説明

樹脂組成物

【課題】剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性のバランスに優れた樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(a)ポリプロピレン系樹脂20〜99質量部、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂80〜1質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(c)結合ビニル芳香族化合物量が15質量%以上45質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物1〜30質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(d)結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物0〜30質量部、
(e)繊維状フィラー、
(f)平均粒子径が1μm以下である、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機フィラー、を含み、
前記(e)成分と前記(f)成分の合計が前記(a)成分と前記(b)成分の合計100質量部に対して40〜140質量部である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野で利用できる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、低比重で安価なプラスチックであり、耐薬品性、耐溶剤性、成形加工性等に優れるため、自動車部品や電気・電子機器部品及び家庭用電気製品等の各種分野に使用されている。一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、難燃性、耐熱性、寸法安定性、非吸水性及び電気特性に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られているが、溶融流動性が悪く成形加工性に劣り、かつ、耐溶剤性、耐衝撃性に劣るという欠点がある。これらのポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂のそれぞれの長所を兼ね備え、欠点を補う目的で種々の組成物が提案されており、特許文献1〜3には、機械的強度や線膨張係数を改良する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−113047号公報
【特許文献2】特開昭63−125543号公報
【特許文献3】特開2004−285089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの先行文献には、線膨張係数を低減させる技術は記載されているが、得られる樹脂組成物の異方性の改良は十分ではない。一般的に、線膨張係数を低減させるためには、無機フィラーが有効であることは知られている。しかしながら、線膨張係数を低減しつつ異方性を小さくする手段は知られていないのが実状である。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性のバランスに優れた樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂、混和剤としての水添ブロック共重合体を含む樹脂組成物に、高いレベルの剛性、線膨張係数、異方性のバランスを付与させるために鋭意検討した結果、各成分の配合量を特定範囲に調整し、さらに、特定の無機フィラーを用いて溶融混練することにより、従来の技術では達成できなかった、剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性のバランスに優れた樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
(a)ポリプロピレン系樹脂20〜99質量部、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂80〜1質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(c)結合ビニル芳香族化合物量が15質量%以上45質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物1〜30質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(d)結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物0〜30質量部、
(e)繊維状フィラー、
(f)平均粒子径が1μm以下である、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機フィラー、を含み、
前記(e)成分と前記(f)成分の合計が前記(a)成分と前記(b)成分の合計100質量部に対して40〜140質量部である樹脂組成物。
[2]
前記(a)成分のポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16Kg)が0.1〜150g/10分である、上記[1]記載の樹脂組成物。
[3]
前記(c)成分はスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物であり、且つ、ブタジエン重合体ブロックの1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合量の合計量が65〜90%である、上記[1]又は[2]記載の樹脂組成物。
[4]
前記(d)成分はスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の樹脂組成物。
[5]
前記(e)成分/前記(f)成分の質量比が80/20〜20/80である、上記[1]〜[4]のいずれか記載の樹脂組成物。
[6]
前記(e)成分は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、無機繊維、ワラストナイトからなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]〜[5]のいずれか記載の樹脂組成物。
[7]
前記(e)成分は、平均繊維径Dが1〜30μm、平均繊維長Lが10〜500μm、アスペクト比(L/D)が4〜30のワラスナイトである、上記[1]〜[6]のいずれか記載の樹脂組成物。
[8]
前記(f)成分はカオリンクレーである、上記[1]〜[7]のいずれか記載の樹脂組成物。
[9]
前記(a)成分がマトリックス相、前記(b)成分が分散相を形成する、上記[1]〜[8]のいずれか記載の樹脂組成物。
[10]
上記[1]〜[9]のいずれか記載の樹脂組成物からなる成形品。
[11]
自動車用外装部品である、上記[10]記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性のバランスに優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0009】
本実施の形態の樹脂組成物は、
(a)ポリプロピレン系樹脂20〜99質量部、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂80〜1質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(c)結合ビニル芳香族化合物量が15質量%以上45質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物1〜30質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(d)結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物0〜30質量部、
(e)繊維状フィラー、
(f)平均粒子径が1μm以下である、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機フィラー、を含み、
前記(e)成分と前記(f)成分の合計が前記(a)成分と前記(b)成分の合計100質量部に対して40〜140質量部である。
【0010】
[(a)成分]
本実施の形態の(a)成分であるポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、結晶性プロピレンホモポリマー;重合の第一工程で得られる結晶性プロピレンホモポリマー部分と、重合の第二工程以降でプロピレン、エチレン及び/又は少なくとも1つの他のα−オレフィン(例えば、ブテン−1、ヘキセン−1等)を共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分とを有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体等が挙げられる。また、結晶性プロピレンホモポリマーと結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の混合物でもよい。これらのポリプロピレン系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
かかるポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されないが、例えば、三塩化チタン触媒又は塩化マグネシウム等の担体に担持したハロゲン化チタン触媒等とアルキルアルミニウム化合物の存在下に、重合温度0〜100℃の範囲で、重合圧力3〜100気圧の範囲で重合して得ることができる。この際、重合体の分子量を調整するために水素等の連鎖移動剤を添加してもよい。重合方法は特に限定されず、バッチ式、連続式いずれの方法でもよい。
【0012】
また、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合;スラリー重合;無溶媒下モノマー中での塊状重合;ガス状モノマー中での気相重合方法等も適用できる。
【0013】
さらに、得られるポリプロピレン系樹脂のアイソタクティシティと重合活性を高めるため、上記重合触媒の他に第三成分として電子供与性化合物を内部ドナー成分又は外部ドナー成分として用いることができる。この電子供与性化合物の種類としては特に限定されず、公知のものを使用できる。例えば、ε−カプロラクトン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチル等のエステル化合物;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチル等の亜リン酸エステル;ヘキサメチルホスホルアミド等のリン酸誘導体;アルコキシエステル化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン、各種エーテル化合物、各種アルコール類及び/又は各種フェノール類等が挙げられる。
【0014】
本実施の形態における(a)ポリプロピレン系樹脂は、上記の方法等によって得ることができる。また、いかなる結晶性や融点を有するポリプロピレン系樹脂である場合でも、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16kg)は、好ましくは0.01〜150g/10分であり、より好ましくは0.1〜100g/10分の範囲である。MFRを上記範囲とすることによって、流動性や剛性のバランスが良好となる傾向にある。
【0016】
さらに、上記のポリプロピレン系樹脂のほかに、ポリプロピレン系樹脂と、α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態或いは溶液状態で30〜350℃で反応させることによって得られる変性ポリプロピレン系樹脂を用いてもよい。変性ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%グラフト化又は付加したポリプロピレン系樹脂が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂と変性ポリプロピレン系樹脂の混合割合は特に制限されず、任意に決定できる。
【0017】
[(b)成分]
本実施の形態の(b)成分であるポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、単に「PPE」という場合がある。)は、下記式(1)で表される繰返し単位構造からなるホモ重合体及び/又は共重合体である。その還元粘度(0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃測定)は、特に限定されないが、0.15〜2.50の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.30〜2.00、更に好ましくは0.35〜2.00の範囲である。
【0018】
【化1】

【0019】
式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の第1級又は第2級のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものである。
【0020】
本実施の形態におけるポリフェニレンエーテル系樹脂は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、更に、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)等のポリフェニレンエーテル共重合体等も用いることができる。
【0021】
上記の中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0022】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば、2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造できる。または、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報、特開昭63−152628号公報等に記載された方法等によって製造できる。
【0023】
さらに、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂のほかに、ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系モノマー又はその誘導体とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で80〜350℃で反応させることによって得られる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を併用してもよい。かかる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、スチレン系モノマー又はその誘導体が0.01〜10質量%グラフト化又は付加したポリフェニレンエーテル系樹脂が挙げられる。ポリフェニレンエーテル系樹脂と変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の混合割合は制限されず、任意の割合で混合できる。
【0024】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、上述した樹脂以外に、ポリフェニレンエーテル系樹脂にポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン及び/又はハイインパクトポリスチレンを混合したものも好適に用いることができる。
【0025】
より好適には、ポリフェニレンエーテル系樹脂100質量部に対して、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン又はハイインパクトポリスチレン及びこれらの混合物が合計400質量部を超えない範囲で混合されたものである。
【0026】
[(c)成分]
本実施の形態における(c)成分は、(c)結合ビニル芳香族化合物量が15質量%以上45質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物である。
(c)水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部を水素添加したものであって、結合ビニル芳香族化合物量が15質量%以上45質量%以下の範囲に調整された共重合体である。
【0027】
(c)成分は、(a)成分のポリプロピレン系樹脂と(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の混和剤又は耐衝撃性付与剤の少なくともいずれかとして作用する。(c)成分は、樹脂組成物における混和剤としての効果(ポリプロピレン系樹脂中にポリフェニレンエーテル系樹脂を微細に乳化分散させる効果)を奏することが好ましい。この場合、樹脂組成物中において(a)成分がマトリックス相、(b)成分が分散相を形成する。樹脂組成物が上記構造を有することにより、成形性が向上する傾向にある。
【0028】
(ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA)
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体ブロックである。
【0029】
重合体ブロックAにおいて「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、重合体ブロックA中にビニル芳香族化合物を50質量%を超えて含有することをいい、ビニル芳香族化合物を70質量%以上含有することが好ましい。
【0030】
重合体ブロックAを構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。上記の中でも、スチレンが好ましい。
【0031】
(c)成分の、水素添加前のブロック共重合体は、結合したビニル芳香族化合物の含有量(「結合ビニル芳香族化合物量」とも言う。)が15質量%以上45質量%以下であり、好ましくは20質量%以上45質量%以下である。なお、結合ビニル芳香族化合物量の測定は、NMRによって行うことができる。
【0032】
重合体ブロックAの数平均分子量は、特に限定されないが、15000以上であることが好ましい。数平均分子量が15000以上であると、樹脂組成物の混和性がより優れたものとなる傾向にある。重合体ブロックAの数平均分子量の測定は、GPC(移動層:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)によって行うことができる。
【0033】
(共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB)
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックである。
【0034】
重合体ブロックBにおいて「共役ジエン化合物を主体とする」とは、重合体ブロックB中に共役ジエン化合物を50質量%を超えて含有することをいい、共役ジエン化合物を70質量%以上含有することが好ましい。
【0035】
重合体ブロックBを構成する共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0036】
重合体ブロックBのミクロ構造(共役ジエン化合物の結合形態)については、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(以下、「全ビニル結合量」とも言う。)が好ましくは45〜90%、より好ましくは50〜90%である。全ビニル結合量を上記範囲とすることで、優れた混和性が得られる傾向にある。全ビニル結合量を45%以上とすることで、樹脂組成物に分散するポリフェニレンエーテル系樹脂の分散性が良好となる傾向にあり、全ビニル結合量を90%以下とすることで、経済性に優れる傾向にある。特に、重合体ブロックBがブタジエンを主体とする重合体である場合には、重合体ブロックBの全ビニル結合量が65〜90%であることが好ましい。
【0037】
本実施の形態において、重合体ブロックBの全ビニル結合量は、赤外分光光度計によって測定することができる。なお、全ビニル結合量の算出方法は、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて行うことができる。
【0038】
(c)成分は、少なくとも重合体ブロックAと、少なくとも重合体ブロックBを含むブロック共重合体を水素添加した水素添加ブロック共重合体である。
ブロック重合体Aを「A」とし、ブロック重合体Bを「B」とすると、(c)成分としては、例えば、A−B、A−B−A、B−A−B−A、(A−B−)4Si、A−B−A−B−A等の構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。(A−B−)4Siは、四塩化ケイ素、四塩化スズ等といった多官能カップリング剤の反応残基、又は多官能性有機リチウム化合物等の開始剤の残基等である。
【0039】
ブロック重合体Aとブロック重合体Bを含むブロック共重合体の分子構造は、特に制限されず、例えば、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。重合体ブロックAと重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中のビニル芳香族化合物又は共役ジエン化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで構成されていてもよい。また、重合体ブロックA又は重合体ブロックBのいずれかが繰り返し単位中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0040】
(c)成分の、水素添加前のブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは5000〜1000000、より好ましくは1000〜800000、更に好ましくは30000〜500000である。数平均分子量が大き過ぎると、モビリティーが低下し、(b)成分の乳化分散が困難となる場合がある。数平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、溶媒:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)によって行うことができる。
【0041】
(c)成分の、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布は10以下であることが好ましい。分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、溶媒:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比によって算出できる。
【0042】
(c)成分中の共役ジエン化合物に対する水素添加率としては、特に限定されないが、共役ジエン化合物に由来する二重結合の50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。本実施の形態において、水素添加率はNMRによって測定することができる。
【0043】
(c)成分の水素添加ブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、公知の製造方法を採用することができる。このようなものとして、例えば、特開昭47−11486号公報、特開昭49−66743号公報、特開昭50−75651号公報、特開昭54−126255号公報、特開昭56−10542号公報、特開昭56−62847号公報、特開昭56−100840号公報、特開平2−300218号公報、英国特許第1130770号明細書、米国特許第3281383号明細書、米国特許第3639517号明細書、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書及び米国特許第4501857号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0044】
また、(c)成分の水素添加ブロック共重合体は、水素添加ブロック共重合体と、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル化合物や酸無水物化合物)とをラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃で反応させることによって得られる変性水素添加ブロック共重合体であってもよい。この場合、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%の割合で水素添加ブロック共重合体にグラフト化又は付加していることが好ましい。さらに、上記の水素添加ブロック共重合体と該変性水素添加ブロック共重合体との任意の割合の混合物であってもよい。
【0045】
本実施の形態における(d)成分は、結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物である。
本実施の形態で用いる(d)水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとを含むブロック共重合体の少なくとも一部を水素添加したものであって、結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下の範囲に調整された共重合体である。(d)成分としては、結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下の範囲に調整されていること以外は、上記(c)成分と同様のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体を用いることができる。
【0046】
[(e)成分]
本実施の形態における(e)成分は、繊維状フィラーである。(e)成分である繊維状フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ワラストナイト、炭化ケイ素ウィスカ、窒化珪素ウィスカ、繊維状酸化アルミ、針状酸化チタン等の無機フィラーが挙げられる。上記の中でも、ワラストナイト、炭化ケイ素ウィスカ、窒化珪素ウィスカが好ましく、ワラストナイトがより好ましい。上記無機フィラーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。繊維状フィラーの平均繊維長Lと平均繊維径D、及びアスペクト比(L/D)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、ワラストナイトの場合は、平均繊維径Dが1〜30μm、平均繊維長Lが10〜500μm、アスペクト比(L/D)が4〜30のものが好ましく用いられる。
【0047】
ここで、繊維状フィラーの平均繊維長L、及び平均繊維径Dは、それぞれ以下のとおりに求めることができる。
繊維状フィラーを水中に分散させ、スライドガラス上に移し、光学顕微鏡下で観察する。画像解析装置を用いて、任意に選んだ繊維状フィラー400本の長さを測定し、下記式により求める。
平均繊維径D=ΣLi/n(数平均)
平均繊維長L=ΣLi/ΣLi(重量平均)
ここで、式中、Liは、繊維状フィラー一本一本の長さ(L1、L2、・・・、L400)を示し、Liは、対応する繊維状フィラー一本一本の長さの2乗(L1、L2、・・・、L400)、nは観察した繊維状フィラーの個数を示す。
【0048】
ワラスナイトのアスペクト比は4〜30であり、より好ましくは4〜20である。アスペクト比が4未満であると、線膨張係数の改良効果が十分ではなくなる傾向にあり、30を超えると成形品の外観が悪化する傾向にある。
【0049】
さらに、本実施の形態におけるワラストナイトは、従来公知の表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。表面処理剤の種類としては、アミノ基やエポキシ基を含有するシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等を例示できる。このような表面処理剤は、予めワラストナイト表面に処理することもできるし、ワラストナイトを混合する際に添加してもかまわない。
【0050】
[(f)成分]
本実施の形態における(f)成分は、平均粒子径が1μm以下である、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機フィラーである。
無機フィラーの平均粒子径を1μm以下にすることにより、(e)成分との相乗効果により線膨張係数と異方性のバランスが良好となる。また、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウムの中では、カオリンクレーが好適に用いられ、水簸カオリンクレーがより好適に用いられる。水簸カオリンクレーとは、所望の平均一次粒子径を有するカオリンクレーを分離精製する際に、原料のカオリンクレーを水中に分散させた後に行う方法、即ち水簸法を用いて得られるものである。水を利用して精製及び漂白することにより、不純物が除去され、白色度が高まる。また、水簸により粒度を調整しているため、シャープな粒度分布を有する。ここで、(f)成分である無機フィラーの平均粒子径は、遠心沈降光透過法により測定することができる。
【0051】
(f)成分は機械的強度の向上の観点から、従来公知の表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。表面処理剤の種類としては、特に限定されず、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシランやγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン化合物;ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイドやγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のイオウ系シラン化合物;γ−アミノプロピルトリエトキシシランやN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン化合物等のアミノシラン化合物が挙げられる。上記シラン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の中でも、粉体原料としての取扱いが容易であり、且つ、難燃性の保持を十分に発揮しうるという観点から、好ましくはイオウ系シラン化合物であり、より好ましくはメルカプトシラン化合物である。
【0052】
本実施の形態の樹脂組成物は、上記した(a)成分〜(f)成分を基本成分として構成される。
本実施の形態の樹脂組成物において、(a)成分の配合量は20〜99質量部、好ましくは25〜95質量部である。(a)成分の配合量が20質量部未満であると、得られる樹脂組成物の線膨張係数は優れるものの、耐熱性に劣るため好ましくない。また、99質量部を超えると、成形加工性、流動性は良好なものの、線膨張に劣るため好ましくない。
【0053】
(b)成分の配合量は80〜1質量部、好ましくは75〜5質量部である。(b)成分の配合量が80質量部を超えると、得られる樹脂組成物の耐熱性、線膨張係数は優れるものの、成形加工性、耐溶剤性に劣るため好ましくない。また、1質量部未満であると、耐熱性に劣るため好ましくない。
【0054】
次に、(c)成分の配合量は(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、1〜30質量部、好ましくは1〜20質量部である。(c)成分の配合量が1質量部未満であると、樹脂組成物における混和剤としての効果(ポリプロピレン系樹脂中にポリフェニレンエーテル系樹脂を微細に乳化分散させる効果)が得られず好ましくない。また、配合量が30質量部を超えると、線膨張係数に劣ることや剛性低下が顕著となるため好ましくない。
【0055】
次に、(d)成分の配合量は、剛性、耐熱性の観点から、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0〜30質量部であり、より好ましくは1〜20質量部である。(d)成分の配合量が30質量部を超えると、剛性、耐熱性低下が顕著となるため好ましくない。
【0056】
また、(e)成分と(f)成分の合計の配合量は、(a)成分と(b)成分の合計100質量部に対して、40〜140質量部である。(e)成分と(f)成分の合計の配合量が40質量部未満であると、流動性に優れるものの、剛性や線膨張に劣るため好ましくない。配合量が140質量部を超えると、剛性や線膨張に優れるものの、流動性に劣るため好ましくない。
【0057】
(e)成分と(f)成分の質量比は80/20〜20/80であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましい。質量比を上記範囲にすることにより、剛性、線膨張係数、異方性のバランスがより良好となる傾向にある。
【0058】
本実施の形態においては、上記の成分の他に、本実施の形態効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の付加的成分、例えば、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体やオレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、ポリリン酸メラミン系化合物、ホスフィン酸塩類、水酸化マグネシウム、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(GF長繊維、CF長繊維、ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等を添加してもかまわない。
【0059】
本実施の形態の樹脂組成物は、(a)〜(f)成分、又は(a)〜(c)成分、(e)、(f)成分を溶融混練して得られる。溶融混練機としては、特に限定されず、公知の混練機を用いることができ、例えば、単軸押出機、二軸押出機を含む多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機が挙げられる。上記の中でも、二軸押出機を用いた溶融混練方法が好ましい。具体的には、コペリオン社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズ等を用いることができる。
【0060】
また、押出機を用いる場合であれば、その種類や規格等は特に限定されず、適宜に公知の押出機を用いることができる。押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は、好ましくは20以上75以下の範囲であり、より好ましくは30以上60以下の範囲である。
【0061】
押出機は原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2原料供給口を設け、更にその下流に第2真空ベントを設けたものや、上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2、第3原料供給口を設け、更にその下流に第2真空ベントを設けたもの等が好ましい。
【0062】
上記の中でも、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、更に第2原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものや、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、更に第2原料供給口と第3原料供給口にニーディングセクションを設け、第2原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものがより好ましい。
【0063】
また、第2、第3原料供給口への原材料供給方法は、特に限定されず、押出機の第2、第3原料供給口の開放口からの単なる添加供給よりも、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する方が安定で好ましい。
【0064】
(a)〜(f)成分、又は(a)〜(c)成分、(e)、(f)成分を溶融混練する方法としては、複数のフィード口を有する二軸押出機を用い、下記の(1)工程と(2)工程と、を含む方法が好ましい。
【0065】
(1)(b)成分の全量と、(c)成分、(d)成分の一部又は全量と、(a)成分の一部を溶融混練する工程、
(2)(1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分、(c)成分、(d)成分の残量を溶融混練する工程。
【0066】
(e)成分、(f)成分についてはいずれのフィード口から投入してもかまわない。
【0067】
または、(a)〜(f)成分、又は(a)〜(c)成分、(e)、(f)成分を溶融混練する方法として、下記の(1)工程と(2)工程と、を含む方法も好ましい。
(1)(b)成分の全量と、(c)成分、(d)成分の一部又は全量を溶融混練する工程、
(2)(1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分の全量と、(c)成分、(d)成分の残量を添加し、溶融混練する工程。
【0068】
(e)成分、(f)成分についてはいずれのフィード口から投入してもかまわない。
【0069】
溶融混練温度、スクリュー回転数は特に限定されるものではないが、通常、溶融混練温度200〜370℃、スクリュー回転数100〜1200rpmの中から適宜に選ぶことができる。
【0070】
本実施の形態の樹脂組成物は、従来より公知の種々の方法、例えば、射出成形、押出成形、押出異形成形、中空成形により各種部品の成形品、又はシート、フィルムとして成形できる。これら各種部品としては、例えば自動車部品が挙げられ、具体的には、バンパー、フェンダー、ドアーパネル、各種モール、エンブレム、エンジンフード、ホイールキャップ、ルーフ、スポイラー、各種エアロパーツ等の外装部品や、インストゥルメントパネル、コンソールボックス、トリム等の内装部品等に適している。
【0071】
さらに、電気機器の内外装部品としても好適に使用でき、具体的には、各種コンピューター及びその周辺機器、その他のOA機器、テレビ、ビデオ、各種ディスクプレーヤー等のキャビネット、シャーシ、冷蔵庫、エアコン、液晶プロジェクターが挙げられる。また、電気機器用のリチウムイオン電池のセパレータにも適している。工業用部品用途では各種ポンプケーシング、ボイラーケーシング等の部品用途に適している。
【実施例】
【0072】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
各材料の各物性の測定は以下のとおりに行った。
[数平均分子量]
各成分の数平均分子量の測定はGPC(移動相:テトラヒドロフラン、標準物質:ポリスチレン)により測定した。測定機器としては、島津製作所製LC−10を用いた。
【0073】
[結合スチレン量の測定]
結合スチレン量の測定はNMRにより測定した。測定機器としては、JEOL製JNM−LA400を用いた。
【0074】
[全ビニル結合量の測定]
全ビニル結合量の測定は赤外分光光度計により測定した。測定機器としては、日本分光社製FT/IR−230を用いた。
【0075】
[水素添加率の測定]
水素添加率の測定はNMRにより測定した。測定機器としては、BRUKER社製DPX−400を用いた。
【0076】
[融点]
各成分の融点の測定は示差走査熱量計により測定した。
【0077】
[MFR(メルトフローレート)]
MFRの測定は230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。測定機器としては、東洋精機製P−111を用いた。
【0078】
[還元粘度]
還元粘度の測定は0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃の条件で測定した。測定機器としては、ウベローデ粘度管を用いた。
【0079】
[平均繊維長及び平均繊維径]
繊維状フィラーの平均繊維長L、及び平均繊維径Dは、それぞれ以下のとおりに求めた。
繊維状フィラーを水中に分散させ、スライドガラス上に移し、光学顕微鏡下で観察した。画像解析装置を用いて、任意に選んだ繊維状フィラー400本の長さを測定し、下記式により求めた。
平均繊維径D=ΣLi/n(数平均)
平均繊維長L=ΣLi/ΣLi(重量平均)
ここで、式中、Liは、繊維状フィラー一本一本の長さ(L1、L2、・・・、L400)を示し、Liは、対応する繊維状フィラー一本一本の長さの2乗(L1、L2、・・・、L400)、nは観察した繊維状フィラーの個数を示す。
【0080】
[平均粒子径]
無機フィラーの平均粒子径は、遠心沈降光透過法により測定した。
【0081】
[樹脂組成物の製造]
1.(a)成分(ポリプロピレン系樹脂)
(a−1)プロピレンホモポリマー 融点:167℃、MFR:0.5g/10分
(a−2)プロピレンホモポリマー 融点:164℃、MFR:75g/10分
【0082】
2.(b)成分(ポリフェニレンエーテル系樹脂)
(b−1)2,6−キシレノールを酸化重合してポリフェニレンエーテルホモポリマーを得た。
還元粘度:0.31
(b−2)2,6−キシレノールを酸化重合してポリフェニレンエーテルホモポリマーを得た。
還元粘度:0.42
【0083】
3.(c)成分(水素添加ブロック共重合体)
水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)のB−A−B−A型の構造を有するブロック共重合体を常法によって合成した。このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
結合スチレン量:43質量%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):75%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:98000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:20000
ポリスチレン(2)の数平均分子量:22000
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
【0084】
4.(d)成分(水素添加ブロック共重合体)
水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)のB−A−B−A型の構造を有するブロック共重合体を常法によって合成した。このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
結合スチレン量:60質量%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):36%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:113000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:34000
ポリスチレン(2)の数平均分子量:34000
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
【0085】
5.(e)成分(ワラストナイト)
(e−1)ワラストナイト 平均繊維径8μm アスペクト比13
(e−2)ワラストナイト 平均繊維径8μm アスペクト比3
【0086】
6.(f)成分(無機フィラー)
(f−1)カオリンクレー 平均粒子径0.2μm 表面処理:なし
(f−2)タルク 平均粒子径0.8μm 表面処理:なし
(f−3)炭酸カルシウム 0.15μm 表面処理:なし
【0087】
[実施例1〜6及び比較例1〜6]
<実施例1>
二軸押出機ZSK−25(コペリオン社製)を用い、原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第2原料供給口を設け、さらにその下流に真空ベントを設けた。また、第2供給口への原材料供給方法は、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給した。上記のように設定した押出機を用い、(a)〜(f)成分、又は(a)〜(c)成分、(e)、(f)成分を表1に示した組成(質量部)で配合し、押出温度270〜320℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量15kg/時間の条件にて溶融混練し、ペレットとして得た。
【0088】
<実施例2〜6>
(a)成分〜(f)成分を表1に示す条件で行った点以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
【0089】
<比較例1、5、6>
(a)成分〜(f)成分を表1に示す条件で行った点以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。
【0090】
<比較例2〜4>
実施例1と同様にしてペレットを得ようとしたが、押出し性が不良((e)成分と(f)成分の食い込み不良)でありペレットを得るには至らなかった。
【0091】
以下のとおりに曲げ弾性率及び線膨張係数の測定を行い、剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性の評価を行った。
<曲げ弾性率>
上記で得た樹脂ペレットを用いて220〜280℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で、曲げ弾性率測定用テストピースを射出成形し、ギアーオーブンを用い80℃の環境下に24時間静置し熱履歴処理を行った。これらの成形品を用いて、曲げ弾性率をISO178に準じて測定した(測定温度:23℃、90℃)。熱的剛性保持率は、23℃に対する百分率で表わした(熱的剛性保持率(%)=曲げ弾性率90℃/曲げ弾性率23℃×100)。
【0092】
<線膨張係数>
上記で得た樹脂ペレットを用いて220〜280℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で、線膨張測定用テストピース(平板状成形片 90mm×50mm×2.5mm)を射出成形し、ギアーオーブンを用い120℃の環境下に1時間静置し熱履歴処理を行った。熱処理後、試験片の中央部から流動方向(MD)及び直角方向(TD)にそれぞれ10mmの長さに切り出し、−30〜120℃の範囲における線膨張係数を熱分析装置(TMA)(パーキンエルマー社製TMA−7 昇温速度=5℃/分)にて測定した。異方性は、TD/MDで評価した。
以上の結果を併せて表1に載せた。
【0093】
【表1】

【0094】
表1の結果より、本実施の形態の樹脂組成物(実施例1〜6)は、剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性が同時に優れることが分かった。また、樹脂組成物の組成が本実施の形態の範囲外である場合(比較例1〜6)、剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性を同時に改良する事ができないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の樹脂組成物は、成形品の剛性、熱的剛性保持率、線膨張係数、異方性のバランスに優れるため、これらの特性が要求される用途への産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレン系樹脂20〜99質量部、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂80〜1質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(c)結合ビニル芳香族化合物量が15質量%以上45質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物1〜30質量部、
前記(a)と前記成分(b)成分の合計100質量部に対して、(d)結合ビニル芳香族化合物量が45質量%を超えて95質量%以下のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物0〜30質量部、
(e)繊維状フィラー、
(f)平均粒子径が1μm以下である、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機フィラー、を含み、
前記(e)成分と前記(f)成分の合計が前記(a)成分と前記(b)成分の合計100質量部に対して40〜140質量部である樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)成分のポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16Kg)が0.1〜150g/10分である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)成分はスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物であり、且つ、ブタジエン重合体ブロックの1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合量の合計量が65〜90%である、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(d)成分はスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物である、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(e)成分/前記(f)成分の質量比が80/20〜20/80である、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(e)成分は、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、無機繊維、ワラストナイトからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(e)成分は、平均繊維径Dが1〜30μm、平均繊維長Lが10〜500μm、アスペクト比(L/D)が4〜30のワラスナイトである、請求項1〜6のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(f)成分はカオリンクレーである、請求項1〜7のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(a)成分がマトリックス相、前記(b)成分が分散相を形成する、請求項1〜8のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項11】
自動車用外装部品である、請求項10記載の成形品。

【公開番号】特開2011−190358(P2011−190358A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58039(P2010−58039)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】