説明

樹脂組成物

【課題】天然ゴム及びポリ乳酸を含む樹脂組成物であって、機械的強度が改善されるとともに所望の柔軟性を得ることのできる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、及び加水分解抑制剤を含む混合物を架橋剤により架橋してなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は樹脂組成物に関し、詳細には、天然ゴムを含むポリ乳酸系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生分解性樹脂組成物の材料としてポリ乳酸が用いられている。しかし、ポリ乳酸は一般に固く、その用途が限られてしまう傾向があり、これに対処するため天然ゴムを含む樹脂組成物を架橋剤により架橋された組成物が提案されている(特許文献1及び2)。
特許文献1は、下記の(A)を主成分とし、下記の(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物を、動的架橋することにより、下記(β)の溶融物からなる海相中に、下記(α)からなる島相を固定化した、常温時のエラストマー特性に優れた、環境対応型の熱可塑性エラストマー製品の製法を開示している。
(A)下記の(α)と(β)とからなり、両者の重量混合比が、(α)/(β)=55/45〜95/5の範囲である熱可塑性エラストマー。
(α)天然ゴム。
(β)植物由来の樹脂。
(B)架橋剤
特許文献2は、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体などの非石油原料由来熱可塑性樹脂(A)の存在下で、天然ゴム、ジエン系重合体ゴム、オレフィン系重合体ゴム、アクリルゴム、およびシリコーンゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム(B)を、架橋剤(C)により動的に架橋してなる、柔軟性およびゴム弾性、成形性、リサイクル性を有する熱可塑性エラストマー組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−184543号公報
【特許文献2】国際公開第2008/026632号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献では、組成物成分の混練ならびに架橋剤を用いた動的架橋時に、ポリ乳酸と、天然ゴムに含まれる水分やイオウなどの架橋剤との反応によってポリ乳酸の分子量が著しく低下し、機械的特性が低下するという問題が生じた。このような樹脂組成物は、耐用年数の長い自動車部品などとして使用できないものであり、更に改善の余地があることが判明した。特に、自動車部品などとして使用するためには、機械的強度とともに成形性(柔軟性)を満たすことが重要であり、機械的強度が改善されるとともに所望の柔軟性を得ることのできる樹脂組成物が望まれていた。
本発明は、天然ゴム及びポリ乳酸を含む樹脂組成物であって、機械的強度が改善されるとともに所望の柔軟性を得ることのできる樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
1)天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、及び加水分解抑制剤を含む混合物を架橋剤により架橋してなる樹脂組成物。
2)上記1)の樹脂組成物を含む成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂組成物は機械的強度が改善されるとともに製品に適した硬度とすることが容易であり、かつ高い植物度とすることができ、汎用プラスチックの代替として広く使用できる。また、本発明の樹脂組成物は、動的架橋により簡易に製造することができるとともに所望の形状に型成形できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の樹脂組成物の成分について説明する。
(天然ゴム)
本発明の樹脂組成物に用いられる天然ゴムとは、通常に天然に産するゴムだけでなく合成されるポリイソプレンも含まれる。しかし、近年、植物由来であることが望まれるため天然に産するゴムをメインとする。合成ポリイソプレンを用いる場合は、シス−1,4結合含量の高いものが好ましい。天然ゴムとしては、例えば天然ゴムラテックス、リブドスモークドシート、ホワイトクレープ、ペールクレープ、エステートブラウンクレープ、コンポクレープ、薄手ブラウンクレープ、厚手ブランケットクレープ、フラットバーククレープ、及び純スモークドブランケットクレープ等のシートゴム、ブロックゴム等が挙げられる。
本発明において、天然ゴムは、本発明の樹脂組成物中40〜80質量%含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、50〜75質量%含有することが更に好ましい。
【0008】
(エポキシ化天然ゴム)
本発明に用いられるエポキシ化天然ゴムとは、過酸化水素、過酢酸等のエポキシ化剤により上記天然ゴムにエポキシ基を導入したものであり、特に限定されないが、エポキシ基の導入量は天然ゴムの二重結合のモル数に対して20%〜50%が好ましい。
本発明において、エポキシ化天然ゴムは、本発明の樹脂組成物中1〜50質量%含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、更に2〜30質量%含有することが好ましく、更に3〜10質量%が好ましい。
ここで、天然ゴムとエポキシ化天然ゴムの合計は、本発明の樹脂組成物中の40質量%以上が好ましく、更には50または60質量%以上が好ましく、ポリ乳酸が50質量%以下であることが好ましい。また、天然ゴムとエポキシ化天然ゴムの比率は、9:1〜5:5で、更には9:1〜7:3または9:1〜8:2が好ましい。
【0009】
(ポリ乳酸)
本発明において、ポリ乳酸とは、L−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位で構成されるポリマーであり、L−乳酸及びD−乳酸のランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体、並びにL−乳酸単独重合体(ポリL−乳酸)、D−乳酸単独重合体(ポリD−乳酸)を含む。本発明において、ポリL−乳酸又はポリD−乳酸を乳酸単独重合体ともいう。また、後述の(A)成分の前記ポリ乳酸に相当する成分(ポリ乳酸相当分)も本発明に含まれる。従って、本発明においては、ポリ乳酸は、(A)成分とは独立に用いても、(A)成分のみを用いてもよい。
本発明で用いるポリ乳酸は、本発明の効果を損なわない範囲で、L−乳酸またはD−乳酸に由来しない、他のモノマー単位を含んでいても良い。他のモノマー単位としては、単糖、オリゴ糖、多糖等が挙げられ、10mol%以下含むことができる。また、ポリ乳酸の質量平均分子量は、50,000〜300,000の範囲が好ましい。かかる範囲を下回ると機械物性等が十分発現されない場合があり、上回る場合は加工性に劣る傾向にある。
本発明に用いられる乳酸単独重合体として、ポリL−乳酸が好ましく、ポリL−乳酸としては、特に限定されないが、90%発酵乳酸とデンプンの混合物中に重合触媒を添加し、脱水重合を行ったものを使用するか、市販のポリL−乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100など)または耐熱性のナノコンポジット充填剤入りのポリL−乳酸など、いずれを用いてもよい。なお、本発明において、充填剤等の添加剤を含むポリ乳酸の該添加剤は、本発明の樹脂組成物の配合割合の算定においては、ポリ乳酸とは別に取り扱う。
【0010】
(加水分解抑制剤)
本発明に用いられる加水分解抑制剤としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸等のポリマー成分の加水分解を抑制する機能を有するものであれば、特に制限はないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、エチレン−ビニルアルコール共重合体、リン酸エステルまたはリン酸エステルの誘導体、オキサゾリンまたはオキサゾリン誘導体、イソシアネートまたはイソシアネート誘導体、エポキシ化合物またはエポキシ化合物の誘導体、カルボジイミド化合物等が挙げられる。加水分解抑制剤としては、中でもカルボジイミド化合物が好ましい。
本発明の樹脂組成物に用いられるカルボジイミド化合物は、カルボジイミド基を1以上有する化合物であり、主としてポリ乳酸の加水分解を抑制し得る機能を有する。カルボジイミド化合物としては、低分子でも高分子でもよいが、高分子化合物が好ましい。このカルボジイミド化合物の質量平均分子量Mwは、500〜60,000が好ましく、1,000〜40,000が更に好ましい。また、カルボジイミド化合物の数平均分子量は、500以上で、好ましくは1000以上、更には1300以上が好ましく、2000以上が更に好ましい。この数平均分子量Mnの上限は質量平均分子量Mwと同程度である。そして、多分散度Mw/Mnは、1.0〜6.0が好ましい。また、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基の含有量は、2〜2,000個/分子が好ましく、2〜500個/分子が更に好ましい。カルボジイミド化合物としては、分子量が500以下の低分子化合物では、スタバクゾール1−LF(ラインケミー社製)等が挙げられ、高分子化合物では市販のカルボジライトLA−1(日清紡製)が好ましい。なお、カルボジイミド基が1分子中に3個以上含むものをポリカルボジイミド化合物ともいう。数平均分子量が500未満だと樹脂組成物の製造時において装置への供給が困難であるため好ましくない。
本発明の樹脂組成物に用いられる加水分解抑制剤の添加量は本発明の樹脂組成物中0.1質量%以上含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、0.5質量%以上含有することが更に好ましく、特に上限はないが略10質量%以上では効果の改善はみられない。
加水分解抑制剤は、天然ゴム等の各成分からなる当該混合物に含まれる水分除去等による加水分解抑制機能の外、前記エポキシ化天然ゴムとのエポキシ基との架橋反応のように、成分に含まれる官能基を介して架橋反応等を行う機能を有する。このような架橋反応を行う化合物として、ポリアミン、ポリオール、ポリカルボン酸、酸無水物、有機カルボン酸アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸塩等を併用することもできる。
【0011】
[アクリルゴムとポリ乳酸とのブレンド又は反応体:(A)成分]
本発明に用いられるアクリルゴムとポリ乳酸とのブレンド又は反応体について説明する。本発明において、該「ブレンド又は反応体」とは、(1)アクリルゴムとポリ乳酸との単なる混合物、(2)アクリルゴム分子とポリ乳酸分子とが反応して共有結合が形成された反応体のみからなるもの、及び(3)前記両者の混合物を含む意味である。(2)の反応体しては、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ランダムコポリマー、それらの混合物等が含まれる。以下、アクリルゴムとポリ乳酸とのブレンド又は反応体を(A)成分ともいう。(2)又は(3)の反応体は、当該混合物の中の上記(1)が架橋剤により架橋されることにより生成されるものであってよい。
(A)成分の、アクリルゴムとポリ乳酸の配合比率は、本発明の目的を達成するためにアクリルゴム及び/又はポリ乳酸の構造により種々特定され得るが、例えば、(A)成分中、アクリルゴムを5〜80質量%含むことが好ましく、10〜70質量%含むことが更に好ましい。
【0012】
(A)成分の要素、アクリルゴム及びポリ乳酸について以下、更に説明する。(A)成分の要素であるポリ乳酸は前述のポリ乳酸が用いられる。
(アクリルゴム)
アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とする。アクリルゴムは、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれる単量体混合物を共重合して得られるものが好ましい。
該アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシエステルが好ましく、これらの1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
アクリル酸アルキルエステルとしては、そのアルキル部分が炭素数1〜12のアルキル基であるものが挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0013】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、そのアルコキシ部分が炭素数1〜12のアルコキシ基であるものが挙げられ、炭素数2〜9のアルコキシ基であるものが特に好ましく、そのアルキル部分が炭素数1〜12のアルキル基であるものが挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0014】
アクリルゴム中に含まれるアクリル酸エステルの含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましい。この含有量が85質量%未満の場合には、本発明の樹脂組成物の成形加工性が低下し、良好な外観を有する成形体を得ることができなくなり、アクリル酸エステルの含有量が99.5質量%を超える場合にはアクリルゴムの架橋が十分に行われなくなり、本発明の樹脂組成物の成形体の機械的強度が劣る傾向にある。
【0015】
前記共重合可能なエポキシ基含有単量体とは、分子内にエポキシ基を有するビニル系単量体を意味する。このエポキシ基含有単量体としては、一般的なエポキシ基含有単量体は全て使用することができる。その例としては、アクリル酸又はメタクリル酸のグリシジルエステル又はエーテル等が挙げられる。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。アクリルゴム中に共重合されるエポキシ基含有単量体の含有量は好ましくは0.5〜15質量%であり、更に好ましくは1〜10質量%である。エポキシ基含有単量体の含有量が0.5質量%未満の場合にはアクリルゴムの架橋が十分に行われず、本発明の樹脂組成物の成形体の機械的強度が劣る傾向にあり、15質量%を超える場合にはアクリルゴムが過度に架橋されるため、本発明の樹脂組成物の成形体の成形加工性が低下し、良好な外観を有する成形体を得ることができない。
【0016】
また、アクリルゴムは、成形加工性等の物性を向上させる目的で、単量体混合物にその他の共重合性単量体を配合して共重合させたものでもよい。そのような共重合性単量体としては、メタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体;ヒドロキシル基含有単量体;活性塩素含有単量体;フッ素系(メタ)アクリル酸エステル;芳香族ビニル化合物;ビニルアミド;α−オレフィン類;共役ジエン類;官能基として、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、等を有する、二官能性(メタ)アクリレート類、三官能性(メタ)アクリレート類及び酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0017】
これらの共重合性単量体のアクリルゴム単量体混合物中における含有量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この含有量が40質量%を超える場合、アクリルゴムの機械的特性、成形加工性等の物性のバランスを損なうおそれがある。
【0018】
アクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は好ましくは−15℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。Tgが−15℃よりも高いと、本発明の樹脂組成物の脆化温度が高くなるため、本発明の樹脂組成物の成形体が実用的な使用に耐えることができなくなる場合がある。
本発明の樹脂組成物中に含まれるアクリルゴムの含有量は、樹脂組成物中、好ましくは、5〜80質量%、更に好ましくは10〜70質量%であることが、成形体の機械的強度と成形加工性のバランスに有効である。アクリルゴムの含有量が5質量%未満の場合、成形体の機械的強度(柔軟性)が劣る傾向があり、80質量部を超える場合、成形体の成形加工性が損なわれる傾向がある。
【0019】
(ポリ乳酸)
(A)成分に用いられるポリ乳酸としては、特に制限はないが、ポリL−乳酸が好ましい。
【0020】
本発明の(A)成分において、(A)成分のポリ乳酸が(A)成分とは独立に用いられる前記ポリ乳酸、好ましくは乳酸単独重合体と同じ構造でアクリルゴムとのブレンドである場合、(A)成分はアクリルゴムのみとして本発明の樹脂組成物の配合比率が計算される。
また、本発明の上記混合物は、エポキシ化天然ゴムを含むため、成形体の機械的強度の向上に有効である。特に、この混合物に加水分解抑制剤が存在するので、ポリ乳酸を含む相の界面に存在するエポキシ化天然ゴムが、そのエポキシ化天然ゴムのエポキシ基を介して界面間を加水分解抑制剤が架橋反応等するため有効であると考えられる。
本発明において、乳酸単独重合体及び(A)成分のポリ乳酸相当分は、本発明の樹脂組成物中2〜50質量%が好ましく、更には5〜40質量%、そして8〜30質量%が更に好ましい。上記範囲で本発明の樹脂組成物の成形性と該成形体の機械的強度を両立することができる。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を含む混合物を架橋剤により架橋してなる。この架橋方法に制限はないが、動的架橋が好ましい。動的架橋としては、該混合物と架橋剤とを溶融混練し、少なくともゴム成分分子間を架橋させるのであれば、任意の架橋剤及び公知の方法が適用できる。ここで、ゴム成分分子は、アクリルゴムとポリ乳酸とのブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーのアクリルゴム部分、又はブレンドである(A)成分のアクリルゴムであってよい。以下、架橋剤について説明する。
(架橋剤)
架橋剤としては、例えば、硫黄;有機硫黄化合物;芳香族ニトロソ化合物などのような有機ニトロソ化合物;オキシム化合物;酸化亜鉛や酸化マグネシウムなどの金属酸化物;ポリアミン類;セレン、テルルおよび/またはそれらの化合物;アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂や臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂などの樹脂架橋剤;分子内にSiH基を2つ以上持つ有機オルガノシロキサン系化合物;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(パーヘキサ(日油(株)登録商標)25B、同25B−40)、ジクミルペルオキシド(パークミル(日油(株)登録商標)D、同D−40)、2,5−ジメチル2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(パーヘキシン(日油(株)登録商標)25B、同25B−40)、等の有機過酸化物;などを挙げることができ、ゴムの種類などに応じて、架橋剤の1種または2種以上を用いることができ、中でも水素引き抜き反応による架橋が可能な有機過酸化物が好ましい。
本発明の樹脂組成物に用いられる架橋剤の添加量は本発明の樹脂組成物中0.01〜5質量%含有することが本発明の目的を達成するために好ましく、0.1〜3.5質量%含有することが更に好ましい。
【0022】
(本発明の樹脂組成物、その成形体の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではないが、通常、前記各成分を含有する混合物について架橋剤で動的架橋を行うことによって製造される。ここで動的架橋は、ポリ乳酸の融点より高い温度で溶融混練し、混練中に高剪断の下で架橋剤により成分間を架橋させることを意味する。
動的架橋を行う装置としては、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用することができる。
通常、こうして動的に架橋された樹脂組成物は、ゴム成分分散相(天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、更に(A)成分のアクリルゴム等)と樹脂成分マトリクス相(ポリ乳酸[(A)成分のポリ乳酸を含む]等)からなる相構造(海島構造)を形成すると考えられ、ゴム成分が架橋されているにも係わらず、本発明の樹脂組成物は熱可塑性を示すことができる。
従って、本発明の樹脂組成物は、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等のような従来の熱可塑性樹脂の成形方法(加工技術)及び成形装置により加工して成形体を形成することができ、かつその加工後の成形体の再加工を行うことができる。
【0023】
前記架橋反応は溶融混練中に架橋剤が配合されていることによって進行する。架橋剤は、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、及び加水分解抑制剤等とともに混練機へ同時に投入ないし適当な添加手順で添加して動的架橋を行うことができる。動的架橋を行う上で特に加水分解抑制剤、架橋剤等を用いるタイミングは、重要であり、適宜選定し得るが、多くの場合、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、更に(A)成分等の各々を混練機に同時又は別時に投入し、十分に溶融、混練を行いつつ又は行った後、これら混合物に加水分解抑制剤を添加し、次いで架橋剤を最後に投入して動的架橋を行う方が有効である。但し、反応速度の遅い架橋剤又は遅効性架橋剤を使用するような場合には、架橋剤を他の成分の前又は同時に添加することができる。
溶融、混合及び動的架橋を行う温度としては、樹脂成分の融点からアクリルゴムの分解開始温度に相当する100〜350℃の範囲が適当である。この温度はより好ましくは150〜300℃であり、特に好ましくは180〜280℃である。
また、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、結晶核剤、大豆油などの植物油や中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの可塑剤、加硫促進剤、老化防止剤、充填材として、セルロース粉末、カーボンブラック、シリカ、タルク、酸化チタン、などを添加しても良い。該結晶核剤としては、ポリ乳酸の結晶化を促進する機能を有するものであれば、無機系又は有機系のどちらでも特に限定されないが、好ましくは有機系で当該ポリ乳酸とはキラリティの異なる乳酸をモノマー単位として少なくとも含む単独重合体又は共重合体が挙げられる。共重合性モノマーとしては、デンプン、グルコマンナン等の多糖、ブドウ糖等の単糖、ショ糖、マルトース等の二糖、シクロデキストリン等のオリゴ糖等が挙げられ、具体的には、当該ポリ乳酸とはキラリティの異なるポリ乳酸、同乳酸−デンプン共重合体樹脂等が挙げられ、これらのいずれを用いてもよいが、0.1質量%〜1質量%の糖の入った乳酸−デンプン共重合樹脂等が挙げられる。また、有機系結晶核剤の分子量は、特に限定されないが、1,000〜2,000,000の範囲である。
また、本発明は、所望の特性を得るための助剤として、天然ゴムを上記以外の手法により化学修飾したものや、ポリカプロラクトン等の柔軟性付与剤を併用してもよい。例えば、ポリカプロラクトン等を併用し、樹脂組成物の耐熱性を向上させること等が挙げられる。しかしながら、ポリカプロラクトンを添加すると樹脂の植物度が低下する。
これら添加剤は、架橋剤を添加する前に原料組成物中に十分にブレンドされていることが好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、ゴム成分分散相の平均粒子径が、100μm以下であり、5〜50μmがさらに好ましく、10〜30μmが特に好ましい。この平均粒子径は、偏光顕微鏡を用い、200℃のホットステージ上で加熱溶融させ、目視観察により、天然ゴム粒子を450〜550個測定し、算術平均により求められる値を意味する。
本発明の樹脂組成物、成形体は、例えば、上記天然ゴム等のゴム成分及び(A)成分等を加水分解抑制剤とともにバンバリーミキサーやロールで可塑化させる工程、この可塑化させたものに架橋促進剤や架橋剤などを添加しリボン状または角型ペレットにする工程、2軸の押出機などを用いてゴム成分と樹脂成分等とを混合させながら、架橋と分散を行ないペレット化した本発明の樹脂組成物を得る工程、ペレットを射出成形機や押出機を用いて最終製品である成形体を製造する工程から構成することができる。得られた成形体は、自動車部品などとして使用可能である。なお、本発明は、上記ペレット化をすることなく成形し、最終製品とすることもできる。また、該ペレット化した本発明の樹脂組成物は、他の樹脂又はゴムとともに用いて射出成形機や押出機により成形体を製造することもできる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例2
表1に記載の配合成分の内、NR(天然ゴム)、ENR(エポキシ化天然ゴム)、RD(老化防止剤)をバンバリーミキサーで可塑化したものにオープンロールを用いて架橋剤を添加し、リボン状ペレットとし、このペレットとPLA(乳酸単独重合体)、加水分解抑制剤、ならびに(A)成分をあらかじめ加熱溶融ブレンドして予備的架橋反応させたもののペレットを、樹脂温180℃に設定した二軸押出機(クリモト製S1KRCニーダ)に投入し、混合させながら、動的架橋と分散を行ないペレット化した。
得られたペレットを(株)山城精機製作所製の射出成型機SAV−30を用いて、JIS 7113の1号引張試験片を成形した。成形温度はシリンダー温度180℃に設定した。
得られた試験片は、JIS K7113に準拠して引張強度および破断時の伸び、並びに弾性係数も併せて測定した。また、試験片を温度50℃、湿度95%の雰囲気で6週間処理後の引張強度の保持率(強度保持率)を100×(処理後/処理前)として求めた。更に、試験片の硬度をJIS A型硬度計により測定した。結果を表1に示す。なお、表中、PLA含有量は、PLA及び(A)成分のPLAの和の全配合(100質量%)に対する配合率である。また、植物度は、表中の数値で、PLA+NR+ENR+(A)成分×0.3として求めた。
配合成分の詳細は以下の通りである。
NR:スリランカ製ペールクレープ
ENR:ENR50(タイ国のMuang Mai Guthrie Public Company Limited製50モル%エポキシ化天然ゴム)
(A)成分:ノフアロイAT−14950[アクリルゴム/PLA=70/30(質量比)のブロックコポリマー、日油(株)製、上市の予定]、ここで、(A)成分のポリ乳酸相当分は30質量%である。
加水分解抑制剤:カルボジイミド化合物、カルボジライトLA−1(日清紡(株)製)
架橋剤:パーヘキサ25B−40(日油(株)製)
PLA:ポリL−乳酸(三井化学(株)製レイシアH−100)
【0026】
実施例1、3〜6、比較例1〜2
表1の配合に従って実施例2と同様に試験片を作製し、評価した。結果を表1に示した。実施例1では(A)成分が配合されず、実施例6ではPLA(乳酸単独重合体)が配合されていない。
【0027】
【表1】

【0028】
上表から、以下のことが理解される。
比較例1:本発明の樹脂組成物において、加水分解抑制剤を添加しないと、強度保持率が極端に低下する。また、弾性係数が高く、柔軟性に劣る。
比較例2:NR、ENR、PLA、及び加水分解抑制剤を添加していない例で、強度保持率が100%と耐加水分解性の材料であり、エラストマーとして優れるが、植物度が30%程度であり、本発明の樹脂組成物とは基本的に組成が異なる。
実施例1〜6:植物度が93%〜73%程度と高い。また、加水分解抑制剤の添加が比較例1の系において強度保持率の改善に有効であり、かつ著しい伸びの向上と弾性係数の低下が分かる。また、同比較例1との比較から(A)成分の添加量に対する硬度の一律な変化が認められ、本発明の樹脂組成物は(A)成分により硬度が制御可能であることを示しているととともに熱可塑性エラストマーとしての機械的強度にも優れている。通常、植物度が高い方を高価値とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、ポリ乳酸、及び加水分解抑制剤を含む混合物を架橋剤により架橋してなる樹脂組成物。
【請求項2】
前記加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、天然ゴムとエポキシ化天然ゴムの合計が、40質量%以上であり、ポリ乳酸が50質量%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記混合物は、アクリルゴムとポリ乳酸とのブレンド又は反応体を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記反応体はアクリルゴムとポリ乳酸のブロックコポリマーを含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記反応体はアクリルゴムとポリ乳酸のグラフトコポリマーを含む、請求項4又は5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリ乳酸を、乳酸単独重合体及び請求項4〜6のいずれか1項に記載のアクリルゴムとポリ乳酸とのブレンド又は反応体に含まれているポリ乳酸相当分として、前記樹脂組成物中2〜50質量%含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記架橋は動的架橋である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む成形体。

【公開番号】特開2011−241317(P2011−241317A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115390(P2010−115390)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 高分子学会発行、高分子学会予稿集、59巻1号[2010]、平成22年5月11日発行
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】