説明

樹脂組成物

【課題】耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性を同時に高いレベルで達成できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)ポリフェニレンエ−テル100質量部に対し、(b)イオウ系安定剤0.1〜3質量部、(c)ヒンダードフェノール系安定剤0〜3質量部、(d)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体0〜100質量部を含有する、樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性を同時に高いレベルで達成できる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリフェニレンエーテルは耐熱性、耐熱水性、寸法安定性および機械的、難燃性、電気的性質などの優れた性質を有する樹脂であるが、一方、その溶融粘度が高いために成形性が悪い、また耐薬品性が悪い、耐衝撃性が低い等の欠点を有している。そこでポリフェニレンエーテルのこのような欠点を改良するためポリフェニレンエーテルと他の樹脂とのアロイ化、あるいはポリフェニレンエーテルの変性が従来から行われてきた。
これらのポリフェニレンエーテル系アロイ樹脂は、安定剤なしでは、その耐熱老化性は十分でなく、実用材料として供するために、さまざまな安定化処方が検討されてきた。
なかでも、イオウ系化合物を安定剤として用い、ヒンダードフェノールやフォスファイトなどのリン系化合物を併用することが、耐熱老化性を向上するために提案されてきた。
【0003】
しかしながら、その薄肉成形品、特にフィルムに関しての耐熱老化性、製膜性、ヒンジ特性については、十分ではなかった。(特許文献1〜11参照)
【特許文献1】特開昭63−128066号公報
【特許文献2】特開昭63−286465号公報
【特許文献3】特開平3−215552号公報
【特許文献4】特開平7−157650号公報
【特許文献5】特開平7−196869号公報
【特許文献6】特開平8−48867号公報
【特許文献7】特開平10−237245号公報
【特許文献8】特開2000−154290号公報
【特許文献9】特開2003−55531号公報
【特許文献10】特開平9−227774号公報
【特許文献11】特表2003−531944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性を同時に高いレベルで達成できる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、特定のポリフェニレンエーテルと特定の安定剤を特定の比率にて配合することが、耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性を同時に高いレベルで達成できることを見出した。さらに、樹脂組成物中のポリフェニレンエーテルが、特定の分子量成分を有し、特定の安定剤を含有させることが、耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性を同時に高いレベルで達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
1.(a)ポリフェニレンエ−テル100質量部に対し、(b)イオウ系安定剤0.1〜3質量部、(c)ヒンダードフェノール系安定剤0〜3質量部、(d)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体0〜100質量部を含有する、樹脂組成物、
2.(b)成分が、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ビス〔2−メチル−4−{3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル〕スルフィド、テトラキス〔メチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネート〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(ミリスチルチオ)プロピオネート〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(ステアリルチオ)プロピオネート〕メタン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のイオウ系安定剤である、上記1に記載の樹脂組成物、
【0007】
3.(d)成分の構造が、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロック(B)として、A−B型および/またはA−B−A型および/またはA−B−A−B型である水添ブロック共重合体である、上記1または2に記載の樹脂組成物、
4.(d)成分が、(a)ポリフェニレンエ−テル100質量部に対し、1〜100質量部を含有する、上記1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物、
5.(d)成分の水素添加率が、80%以上である、上記1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物、
6.(a)ポリフェニレンエ−テルが、10,000以下の分子量が全分子量の総和に対して、15質量%以下である、上記1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物、
【0008】
7.(a)ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が1〜900質量部含有される、上記1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物、
8.(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が、ビニル芳香族化合物重合体、ビニル芳香族化合物共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド66/6、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する、上記7に記載の樹脂組成物、
【0009】
9.(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が、ビニル芳香族化合物共重合体、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する、上記7に記載の樹脂組成物、
10.(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、液晶ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する、上記7に記載の樹脂組成物、
11.(e)成分のビニル芳香族化合物共重合体が、芳香族ビニル−マレイミド系共重合体である、上記8または9のいずれかに記載の樹脂組成物、
【0010】
12.芳香族ビニル−マレイミド共重合体のガラス転移温度が170℃以上である、上記11に記載の樹脂組成物、
13.芳香族ビニル−マレイミド共重合体のガラス転移温度が200℃以上である、上記11に記載の樹脂組成物、
14.(a)ポリフェニレンエ−テルが、フェノール性水酸基をフェニレンエーテルユニットの100個に対して1.80個以下含有する、上記1〜13のいずれかに記載の樹脂組成物、
15.(a)ポリフェニレンエーテルが、2,3,6−トリメチルフェノールを15〜40質量%と2,6−ジメチルフェノールを85〜60質量%が共重合された共重合体である、上記1〜14のいずれかに記載の樹脂組成物、
【0011】
16.(a)ポリフェニレンエーテル共重合体が、アルコール溶媒を含む溶媒中で、スラリー状態での重合により得られる、上記15に記載の樹脂組成物、
17.(a)と(e)の合計100質量部に対して(f)難燃剤が1〜30質量部含む、上記1〜16のいずれかに記載の樹脂組成物、
18.(f)難燃剤が、ホスフィン酸塩である、上記17に記載の樹脂組成物、
19.上記1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物であって、厚みが150μm以下のフィルム用樹脂組成物、
20.上記1〜19のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム、
21.上記1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物を射出成形して得られる成形体、を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性を同時に高いレベルで達成できる樹脂組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の(a)ポリフェニレンエーテルとは、(式1)の繰り返し単位構造
【0014】
【化1】

【0015】
(R、Rは、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、アミノアルキルまたは炭化水素オキシを表す。R、Rは、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキルまたはフェニルを表す。)
からなり、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が、0.15〜1.0dl/gの範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体である。さらに好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、最も好ましくは0.40〜0.60の範囲である。
【0016】
具体例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましい。この共重合体の場合、耐熱性の観点から、2,3,6−トリメチルフェノールのコモノマーとしての量は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、特により好ましくは、25質量%以上である。一方、上限は重合度の観点から、40質量%以下が好ましく、さらに30質量%以下が好ましい。
【0017】
このコポリマーの重合方法としては、分子量分布をシャープにするという観点から、スラリー状態での重合により得ることが好ましい。スラリー状態とは、重合溶媒の種類を良溶媒と貧溶媒を組み合わせることで、重合度が進むにつれ、系内が完全溶液均一ではなく、パウダーが析出しながら、重合が進行する状態である。特に貧溶媒として、アルコール溶媒を含む溶媒が好ましい。ここで、アルコール溶媒とは、公知の脂肪族あるいは脂環式の水酸基を有する溶媒のことである。アルコール溶媒としては、炭素数1から8のアルコール性溶媒が好ましい。より好ましくは炭素数1から6のアルコール性溶媒で、特に好ましくは炭素数1から4のアルコール性溶媒である。本発明の反応に使用されるアルコール溶媒としては炭素数98以上のアルコール性溶媒は、沸点が高く、溶媒を容易に留去によって取り除くことができないので好ましくない。
【0018】
炭素数1から8のアルコール性溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等が挙げられる。これらのアルコール性溶媒は単独でも使用できるし、複数のアルコール性溶媒を混合して使用しても良い。これらのアルコール性溶媒は単独でも用いることができるが、他の炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、極性溶媒から選ばれる少なくとも1種以上の溶媒との混合溶媒として用いる方が好ましい。
また、ホモポリマーでは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0019】
本発明で使用する(a)ポリフェニレンエーテルの製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合する方法がある。米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の明細書、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号の各公ポリフェニレンエーテル報等に記載された方法も(a)ポリフェニレンエーテルの製造方法として好ましい。
本発明の(a)ポリフェニレンエーテルは、重合行程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
【0020】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテルは、種々のジエノフィル化合物により官能化されたポリフェニレンエーテルも含まれる。ジエノフィル化合物としては例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。さらにこれらジエノフィル化合物により官能化する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化する方法が挙げられる。
【0021】
本発明の樹脂組成物中のポリフェニレンエーテルが、10,000以下の分子量が全分子量の総和に対して、15質量%以下である。この10,000以下の分子量の成分が、全分子量の総和に対する値が極めて重要である。これらの値を特定の値にした場合に、(b)成分と併用することで、おどろくべきことに、極めて高い薄肉耐熱老化性とひんじ特性と製膜時のめやに抑制を両立させるものである。したがって、その観点から、樹脂組成物中のポリフェニレンエーテルが、10,000以下の分子量が全分子量の総和に対して、12質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0022】
また、本発明の樹脂組成物中のポリフェニレンエーテルの分子量の測定は以下の方法で求めることができる。すなわち、東洋曹達(株)製ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と略すことがある。)HL−802RTSで標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し測定する。標準ポリスチレンの分子量は264、364、466、568、2800、16700、186000、1260000のものを用いる。カラムは東洋曹達(株)製TSKgelG2500HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG4000HXL、TSKgelG5000HXLを直列につないで使用する。また、溶媒はクロロホルム、溶媒の流量は0.9ml/min、カラムの温度は40℃で測定する。検出部のUVの波長は標準ポリスチレンが254nm、ポリフェニレンエーテルが283nmで測定する。
【0023】
本発明の樹脂組成物中のポリフェニレンエーテルの場合は、以下のようにして、サンプルを得る。すなわち、押出時に得られたストランドあるいはペレット、あるいは成形品をまず30℃のクロロホルムに溶解し、不溶分を取り除き、溶液を大量のメタノールに注入する(再沈殿)ことにより、粉末を得、乾燥させる。ついで、塩化メチレンを加え、40〜50℃で溶解させ、冷凍庫内(−5℃)に一晩静置することにより、析出物を得、これをろ過し、析出物を冷塩化メチレンにて洗浄した後、メタノールで洗浄し、140℃にて1時間真空乾燥することによりポリフェニレンエーテルを得る。このサンプルを上記のGPC測定に用いた。また、原料であるポリフェニレンエーテルの場合は、粉末あるいはペレット上のサンプルを直接30℃のクロロホルムに溶解し、そのままGPC測定に用いた。
【0024】
(a)ポリフェニレンエ−テルが、フェノール性水酸基をフェニレンエーテルユニットの100個に対して1.80個以下含有することが好ましい。
この値は、小さければ小さいほど、薄肉耐熱老化性に優れる。この観点から、この値は、1.50個以下が好ましく、さらに1.20個以下が好ましく、とくにより好ましくは、1.10個以下が好ましい。
このフェノール性水酸基は、EHUD SH CHORI等の方法(ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマーズ・サイエンス;アプライド・ポリマー・シンポジウム、34、103〜117頁、(1978)に記載)に従って定量される。すなわち、押出時に得られたストランドあるいはペレット、あるいは成形品をまず30℃のクロロホルムに溶解し、不溶分を取り除き、溶液を大量のメタノールに注入する(再沈殿)ことにより、粉末を得、乾燥させる。ついで、塩化メチレンを加え、40〜50℃で溶解させ、冷凍庫内(−5℃)に一晩静置することにより、析出物を得、これをろ過し、析出物を冷塩化メチレンにて洗浄した後、メタノールで洗浄し、140℃にて1時間真空乾燥することによりポリフェニレンエーテルを得る。このポリフェニレンエーテルを正確に秤量し(W(mg))、25mlの塩化メチレンに溶解し、10重量%濃度のテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドのエタノール溶液を20μlを加え、UV分光光度計(日立(株)社製、U−3210)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定し、次の式に基づいて算出できる。
n(OH)=63.9×(Abs)/(W)
(ただし、n(OH):フェニレンエーテルユニットの100個に対してのフェノール性水酸基の個数)
【0025】
(b)イオウ系安定剤としては、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ビス〔2−メチル−4−{3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル〕スルフィド、テトラキス〔メチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネート〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(ミリスチルチオ)プロピオネート〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(ステアリルチオ)プロピオネート〕メタン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート及びジミリスチルチオジプロピオネート等を用いることができる。
【0026】
具体的には、チバスペシャルティーケミカル社製のIrganoxPS800FD、IrganoxPS802FD(「Irganox」は商標である)や、株式会社ADEKA製のアデカスタブAO−23、アデカスタブAO−412S、アデカスタブAO−503(「アデカスタブ」は商標である。)などのイオウ系安定剤から由来する化合物が好ましい。中でも、アデカスタブAO−412S構造の化合物から由来する化合物が薄肉耐熱老化性の観点から最も好ましい。
本発明の(b)成分は、(a)成分100質量部に対し、0.1〜3質量部である。薄肉耐熱老化性と製膜時のめやにの観点から、0.2〜1質量部が好ましく、さらに0.3〜0.8質量部が好ましい。
【0027】
(c)フェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール構造を有する化合物が用いられ、具体的には、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンジブチルヒドロキシトルエン、4,4′−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2′−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリス(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等を用いることができる。
【0028】
具体的には、チバスペシャルティーケミカル社製のIrganox 1010、Irganox 1076、Irganox 1098、Irganox 1330、Irganox 245、Irganox 259、Irganox 3114、Irganox 3790(「Irganox」は商標である)や、株式会社ADEKA製のアデカスタブAO−30、アデカスタブAO−40、アデカスタブAO−80(「アデカスタブ」は商標である。)等が好ましい。中でも、Irganox1010、Irganox 1076、Irganox 1098、Irganox 1330、アデカスタブAO−80、が薄肉耐熱老化性の観点から好ましい。
【0029】
本発明の(c)成分は、(a)成分100質量部に対し、0〜3質量である。(c)成分は、かならずしも必要ではないが、薄肉耐熱老化性の相乗効果を発揮するためには、(b)成分と併用することが好ましい。特に薄肉耐熱老化性とひんじ特性の両立から、0.1〜1質量部が好ましく、さらに0.2〜0.5質量部が好ましい。
(d)成分は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体である。
さらにこの(d)として、これら水添ブロック共重合体に、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、エポキシ基、オキサゾリル基、アミノ基の中から選ばれる少なくとも1種以上の官能基を付与したブロック共重合体が利用できる。
【0030】
中でも、成分(d)として、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を含む少なくとも1個の重合体ブロックBとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が1〜95質量%である水添ブロック共重合体であることが好ましい。さらに得られる組成物において、(a)成分と(d)成分の相剥離がない、という観点から、結合したビニル芳香族化合物の量は、好ましくは、15〜80質量%、さらに好ましくは20〜60質量%、特により好ましくは、25〜45質量%である。
さらに、成分(d)として、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を含む少なくとも1個の重合体ブロックBとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が55〜95質量%である水添ブロック共重合体(d1)、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が1〜55質量%未満である水添ブロック共重合体(d2)を併用して用い、さらにこれらトータルの(d)成分中に含まれる結合したビニル芳香族化合物の含有量が25〜45質量%であるものを用いることが好ましい。また、これら成分(d)の重合体ブロックBの少なくとも1つが共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体、及び/またはこれら成分(d)の重合体ブロックBの少なくとも1つが共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体の水添共重合体、も好適に使用することができる。
【0031】
この本発明における成分(d)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体は、水素添加反応前の構造としては、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を含む少なくとも1個の重合体ブロックBとからなり、例えばA−B、A−B−A、A−B−A−B、(A−B−)4−Si、A−B−A−B−A等の構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体である。
【0032】
またブロック構造に言及すると、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック又はビニル芳香族化合物を90重量%以上含有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックの構造を有しており、そしてさらに、共役ジエン化合物を含む重合体ブロックBとは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物を10重量%を超え90重量%未満含有する共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックの構造を有するものである。 これらのビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を含む重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物又はビニル芳香族化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで成っていてもよく、該ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック及び該共役ジエン化合物を含む重合体ブロックがそれぞれ2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。
【0033】
このブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。そして共役ジエン化合物を含む重合体ブロックは、そのブロックにおける結合形態のミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えば、ブタジエンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合が2〜90%が好ましく、より好ましくは8〜80%である。また、イソプレンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が2〜80%、より好ましくは3〜70%である。
【0034】
本発明で用いる成分(d)である水添ブロック共重合体の数平均分子量は、5,000〜1,000,000であるものが好ましく、特に好ましくは20,000〜500,000であり、特により好ましくは、100,000〜300,000の範囲のものであり、分子量分布〔ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定しポリスチレン換算した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比〕は10以下であるものが好ましい。
さらに、この水添ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
このような構造をもつブロック共重合体は、上記したブロック共重合体の共役ジエン化合物を含む重合体ブロックBの脂肪族系二重結合を水素添加反応を実施し、本発明で用いる成分(d)の水添ブロック共重合体として利用できる。かかる脂肪族系二重結合の水素添加率は、少なくとも20%を超えることが好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0035】
この水素添加率は、例えば核磁気共鳴装置(NMR)等を用いて知ることができる。
本発明の(d)成分は、(a)成分100質量部に対し、0〜100質量部である。この(d)成分は、薄肉体熱老化性とひんじ特性の両立の観点から、含有されていることが好ましく、さらに1〜70質量部が好ましく、とくに3〜40質量部が好ましく、さらにとくには4〜30質量部が好ましい。
(a)成分と剥離しない程度の量であれば、さらにエチレン/α−オレフィン共重合体を含んでもよい。この共重合体は、本発明の樹脂組成物のひんじ特性に大きな効果を奏するものである。具体的には、エチレン・α−オレフィン共重合体、共役ジエン化合物重合体を水素添加反応して得られる水添共役ジエン化合物が挙げられる。
【0036】
エチレン・α−オレフィン共重合体とは、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等の直鎖状α−オレフィン;2−メチルプロペン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、5−メチルヘキセン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等の分岐状α−オレフィン等のオレフィン類の単独重合又は共重合体である。
これらの中では、エチレン、プロピレン、ブテン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1を過半重量含む共重合体又は単独重合体が好ましく、エチレン単独重合体、エチレン−プロピレンのブロック又はランダム共重合体、エチレン−オクテンのブロック又はランダム共重合体がさらに好ましい。
ここでエチレン・α−オレフィン共重合体は、一般に温度230℃及び荷重21.2Nの条件で測定したメルトフローレート(MFR)で表して、0.01〜400g/10分、好ましくは0.15〜60g/10分、さらに好ましくは0.3〜40g/10分である。
【0037】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体は従来公知の方法によって製造でき、市販品も広く入手可能である。本発明では、適宜これらから選んで使用することができる。
(e)(a)以外の熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル以外の熱可塑性樹脂である。これは、ビニル芳香族化合物重合体、ビニル芳香族化合物共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド66/6、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。好ましくは、ビニル芳香族化合物共重合体、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。より好ましくは、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、液晶ポリマー、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。
ここで、ビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。また、ビニル芳香族化合物重合体の具体例としては、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレンなどが挙げられる。
【0038】
ビニル芳香族化合物共重合体としては、例えば、上述したようなビニル芳香族化合物と共重合可能な化合物を共重合して得られる共重合体である。共重合可能な化合物としては、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体、不飽和ジカルボン酸無水物、その他ビニル化合物等が挙げられる。 不飽和ジカルボン酸イミド誘導体の具体例としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−アルキルマレイミド、及びN−アリールマレイミド(アリール基としては、例えばフェニル、クロルフェニル、メチルフェニル、メトキシフェニル、トリブロモフェニル等が挙げられる)等のマレイミド誘導体が挙げられ、これらの中で特にN−フェニルマレイミドが好ましい。また、これらの誘導体は2種以上混合して用いることもできる。
【0039】
不飽和ジカルボン酸無水物の具体例としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の無水物が挙げられ、これらの中では特に無水マレイン酸が好ましい。 その他ビニル化合物の具体例としては、ブタジエン、アクリロニトリル、メタクリロニリル等のシアン化ビニル化合物、メチルアクリル酸エステル、エチルアクリル酸エステル等のアクリル酸エステル化合物、メチルメタクリル酸、エチルメタクリル酸エステル等のメタクリル酸エステル化合物、アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸化合物、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド等の化合物が挙げられ、これらの中では特にアクリロニトリルが好ましい。
【0040】
(e)成分の中の、ビニル芳香族化合物共重合体の好ましい例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、芳香族ビニル−マレイミド系共重合体等が挙げられ、耐熱性の観点から芳香族ビニル−マレイミド系共重合体がより好ましく、(1)芳香族ビニル化合物、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体および必要に応じてその他の共重合可能なビニル化合物からなる混合物を共重合させる方法、(2)芳香族ビニル化合物、不飽和ジカルボン酸無水物及び必要に応じてその他の共重合可能なビニル化合物からなる混合物を共重合させた後、アンモニア及び/又は第一級アミンを反応させて酸無水物基をイミド基に変換させる方法によって得ることができる。尚、(1)の製法においては、その他の共重合可能なビニル化合物の例として不飽和ジカルボン酸無水物も含まれ、(2)の製法においては、イミド基へ変換されずに酸無水物基が残ることも問題はなく、結果、酸無水物基を共重合体中へ導入することも可能である。
【0041】
(2)の製法で用いるアンモニアや第一級アミンは無水または水溶液のいずれの状態であってもよく、第一級アミンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等のアルキルアミン、アニリン、トルイジン、クロルアニリン、メトキシアニリン、トリブロモアニリン等の芳香族アミンが挙げられ、これらの中で特にアニリンが好ましい。
これらビニル芳香族化合物共重合体の重合方法としては、公知の重合方法を用いることができ、(1)の製法の場合は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、塊状重合が好ましく、(2)の製法の場合は、塊状−懸濁重合、溶液重合、塊状重合が好ましい。
特に、芳香族ビニル−マレイミド系共重合体としては、スチレン/N−フェニルマレイミド共重合体、スチレン/N−フェニルマレイミド/無水マレイン酸共重合体、スチレン/N−フェニルマレイミド/アクリロニトリル共重合体が好適に使用できる。
【0042】
また、得られる組成物の耐熱性の観点から、芳香族ビニル−マレイミド系共重合体のガラス転移温度は、170℃以上が好ましい。より好ましくは200℃以上である。
芳香族ビニル−マレイミド系共重合体は、芳香族ビニル化合物30〜70質量%、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体30〜70質量%及びその他共重合可能なビニル化合物0〜20質量%からなる共重合体であることが好ましく、より好ましくは芳香族ビニル化合物40〜69.99質量%、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体30〜59.99質量%及びその他共重合可能なビニル化合物0.01〜15質量%であり、更に好ましくは、芳香族ビニル化合物40〜69.9質量%、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体30〜59.9質量%及びその他共重合可能なビニル化合物0.1〜15質量%である。芳香族ビニル化合物の割合が30質量%未満であると、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が悪くなり、引張伸度の低下を招き、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体の割合が30質量%未満であると、耐熱性が低下する。また、その他共重合可能なビニル化合物の割合が20質量%を超えると、耐熱性が低下したり、熱安定性が悪くなる。
【0043】
芳香族ビニル系共重合体は、重量平均分子量70,000〜250,000であることが好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ポリスチレンを標準試料として換算した分子量であり、テトラヒドロフランを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により算出できる。重量平均分子量は、引張伸度の観点から70,000以上であり、流動性の観点から250,000以下である。より好ましくは、100,000〜250,000、さらに好ましくは100,000〜200,000の範囲である。また、これら共重合体は、1種の芳香族ビニル系共重合体でもよく、重量平均分子量が異なる2種以上の芳香族ビニル系共重合体を組み合わせた混合物で、その混合物の重量平均分子量が70,000〜250,000の範囲にあるものであってもよい。
ここで、(e)成分は、(a)100質量部に対して、1〜900質量部であり、組成物の成形品の低熱収縮の観点から、3〜800質量部、好ましくは5〜500質量部、より好ましくは、5〜200質量部である。
【0044】
本発明における(f)難燃剤は、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコーン、籠状シルセスキオキサンまたはその部分開裂構造体、シリカが挙げられる。
環状窒素化合物とは、窒素元素を含有する環状の有機化合物である。具体的にはメラミン誘導体である、メラミン、メレム、メロンが好ましく用いられる。中でも揮発性の観点から、メレム、メロンが好ましい。
リン系難燃剤としては、赤燐、リン酸エステル化合物、フォスファゼン化合物、ホスフィン酸塩類等が挙げられる。中でもリン酸エステル化合物、ホスフィン酸塩類がより好ましい。
リン酸エステル化合物としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノ有機リン化合物や有機リン化合物オリゴマーが挙げられるが、有機リン化合物オリゴマーが特に好ましい。
有機リン化合物オリゴマーの特に好ましい例としては、下記式(2)で表される化合物群より選ばれるものを挙げることができる。
【0045】
【化2】

【0046】
(式中、Q、Q、Q、Qは、炭素数1から6の アルキル基または水素を表し、nは1以上の整数、m、m、m、mは0から3の整数を示し、Xは以下の式(3)のいずれかから選択される。)
【0047】
【化3】

【0048】
(式中、S、S、Sはメチル基または水素を表す。n、n、nは0から2の整数を示す。)
【0049】
具体的には、大八化学社製のCR−741、CR−747、CR−733Sなどが好適である。
ホスフィン酸塩としては、下記式(4)で表されるホスフィン酸塩及び/又は下記式(5)で表されるジホスフィン酸塩、またはこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類が好ましい。
【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
(式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。)
【0053】
ホスフィン酸塩は、本発明の効果を損ねない範囲であれば、如何なる組成で混合されていても構わないが、難燃性、モールドデポジットの抑制の観点から、上記(4)で表されるホスフィン酸塩を90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上含んでいる事が好ましい。
本発明において、好ましく使用可能なホスフィン酸の具体例としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸およびこれらの混合物等が挙げられる。
また好ましく使用可能な金属成分としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)及び/又はプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンから選ばれる1種以上である。
【0054】
ホスフィン酸塩類の好ましく使用可能な具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。
【0055】
特に難燃性や、モールドデポジットの抑制の観点からジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。中でもジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0056】
シリコーンは、オルガノシロキサンポリマーのことで、直鎖構造のもの、架橋構造のもの、あるいはそれらがある割合で構成された構造のもの、あるいはそれらの混合物でもよい。難燃性とめやにの観点から、直鎖構造のものがより好ましい。また難燃性と樹脂組成物の靭性の観点から、分子内の末端あるいは側鎖に官能基を有するものが好ましい。官能基は特にエポキシ基、アミノ基が好ましい。具体的には例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製のシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンパウダー、信越化学工業株式会社製のストレートシリコーンオイル、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイル、シリコーンパウダーKMPシリーズなどを用いることができる。液体状、固体状いずれのものも用いることができる。液体状のものは、25℃における粘度が、10〜10,000(mm/s)が好ましく、100〜8,000(mm/s)がより好ましく、500〜3,000(mm/s)が特により好ましい。固体のものは、平均粒径が0.1〜100μmが好ましく、0.5〜30μmがより好ましく、0.5〜5μmが特により好ましい。
【0057】
本発明に使用される籠状シルセスキオキサンまたはその部分開裂構造体については、WO02/059208号公報に開示された構造のものが好適に用いられる。
シリカについては、基本構造式は、SiOで表されるものであり、難燃性の観点から、ヒュームドシリカが好ましい。ヒュームドシリカは、ポーラスシリカとも呼ばれ、一次粒子系が5〜50nmであり、比表面積が非常に大きく、50〜500m/g程度の微細粒子である。標準的な親水性タイプのものと、化学的に表面をメチルグループなどの疎水グループで覆った疎水性タイプのものを用いることができる。具体的には日本アエロジル(株)のAEROSIL(アエロジル)(登録商標)が好適で、さらにはグレードとして200、R972などが好適に用いることができる。これらは、難燃性、衝撃性を向上させることができる。
【0058】
これら(f)成分である難燃剤は、難燃性とめやに抑制の観点から、(a)成分と(e)成分の合計100質量部に対して、1〜30質量部の割合で含有されていることが好ましく、2〜20質量部がさらに好ましく、3〜15質量部が特により好ましい
本発明の樹脂組成物は、従来より公知の種々の方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形により各種部品の成形品として成形できる。
本発明の樹脂組成物は、特に薄肉耐熱老化性、めやに抑制、ひんじ特性の観点から、特にフィルム用の樹脂組成物として有用である。
さらに本発明では、特定のポリフェニレンエーテルを用い、さらに(b)イオウ系安定剤を組み合わせることにより、薄い成型品での耐熱老化性に優れ、特にフィルム厚みが200μm以下、好ましくは150μm以下のフィルム用樹脂組成物として有用である。
【0059】
さらに本発明において、薄肉エージング性能を向上させるため、安定化効果を高めるために、ホスファイト化合物を添加してもかまわない。
具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、および2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトなどが例示される。
【0060】
本発明では、上記の成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、無機充填剤(ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭素繊維、炭化ケイ素、セラミック、窒化ケイ素、マイカ、ネフェリンシナイト、タルク、ウオラストナイト、スラグ繊維、フェライト)、可塑剤(ミネラルオイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、耐候(光)性改良剤、滑剤、各種着色剤、離型剤等を添加してもかまわない。特に、これらの無機系の充填剤は、2種類以上併用することも可能である。また、必要に応じて、シラン系、チタン系などのカップリング剤で予備処理して使用することができる。
本発明の樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。
【0061】
これら成形品は、特に難燃性が要求される用途、例えば、自動車用耐熱部品あるいは事務機器用耐熱部品に好適である。自動車用耐熱部品は例えば、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウウォッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、点火装置ケースなどの部品、ホイールキャップ、ランプソケット、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプリフレクターなどが好適である。中でも軽量性、耐熱性、難燃性、機械特性のバランスからランプエクステンション、ランプリフレクターが好適である。
また、事務機器用耐熱部品は、例えば、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品などに好適である。
【0062】
一方、本発明の樹脂組成物より得られる成形品として、フィルムも挙げられる。
本発明のフィルムとは、厚みが0.010〜1.0mmのものであり、好ましくは0.050〜0.50mm、0.05〜0.15mmであり、場合によってはシートと呼ばれることもある。本発明のフィルムは、上記で得られた樹脂組成物を原料とし、押出フィルム成形により得られる。Tダイ押出成形、インフレーション成形が好ましく、さらに熱収縮率、厚みむらの観点からTダイ押出成形が好ましい。無延伸のまま用いてもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸することによっても得られる。
【0063】
本発明のシートの製造方法は、押出成形機のTダイの直後の圧延ロールの表面温度を120〜200℃の範囲内から選ぶことが好ましい。この表面温度は、さらに好ましくは130〜180℃であり、よりさらに好ましくは150〜170℃である。また設定温度はブレはばが小さいことが好ましく、そのはばは、±10℃以内、好ましくは±5℃以内、さらに好ましくは±2℃以内である。このはばは小さければ小さいほど、厚みむら及び熱収縮率の観点から好ましい。
さらに本発明のフィルムは、薄肉耐熱老化性、ひんじ特性に優れることから、以下の用途に用いることができる。パソコンや携帯電話や冷蔵庫やファクシミリや複写機などに代表される家電やOAに関連する製品の中の機構部品、プリント基板、あるいはリチウムイオン電池の絶縁ワッシャーと呼ばれる絶縁部品、などが挙げられる。
【0064】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例で用いる成分)
1.ポリフェニレンエーテル
PPE−1:2,6−ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度0.54
のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)。
Mn=24,200、Mw53,100
PPE−2:還元粘度0.52、Mn=19,100、Mw=51,000
PPE−3:還元粘度0.42、Mn=15,300、Mw=36,200
PPE−4:還元粘度0.51、Mn=18,700、Mw=52,600
PPE−5:還元粘度0.56、Mn=25,100、Mw=58,200
PPE−6:2,6−ジメチルフェノール75質量%、2,3,6−トリメチルフェノール25質量%を用い、特願2007−131167号公報に記載の重合方法に従って、共重合体を得た。還元粘度0.51、Mn=25,700、Mw=52,200。このPPEパウダーのガラス転位温度は、231℃であった。(DSC法、昇温速度20℃/分)なお、PPE−1のそれは、215℃であり、PPE−6が、PPE−1に比べて、耐熱性に優れることがわかる。
【0065】
(分子量測定条件)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCという):東洋曹達(株)製ゲルパーミェーションクロマトグラフィーHL−802RTSで標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し測定した。標準ポリスチレンの分子量は264、364、466、568、2800、16700、186000、1260000のものを用いた。カラムは東洋曹達(株)製TSKgelG2500HXL、TSKgelG3000HXL、TSKgelG4000HXL、TSKgelG5000HXLを直列につないで使用した。また、溶媒はクロロホルム、溶媒の流量は0.9ml/min、カラムの温度は40℃で測定した。検出部のUVの波長は標準ポリスチレンが254nm、ポリフェニレンエーテルが283nmで測定した。原料である上記のPPE−1〜PPE−8は、そのままクロロホルムに溶解させ、GPC測定に用いた。
【0066】
組成物中の(a)ポリフェニレンエ−テルが、10,000以下の分子量が全分子量の総和に対しての質量%をαとおく。ここでは、αは、以下のようにして求めた。
すなわち、下記実施例で得られた100μmt厚みのフィルムを切り出し、30℃のクロロホルムに溶解し、不溶分を取り除き、溶液を大量のメタノールに注入する(再沈殿)ことにより、粉末を得、乾燥させる。ついで、塩化メチレンを加え、40〜50℃で溶解させ、冷凍庫内(−5℃)に一晩静置することにより、析出物を得、これをろ過し、析出物を冷塩化メチレンにて洗浄した後、メタノールで洗浄し、140℃にて1時間真空乾燥することによりポリフェニレンエーテルを得る。このサンプルを上記と同様の条件でGPC測定を行い、以下の式に従いαを求めた。
α(質量%)=(10,000以下の素分子量が占める質量/(全分子量が占める質量)×100
【0067】
(フェノール性水酸基数測定)
分子量測定と同様のサンプル(溶解、不溶物除去、再沈、冷却、ろ過、乾燥)のポリフェニレンエーテルを得て、これを正確に秤量し(W(mg))、25mlの塩化メチレンに溶解し、10重量%濃度のテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドのエタノール溶液を20μlを加え、UV分光光度計(日立(株)社製、U−3210)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定し、次の式に基づいて算出した。
n(OH)=63.9×(Abs)/(W)
(ただし、n(OH):フェニレンエーテルユニットの100個に対してのフェノール性水酸基の個数)
【0068】
(b)成分:イオウ系安定剤
S1:アデカスタブAO−412S(登録商標、ADEKA社製)
S2:アデカスタブAO−503(登録商標、ADEKA社製)
S3:IrganoxPS800FD(登録商標、チバスペシャルティーケミカルズ社製)
(c)成分:ヒンダードフェノール系安定剤
OH1:Irganox1076(登録商標、チバスペシャルティーケミカルズ社製)
【0069】
(d)成分とビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体
SE1:クレイトンG1651E(登録商標、クレイトンポリマー社製)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水添ブロック共重合体
SE2:スチレンーブタジエンースチレン−ブタジエンブロック共重合体のブロック共重合体(A−B−A−B型、結合スチレン量33質量%、数平均分子量240,000、1,2ビニル量:33質量%、非水素添加
SE3:SE2を用いて水素添加反応により、ブタジエン構造部が水素添加された水添ブロック共重合体、水素添加率93%
SE4:SE2を用いて水素添加反応により、ブタジエン構造部が水素添加された水添ブロック共重合体、水素添加率75%
【0070】
(e)成分:(a)以外の熱可塑性樹脂
GP:GPPS(ポリスチレン685、PSジャパン社製)
PhMI:ポリイミレックスPSX0371(登録商標、日本触媒社製)
PAR:ポリアリレート U−ポリマー U−100(登録商標、ユニチカ社製)
LCP:液晶ポリエステル:窒素雰囲気下において、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、無水酢酸を仕込み、加熱溶融し、重縮合することにより、以下の理論構造式を有する液晶ポリエステルを得た。
なお、組成の成分比はモル比を表す。
【0071】
【化6】

【0072】
(f)難燃剤
FR1:環状フェノキシホスファゼン:6員環および8員環のクロロホスファゼン混合物とナトリウムフェノラートを反応して得られたフェノキシホスファゼン合成物を洗浄、精製を繰り返すことにより得られた酸価が約0.1の環状フェノキシホスファゼン
FR2:ホスフィン酸アルミニウム(Exolit OP935、登録商標、クラリアント社製)
FR3:リン酸エステル(CR733S、大八化学社製)
各樹脂組成物の成形と物性評価を、以下の方法に従って実施した。
【0073】
(1)成形
(1−1)射出成形
得られたペレットを、シリンダー温度330/330/320/310℃、射速85%、金型温度90℃に設定した射出成形機[IS−80EPN:東芝機械(株)社製]を用いて成形を行った。
(1−2)Tダイ押出成形(シート成形)
得られたペレットを、テクノベル社製、15mmの2軸同方向回転押し出し機付きTダイ製膜機(KZW15TW)を用い、ペレット全量を第一供給口から、供給し、窒素を吹き込みながら、第一供給口側からTダイへ向けてのシリンダー設定温度を300/300/300℃に設定し、Tダイの設定温度を310℃、キャストロール温度を150℃に設定し、真空ベントをひきながら、約100μmの厚みのフィルムになるように、製膜を実施した。評価結果を表1に示した。
【0074】
(2)耐エージング1(薄肉耐熱老化性)
上記(1−2)で得られた100μm厚みのシートを、幅10mm×長さ150mmのたんざく状に切り出し、170℃で、熱風オーブンに所定時間設置し、取り出して、冷却した後、5箇所を180℃、フィルムを折り曲げ、5箇所のうち、3箇所以上破断したもの(脆化)を脆化と判断し、以下の判断基準に従って、その薄肉耐熱老化性能を評価した。(点数)
5点:168hr経過しても、脆化しなかったもの。
4点:120hrでは脆化せず、168hr経過で、脆化した。
3点:72hrでは脆化せず、120hr経過で、脆化した。
2点:10hrでは脆化せず、72hr経過で、脆化した。
1点:5hrでは脆化せず、10hr経過で、脆化した。
0点:5hr経過で、脆化した。
【0075】
(3)耐エージング2(肉厚成形品耐熱老化性)
上記(1−1)で得られた、厚み4mmのISO規格に準拠したダンベル試験片を、170℃で、168hr、熱風オーブンに設置し、取り出し、引っ張り試験を実施した。
以下で求めた保持率の値を表に記した。
引っ張り保持率(%)=(エージング後の引っ張り強度)/(エージング前の引っ張り強度)×100
(4)めやに
上記(1−2)の方法により、100μm厚みのフィルム成形を1hr継続し、1hr後のダイリップと溶融樹脂との界面への蓄積物(めやに)の状態に応じて、下記基準に従って、そのめやに評価を実施した。
〇:蓄積物(めやに)が全く生成していなかった。
:わずかに蓄積物(めやに)が認められた。
×:フィルムにダイラインを与えるほど、多数蓄積物(めやに)が認められた。
【0076】
(5)ひんじ特性
上記(1−2)の方法で得られた100μm厚みのフィルムを、180度、指で折り曲げ、下記判断基準に従って、そのひんじ特性を判断した。
〇:10回折り曲げても、破断しなかった。
△:5回以上10回未満の回数で、破断した。
×:5回未満の回数で、破断した。
【実施例】
【0077】
〔実施例1〜17、比較例1〜4〕
ポリフェニレンエーテル(PPE−1〜PPE−5)と(b)イオウ系安定剤(S1〜S3)と(c)ヒンダードフェノール系安定剤(OH1)と(d)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体、前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する共重合体(SE1、SE2)と(e)(a)以外の熱可塑性樹脂(GP、AS、PhMI、PAR、LCP)と(f)難燃剤(FR1〜FR3)を表1に示す割合に配合(質量部)してフィード側のZONE1を270℃、ZONE2〜7およびダイスヘッドを300℃に設定したベントポート付き二軸押出機(ZSK−25;WERNER&PFLEIDERER社製、D=25mm、L/D=42)を用いて、回転数(N)=300rpm、吐出量(Q)=12.0kg/hrになるように、溶融混練し、ペレットとして得た。このペレットを用い、上に示した方法により、成形加工し、物性評価を実施した。その結果を表1に示した。
実施例1:α=4.2%、n(OH)=1.04個
実施例11:α=10.7%、n(OH)=1.72個
実施例12:α=12.9%、n(OH)=1.79個
実施例13:α=16.1%、n(OH)=2.16個
実施例14:α=4.05%、n(OH)=2.28個
実施例7と実施例8のフィルムの表面を肉眼で比較観察すると、実施例8の方が、光沢度に優れていた。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果と上記のα、n(OH)の値からわかるように、組成物中のポリフェニレンエーテルと、(b)成分が薄肉耐熱老化性及びめやに抑制及びひんじ特性に非常に重要であることがわかる。
【0080】
〔実施例18〕
実施例1の組成において、(d)成分を用いないこと以外は、実施例1と同様に実施した。
150μm厚みのシートを成形したが、めやには全く発生せず、ヒンジ特性に優れる、良外観のシートが得られた。
【0081】
〔実施例19〕
実施例8の組成において、(d)成分として、SE−3のかわりに、SE−4を用いたこと以外は、実施例8と同様に実施した。
150μm厚みのシートを成形したが、製膜スタートから約15分ほどで、めやにが発生し、得られたシートの外観に、ダイラインが認められた。
【0082】
〔実施例20〕
実施例19の組成において、SE−4のかわりに、非水添のSE−2と水添率93%のSE−3を重量比で、1:4に配合して、(d)成分としての合計量を12部としたこと以外は、実施例19と同様に実施した。このブレンドにより、見かけの水素添加率の度合いは、74.4%(=93%×0.8)となり、実施例19で用いた(d)成分のSE−4の水素添加率75%とほぼ同等に揃えた。
150μm厚みのシートを成形したが、製膜スタート直後から、めやにが大量に発生し、得られたシートの外観は、ダイラインとゲル化物が多く観察された。実施例19と実施例20の比較から、本発明の組成物は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体に非水素添加のブロック共重合体を含まないほうが、より好ましいことがわかる。
【0083】
〔実施例21〕
実施例10の組成から、(a)成分として、PPE−1のかわりに、PPE−6を用いたこと以外は、実施例10と同様に実施した。
150μm厚みのシートを成形したが、めやには全く発生せず、ヒンジ特性に優れる、良外観のシートが得られた。得られたフィルムを約220℃のはんだ浴に1分間浮かべたが、フィルムの変形や膨れなどの変化は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の樹脂組成物、該樹脂組成物からなる成形体およびフィルムは、耐熱老化性、特に薄肉耐熱老化性、製膜性、ひんじ特性に優れ、特に自動車用耐熱部品や事務機器用耐熱部品に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエ−テル100質量部に対し、(b)イオウ系安定剤0.1〜3質量部、(c)ヒンダードフェノール系安定剤0〜3質量部、(d)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体0〜100質量部を含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
(b)成分が、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ビス〔2−メチル−4−{3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル〕スルフィド、テトラキス〔メチレン−3−(ラウリルチオ)プロピオネート〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(ミリスチルチオ)プロピオネート〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(ステアリルチオ)プロピオネート〕メタン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のイオウ系安定剤である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(d)成分の構造が、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロック(B)として、A−B型および/またはA−B−A型および/またはA−B−A−B型である水添ブロック共重合体である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(d)成分が、(a)ポリフェニレンエ−テル100質量部に対し、1〜100質量部を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(d)成分の水素添加率が、80%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(a)ポリフェニレンエ−テルが、10,000以下の分子量が全分子量の総和に対して、15質量%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(a)ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が1〜900質量部含有される、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が、ビニル芳香族化合物重合体、ビニル芳香族化合物共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド66/6、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が、ビニル芳香族化合物共重合体、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
(e)(a)以外の熱可塑性樹脂が、芳香環含有ポリアミド、脂肪族環含有ポリアミド、液晶ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
(e)成分のビニル芳香族化合物共重合体が、芳香族ビニル−マレイミド系共重合体である、請求項8または9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
芳香族ビニル−マレイミド共重合体のガラス転移温度が170℃以上である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
芳香族ビニル−マレイミド共重合体のガラス転移温度が200℃以上である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
(a)ポリフェニレンエ−テルが、フェノール性水酸基をフェニレンエーテルユニットの100個に対して1.80個以下含有する、請求項1〜13のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項15】
(a)ポリフェニレンエーテルが、2,3,6−トリメチルフェノールを15〜40質量%と2,6−ジメチルフェノールを85〜60質量%が共重合された共重合体である、請求項1〜14のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項16】
(a)ポリフェニレンエーテル共重合体が、アルコール溶媒を含む溶媒中で、スラリー状態での重合により得られる、請求項15に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
(a)と(e)の合計100質量部に対して、(f)難燃剤を1〜30質量部含む、請求項1〜16のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項18】
(f)難燃剤が、ホスフィン酸塩である、請求項17に記載の樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物であって、厚みが150μm以下のフィルム用樹脂組成物。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物を射出成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2009−197196(P2009−197196A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43156(P2008−43156)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】