説明

樹脂組成物及び樹脂硬化物

【課題】電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れた樹脂組成物を提供する。また、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を提供する。
【解決手段】末端に重合性基を有する分岐鎖が主鎖の両端に結合されており、且つ前記主鎖及び前記分岐鎖の少なくとも1つがメソゲン基を有する化合物を含有することを特徴とする樹脂組成物とする。また、上記の樹脂組成物を重合させて得られることを特徴とする樹脂硬化物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂硬化物に関し、特に、絶縁シートに使用される樹脂組成物及び樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化・小型化・軽量化に伴い、電子部品の高密度化が進んでいる。これにより電子部品内での発熱量が著しく増大しており、部品の信頼性・寿命低下の一因となっている。このように、電子機器における熱問題は極めて重要な問題であり、その対策に使用される放熱材料には熱伝導性の更なる向上が求められている。
電気絶縁性が求められる分野においては、放熱材料として樹脂硬化物が一般に使用されているが、この樹脂硬化物の熱伝導性向上策としては、熱伝導性の高い無機セラミックスなどの無機充填材を添加する手法が一般的である。しかしながら、この方法では、添加量の制限から十分な熱伝導性を得ることが難しいため、樹脂硬化物自体の熱伝導性を向上させることが望まれている。
【0003】
以上のような理由から、樹脂硬化物自体において高い熱伝導率を達成するという課題は極めて重要なことであり、熱伝導率を向上させた樹脂硬化物を与えるものとして、メソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。この樹脂組成物から得られる樹脂硬化物は、メソゲン骨格が規則的に配列するため、無機充填剤を添加しなくても0.6W/m・K以上の高い熱伝導率が得られることが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4118691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているメソゲン基を有するエポキシ樹脂は、結晶性が非常に高いため、融点が高く、溶剤に対する溶解性も低い。そのため、エポキシ樹脂用硬化剤と均一に混合するためには高温(具体的には、エポキシ樹脂の融点よりも高い温度)で融解させる必要がある。そして、このエポキシ樹脂を高温下でエポキシ樹脂用硬化剤と混合した場合、エポキシ樹脂の硬化反応が急速に進み、ゲル化時間が短くなる。それ故、これらの均一混合が難しく、均質な樹脂硬化物が得られないという問題がある。
また、シート状の樹脂硬化物(すなわち、絶縁シート)を製造する場合、溶剤を添加した樹脂組成物が一般的に使用されるところ、特許文献1に記載のエポキシ樹脂は、溶剤に対する溶解性が低いため、このエポキシ樹脂を用いた樹脂組成物ではシート状に成形することが難しいという問題もある。
【0006】
従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、(1)化合物の主鎖の両端に所定の分岐鎖を導入することにより、化合物の立体的な対称性を下げて、化合物の融点の低下及び/又は溶剤に対する化合物の溶解性の向上をもたらし、(2)化合物の主鎖及び分岐鎖の少なくとも1つにメソゲン基を導入することにより、樹脂硬化物においてメソゲン骨格部分を規則的に配列させ、熱伝導性を向上させることができることを見出した。
すなわち、本発明は、末端に重合性基を有する分岐鎖が主鎖の両端に結合されており、且つ前記主鎖及び前記分岐鎖の少なくとも1つがメソゲン基を有する化合物を含有することを特徴とする樹脂組成物である。
また、本発明は、上記の樹脂組成物を重合させて得られることを特徴とする樹脂硬化物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れた樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本実施の形態の樹脂組成物は、主鎖の両端に所定の分岐鎖が結合されており、且つ主鎖及び分岐鎖の少なくとも1つがメソゲン基を有する化合物を含有する。
本明細書において「メソゲン基」とは、2つ以上の環(例えば、シクロアルカン、芳香環など)が直鎖状に結合した構造のユニットを意味する。メソゲン基としては、特に限定されないが、例えば、安息香酸フェニル、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、アゾベンゼン、ジアゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン、ベンゾフェノン、フェニルエーテル、ベンズアニリド、ジフェニルメタン、フェニルスルフィド、ジフェニルスルホキシド、ジフェニルスルホン、ジフェニルアミン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フェナントレン、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのメソゲン基の中でも、熱伝導性の観点から、安息香酸フェニル、ビフェニル、ベンゾフェノン、フェニルエーテル、ベンズアニリド、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体が好ましい。また、化合物に導入されるメソゲン基は、1種類に限定されず、2種類以上であってもよい。
化合物は、主鎖及び分岐鎖の少なくとも1つがメソゲン基を有することにより、この化合物を含有する樹脂組成物から得られる樹脂硬化物(重合体)において分子鎖のスタッキング性が向上する。つまり、重合体中の分子鎖を密に配列させることができるため、重合体の熱伝導性が向上する。
【0010】
化合物は、主鎖の末端に所定の分岐鎖が結合されていることにより、化合物の立体的な対称性を下げることができる。これにより、化合物の融点の低下及び/又は溶剤に対する化合物の溶解性の向上をもたらし、樹脂組成物への均一な配合が容易になる。
また、化合物は、分岐鎖の末端に重合性基を有することにより、様々な樹脂原料として化合物を使用することができる。重合性基としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、水酸基、アクリロイル基、シクロヘキセン基、メタクリロイル基、シンナモイル基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物基などが挙げられる。特に、これらの例示した重合性基は、架橋反応性に優れているので好ましい。
分岐鎖は、化合物の安定性の観点から、主鎖の両端にそれぞれ2つ以上ずつ結合されていることが好ましい。また、分岐鎖は、全て同一の構造を有していてもよく、2種類以上の異なる構造を有していてもよい。
【0011】
化合物の直鎖及び分岐鎖の少なくとも1つは、屈曲性基を有することができる。これにより、化合物の融点をより一層低下させたり、溶剤に対する化合物の溶解性をより一層高めることができる。ここで、本明細書において「屈曲性基」とは、メソゲン基の配列を阻害することなく、化合物中の立体障害に応じて屈曲し得る柔軟な官能基を意味する。屈曲性基としては、特に限定されないが、例えば、以下の式で表される官能基が挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
上記式中、nは1以上の整数である。また、化合物中の屈曲性基の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0014】
上記のような構造を有する化合物は、一般的に公知の合成手法により調製することができる。例えば、主鎖や分岐鎖となる原料化合物を反応させて結合した後、その反応生成物の末端に重合性基を導入すればよい。この反応の具体的な条件については、使用する原料化合物や反応方法などによって異なるため、一義的に定義することができない。そのため、使用する原料化合物や反応方法などに応じて適宜設定する必要がある。
【0015】
本実施の形態の樹脂組成物において、上記の化合物は、融点が低く及び/又は溶剤に対する溶解性が高いため、様々な樹脂原料(例えば、単独重合体を調製するための単量体、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤など)として使用することができる。
単独重合体を調製するための単量体として上記の化合物を使用する場合、化合物中の末端の重合性基を単独重合可能な基(例えば、ビニル基など)にすればよい。この単量体を含む樹脂組成物は、単量体同士の反応によって架橋した樹脂硬化物を与えることができる。また、この樹脂組成物は、重合開始剤をさらに含むことができる。
【0016】
この樹脂組成物に使用可能な重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤などを使用することができる。これらの重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
アゾ系開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス(メチルイソブチレ−ト)などが挙げられる。
【0017】
過酸化物開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、過酸化ジクミルなどが挙げられる。
過硫酸塩開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
この樹脂組成物における重合開始剤の配合量は、使用する成分に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に100質量部の単量体に対して0.1質量部以上200質量部以下である。
【0018】
エポキシ樹脂として上記の化合物を使用する場合、化合物中の末端の重合性基をエポキシ基にすればよい。このエポキシ樹脂を含む樹脂組成物は、エポキシ樹脂用硬化剤をさらに配合することにより、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂用硬化剤との反応によって架橋した樹脂硬化物を与えることができる。
この樹脂組成物に使用可能なエポキシ樹脂用硬化剤としては、特に限定されることはなく、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物;ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物;ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド;トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン及びその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂用硬化剤は単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記のエポキシ樹脂用硬化剤の中でも、樹脂組成物を重合して得られる樹脂硬化物(重合体)の分子の配列性を向上させる観点から、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミン;カテコール、メチルカテコール、ジメチルカテコール、ブチルカテコール、フェニルカテコール、メトキシカテコール、ピロガロール、メチルハイドロキノン、テトラヒドロキシベンゼン、ブロモカテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、メチル−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ジメチル−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ブチル−1,2−ジヒドロキシナフタレン、メトキシ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ブロモ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、メチル−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ジメチル−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ブチル−2,3−ジヒドロキシナフタレン、メトキシ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ブロモ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、メチル−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ジメチル−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ブチル−1,8−ジヒドロキシナフタレン、メトキシ−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシ−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ブロモ−1,8−ジヒドロキシナフタレンなどの多価フェノール化合物が好ましい。
この樹脂組成物におけるエポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、使用する成分に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に100質量部のエポキシ樹脂に対して0.1質量部以上200質量部以下である。
【0020】
エポキシ樹脂用硬化剤として上記の化合物を使用する場合、化合物中の末端の重合性基をエポキシ樹脂と反応可能な基(例えば、水酸基、アミノ基など)にすればよい。このエポキシ樹脂用硬化剤を含む樹脂組成物は、エポキシ樹脂をさらに配合することにより、エポキシ樹脂用硬化剤とエポキシ樹脂との反応によって架橋した樹脂硬化物を与えることができる。
この樹脂組成物に使用可能なエポキシ樹脂としては、特に限定されることはなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジル−アミノフェノール系エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、これらのエポキシ樹脂の中でも、樹脂組成物を重合して得られる樹脂硬化物(重合体)の分子の配列性を向上させる観点から、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、及びアントラセン型エポキシ樹脂が好ましい。
この樹脂組成物におけるエポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、使用する成分に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に100質量部のエポキシ樹脂に対して0.1質量部以上200質量部以下である。
【0021】
上記の各樹脂組成物は、メソゲン基を有する化合物を含有しているので、特定の温度範囲において、メソゲン骨格が規則的に配列して液晶状態となる性質を有している。液晶状態の種類としては、ネマティック相、スメクティック相、コレステリック相などが挙げられる。また、この樹脂組成物を重合して得られる樹脂硬化物(重合体)でも、液晶状態の場合と同じように、メソゲン骨格が規則的に配列した構造を与えることができる。この配列構造は、メソゲン骨格が一定方向に配向したスメクティック相及びネマティック相であることが好ましい。ここで、スメクティック相とは、重合体の長軸方向が一定の方向に向かって並んでおり、さらに重合体が層状に配置されている状態のものを意味する。また、ネマティック相とは、重合体の重心位置に秩序は無いが、その長軸方向が一定の方向に向かって並んでいる状態のものを意味する。このような配列構造の規則性が高いほど熱伝導性が高くなる。
【0022】
本実施の形態の樹脂組成物は、樹脂硬化物の熱伝導性を向上させる観点から、無機充填材をさらに含むことができる。
本実施の形態の樹脂組成物に使用可能な無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、ニッケル、すず、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、コバルト、インジウム及びこれらの合金などの金属粒子;酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、酸化インジウムすず(ITO)、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタンなどの金属酸化物粒子;窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物粒子;炭化珪素、黒鉛、ダイヤモンド、非晶質カーボン、カーボンブラック、炭素繊維などの炭素化合物粒子;石英、石英ガラスなどのシリカ化合物粉類が挙げられる。これらの無機充填材は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの無機充填材の中でも、樹脂硬化物の絶縁性の観点から、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド、石英、石英ガラスなどが好ましい。
【0023】
無機充填材の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上150μm以下、より好ましくは3μm以上120μm以下である。無機充填材の平均粒径が0.1μm未満であると、無機充填材が凝集してしまうため、無機充填材の分散が困難になることがある。一方、無機充填材の平均粒径が150μmを超えると、シート状に成形した場合に、樹脂硬化物の表面荒れが発生し易くなることがある。
本実施の形態の樹脂組成物における無機充填材の配合割合は、無機充填材が樹脂硬化物(すなわち、樹脂組成物の固形分)中で好ましくは20体積%以上80体積%以下、より好ましくは30体積%以上70体積%以下となるような割合であることが望ましい。この範囲の割合であれば、樹脂組成物をシート状に成形する場合に作業性が優れると共に、樹脂硬化物の熱伝導性をより一層高めることができる。樹脂硬化物における無機充填材の割合が20体積%未満であると、所望の熱伝導性を有する樹脂硬化物が得られないことがある。一方、樹脂硬化物における無機充填材の割合が80体積%を超えると、シート状の樹脂硬化物を製造する際に、樹脂硬化物中に無機充填材を均一に分散させることが困難となり、作業性や成形性に支障を生じることがある。
【0024】
また、無機充填材の濡れ性の改善や、樹脂成分と無機充填材との界面の補強、無機充填材の分散性の向上を目的として、無機充填材にカップリング処理を施すこともできる。この処理に使用可能なカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらのカップリング剤は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
カップリング剤の使用量は、樹脂成分やカップリング剤の種類などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に100質量部の樹脂成分に対して0.01質量部以上1質量部以下である。
【0025】
本実施の形態の樹脂組成物は、所望の形状に成形した後、加熱して重合させることにより、所望の形状を有する樹脂硬化物を得ることができる。特に、シート状の樹脂硬化物を製造する場合には、本実施の形態の樹脂組成物を配向基材に塗工して乾燥させた後、加熱して重合させればよい。
配向基材上への塗工方法としては、特に限定されることはなく、溶融法及び溶液法のいずれを採用してもよいが、作業性の観点から溶液法が好適である。また、溶液法にて塗工する場合、バーコーター、マルチコーター、スピナー、ロールコーターなどの適切な塗工機を用いることができる。また、樹脂硬化物の表面品質の観点からは、キャスト法を用いることが適切である。
【0026】
溶液法を用いる場合、本実施の形態の樹脂組成物に溶剤を配合することができる。溶剤としては、特に限定されないが、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、アニソール、1,2−ジメトキベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン;酢酸エチル;tert−ブチルアルコール;グリセリン;エチレングリコール;トリエチレングリコール;エチレンブリコールモノメチルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル;エチルセルソルブ;ブチルセルソルブ;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;ピリジン;トリエチルアミン;テトラヒドロフラン;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;ブチロニトリル;二硫化炭素;メチルエチルケトン;シクロヘキサノン;シクロペンタノンが挙げられる。これらの溶剤は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
本実施の形態の樹脂組成物における溶剤の含有量は、特に限定されないが、一般的に50質量%以上70質量%以下である。
【0027】
配向基材に塗工した樹脂組成物の乾燥は、室温で行うことができるが、必要に応じて80℃以上150℃以下に加熱し、溶剤の揮発を促進させてもよい。
樹脂組成物を重合させるための加熱温度は、使用する成分にあわせて適宜設定する必要があるが、一般的に60℃以上280℃以下である。また、重合時間も同様に使用する成分や樹脂組成物の量などに応じて適宜設定する必要がある。
【0028】
本実施の形態の樹脂組成物から得られる樹脂硬化物は、熱伝導性及び電気絶縁性が高いので、電子機器、特にパワーモジュールの放熱材料として一般的に使用されている絶縁シートとして用いることができる。
樹脂硬化物を絶縁シートとして用いる場合、絶縁シートの厚みは、好ましくは20μm以上800μm以下、より好ましくは30μm以上300μm以下である。絶縁シートの厚みが20μm未満であると、部材間に挟着されたとき、挟着面の凹凸に対する追従性が不十分で、界面熱抵抗が上昇することがある。一方、絶縁シートの厚みが800μmを超えると、熱の伝達距離が長くなるため、熱抵抗が上昇することがある。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
300mLのトルエン、及び19.02g(100mmol)のp−トルエンスルホン酸一水和物をナス型フラスコに入れ、ディーンスタークトラップを用いて共沸脱水を行った。次に、125mLのトルエンに11.22g(100mmol)の4−ジメチルアミノピリジンを加熱して溶解させた後、この溶液を、上記で得られた共沸脱水後の溶液に投入して1時間攪拌した。その後、この溶液を濃縮し、析出物を300mLのジクロロエタンで再結晶することにより、白色針状結晶の4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−4−トルエンスルホネートを得た。
次に、140mLのテトラヒドロフランに、14.97g(70mmol)の4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸、及び38.64g(140mmol)のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド40%水溶液を溶解させた。次に、氷浴で冷却撹拌しながら、この溶液に8.46g(70mmol)のアリルブロミドの30mLのテトラヒドロフラン溶液を滴下した。そして、この溶液を室温中で一晩撹拌した後、濃縮して1Lの水に加えた。次に、この溶液を氷浴で冷却撹拌しながら、この溶液に1Nの塩酸水150mLを徐々に加えた。これにより生じた析出物をろ別した後、残渣をメタノールで洗浄し、真空下で乾燥させた。そして、この残渣を1.5Lのエタノールで再結晶することにより、白色結晶の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボン酸を12.63g得た。
【0030】
次に、100mLの塩化チオニルに、2〜3滴のジメチルホルムアミド、及び12.62g(50mmol)の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボン酸を加え、窒素雰囲気下、40℃にて一晩加熱撹拌を行った。そして、過剰分の塩化チオニルを減圧留去し、20mLのn−へキサンを加えて残存する塩化チオニルの減圧留去作業を3回繰り返し行った。その後、500mLのn−ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより、白色結晶の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボニルクロリドを12.63g得た。
次に、50mLのアセトンに13.41g(100mmol)の2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を加えた後、これに15.62g(150mmol)の2,2−ジメトキシプロパンを溶解させ、0.95g(5mmol)のp−トルエンスルホン酸一水和物を加えた。この溶液を室温で2時間撹拌した後、1.2mLのエタノール/アンモニア水(50vol%/50vol%)混合液を加えることによって、溶液を中和した。そして、この溶液を室温で減圧濃縮した後、250mLのジクロロメタンを投入し、20mLの水で2回洗浄した。ジクロロメタン溶液に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、エバポレーターにて溶媒を減圧留去し、白色固体のイソプロピリデン−2,2−ビス(メトキシ)プロピオン酸を10.41g得た。
【0031】
次に、40mLのジクロロエタンに、1.86g(10mmol)の4,4'−ビフェノール、3.66g(21mmol)のイソプロピリデン−2,2−ビス(メトキシ)プロピオン酸、及び1.14g(4mmol)の4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−4−トルエンスルホネートを溶解させた。そして、この溶液に5.16g(25mmol)のN,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミドをさらに加え、窒素雰囲気下、室温にて一晩撹拌した。その後、不溶物をろ過することによって除去し、ろ液から溶媒を除去することによって白色固体を得た。この白色固体を150mLのn−ヘキサンを用いて再結晶させることにより、白色の針状結晶であるビフェニル−4,4'−ジイルビス(2,2,5−トリメチル−1,3−ジオキサン−5−カルボキシレート)を3.21g得た。
次に、400mLのメタノールに、10.00g(20mmol)のビフェニル−4,4'−ジイルビス(2,2,5−トリメチル−1,3−ジオキサン−5−カルボキシレート)を加え、加熱して溶解させた。そして、この溶液を室温まで冷却した後、薬さじ3杯のイオン交換樹脂(ダウエックス(登録商標))を加え、一晩撹拌した。その後、500mLのメタノールを加えて粗生成物を溶解させた。そして、ガラスフィルターを用いたろ過によって混合物からイオン交換樹脂を除去し、ろ液を濃縮することにより、白色固体のビフェニル−4,4'−ジイルビス(3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート)を8.31g得た。
【0032】
次に、60mLのピリジンに、4.18g(10mmol)のビフェニル−4,4'−ジイルビス(3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート)、触媒量(約0.4g)のN,N−ジメチル−4−アミノピリジン、及び13.64g(50mmol)の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボニルクロリドを加え、窒素雰囲気下、100℃にて一晩加熱撹拌し、反応させた。この反応物を室温まで冷却した後、2.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて再沈殿させ、そのまま一晩撹拌した。次に、析出物をろ過した後、メタノールで洗浄し、減圧下で乾燥させることによって、下記式(1)で表される白色固体のビニル化合物である2,2'−(ビフェニル−4,4'−ジイルビス(オキシ))ビス(オキソメチレン)ビス(2−メチルプロパン−3,2,1−トリイル)テトラキス(4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボキシレート)を得た。
【0033】
【化2】

【0034】
このようにして合成したビニル化合物の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このビニル化合物の融点について、示差走査熱量測定(DSC)を用い、昇温速度10℃/分の条件下で測定した。この融点の結果を表1に示した。なお、以下の実施例においても、融点の測定は、本方法と同様にして行った。
次に、このビニル化合物10gをアルミ製のシャーレに入れ、重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.012gと、溶剤としてシクロペンタノン5mlを加えて攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を170℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって均質な樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。
【0035】
(実施例2)
180mLのクロロホルムに、上記式(1)で表されるビニル化合物12.25g(9mmol)を溶解させた。そして、この溶液を氷浴で冷却撹拌しながら、この溶液に18.60g(108mmol)のm−クロロ過安息香酸を1時間かけて少量ずつ加えた後、室温にて96時間撹拌した。この溶液にクロロホルムを加えた後、400mLの5質量%亜硫酸ナトリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで飽和食塩水で数回洗浄した。そして、クロロホルム溶液(有機相)に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、溶媒を除去し、黄色固体を得た。この黄色固体を、クロロホルムを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂である2,2'−(ビフェニル−4,4'−ジイルビス(オキシ))ビス(オキソメチレン)ビス(2−メチルプロパン−3,2,1−トリイル)テトラキス(4'−(グリシジロキシ)ビフェニル−4−カルボキシレート)を得た。
【0036】
【化3】

【0037】
このようにして合成したエポキシ樹脂の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このエポキシ樹脂の融点の結果を表1に示した。
次に、このエポキシ樹脂10gを、160℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製のシャーレに入れ、予め150℃のオーブンで溶解させたジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤2.08gと溶剤のシクロペンタノン5mlを加えて攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を180℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって均質な樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。
【0038】
(実施例3)
400mLのジメチルホルムアミドに、27.20g(100mmol)の1,8−ジブロモオクタン、110.11g(1000mmol)のヒドロキノン、及び41.46g(300mmol)の炭酸カリウムを加え、窒素気流下、150℃にて一晩加熱撹拌した。その後、この溶液を水に加え、再沈殿させた。そして、析出物をろ過した後、数回水洗を行い、トルエンを用いて再結晶を行った。続いて、エタノールを用いて再結晶を行うことにより、4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ジフェノールを得た。
次に、150mLのジクロロエタンに、10.00g(30mmol)の4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ジフェノール、11.07g(64mmol)のイソプロピリデン−2,2−ビス(メトキシ)プロピオン酸、及び3.44g(12mmol)の4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−4−トルエンスルホネートを溶解させた。続いて、この溶液に、15.61g(76mmol)のN,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミドを加え、窒素雰囲気下、室温にて一晩撹拌した。その後、不溶物をろ過によって除去し、溶媒を留去して白色固体を得た。この白色固体を、クロロホルムを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ビス(4,1−フェニレン)ビス(2,2,5−トリメチル−1,3−ジオキサン−5−カルボキシレート)を得た。
【0039】
次に、200mLのアセトンに、6.43g(10mmol)の4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ビス(4,1−フェニレン)ビス(2,2,5−トリメチル−1,3−ジオキサン−5−カルボキシレート)を加えて溶解させた後、薬さじ3杯のイオン交換樹脂(ダウエックス(登録商標))を加え、室温にて一晩撹拌した。その後、ガラスフィルターを用いたろ過によって混合物からイオン交換樹脂を除去し、ろ液を濃縮することにより、白色固体の4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ビス(4,1−フェニレン)ビス(3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート)を5.57g得た。
次に、60mLのピリジンに、5.63g(10mmol)の4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ビス(4,1−フェニレン)ビス(3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート)、触媒量(約0.4g)のN,N−ジメチル−4−アミノピリジン、13.64g(50mmol)の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボニルクロリドを加え、窒素雰囲気下、100℃にて一晩撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後、2.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて再沈殿させ、そのまま一晩撹拌した。次に、析出物をろ過した後、メタノールで洗浄し、得られた白色固体を減圧下で乾燥させた。そして、この固体を、クロロホルムを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製を行うことにより、下記式(3)で表されるビニル化合物である2,2'−(4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ビス(4,1−フェニレン))ビス(オキシ)ビス(オキソメチレン)ビス(2−メチルプロパン−3,2,1−トリイル)テトラキス(4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボキシレート)を得た。
【0040】
【化4】

【0041】
このようにして合成したビニル化合物の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このビニル化合物の融点の結果を表1に示した。
次に、このビニル化合物10gを155℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製のシャーレに入れ、重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.011gを加えて攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を180℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって均質な樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。
【0042】
(実施例4)
180mLのクロロホルムに、上記式(3)で表されるビニル化合物13.57g(9mmol)を溶解させた。そして、この溶液を氷浴で冷却撹拌しながら、この溶液に18.60g(108mmol)のm−クロロ過安息香酸を1時間かけて少量ずつ加えた後、室温にて96時間撹拌した。この溶液にクロロホルムを加えた後、400mLの5質量%の亜硫酸ナトリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで400mLの2.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに飽和食塩水で数回洗浄した。クロロホルム溶液(有機層)に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、溶媒を除去し黄色固体を得た。この黄色固体を、クロロホルムを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(4)で表されるエポキシ樹脂である2,2'−(4,4'−(オクタン−1,8−ジイルビス(オキシ))ビス(4,1−フェニレン))ビス(オキシ)ビス(オキソメチレン)ビス(2−メチルプロパン−3,2,1−トリイル)テトラキス(4'−(グリシジロキシ)ビフェニル−4−カルボキシレート)を得た。
【0043】
【化5】

【0044】
このようにして合成したエポキシ樹脂の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このエポキシ樹脂の融点の結果を表1に示した。
次に、このエポキシ樹脂10gを、175℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製のシャーレに入れ、予め150℃のオーブンで溶解させたジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤1.89gを加えて攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を175℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって均質な樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。
【0045】
(実施例5)
500mLのナスフラスコに、200mLのジクロロエタン、35.40g(196mmol)の6−ブロモ−1−ヘキサノール、21.76g(215mmol)のトリエチルアミン、及び50mgのジメチルアミノピリジンを加え、氷浴下にて撹拌した。この溶液に、30.94g(205mmol)のtert−ブチルジメチルシリルクロライドをゆっくり加えた後、室温にて12時間撹拌した。その後、不溶物をろ過にて除去し、ろ液を飽和食塩水用いて2回洗浄した。ろ液(有機相)に硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、溶媒を留去し、淡黄色の液体を得た。この淡黄色の液体を、クロロホルムを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、9.00gの(6−ブロモヘキシロキシ)(tert−ブチル)ジメチルシランを得た。
次に、140mLのテトラヒドロフランに、14.97g(70mmol)の4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸、及び38.64g(140mmol)のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド40質量%水溶液を溶解させた後、この溶液を氷浴で冷却撹拌しながら、この溶液に8.46g(70mmol)のアリルブロミドのテトラヒドロフラン溶液30mLを滴下した。そして、この溶液を室温で一晩撹拌し、濃縮した後、1Lの水に加えた。次に、この溶液を氷浴で冷却撹拌しながら、この溶液に150mLの塩酸水(1N)を徐々に加えた。そして、析出物をろ別した後、析出物を少量のメタノールで洗浄し、真空下で乾燥させた。その後、1.5Lのエタノールを用いて再結晶を行い、白色結晶である4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボン酸を12.63g得た。
【0046】
次に、100mLの塩化チオニルに、2〜3滴のジメチルホルムアミド、及び12.62g(50mmol)の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボン酸を加え、窒素気流下、40℃にて一晩加熱撹拌を行った。その後、過剰分の塩化チオニルを減圧留去し、20mLのn−ヘキサンを加えて残存する塩化チオニルの減圧留去作業を3回繰り返し行った。その後、500mLのn−ヘキサンを用いて再結晶を行うことにより、白色結晶である4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボニルクロリドを12.63g得た。
次に、還流管及び窒素導入管を備えた300mLの三口フラスコに、110mLのエタノール、及び4.79g(29mmol)の1,4−ベンゼンジボロン酸を加えて溶解させた。続いて、その溶液に15.71g(64mmol)の1−ブロモ−3,4,5−トリメトキシベンゼン加え、再度撹拌して溶解させた。さらに、その溶液に2Nの炭酸ナトリウム水溶液を加え、撹拌しながら20分間窒素バブリングを行った。次に、その溶液に、3.68g(3mmol)のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を素早く加え、窒素気流下、85℃にて36時間撹拌した。その後、この溶液を減圧留去し、析出した固体を300mLのジクロロメタンに溶解させ、50mLの水で2回洗浄した。このジクロロメタン溶液(有機相)に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、エバポレーターを用いて溶媒を減圧留去し、黄色固体を得た。この黄色固体を、100mLのメタノールで2回加熱洗浄することにより、3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサメトキシ−1,1’,4’,1”−ターフェニルを11.30g得た。
【0047】
次に、滴下漏斗、窒素導入管及びアルカリトラップを備えた500mLの三口フラスコに、7.39g(18mmol)の3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサメトキシ−1,1’,4’,1”−ターフェニル、及び300mLのジクロロエタンを加え、撹拌しながら窒素置換を行った。続いて、三口フラスコに、氷浴下、滴下漏斗を用いて40.59g(163mmol)の三臭化ホウ素をゆっくり加えた後、室温で12時間撹拌した。その後、この溶液を500mLの水にゆっくりと加え、1時間撹拌した。そして、析出物をろ過した後、水洗することにより、3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサヒドロキシ−1,1’,4’,1’−ターフェニルを5.5g得た。
次に、窒素導入管及び還流管を備えた30mLの三口ナスフラスコに、10mLの脱水ジメチルホルムアミド、5.31g(18mmol)の(6−ブロモヘキシロキシ)(tert−ブチル)ジメチルシラン、0.989g(3mmol)の3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサヒドロキシ−1,1’,4’,1”−ターフェニル、7.46g(54mmol)の乾燥した炭酸カリウム、50mgのヨウ化カリウムを加え、窒素置換を行った。続いて、この混合物を、窒素気流下、90℃にて36時間撹拌した。その後、析出した褐色固体をろ別し、水で洗浄した。得られた固体をジクロロメタンに溶解させ、その溶液に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を、クロロホルムとn−ヘキサンの混合溶媒(体積比1:9)を溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサ(6−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)ヘキシロキシ)−1,1’,4’,1”−ターフェニルを2.00g得た。
【0048】
次に、滴下漏斗を備えた30mLの三口ナスフラスコに、2mLの脱水テトラヒドロフラン、及び1.61g(1mmol)の3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサ(6−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)ヘキシロキシ)−1,1’,4’,1”−ターフェニルを加え、溶解させた。続いて、三口ナスフラスコに、氷浴下、滴下漏斗を用いて18mL(18mmol)の1Nテトラブチルアンモニウムフロリド含有テトラヒドロフラン溶液をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。その後、テトラヒドロフランを減圧留去し、ジエチルエーテルを用いて抽出を行った。そして、ジエチルエーテル溶液(有機相)に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、溶媒を減圧留去し、白色固体を得た。この白色固体を3mLの酢酸エチルを用いて再結晶を行うことにより、3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサ(6−ヒドロキシヘキシロキシ)−1,1’,4’,1”−ターフェニルを0.65g得た。
次に、10mLのナスフラスコに、1.5mLのテトラヒドロフラン、0.10g(0.11mmol)の3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサ(6−ヒドロキシヘキシロキシ)−1,1’,4’,1”−ターフェニル、0.46g(4.6mmol)のトリエチルアミン、及び18mgのジメチルアミノピリジンを加え、溶解させた。続いて、このナスフラスコに、氷浴下、0.21g(0.78mmol)の4'−(アリロキシ)ビフェニル−4−カルボニルクロリドを少量ずつ加えて反応させた。反応終了後、溶媒を減圧留去し、析出した固体をろ別した。この固体を、ジクロロエタンを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(5)で表されるビニル化合物である3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサ(6−(4’−(アリロキシ)ビフェニルカルボニロキシ)ヘキシロキシ)−1,1’,4’,1”−ターフェニルを得た。
【0049】
【化6】

【0050】
このようにして合成したビニル化合物の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このビニル化合物の融点の結果を表1に示した。
次に、このビニル化合物10gを110℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製のシャーレに入れ、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.007gを加えて攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を140℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって均質な樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。
【0051】
(実施例6)
10mLのナスフラスコに、4mLのクロロホルム、上記式(5)で表されるビニル化合物0.93g(0.40mmol)を溶解させた。そして、この溶液を氷浴で冷却撹拌しながら、1.26g(7.3mmol)のm−クロロ過安息香酸を30分かけて少量ずつ加えた後、室温にて36時間撹拌した。この溶液にクロロホルムを加えた後、3mLの5質量%の亜硫酸ナトリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで10mLの2.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに飽和食塩水で数回洗浄した。クロロホルム溶液(有機相)に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、溶媒を留去して黄色固体を得た。この黄色液体を、クロロホルムを溶出液としたカラムクロマトグラフィーにて精製を行うことにより、下記式(6)で表されるエポキシ樹脂である3,3”,4,4”,5,5”−ヘキサ(6−(4’−(グリシジロキシ)ビフェニルカルボニロキシ)ヘキシロキシ)−1,1’,4’,1”−ターフェニルを0.53g得た。
【0052】
【化7】

【0053】
このようにして合成したエポキシ樹脂の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このエポキシ樹脂の融点の結果を表1に示した。
次に、このエポキシ樹脂10gを130℃に加熱し、ジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤1.22gを加えて攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を150℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって均質な樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。
【0054】
(実施例7)
上記式(6)で表されるエポキシ樹脂30gと、ジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤3.66gと、メチルエチルケトン(MEK)104.34gとを攪拌混合した後、樹脂硬化物中の窒化ホウ素粒子(無機充填材、昭和電工株式会社製)が50体積%となるように窒化ホウ素粒子65.79gを添加して十分に攪拌混合することによって均一な樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物をマルチコーターにてPETフィルム上に塗工して乾燥させた後、160℃で4時間加熱して重合させることによって、厚みが100μmの均質な樹脂硬化物のシートを得た。なお、この樹脂組成物は、塗工性やシートへの成形性も良好であった。
【0055】
(比較例1)
下記式(7)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂を公知の方法によって合成した。
【0056】
【化8】

【0057】
なお、エポキシ樹脂の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。また、このエポキシ樹脂の融点の結果を表1に示した。
次に、上記式(7)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂10gを190℃に加熱し、ジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤3.1gを加えて攪拌混合することによって樹脂組成物を調製した。しかしながら、調製時にエポキシ樹脂の硬化反応が急速に進んでしまったため、均一混合が難しく、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。次に、この樹脂組成物を190℃のオーブンで4時間加熱して重合させることによって樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、重合体における分子鎖の配列が確認された。ただし、この樹脂硬化物は不均質であった。
【0058】
(比較例2)
上記式(7)で表されるエポキシ樹脂30gと、ジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤9.3gとを均一に攪拌混合した後、樹脂硬化物中の窒化ホウ素粒子(無機充填材、昭和電工株式会社製)が50体積%となるように窒化ホウ素粒子74.34gを添加し、さらにメチルエチルケトン(MEK)117.9gを添加して十分に攪拌混合することによって樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物をマルチコーターにてPETフィルム上に塗工して乾燥させたところ、乾燥中に樹脂成分が剥がれ落ち、評価に値するような樹脂硬化物のシートを得ることができなかった。この結果は、使用したビフェニル型エポキシ樹脂が、高い結晶性を有しているために溶剤への溶解性が低く、また融点が高いことに起因しているものと考えられる。
【0059】
実施例1〜7及び比較例1〜2で得られた樹脂硬化物及びそのシートについて、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(理学電機株式会社製LF/TCM−FA8510B)を用いて厚み方向における熱拡散率及び比熱を測定した。また、各樹脂硬化物及びそのシートについて、水中置換法を用いて密度を測定した。これらの測定値を基に、下記式から各樹脂硬化物及びそのシートの熱伝導率を算出した。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度
その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1において、実施例1〜6と比較例1との比較(無機充填材を含まない樹脂組成物同士の比較)からわかるように、実施例1〜6の樹脂組成物から得られる樹脂硬化物は、比較例1の樹脂組成物から得られる樹脂硬化物に比べて高い熱伝導率を有していた。
また、実施例1及び2の樹脂組成物では、化合物の融点が高かったものの、溶剤に対する化合物の溶解性が高かったために、均一な樹脂組成物を得ることができた。これに対して比較例1の樹脂組成物では、溶剤に対する溶解性が低かったため、化合物の融点よりも高い温度に加熱して樹脂組成物を調製する必要があった。しかし、この高温加熱によってエポキシ樹脂の硬化反応が急速に進んでしまった結果、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。
【0062】
また、実施例7と比較例2との比較(無機充填材を含む樹脂組成物同士の比較)からわかるように、実施例7の樹脂組成物では、無機充填材を配合した場合であっても、溶剤に対する化合物の溶解性が高かったために、均一な樹脂組成物を得ることができた。そして、この樹脂組成物は、シートへの成形性も良好であった。これに対して実施例2の樹脂組成物では、溶剤に対する化合物の溶解性が低かったために、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。そして、この樹脂組成物は、シートへの成形性も十分でなかった。
【0063】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れた樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質な樹脂硬化物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に重合性基を有する分岐鎖が主鎖の両端に結合されており、且つ前記主鎖及び前記分岐鎖の少なくとも1つがメソゲン基を有する化合物を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記メソゲン基は、安息香酸フェニル、ビフェニル、ベンゾフェノン、フェニルエーテル、ベンズアニリド、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記分岐鎖における末端の重合性基は、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、水酸基、アクリロイル基、シクロヘキセン基、メタクリロイル基、シンナモイル基、イソシアナート基及びジカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記分岐鎖は、前記主鎖の両端にそれぞれ2つ以上ずつ結合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記主鎖及び前記分岐鎖の少なくとも1つは、屈曲性基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記化合物は、単独重合可能な基を前記重合性基として有する単量体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記化合物は、エポキシ基を前記重合性基として有するエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記化合物は、エポキシ基と反応可能な基を前記重合性基として有するエポキシ樹脂用硬化剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
無機充填材をさらに含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を重合させて得られることを特徴とする樹脂硬化物。
【請求項11】
絶縁シートとして使用されることを特徴とする請求項10に記載の樹脂硬化物。

【公開番号】特開2011−153265(P2011−153265A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17239(P2010−17239)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】