合成しやすさの観点から、単結合、(L1−ex−4)、(L1−ex−10)又は(Ll−ex−12)であることが好ましく、単結合であることがより好ましい。
【0052】
前記式A1中、連結基L11は式中1位、2位、4位のいずれの炭素原子に結合するものであってもよいが、2位もしくは4位で示される炭素原子と結合したものであることが好ましく、2位で示される炭素原子と結合したものであることがより好ましい。このことは後述する特定重合体(2)についても同様である。
【0053】
・L12
12は、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であることが好ましい。換言すると、この特定重合体(1)に係る実施形態においては、DA主骨格がDAA骨格を構成している。
【0054】
前記特定重合体(1)の好適な態様のもう一つは、2つのデヒドロアビエタン主骨格が直接又は連結基を介して結合してなる二量体構造を、主鎖の一部として繰り返し単位中に含むものである。この二量体構造を含む繰り返し単位は、例えば、上記式(A2)で表される。
【0055】
〜式A2で表される繰り返し単位〜
・L21、L22
式A2中のL21及びL22は、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であることが好ましい。このことは、上記L12と同様に、本実施形態の特定重合体が、DAA骨格を含む繰り返し単位を有して構成されていることを意味する。
【0056】
・L23
23は、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合であることが好ましい。前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖の鎖状であっても、環状であってもよい。L23で表される連結基は、樹脂とした際の諸物性及び、合成しやすさの観点から、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、及び炭素数6〜18のアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることが好ましく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状のアルキレン基、炭素数2〜4の鎖状のアルケニレン基、炭素数5〜6の環状のアルケニレン基、及び炭素数6〜8のアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種から構成される2価の連結基、又は単結合であることがより好ましい。
【0057】
23で表される連結基を構成するアルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基は可能な場合には置換基を有していてもよい。アルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基における置換基としては、前記置換基Tを挙げることができる。L23で表される連結基の具体例として、以下の連結基を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0058】
【化17】

【0059】
23としては、樹脂とした際の諸物性及び、合成しやすさの観点から、(L2−ex−2)、(L2−ex−5)、(L2−ex−9)又は(L2−ex−11)であることが好ましく、(L2−ex−2)であることがより好ましい。
【0060】
前記式A2中、連結基L11は式中1位、2位、4位、1’位、2’位、4’位のいずれの炭素原子に結合するものであってもよいが、2位、4位、2’位、及び4’位で示される炭素原子と結合したものであることが好ましく(ただし、2つのヒドロフェナントレン環を連結する組合せである。)、2位及び2’位で示される炭素原子と結合したものであることがより好ましい。なお、この結合位置は、後述する特定重合体(2)ついても同様である。
【0061】
本実施形態において、DA主骨格からなる繰り返し単位の共重合比は、先に述べた範囲となることが好ましい。
【0062】
(特定重合体(1)の製造方法)
本実施形態の特定重合体(1)の製造に用いるデヒドロアビエチン酸は、例えば、ロジンから得ることができる。ロジンに含まれる構成成分は、これら採取の方法や松の産地により異なるが、一般的には、アビエチン酸(1)、ネオアビエチン酸(2)、パラストリン酸(3)、レボピマール酸(4)、デヒドロアピエチン酸(5)、ピマール酸(6)、イソピマール酸(7)等のジテルペン系樹脂酸の混合物である。これらのジテルペン系樹脂酸のうち、(1)から(4)で表される各化合物は、ある種の金属触媒の存在下、加熱処理することにより不均化を起こし、デヒドロアビエチン酸(5)と、下説構造のジヒドロアビエチン酸(8)に変性する。即ち、本発明の特定重合体(1)を製造する上で必要なデヒドロアビエチン酸(5)は、種々の樹脂酸の混合物であるロジンに適切な化学処理を施すことにより比較的容易に得ることができ、工業的にも安価に製造することができる。なお、ジヒドロアビエチン酸(8)とデヒドロアビエチン酸(5)とは、公知の方法により容易に分離できる。
【0063】
【化18】

【0064】
例えば、上記の式(A1)又は(A2)で表される繰り返し単位及び式(I)で表される繰り返し単位を有する特定重合体(1)を合成する工程は、式(I)で表される繰り返し単位をなすジオール化合物と、上記の式(A1)又は(A2)で表される繰り返し単位をなすジカルボン酸化合物又はその誘導体であるジカルボン酸ハライド誘導体もしくはジエステル誘導体とを公知の方法で重縮合させることにより合成することができる。
【0065】
重合体の具体的な合成方法としては、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成・反応(2)、78〜95頁、共立出版(1996年)に記載の方法(例えば、エステル交換法、直接エステル化法、酸ハライド法等の溶融重合法、低音溶液重合法、高温溶液重縮合法、界面重縮合法など)などが挙げられ、本発明では製造コストを低減できる観点から特にエステル交換法および直接エステル法が好ましく用いられる。
【0066】
エステル交換法は、ジオール化合物とジカルボン酸エステル誘導体とを溶融状態又は溶液状態で、必要により触媒の存在下に加熱することにより脱アルコール重縮合させ特定重合体(1)を合成する方法である。
【0067】
直接エステル化法は、ジオール化合物とジカルボン酸化合物とを溶融状態又は溶液状態で触媒の存在下に,加熱下において脱水重縮合させることにより特定重合体(1)を合成する方法である。
【0068】
酸ハライド法は、ジオール化合物とジカルボン酸ハライド誘導体とを溶融状態又は溶液状態で、必要により触媒の存在下に加熱し脱ハロゲン化水素重縮合させることにより特定重合体(1)を合成する方法である。
【0069】
界面重合法は、ジオール化合物を水、前記ジカルボン酸化合物又はその誘導体を有機溶媒に溶解させ、相問移動触媒を使用して水/有機溶媒界面で重縮合させることにより特定重合体(1)を合成する方法である。
【0070】
なお、式(A2)のデヒドロアビエチン酸(DAA)の二量化体は、特開2011−26569記載の方法で合成できる。具体的には、L23を単結合で連結する場合、オキサリルクロリドを用い触媒量のN,N−ジメチルホルムアミドを添加して反応を進行させることができる。L23をメチレン基とする場合には、上記オキサリルクロリドをジクロロメタンに代える方法などが挙げられる。あるいは、DAAをホルマリンと混合し、触媒量のトリフルオロ酢酸を添加することで反応を進行させてもよい。
【0071】
本実施形態においては、前記DA主骨格とは別に、式(I)で表される構造単位をなすモノマーとして、下記ジカルボン酸化合物(式I−1)もしくはジオール化合物(式I−2)を用いることが好ましい。
【0072】
【化19】

【0073】
式中、Gは式(I)と同義である。式中G1AはGの一部をなす連結基を意味し、本実施形態ではG1AとGとが同じとみても、−CO−G1A−CO−がGに相当するとしてみてもよい。
【0074】
さらに、前記式(II)及び(III)についても同様であり、それに対応した下記式(II−1)、(III−1)のモノマーを用いることが好ましい。
【0075】
【化20】

式中、G〜G、R、R、n3、n4、は式(II)ないし(III)と同義である。
【0076】
上記各一般式のモノマーはそれぞれ1種のものを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。各モノマーの使用比率は、特定重合体において先に述べた共重合比の範囲となるようにすることが好ましい。
【0077】
本実施形態の特定重合体(1)は、その他のジカルボン酸化合物との共重合体であってもよい。その他のジカルボン酸化合物しては、ポリエステルを構成するのに通常用いられるジカルボン酸化合物を特に制限なく用いることができ、例えば、合成高分子V(朝倉書店)P.63−91等に記載のジカルボン酸化合物を用いることができる。
【0078】
その他のジカルボン酸化合物としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類や、シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類が挙げられる。
【0079】
その他のジオール化合物としては、環構造を有するジオール及び環構造を有さないジオールが挙げられる。
【0080】
前記環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位の具体例としては、例えば,シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゼン、及び4−ヒドロキシエチルフェノール等に由来する繰り返し単位や、下記式(B1)で表されるジオール化合物由来の繰り返し単位を挙げることができる。環構造を含まないジオール化合物としては、特定重合体(1)を構成するのに通常用いられるジオール化合物を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1.3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等といったジオール化合物が挙げられる。
【0081】
[特定重合体(2)]
本実施形態においては、DA主骨格がジオール化合物から誘導されるものであり、連結基がそれぞれ以下のものであることが好ましい。
・L11
11は、単結合、*−L1A−O−**、又は*−L1A−CO−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。L1Aで示される二価の連結基としては特に限定的ではないが、例えば、−(C2n)−、−CO(C2n)−、(ここで、nは1〜12、好ましくは1〜8の整数であり、直鎖でも分岐でも環状でもよくまた、更に置換基を有していてもよい。また、分子鎖を構成する炭素原子の1つ以上が、酸素原子に置き換わった構造であってもよい。)等が挙げられる。L1Aに結合する原子が酸素原子のときには、好ましくは−(CH−、−(CH−、又は−(CH−等である。L1Aに結合する原子がカルボニル基のときには、好ましくは−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CO(CH−、−CO(CH−、又は−CO(CH−等である。
【0082】
・L12
12は、*−CH−O−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。
【0083】
・L21
21は、*−CH−O−**であり、*−CH−O−CO−(L2A−CO)−**であることが好ましい。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。L2Aはアルキレン基又はアリーレン基を表す。アルキレン基の好ましい炭素数は1〜20であり、特に好ましくは2〜12である。アルキレン基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、また、更に置換基を有していてもよい。アルキレン基は、分子鎖を構成する炭素原子の1つ以上が、酸素原子に置き換わった構造であってもよい。アルキレン基として、具体的には、例えば、−CH−、−(CH)−、−(CH)−、−(CH)−、−(CH−、−(CH−、−CHOCH−、−CHOCHCHOCH−、及び−C10−、等が挙げられる。nは0又は1を示す。
【0084】
2Aで示されるアリーレン基の好ましい炭素数は6〜20であり、特に好ましくは6〜15である。アリーレン基は、単環であっても縮環であってもよく、また、更に置換基を有してもよい。アリーレン基として、具体的には、例えば、−C−、−C10−、−C−、−COC−及び−CCOC−、等が挙げられる。 L2Aとして好ましくは、−(CH−、−C10−、−C−又は−C10−である。
【0085】
・L22
22は、*−CH−O−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。
【0086】
・L23
23は、特定重合体(1)と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0087】
(特定重合体(2)の製造方法)
デヒドロアビエチン酸のジカルボン酸体の合成は前記特定重合体(1)と同様にして行うことができる。アビエチン酸にカルボキシ基を導入したジカルボキシ化合物からジアルコキシ化合物への反応は、通常の還元反応によればよい。例えば、水素化アルミで還元することにより、上記還元反応を速やかに進行させることができる。ジアルコキシ化合物からポリカルボン酸クロリド化合物との反応によりポリエステルを得る反応は、定法によればよい。
【0088】
ジアルコキシ化合物にテレフタル酸ジクロリドを反応させるプロセスについては、上記特定重合体(1)で述べたのと同様である。その他、ジカルボン酸を反応させてエステル化反応を進行させたり、エステル交換反応を行ったりしてもよく、そうした反応についても、同様に上記特定重合体(1)で述べたのと同様である。
【0089】
前記DA主骨格を有するジオール化合物と組み合わせる、その他のジカルボン酸化合物ないしジオール化合物は前記特定重合体(1)で述べたのと同様である。具体的には、式(I−1)で挙げた化合物を好ましく使用することができる。その他の共重合成分をなすモノマーを用いてもよい。例えば、前記重合体(1)で述べたその他のジカルボン酸ないしジオール化合物が挙げられる。
【0090】
上記特定重合体(1)の製造方法や化合物の詳細については、特開2011−026569号公報を参照することができる。特定重合体(2)の製造方法や化合物の詳細については、特開2011−074249号公報を参照することができる。
【0091】
本発明の特定重合体の具体例を以下に示すが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。なお、下記例示構造のうち、e,f,g,n,m,p,q,r,sが、式(I)の炭素数4以上に該当する構成単位である。
【0092】
【化21】

【0093】
【表1】

【0094】
なお、表中のa〜rはそれぞれ各モノマーユニットのモル比を意味するとともに、そのユニットの呼称も兼ねている。
【0095】
[樹脂B]
本発明の樹脂組成物は、樹脂Bとして、下記式(IIa)で表される構造単位を含む重合体(特定重合体Bともいう。)を含む。
【0096】
【化22】

【0097】
・ R及びR
及びRはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。置換基としては、後記置換基Tが挙げられる。なかでも、一価の有機基が好ましく、より好ましくは、メチル基エチル基、フェニル基である。
【0098】
・Z
Zは、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、アミノ基、またはスルホニル基であることが好ましい。アルキレン基としては、メチレン、ジフェニルメチレン、フェニルメチレン、エチリデン、イソプロピリデン、などが好ましい。中でも、Zは、メチレン、エチリデン、フェニルメチレン、イソプロピリデン、スルホニル基であることがより好ましい。
【0099】
n1及びn2は0〜4の整数を表し、0〜2が好ましい。naは0〜3の整数を表し、1〜2が好ましい。
【0100】
前記特定重合体B中で、式(IIa)で表される繰り返し単位の共重合比は、モル比で5〜50%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましい。この共重合比が上記範囲内であることで、特にトナー用樹脂としての使用に好適なTg、可撓性を発現することができ好ましい。
【0101】
上記特定重合体においては、その他の共重合成分を有していてもよく、その共重合比はモル比で95%以下に抑えられていることが好ましい。下限値は特にないが、その他の共重合成分が存在する場合として下限値を50%程度とすることが実際的である。
【0102】
特定重合体B(樹脂B)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量で9,000以上、200,000以下であることが好ましく、10,000以上100,000以下であることがより好ましい。
【0103】
樹脂Bは、下記式(1)で表されるビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物を少なくとも含む2価のアルコール化合物を含有するアルコール成分と、カルボン酸成分との縮重合により得られるものであることが好ましい。
【0104】
【化23】

【0105】
前記式中、R11及びR12は、いずれも炭素数2〜4のアルキレン基である。R13及びR14は、いずれも水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基又は分岐状アルキル基である。nb及びncは、いずれも0以上の整数であり、その和は1〜16である。さらに前記式(1)中、nb及びncは正の整数であり、その和が2〜16であることがより好ましい。さらに好ましくは、nb,ncのそれぞれが1〜4である。
【0106】
前記ポリエステル樹脂Bの縮重合におけるアルコール成分として用いられる2価のアルコール化合物に含まれる前記式(1)で表されるビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、ビスフェノールAや、ビスフェノールF等と、エチレンオキシドや、プロピレンオキシド等の環状エーテルとの重合により得られるジオール類などが挙げられる。
なお、前記ポリエステル樹脂Bのアルコール成分としては、目的の作用効果が損なわれない範囲で、前記式(1)で表されるビスフェノール化合物以外のアルコールが含有されていてもよいが、前記式(1)で表されるビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物の含有量は、2価のアルコール化合物中80モル%以上が好ましい。
【0107】
前記ポリエステル樹脂Bの縮重合に用いられるカルボン酸成分としては、特に制限はなく、2価のカルボン酸や3価以上の多価カルボン酸を目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、2価のカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のべンゼンジカルボン酸類又はその無水物、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等のアルキルジカルボン酸類又はその無水物、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸等の不飽和二塩基酸、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物等の不飽和二塩基酸無水物、などが挙げられる。
また、3価以上の多価カルボン酸成分としては、例えば、トリメット酸、ピロメット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシ−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシ)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、エンポール三量体酸、又はこれらの無水物、部分低級アルキルエステル、などが挙げられる。
これらの中でも、樹脂の耐熱保存性、機械的強度の観点から、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸化合物が含有されていることが好ましい。前記芳香族多価カルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、40モル%〜95モル%が好ましく、50モル%〜90モル%がより好ましく、60モル%〜80モル%が更に好ましい。
【0108】
その他、重合反応の触媒や条件等は適宜定法によればよい。詳細な合成手順や添加量等は、特開2011−2802号公報、特開2009−3136号公報等を参照することができる。
【0109】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は上記樹脂Aと樹脂Bとを含有する。両者の配合比率は特に限定されないが、樹脂A100質量部に対して、樹脂Bを5〜300質量部配合することが好ましく、15〜200質量部配合することがより好ましい。
本発明の好ましい実施形態として用いられる樹脂組成物においては、デヒドロアビエチン酸由来の特定重合体(樹脂A)、樹脂B及び、定着温度域を拡大するために併用される結晶性樹脂は三者での相溶性に優れる。ここでいう三者での相溶性とは、本実施形態の樹脂Aと樹脂Bとが良好な相溶性を示すことで、例えば樹脂A(または樹脂B)と結晶性樹脂との相溶性が不十分な場合でも、樹脂A/樹脂Bの混合物と結晶性樹脂との相溶性が良好となることをいう。これにより本実施形態の樹脂組成物をトナーに用いることで、透明性、光沢性に優れた画像が得られる。従って、特にカラー用色材と組み合わせたトナーであるときに、高画質なカラー画像が得られ、好ましい。
【0110】
本発明の樹脂組成物はトナー材料として用いることが好ましい。トナーの種類は特に限定されず、粉砕法によるトナーであっても、乳化凝集等により調製されるケミカルトナーであってもよい。本発明の樹脂組成物の特性がより引き立つ点で、ケミカルトナーに利用されることがより好ましい。以下、ケミカルトナーとしての実施形態を中心に説明する。
【0111】
[樹脂C]
本発明の樹脂組成物には、さらに別の樹脂(樹脂C)を配合してもよい。例えば、特開2010−020170号公報に開示された不均化ロジンをペンダント状に有するポリエステルが挙げられる。
この樹脂Cは、(a)酸成分としての(1)芳香族ジカルボン酸及び(2)不均化ロジン、(b)アルコール成分としての(3)3価以上の多価アルコールから構成されている。具体的には、ポリエステル樹脂は、(1)芳香族ジカルボン酸と(3)3価以上の多価アルコールとを反応させて得られる分岐を有するポリオール構造を持ち、そのポリオールの水酸基に(2)不均化ロジンのカルボキシル基を反応させて得られるポリエステル樹脂である。
【0112】
(a)の酸成分として用いられる芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、5−tert−ブチル−1,3−ベンゼンジカルボン酸及びこれらの酸無水物、低級アルキルエステル等のような誘導体等が挙げられる。これらの中でも、特にテレフタル酸、イソフタル酸及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。テレフタル酸及びイソフタル酸は、それらの低級アルキルエステルを用いても良く、テレフタル酸及びイソフタル酸の低級アルキルエステルの例としては、例えば、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等があるが、コスト及び取り扱い(ハンドリング)の点で、テレフタル酸ジメチルやイソフタル酸ジメチルが好ましい。これらのジカルボン酸又はその低級アルキルエステルは、単独で用いられても、2種以上が併用されても良い。テレフタル酸及びイソフタル酸は芳香環を有しているため、樹脂のTm及びTgをトナー用樹脂として適切な範囲に調整することができ、耐オフセット性及び耐ブロッキング性が良好となり、また、樹脂に適度な強度を与えることができる。
【0113】
不均化ロジンとは、主成分としてアビエチン酸を含むロジンを貴金属触媒あるいはハロゲン触媒の存在下で高温加熱することによって、分子内の不安定な共役二重結合を消失させたもので、主成分として、デヒドロアビエチン酸とジヒドロアビエチン酸との混合物である。不均化ロジンの成分としては、デヒドロアビエチン酸を45重量%以上含有したものが好ましく、50重量%以上含有したものが特に好ましい。
【0114】
(b)のアルコール成分として用いる3価以上の多価アルコールは、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これら3価以上の多価アルコールは、(a)の酸成分として用いられる芳香族ジカルボン酸と反応し、適度な分岐を有するポリオール構造を形成する。ポリエステル樹脂に適度な分岐構造を与えることにより、樹脂のTmを上げ過ぎずに低温定着性を維持するとともに、高分子量側へ広い分子量分布を得ることができ、耐オフセット性が良好になる。(3)3価以上の多価アルコールと(1)芳香族ジカルボン酸のモル比は、(3)/(1)=1.05〜1.65であることが好ましい。モル比(3)/(1)が1.05よりも低い場合には、高分子量側への分子量分布が広くなり過ぎてTmが高くなるため、低温定着性が低下し、又は高分子量側への分子量分布の広がりを制御できなくなり、ゲル化を起こし易くなる。また、1.65を超える場合には、分岐の少ないポリエステル樹脂となり、結果としてTm及びTgが低下し、耐ブロッキング性が低下する傾向が出てくる。
【0115】
(a)の酸成分として、脂肪族ポリカルボン酸を更に用いることができる。脂肪族ポリカルボン酸としては、この種のポリマーに一般的に適用されるものを、用いることができる。
【0116】
樹脂Cのモノマー成分のより詳細な内容、合成条件等は、前記特開2010−020170号公報を参照することができる。
前記樹脂Cの量は特に限定されないが、樹脂A100質量部に対して、0〜100質量部であることが好ましく、0〜50質量部であることがより好ましい。
【0117】
[水性樹脂分散物]
本実施形態のトナーの調製には、樹脂微粒子の分散物を利用することが好ましい。この観点から、本実施形態の水性樹脂分散物(以下、単に「樹脂分散物」ともいう)は、前記デヒドロアビエチン酸由来の特定重合体の少なくとも1種を含み、これが水性媒体中に分散されて構成される。前記樹脂A及び樹脂Bは、自己分散性と分散安定性に優れることから、容易に水性分散物を構成することができる。特に樹脂A及びBの酸価が10mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が上記下限値以上であると、前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体自体の親水性が良好であるため、得られる水性樹脂分散物の分散安定性が良好で、凝集が抑制でき、所望の粒子径の樹脂粒子を得ることができるので好ましい。また、酸価が上記上限値以下であると、親水性が適切であり、粗大粒子の発生が抑制でき、良好な粒度分布を得ることができる。またさらに酸価が10mgKOH/g以上15mgKOH/g以下であると上記の分散安定性の点でより好ましい。
【0118】
ここで自己分散性とは、例えば、界面活性剤の不存在下、分散状態(特に転相乳化法による分散状態)としたとき、重合体自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得ることを意味し、遊離の乳化剤を含有しない樹脂分散物を構成し得ることを意味する。
【0119】
また分散状態とは、水性媒体中に重合体が液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に重合体が固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
本発明において前記重合体Aは水不溶性ポリマーであることが好ましい。水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0120】
重合体の乳化又は分散状態、すなわち重合体の水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、重合体を溶媒(例えば、親水性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、重合体が有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0121】
前記重合体粒子の分散状態とは、重合体30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該重合体の塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0122】
[トナー用バインダー]
本実施形態のトナー用バインダーは、前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体の少なくとも1種を含有し、必要に応じてその他の成分(例えば、樹脂)を含んで構成される。前記トナー用バインダーは、乾式法である溶融混練粉砕法や液中でトナー粒子を造粒する湿式法のいずれにも適用可能である。特に上記デヒドロアビエチン酸に由来する特定重合体は、自己分散性と分散安定性に優れることから、重合体を分散状態としてトナーを造粒する湿式法に好適に用いることができる。
【0123】
また本実施形態のトナー用バインダーは、その成分としてその他の樹脂の少なくとも1種を含むことができる。その他の樹脂としては結晶性樹脂が挙げられ、例えば、前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体以外のポリエステル樹脂(以下、「その他のポリエステル樹脂」ともいう)を挙げることができる。本発明においては、特にトナー用途を考慮して、上記デヒドロアビエチン酸由来の特定重合体と結晶性樹脂とを含有する樹脂組成物とすることが好ましい。なお、本発明において組成物とは、2以上の成分が特定の組成で実質的に均一に存在していることを言う。ここで実質的に均一とは発明の作用効果を奏する範囲で各成分が偏在していていもよいことを意味する。また、組成物とは上記の定義を満たす限り形態は特に限定されず、流動性の液体やペーストに限定されず、複数の成分からなる固体や粉末等も含む意味である。さらに、沈降物があるような場合でも、攪拌により所定時間分散状態を保つようなものも組成物に含む意味である。
その他のポリエステル樹脂は、例えば、主として多価カルボン酸類と多価アルコール類との縮重合により得られるものである。
【0124】
前記多価カルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、などの芳香族カルボン酸類;無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アルケニル無水コハク酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸類が挙げられ、これらの多価カルボン酸を1種又は2種以上用いることができる。これら多価カルボン酸の中でも、芳香族カルボン酸を用いることが好ましい。また、良好な定着性を確保するためには、ポリエステル樹脂が架橋構造あるいは分岐構造をとることが好ましく、そのためには多価カルボン酸として、ジカルボン酸とともに3価以上のカルボン酸(トリメリット酸やその酸無水物等)を併用することが好ましい。
【0125】
前記多価アルコールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、などの脂肪族ジオール類;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環式ジオール類;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール類が挙げられる。これら多価アルコールの1種又は2種以上用いることができる。これら多価アルコールの中でも、芳香族ジオール類、脂環式ジオール類が好ましく、このうち芳香族ジオールがより好ましい。また、より良好なる定着性を確保するためには、ポリエステル樹脂が架橋構造あるいは分岐構造をとることが好ましく、そのために多価アルコールとして、ジオールとともに3価以上の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール)を併用してもよい。
【0126】
その他のポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下「Tg」と略記することがある)は40℃以上80℃以下であることが好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましい。ポリエステル樹脂のTgが80℃以下であることにより低温定着性が得られ、Tgが40℃以上であることにより、十分な熱保管性及び定着画像の保存性が得られる。
また、その他のポリエステル樹脂の分子量(重量平均分子量)は、樹脂の製造性、トナー製造時の微分散化や、溶融時の相溶性トナーの観点から、5,000以上40,000以下が好ましい。
【0127】
・結晶性ポリエステル樹脂
その他のポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂の少なくとも1種を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、トナーの低温定着性がより良好となる。また定着工程における加熱温度が低いため、定着器の劣化が抑制される。ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、溶融時に結晶性ポリエステル樹脂が非結晶性ポリエステル樹脂と相溶してトナー粘度を著しく低下させ、低温定着性や画像光沢性にすぐれたトナーが得られる。
また、結晶性ポリエステル樹脂のなかでも、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂は、芳香族結晶性樹脂に比べ、好ましい融点を有するものが多いため、特に好ましい。
【0128】
ポリエステル樹脂中における結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、2質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上14質量%以下がより好ましい。上記結晶性ポリエステル樹脂の含有量が2質量%以上あれば、溶融時に非結晶性ポリエステル樹脂を十分に低粘度化することができ、低温定着性の向上が得られ易い。また上記結晶性ポリエステル樹脂の含有量が20質量%以下であれば、結晶性ポリエステル樹脂の存在に起因するトナーの帯電性の悪化を抑制することができるので、記録媒体への定着後の画像強度が得られ易い。
【0129】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、50℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、55℃以上95℃以下の範囲であることが好ましく、60℃以上90℃以下の範囲であることがより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点が50℃以上あれば、トナーの保存性や、定着後のトナー画像の保存性が良く、また100℃以下であれば、低温定着性の向上が得られ易い。
【0130】
結晶性ポリエステル樹脂は、酸(ジカルボン酸)成分とアルコール(ジオール)成分とから合成されるものであり、下記において、「酸由来構成成分」とは、ポリエステル樹脂において、ポリエステル樹脂の合成前には酸成分であった構成部位を指し、「アルコール由来構成成分」とは、ポリエステル樹脂の合成前にはアルコール成分であった構成部位を指す。
【0131】
酸由来構成成分
前記酸由来構成成分となるための酸としては、種々のジカルボン酸が挙げられるが実施の形態に係る結晶性ポリエステル樹脂における酸由来構成成分としては、直鎖型の脂肪族ジカルボン酸が望ましい。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸など、あるいはその低級アルキルエステルや酸無水物が挙げられるが、この限りではない。これらの中では、入手容易性を考慮するとアジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸が好ましい。
【0132】
酸由来構成成分としては、その他として2重結合を持つジカルボン酸由来構成成分、スルホン酸基を持つジカルボン酸由来構成成分等の構成成分を含有していてもよい。
【0133】
なお、本明細書において「構成モル%」とは、ポリエステル樹脂における酸由来構成成分全体中の当該酸由来構成成分、または、アルコール由来構成成分全体中の当該アルコール構成成分を、各1単位(モル)としたときの百分率を指す。
【0134】
アルコール由来構成成分
アルコール構成成分となるためのアルコールとしては、脂肪族ジオールが望ましく、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9―ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ドデカンジオール、1,12−ウンデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、などが挙げられるが、この限りではない。これらの中では、入手容易性やコストを考慮すると1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールが好ましい。
【0135】
結晶性ポリエステル樹脂の分子量(重量平均分子量)は、樹脂の製造性、トナー製造時の微分散化や、溶融時の相溶性トナーの観点から、8,000以上40,000以下が好ましく、10,000以上30,000以下がさらに好ましい。8,000以上あれば、結晶性ポリエステル樹脂の抵抗低下を抑制することができるので、帯電性の低下を防止することができる。40,000以下であれば、樹脂合成のコストを抑え、また、シャープメルト性の低下を防止するために低温定着性に悪影響を与えない。
【0136】
本実施形態のトナー用バインダーは、その他のポリエステル樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のエチレン系樹脂;ポリスチレン、α−ポリメチルスチレン等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタアクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。
【0137】
本実施形態のトナー用バインダー中におけるデヒドロアビエチン酸由来の重合体Aの含有率としては、全固形分中、例えば10〜95質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。また、結晶性樹脂との関係でいうと、特定重合体A100質量部に対して、結晶性樹脂が400〜9900質量部で配合されていることが好ましく、614〜4900質量部で配合されていることがより好ましい。
【0138】
[トナー]
本実施形態のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、上記複合材料の中でも特にトナー用バインダーとして好適に使用することができる。本実施形態のトナーは、顔料、離型剤及び本実施形態のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含有していればよい。必要に応じて、荷電制御剤、キャリア、外添剤等を含有することができる。
【0139】
トナーに対して流動性向上や帯電制御等を付与する目的で、無機微粉末、有機微粒子を外部添加してもよい。例えば、表面をアルキル基含有のカップリング剤等で処理したシリカ微粒子、チタニア微粒子が好ましく用いられる。なお、これらは数平均一次粒子サイズが10〜500nmのものが好ましく、さらにはトナー中に0.1〜20質量%添加するのが好ましい。
【0140】
顔料としては限定的でなく、有機顔料及び無機顔料のいずれを使用することもできる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、黒色顔料としてはカーボンブラックが特に好ましい。これらはトナー中に例えば1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、黒色顔料として磁性体を用いた場合は30〜85質量%添加するのが好ましい。
【0141】
バインダーとしては、本実施形態のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含んでいればよく、トナー中に例えば10〜95質量%、さらには20〜80質量%添加するのがより好ましい。また、一般に使用される他のバインダーを併用することもできる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のエチレン系樹脂;ポリスチレン、α−ポリメチルスチレン等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタアクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。
さらに前記トナー用バインダーを用いて構成してもよい。
【0142】
離型剤としては、トナー用に従来使用されている離型剤は全て使用することができる。具体的には、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン類、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバワックス、サゾールワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。これらの添加量はトナー中に例えば3〜20質量%、さらには5〜18質量%添加することがより好ましい。
【0143】
荷電制御剤としては、必要に応じて添加してもよいが、発色性の点から無色のものが好ましい。例えば4級アンモニウム塩構造のもの、カリックスアレン構造を有するもの、アゾ錯体染料などが挙げられる。荷電制御剤の添加量は、トナー中に例えば0.5〜10質量%、さらには1〜5質量%添加することがより好ましい。
【0144】
キャリアとしては、鉄・フェライト等の磁性材料粒子のみで構成される非被覆キャリア、磁性材料粒子表面を樹脂等によって被覆した樹脂被覆キャリアのいずれを使用してもよい。このキャリアの平均粒子サイズは体積平均粒子サイズで30〜150μmが好ましい。
【0145】
外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、カーボンブラック等の無機粒子やポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂等のポリマー粒子等、公知の粒子が使用できる。これらのうち2種以上の外添剤を使用し、該外添剤の少なくとも1種は、30nm以上200nm以下の範囲、さらには30nm以上180nm以下の範囲の平均1次粒子径を有することが好ましい。
【0146】
トナーが小粒径化することによって、感光体との非静電的付着力が増大するため、転写不良や細線の画像抜けが引き起こされ、重ね合わせ画像等の転写ムラを生じさせる原因となるため、平均1次粒子径が30nm以上200nm以下の大径の外添剤を添加することにより、転写性を改善させることができる。
【0147】
外添剤の平均1次粒子径が30nmより小さいと、初期的なトナーの流動性は良好であるが、トナーと感光体との非静電的付着力を十分に低減できず、転写効率が低下し画像のぬけが発生したり、画像の均一性を悪化させてしまったりする場合がある。また、経時による現像機内でのストレスによって外添剤粒子がトナー表面に埋め込まれ、帯電性が変化し、コピー濃度の低下や背景部へのカブリ等の問題を引き起こす場合がある。外添剤の平均1次粒子径が200nmより大きいと、トナー表面から脱離しやすく、また流動性悪化の原因ともなる場合がある。
【0148】
−トナーの特性−
さらに、本実施形態のトナーは、平均円形度が0.960以上0.980以下の範囲であることが好ましく、0.960以上0.970以下の範囲であることがより好ましい。トナーの形状は、球形トナーが現像性、転写性の点では有利であるが、クリーニング性の面では不定形に比べ劣ることがある。トナーが上記範囲の形状であることにより、転写効率、画像の緻密性が向上し、高画質な画像形成を行うことができ、また、感光体表面のクリーニング性を高めることができる。
【0149】
また、本実施形態のトナーの体積平均粒径は3μm以上9μm以下であることが望ましく、より望ましくは3.5μm以上8.5μm以下であり、さらに望ましくは4μm以上8μm以下である。体積平均粒径が3μm以上あれば、トナーの流動性低下を抑えられるので、各粒子の帯電性を維持しやすい。また、帯電分布が広がらず、背景へのかぶりを防止し現像器からトナーがこぼれにくくなる。さらに、トナーの体積平均粒径が3μm以上あれば、クリーニング性が良くなる。体積平均粒径が9μm以下であれば、解像度の低下を抑えられるため、十分な画質を得ることができ、近年の高画質要求を満たすことが可能となる。
【0150】
トナーの粒子径分布指標としては、体積平均粒度分布指標GSDvが1.30以下であることが好ましく、1.15以上1.28以下であることがより好ましく、1.17以上1.26以下であることがさらに好ましい。GSDvが上記範囲より大きいと、画像の鮮明度、解像度が低下する場合がある。
また個数平均粒度分布指標GSDpが1.30以下であることが好ましい。GSDpが上記範囲より大きいと、小粒径トナーの比率が高くなるため、静電気的制御が困難となる場合がある。
【0151】
なお、上記体積平均粒径D50は、例えば、コールターカウンターTAII、マルチサイザーII(ベックマン−コールター社製)等の測定器で測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャネル)に対して体積、数をそれぞれ小径側から累積分布を描いて、累積16%となる粒径を体積D16v、数D16P、累積50%となる粒径を体積D50v、数D50P、累積84%となる粒径を体積D84v、数D84Pと定義する。これらを用いて、体積平均粒度分布指標(GSDv)は(D84v/D16V)1/2として算出される。
【0152】
前記SF1は、主に顕微鏡画像または走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析装置を用いて解析することによって数値化され、例えば、以下のようにして算出することができる。すなわち、スライドガラス表面に散布した高級アルコール粒子の光学顕微鏡像をビデオカメラを通じてルーゼックス画像解析装置に取り込み、100個の粒子の最大長と投影面積を求め、上記式(1)によって計算し、その平均値を求めることにより得られる。
【0153】
(静電荷現像用トナーの製造方法)
本実施形態にかかるトナーの製造方法は特に制限されず通常用いられる方法を適用することができる。なかでも、湿式製法(例えば、凝集合一法、懸濁重合法、溶解懸濁造粒法、溶解懸濁法、溶解乳化凝集合一法等)によりトナー粒子を形成する工程と、トナー粒子を洗浄する工程と、を含むことが好ましい。
トナー粒子を形成する方法としては、上記の通り、水系媒体中でトナー粒子を生成する湿式製法が好適であるが、特に乳化凝集法が望ましく、転相乳化法を用いた乳化凝集法がさらに望ましい。
【0154】
乳化凝集法とは、トナーに含まれる成分(結着樹脂、着色剤等)を含む分散液(乳化液、顔料分散液等)をそれぞれ調製し、これらの分散液を混合してトナー成分同士を凝集させて凝集粒子を作り、その後凝集粒子を結着樹脂の融点又はガラス転移温度以上に加熱して凝集粒子を熱融合させる方法である。
【0155】
乳化凝集法は、乾式法である混錬粉砕法や、他の湿式法である溶融懸濁法、溶解懸濁法等に比べ、小粒径のトナーを作製しやすく、また粒度分布の狭い均一なトナーを得やすい。また、溶融懸濁法、溶解懸濁法等に比べ形状制御が容易であり、均一な不定形トナーを作製することができる。さらに、被膜形成などトナーの構造が制御され、離型剤や結晶性ポリエステル樹脂を含有する場合はこれらの表面露出が抑制されるため、帯電性や保存性の悪化が防止される。
さらに本実施形態のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含むトナー用バインダーを用い、乳化凝集法によりトナーを作製すると、水性樹脂分散物における樹脂粒子安定性が良く、小粒径で粒度分布の優れたトナーが作製される。
尚、トナーの湿式製法の詳細については、例えば、特開2009−229919号公報、特開2009−46559号公報、特開2009−151241号公報、特許3344169号公報、および特許3141783号公報、特開2008−165017号公報、特開2010−20170号公報、特開2010−210959号公報等に記載の方法を本実施形態においても好適に適用することができる。
【0156】
本実施形態のトナーが適用される画像形成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば感光体上に画像を形成した後に転写を行い、画像を形成する方法や、感光体に形成された画像を逐次中間転写体等へ転写し、画像を中間転写体等に形成した後に紙等の画像形成部材へ転写し画像を形成する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0157】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0158】
[合成例]
デヒドロアビエチン酸由来のモノマー(DHA−1〜3)の合成例
以下のデヒドロアビエチン酸由来のモノマーの合成例においては、合成されたモノマーの構造をいずれの場合もH−NMR、液体クロマトグラフィーを用いて確認した。
【0159】
(合成例1)
【0160】
【化24】

【0161】
酢酸(100ml)に氷冷下、硫酸(30ml)を滴下した。次いで、デヒドロアビエチン酸(荒川化学工業製、30.0g)とパラホルムアルデヒド(2.1g)を室温で加え、40℃で3時間撹拌した。反応液を1lの冷水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。抽出液を洗液がほぼ中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣にメタノール80mlを加え、白色結晶を濾取、乾燥してDHA−1(19.8g)を得た。
【0162】
(合成例2)
【0163】
【化25】

【0164】
デヒドロアビエチン酸(30.0g)と塩化メチレン(60ml)の混合物に、塩化オキサリル(13g)を室温で滴下した。3時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、そこにメタノール16gを滴下した。室温で3時間撹拌後、過剰のメタノールを減圧留去し、中間化合物A(31g)を得た。
中間化合物A(31g)およびパラホルムアルデヒド(2.1g)を塩化メチレン(150ml)に加え、そこに硫酸(50ml)を10〜15℃で滴下した。滴下後、室温で5時間撹拌した後、氷水500mlを加え、有機層を分離した。有機層を洗液が中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、塩化メチレンを留去した。残渣にメタノール50mlを加え、室温で3時間撹拌した後、白色結晶を濾取、乾燥してDHA−2(20.2g)を得た。
【0165】
(合成例3)
【0166】
【化26】

【0167】
デヒドロアビエチン酸(75g)および無水コハク酸(38g)を塩化メチレン(1L)に溶かし、氷冷下、無水塩化アルミニウム(130g)を少量ずつ加えた。10〜15℃で2時間撹拌した後、反応液を氷水に注いだ。生成した白色結晶を濾取、水洗後、さらにメタノールで洗浄してDHA−3(72g)を得た。
【0168】
[重合例]
デヒドロアビエチン酸由来の重合体の合成例
以下のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の合成例においては、合成された重合体の構造をいずれの場合も、H−NMRを用いて確認した。さらに、ここから重合体中の芳香環含率を算出した。また、重合体の重量平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)はGPCを用いて先に記載の条件により測定した。
【0169】
ガラス転移点は、示差走査熱量計(SIIテクノロジー社製、DSC6200)を用いて下記の条件で測定した。測定は同一の試料で二回実施し、二回目の測定結果を採用した。
・測定室内の雰囲気:窒素(50mL/min)
・昇温速度:10℃/min
・測定開始温度:0℃
・測定終了温度:200℃
・試料パン:アルミニウム製パン
・測定試料の質量:5mg
・Tgの算定:DSCチャートの下降開始点と下降終了点の中間温度をTgとした
【0170】
さらに酸価は、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により測定した。得られた重合体の物性値を表1に示した。
【0171】
(樹脂A)
(重合例1)P−1の合成
DHA−2(200g)、セバシン酸(15.78g)、テトラエチレングリコール(89.74g)およびオルトチタン酸エチル(200μL)の混合物を窒素気流下、240℃で70分間加熱撹拌し、生成した水、メタノールを留去した。次いで、260℃に昇温し、重合の進行に伴い生成する水、メタノールを留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。次いでトリメリット酸無水物(5.25g)を添加し、さらに1時間反応を継続し、得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−1(重量平均分子量21400、分子量分布3.7、ガラス転位点56℃、酸価13mgKOH/g)を得た。重合体P−1のDSCチャート及びTgを算定した。この補助線を図2に示した。
【0172】
表1に示した他の重合体を上記に準ずる方法で合成した。
【0173】
(樹脂B)
(B−1の合成)
テレフタル酸(138.2g)、ドデセニル無水コハク酸(85.2g)、BPA−EO(75.9g)、BPA−PO(468.4g)、ジブチル錫オキシド(2.72g)の混合物を窒素気流下、250℃で3時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、フマル酸(55.7g)を加え、さらに2時間加熱撹拌した。ここで窒素気流を停止し、系内を60Torrまで減圧し、さらに2時間加熱撹拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体B−1(重量平均分子量18400、分子量分布4.7、ガラス転位点60℃、酸価14.2mgKOH/g)を得た。
【0174】
(B−2の合成)
テレフタル酸(114.2g)、ドデセニル無水コハク酸(91.5g)、BPA−EO(186.8g)、BPA−PO(203.1g)、ジブチル錫オキシド(2.15g)の混合物を窒素気流下、230℃で3.5時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、窒素気流を停止し、系内を60Torrまで減圧し、30分間反応を継続した。反応系内に窒素を供給し、常圧に戻した後、窒素気流下で無水トリメリット酸(20.4g)を加え、さらに窒素気流下で3時間加熱撹拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体B−2(重量平均分子量48,600、分子量分布6.6、ガラス転位点58℃、酸価13.6mgKOH/g)を得た。
【0175】
(樹脂C)
ポリエステル樹脂原料アルコール成分としてグリセリン288g、原料酸成分としてイソフタル酸334g、不均化ロジン(酸価157.2mgKOH/g)1528g及び反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート1.72g(酸成分とアルコール成分の総量100重量部に対して、0.080重量部)を、撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら250℃で10時間重縮合反応させ、フローテスターにより所定の軟化温度に達したことを確認し、反応を終了した。これを樹脂C−1とした。
【0176】
(比較重合例) cP−1:式(I)のGの総炭素数が3の例
DHA−2(200g)、テレフタル酸ジメチル(141.38g)、1,3−プロパンジオール(163.82g)およびオルトチタン酸エチル(250μL)の混合物を窒素気流下、240℃で70分間加熱撹拌し、生成した水、メタノールを留去した。次いで、260℃に昇温し、重合の進行に伴い生成する水、メタノール及び過剰分の1,3−プロパンジオールを留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。次いでトリメリット酸無水物(9.19g)を添加し、さらに1時間反応を継続し、得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体cP−1(重量平均分子量13000、分子量分布3.1、ガラス転位点65℃、酸価13mgKOH/g)を得た。
【0177】
[分散物の作製]
(樹脂Aの分散物A01の作製)
樹脂A[P−1](10g)、メチルエチルケトン(7.5g)の混合物を60℃で攪拌し、加熱溶解させた。次いで、イソプロパノール(2.5g)を加え、室温まで放冷した後、10質量%アンモニア水(0.55ml)を室温で加え、さらにこの溶液中にイオン交換水(40g)流量1.57(g/ml)で徐々に加え、転相乳化させた。その後、減圧下、エバポレーターで溶媒を留去して、樹脂分散物A01を得た。
【0178】
(樹脂Aの分散物A02〜A09、及び比較例の分散物Ac1、Ac2の作製)
前記樹脂分散物A01の作製に於いて、用いた樹脂をそれぞれ表1に記載の樹脂A(比較例c12はcP−1)に変更した以外は同様の手法により、樹脂分散物A02〜A09、Ac1、Ac2を得た。
【0179】
(樹脂B−1、B−2、C−1の分散物の作製)
前記樹脂分散物A01の作製に於いて、用いた樹脂をそれぞれ樹脂B−1、B−2、C−1に変更した以外は同様の手法により、樹脂分散物B−1、B−1、C−1を得た。
【0180】
(結晶性ポリエステル樹脂分散液(I))
加熱乾燥した三口フラスコに、モノマー組成比で1,10−デカンジカルボン酸100モル%と、1,9−ノナンジオール100モル%とを投入し、触媒としてジブチル錫オキサイドを0.3質量%となるように入れた後、減圧操作により容器内の空気を窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械攪拌にて180℃で5時間攪拌・還流を行った。
その後、減圧下にて230℃まで徐々に昇温を行い2時間攪拌し、粘稠な状態となったところで空冷し、反応を停止させ、結晶性ポリエステル樹脂(I)を合成した。
得られた結晶性ポリエステル樹脂(I)の重量平均分子量は25000、数平均分子量は5800であった。また、結晶性ポリエステル樹脂(I)の融点(Tm)を、前述の測定方法により、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したところ、明確な吸熱ピークを示し、吸熱ピーク温度は75℃であった。
【0181】
・結晶性ポリエステル樹脂(I):90質量部
・イオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬):2.0質量部
・イオン交換水:210質量部
以上を混合して100℃に加熱して、IKA製ウルトラタラックスT50にて分散後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで110℃に加温して分散処理を1時間行い、体積平均粒径が0.15μm、固形分量が30質量%の結晶性ポリエステル樹脂分散液(I)を得た。
【0182】
(結晶性ポリエステル樹脂分散液(II))
加熱乾燥した三口フラスコに、モノマー組成比で1,8−セバシン酸ジメチル100モル%と、1,6−ヘキサンジオール100モル%とを投入し、触媒としてジブチル錫オキサイドを0.3質量%となるように入れた後、減圧操作により容器内の空気を窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械攪拌にて180℃で5時間攪拌・還流を行った。
その後、減圧下にて230℃まで徐々に昇温を行い4時間攪拌し、粘稠な状態となったところで空冷し、反応を停止させ、結晶性ポリエステル樹脂(II)を合成した。
得られた結晶性ポリエステル樹脂(II)の重量平均分子量は22000で数平均分子量は4400であった。また、結晶性ポリエステル樹脂(II)の融点(Tm)を、前述の測定方法により、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したところ、明確な吸熱ピークを示し、吸熱ピーク温度は72℃であった。
【0183】
・結晶性ポリエステル樹脂(II):90質量部
・イオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬):1.8質量部
・イオン交換水:210質量部
以上を混合して100℃に加熱して、IKA製ウルトラタラックスT50にて分散後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで110℃に加温して分散処理を1時間行い、体積平均粒径が0.14μm、固形分量が30質量%の結晶性ポリエステル樹脂分散液(II)を得た。
【0184】
<実施例・比較例>
上記DHA樹脂の分散物及び樹脂Bの分散物等を用い、以下のように調製した着色剤分散物と離型剤分散液を用いて、トナーおよび現像剤を調製し、評価した。結果を下表に示す。
【0185】
(着色剤分散物の調製)
シアン顔料(大日精化社製、Pigment Blue 15:3、銅フタロシアニン)(100質量部)、アニオン界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンR)(10質量部)およびイオン交換水(350質量部)を混合し、高圧衝撃式分散機(HJP30006,スギノマシン社製)にて1時間分散してシアン着色剤分散物を得た。
【0186】
(離型剤分散物の調製)
パラフィンワックス(HNP−9:日本精蝋社製)(60質量部)、アニオン界面活性剤ネオゲンR(6質量部)およびイオン交換水(200質量部)を混合し、100℃に加熱して融解させ、高圧ホモジナイザー(ゴーリン社製)にて分散し、離型剤分散物を得た。
【0187】
(トナーの作製)
イオン交換水(280質量部)、アニオン界面活性剤(第一工業製薬(株)社製、ネオゲンRK(20%))(2.8質量部)上記樹脂分散物A01(150質量部)、B−1(150質量部)、および上記結晶性樹脂分散液(I)(67質量部)を温度計、pH計、攪拌機を備えた3lの三口フラスコに入れ、温度30℃、回転数150rpmにて30分間攪拌した。次いで、上記着色剤分散物(60質量部)、および上記離型剤分散物(80質量部)を加え、5分間攪拌した。さらに、1%硝酸を少しずつ添加してpHを3.0に調整した。その後、ポリ塩化アルミニウム(0.4質量部)を添加、50℃まで昇温したところで樹脂分散物180部を加えた。30分間攪拌した後、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.0に調整した。引き続き90℃まで昇温し、90℃で3時間攪拌した後、冷却してトナー分散物101bを得た。
【0188】
(トナー粒子の調製)
上記で得られたトナー粒子分散液をろ過し、イオン交換水で洗浄した。トナー粒子を再度、イオン交換水に分散し、ろ過、洗浄した。この操作をさらに2度繰り返した後、トナー粒子分散液に1%硝酸にてpHを4.0に調整した。トナー粒子をろ過し、ろ液の電気伝導度が15μS/cm以下になるまでイオン交換水にて洗浄した後、40℃のオーブン中で5時間減圧乾燥してトナー粒子を得た。さらに、得られたトナー粒子100質量部に対して、疎水性シリカ(日本アエロジル社製、RY50)1.5質量部と疎水性酸化チタン(日本アエロジル社製、T805)1.0質量部とを加え、サンプルミルを用いて10000rpmで30秒間混合ブレンドした。その後、目開き45μmの振動篩いで篩分してトナー101を得た。
【0189】
上記トナー101の調製に対し、使用する特定重合体及び結晶性ポリマーの種類、配合を下表のとおり変えた以外同様にして、各試験トナー102〜109、c11、c12を調製した。
【0190】
(キャリアの調製)
シリコン樹脂(東レ・ダウコーニング社製SR2411)(300質量部)、トルエン(1200質量部)および平均粒径50μmのフェライト芯材(5kg)を回転円盤型流動層コーティング装置に入れ、フェライトの表面をシリコン樹脂で被覆した。次いで被覆物を取り出し、250℃で2時間加熱し、被覆膜を熟成してキャリアとした。
【0191】
(現像剤の調製)
トナー濃度が5質量%、全量が1kgとなるよう上記トナーとキャリアを混合して現像剤とした。
【0192】
(評価)
−分散性−
樹脂分散物の平均粒径(体積平均粒径、メジアン径)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−920)を用いて測定し、下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
A:平均粒径が90nm以上160nm未満であった
B:平均粒径が50nm以上90nm未満、または160nm以上300nm未満であった。
C:平均粒径が300nm以上800nm未満であった。
D:平均粒径が800nm以上、または測定不能であった。
【0193】
−相溶性−
樹脂A(比較例c12はcP−1)41質量部、樹脂B 41質量部及び結晶性樹脂の18質量部とを溶融混錬し、得られた混錬物の透明性を目視で確認し、下記の判定基準に基づき相溶性を評価した。
A:高温溶融時透明である。
B:高温溶融時にやや濁りが見られる。
C:高温溶融時に不透明である。
【0194】
−定着性(ホットオフセット発生温度)−
複写機「AR−505」(シャープ社製)を改造した装置(印字枚数:50枚/分)に、得られた現像剤を実装し、定着ローラーの温度を90℃から200℃へと順次上昇させながら、画像出しを行った。各温度で画像出しを行った後、続けて白紙の転写紙を同様の条件下で定着ローラーに送り、該白紙にトナー汚れが最初に生じる定着ローラーの温度をホットオフセット発生温度とした。
【0195】
−光沢度および光沢度ムラ−
上記の手法によりで得られた画像(定着ローラー温度:180℃)について、ソリッド部の光沢度を村上色材社製グロスメーターを用いて測定した。測定は、画像表面に対し45度の角度で入射した入射光濃度と、135度における反射光濃度とを各温度について測定し、前記反射光濃度の前記入射光濃度に対する割合を光沢度とした。光沢度としては50%以上がカラー高画質画像適性を有するため、好ましい。
また、定着画像の光沢度ムラについては、ソリッド画像部の光沢度ムラを、下記判定基準に基づき目視で評価した。
A:ムラが確認されない
B:明らかなムラが確認される
【0196】
−画像強度−
前記低温定着評価で行った180℃の定着温度の画像を用い、消しゴム(田口ゴム工業社製、精密製図用ST)にて画像表面を10往復こすったときの定着画像変化を以下の基準で評価した。
A:こすった跡が目視で光沢度の低下として確認できない。
B:こすった跡が目視で光沢度の低下として確認できるが、
用紙下地との濃度差は確認できない。
C:こすった跡とこすっていない部分の画像濃度差が目視でわかる。
【0197】
【表2】

【0198】
【表2A】

【0199】
上記の結果から分かるとおり、本発明の樹脂組成物(実施例)は均一性が高く、トナー材料として適していることが分かる。また、トナーとして使用した際には高品位で定着性にすぐれる画像を形成できることが分かる。しかも、本発明の樹脂は植物起源の化合物を利用するものであり、地球環境の保全に資するものである。なお、比較例(c11)については、樹脂Bを含まないために、結晶性樹脂との相溶性に乏しく、定着、画質、加増強度ともに不十分な結果となっている。樹脂Bの分子量については、高分子量体の樹脂(B−2)を使用することで画像強度が高まっていることが分かる。
【符号の説明】
【0200】
1 感光体(潜像保持体)
2 トナー供給室
3 ドラム
4 紙
5 トナー
51 転写画像
7 クリーナー
8 帯電手段
9 除電器
L 露光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位と、下記式(I)で表される構造単位とを主鎖に含む樹脂Aと、下記式(IIa)で表される構造単位を含む樹脂Bとを含有してなる樹脂組成物
【化1】

(Gは炭素数4以上のアルキレン基またはアルケニレン基を表し、X、Yはそれぞれ独立に二価の連結基を表す。)
【化2】

(R及びRはそれぞれ独立に置換基を表す。n1及びn2は0〜4の整数を表す。naは0〜3の整数を表す。Zは二価の連結基を表す。)
【請求項2】
前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記式(U)で表される構造を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【化3】

(R及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜3を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。)
【請求項3】
前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記式A1又はA2で表される繰り返し単位である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化4】

(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項4】
前記式(IIa)のZがアルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、アミノ基、またはスルホニル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂Bがロジン由来の構造単位を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(A2)中のL21、L22が、いずれも−(C=O)−*又は−(C=O)O−*である請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(*は上記式中の結合手の側を表す。)
【請求項7】
前記式(A1)中のL12が−(C=O)−*又は−(C=O)O−*であり、かつL11が−L13−(C=O)−*又は−(C=O)−L13−*で現される構造である請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(*は上記式中の結合手の側を表す。式中、L13は二価の連結基を表す。)
【請求項8】
前記樹脂の酸価が5mgKOH/g以上25mgKOH/g以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂Aの重量平均分子量が7,000以上25,000以下であり、前記樹脂Bの重量平均分子量が25,000超70,000以下であり、前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
さらに結晶性樹脂を含んでなる請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記結晶性樹脂が結晶性ポリエステルである請求項10記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるトナー。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物の樹脂成分を乳化分散させた状態で混合し、凝集させる樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−64067(P2013−64067A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203377(P2011−203377)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】