説明

樹脂組成物及びバイオチップの製造方法

【課題】露光により発生された酸の拡散制御性に優れた樹脂組成物層を形成できるバイオチップ製造用樹脂組成物及びこれを用いたバイオチップの製造方法を提供する。
【解決手段】露光により発生した酸の拡散を抑制すべく種々検討したところ、感放射線性酸発生剤と含窒素基を有する重合体とを配合し、溶剤として含窒素有機溶媒を用いれば、全く意外にも、露光により発生した酸が樹脂層には拡散せず、目的とする第1分子に選択的に作用させることができることを見出し、(A)含窒素基を有する重合体と、(B)酸増殖剤と、(C)感放射線性酸発生剤と、(D)溶剤とを含有するバイオチップ製造用樹脂組成物を完成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップ製造用樹脂組成物及びこれを用いたバイオチップの製造方法に関する。更に詳しくは、基板上でDNA、RNA、PNA及びLANなどの各種高分子を合成するために用いるバイオチップ製造用樹脂組成物及びこれを用いたバイオチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板上で生体高分子などの高分子を合成する方法が注目され、特にヌクレオチド等をモノマーとして用いて異なる配列及び長さを有するプローブを1つの基板上にアレイ化して配列したチップ及びこれを製造する方法が広く検討されている。
基板上で高分子を合成する方法として、光に対して不安定な保護基を有するヌクレオチドモノマー等を配列し、マスクを介した露光により特定部分からこの保護基を解離させた後に、他のヌクレオチドモノマーを結合させる操作を繰り返す方法が特許文献1〜2に開示されている。
一方、半導体製造分野において、フォトリソグラフ法を用いた微細パターン形成に際して利用される光酸発生剤やこれが含まれたレジストを高分子の合成に利用しようとする技術が特許文献3〜5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5445934号明細書
【特許文献2】米国特許第5744305号明細書
【特許文献3】米国特許第5658734号明細書
【特許文献4】特開2005−099005号公報
【特許文献5】特表2003−501640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜5の方法によれば、基板上で高分子を種々合成することができるものの、バイオチップを用いた遺伝子やタンパク質の検出は、より多量の検体をより高速度でより正確に行うことが求められており、従ってバイオチップにもより多くの種類の高分子をより高密度且つ正確に基板上に形成できる技術が求められている。
従って、本発明の課題は、露光により発生した酸の拡散制御性に優れた樹脂組成物層を形成でき、基板上に多種類の高分子を高密度かつ正確に形成できるバイオチップ製造用樹脂組成物及びこれを用いたバイオチップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、露光により発生した酸の拡散を抑制すべく種々検討したところ、感放射線性酸発生剤に加えて、含窒素基を有する重合体と、酸増殖剤とを併用することにより、露光により発生した酸が樹脂層には拡散せず、目的とする第1分子に選択的に作用させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)含窒素基を有する重合体と、
(B)酸増殖剤と、
(C)感放射線性酸発生剤と、
(D)溶剤とを含有するバイオチップ製造用樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、(a)酸に不安定な保護基を有する第1分子の層を固体基板上に結合させる段階、
(b)前記第1分子の層上に上記の樹脂組成物の層をコーティングする段階、
(c)前記樹脂組成物の層を露光させ、熱処理して、露光された部分に対応する前記第1分子から酸に不安定な保護基を除去する段階、
(d)前記露光部分及び未露光部分から樹脂組成物層を洗浄、除去する段階、及び
(f)露出された前記第1分子に第2分子を結合させる段階
を含む、バイオチップの製造方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、上記の製造方法により形成されるバイオチップを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバイオチップ製造用樹脂組成物によれば、露光により発生された酸の不必要な拡散を抑えて優れた制御性と選択性を発揮できる樹脂組成物層を形成できる。このため、この樹脂組成物を用いることで、従来に比べて、プローブをより正確且つ精密に形成することができると共にプローブの集積率を向上させたバイオチップを得ることができる。
本発明のバイオチップの製造方法によれば、露光により発生した酸の不必要な拡散を抑えて優れた制御性を発揮できる前記樹脂組成物を用いるために、プローブをより正確且つ精密に形成したバイオチップを得ることができる。加えて、プローブの集積率を従来に比べてより向上させたバイオチップを得ることができる。
基板の少なくとも表面がシリコン、二酸化ケイ素、ガラス、ポリプロピレン又はアクリルアミドからなる場合は、プローブをより正確且つ精密に形成したバイオチップを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のバイオチップの製造方法を模式的に説明する説明図である。
【図2】本発明のバイオチップの製造方法を模式的に説明する説明図である。
【図3】本発明のバイオチップの製造方法を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
【0012】
[1]バイオチップ製造用樹脂組成物
本発明のバイオチップ製造用樹脂組成物は、前記(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分とを含有する。
【0013】
(1)(A)含窒素基を有する重合体(以下、単に重合体(A)ともいう)
前記「重合体(A)」は、含窒素基を有する。後述する感放射線性酸発生剤(C)を含むと共に、重合体(A)が含窒素基を有することで、酸転写樹脂組成物から得られる層(以下、「酸転写樹脂層」ともいう、尚、この層は酸発生剤含有層ともいえる)内で発生された酸の不要な拡散を防止することができる。このため、酸転写樹脂層内及び層下への意図しない酸拡散及び酸転写を防止して、得られるパターンの解像度を向上させることができる。このパターンとは、例えば、バイオチップにおける各プローブの形成領域のパターンである。従って、これらの解像度が向上されることで、プローブを正確且つ精密に形成でき、更には、基板上に形成するプローブの集積率を向上させることができるために、バイオチップの更なる小型化及び限られた面積での更なる高機能化を行うことができる。
【0014】
上記のように重合体(A)は、酸拡散防止作用、酸転写防止作用を有することが望ましい点から、実質的に酸解離性基を有さない重合体であるのが好ましい。また重合体(A)は、実質的に酸の作用によって架橋する架橋基を有さない重合体であるのが好ましい。
【0015】
重合体(A)は、含窒素基を有し且つ発生した酸の拡散を抑制できる重合体であれば特に限定されないが、アジド基、イミド基、ウレア基、ウレタン基、ピリジン基等を有している重合体が挙げられる。これらの含窒素基は主鎖及び側鎖のいずれに有していてもよいが、側鎖に含窒素基を有する重合体が好ましい。
【0016】
側鎖に含窒素基を有する重合体としては、下記一般式(2)で表される構造単位を有する重合体が好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Aは炭素−炭素不飽和結合に由来する基を示し;Bは単結合又は2価の有機基を示し;R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基又はtert−ブトキシカルボニル基を示すか、あるいはR2及びR3は互いに結合して、隣接する窒素原子以外に、更に窒素原子、硫黄原子又はセレン原子を有していてもよい3〜10員環の単環式ヘテロ環を形成してもよい。
【0019】
式(2)中のAで示される炭素−炭素不飽和結合に由来する基としては、ビニル基、(メタ)アクリル基等に由来する基が挙げられる。
【0020】
式(2)中のBで示される2価の有機基としては、2価の炭化水素基が挙げられ、特に炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖アルキレン基が好ましい。またBとしては単結合が好ましい。
【0021】
2及びR3で示される置換基を有していてもよいアルキル基としては、シアノ基、ハロゲン原子等から選ばれる1〜3個が置換していてもよい炭素数1〜12の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。当該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
置換基を有していてもよいアリール基としては、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチル基等が挙げられる。これらのアリール基にはハロゲン原子、シアノ基等が1〜3個置換していてもよい。
【0023】
置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜12の単環状又は架橋脂環式炭化水素基、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基等が挙げられる。これらの脂環式基には、炭素数1〜4のアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子等が1〜3個置換していてもよい。
【0024】
2及びR3が結合して形成する単環式ヘテロ環としては、ピロリジン、ヒペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等が挙げられる。
【0025】
重合体(A)の主鎖としては、炭素−炭素不飽和結合に基づく繰り返し単位であればよく、例えば(メタ)アクリル基、ビニル基に由来する基が挙げられ、このうち(メタ)アクリル基に由来する基が特に好ましい。
【0026】
重合体(A)の好ましい例としては、側鎖に一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基又は第4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド又は(メタ)アクリレートを有する重合体が挙げられる。
【0027】
重合体(A)のより好ましい例としては、下記式(3)で示される構造単位を有する重合体が挙げられる。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、R4は水素原子又はメチル基を示す。R5及びR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状の炭化水素基、炭素数3〜10の環状の炭化水素基を示すか、あるいはR5及びR6は互いに結合して、隣接する窒素原子以外に更に窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を有していてもよい3〜10員環の単環式ヘテロ環を形成してもよい。)
この構造単位(3)は、下記式(4)で示される単量体(Am1)由来の構造単位である。
【0030】
【化3】

【0031】
[式(4)中、R4、R5及びR6は前記と同じ。]
【0032】
前記式(3)及び(4)におけるR5及びR6で示される炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基などのアルキル基が挙げられる。
すなわち、前記式(4)においてR5及びR6が炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状の炭化水素基となる単量体(Am1)としては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0033】
また、前記式(3)及び(4)におけるR5及びR6で示される炭素数3〜10の環状の炭化水素基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、4−t−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、ベンジル基などの芳香族基が挙げられる。
【0034】
更に、前記式(3)及び(4)におけるR5及びR6が結合して形成されるヘテロ環としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等が挙げられる。
【0035】
単量体(Am1)としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルモルホリンが好ましい。これらの好ましい単量体を用いて得られた重合体(A)を配合した本発明樹脂組成物は特に優れた酸拡散制御性を奏する。なかでも、特にN,N−ジメチルアクリルアミド及び/又はアクリロイルモルホリンが好ましい。すなわち、重合体(A)に含まれる式(3)で示される構造単位が、N,N−ジアルキルアクリルアミド由来の構造単位、又はアクリロイルモルホリン由来の構造単位である場合には、発生された酸の拡散をより良くコントロールでき、特に優れた酸の拡散制御性を発揮する。
【0036】
また、この重合体(A)は、前記含窒素基を有する構造単位に加えて、下記式(5)で示される構造単位を有することが好ましい。
【0037】
【化4】

【0038】
〔式(5)中、R7は水素原子又はメチル基を示す。R8は酸解離性基以外の1価の有機基を示す。〕
【0039】
この式(5)に示す構造単位は、どのように重合体(A)内に含まれたものであってもよいが、例えば、下記式(6)で表される単量体(Am2)を用いることにより、前記式(5)に示す構造単位を含む重合体(A)を得ることができる。
【0040】
【化5】

【0041】
〔式(6)中、R7及びR8は前記と同じ。〕
【0042】
前記式(5)及び(6)における前記R8の酸解離性基を有さない1価の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基等の炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基;
【0043】
フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,4−キシリル基、2,6−キシリル基、3,5−キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の芳香族炭化水素基(特に炭素数6〜20の芳香族炭化水素基);
【0044】
ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシシクロペンチル基、4−ヒドロキシシクロヘキシル基等のヒドロキシアルキル基(特に炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基);
【0045】
シアノ基;シアノメチル基、1−シアノエチル基、2−シアノエチル基、1−シアノプロピル基、2−シアノプロピル基、3−シアノプロピル基、1−シアノブチル基、2−シアノブチル基、3−シアノブチル基、4−シアノブチル基、3−シアノシクロペンチル基、4−シアノシクロヘキシル基等のシアノアルキル基;などの窒素原子含有有機基(特に炭素数2〜9の窒素原子含有有機基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状炭化水素基;ボルニル基、イソボルニル基などの橋かけ環式炭化水素基;などの脂環式炭化水素基が挙げられる。
【0046】
単量体(Am2)としては、(メタ)アクリレート化合物が好ましく、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート化合物は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの(メタ)アクリレート化合物のなかでは、メチルメタクリレートが特に好ましい。
【0047】
重合体(A)中に占める前記含窒素基含有構造単位の割合、及び、重合体(A)中に占める前記式(5)で表される構造単位の割合は、各々特に限定されないが、重合体(A)の全構造単位を100モル%とした場合に、前記含窒素基含有構造単位は、1〜50モル%であることが好ましく、3〜40モル%であることがより好ましく、5〜30モル%であることが特に好ましい。また、前記式(5)で表される構造単位を含む場合、この構造単位は、5〜99モル%であることが好ましく、10〜97モル%であることがより好ましく、15〜95モル%であることが特に好ましい。重合体(A)に占める前記含窒素基含有構造単位及び前記式(5)で表される構造単位の割合が各々前記範囲内では、不必要な酸の拡散を抑制する効果が特に優れている。
【0048】
前記重合体(A)は、前記含窒素基含有構造単位及び前記式(5)で表される構造単位以外に、更に他の構造単位を含むことができる。他の構造単位としては、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ基含有ビニル化合物;1,3−ブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有ビニル化合物等の等の単量体に由来する構造単位が挙げられる。これらの構造単位は1種のみでもよく2種以上が併用されてもよい。
【0049】
前記他の構造単位が含まれる場合、その割合は特に限定されないが、重合体(A)の全構造単位を100モル%とした場合に、前記含窒素基含有構造単位の割合は1〜50モル%が好ましく、3〜40モル%がより好ましく、5〜30モル%が特に好ましく、前記式(5)で表される構造単位の割合は5〜98モル%が好ましく、10〜96モル%がより好ましく、15〜94モル%が特に好ましく、他の構造単位の割合は、1〜50モル%が好ましく、1〜30モル%がより好ましく、1〜20モル%が特に好ましい。
【0050】
この重合体(A)の分子量については特に限定はなく、適宜選定することができるが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量分子量(以下、「Mw」という)は、通常、1,000〜500,000、好ましくは2,000〜400,000、更に好ましくは3,000〜300,000である。
また、重合体(A)のMwとGPCで測定したポリスチレン換算数分子量(以下、「Mn」という。)との比(Mw/Mn)についても特に限定はなく、適宜選定することができるが、通常、1〜10、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜5である。
【0051】
(2)(B)成分
本発明のバイオチップ用樹脂組成物は(B)酸増殖剤を含有する。当該酸増殖剤は、少量の酸の存在により分解し、連鎖的に酸を発生させるものである。従って、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の併用により、露光された部位選択的に効率良く酸を発生、増殖させ、未露光部位への酸の拡散が抑制される。
【0052】
(B)成分としては、酸増殖能及び熱安定性の点から、架橋炭素環骨格を有し、該架橋炭素環上に水酸基と、その水酸基が結合している炭素原子の隣接位の炭素原子に下記一般式(1)で示される基を有する化合物が好ましい。
【0053】
【化6】

【0054】
(式中、R1は置換基を有していてもよい脂肪族基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基示し、*は結合手を示す。)
【0055】
上記(B)成分の架橋炭素環骨格としては、複数の炭素環、例えば2〜6、好ましくは2〜3の炭素環を有する架橋炭素環が挙げられ、このうちビシクロ炭素環がより好ましい。架橋炭素環の環を構成する炭素数は6〜17が好ましく、特に6〜10が好ましい。より具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[3.1.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、アダマンタンが挙げられる。
この架橋炭素環には、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基等の置換基を1〜4個有していてもよい。ここでアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基等が挙げられる。
【0056】
架橋炭素環には、互いに隣接する炭素原子に水酸基と前記式(1)の基(スルホナート基)とを有する。式(1)中のR1で示される脂肪族基としては、炭素数1〜12の鎖状又は環状のアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。当該脂肪族基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、C6−C8ビシクロ炭化水素基、C10−C18トリシクロ炭化水素基、ビニル基、プロピレン基、アリル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。複素環基としては、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、チオナフテン、インドール、カルバゾール等の1つのヘテロ原子を含む5員環化合物とその縮合環化合物、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール等の2つのヘテロ原子を含む5員環化合物とその縮合環化合物、ピラン、ピロン、クマリン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン等の1つのヘテロ原子を含む6員環化合物とその縮合環化合物、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フタルジン等の2つのヘテロ原子を含む6員環化合物とその縮合環化合物等から誘導される基が挙げられる。
これらの脂肪族基、アリール基又は複素環基に置換し得る基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基等が挙げられる。
【0057】
1の具体例としては、メチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、カンファー基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、フェニル基、p−トリル基、p−ブロモフェニル基、p−ニトロフェニル基、2−チエニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
より好ましい(B)成分の例としては、下記(B−1)、(B−2)及び(B−3)の化合物が挙げられる。
【0058】
【化7】

【0059】
(式中、R9は水素原子、脂肪族基又はアリール基を示し、R1は前記と同じ)
ここで、R9で示される脂肪族基、アリール基は、前記R1と同じものが例示できる。R9としては、水素原子又はメチル基が特に好ましい。
【0060】
更に好ましい(B)成分としては、式(B−1)、(B−2)又は(B−3)において、R9が水素原子又はメチル基であり、R1が、メチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、カンファー基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、フェニル基、p−トリル基、p−ブロモフェニル基、p−ニトロフェニル基、2−チエニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アダマンチル基等である化合物である。
【0061】
(B)成分の含有量は、特に限定されないが、露光により発生された酸の拡散制御性の点から、(C)成分100重量部に対して、0.01〜50重量部、更に1〜20重量部、特に1〜10重量部が好ましい。
【0062】
(3)(C)感放射性酸発生剤
前記「感放射性酸発生剤」(以下、単に「酸発生剤(C)」ともいう)は、露光により酸を発生する成分である。この酸発生剤(C)から酸を発生させる際に用いる放射線の種類は特に限定されず、紫外線、遠紫外線(KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、F2エキシマレーザー等を含む)、X線、電子線、γ線、分子線、イオンビーム等から適切に選択される。
【0063】
酸発生剤(C)としては、露光により酸を発生する作用を有するものであれば特に限定されないが、オニウム塩化合物(チオフェニウム塩化合物を含む)、ハロゲン含有化合物、ジアゾケトン化合物、スルホン化合物、スルホン酸化合物、ジアゾメタン化合物、スルホンイミド化合物等を用いることができる。この酸発生剤(C)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記オニウム塩化合物としては、4,7−ジ−n−ブトキシナフチルテトラヒドロチオフェニウム塩化合物、1−(4−n−ブトキシナフタレン−1−イル)テトラヒドロチオフェニウム塩化合物、1−(6−n−ブトキシナフタレン−2−イル)テトラヒドロチオフェニウム塩化合物、1−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)テトラヒドロチオフェニウム塩化合物などのチオフェニウム塩化合物;ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム塩化合物、ジフェニルヨードニウム塩化合物などのヨードニウム塩化合物;トリフェニルスルホニウム塩化合物、4−t−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム塩化合物、4−シクロヘキシルフェニルジフェニルスルホニウム塩化合物、4−メタンスルホニルフェニルジフェニルスルホニウム塩化合物などのスルホニウム塩化合物;ホスホニウム塩化合物;ジアゾニウム塩化合物;ピリジニウム塩化合物などが挙げられる。
【0065】
前記ハロゲン含有化合物としては、ハロアルキル基含有炭化水素化合物、ハロアルキル基含有複素環式化合物等が挙げられる。具体的には(トリクロロメチル)−s−トリアジン誘導体などが挙げられる。
前記ジアゾケトン化合物としては、1,3−ジケト−2−ジアゾ化合物、ジアゾベンゾキノン化合物、ジアゾナフトキノン化合物などが挙げられる。
前記スルホン化物としては、β−ケトスルホン、β−スルホニルスルホンや、これらの化合物のα−ジアゾ化合物などが挙げられる。
前記スルホン酸化合物としては、アルキルスルホン酸エステル、ハロアルキルスルホン酸エステル、アリールスルホン酸エステル、イミノスルホネートなどが挙げられる。
前記ジアゾメタン化合物としては、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン、メチルスルホニル−p−トルエンスルホニルジアゾメタン、シクロヘキシルスルホニル−1,1−ジメチルエチルスルホニルジアゾメタン、ビス(1,1−ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン等が挙げられる。
【0066】
前記スルホンイミド化合物としては、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)フタルイミド、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)−5,6−オキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ナフチルイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)−5,6−オキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(4−メチルフェニルスルホニルオキシ)ナフチルイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)−5,6−オキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(2−トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ナフチルイミド、N−(4−フルオロフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(4−フルオロフェニルスルホニルオキシ)−7−オキサビシクロ[2.1.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(4−フルオロフェニルスルホニルオキシ)−5,6−オキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(4−フルオロフェニルスルホニルオキシ)ナフタレン−1,8−ジカルボキシイミド、N−(10−カンファ−スルホニルオキシ)ナフタレン−1,8−ジカルボキシイミド等が挙げられる。
【0067】
酸発生剤(C)の含有量は特に限定されないが、酸転写樹脂膜としての酸転写性を十分に確保する観点から、通常、前記重合体(A)100質量部に対して、20〜100質量部が含有される。更に、重合体(A)と酸増殖剤(B)と酸発生剤(C)との組合せによる優れた酸転写の制御性(特に、第1分子層内での横方向への酸拡散の抑制)を得る点から、この含有量は20〜80質量部であることが好ましく、25〜50質量部であることがより好ましい。
【0068】
(4)(D)溶媒
また、本発明の樹脂組成物には、成分(A)、成分(B)及び成分(C)以外に溶剤(D)を含有させることで樹脂組成物全体の状態を自在に制御することができ、特に任意の粘度を有する液状の樹脂組成物とすることができる。
【0069】
前記溶剤(D)の種類は特に限定されないが、例えば、水及び/又は有機溶剤等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、ブチルプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、tert−ブチル−メチルエーテル、tert−ブチルエチルエーテル、tert−ブチルプロピルエーテル、ジ−tert−ブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソアミルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、シクロヘキシルエチルエーテル、シクロペンチルプロピルエーテル、シクロペンチル−2−プロピルエーテル、シクロヘキシルプロピルエーテル、シクロヘキシル−2−プロピルエーテル、シクロペンチルブチルエーテル、シクロペンチル−tert−ブチルエーテル、シクロヘキシルブチルエーテル、シクロヘキシル−tert−ブチルエーテル等のエーテル類;
【0070】
1−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−プロパノール、ネオペンチルアルコール、tert−アミルアルコール、イソアミルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール等のアルコール類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルi−ブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、3−メチルシクロペンタノン、2,6−ジメチルヘキサノン等のケトン系有機溶媒;
酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、ガンマブチロラクトン等のエステル系溶媒;
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールモノエーテルモノエステル類;
デカン、ドデカン、ウンデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類等が挙げられる。
これらの中でも、基板上で合成するDNA、RNA、PNA及びLANなどへのダメージや酸拡散抑制効果の点から、グリコールモノエーテルモノエステル類、ケトン系溶媒が好ましい。
【0071】
この溶剤(D)は、本発明の樹脂組成物において、前記重合体(A)を100質量部とした場合に、通常、10〜10000質量部含有され、20〜8000質量部が好ましく、30〜6000質量部がより好ましく、40〜4000質量部が更に好ましい。
更に、溶剤(D)を含む場合の本樹脂組成物全体の粘度は特に限定されず、酸転写樹脂層を形成する各種方法に適宜の粘度とすればよいが、例えば、温度25℃おける粘度を1〜100mPa・sとすることができる。この粘度は2〜80mPa・sが好ましく、3〜50mPa・sがより好ましい。
【0072】
また、本発明の樹脂組成物には、上記溶剤(D)以外にも他の成分を含有できる。他の成分としては、界面活性剤(E)が挙げられる。界面活性剤(E)としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、含フッ素界面活性剤等が挙げられる。
【0073】
具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンn−オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンn−ノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート等の他、NBX−7、NBX−8、NBX−15(商品名、ネオス社製)、SH8400 FLUID(商品名、Toray Dow Corning Silicone Co.製)、KP341(商品名、信越化学工業株式会社製)、ポリフローNo.75,同No.95(商品名、共栄社化学株式会社製)、エフトップEF301、同EF303、同EF352(商品名、トーケムプロダクツ株式会社製)、メガファックスF171、F172、F173、F471、R−07、R−08(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、フロラードFC430、FC431(商品名、住友スリーエム株式会社製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、SC−101、SC−102、SC−103、SC−104、SC−105、SC−106(商品名、旭硝子株式会社製)等を挙げることができる。尚、これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
界面活性剤(E)を用いる場合、その量は特に限定されないが、通常、前記重合体(A)100質量部に対して0.01〜0.5質量部であり、好ましくは0.02〜0.1質量部である。
更に、その他、本発明の樹脂組成物には、増感剤、架橋剤、ハレーション防止剤、保存安定化剤、着色剤、可塑剤、消泡剤等を適宜配合することができる。
【0074】
[2]バイオチップの製造方法
本発明のバイオチップの製造方法は、
(a)酸に不安定な保護基を有する第1分子からなる第1分子層を基板上に直接的又は間接的に結合させる第1分子層形成工程、
(b)前記第1分子層上に本発明の樹脂組成物をコーティングして樹脂組成物層を形成する樹脂組成物層形成工程、
(c)前記樹脂組成物層を露光及び熱処理して、露光された部分に対応する前記第1分子層を構成する前記第1分子から前記保護基を除去する保護基除去工程、
(d)前記樹脂組成物層を除去する樹脂組成物層除去工程、及び、
(f)前記保護基が除去された第1分子に第2分子を結合させる第2分子結合工程、を含む。
【0075】
前記「(a)第1分子層形成工程」は、図1に例示されるように、酸に不安定な保護基Pを有する第1分子からなる第1分子層20を基板10上に直接的又は間接的に結合させる工程PR1である。
【0076】
前記「第1分子」は、酸に不安定な保護基を有する分子である。この第1分子は前記保護基を有する分子であればよく、その種類及び大きさなどは特に限定されない。
この第1分子としては、例えば、(1)基板表面と第2分子とを直接結合させるためのカップリング分子(保護基とシリル基とを有する化合物など)、(2)カップリング剤の末端に保護基を導入するための保護基導入分子{シリル基とアミノ基とを有するカップリング剤によって表面処理された基板表面のアミノ基と第2分子とを結合させるための分子(アミノ基にペプチド結合できる基と保護基とを有する化合物)など}、(3)基板と第2分子との間を離間させるためのスペーサ分子{シリル基とアミノ基とを有するカップリング剤によって表面処理された基板表面のアミノ基と第2分子とを離間させて結合させるための分子(アミノ基にペプチド結合できる基とアルキル鎖と保護基とを有する化合物)など}等が挙げられる。
【0077】
これらのうち、前記(1)のカップリング分子を第1分子として用いる場合には、第1分子は基板表面に対して直接結合させることができる。また、前記(2)の保護基導入分子や前記(3)のスペーサ分子を第1分子として用いる場合には、第1分子は基板表面に対して間接的に結合させることとなり、通常、この第1分子と基板との間に他のカップリング剤を要する。
前記のうち(2)の保護基導入分子としては、保護基として有するオメガ−アミノカプロン酸系化合物のようなアミノアルキルカルボン酸等が挙げられる。このような化合物としては、6−N−t−ブトキシカルボニルアミノカプロン酸、4−N−t−ブトキシカルボニルアミノブタン酸、5−N−t−ブトキシカルボニルアミノペンタン酸、7−N−t−ブトキシカルボニルアミノヘプタン酸等のt−ブトキシカルボニル基を保護基として有するカルボン酸誘導体類等が挙げられる。
また、前記(2)の保護基導入分子を用いる際に基板と第1分子(保護基導入分子)とを接続するカップンリグ剤としては、アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基及びケイ素含有基を有するカップリング剤や、ヒドロキシル基とケイ素含有基とを有するカップリング剤が挙げられる。
【0078】
その他、第1分子としては、後述する第2分子として挙げた各種化合物のうちの保護基を有する化合物や、後述する第2分子として挙げた各種化合物に保護基が導入された誘導体などを用いることもできる。
【0079】
前記「酸に不安定な保護基」は、酸の作用により解離する基である。この保護基としては、t−ブトキシカルボニル基、ジメトキシトリチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、(チオテトラヒドロピラニルスルファニル)メチル基、(チオテトラヒドロフラニルスルファニル)メチル基、アルコキシ置換メチル基、アルキルスルファニル置換メチル基、アセタール基、ヘミアセタール基、下記式(10)で表される基等を挙げることができる。
【0080】
【化8】

【0081】
〔式(10)中、R11、R12及びR13は相互に独立に炭素数1〜14の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数3〜20の非有橋式若しくは有橋式の1価の脂環式炭化水素基を示すか、あるいはR11〜R13のうちの2つが相互に結合して、それぞれが結合している炭素原子と共に、炭素数3〜20の非有橋式若しくは有橋式の2価の脂環式炭化水素基を形成し、残りが炭素数1〜14の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数3〜20の非有橋式若しくは有橋式の1価の脂環式炭化水素基を示し、これらの各基は置換されていてもよい。〕
【0082】
前記アルコキシ置換メチル基としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、n−プロポキシメチル基、n−ブトキシメチル基、n−ペンチルオキシメチル基、n−ヘキシルオキシメチル基、ベンジルオキシメチル基等を挙げることができる。
【0083】
また、前記アルキルスルファニル置換メチル基としては、例えば、メチルスルファニルメチル基、エチルスルファニルメチル基、メトキシエチルスルファニルメチル基、n−プロピルスルファニルメチル基、n−ブチルスルファニルメチル基、n−ペンチルスルファニルメチル基、n−ヘキシルスルファニルメチル基、ベンジルスルファニルメチル基等を挙げることができる。
【0084】
式(10)において、R11〜R13の炭素数1〜14の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、I−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基等を挙げることができる。
【0085】
前記アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、オキソ基(=O)、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子等)、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、2−メチルプロポキシ基、1−メチルプロポキシ基、t−ブトキシ基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルコキシル基(例えば、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、t−ブトキシメトキシ基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルキルカルボニルオキシ基(例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等)等の1個以上或いは1種以上を挙げることができる。
【0086】
また、式(10)のR11〜R13の炭素数3〜20の非有橋式若しくは有橋式の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、テトラシクロ[4.2.0.12,5.17,10]ドデシル基、アダマンチル基等を挙げることができる。
【0087】
式(10)のR11〜R13の前記1価の脂環式炭化水素基及びこれらのうちの2つが相互に結合して形成した前記2価の脂環式炭化水素基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、オキソ基(=O)、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子等)、炭素数1〜14の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基等)、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、2−メチルプロポキシ基、1−メチルプロポキシ基、t−ブトキシ基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルキル基(例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、t−ブトキシメチル基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルコキシル基(例えば、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、t−ブトキシメトキシ基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルキルカルボニルオキシ基(例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基等)、炭素数2〜8の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等)、炭素数2〜14の直鎖状若しくは分岐状のシアノアルキル基(例えば、シアノメチル基、2−シアノエチル基、3−シアノプロピル基、4−シアノブチル基等)、炭素数1〜14の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等)等の1個以上或いは1種以上を挙げることができる。
【0088】
前記「基板」の種類は特に限定されず、無機材料からなってもよく、有機材料からなってもよく、これらの複合材料からなってもよい。また、基板は、その表面側と他面側とが異なる材料からなってもよい。この基板材料としては、例えば、少なくとも表面は、シリコン、二酸化ケイ素及びガラス(ホウケイ酸ガラス、表面改質ガラス、石英ガラス等を含む)等のケイ素を主成分とする無機材料が挙げられる。また、ポリプロピレン及びアクリルアミド(活性化されたアクリルアミドを含む)等の有機材料が挙げられる。この他、不安定な保護基を有する分子の層を固定化するのに適した反応性部位を有する表面を有する当該分野において既知の他の基板を適宜用いることができる。
【0089】
前記第1分子層は、どのようにして基板上に結合させてもよいが、通常、第1分子を含む液体を基板(表面処理されていない基板及び表面処理された基板を含む)表面に塗布して、第1分子と基板表面とを反応させて結合させる。この際の塗布方法等は特に限定されず、従来公知の回転塗布、流延塗布、ロール塗布及び印刷等の種々の方法を用いることができる。
【0090】
前記「(b)樹脂組成物層形成工程」は、図1に例示されるように、第1分子層20上に前記本発明の樹脂組成物(即ち、酸転写樹脂組成物)をコーティングして樹脂組成物層(即ち、酸転写樹脂層)30を形成する工程PR2である。
【0091】
この酸転写樹脂組成物のコーティング手段は、特に限定されないが、例えば、回転塗布、流延塗布、ロール塗布及び印刷等の適宜の塗布手段が挙げられる。
更に、この酸転写樹脂組成物を塗布した後、必要に応じて、プレベーク(PB)することによって塗膜中の溶剤を揮発させることで酸転写樹脂層を形成してもよい。このプレベークの加熱条件は、酸転写樹脂組成物の配合組成によって適宜選択されるが、加熱温度は、通常、30〜150℃程度、好ましくは50〜130℃である。更に、加熱時間は、通常、30〜300秒間、好ましくは60〜180秒間である。
また、酸転写樹脂層の厚みは特に限定されないが、通常、1〜10000nmとすることが好ましく、5〜800nmとすることがより好ましく、10〜500nmとすることが更に好ましい。
【0092】
前記「(c)保護基除去工程」は、図1及び図2に例示されるように、酸転写樹脂層30を露光及び熱処理して、露光された部分に対応する第1分子層30を構成する第1分子から保護基Pを除去する工程PR3及びPR4である。この保護基除去工程には、通常、酸転写樹脂層30に対して放射線を露光する露光工程PR3と、露光により酸転写樹脂層30内に生じた酸を第1分子層20へと転写(拡散)する転写工程PR4とを備える。
【0093】
このうち露光工程PR3は、マスク50を介して酸転写樹脂層30に露光し、酸転写樹脂層30内で酸を発生させる工程である。これにより図1に例示するように、酸転写樹脂層30の露光された部位が酸発生部位31となる。
露光に使用される放射線の種類は特に限定されず、酸転写樹脂層30に含まれる酸発生剤(B)の種類に応じて、紫外線、遠紫外線(KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、F2エキシマレーザー等を含む)、X線、電子線、γ線、分子線、イオンビーム等から適切に選択される。更に、露光量等も酸転写樹脂層30に含まれる酸発生剤(B)の種類に応じて適宜選択される。
【0094】
また、酸転写工程PR4は、酸転写樹脂層30に発生した酸を第1分子層20へ転写する工程である。これにより図2に例示するように、酸発生部位31に対応した第1分子層20の一部が酸転写部位21(保護基が解離された第1分子の残基からなる部位)となる。
この酸を転写する方法は特に限定されないが、具体的には、(1)加熱により転写する方法、(2)常温において放置することによって転写する方法、(3)浸透圧を利用して転写する方法などが挙げられる。これらの方法は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよいが、これらの中でも(1)加熱により転写する方法が転写効率に優れるため好ましい。
加熱により転写を行う場合の加熱条件は、特に限定されないが、加熱温度は、50〜200℃が好ましく、70〜150℃が更に好ましい。更に、加熱時間は、30〜300秒間が好ましく、60〜180秒間が更に好ましい。
また、加熱により転写を行う場合は、上記加熱条件により1回の加熱で完了してもよいが、結果的に上記加熱条件と同様の結果となるように、2回以上の加熱を行うこともできる。
【0095】
尚、前記(2)常温において放置することによって転写する方法とは、加熱を行わず、通常、温度20〜30℃の常温の環境に放置することで、酸転写樹脂層30内に発生された酸を自然に第1分子層20へと拡散させて転写する方法である。
更に、前記(3)浸透圧を利用して転写する方法とは、酸の濃度差を利用することによって、酸転写樹脂層30と第1分子層20との間に酸成分の浸透圧差を生じさせることで、自然拡散よりも高い拡散速度で酸転写樹脂層30内の酸を第1分子層20へと拡散させる転写する方法である。
【0096】
前記「(d)樹脂組成物層除去工程」は、図2に例示されるように樹脂組成物層30を除去する工程PR5である。即ち、酸転写樹脂層30を除去すると共に、その層下に酸が転写された第1分子層20を露出させる工程である。
酸転写樹脂層30の除去はどのような方法で行ってもよいが、通常、酸転写樹脂層30を有機溶剤により溶解させて行う。この有機溶剤は、酸転写樹脂層30を溶解させるものの、酸が転写された第1分子層20を溶解させないものである。
【0097】
このような有機溶剤は、酸転写樹脂層30及び第1分子層20の各樹脂組成によって適宜選択することが好ましく、第1分子層20が溶解されず且つ酸転写樹脂層30が溶解される有機溶剤であれば限定されないが、具体的には、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン及びピリジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0098】
前記「(f)第2分子結合工程」は、図2に例示されるように、保護基Pが除去された第1分子(基板10に結合されており且つ保護基Pが除去された第1分子の残基)に第2分子を結合させる工程PR6である。すなわち、第1分子層20のうち酸転写されて第1分子の保護基Pが解離された部位21上に、第2分子からなる部位41を積層する工程である。
【0099】
前記「第2分子」の種類は特に限定されず種々の分子を用いることができる。この第2分子としては、例えば、(1)ヌクレオチド{ヌクレオチド、デオキシヌクレオチド及びこれらを除く類似体(合成ヌクレオチド類似体、合成デオキシヌクレオチド類似体など)を含む}、(2)アミノ酸、(3)単糖類、又は(4)これらヌクレオチド、アミノ酸及び単糖類から選択される2以上の分子が結合された結合体、(5)ペプチド核酸(PNA)を合成するためのペプチド核酸形成用分子(ペプチド核酸モノマー)、(6)各種の端部形成用分子等が挙げられる。これらの第2分子は保護基及び活性基を有していてもよい。また、これらの第2分子は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0100】
前記(1)ヌクレオチドとしては、ヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、合成ヌクレオチド類似体が挙げられる。
このうちヌクレオチドとしては、アデノシンホスフェート、グアノシンホスフェート、シチジンホスフェート、ウリジンホスフェート等が挙げられる。
また、デオキシヌクレオチドとしては、デオキシアデノシンホスフェート、デオキシグアノシンホスフェート、デオキシチジンホスフェート及びデオキシチミジンホスフェート等が挙げられる。
更に、合成ヌクレオチド類似体としては、2’−4’架橋ヌクレオチド類似体、3’−4’架橋ヌクレオチド類似体、5’−アミノ−3’,5’架橋ヌクレオチド類似体等の架橋型ヌクレオチド類似体等が挙げられる。
【0101】
前記(2)アミノ酸(L体及びD体を含む)としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリンフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン等が挙げられる。
前記(3)単糖類としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン等が挙げられる。
前記(4)の結合体としては、ヌクレオチド同士の結合体であるオリゴヌクレオチド、アミノ酸同士の結合体であるペプチド及び蛋白質等が挙げられる。
【0102】
前記ペプチド核酸形成用分子としては、N−(2−t−ブチルオキシカルボニル−アミノエチル)−N−チミン−1−イルアセチル)グリシン、N−(N−4−(ベンジルオキシカルボニル)シトシン−1−イル)アセチル−N−(2−t−ブチルオキシカルボニル−アミノエチル)グリシン、N−(N−6−(ベンジルオキシカルボニル)アデニン−9−イル)アセチル−N−(2−t−ブチルオキシカルボニル−アミノエチル)グリシン及びN−(N−4−(ベンジルオキシカルボニル)グアニン−1−イル)アセチル−N−(2−t−ブチルオキシカルボニル−アミノエチル)グリシン等が挙げられる。
【0103】
前記(5)端部形成用分子としては、分子鎖末端を形成する分子であり、各種保護基を有する保護基形成用分子、各種キャッピング用分子及び標識用分子等が含まれる。このうち標識用分子としては、各種蛍光標識用化合物(フロレシンイソチオシアネート等のフルオレセイン誘導体など)及び放射性同位体標識用化合物が含まれる。
【0104】
更に、前記第2分子が有することができる保護基としては、前記第1分子における酸に不安定な保護基がそのまま適用できる他、光に不安定な保護基を用いることもできる。
【0105】
また、前記第2分子が有することができる活性基としては、ホスホルアミダイト基、H−ホスホネート、ホスホジエステル、ホスホトリエステル及びリン酸トリエステル等の遊離の水酸基と反応し得るリン含有基が挙げられる。即ち、例えば、活性化されたヌクレオチドとしては、ホスホルアミダイトヌクレオチド分子が挙げられる。その他、光化学的活性基及び熱化学的活性基としては、アミノ基、チオール基、マレイミド基、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル基、ホルミル基、カルボキシル基、アクリルアミド基、エポキシ基等が挙げられる。
【0106】
そして、図3に例示されるように、前述の第1分子から保護基を解離させる操作と同様の操作(樹脂組成物層形成工程PR7、露光工程PR8、酸転写工程PR9、樹脂組成物層除去工程PR10)を施すことにより、残存された(第2分子が結合されていない)第1分子から保護基を解離させ、その後、第3分子結合工程PR11を施すことによって、第1分子の残基に対して第3分子を結合させて、第3分子の残基からなる部位42を形成することができる。
【0107】
更に、図2の最下図に例示するように、前記第2分子が酸に不安定な保護基Pを有する場合には、前記と同様の操作を施すことで、第2分子の残基からなる部位41上に他の分子(第4分子、第5分子など)を結合させることができる。このように同様の操作を繰り返すことによって、基板上で高い自由度をもって高分子を合成できる。
尚、第2分子に関する説明は、前記第3分子、前記第4分子及び前記第5分子にそのまま適用できる。また、第1分子、第2分子、第3分子、第4分子及び第5分子等は各々同じであってもよく異なっていてもよい。
【0108】
本発明の製造方法によれば、バイオチップ基板上で高い自由度で高分子を設計することができる。この方法により合成される高分子は特に限定されないが、生体高分子及び擬似生体高分子の合成に特に好適である。このような高分子としては、核酸及び蛋白質が挙げられる。核酸としては、DNA、RNA及びPNA(Peptide Nucleic Acid)の他、架橋型ヌクレオチド類似体を一部又は全部に用いて合成された人工核酸〔LNA{Locked Nucleic Acid(Proligo LLC社商標)}及びBNAなど〕が挙げられる。このうちPNAは、DNA及びRNAがリン酸結合骨格を有するのに対して、ペプチド結合骨格を有する擬似生体高分子である。このPNAは、通常、アミノエチルグリシン誘導体を単量体とする高分子である。
【実施例】
【0109】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら制約されるものではない。尚、実施例の記載における「部」及び「%」は、特記しない限り質量基準である。
【0110】
[1]樹脂組成物の調製(A1及びA2)
(1)重合体(A)の合成
〔合成例1〕<重合体A1の合成>
本合成例1は、前記式(3)で表される構造単位を導入するための単量体(Am1)として下記式(11)で表されるN,N−ジメチルアクリルアミドを用い、前記式(5)で表される構造単位を導入するための単量体(Am2)としてメチルメタクリレートを用いた例である。
【0111】
【化9】

【0112】
500mLビーカー中にN,N−ジメチルアクリルアミド(単量体Am1、株式会社興人製)5g(Am1とAm2との合計を100モル%とした場合に5モル%)、メチルメタクリレート(単量体Am2、三菱マテリアル株式会社製)95g(Am1とAm2との合計を100モル%とした場合に95モル%)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)3.0gを仕込み、重合開始剤が溶解するまで攪拌し均一な溶液を得た。別途、窒素置換したドライアイス/メタノール還流器の付いたフラスコ中に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶媒)150gを仕込み、ゆるやかに攪拌を開始し80℃まで昇温した。その後、80℃にて、上記溶液を2時間かけて少量ずつ連続滴下した。滴下後、更に80℃にて3時間重合を行い、その後、100℃に昇温して1時間攪拌を行って重合を終了した。その後、得られた反応溶液を多量のシクロヘキサン中に滴下して生成物を凝固させた。次いで、得られた凝固物を水洗後、凝固物と同質量のテトラヒドロフランに再溶解し、多量のシクロヘキサンに滴下して再度凝固させた。この再溶解及び凝固を行うサイクルを計3回行った後、得られた凝固物を40℃で48時間真空乾燥して重合体A1を得た。
得られた重合体A1の収率は90%であり、Mwは11,000であり、Mw/Mnは2.3であった。重合体A1は前記式(3)に示す構造単位及び前記式(5)に示す構造単位の両方を有する重合体である。
【0113】
〔合成例2〕<重合体A2の合成>
本合成例2は、前記合成例1におけるN,N−ジメチルアクリルアミド(単量体Am1、株式会社興人製)を10g(Am1とAm2との合計を100モル%とした場合に10モル%)、メチルメタクリレート(単量体Am2、三菱マテリアル株式会社製)90g(Am1とAm2との合計を100モル%とした場合に90モル%)、として前記合成例1と同様にして重合体A2を得た。
得られた重合体A2のMwは10,000であった。重合体A2は前記式(3)に示す構造単位及び前記式(5)に示す構造単位の両方を有する重合体である。
重合体A1及び重合体A2における各単量体の配合
【0114】
【表1】

【0115】
(2)各成分の混合
前記重合体A(A1及びA2)と下記4成分(化合物(B)、酸発生剤、溶剤及び界面活性剤)を下記表2に示す配合となるように、重合体A(100質量部)、化合物B(1.5質量部)、酸発生剤C(30質量部)、溶媒D(98.94〜98.95質量部)、界面活性剤E(0.05質量部)を混合し、攪拌して均一な溶液(表2に示す各固形分濃度)とした。この溶液を孔径0.5μmのカプセルフィルターでろ過して10種類の各樹脂組成物(実施例1〜8及び比較例1〜2)を得た。
【0116】
化合物(B)として、シス−3−オクタンスルホニルオキシ−2−ピナノール(B1)又はシス−3−((+)−10−カンファースルホニルオキシ)−2−ピナノール(B2)を用いた。
【0117】
酸発生剤(C)として、N−(メタンスルホニルオキシ)ナフタレン−1,8−ジカルボキシイミド(C1)(みどり化学株式会社製品名「NAI−100」)、又はN−(10−カンファースルホニルオキシ)ナフタレン−1,8−ジカルボキシイミド(C−2)(みどり化学株式会社製品名「NAI−106」)を用いた。
【0118】
溶剤(D)として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いた。
界面活性剤(E)として、JSR株式会社製の商品名「ダイナフロー」を用いた。
【0119】
【表2】

【0120】
[2]樹脂組成物の評価
前記[1]で得られた各樹脂組成物の特性を評価するために各々の樹脂組成物を用いて第1分子層が有する保護基を選択的に除去した後、蛍光標識を行い、各スポットの形状評価を行った。
【0121】
(1)第1分子層形成工程
ガラス基板を洗浄溶液(95%のエタノール水溶液1L、水12mL、水酸化ナトリウム120g)に12時間浸漬した後、数回水洗して空気中で乾燥させた。次いで、このガラス基板にアミノ基を固定するための表面処理を施した。即ち、ガラス基板を0.1体積%のアミノプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液に浸漬し、常温で5分間撹拌した。その後、エタノールで3回洗浄し、真空オーブンを用いて120℃で20分間乾燥し、更に、アルゴンガス雰囲気中で12時間放置した後、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、単に「DMF」という)に浸漬し、更に、ジクロロメタンで洗浄して前記表面処理を行った。
【0122】
その後、表面処理されたガラス基板を、30mMの6−N−t−ブトキシカルボニルアミノカプロン酸(本実施例における第1分子)、及び、3gのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を、含むDMF溶液0.5mLに浸漬し、80℃で1時間撹拌しながら反応させた。その後、未反応のアミノ基をアセチル基により保護するために、無水酢酸とピリジンとの混合溶液(無水酢酸1体積部+ピリジン3体積部)内で1時間撹拌しながら反応させた。その結果、アミノ基が酸に不安定な保護基(アセチル基)で保護された第1分子からなる第1分子層(リンカー層)が、ガラス基板上に形成された。
【0123】
(2)樹脂組成物層形成工程
前記[1]で得られた各樹脂組成物(実施例1〜8及び比較例1〜2)を、前記[2](1)で得られた第1分子層が形成されたガラス基板上にスピンコーターを用いてコーティングした後、ホットプレート上にて110℃で1分間加熱して、厚さ150nmの各樹脂組成物層を形成した。
【0124】
(3)保護基除去工程
パターンマスク(50μm×50μmのスクエアーパターン)を介して、前記(2)までに得られたガラス基板の樹脂組成物層の表面に、超高圧水銀灯(OSRAM社製、形式「HBO」、出力1,000W)を用いて100〜1000mJ/cm2の紫外光を照射し、樹脂組成物層内で酸を発生させた。尚、露光量は、照度計〔株式会社オーク製作所製、形式「UV−M10」(照度計)に、形式「プローブUV−35」(受光器)をつないだ装置〕により確認した。
次いで、前記露光後のガラス基板を、再度、ホットプレート上にて110℃で1分間加熱して、樹脂組成物層内に発生された酸を第1分子層へ転写した。
【0125】
(4)樹脂組成物層除去工程
前記(3)までに得られたガラス基板をアセトニトリルに30秒間浸漬して、前記樹脂組成物層を除去した。
【0126】
(5)第2分子結合工程
前記(3)の工程で第1分子から保護基が解離されて形成されると共に、前記(4)の工程でガラス基板表面に露出されアミノ基(遊離アミノ基)に、1mMのフロレシンイソチオシアネート(Aldrich社製、本実施例における第2分子)を含むDMF溶液中において、常温で1時間反応させて蛍光標識を形成した。その後、エタノール、水及びエタノールの順に洗浄した後、乾燥させて暗室に保管した。
【0127】
(6)スポット形状の評価
前記(5)までに得られたガラス基板を、顕微レーザーラマン分光装置(Renishaw社製)を用いて観察すると共に、各スポットの形状を下記基準に基づいて評価し、下記表3に示した。
「○」;イソチオシアネート基の吸収が50μm×50μmのスクエア内全面に均一に観察され、スクエア外にはイソチオシアネート基の吸収は観察された場合。
「△」;イソチオシアネート基の吸収が50μm×50μmのスクエア内の一部に観察され、スクエア外にはイソチオシアネート基の吸収は観察された場合。
「×」;イソチオシアネート基の吸収が50μm×50μmのスクエア内にも、スクエア外にも観察された場合。
【0128】
【表3】

【0129】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【符号の説明】
【0130】
10;基板、
20;第1分子層、21;保護基が解離された部位、P;保護基、
30;樹脂組成物層(酸転写樹脂層)、31;酸発生部位、
41;第2分子の残基からなる部位、42;第3分子(他の第2分子)の残基からなる部位、
50;マスク、
PR1;第1分子層形成工程、PR2;樹脂組成物層(酸転写樹脂層)形成工程、PR3;露光工程(保護基除去工程の一部)、PR4;酸転写工程(保護基除去工程の一部)、PR5;樹脂組成物層(酸転写樹脂層)除去工程、PR6;第2分子結合工程、
PR7;樹脂組成物層(酸転写樹脂層)形成工程、PR8;露光工程、PR9;酸転写工程、PR10;樹脂組成物層(酸転写樹脂層)除去工程、PR11;第3分子結合工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)含窒素基を有する重合体と、
(B)酸増殖剤と、
(C)感放射線性酸発生剤と、
(D)溶剤とを含有するバイオチップ製造用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が、側鎖に含窒素基を有する重合体である請求項1記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分が、架橋炭素環骨格を有し、該架橋炭素環上に水酸基と、その水酸基が結合している炭素原子の隣接位の炭素原子に下記一般式(1)で示される基を有する化合物である請求項1又は2記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基示し、*は結合手を示す。)
【請求項4】
(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して20〜100質量部である請求項1〜3のいずれか1項記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分の含有量が、(C)成分100質量部に対して0.01〜50質量部である請求項1〜4のいずれか1項記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【請求項6】
(B)成分における架橋炭素環骨格が、ビシクロ炭素環である請求項3記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【請求項7】
前記ビシクロ炭素環が、ビシクロ[3.1.1]ヘプタン又はビシクロ[2.2.1]ヘプタンである請求項6記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【請求項8】
(A)成分が、一般式(2)で示される構造単位を有する重合体である請求項1〜7のいずれか1項記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【化2】

(式中、Aは炭素−炭素不飽和結合に由来する基を示し;Bは単結合又は2価の有機基を示し;R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素基、又はtert−ブトキシカルボニル基を示すか、あるいはR2及びR3は互いに結合して、隣接する窒素原子以外に、更に窒素原子、硫黄原子又はセレン原子を有していてもよい3〜10員環の単環式ヘテロ環を形成してもよい。)
【請求項9】
(A)成分が、下記式(3)で示される構造単位を有する重合体である請求項1〜8のいずれか1項記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【化3】

(式中、R4は水素原子又はメチル基を示す。R5及びR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状の炭化水素基、炭素数3〜10の環状の炭化水素基を示すか、あるいはR5及びR6は互いに結合して、隣接する窒素原子以外に更に窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を有していてもよい3〜10員環の単環式ヘテロ環を形成してもよい。)
【請求項10】
前記式(3)で示される構造単位を有する重合体は、更に、下記式(5)で示される構造単位を有する請求項9に記載のバイオチップ製造用樹脂組成物。
【化4】

(式中、R7は水素原子又はメチル基を示し;R8は酸解離性基以外の1価の有機基を示す。)
【請求項11】
(a)酸に不安定な保護基を有する第1分子の層を固体基板上に結合させる段階、
(b)前記第1分子の層上に請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の層をコーティングする段階、
(c)前記樹脂組成物の層を露光させ、熱処理して、露光された部分に対応する前記第1分子から酸に不安定な保護基を除去する段階、
(d)前記露光部分及び未露光部分から樹脂組成物層を洗浄、除去する段階、及び
(f)露出された前記第1分子に第2分子を結合させる段階
を含む、バイオチップの製造方法。
【請求項12】
前記固体基板の少なくとも表面が、シリコン、二酸化ケイ素、ガラス、表面改質ガラス、ポリプロピレン又は活性化されたアクリルアミドからなるものである請求項11に記載のバイオチップの製造方法。
【請求項13】
前記第2分子が、核酸又は蛋白質の単量体である請求項11又は12記載のバイオチップの製造方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項記載のバイオチップの製造方法により形成されるバイオチップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−256033(P2010−256033A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103016(P2009−103016)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】