説明

樹脂組成物及びその製造方法、並びにそれを用いてなる成形体

【課題】 優れた透明性と高度の寸法安定性を兼備する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 樹脂、前記樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー、及び、前記樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラーを含有する分散相と、樹脂、前記樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー、及び、前記樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラーを含有し、該分散相よりもフィラー濃度の低い連続相とからなり、全光線透過率が光路長1mm当たり60%以上である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のフィラーを分散し、透明性と寸法安定性に優れる樹脂組成物及びその製造方法、並びにそれを用いてなる成形体に関する。本発明の樹脂組成物及びそれを用いてなる成形体は従来にない優れた透明性と寸法安定性のバランスを有するので、例えば各種プロジェクタやディスプレイ等の光学部材用途に利用される。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂、例えばポリカーボネート樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、あるいはアクリル樹脂(熱又は光による硬化性アクリル樹脂を含む)等は、透明性、成形性、軽量性などの特徴を生かして、例えば液晶ディスプレイの導光板や拡散板、タッチパネル、光ファイバー、レンズ、窓ガラスなどの用途に利用されてきた。しかし、有機材料であるため、高度の寸法精度(成型収縮や熱膨張収縮率が小さいこと)を達成することは困難であった。
【0003】
樹脂材料の寸法精度を向上させるために、無機フィラーを添加することは広く行われている。この場合、透明性を向上させるために、無機フィラーの屈折率を樹脂の屈折率にできるだけ近づけることが有効であることが、特許文献1に開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、フィラーの添加量が少ないために依然として高度な寸法安定性に乏しく、また寸法安定性を向上させるためにフィラー添加量を増やすと透明性が悪化するという問題点があった。更に高度の透明性を兼備させるためには、無機フィラーと樹脂の屈折率の差を極めて小さくすること、またフィラーの粒径を100nm以下程度にして光散乱が起きないようにすることが必要であり、かかる屈折率と粒径の制御は困難であった。
【0005】
また、原理的には、光散乱に寄与しない粒径100nm以下のフィラーを樹脂中に均一に分散させれば高い透明性が得られるはずであるが、実際は微粒子のフィラーを用いると表面活性が高いためにフィラーの部分的な凝集が起きてしまい、このような微粒子を使用しても分散不良のため透明性を維持することが困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−149782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記光学部材用途などでは高度の寸法安定性と透明性の兼備が望まれるが、上述の特許文献1に記載の技術を始めとして、未だ満足しうる技術がないのが現状である。
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた透明性と高度の寸法安定性を兼備する樹脂組成物と、それを簡便に製造する方法、並びに該樹脂組成物を用いてなる成形体を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、屈折率が異なる複数種のフィラーを併用することにより、総フィラーの平均屈折率を簡便に且つ正確に樹脂の屈折率に合わせることができること、また、樹脂組成物中で光拡散に影響する分散相と連続相との屈折率の差を、従来の樹脂組成物中のフィラーと樹脂との屈折率の差に比べて小さくすることができること、更には、樹脂に対して高濃度のフィラーを添加しても高度の透明性を達成可能であることを見出して、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の趣旨は、樹脂、前記樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー、及び、前記樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラーを含有する分散相と、樹脂、前記樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー、及び、前記樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラーを含有し、該分散相よりもフィラー濃度の低い連続相とからなり、全光線透過率が光路長1mm当たり60%以上であることを特徴とする樹脂組成物に存する(請求項1)。
また、本発明の別の趣旨は、樹脂と、屈折率の異なる複数種のフィラーとを含有し、前記樹脂の屈折率と総フィラーの平均屈折率との差が0.1以下であることを特徴とする樹脂組成物に存する(請求項2)。
また、本発明の別の趣旨は、上述の樹脂組成物を製造する方法であって、樹脂重合時にフィラーを共存させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法に存する(請求項8)。
また、本発明の別の趣旨は、上述の樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする成形体に存する(請求項9)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、透明性に優れるとともに、高度の寸法安定性を備えている。
また、本発明の樹脂組成物の製造方法によれば、上述の樹脂組成物を簡便に製造することが可能となる。
また、本発明の成形体は、上述の樹脂組成物を用いているので、透明性及び寸法精度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、樹脂と、屈折率の異なる複数種のフィラーとを含有する。以下の説明では、まず、本発明の樹脂組成物に用いられる樹脂及びフィラーについて個々に説明し、続いてそれらを用いた本発明の樹脂組成物について説明する。
【0014】
[樹脂]
本発明の樹脂組成物に用いられる樹脂(以下「マトリックス樹脂」と記載することがある。)は、高分子鎖が架橋した硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよいが、一般に成形サイクルが短く成形収縮率が小さいことから、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0015】
かかるマトリックス樹脂は、それを用いて得られる樹脂組成物が本発明で規定する物性を満足するものとなる限り、その種類は特に限定されないが、樹脂組成物の透明性の点からは、可視光波長領域(波長400〜650nm程度の範囲)における透明性や無色性に優れるものが好ましい。
【0016】
中でも、ASTM−D1003規格により測定される全光線透過率(光路厚さ3.2mm)が85%以上の樹脂(以下「透明樹脂」と記載することがある。)が好ましい。このような透明樹脂としては、ビスフェノールAに代表される多価フェノール類を単量体成分として用いる芳香族ポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂(全光線透過率90%(光路厚さ3.2mm))、ポリメチルメタクリレート(PMMA樹脂)やメチルメタクリレートとベンジルメタクリレートの共重合体(例えば日立化成工業社製オプトレッツの登録商標で知られる樹脂)やポリシクロヘキシルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類に代表されるアクリル樹脂(PMMA樹脂の全光線透過率93%(光路厚さ3.2mm))、ノルボルネン誘導体を単量体成分として用いるポリシクロオレフィン樹脂(例えば日本ゼオン社製ゼオネックスやゼオノア、JSR社製アートン等の各登録商標名で知られる樹脂)等のポリシクロオレフィン樹脂(全光線透過率92%(光路厚さ3.2mm))等の熱可塑性透明樹脂、ビス(メタ)アクリレート類をモノマーとする架橋アクリル樹脂(例えば三菱化学社製UV1000、UV2000及びUV3000の登録商標で知られる樹脂)が例示される。
【0017】
一方、フィルム状など厚さが小さい状態での使用(例えばPETフィルムやPETボトル等)を想定する樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)やポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)等の芳香族ポリエステル樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂(例えば三菱エンジニアリングプラスチックス社製のノバミッドX21の登録商標で知られる樹脂)など、結晶化条件によっては不透明になるような、前記透明樹脂の数値基準に該当しない樹脂も使用可能である。特にPET樹脂は好適に用いられる。
【0018】
前記例示の樹脂のうち、耐熱性の点で好ましいのは、ガラス転移点が通常120℃以上、中でも140℃以上のものであり、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂やポリシクロオレフィン樹脂が該当する。
【0019】
前記熱可塑性樹脂のうち、吸水による寸法変化が小さい点で好ましいのは、化学構造における酸素原子含有率の小さいもの、例えばポリシクロオレフィン樹脂や芳香族ポリカーボネート樹脂、PET樹脂やPEN樹脂等の芳香族ポリエステル樹脂である。
【0020】
中でも、延伸フィルムに好適なのは、PET樹脂やPEN樹脂等の芳香族ポリエステル樹脂である。
【0021】
なお、上記例示のマトリックス樹脂は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0022】
マトリックス樹脂の屈折率は特に制限されないが、通常1.4以上、1.8以下である。なお、マトリックス樹脂の屈折率は、外挿法、ベッケ線法、液浸法などによって測定できる。また、複数種のマトリックス樹脂を併用する場合には、個々のマトリックス樹脂の屈折率と体積分率とを掛け合わせた値の総和で算出される平均屈折率を求め、それをマトリックス樹脂全体の屈折率として用いる。
【0023】
[フィラー]
本発明の樹脂組成物に用いられるフィラーは、熱可塑性を有さないものであれば、その種類は特に制限されず、有機物(例えば架橋樹脂、結晶)でも無機物でも使用できる。中でも、屈折率の範囲を広く選べる点と化学的安定性が良い点から、無機物が好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物に用いられるフィラーは、併用するマトリックス樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー(以下「高屈折率フィラー」と記載することがある。)と、マトリックス樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラー(以下「低屈折率フィラー」と記載することがある。)とに大別される。
【0025】
高屈折率フィラーとしては、Al、Ti、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Y、Pb、Ba、及びMgのうち、少なくとも1種の元素を含有する酸化物が挙げられる。これら酸化物は、通常1.6を超える高い屈折率を有するので、高屈折率フィラーとして好ましい。中でも、少なくともTi、Zr、Nb及びSbの酸化物から構成されるフィラーが、汎用性の点から好ましく、マトリックス樹脂の着色を抑えるために、また、同種のフィラー同志の凝集を抑えてフィラーの分散性を向上させるためにも、上記酸化物が化学的に不活性なSiの酸化物などでコーティングされていることが好ましい。Si以外にもSiとZrなど二種以上の不活性な酸化物でコーティングされていても好ましい。2つ以上の元素の酸化物から構成される複合酸化物の場合、例えばコアシェル構造、海島構造、相互貫入構造などいずれの構造をとっていてもよい。
【0026】
フィラーが紫外線吸収性(波長400nm以下に吸収帯を有する性質)を備えていると、樹脂組成物に耐光性が付与されて好ましい場合がある。かかる紫外線吸収性のフィラーとしては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、及び酸化アンチモンなどの半導体フィラーが好ましく、中でも屈折率が大きい点で酸化チタンが更に好ましい。かかる半導体フィラーの光触媒性や熱触媒性の封鎖や耐酸性の改良などの目的で、シリカなど不活性で安定な無機物でフィラーを包含してもよい。また、Ce1-nTin27(但し、nは金属組成を表わす0以上1以下の任意の数を示す。)なる組成で表わされるピロリン酸塩のフィラーは、金属組成に応じてその屈折率が1.6〜2程度の範囲で可変であること、光触媒性や熱触媒性が極めて小さいことから、好ましく用いることができる。
【0027】
なお、上記例示の高屈折率フィラーは、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0028】
高屈折率フィラーの屈折率は、併用するマトリックス樹脂の屈折率よりも高ければ特に制限はないが、経済的理由等によりその使用量を減らす場合は、マトリックス樹脂の屈折率とできるだけ離れた値であることが好ましく、具体的には、マトリックス樹脂の屈折率を1とした場合に、通常1.1以上、好ましくは1.2以上の値であることが好ましい。
【0029】
一方、低屈折率フィラーとしては、Si,Ca,Mg,Alを含有する化合物が好ましく、中でも、Siを含有する酸化物が好適に用いられる。上記酸化物は化学的に安定で、その屈折率は通常1.5未満であり、多くのマトリックス樹脂の屈折率よりも小さいので、低屈折率フィラーとして好ましいためである。その具体例としては、シリカ(二酸化ケイ素:SiO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)等が挙げられる。中でもSiO2が好ましい。
【0030】
なお、上記例示の低屈折率フィラーは、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0031】
低屈折率フィラーの屈折率は、併用するマトリックス樹脂の屈折率よりも低ければ特に制限はないが、具体的には、マトリックス樹脂の屈折率を1とした場合に、通常0.75以上、好ましくは0.8以上の値であることが好ましい。
【0032】
なお、各フィラーの屈折率は、液浸法(室温)によって測定できる。測定対象となるフィラーを種々の屈折率を有する液体(化学便覧II−557表14・9参照)に浸漬し、撹拌、静置する。液中のフィラーによる散乱光が目視により見えなくなった時の屈折率をフィラーの屈折率とする。フィラーが後述の様にコロイド状又はスラリー状に分散し、分散液の状態となっている場合は、フィラー分散液を乾燥し、できた粉体を粉砕してから上記測定を行なう。なお、併用される複数種のフィラーについて、総フィラーの屈折率を実測により求める場合には、各フィラー分散液を混合してから乾燥し、粉砕して測定することができる。
【0033】
フィラーの1次粒径は、通常1nm以上、また、通常50nm以下、中でも40nm以下、更には30nm以下の範囲が好ましい。フィラーの1次粒径がこの範囲に満たないとフィラーの硬度が低くなり、寸法安定性が向上し難いため好ましくない。また、フィラーの1次粒径がこの範囲を超えると光散乱してしまい、透明性が損なわれるためやはり好ましくない。
【0034】
フィラーの形状としては、球状、破砕状、板状、針状など、いずれの形状を用いても良い。また、2種以上の形状のフィラーを混合して用いても良い。球状のフィラーを用いると、樹脂中のフィラー含有量を増やすことができ、また、破砕状などの異形フィラーを用いると、樹脂との界面での相互作用力を上げることができるため、両者ともに寸法安定性に効果がある。
【0035】
フィラーの粒度分布は、上記1〜50nmの範囲に入っていれば問題ないが、屈折率を精密に樹脂の屈折率に合わせるためには、粒度分布はできるだけシャープであることが好ましい。
【0036】
フィラーは粉体のまま単独で用いても、水又は有機溶媒に分散してコロイド状又はスラリー状にして用いても良い。中でもコロイド状にしたものが好適に用いられる。用いられる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、カルボン酸類及びN,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。フィラーをマトリックス樹脂の重合中に添加する場合は、有機溶媒が好ましく、中でも重合時の温度以下の沸点を持ち、重合初期に容易に除去できるものが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどである。
【0037】
フィラーはその一部が水和状態であってもよく、また、水酸基又はアルコキシ基を有する状態であってもよい。更に、フィラーの表面を有機ケイ素化合物及び/又はアミン系化合物で処理したものを使用することもできる。フィラーの表面を有機ケイ素化合物及び/又はアミン系化合物で処理して改質すると、マトリックス樹脂中にフィラーを分散する工程や、水及び有機溶媒に分散したコロイド状態で、フィラーの分散状態が安定化するようになる。また、有機ケイ素化合物及び/又はアミン系化合物で表面が改質されたフィラーはマトリックス樹脂との反応性や親和性などが向上し、樹脂組成物の透明性及び寸法安定性を向上させることができる。
【0038】
有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤として知られている公知の有機ケイ素化合物を用いることができ、その種類は、本発明で用いられるフィラー、マトリックス樹脂などに応じて適宜選択される。例としては、式:R3SiX、R2SiX2、RSiX3、SiX4などで表される有機ケイ素化合物が挙げられる(式中、Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、メタクリロキシ基、メルカプト基、アミノ基、エポキシ基を有する有機基、Xは、加水分解性基である。)。これらは一種を選択して用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。有機ケイ素化合物で処理を行なう際には、加水分解性基を未分解のまま処理を行なってもよく、あるいは加水分解した上で処理を行なってもよい。また、処理後は、加水分解した有機ケイ素化合物がフィラーの−OH基と反応した状態であることが好ましいが、一部が残存した状態でも何ら問題はない。
【0039】
また、アミン系化合物の種類にも特に制限はない。使用可能なアミン系化合物の例としては、アンモニウム又はエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンなどが挙げられる。これらは一種を選択して用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0040】
フィラーの表面を有機ケイ素化合物及び/又はアミン系化合物で改質するには、例えばこれらの化合物とフィラー原料とを混合し、所定量の水及び必要に応じて触媒を加えた後、所定時間常温で放置するか、あるいは加熱処理を行なうとよい。なお、フィラー原料としては、フィラーを単体のまま用いても良く、フィラーのスラリーやコロイド等の分散液を用いてもよい。フィラー原料がフィラーの分散液であれば、更に溶媒を加える必要はない。しかしこの場合も、溶媒量が少ない、反応に悪影響がある等の理由により、同種又は別種の溶媒を加えても良いし、別種の溶媒で置換しても良い。また、これら化合物の加水分解物とフィラー原料とを水とアルコールの混合液に加えて加熱処理することによっても、フィラーの表面をこれら化合物で改質することができる。この際に用いられる有機ケイ素化合物及び/又はアミン系化合物の量は、フィラーの表面に存在する水酸基の量などに応じて適宜選択される。
【0041】
フィラーが無機物の場合、与えられた樹脂組成物中でのフィラーの存在とその化学組成の同定は、空気中600℃で2時間灰化した場合の灰分の化学分析において、珪素、チタン、亜鉛、セリウム、及びアンチモンなどの金属元素を検出することにより行なうことができる。また、与えられた樹脂組成物の蛍光エックス線分析で、こうした特徴的な元素が検出又は定量されることも傍証となる。
【0042】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、上述のマトリックス樹脂と、複数種のフィラー(上述の高屈折率フィラー及び低屈折率フィラー)とを含有する。フィラーの総量は、樹脂組成物全体に対して通常1体積%以上、3体積%以上、更には5体積%以上、また、通常50体積%以下、中でも40体積%以下、更には30体積%以下の範囲とすることが好ましい。フィラーの総量がこの範囲よりも少ないと、十分な寸法安定性が得られないおそれがあり、逆に、フィラーの総量がこの範囲よりも多いと、相対的に樹脂の比率が少なくなり、樹脂組成物が十分な強度を保てなくなったり、透明性が低下したりするおそれがあるため、いずれも好ましくない。この体積%は、フィラーの仕込み重量と比重から計算される。また、3次元透過型電子顕微鏡(通称「3D−TEM」)を用いて得られる樹脂組成物のモルホロジー観察画像によって定量することもできる。
【0043】
本発明の樹脂組成物としては、次に挙げる二つの態様が挙げられる(以下のそれぞれ「第1の樹脂組成物」「第2の樹脂組成物」と記載する。また、これらを特に区別しない場合には「本発明の樹脂組成物」と記載する。)。
【0044】
まず、第1の樹脂組成物は、上述のマトリックス樹脂、高屈折率フィラー及び低屈折率フィラーを含有する分散相と、上述のマトリックス樹脂、高屈折率フィラー及び低屈折率フィラーを含有し、分散相よりもフィラー濃度の低い連続相とからなるものである。樹脂組成物中にこれらの分散相及び連続相が存在することは、透過型電子顕微鏡(TEM)での観察により確認することができる。具体的には、樹脂組成物をTEMで観察して、一定面積あたりのフィラー個数に局所的な差異があるか否かを判断し、局所的な差異があれば分散相及び連続相が存在するものと判定できる。この場合、フィラー個数が多い箇所が分散相に、フィラー個数が少ない箇所が連続相に、それぞれ該当することになる。
【0045】
更に、第1の樹脂組成物は、全光線透過率が光路長1mm当たり60%以上であることを特徴とする。この全光線透過率の値は、可及的に大きいことが透明性の点で好ましく、具体的には70%以上、更に好ましくは80%以上であることが好ましい。全光線透過率の値を大きくするためには、複数種のフィラーの配合比を調整し、総フィラーの平均屈折率をマトリックス樹脂の屈折率にできるだけ近付ければよい。なお、全光線透過率は、JIS−K7105規格によって測定する。
【0046】
第1の樹脂組成物における連続相のフィラー濃度は、通常1体積%以上、中でも3体積%以上、更には5体積%以上、また、通常50体積%以下、中でも40体積%以下、更には30体積%以下の範囲とすることが好ましい。連続相のフィラー濃度がこの範囲に満たないと、十分な寸法安定性が得られないおそれがあり、逆に、連続相のフィラー濃度がこの範囲を超えると、相対的に樹脂の比率が少なくなり、樹脂組成物が十分な強度を保てなくなったり、透明性が低下したりするおそれがあるため、いずれも好ましくない。
また、第1の樹脂組成物における分散相のフィラー濃度は、通常1体積%以上、中でも3体積%以上、更には5体積%以上、また、通常50体積%以下、中でも40体積%以下、更には30体積%以下の範囲とすることが好ましい。分散相のフィラー濃度がこの範囲に満たないと、十分な寸法安定性が得られないおそれがあり、逆に、分散相のフィラー濃度がこの範囲を超えると、相対的に樹脂の比率が少なくなり、樹脂組成物が十分な強度を保てなくなったり、透明性が低下したりするおそれがあるため、いずれも好ましくない。
なお、第1の樹脂組成物における連続相のフィラー濃度と分散相のフィラー濃度との差は、屈折率の僅かな差による光拡散を抑えるために、できるだけ小さい方が好ましい。
分散相及び連続相の各々のフィラー濃度は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、平面フィラー濃度(各相の単位面積あたりのフィラーの個数とフィラーの平面面積より求めた値)として求めることができる。
【0047】
また、第1の樹脂組成物における分散相と連続相との平均屈折率差は、透明性を向上させるために、できるだけ小さい方が好ましく、通常0.03以下、中でも0.02以下、更には0.01以下の範囲とするのが好ましい。屈折率の異なる複数種のフィラーは、金属種によってX線透過度が異なるため、また粒子の形状が異なるため、それぞれ区別することが出来る。分散相及び連続相の屈折率は、上記平面フィラー濃度と各フィラーの屈折率により計算で求められる。
【0048】
次に、第2の樹脂組成物は、マトリックス樹脂と、複数種のフィラー(通常は高屈折率フィラーと低屈折率フィラー)を含有するもので、総フィラーの平均屈折率とマトリックス樹脂の屈折率との差が、0.1以下であることを特徴とする。複数種のフィラーを併用することによって、このように総フィラーの平均屈折率とマトリックス樹脂の屈折率との差を小さく抑えることができ、その結果、樹脂組成物の透明性を向上させることができる。この屈折率の差の値は、中でも0.08以下、更には0.05以下の範囲であることが好ましい。なお、総フィラーの平均屈折率とは、屈折率の異なる複数種のフィラーにおいて、各フィラーの屈折率と体積分率を掛け合わせた値の総和で計算される。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、以下の第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物の規定のうち、少なくとも何れか一方に該当するものであればよいが、双方の規定に該当するものであることが好ましい。
【0050】
なお、本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を著しく阻害しない限りにおいて、上述のマトリックス樹脂及びフィラーの他に、公知の各種安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤など)、顔料、染料、蛍光増白剤、ブルーイング剤等の色調調整剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤等の添加剤を含有していてもよい。但し、本発明の樹脂組成物が上述のマトリックス樹脂及びフィラー以外の成分を含有する場合、それらの成分の総量は、樹脂組成物全体に対して通常10重量%以下、中でも5重量%以下、更には3重量%以下の範囲とすることが好ましい。他の成分の含有量が多過ぎると、相対的にマトリックス樹脂やフィラーの比率が少なくなり、樹脂組成物が十分な強度を保てなくなったり、透明性が低下したりするおそれがあるため、好ましくない。
【0051】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物の製造方法に特に制限はない。例としては、屈折率の異なる複数種のフィラーをマトリックス樹脂と混合する製造方法と、マトリックス樹脂の原料(例えば重合反応に使用する単量体)と混合する製造方法とが挙げられる。
【0052】
フィラーをマトリックス樹脂と混合する方法として、溶融混練法、溶液混合法などが挙げられる。
【0053】
溶融混練法の場合、混練装置としては、例えば2軸押出機、ブラベンダー、ラボプラストミルなどを使用する。混錬時の樹脂温度は、下限としては通常、熱可塑性樹脂の軟化温度以上、また、熱分解の抑制の点から、上限としては通常350℃以下、好ましくは320℃以下、更に好ましくは300℃以下の温度とする。混練装置中での滞留時間は、混練効果と熱分解抑制の点で、通常10秒以上、通常3時間以下、好ましくは30秒以上、好ましくは1時間以下、更に好ましくは40秒以上、更に好ましくは30分以下の範囲とする。溶融混練中に樹脂の重合反応やフィラー表面と樹脂との反応などの化学反応を進行させてもよい。こうしたマトリックス樹脂との混合において、複数種のマトリックス樹脂を併用してもよい。例えば芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、並びにPET樹脂やPEN樹脂などの芳香族ポリエステル樹脂は、互いに優れた相溶性を有するので(例えば溶融混練法におけるエステル交換反応による共重合体の生成による相溶化増進が可能)、透明性や耐熱変形性の改良にかかる併用が有用な場合がある。
【0054】
溶液混合法は、マトリックス樹脂を有機溶媒などで溶解させ、その中にフィラーを分散させ、溶媒を飛ばす工程を有する。更に、マトリックス樹脂が溶融する温度まで加熱して透明性を高める工程を加えても良い。溶液混合法は、樹脂組成物中にフィラーを高分散させられる点から好ましい。分散には、超音波装置、ホモジナイザーなど通常の微粒子の分散方法が好適に用いられる。
【0055】
一方、フィラーをマトリックス樹脂の原料と混合する方法として、具体的には、予め重合反応に使用する単量体(モノマー)や数量体(オリゴマー)にフィラーを分散させておき、次いで重合反応を行なうことにより樹脂組成物を得る方法が挙げられる。このような重合時にフィラーを分散させる方法は、樹脂組成物に対するフィラーの分散性を高めることができ、特に優れた透明性を得るのに有効であるため好ましい。
【0056】
かかる重合反応に制限はなく、例えばアクリル樹脂やスチレン樹脂を製造するラジカル重合反応、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、PET樹脂やPEN樹脂などの芳香族ポリエステル樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂などを得る重縮合反応、ポリシクロオレフィン樹脂を得る不均化反応、ポリオレフィンを得る金属触媒を用いる配位重合反応、アニオン重合やカチオン重合などのイオン重合反応などが例示される。かかる各種重合反応時に、フィラーの分散性向上などの目的で適当な溶媒を併用してもよい。重合反応は、ポリフェニレンエーテル類を得る酸素ガス吹き込みを伴う酸化カップリング反応などの例外を除き、通常は酸化劣化などの副反応を抑制するために、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性雰囲気下で行なう。
【0057】
樹脂組成物の製造段階で溶剤を用いた場合、樹脂組成物からの溶剤除去工程を追加してもよい。これは、蒸留、乾燥(熱風乾燥、真空乾燥など)、溶液を樹脂の貧溶媒に投入する再沈殿などの手段で通常行なわれる。
【0058】
なお、以上説明した製造方法は、何れか一種のみを実施してもよいが、二種以上の製造方法を任意に組み合わせて実施しても良い。
【0059】
前記溶液混合や前記重合反応時のフィラーの分散など、液体状態での混合を利用する場合、湿式の機械的粉砕(例えば、ボールミル、ビーズミル、ナノマイザーなどの装置の使用)を併用すると、フィラーの分散状態が改善される場合がある。
【0060】
また、複数種のフィラーは、予め混合してから使用してもよく、あるいは別々に前記マトリックス樹脂又はその原料に混合してもよい。
【0061】
[成形体]
本発明の樹脂組成物は、所望の形状に成形することにより、成形体として用いることができる。本発明の樹脂組成物を用いて形成した成形体(本発明の成形体)は、透明性及び寸法精度の双方に優れている。
【0062】
本発明の成形体の形状は特に制限されず、任意の形状とすることが可能であるが、中でも好ましい形状としてはシート状が挙げられる。本発明の成形体をシート状に成形することによって、本発明の特徴である優れた透明性及び高い寸法精度がより顕著に発揮されるので好ましい。シート状成形体とする場合、マトリックス樹脂としては、PET樹脂やPEN樹脂等の透明性に優れたポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが好適に用いられる。シート状成形体の厚さは通常0.001mm以上、中でも0.01mm以上、更には0.05mm以上、また、通常100mm以下、中でも70mm以下、更には50mm以下の範囲である。厚さがこの範囲よりも薄いと機械的強度が不十分となるおそれがあり、また、厚さがこの範囲よりも厚いと軽量性が損なわれるため、何れも好ましくない。
【0063】
本発明の成形体は、上述の樹脂組成物を公知の各種の成形法で成形することにより、製造することが可能である。使用可能な成形法の例としては、熱可塑化成形法、例えば射出成形、押し出し成形、プレス成形、射出プレス成形などが挙げられる。
【0064】
例えば、本発明の成形体を熱可塑化成形法により製造する場合、その成形温度は特に制限されないが、通常150℃以上、好ましくは170℃以上、更に好ましくは200℃以上、また、通常370℃以下、好ましくは340℃以下、更に好ましくは320℃以下の範囲である。成形温度がこの範囲よりも低いと、成形流動性が十分でないおそれがあり、また、成形温度がこの範囲よりも高いと、過度の高温により熱劣化が生じるおそれがあるため、何れも好ましくない。
【0065】
また、シート状成形体とする場合には、公知の溶液成形法も使用可能である。この場合、上述の本発明の樹脂組成物を適切な溶剤に溶解又は分散させ、得られた溶液又は分散液を用いて、ディップコーティング、ダイコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティングなどの各種成膜法を用いて成膜することにより、シート状成形体とすることができる。溶剤としては、本発明の樹脂組成物を溶解又は分散させることができ、且つ、これと反応したり好ましからぬ影響を及ぼしたりしないものであれば、その種類は特に制限されず、各種の溶剤を使用することが可能である。
【0066】
なお、本発明の成形体を、特に厚さ1mm以下の薄物のシート状に仕上げる場合には、機械的強度や耐熱変形性を向上させるために延伸(一軸又は二軸延伸)を施してもよい。
【0067】
本発明の成形体の用途は特に制限されず、任意の用途に用いることが可能である。中でも、本発明の成形体の特徴を生かした好ましい用途として、光学部材が例示される。
【0068】
光学部材とは、光拡散性及び/又は光透過性及び/又は光反射性を有する部材である。その例としては、光拡散シート、反射板(反射シート)、導光板(導光シート)、プリズムシート、レンズ等が挙げられる。更に、液晶テレビ等に用いられるバックライトユニットや、リアプロジェクションテレビ、マイクロフィルムリーダー、看板等に用いられるスクリーンの部材としても好適に用いられる。
【0069】
光学部材のうち、レンズを例にして説明すると、レンズの最も厚い部分の厚みは、通常0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1mm以上、また、通常100mm以下、好ましくは50mm以下、更に好ましくは30mm以下の範囲である。この厚みが大きすぎると、成形収縮や成形後の温度・湿度変化による寸法変化が極端に大きくなったり、成形残留歪みが極端に大きくなる場合があり、一方、この厚みが小さすぎると、レンズの焦点距離を十分に取れなかったり、機械的強度が不足する場合がある。レンズの直径は、通常0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1mm以上、また、通常1000mm以下、好ましくは500mm以下、更に好ましくは200mm以下の範囲である。この直径が大きすぎると、成形収縮や成形後の温度・湿度変化による寸法変化が極端に大きくなったり、成形残留歪みが極端に大きくなる場合があり、一方、この直径が小さすぎると、レンズの焦点距離を十分に取れなったり、機械的強度が不足する場合がある。かかるレンズは、マルチレンズやフライアイレンズのようにひとつの部品に複数個のレンズ構造を有するものであってもよい。
【0070】
その他、寸法精度を要する光学部材として、光ファイバー部材(光コネクタなど)等の用途に本発明を適用するのも好ましい。
【0071】
なお、本発明の成形体を光学用途や窓ガラス用途に用いる場合には、反射防止、光取り出し効率向上、表面硬度向上(ハードコート)、導電性、帯電防止等の目的で、その表面に無機コート層を形成するのが好ましい場合がある。かかる無機コート層の材質としては、シリカが最も汎用的であり、高屈折率材質として酸化チタン、チタンとランタンの複合酸化物、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等が挙げられ、低屈折率材質としてはフッ化マグネシウムやメソポーラスシリカが挙げられる。かかる無機コート層は、成形体表面の全面に付設されていることが通常好ましい。シート状の成形体の場合には、その片面に敷設されていれば良いが、必要に応じて成形体の両面に付設してもよい。また、複数の機能の無機コート層を積層してもよい。
【0072】
本発明の成形体を光学部材用途に用いる場合には、その表面に通常、反射防止コート(以下「ARコート」と略することがある。)を施すことが好ましい。かかるARコートとしては、従来知られたものが使用可能であるが、例えばシリカ層とチタニア層を交互に積層したもの、シリカ層とチタニア/ランタン複合酸化物層を交互に積層したもの、シリカにチタニア層やチタニア/ランタン複合酸化物などの高屈折率層を積層した2層構造、低屈折率層としてフッ化マグネシウムを使用したものなどが例示される。特に好ましい反射防止コートは、シリカ層とチタニア層を交互に積層したものである。
【0073】
前記無機コート層は、通常、蒸着法やスパッタ法など公知の真空プロセスで製造される。液体原料からの塗布プロセスでも製造可能であるが、硬度、緻密性、導電性、均質性などの性能が真空プロセスに劣る場合が多い。
【0074】
無機コート層の厚みは、通常0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、更に好ましくは10μm以下の範囲である。無機コート層の厚みがこの範囲に満たないと、無機コート層としての強度が十分でなく好ましくない。一方、この範囲を超えると、成形体上での耐クラック性、透明性、コストの点から好ましくない。
【0075】
なお、本発明の成形体に無機コート層を施す場合、成形体表面と無機コート層との間に公知の手法によりアンダーコート層(下引き層)等を形成してもよい。
【実施例】
【0076】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、本明細書において「wt%」は重量%を表わす。
【0077】
[実施例1]
(混合フィラー溶液の作製)
高屈折率フィラーとして、オプトレイク1120Z(TiZrSiOx(チタニア粒子の外表面にジルコニアとシリカの複合物がコーティングされたフィラー)、粒子径5〜10nm、固形分20%、触媒化成工業(株)社製)を使用し、低屈折率フィラーとして、アエロジル300CF(SiO2、粒子径7nm、日本アエロジル(株)社製)を使用した。まず、アエロジル24gとメタノール276gとを混合し、これを超音波分散して、固形分8%のアエロジル分散ゾルを作製した。アエロジル分散ゾル282gにオプトレイク67gを混合し、30分間攪拌して混合フィラー溶液とした後、一週間程度静置した。
【0078】
(樹脂組成物の作製)
重合用ガラス管に、マトリックス樹脂の原料としてビスフェノールA72.8g(0.32mol)及びジフェニルカーボネート73.8g(0.34mol)、触媒として炭酸セシウム51mg(0.156mmol,金属換算500ppm vs.OH基)と、上記混合フィラー溶液88.3g(固形分10.3wt%)を仕込んだ。反応系内を不活性雰囲気下(窒素)に置換し、攪拌翼・スリーワンモーター(HEIDON社製BL300R)を用いて攪拌(初期回転数:200rpm)しながら、シリコンオイルバスでガラス管内を160℃に昇温させ、大気下で上記の各成分を溶融させ、溶媒を留去した。溶融留去後、更に230℃まで昇温させ、大気下で60分間攪拌し、その後30分間かけて大気圧(100kPa)から26kPaまでロータリーポンプを用いて徐々に減圧し、230℃、26kPaの状態を保ったまま60分間攪拌し、続いて30分間で26kPaから3kPaまで減圧し、230℃から250℃まで昇温し、250℃、3kPaに保持して30分間攪拌した。更に、30分間で3kPaから0.7kPa程度まで減圧するとともに、250℃から270℃まで昇温し、その後0.01kPa、270℃で任意の粘度が得られるまで攪拌する。反応中の留出物(フェノール)は冷却トラップ管に溜まるようにした。また、反応系内の粘度はスリーワンモーターの攪拌トルクから判断し、200rpm、100rpm、50rpmと徐々に回転数を落としていき、最終的に25rpm、0.025N・mとなったところで系内に窒素を導入して大気圧にし、重合を終了とした。ヒーターでガラス管を温めながら窒素で腹圧し、透明な樹脂組成物を得た。
【0079】
[比較例1]
フィラーとしてアエロジル300CF(SiO2、日本アエロジル(株)製)を単独で使用した。重合用ガラス管に、ビスフェノールA100g(0.44mol)、ジフェニルカーボネート101g(0.47mol)、触媒として0.1wt%炭酸セシウム水溶液0.072ml(0.022mmol,金属換算0.5ppm vs.OH基)と、フィラーにアエロジル300CF11.6gを仕込んだ。実施例1と同様の手順で重合を行なった結果、ストランド状の白濁色の樹脂組成物を得た。
【0080】
[樹脂組成物の評価]
得られた実施例1及び比較例1の樹脂組成物について、TEMによる観察を行なったところ、実施例1、比較例1ともに樹脂組成物中に分散相及び連続相の存在が確認された。
また、実施例1及び比較例1の樹脂組成物について、全光線透過率の測定を行なった。全光線透過率(%)は、JIS−K7105規格に基づいて測定した。実施例1及び比較例1の樹脂組成物の組成及び物性、並びに全光線透過率の測定結果を下記表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に明らかなように、実施例1の樹脂組成物は、比較例1の樹脂組成物と比較して、総フィラーの平均屈折率と樹脂の屈折率との差が小さい。その結果、総フィラーの体積%が多いにもかかわらず、比較例1よりも全光線透過率が高く、透明性に優れた樹脂組成物が得られたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上述したように、本発明の樹脂組成物及びそれを用いてなる成形体は、従来にない優れた透明性と寸法安定性とのバランスを有するので、例えば各種プロジェクタやディスプレイ等に代表される各種の光学部材用途に特に好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、前記樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー、及び、前記樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラーを含有する分散相と、樹脂、前記樹脂の屈折率よりも高い屈折率を有するフィラー、及び、前記樹脂の屈折率よりも低い屈折率を有するフィラーを含有し、該分散相よりもフィラー濃度の低い連続相とからなり、全光線透過率が光路長1mm当たり60%以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂と、屈折率の異なる複数種のフィラーとを含有し、前記樹脂の屈折率と総フィラーの平均屈折率との差が0.1以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
フィラーの1次粒径が1nm以上、50nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
該樹脂組成物に対するフィラーの総量が1体積%以上、50体積%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも一つのフィラーがSiを含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂としてポリカーボネート樹脂及び/又はポリエステル樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の樹脂組成物を製造する方法であって、樹脂重合時にフィラーを共存させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする成形体。
【請求項10】
シート状に成形されたことを特徴とする請求項9記載の成形体。
【請求項11】
光学部材として用いられることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
無機コート層を有することを特徴とする請求項9〜11の何れか一項に記載の成形体。

【公開番号】特開2006−52334(P2006−52334A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235325(P2004−235325)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】