説明

樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した自動車用電線

【課題】従来の被覆材料以上の耐摩耗性を有し、細径自動車用電線の被覆材料に特に好適な、新たな樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した自動車用電線の提供。
【解決手段】ポリプロピレン(A)、
超高分子量ポリオレフィンと高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物(B)、
酸変性ポリプロピレン(C)、及び、
金属水和物(D)を含有する樹脂組成物であって、
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量比が、A:B:C=100:10〜25:5〜10であり、且つ、
(D)成分の量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、90〜130質量部である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した自動車用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用電線は、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)組成物で被覆したものが多く用いられてきた。PVC組成物は難燃性、耐摩耗性が高い優れた材料であるが、焼却処分や車両の火災等の燃焼時に、ハロゲン系ガス等の有害ガスが発生する。最近では、環境問題意識の高まりから、燃焼時にハロゲン系ガス等の有害ガスを発生しないことが求められている。このような問題を解決するために、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたハロゲンフリー難燃樹脂組成物が開発された。
【0003】
ハロゲンフリー難燃樹脂組成物は、難燃剤としてハロゲン元素を含まない難燃剤を添加することによって、ハロゲンフリー性を維持したまま難燃性を向上させている。しかし、所望の難燃性を得るためには難燃剤を多量に添加する必要があり、その場合、ハロゲンフリー難燃樹脂組成物の耐摩耗性等の機械特性等が著しく低下してしまうといった問題があった。これら問題を解決するために、様々な検討が行われている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−127040号公報
【特許文献2】特開2008−169273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の軽量化のため、自動車用電線の細径化が求められている。このような細径化した自動車用電線の被覆材料として、従来の細径化していない自動車用電線(公称導体断面積0.3mm以上)の被覆材料に用いられていたハロゲンフリー難燃樹脂組成物を適用した場合、耐摩耗性が規格を満たせないという問題がある。
【0006】
すなわち、耐摩耗性の試験方法は、荷重を加えたブレード(ワイヤ状)と評価電線が交差して接触し、ブレードを往復運動した際の被覆材料の摩耗量(摩耗回数)により評価するが、導体径にかかわらず、同じ重さの荷重を用いるため、自動車用電線を細径化すると、被覆材料の表面の曲率が小さくなり、従来は耐摩耗性が良好であったハロゲンフリー難燃樹脂組成物であっても、耐摩耗性の規格を満足出来なくなる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の被覆材料以上の耐摩耗性を有し、細径自動車用電線の被覆材料に特に好適な、新たな樹脂組成物及び当該樹脂組成物を被覆した自動車用電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、超高分子量ポリオレフィンと高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物は被覆材料の耐摩耗性を向上させることができることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]ポリプロピレン(A)、
超高分子量ポリオレフィンと高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物(B)、
酸変性ポリプロピレン(C)、及び、
金属水和物(D)を含有する樹脂組成物であって、
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量比が、A:B:C=100:10〜25:5〜10であり、且つ、
(D)成分の量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、90〜130質量部である樹脂組成物。
[2]ポリプロピレン(A)が、ホモポリプロピレンである、上記[1]記載の樹脂組成物。
[3]ポリオレフィン組成物(B)のメルトフローレートが、1〜25g/10minである、上記[1]又は[2]記載の樹脂組成物。
[4]超高分子量ポリオレフィンの粘度平均分子量が、30万以上700万以下であり、
高分子量乃至低分子量ポリオレフィンの粘度平均分子量が、5000以上30万未満である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]酸変性ポリプロピレン(C)が、無水マレイン酸変性ポリプロピレンである、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]金属水和物(D)が、水酸化マグネシウムである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]さらに難燃助剤(E)を含有する樹脂組成物であって、
(E)成分の量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、15質量部以下である上記[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]さらに銅害防止剤(F)を含有する、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]さらに酸化防止剤(G)を含有する、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]導体線が、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる絶縁層によって被覆された構成を有することを特徴とする自動車用電線。
[11]公称導体断面積が0.3mm未満であることを特徴とする、上記[10]記載の自動車用電線。
[12]導体線が複数本の導体素線からなる撚り線からなり、前記撚り線の外層線中の少なくとも1本以上の導体素線の引張強さが350MPa以上であり、
前記撚り線のピッチが層芯径の30倍以上であり、
前記撚り線と絶縁層との密着力が7N以上である、
ことを特徴とする、上記[10]又は[11]記載の自動車用電線。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、細径自動車用電線の被覆に適用した場合でも、耐摩耗性が良好である。従って、本発明の樹脂組成物を用いることにより、自動車用電線の細径化が可能となり、省スペース化、軽量化を達成できる。
また、本発明の樹脂組成物は、従来自動車用電線の被覆材料として使用されてきたPVC組成物と比較すると、より高い硬度を有するため、当該樹脂組成物を被覆した細径自動車用電線も高い硬度を有する。電線が柔軟であると、可撓性が高くなることによるエレメントの絡みの発生等が起こりやすくなるが、本発明の樹脂組成物を被覆した細径自動車用電線は高い硬度を有することから、自動切圧機での端子圧着(エレメント製造)時の作業性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の自動車用電線の一態様の横断面図である。
【図2】図2は本発明の自動車用電線の一態様の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリプロピレン(A)、超高分子量ポリオレフィンと高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物(B)、酸変性ポリプロピレン(C)、及び金属水和物(D)を含有し、好ましくは、さらに難燃助剤(E)を含有し、また、所望により、銅害防止剤(F)、酸化防止剤(G)を含有してもよい(以下、それぞれ(A)〜(G)成分と略記する場合がある)。
【0013】
[ポリプロピレン(A)]
ポリプロピレン(A)としては、例えば、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、ランダムポリプロピレン(プロピレンと他のα−オレフィンとのランダム共重合体)、ブロックポリプロピレン(ホモポリプロピレン、プロピレンと他のα−オレフィンの共重合体、及びα−オレフィン単独重合体の混合物)等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。ランダムポリプロピレン及びブロックポリプロピレンにおける他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等の炭素数が2〜8のα−オレフィン等が挙げられ、中でもエチレンが好ましい。また、共重合成分のポリマー中の含有量は30質量%以下である。
【0014】
ポリプロピレン(A)は、樹脂組成物の耐摩耗性が良好となる点で、ホモポリプロピレンが好ましい。ホモポリプロピレンとしては、例えば、その立体規則性から、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いることができる。中でも、高融点、高強度といった優れた性質を持つことから、アイソタクチックポリプロピレンが好ましい。アイソタクチックポリプロピレンを用いることにより、本発明の樹脂組成物は、耐熱性(高融点から得られる効果)に優れ、また多量のフィラーとの複合化が可能であることから高い難燃性(高強度から得られる効果)に優れる。
【0015】
ポリプロピレン(A)は、本発明の樹脂組成物の混練性および成形性が良好である観点から、メルトフローレート(MFR)が0.2〜20g/10minの範囲にあるものが好ましく、0.2〜5g/10minの範囲にあるものがより好ましい。なお、ここでいうMFRはJIS K 7210の測定方法に準拠して測定される(試験温度は190℃、公称荷重は2.16kg)。
【0016】
また、ポリプロピレン(A)は、融点が160〜170℃であるのが好ましい。ここでいう融点は昇温速度10℃/minで示差走査熱量測定により測定した吸熱ピークのピーク温度である。
【0017】
また、ポリプロピレン(A)は耐摩耗性の観点から、ロックウェル硬さがHRR80〜100の範囲にあるものが好ましく、HRR85〜95の範囲にあるものがより好ましい。なお、ここでいうロックウェル硬さはJIS K 7202−2に準拠して測定される。
【0018】
ポリプロピレン(A)は、市販品を使用することができる。例えば、サンアロマー社製、PL500A(MFR=3.3g/10min、融点=164℃、ロックウェル硬さ=HRR95、アイソタクチックポリプロピレン)、サンアロマー社製、PL400A(MFR=2.0g/10min、ロックウェル硬さ=HRR85、アイソタクチックポリプロピレン)等を挙げることができる。
【0019】
[ポリオレフィン組成物(B)]
ポリオレフィン組成物(B)は、(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物、すなわち、(i)超高分子量ポリオレフィンを生成させる工程と(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンを生成させる工程とが互いに独立した別工程として存在する多段重合法で製造された、(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとからなるポリオレフィン組成物である。本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン組成物(B)を含有することにより、耐磨耗性が向上する。
【0020】
(i)超高分子量ポリオレフィンとは、粘度平均分子量が、通常30万以上700万以下、好ましくは30万以上100万以下のポリオレフィンをいい、粘度平均分子量が30万以上であると、本発明の樹脂組成物の耐摩耗性が良好となるため好適であり、また、700万以下であると、本発明の樹脂組成物の押出性が良好となるため好適である。
また、(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとは、粘度平均分子量が、通常5000以上30万未満、好ましくは1万以上20万以下のポリオレフィンをいい、粘度平均分子量が5000以上であると、本発明の樹脂組成物の表面に高分子量乃至低分子量ポリオレフィンがブリードする虞がないため好適であり、また、30万未満であると、本発明の樹脂組成物を混練加工した際に、ベース樹脂中にポリオレフィン組成物(B)が良好に分散するため好適である。
なお、本明細書において粘度平均分子量は、極限粘度数の測定方法(JIS K 7367−3:1999)に準拠して測定される。
【0021】
ここで、ポリオレフィンとしては、例えば、炭素数2〜20のα−オレフィン(例、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等)の単独重合体又は共重合体等が挙げられ、中でも、炭素数2〜10のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体が好ましく、特に、エチレンの単独重合体、又はエチレンと他のα−オレフィンとからなり、エチレンを主成分とする共重合体からなるのが望ましい。(i)超高分子量ポリオレフィンのポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンのポリオレフィンとは、同じ単量体成分からなるポリオレフィンであっても、互いに異なる単量体成分からなるポリオレフィンであっても良い。
【0022】
(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとの質量比は、通常、(i):(ii)=15〜95:85〜5であり、好ましくは、(i):(ii)=30〜80:70〜20である(但し(i)+(ii)=100)。(i)超高分子量ポリオレフィンが95以下であると、本発明の樹脂組成物の成形性が良好となり、15以上であると、本発明の樹脂組成物の機械特性(引張強さ、伸びなど)が良好となる。
【0023】
(i)超高分子量ポリオレフィンはそれ単体では室温で固体であり、(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンはそれ単体では室温で固体乃至液状である。よって、両者を、オープンロール、二軸押出機などで加熱混練すると、固体の(i)超高分子量ポリオレフィンは溶融しないため、混練が出来ないか、あるいは、固体の(i)超高分子量ポリオレフィン成分が(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィン中に分散した組成物になる。そのため、加熱混練前の(i)超高分子量ポリオレフィンの平均粒子径は、加熱混練後も概ね当該平均粒子径を維持する。例えば、(i)超高分子量ポリオレフィンである「ハイゼックスミリオンシリーズ・ミペロンシリーズ」(三井化学社製)は平均粒子径が概ね15〜200μmの粒状物であり、これを(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンと混練すると、混練物中に、平均粒子径が概ね15〜200μmの粒状物のまま存在する。従って、このような(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとの混練物を、ポリプロピレン(A)等の他の樹脂成分とともに、自動車用電線の被覆として押出成形すると、電線表面に凸凹が形成されて、耐摩耗性が低下する。
【0024】
これに対し、(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物(B)では、(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとが分子レベルで良好に混ざりあって、相溶状態にあるため、かかるポリオレフィン組成物(B)を、他の樹脂(例えば、オレフィン系樹脂)と加熱混練すると、固体の(i)超高分子量ポリオレフィンが粒子状に残存することなく、ポリオレフィン組成物(B)と他の樹脂とが、互いに溶融して均一に混合された組成物を得ることができる。そのため、ポリオレフィン組成物(B)を使用することで、(i)超高分子量ポリオレフィンを含む樹脂組成物であっても、それを押出成形することで、電線表面に凸凹が形成される虞がない。
【0025】
(i)超高分子量ポリオレフィンと(ii)高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物(B)は公知であり、また、その製造方法も公知である。例えば、好ましい製造方法としては、特開昭63−12606号公報、特開昭63−10647号公報に記載のチーグラー型触媒の存在下にオレフィンを重合させて超高分子量ポリオレフィンを生成させる重合工程と、水素の存在下にオレフィンを重合させて高分子量乃至低分子量ポリオレフィンを生成させる重合工程とを含む多段重合法等が挙げられる。また、ポリオレフィン組成物(B)は市販品を使用でき、例えば、リュブマーL3000(三井化学社製)等として入手することができる。
【0026】
ポリオレフィン組成物(B)のメルトフローレート(MFR)は、通常1〜25g/10minの範囲であり、好ましくは、樹脂組成物を電線に被覆する際に、樹脂切れが生じ難いことから、10〜20g/10minの範囲である。なお、ここでいうMFRはJIS K 7210の測定方法に準拠して測定される(試験温度は190℃、公称荷重は10kg)。
【0027】
ポリオレフィン組成物(B)の配合量は、質量比で、ポリプロピレン(A)100に対し10〜25である。10未満であると耐摩耗性が低下して問題であり、25を超えると樹脂組成物の柔軟性が損なわれ加工性が悪く、また伸び(破断伸び)が低下するため問題である。
【0028】
[酸変性ポリプロピレン(C)]
酸変性ポリプロピレン(C)とは、ポリプロピレンを不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性したものである。本発明の樹脂組成物は、酸変性ポリプロピレン(C)を含有することにより、ポリプロピレン(A)と難燃剤の相溶性が向上し、耐摩耗性が良好となる。なお、「変性」とはポリプロピレンに不飽和カルボン酸又はその誘導体をグラフト共重合することをいう。
【0029】
ここでポリプロピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、ランダムポリプロピレン(ポリプロピレンと他のα−オレフィンとのランダム共重合体)、ブロックポリプロピレン(ホモポリプロピレン、プロピレンと他のα−オレフィンの共重合体、及びα−オレフィン単独重合体の混合物とのブロック共重合体)等が挙げられ、中でも、融点が高いホモポリプロピレンを含む点で、ホモポリプロピレン又はブロックポリプロピレンが好ましく、ホモポリプロピレンがより好ましい。
【0030】
変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル等の不飽和カルボン酸エステル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物等が挙げられるが、中でも、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0031】
酸変性ポリプロピレン(C)における不飽和カルボン酸又はその誘導体のグラフト量は、通常、ポリプロピレンに対して0.1〜10質量%である。
【0032】
酸変性ポリプロピレン(C)の配合量は、質量比で、ポリプロピレン(A)100に対し5〜10である。5〜10の範囲であると、樹脂と難燃剤との相溶性が向上することから耐摩耗性が良好となる。逆に、5未満では耐摩耗性が低下し、また、10を超えると樹脂組成物の柔軟性が損なわれて加工性が悪くなり、いずれの場合も好ましくない。酸変性ポリプロピレン(C)は、市販品を使用でき、例えば、モディックP502、モディックP553A、モディックP565(三菱化学社製)等として入手することができる。
【0033】
[金属水和物(D)]
金属水和物(D)とは、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム等の金属の水和物をいい、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水和珪酸マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハンタイト(MgCa(CO)とハイドロマグネサイトとの混合物等のハイドロタルサイト類等が挙げられ、難燃効果、耐熱効果の観点から水酸化マグネシウムが好ましい。
【0034】
金属水和物(D)の平均粒子径は通常0.5〜10μm、好ましくは0.5〜5.0μmである。平均粒子径が0.5μm以上であると粒子同士の二次凝集を抑制でき、樹脂組成物の伸び(機械特性)が良好であり、10μm以下であると樹脂組成物の機械特性の低下や、外観荒れの発生がなく良好である。なお、金属水和物(D)の平均粒子径はマイクロトラック法(レーザー回折散乱法による)により測定される。
【0035】
金属水和物(D)は表面処理を施されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられ、これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。表面処理を施された金属水和物(D)としては、樹脂組成物の耐水性の観点から高級脂肪酸表面処理品が好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物における金属水和物(D)の配合量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、通常90〜130質量部であり、好ましくは100〜120質量部であり、さらに好ましくは100〜110質量部である。金属水和物(D)の量が、かかる範囲内であることにより、十分な難燃性が確保され、耐摩耗性も良好となり、好適である。逆に、90質量部未満であると、難燃性が不十分となる傾向があり、130質量部を超えると、耐摩耗性が低下するとなる傾向があることから、いずれの場合も好ましくない。
【0037】
[難燃助剤(E)]
本発明の樹脂組成物は、難燃助剤(E)を含有することが好ましい。難燃助剤(E)を添加することで、難燃剤単独使用時よりも難燃性が向上する。また、難燃助剤(E)を加えることで、難燃剤の添加量を減らすことができ、耐摩耗性が良好となる。
【0038】
難燃助剤(E)としては、例えば、赤燐、ホウ酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、錫酸亜鉛、三酸化アンチモン、カーボンブラック、シリカ等が挙げられ、中でもホウ酸亜鉛が好ましい。
【0039】
難燃助剤(E)の平均粒子径は通常0.1〜10μm、好ましくは1.0〜5.0μmである。平均粒子径が0.1μm以上であると難燃剤粒子同士の二次凝集を抑制でき、樹脂組成物の伸び(機械特性)が良好であり、10μm以下であると樹脂組成物の機械特性低下や、外観荒れの発生がなく良好である。なお、難燃助剤(E)の平均粒子径はマイクロトラック法(レーザー回折散乱法による)により測定される。
【0040】
難燃助剤(E)の配合量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、通常15質量部以下、好ましくは5〜15質量部、より好ましくは5〜10質量部である。15質量部以下であると、樹脂組成物の耐摩耗性への影響が低いため好ましく、5質量部以上であると、難燃剤である金属水和物の添加量を低く抑えることが出来、得られる樹脂組成物の伸び(破断伸び)が良好となるため好ましい。
【0041】
[銅害防止剤(F)]
本発明の樹脂組成物は、銅害防止剤(F)を含んでもよい。銅害防止剤(F)とは、金属不活性剤とも呼ばれ、金属による樹脂成分((A)成分、(B)成分及び(C)成分など)の酸化劣化を低減させる効能を持つものをいう。
【0042】
銅害防止剤(F)としては、例えば、1,2,3−バンゾトリアゾール、トリルトリアゾールとその誘導体、トリルトリアゾールアミン塩、トリルトリアゾールカリウム塩、トリアジン系誘導体、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド等のヒドラジド誘導体、シュウ酸誘導体、サルチル酸誘導体等が挙げられ、好ましくは、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール(例えば、商品名アデカスタブCDA−1(ADEKA社製)等)である。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
銅害防止剤(F)の配合量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、通常0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部である。0.1質量部以上であると、十分な長期耐熱性が得られるため好ましく、5質量部以下であると、樹脂組成物の表面にブリードが生じることがないため好ましい。
【0044】
[酸化防止剤(G)]
本発明の樹脂組成物は、酸化防止剤(G)を含んでもよい。酸化防止剤(G)としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0045】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、公知のものが使用可能であり、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレン−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)が挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
芳香族アミン系酸化防止剤としては、公知のものが使用可能であり、例えば、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、フェニル,ヘキシル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール亜鉛塩等が挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
酸化防止剤(G)は、上記の酸化防止剤の中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、特にペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(例えば、商品名アデカスタブAO−60(ADEKA社製)等)が好ましい。
【0048】
酸化防止剤(G)の配合量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、通常1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部である。1質量部以上であると、十分な長期耐熱性が得られるため好ましく、10質量部以下であると、樹脂組成物の表面にブリードが生じることがないため好ましい。
【0049】
[その他の充填剤]
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて各種の充填剤を含有してもよい。このような充填剤としては、例えば、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、シリカ、金属粉(繊維)、ガラス粉(繊維)、炭素繊維のような無機充填剤、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、鉛、スズなどの金属の酸化物のような金属酸化物、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、ベンガラのような着色剤、ステアリン酸、オレイン酸、高級脂肪酸金属塩のような滑剤、加工助剤、チタネート系やシラン系のカップリング剤等が挙げられる。
さらに必要に応じて、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキサイド、P−キノンジオキシム、P−P’−ジベンゾイル、キノンジオキシム等のオキシム類、N−N’−メタフェニレンジマレイミド、トリメチルプロパントリメタアクリレート、ポリブタジエンオリゴマー、ジアリルフタレート等の2官能性架橋助剤の1種または2種以上を含有してもよい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分、さらに所望により上記(E)〜(G)成分及びその他の充填剤を、例えば、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機などの公知の混練装置で混練することにより調製される。得られた樹脂組成物は、次いで、射出成形、回転成形、プレス成形、押出成形などによって所望の形態の被覆材料に成形され得る。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、細径化した電線の被覆に適用した場合でも、耐摩耗性が良好であることから、特に、自動車用電線の被覆材料に好適に用いられ得る。
【0052】
本発明の自動車用電線は、導体線が、本発明の樹脂組成物からなる絶縁層によって被覆された構成を有する。前記導体線は、単一の導体素線から構成されても良く、複数本の導体素線からなる撚り線で構成されても良いが、前記導体線が撚り線で構成されると、自動車用電線の可撓性が良好となり好ましい。前記撚り線の外層線中の少なくとも1本以上の導体素線の引張強さが350MPa以上であり、前記撚り線のピッチが層芯径の30倍以上であり、前記撚り線と絶縁層との密着力が7N以上であると、電線サイズが公称導体断面積0.3mm未満の細径であっても、高い導体抗張力を有し、しかも、カール癖が生じにくく、自動切圧機での端子圧着(エレメント製造)及びその後のハーネス組立において、エレメントの絡みやキンクを生じることなく、円滑に作業を行うことができ、また、電線の耐屈曲性に支障がない範囲内で撚り線の撚りピッチを十分に大きくすることで、電線の生産性も向上するため、好ましい。
【0053】
図1は本発明の自動車用電線の一態様の横断面図(電線の軸線と直交する断面の図)であり、当該図1に示すように、本発明の自動車用電線の一態様は、導体線が複数本の導体素線1からなる撚り線2が、本発明の樹脂組成物からなる絶縁層3によって被覆された構成を有する。
【0054】
図2は本発明の自動車用電線の一態様の横断面図(電線の軸線と直交する断面の図)であり、当該図2に示すように、本発明の自動車用電線の一態様は、導体線が単一の導体素線1からなり、本発明の樹脂組成物からなる絶縁層3によって被覆された構成を有する。尚、導体線の断面形状は、図2に示すように、典型的には円形であるが、特にこれに制限されない。
【0055】
導体素線1の材料には、通常、純銅、銅合金等が使用されるが、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等の銅系金属以外の金属も使用可能である。これらの中でも、電気特性や端子圧着性などの点から銅合金が好ましく、特に好ましくはスズ含有量が0.1〜2.0質量%のCu−Sn合金が挙げられる。なお、合金の場合、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0056】
なお、導体線を撚り線2とする場合は、複数本の導体素線1は通常は生産性の点から、互いに同一の材料で作製されたものが使用されるが、本発明の目的を達成できるならば、互いに異なる材料で作製されたものでもよい。
【0057】
本発明の自動車用電線の公称導体断面積は特に限定はされないが、電線の軽量化のために、好ましくは0.3mm未満、より好ましくは0.22mm以下、さらに好ましくは0.13mm以下に設定される。なお、公称導体断面積の下限は導体抗張力などの観点から、好ましくは0.06mm以上、より好ましくは0.08mm以上が好ましい。従って、導体線を撚り線2とする場合は、撚り線2を構成する複数本の導体素線1は、好ましくは線径が0.22mm以下のものが使用され、より好ましくは線径が0.18mm以下のものが使用される。ただし、線径が小さすぎると、導体抗張力が不足する(断線が生じやすくなる)傾向となるので、線径の下限は0.08mm以上が好ましく、0.12mm以上がより好ましい。なお、生産性等の点から、通常は複数本の導体素線1は同一線径のものを使用するが、互いに異なる線径のものを組み合わせて使用してもよい。ここで、自動車用電線の公称導体断面積はJASO D 618に準拠して測定される。
【0058】
また、導体線を撚り線2とする場合、複数本の導体素線1の本数は、各素線の太さにもよるが、通常37本以下であり、典型例としては、37本、19本、7本等が挙げられる。特に、本数が7本であることにより、電線の横断面での、導体(撚り線2)の面積(A1)に対する導体(撚り線2)と絶縁層3の接触部の長さ(L1)の比(L1/A1)が大きくなるので、導体(撚り線2)と絶縁層3との密着力向上に有利に作用する。
【0059】
本発明の自動車用電線で、導体線を撚り線2とする場合は、撚り線2を構成する複数本の導体素線1において、外層線(すなわち、撚り線2中の絶縁層3に接する導体素線)中の少なくとも1本以上の引張強さが350MPa以上の導体素線で構成されていることが好ましい。これにより、電線の導体抗張力を高めることができ、配索時の断線等を回避できる傾向にある。なお、電線の導体抗張力を十分に高めるには外層線中の半数以上の導体素線の引張強さが350MPa以上であるのがより好ましく、外層線の全導体素線の引張強さが350MPa以上であるのがさらに好ましい。なお、外層線中に引張強さが350MPaより小さい導体素線を含む場合、それらの引張強さは少なくとも300MPa以上であることが好ましい。これにより、撚り線の易製造性や生産性が向上する傾向にある。
【0060】
外層線に適用する高強度の導体素線の引張強さは、好ましく350MPa以上であり、より好ましくは引張強さが450MPa以上である。ただし、引張強さが大き過ぎると、撚り線のわらいが生じやすくなり、可撓性が劣る傾向となるため、引張強さは850MPa以下であるのが好ましい。
【0061】
撚り線における外層線以外の導体素線の引張強さは特に制限されないが、十分に高い導体抗張力を得るためには、それらの素線もある程度高い引張強さを有することが必要であり、引張強さは300MPa以上が好ましく、より好ましくは350MPa以上、さらに一層好ましくは450MPa以上である。ただし、引張強さが大き過ぎると、撚り線のわらいが生じやすくなり、可撓性が劣る傾向となるため、引張強さは850MPa以下であるのが好ましい。
【0062】
導体素線の引張強さは、常法、すなわち、素線材料の選択、鋳造、伸線、熱処理等の種々の加工の組み合わせや加工の条件、線径の変更等によって調整することができる。なお、導体素線の引張強さは、JIS C 3002に準拠して求められる。
【0063】
本発明において好適に使用される導体素線の具体例を挙げると、スズの含有率が0.1〜2.0質量%のCu−Sn合金を伸線、熱処理をすることで得られる、引張強さが300〜850MPaのCu−Sn合金線(ここで、導体線が撚り線である場合の導体素線径は例えば0.08〜0.22mmであり、導体線が単一の導体素線からなる場合の導体素線径は例えば0.30〜0.55mmである)が挙げられる。
【0064】
撚り線2は、複数本の導体素線1を公知の撚り線機を使用して定法に従って撚ったものである。撚り線の撚り方は、集合撚りでも、同心撚りでもよいが、素線の本数によって可能であれば同心撚りが好ましい。集合撚りは、素線を集めて撚り合わせただけのものであり、製造コストが安いというメリットがある。同心撚りは、図1の例のように、素線を同心円状に並べて、断面が正多角形や円形に近似する形状になるように撚り合わせたものである。
【0065】
特に、同一線径の導体素線を撚る場合、複数本の導体素線を相互に撚るよりも、中心線である1本の導体素線の周りに他の導体素線を撚る同心撚りが低張力で安定して撚ることが可能である点で好ましい。また、同心撚りにおいても導体素線を隙間無く最密充填することが電線の細径化に好適であり、その場合、中心線の周りに素線が1層最密充填した場合は7(=1+6)本同心撚り、中心線の周りに素線が2層最密充填した場合は19(=1+6+12)本同心撚り、中心線の周りに素線が3層最密充填した場合は37(=1+6+12+18)本同心撚りとなる。なお、素線の本数が多いと1本の素線の断面積が小さくなって断線し易く、多層撚りの場合に製造工程が煩雑になることもあり、同心撚りにおいては、7本同心撚りが特に好ましい。
【0066】
図1の例は、断面形状が円形の7本の素線を同心撚りし、その後、外層線に圧縮加工を施したものである。絶縁層の厚さを薄く設定するには、撚り線の最外層表面(外層線の表面)の凹凸を極力小さくすることが望ましいが、かかる図1の例では、外層線の圧縮加工に円形圧縮加工を採用し、撚り線の最外層(外層線の表面)の凹凸を小さくしている。円形圧縮加工は例えば丸ダイスなどに撚り線を通すことで、凹凸を小さくする処理である。
【0067】
本発明の自動車用電線で、導体線を撚り線2とする場合は、撚り線2の撚りピッチを、層芯径の30倍以上とすることが好ましい。「撚りピッチ」とは、導体素線を、撚り合わせに沿ってたどったときに、撚りが一回転する間に進む距離である。「層芯径」とは、図1中の符号Dで示す、撚り線の断面における外層線を構成する素線のうちの両者の中心間の距離が最大となる2本の素線の中心間の距離(寸法)である。
【0068】
撚り線の撚りピッチが層芯径の30倍以上とすると、導体素線の細径化に伴う撚り線の柔軟化を抑制することができ、ハーネス化のための作業性が向上する傾向にあるため、好ましい。しかし、撚りピッチが大きくなるにつれて撚り線には所謂「わらい」と呼ばれる撚りの緩みが生じやすくなり、「わらい」が生じるとハーネス化の作業において撚り線のカール癖が強くなり、自動切圧機での端子圧着(エレメント製造)及びその後のハーネス組立において、キンクやエレメントの絡みや生じやすくなる。
【0069】
撚り線2と絶縁層3間の密着力を少なくとも7N以上とすると、これによって、撚りピッチの増大に伴う「わらい」の発生が抑制され、自動切圧機での端子圧着(エレメント製造)及びその後のハーネス組立においてキンクやエレメントの絡みを発生させることなく、円滑に作業を行うことができる傾向にあるため好ましい。撚り線2と絶縁層3との密着力はより好ましくは10N以上である。撚り線と絶縁層間の密着力は、JASO D618に準拠して求められる。
【0070】
撚り線の撚りピッチが大きくなるにつれて、電線の耐屈曲性が低下する傾向となる。従って、撚り線の撚りピッチは、電線の実用上必要な耐屈曲性を維持するために、層芯径の60倍以下であるのが好ましい。なお、電線の耐屈曲性に支障がない範囲内で撚り線の撚りピッチを十分に大きくすることで、撚り線の生産性が向上する。
【0071】
撚り線2と絶縁層3との密着力の上限は特に限定されないが、端子圧着時の皮剥ぎ性を考慮すると、好ましくは35N以下であり、より好ましくは20N以下である。
【0072】
絶縁層3の厚みは、特に限定されないが、耐摩耗性および難燃性が必要であることから、0.1mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましい。しかし、厚みが大きすぎる場合、軽量化、生産コスト(材料費)低減等において支障をきたすので、その上限は0.3mm以下が好ましく、0.25mm以下がより好ましい。なお、本発明でいう絶縁層3の厚みは、JASO D 618に基づく構造試験で測定される。
【0073】
本発明の自動車用電線は、例えば、以下の方法によって製造される。
【0074】
まず、導体線を撚り線2とする場合は、引張強さが350MPa以上の素線を少なくとも1本以上含む複数本の素線を用意し、撚りピッチが層芯径の30倍以上となるように撚りを加えて、引張強さが350MPa以上の素線が外層線に少なくとも1本以上含まれるように撚り線を作製する。
【0075】
次に、導体線を通電加熱機等を用いて100〜250℃程度に加熱しておき、電線押出し機に本発明の樹脂組成物を投入し、加熱された導体線上に樹脂組成物を押出す。この際、樹脂組成物の押出し温度は樹脂組成物の樹脂成分の融点のうち最も高い融点温度以上の温度であるが、前記温度よりも100℃を超えて高くならない範囲が一般的である。
【0076】
次に、導体線上に押出された樹脂組成物を冷却して絶縁層を形成する。本発明では、かかる樹脂組成物の冷却工程において、樹脂組成物を水冷によって冷却することを少なくとも含むことが好ましく、水冷によって樹脂組成物が冷却されることで、樹脂組成物が大きく収縮し、導体線と絶縁層の密着力が向上する傾向にある。ただし、導体線と絶縁層3間の密着力を7N以上とするために、水冷による樹脂組成物の冷却は、それによる樹脂組成物の温度低下量が190℃未満となる範囲内(すなわち、絶縁性材料の温度を190℃以上低下させない範囲内)で実施する。樹脂組成物の温度が190℃以上低下するような急激な冷却を行うと、樹脂組成物の収縮量が大きくなりすぎて、導体線と絶縁層3の間に隙間が生じ、導体線と絶縁層3の密着力を却って低下させてしまうためである。
水冷による樹脂組成物の冷却期間が短すぎると、樹脂組成物の収縮が充分に起こらず、導体線と絶縁層の密着力を充分に高めることができない場合があるので、水冷は、樹脂組成物の温度を少なくとも40℃以上低下させる期間行うのが好ましい。特に好ましい実施態様は、水冷による樹脂組成物の温度低下量が40〜180℃の範囲となる期間、水冷を行なう態様である。なお、本発明でいう「水冷」とは、樹脂組成物が5℃以上〜40℃未満程度、好ましくは10〜20℃程度の水に接触して冷却されることである。
【0077】
樹脂組成物の冷却は、通常、水冷ゾーン(水冷槽)に樹脂組成物で被覆された導体線を所定の速度で通過させることによって行われる。水冷による樹脂組成物の温度低下量は水冷槽中の水の温度、水冷槽を通過する樹脂組成物で被覆された導体線の速度(線速)、水冷槽の長さなどによって、コントロールすることができる。樹脂組成物の急激な冷却を避けるためには、線速を10〜100m/minとすることが好ましい。また、水冷ゾーンを湯冷ゾーンに変更することで、線速を上げても、樹脂組成物の急激な冷却を避けることが可能となる。水冷ゾーンを湯冷ゾーンに変更した場合、線速を100〜450m/minまで上げることが可能となる。なお、「湯冷」とは、樹脂組成物が40〜80℃程度、好ましくは50〜60℃程度の温水に接触して冷却されることである。
【0078】
樹脂組成物の冷却工程を経ることで導体線が絶縁層で被覆された電線は定法に従って把又はボビン若しくはリールに巻き取られて保管される。
【0079】
本発明の自動車用電線は、自動車内の種々の電子機器と電源やコンピュータ間において電力や制御信号などを伝えるためのワイヤハーネスに使用される。ワイヤハーネスは、複数の電線と、該電線の端部などに取り付けられたコネクタなどを備え、電子機器と電源やコンピュータ間を接続するために自動車内に配索されるものである。
【0080】
ワイヤハーネスを組み立てる際、把又はボビン若しくはリールなどに巻き取られた長尺の電線は、自動切圧機により検尺されて所定の長さに切断され、切断された電線の端部の絶縁層が除去(皮剥き)されて端子金具が圧着により取り付けられた後、端子金具がコネクタハウジング内に挿入されて、電線の端部にコネクタが取り付けられる。そして、かかる電線へのエレメント製造(端子取り付け)がなされたコネクタ付き電線によりワイヤハーネスが組み立てられる。
【0081】
本発明の自動車用電線は、自動車用のみならず、高度な耐摩耗性が要求される機器用電線(例えば、摺動、開閉動作、振動を伴う機器用電線等)としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0083】
後述する表1に用いる材料名の略号を下記に示す。
【0084】
[ポリプロピレン(A)]
A1:ホモポリプロピレン(MFR=3.3g/10min、融点=164℃、ロックウェル硬さ=HRR95、アイソタクチックポリプロピレン):PL500A(サンアロマー社製)
【0085】
[ポリオレフィン組成物(B)]
B1:超高分子量ポリエチレンと高分子量乃至低分子量ポリエチレンとを多段重合法により重合させたポリエチレン組成物(密度=969kg/m、MFR=14g/10min):リュブマーL3000(三井化学社製)
【0086】
[酸変性ポリプロピレン(C)]
C1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン:モディックP502(三菱化学社製)
(C1)成分との比較のため、以下の(C’1)成分を検討した。
C’1:無水マレイン酸変性ポリエチレン:アドテックスDL0300(日本ポリエチレン社製)
【0087】
[金属水和物(D)]
D1:水酸化マグネシウム(高級脂肪酸で表面処理、平均粒子径=0.9μm):キスマ5A(協和化学工業社製)
【0088】
[難燃助剤(E)]
E1:ホウ酸亜鉛(平均粒子径=2〜3μm):アルカネックスFRC−500(水澤化学工業社製)
【0089】
[銅害防止剤(F)]
F1:3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール:アデカスタブCDA−1(ADEKA社製)
【0090】
[酸化防止剤(G)]
G1:ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕:アデカスタブAO−60(ADEKA社製)
【0091】
実施例1
下記表1に示す配合割合(単位:質量部)で樹脂組成物を調製した後、公称導体断面積0.13mmの導体線上に、押出機により、線速20m/min、押出温度230℃で当該樹脂組成物を被覆押出し、押出直後に冷却することにより、実施例1の細径自動車用電線を作製した。JASO D 618に基づく構造試験で測定される被覆厚さは0.2mmであった。
なお、導体線は、外径0.17mmの素線7本を撚りピッチ18mmで同心撚りで撚ったものを用いた。この導体線の公称導体断面積は0.13mmで、且つ導体外径は0.45mmであった。
また、樹脂組成物の冷却は、10〜20℃の水冷ゾーン(水槽)に樹脂組成物で被覆された撚り線を20m/minで通過させることによって行った。この冷却による樹脂組成物の温度低下量は180℃であった。
【0092】
実施例2〜6
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により実施例2〜6の細径自動車用電線をそれぞれ作製した。
【0093】
比較例1〜6
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により比較例1〜6の細径自動車用電線をそれぞれ作製した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1中の評価は以下の方法による。
【0096】
<耐摩耗性>
JASO D 618に準拠して測定した。判定基準を以下に示す。
◎:摩耗サイクル150回以上
○:摩耗サイクル50回以上150回未満
×:摩耗サイクル50回未満
【0097】
<難燃性>
JASO D 618に準拠して測定した。判定基準を以下に示す。
◎:10秒未満
○:10秒以上30秒未満
×:30秒以上
【0098】
<伸び(破断伸び)>
JASO D 618に準拠して測定した。判定基準を以下に示す。
○:300%以上
×:300%未満
【0099】
<密着力>
JASO D 618に準拠して密着力試験を行い、最大引張力を求めた。判定基準を以下に示す。
○:10N以上35N以下
×:10N未満、又は35Nを超える
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の自動車用電線は、作業性、特にハーネス化工程の一つである自動切圧機での端子圧着(エレメント製造)時の作業性に優れることから、生産性が向上し、コストダウンが達成できる。
【符号の説明】
【0101】
1 導体素線
2 撚り線
3 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン(A)、
超高分子量ポリオレフィンと高分子量乃至低分子量ポリオレフィンとを多段重合法により重合させて得られるポリオレフィン組成物(B)、
酸変性ポリプロピレン(C)、及び、
金属水和物(D)を含有する樹脂組成物であって、
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の質量比が、A:B:C=100:10〜25:5〜10であり、且つ、
(D)成分の量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、90〜130質量部である樹脂組成物。
【請求項2】
ポリプロピレン(A)が、ホモポリプロピレンである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン組成物(B)のメルトフローレートが、1〜25g/10minである、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
超高分子量ポリオレフィンの粘度平均分子量が、30万以上700万以下であり、
高分子量乃至低分子量ポリオレフィンの粘度平均分子量が、5000以上30万未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
酸変性ポリプロピレン(C)が、無水マレイン酸変性ポリプロピレンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
金属水和物(D)が、水酸化マグネシウムである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
さらに難燃助剤(E)を含有する樹脂組成物であって、
(E)成分の量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、15質量部以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに銅害防止剤(F)を含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに酸化防止剤(G)を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
導体線が、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる絶縁層によって被覆された構成を有することを特徴とする自動車用電線。
【請求項11】
公称導体断面積が0.3mm未満であることを特徴とする、請求項10記載の自動車用電線。
【請求項12】
導体線が複数本の導体素線からなる撚り線からなり、前記撚り線の外層線中の少なくとも1本以上の導体素線の引張強さが350MPa以上であり、
前記撚り線のピッチが層芯径の30倍以上であり、
前記撚り線と絶縁層との密着力が7N以上である、
ことを特徴とする、請求項10又は11記載の自動車用電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−229343(P2012−229343A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98626(P2011−98626)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】