説明

樹脂組成物

【課題】位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材の積層、あるいは特定の光学特性を有する微粒子の添加などを行うことなく、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる、逆波長分散性を有する複屈折部材を実現できる新規な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】固有複屈折が正であり、主鎖に環構造を有する重合体(A)と、固有複屈折が負であり、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)とを含む樹脂組成物とする。環構造は、例えば、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造である。上記不飽和単量体単位は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材、具体的には位相差板などの複屈折性を有する光学部材、の製造に用いられる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した、複屈折性を有する光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。例えば、複屈折により生じる位相差を利用した位相差板が、画像表示装置の色調の補償、視野角の補償などに広く用いられている。具体的な例として、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が用いられる。また例えば、有機ELディスプレイ(OLED)では、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを所定の角度で組み合わせた反射防止板が用いられることがある。これら複屈折性を有する光学部材(以下、単に「複屈折部材」ともいう)は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
複屈折部材には、これまで、ポリカーボネート、環状オレフィンが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)特性を有する。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、少なくとも可視光の領域において、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を有する複屈折部材が望まれる。なお、本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子(ならびに当該高分子により形成された複屈折部材)が有する波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
これまで、逆波長分散性を有する複屈折部材を得るために、位相差あるいは波長分散性が異なる2種の複屈折部材を積層したり、特定の光学特性を有する微粒子を部材に添加したりすることがなされている(例えば、微粒子の添加について、特許文献1を参照)。しかし、2種の複屈折部材を積層して逆波長分散性を実現するためには、双方の部材を所定の角度で精密に裁断し、さらに両者を所定の角度で精密に積層することが求められるため、製造工程が複雑となって、複屈折部材のコスト性、生産性に大きな課題が生じる。また、モバイル機器に用いる画像表示装置では、その小型化、軽量化に対する要求が高いが、2種の部材を積層して逆波長分散性を実現する方法では、得られる複屈折部材が厚くなるため、この要求への対応が難しい。一方、微粒子を添加する方法では、製造工程が複雑となり、複屈折部材のコスト性、生産性に大きな課題が残る。
【0005】
これらの技術とは別に、特許文献2には、正の固有複屈折を有するポリマーと、負の固有複屈折を有するポリマーとをブレンドして得た、逆波長分散性を有する位相差板が開示されている。当該文献には、正の固有複屈折を有するポリマーとしてノルボルネン系樹脂が、負の固有複屈折を有するポリマーとしてスチレン系ポリマーが例示されている。
【特許文献1】特開2005−156864号公報
【特許文献2】特開2001−337222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材の積層、あるいは特定の光学特性を有する微粒子の添加などを行うことなく、逆波長分散性を有する複屈折部材を実現可能な、新規の樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、固有複屈折が正であり、主鎖に環構造を有する重合体(A)と、固有複屈折が負であり、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)と、を含む。
【0008】
なお、固有複屈折とは、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)における、分子鎖が配向する方向(配光軸)に平行な方向の光の屈折率n1から、配光軸に垂直な方向の光の屈折率n2を引いた値(即ち、“n1−n2”)をいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、固有複屈折が正の重合体(A)と固有複屈折が負の重合体(B)とを含むが、例えば樹脂組成物を成形した後に延伸を加えることによって、双方の重合体に対して同一方向に配向を加えると、各々の重合体の遅相軸(あるいは進相軸)が直交するために、互いの複屈折が打ち消しあう。このとき、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なるために、逆波長分散性を有する複屈折部材を形成できる。即ち、本発明の樹脂組成物によれば、位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材の積層、あるいは特定の光学特性を有する微粒子の添加などを行うことなく、逆波長分散性を有する複屈折部材を実現できる。
【0010】
また、本発明の樹脂組成物では、固有複屈折が負である重合体(B)が、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を主鎖に有する。このような重合体(B)の複屈折の波長分散性は、固有複屈折が正であり、主鎖に環構造を有する重合体(A)に比べて、かなり大きい。本発明の樹脂組成物では、このように、複屈折の波長分散性が大きく異なる重合体(A)と(B)とを組み合わせており、複屈折部材としたときの逆波長分散性の制御の自由度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[重合体(A)]
重合体(A)は、固有複屈折が正であり、かつ主鎖に環構造を有する重合体である限り特に限定されない。
【0012】
重合体(A)の環構造として、例えば、エステル基、イミド基、または酸無水物基を有する環構造が挙げられる。
【0013】
環構造のより具体的な例として、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、または無水グルタル酸構造が挙げられる。これらの環構造を主鎖に有する重合体(A)は、配向によって大きな正の固有複屈折を示すため、重合体(B)と組み合わせた樹脂組成物とすることにより、複屈折部材としたときの逆波長分散性の制御の自由度をより向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する複屈折部材を実現できる。
【0014】
重合体(A)の環構造は、ラクトン環構造またはグルタルイミド構造が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。これらの環構造を主鎖に有する重合体(A)は、上述したように、配向によって大きな正の固有複屈折を示すが、さらに、その波長分散性が非常に小さいという特徴を有する。このため、主鎖にラクトン環構造またはグルタルイミド構造、好ましくはラクトン環構造、を有する重合体(A)と、重合体(B)とを組み合わせた樹脂組成物とすることにより、複屈折部材としたときの逆波長分散性の制御の自由度をさらに向上できる。
【0015】
重合体(A)が有していてもよい具体的なラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(1)に示される構造であってもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0018】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0019】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0020】
重合体(A)が有していてもよいグルタルイミド構造は、以下の式(2)により示される環構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を重合した後、得られた重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0021】
【化2】

【0022】
上記式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0023】
重合体(A)が有していてもよい無水グルタル酸構造は、以下の式(3)により示される環構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0024】
【化3】

【0025】
上記式(3)において、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0026】
重合体(A)は、構成単位として(メタ)アクリル酸エステル単位およびその誘導体である上記環構造を含む(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。このような重合体(A)を含む樹脂組成物とすることによって、透明性、機械的強度、成型加工性などの諸特性に優れる複屈折部材を実現できる。(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に占める、(メタ)アクリル酸エステル単位の割合およびその誘導体である上記環構造の割合の合計は、通常、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0027】
なお、式(1)〜(3)の説明において例示した、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、および無水グルタル酸構造を形成する各方法では、各々の環構造の形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を含むため、(メタ)アクリル系樹脂の重合体(A)を得ることができる。
【0028】
重合体(A)は、正の固有複屈折を有し、かつ主鎖に環構造を有する限り、任意の構成単位を含んでいてもよい。例えば、(メタ)アクリル系樹脂である重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位(例えば、上述したMMA単位、MHMA単位)を含む。また例えば、重合体(B)との相容性を向上できることから、重合体(A)が、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を含んでいてもよい。α,β−不飽和単量体単位の具体例は、重合体(B)の説明において後述するが、例えば、ビニルカルバゾール単位である。
【0029】
重合体(A)は公知の方法により製造できる。
【0030】
環構造としてラクトン環構造を有する重合体(A)は、例えば、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を任意の触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて、得ることができる。具体的には、重合体(A)は、特開2001−151814号公報に記載の方法により製造できる。
【0031】
重合体(a)は、例えば、以下の式(4)に示される単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
【0032】
【化4】

【0033】
上記式(4)において、R9およびR10は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基と同様の基である。
【0034】
式(4)により示される単量体の具体的な例としては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。なかでも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する複屈折部材が実現できることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。
【0035】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(4)により示される単量体を2種以上含んでいてもよい。
【0036】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(4)により示される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体は、式(4)により示される単量体と共重合できる単量体である限り特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。
【0037】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルとしては、式(4)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する複屈折部材が実現できることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
【0038】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、これら(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでいてもよい。
【0039】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、重合体(a)を環化縮合反応させて得られた重合体(A)が正の固有複屈折を有する限り、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体、例えば以下の式(5)に示されるビニルカルバゾール、を含んでいてもよい。この場合、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(例えばビニルカルバゾール単位)を構成単位として含む重合体(A)とすることができ、重合体(B)との相容性を向上できる。
【0040】
【化5】

【0041】
なお、式(5)に示す環上の水素原子の一部が、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0042】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、その他、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの単量体を、1種または2種以上含んでいてもよい。
【0043】
重合体(A)は主鎖に環構造を有するため、本発明の樹脂組成物によれば、耐熱性に優れる複屈折部材を形成できる。
【0044】
[重合体(B)]
重合体(B)は、固有複屈折が負であり、かつ複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する限り特に限定されない。複素芳香族基を有する上記不飽和単量体単位は、当該単位を主鎖に含む重合体(B)の波長分散性を大きく増加させる作用を有する。このため、重合体(A)、特に環構造としてラクトン環構造またはグルタルイミド構造を有する重合体(A)(上述したように、ラクトン環構造またはグルタルイミド構造を有する重合体(A)、なかでもラクトン環構造を有する重合体(A)、の波長分散性は非常に小さい)、との組み合わせにより、複屈折部材としたときの逆波長分散性の制御の自由度をさらに向上できる。
【0045】
なお、特許文献2(特開2001−337222号公報)に開示されている樹脂の組み合わせでは、両者の波長分散性の差はそれほど大きくないため、重合体(A)と(B)とを組み合わせたときのような効果を得ることができない。
【0046】
また、上記不飽和単量体単位が重合体(B)の波長分散性を大きく増加させる作用を有することから、重合体(B)の全構成単位に占める上記不飽和単量体単位の割合が低い場合にも、重合体(B)は大きな波長分散性を示す(本願比較例3の結果[表6]を参照。なお、ポリカーボネート、ポリスチレンなど、従来の光学部材に用いられている樹脂は、ホモポリマーの場合においても、本願実施例で示す可視光領域内のR/R0値にして、およそ0.95〜1.15程度の範囲に入る波長分散性しか示さない)。一方、芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を増大させる作用を通常有するため、光学部材用の樹脂組成物とする場合には、当該組成物における芳香環の含有量を抑えることが望まれる。本発明の樹脂組成物では、上記不飽和単量体単位の割合が低いときにも大きな波長分散性を示す重合体(B)を用いているため、樹脂組成物中の芳香環の含有量を低減でき、複屈折部材としたときの光弾性係数の上昇を抑制できる。
【0047】
上記不飽和単量体単位の種類は特に限定されない。複素芳香族基におけるヘテロ原子は、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子であるが、重合体(B)の波長分散性を増大させる作用に優れることから、窒素原子が好ましい。
【0048】
上記不飽和単量体単位の具体的な種類は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位、およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。
【0049】
重合体(B)の波長分散性を増大させる作用に特に優れることから、上記不飽和単量体単位は、ビニルカルバゾール単位およびビニルピリジン単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ビニルカルバゾール単位がより好ましい。
【0050】
ビニルカルバゾール単位は、以下の式(6)に示される構成単位である。なお、式(6)に示す環上の水素原子の一部が、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0051】
【化6】

【0052】
重合体(B)の具体的な構成は、固有複屈折が負であり、かつ複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有する限り特に限定されず、例えば、上記不飽和単量体と他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0053】
より具体的には、重合体(B)は、上記不飽和単量体と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、即ち、構成単位として(メタ)アクリル酸エステル単位を含む樹脂であってもよい。この場合、重合体(A)が(メタ)アクリル系樹脂であるときに、重合体(A)と重合体(B)との相容性を向上できる。このような重合体(B)として、例えば、ビニルカルバゾールと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が挙げられる。
【0054】
また例えば、重合体(B)は、重合体(A)が有する環構造と同様の環構造を主鎖に有していてもよい。この場合、より耐熱性に優れる複屈折部材を形成できる。
【0055】
重合体(B)は、公知の方法により製造できる。
【0056】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物における重合体(A)と重合体(B)との混合比は、各重合体の固有複屈折の絶対値、あるいは、複屈折部材としたときに要求される逆波長分散性の程度などに応じて調整できる。例えば、正の固有複屈折を有する樹脂組成物とする場合、樹脂組成物の固有複屈折が正となる範囲で、重合体(A)と(B)とを混合すればよい。
【0057】
樹脂組成物全体に含まれる上記環構造の含有率X1(重量%)と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位の含有率X2(重量%)に着目すると、X1とX2との比は、例えば、X1:X2=99.5:0.5〜70:30の範囲であり、X1:X2=95:5〜75:25の範囲が好ましく、X1:X2=95:5〜80:20の範囲がより好ましい。この範囲において、複屈折部材としたときの逆波長分散性の制御の自由度をより向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する複屈折部材を形成できる。
【0058】
なお、環構造の含有率X1は、特開2001−151814号公報に記載の方法により評価できる。ビニルカルバゾール単位をはじめとする上記不飽和単量体単位の含有率X2は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)、により求めることができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、例えば、重合体(A)および(B)を、双方の重合体を溶解する溶媒に溶解させて、得ることができる。重合体(A)および(B)を溶解させた溶液は、そのまま流通させることも可能であるし、溶媒を揮発させて、固形の樹脂組成物として流通させてもよい。
【0060】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲を限度に、重合体(A)および(B)以外の重合体、あるいはその他の各種の材料を含んでいてもよい。このような材料として、例えば、重合体(A)および(B)の相容性を向上させる相溶化剤、あるいは、重合体(A)および(B)を溶液としたときに、当該溶液の安定性を向上させる安定化剤、などが挙げられる。
【0061】
[複屈折部材]
本発明の樹脂組成物から、例えば、複屈折部材を形成できる。この場合、本発明の樹脂組成物は、複屈折部材用樹脂組成物であるともいえる。
【0062】
本発明の樹脂組成物から形成した複屈折部材(本発明の複屈折部材)は、逆波長分散性を有する。即ち、当該複屈折部材は、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折(あるいは、位相差もしくはリターデーション)が小さくなる複屈折特性を有する。このような複屈折部材は広帯域の複屈折部材であり、例えば、この複屈折部材を用いることにより、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
【0063】
また、本発明の複屈折部材は、例えば、単層でありながら逆波長分散性を示す。このため当該複屈折部材は、その生産性、コスト性に優れる他、当該複屈折部材が組み込まれた画像表示装置の小型化、軽量化、低コスト化などを図ることができる。
【0064】
本発明の複屈折部材の具体的な形状は特に限定されない。複屈折部材としての用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、シートあるいはフィルムとしてもよい。
【0065】
本発明の複屈折部材は、その用途に応じて、他の光学部材(光学部材には複屈折部材が含まれる)と組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明の複屈折部材の具体的な種類も特に限定されず、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4として、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
【0067】
本発明の複屈折部材は、特にその用途が制限されることなく、従来の複屈折部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0068】
本発明の樹脂組成物に含まれる重合体(A)は、その主鎖に環構造を有する。このため、本発明の複屈折部材は、高い耐熱性を有し、例えば、画像表示装置において、光源などの発熱部に近接した配置が可能である。
【0069】
本発明の樹脂組成物から複屈折部材を形成する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。本発明の樹脂組成物が溶液状である場合、例えば、当該溶液をキャストなどの手法により成形してシートとし、得られたシートを所定の方向に延伸、典型的には一軸延伸あるいは逐次二軸延伸、し、シートに含まれる双方の重合体の分子鎖を配向させることで、シート状の複屈折部材を形成できる。固形の樹脂組成物であれば、例えば、溶融押出やプレス成形などの成形手法により樹脂組成物をシートあるいはフィルムとし、得られたシート(フィルム)を上述したように所定の方向に延伸して、シート状(フィルム状)の複屈折部材を形成できる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0071】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、35重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0072】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0073】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(A−1)を形成した。
【0074】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部のMHMA、25重量部のMMA、10重量部のメタクリル酸ベンジル、および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
【0075】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0076】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(A−2)を形成した。
【0077】
形成した重合体(A−2)の固有複屈折を、実施例1に記載の方法で延伸フィルム化した重合体(A−2)の配向角を全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて測定することにより評価したところ、正であった。
【0078】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた反応装置に、10重量部のビニルカルバゾール、18重量部のMHMA、72重量部のMMA、および重合溶媒として80重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0079】
次に、得られた重合溶液に10重量部のトルエンに溶解させた0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、還流下において2時間、上記重合により形成した重合体中のMHMA単位とMMA単位との間に環化縮合反応を進行させた。
【0080】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、ビニルカルバゾール単位を主鎖に有する透明な重合体(B−1)を形成した。なお、得られた重合体(B−1)は、その主鎖にラクトン環構造を有するが、この環構造は、重合体(B−1)と、重合体(A−1)または(A−2)との相容性を向上させることを目的として形成した。
【0081】
(実施例1)
重合体(A)として製造例1で作製した重合体(A−1)10重量部と、重合体(B)として製造例3で作製した重合体(B−1)20重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させ、得られた溶液を攪拌して、重合体(A−1)および(B−1)を均一に混合した。次に、得られた混合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、固形の樹脂組成物30重量部を得た。
【0082】
次に、得られた樹脂組成物を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製、TYPE EX4)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。
【0083】
得られた延伸フィルムの位相差(フィルム面内の位相差)の波長分散性ならびに配向角を、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表1に示す。なお、測定波長を589nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差Rとの比(R/R0)を併せて示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、実施例1で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0086】
実施例1で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0087】
(実施例2)
重合体(A)として、重合体(A−1)の代わりに、製造例2で作製した重合体(A−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを作製し、作製した延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に示すように、実施例2で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0090】
実施例2で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は0.6°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0091】
(実施例3)
重合体(A)としてアクリルイミド樹脂(ロームアンドハース社製、KAMAX T−240)10重量部と、重合体(B)として製造例3で形成した重合体(B−1)25重量部とを用いた以外は、実施例1と同様にして、固形の樹脂組成物35重量部を得た。なお、重合体(A)として用いたアクリルイミド樹脂は、以下の式(7)に示すように、その構成単位としてN−メチル−ジメチルグルタルイミド単位およびメチルメタアクリレート単位を有する。
【0092】
【化7】

【0093】
次に、得られた樹脂組成物を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製、TYPE EX4)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルムを得た。
【0094】
次に、得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3に示すように、実施例3で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0097】
実施例3で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−2.1°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0098】
(比較例1)
製造例1で形成した重合体(A−1)のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、重合体(A−1)の延伸フィルム(厚さ40μm)を得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表4に示す。
【0099】
【表4】

【0100】
表4に示すように、比較例1で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
【0101】
比較例1で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0102】
(比較例2)
実施例3で用いたアクリルイミド樹脂のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、厚さ50μmの延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表5に示す。
【0103】
【表5】

【0104】
表5に示すように、比較例2で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
【0105】
比較例2で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0106】
(比較例3)
製造例3で形成した重合体(B−1)のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、重合体(B−1)の延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表6に示す。
【0107】
【表6】

【0108】
表6に示すように、比較例3で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
【0109】
比較例3で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は89.4°であり、即ち、その固有複屈折は負であった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の樹脂組成物によれば、位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材の積層、あるいは特定の光学特性を有する微粒子の添加などを行うことなく、逆波長分散性を有する複屈折部材を実現できる。また、本発明の樹脂組成物によれば、複屈折部材としたときの逆波長分散性の制御の自由度を向上できる。
【0111】
本発明の樹脂組成物から形成した複屈折部材は、従来の複屈折部材と同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用でき、この複屈折部材の使用により、画像表示装置の小型化、軽量化が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折が正であり、主鎖に環構造を有する重合体(A)と、
固有複屈折が負であり、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)と、を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位、およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記環構造が、エステル基、イミド基、または酸無水物基を有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記環構造が、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、または無水グルタル酸構造である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記環構造が、ラクトン環構造、またはグルタルイミド構造である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記環構造が、ラクトン環構造である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記環構造が、以下の式(1)により示されるラクトン環構造である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【化1】

上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基であり、当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【請求項9】
前記重合体(A)が、(メタ)アクリル系樹脂である請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記重合体(B)が、構成単位として(メタ)アクリル酸エステル単位を有する請求項9に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−162850(P2009−162850A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339806(P2007−339806)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】