説明

樹脂組成物

【課題】アスペクト比が高いセルロース繊維を良好に分散することができ、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】成分(a)熱可塑性樹脂25〜84.5質量%、成分(b)セルロース繊維15〜60質量%、および成分(c)無機物0.5〜15質量%、(ただし、前記成分(a)〜(c)の合計は100質量%である)を含む、樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関する。さらに詳細には、セルロース繊維を良好に分散させることができ、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維径が小さい微小繊維は、種々の添加剤、例えば、樹脂成形体の強度を向上させるためのフィラーとして、また、不織布状シートの強度を改善するための強化剤、濾過性能を向上させるための濾過助剤、食品添加物などに広く利用されている。
【0003】
また、微小繊維は、表面積の大きさ、均一分散性、絡み合い、粉体保持性などの特性を利用して、物質強度の向上以外にも、隠蔽性、絶縁性、軽量化などの改善において、広く実用化されている。
【0004】
しかし、微小繊維をベース樹脂に混合する場合、ベース樹脂および/または微小繊維の種類によっては、微小繊維をベース樹脂に均一に分散させるのが困難であり、併用効果が十分に得られない場合がある。特に、セルロース繊維は親水性基を有するため、樹脂に対する分散性は低い。
【0005】
特許文献1には、棒状粒子からなる結晶性セルロース微粉末と分散剤とを用いた、機械的強度や衝撃強度の高い熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この文献によれば、結晶性セルロース微粉末と熱可塑性樹脂とを溶融混練することによって樹脂組成物を得ており、樹脂の制限もなく、コスト面に優れる樹脂組成物が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物では、アスペクト比が小さい結晶性セルロースの微粉末を用いており、これにより得られる樹脂組成物の機械的強度が不十分であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、アスペクト比が高いセルロース繊維を良好に分散することができ、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を積み重ねた。その結果、熱可塑性樹脂およびセルロース繊維を含む樹脂組成物中に、さらに無機物を配合することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
熱可塑性樹脂およびセルロース繊維を含む組成物の中に、無機物を配合することにより、アスペクト比が高いセルロース繊維を良好に分散させることができる。これにより、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、樹脂組成物の各成分について、さらに詳細に説明する。
【0012】
[成分(a)熱可塑性樹脂]
成分(a)として使用する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、有機酸ビニルエステル樹脂またはその誘導体、ビニルエーテル樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン樹脂(環状オレフィン樹脂を含む)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(飽和ポリエステル樹脂など)、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル樹脂(2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴムまたはエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0013】
これらの樹脂のうち、ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂が好ましい。
【0014】
ポリアミド樹脂の具体例としては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド;ポリ−1,4−ノルボルネンテレフタルアミド、ポリ−1,4−シクロヘキサンテレフタルアミドポリ−1,4−シクロヘキサン−1,4−シクロヘキサンアミドなどの脂環式ポリアミド;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド;これらのポリアミドのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分により形成されるコポリアミドなどが挙げられる。なお、前記ポリアミド樹脂には、ポリアミドエラストマーも含まれる。
【0015】
飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、芳香族ポリエステル(テレフタル酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレンテレフタレート;ナフタレン酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンナフタレートなどの炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレンナフタレートなど);脂肪族ポリエステル(アジピン酸単位を有するポリエステル、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのポリアルキレンアジペート;ポリ乳酸など)、ポリアリレート、液晶性ポリエステルなどが挙げられる。これらのポリエステルは、通常、結晶性を有している。なお、飽和ポリエステル樹脂は、構成成分以外のジカルボン酸成分および/またはグリコール成分により変性されていてもよい。また、前記飽和ポリエステル樹脂には、ポリエステルエラストマーも含まれる。
【0016】
ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレンエーテル)などの単独重合体、これらの単独重合体をベースとして構成された変性ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリフェニレンエーテル単独重合体またはその共重合体にスチレン重合体がグラフトしている変性グラフト共重合体などが挙げられる。
【0017】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の具体例としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリビフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどが挙げられる。
【0018】
オレフィン樹脂としては、オレフィン単量体の単独重合体の他、オレフィン単量体の共重合体、オレフィン単量体と他の共重合性単量体との共重合体が含まれる。オレフィン単量体の具体例としては、例えば、鎖状オレフィン[エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2〜20(好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜4)のα−オレフィンなど]、環状オレフィン[例えば、シクロペンテンなどの炭素数4〜10のシクロアルケン;シクロペンタジエンなどの炭素数4〜10のシクロアルカジエン;ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの炭素数8〜20のビシクロアルケンまたは炭素数8〜20のビシクロアルカジエン;ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの炭素数10〜25のトリシクロアルケンまたはトリシクロアルカジエンなど]などが挙げられる。これらのオレフィン単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。上記オレフィン単量体のうち、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜4のα−オレフィンなどの鎖状オレフィンが好ましい。
【0019】
前記オレフィン単量体と共重合可能な他の共重合性単量体の具体例としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系単量体;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)など];ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;およびブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0020】
前記オレフィン樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、または線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン(ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなど)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1などの三元共重合体などの鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)の共重合体などが挙げられる。また、オレフィン単量体と他の共重合性単量体との共重合体の具体例としては、例えば、鎖状オレフィン(特に、エチレン、プロピレンなどの炭素数2〜4のα−オレフィン)と脂肪酸ビニルエステル単量体との共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピオン酸ビニル共重合体など);鎖状オレフィンと(メタ)アクリル単量体との共重合体[鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)と(メタ)アクリル酸との共重合体(例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、プロピレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマーなど);鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体(例えば、エチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体など);など];鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)とジエンとの共重合体(例えば、エチレン−ブタジエン共重合体など);エポキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体)、カルボキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン−無水マレイン酸共重合体)、エポキシおよびカルボキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン−無水マレイン酸−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体)などの変性ポリオレフィン;オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴムなど)などが挙げられる。該オレフィン樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0021】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの炭素数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジルエステルなど]、アクリロニトリルなどのアクリル単量体の単独重合体または共重合体;アクリル単量体と他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0022】
前記アクリル単量体の単独重合体または共重合体の具体例としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。アクリル単量体と他の単量体との共重合体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0023】
ビニル樹脂の具体例としては、例えば、塩化ビニル樹脂[塩化ビニルモノマーの単独重合体(ポリ塩化ビニル樹脂など)、塩化ビニル単量体と他の単量体との共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)など]、ビニルアルコール樹脂(ポリビニルアルコールなどの単独重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの共重合体など)、ポリビニルホルマールなどのポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。これらのビニル系樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0024】
上記の中でも、成分(a)として使用する樹脂としては、比重、強度、成形加工性、価格のバランスの観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0025】
なお、上記熱可塑性樹脂が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0026】
上記熱可塑性樹脂は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。これらの熱可塑性樹脂を合成するための重合方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、高圧ラジカル重合法、中低圧重合法、溶液重合法、スラリー重合法、塊状重合法、気相重合法等を挙げることができる。また、重合に使用する触媒も特に制限はなく、例えば、過酸化物触媒、チーグラー−ナッタ触媒、メタロセン触媒等が挙げられる。市販品の例としては、例えば、株式会社プライムポリマー製のポリプロピレンであるJ139などが挙げられる。
【0027】
成分(a)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(c)の合計量を100質量%として、25〜84.5質量%である。含有量が25質量%未満であると、組成物の成形が困難となる。一方、84.5質量%を超えると、所望の効果が得られにくくなる。成分(a)の含有量は、好ましくは37〜84.5質量%、より好ましくは50〜79.質量%である。
【0028】
[成分(b)セルロース繊維]
本発明の成分(b)として使用するセルロース繊維の具体例としては、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース繊維(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)繊維、ヒドロキシプロピルセルロース繊維など);カルボキシアルキルセルロース繊維(カルボキシメチルセルロース(CMC)繊維、カルボキシエチルセルロース繊維など);アルキルセルロース繊維(メチルセルロース繊維、エチルセルロース繊維など);再生セルロース(レーヨン、セロファンなど)などのセルロース誘導体など]などが挙げられる。これらセルロース繊維は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0029】
なお、セルロース繊維として、パルプを用いる場合、パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプなど)、または化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプなど)などであってもよい。必要に応じて叩解(予備叩解)処理された叩解繊維(叩解パルプなど)や、パルプや不織布に対して解繊処理を行って得られる繊維であってもよい。さらに、セルロース繊維は、慣用の精製処理、例えば、脱脂処理などが施された繊維(例えば、脱脂綿など)であってもよい。
【0030】
セルロース繊維の平均繊維長(L)は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜80μmである。また、セルロース繊維の平均繊維径(直径)(D)は、好ましくは4nm〜100μm、より好ましくは4nm〜90μmである。さらに、セルロース繊維のアスペクト比(L/D)は、好ましくは2〜2,000、より好ましくは20〜1,000である。なお、セルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径、およびアスペクト比は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0031】
上記の中でも、成分(b)として使用するセルロース繊維としては、大量生産性の観点から、食品用途で使用量が多く、量産法が確立されているカルボキシメチルセルロース繊維が好ましい。また、安価なパルプや不織布を原料とし、解繊処理を行って得られるセルロース繊維もまた好ましい。
【0032】
上記セルロース繊維は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、例えば、旭化成せんい株式会社製のセルロースナノファイバー不織布、日本製紙ケミカル株式会社製のサンローズ(登録商標)などが挙げられる。
【0033】
成分(b)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(c)の合計量を100質量%として、15〜60質量%である。含有量が15質量%未満であると、所望の効果が得られにくくなる。一方、60質量%を超えると、樹脂組成物の製造が困難となり、成形品の外観や耐摩耗性が悪化する虞がある。成分(b)の含有量は、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
【0034】
[成分(c)無機物]
樹脂組成物はさらに、成分(c)無機物を含む。成分(c)を配合することで、樹脂組成物中のセルロース繊維を良好に分散させることできる。この理由は以下の通りであると考えられる。もちろん、効果発現のメカニズムは、以下のメカニズムに何ら限定されるものではない。
【0035】
セルロースは水と親和性が高く、セルロース濃度が5質量%以下である水分散液の形態、または水を多量に含んだ粘土状物の形態で入手できる場合が多い。また、粉末で入手したとしても、後述する分散剤などを、セルロース繊維表面に均一に反応させるために、セルロース繊維を水に再分散させて用いる。しかし、一般的な溶融混練機を用いて樹脂とセルロース繊維とを混合して樹脂組成物を得る場合は、水を含んだセルロースを用いると、成形物に水由来の不具合(シルバー、ボイドなどに代表される外観の悪化、耐衝撃性低下などの機械物性低下)が発生する。そのため、水を含んだセルロースを事前に乾燥させる必要が生じ、このときそのままセルロースを乾燥してしまうと、セルロース繊維同士が複雑に絡まり、ミリサイズの凝集が乾燥時に発生してしまう。この凝集を樹脂中で解そうと試みても、従来技術ではセルロース繊維をよく分散できなかった。
【0036】
そこで、水に分散させたセルロースの中に無機物を添加し乾燥を行うと、セルロース同士が絡み合うところに無機物が介在することで、セルロース繊維の絡み合いを抑制することができる。このため無機物を含んだ乾燥セルロース繊維は、樹脂中で容易に解くことができ、樹脂中でのセルロース繊維の分散性が向上する。また、さらに無機物は、樹脂中で分散の起点、言い換えるとくさびのような役割を発揮し、溶融混練時におけるセルロース繊維の分散性向上の役割をも果たし、よりセルロース繊維の分散性が向上した樹脂組成物を得ることができる。
【0037】
このようにして、セルロース繊維の分散性が向上した樹脂組成物は、セルロース繊維が本来有するアスペクト比を生かすことができ、高い剛性を有し、また、応力集中が分散されるため、優れた耐衝撃性を有する。
【0038】
成分(c)として使用する無機物としては、特に制限されない。具体例としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどの炭素単体;鉄単体、銅単体、金単体、銀単体などの金属単体;酸化亜鉛、酸化ケイ素(シリカ)、硫化亜鉛、ガラスビーズ、酸化カルシウム(カルシア)、酸化カルシウム誘導体(ヒドロキシアパタイト)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム誘導体(ベーマイト)、酸化鉄(ヘマタイト)、粘土化合物(モンモリロナイト、イモゴライトなど)、メタケイ酸カルシウム(ウォラストナイト)、タルク、炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム)などの金属化合物などが挙げられる。
【0039】
成分(c)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(c)の合計量を100質量%として、0.5〜15質量%である。含有量が0.5質量%未満であると、所望の効果が得られにくくなる。一方、15質量%を超えると、所望の効果が得られにくくなるだけでなく、成形品の比重が増大する。成分(c)の含有量は、好ましくは0.5〜13質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0040】
セルロース繊維を分散させるためには、平均粒子径が1nm〜10μmである無機粒子が好ましく、1nm〜1μmの大きさである無機粒子がより好ましい。この大きさの無機粒子を用いることで、樹脂組成物中のセルロース繊維の凝集がミクロンサイズ以下となる。無機粒子の平均粒子径が10μmより大きい場合は、セルロースの凝集がミクロンサイズとなることが多くなり、セルロース繊維の樹脂中でのアスペクト比が損なわれ、機械的物性や耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得られない虞がある。なお、無機物の平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0041】
さらに無機物は、シリカ、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、チタニア、ベーマイト、タルク、または炭酸カルシウムなどの金属化合物が好ましい。上記サイズの粒子の量産性が確立されているためである。そして、そのサイズと価格のバランスとの観点から炭酸カルシウムおよびタルクの少なくとも一方が特に好ましい。炭酸カルシウムが好ましい理由としては、水、およびセルロース繊維と相互作用を有するためである。特に、炭酸カルシウムの種類としては、粒子径が10nm〜200nmと小さく、価格のバランスも良い合成炭酸カルシウムが好ましい。これよりも価格の安い炭酸カルシウムとしては、重炭酸カルシウムが一般的であるが、粒子径は市販されている最も小さいものでも2μm以上であり、水と親和性も低く、水中で凝集して大きな凝集塊を形成してしまう虞がある。よって、樹脂中でのセルロースの分散効果を発揮することができない虞がある。一方、タルクは、特にオレフィン樹脂と凝集することなく良く混ざり、樹脂への補強強化および価格のバランスを良く発揮することから好ましい。例えば、自動車用樹脂バンパーフェイシア、インストパネル、ドアトリムなどのポリプロピレン製部品は、タルクのこの性質を利用し、補強材として使われることが一般的である。そのため市場入手性に優れ、価格も低い。
【0042】
上記で挙げた無機物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。水中や樹脂中で無機物がセルロースに先立って凝集し、無機物がセルロース繊維の分散剤としての効果を発揮し難い場合がある。この際、性質の異なる無機物を併用しておくと、無機物同士の凝集を防ぐことができる。より具体的な例を挙げると、大きさの異なる炭酸カルシウムを併用する方法がある。炭酸カルシウムは、粒子径が小さいほど表面エネルギーが大きくなり互いに凝集しやすいが、大きい粒子径のものは、表面エネルギーが小さく凝集し難い。これを利用して、例えば、平均粒子径100nmの炭酸カルシウムと平均粒子径8μmの炭酸カルシウムを併用すると、凝集し難い大きな平均粒子径8μmの炭酸カルシウムが、凝集する平均粒子径100nmの炭酸カルシウムを分散させる効果が得られる。より具体的には、平均粒子径が1nm〜1μmである無機物(以下、単に粒子径が小さい無機物とも称する)と、これよりも大きな平均粒子径を有する無機物(以下、単に粒子径が大きい無機物とも称する)とを併用する形態がより好ましい。粒子径が大きい無機物の平均粒子径は、使用する粒子径が小さい無機物の平均粒子径よりも大きければ特に制限されないが、1μm〜10μmであることが好ましい。また、粒子径が小さい無機物と粒子径が大きい無機物とを併用する場合の重量比は、粒子径が小さい無機物/粒子径の大きい無機物=75/25〜50/50の範囲にあることが好ましい。
【0043】
さらにもう一つの例を挙げると、炭酸カルシウムとタルクとの併用が挙げられる。水中での炭酸カルシウムは分散しやすく、タルクは分散し難い。一方、樹脂中では炭酸カルシウムでは分散し難く、タルクは分散しやすい。この性質を利用して、水中での分散剤として炭酸カルシウム、樹脂中での分散剤としてタルクをそれぞれ利用することが好ましい。また、この炭酸カルシウムとタルクとを併用する形態と、前述の粒子径が異なる無機物を併用する形態とを組み合わせた形態も好ましい。
【0044】
成分(c)は合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、例えば、ネオライトSP、エスカロン♯2300、ハイブリットフィラーAHT−6040、ハイブリットフィラーAHT−7525C(以上、三共精粉株式会社製)、HTP−1(以上、ハイタルクグループ社製)などが挙げられる。
【0045】
[成分(d)分散剤]
前記樹脂組成物は、前記成分(a)〜(c)以外の任意の成分として、成分(d)分散剤を適宜添加することができる。添加剤の例としては、例えば、セルロース繊維を熱可塑性樹脂中に効率良く分散させるための分散剤が挙げられる。
【0046】
そのような分散剤は、特に制限されない。しかしながら、水酸基価が30mgKOH/g以上である化合物は、セルロース繊維とエステル交換反応のような相互作用が生じ、セルロース繊維同士の分散性向上と熱可塑性樹脂中へのセルロース繊維の分散性とが良好になると推測され好ましい。特に、水酸基価が30mgKOH/g以上であるポリオール(d−1)、ヒマシ油水添物(d−2)、およびリシノール酸誘導体(d−3)が、好ましいものとして挙げられる。これらは単独でも、必要に応じて2種以上を組み合わせても使用することができる。成分(d)の水酸基価は、セルロース繊維同士の分散性向上と熱可塑性樹脂中へのセルロース繊維の分散性(以下、単に分散性ということがある)向上とに寄与する。成分(d)の水酸基価は、30〜360mgKOH/gであることがより好ましく、40〜350mgKOH/gであることがさらに好ましい。なお、分散性向上の観点から、成分(d)は、水酸基価が30mgKOH/g以上であるとともに、酸価が20mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が20mgKOH/g以下であることにより、セルロース繊維と中和反応のような相互作用が生じ、セルロース繊維同士の分散性向上と熱可塑性樹脂中へのセルロース系繊維の分散性とが良好になると推測される。
【0047】
なお、水酸基価および酸価は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0048】
以下、分散剤として用いられる化合物について説明する。
【0049】
<ポリオール(d−1)>
ポリオール(d−1)としては、分散性の観点から、ヒマシ油由来ポリオール(d−1−1)、ポリブタジエンポリオール(d−1−2)、エポキシポリオール樹脂(d−1−3)、ポリイソプレンポリオールまたはその水素添加物(d−1−4)が好ましい。
【0050】
ヒマシ油由来ポリオール(d−1−1)としては、芳香族ヒマシ油ポリオール(d−1−1−1)、ヒマシ油由来ポリオールとリン酸エステル化合物とを含むポリオール(d−1−1−2)、ポリエステルポリオール、特にセバシン酸ポリエステルポリオール(d−1−1−3)などが好ましい。
【0051】
前記「ヒマシ油」は、リシノレイン酸とグリセリンとのトリエステル化合物を含む油脂である。通常、天然油脂または天然油脂加工物であるが、上記化合物を含めば合成油脂であってもよい。このヒマシ油に含まれるトリエステル化合物を構成するリシノレイン酸は、トリエステル化合物全体を構成する脂肪酸のうちの90モル%以上含有されることが好ましい。
【0052】
芳香族ヒマシ油ポリオール(d−1−1−1)は、芳香族骨格(例えばビスフェノールA等)を有する、ヒマシ油から誘導された変性ポリオールである。当該成分(d−1−1−1)は、市販されており、例えば「URIC ACシリーズ」(伊藤製油株式会社製)等が挙げられる。中でも、リシノレイン酸にポリアルキレングリコールとビスフェノールAとを付加させた付加物が好ましく、例えば、下記化学式(1)で表すことができる。
【0053】
【化1】

【0054】
前記化学式(1)中、mは平均2〜5の数を表し、nは平均2〜5の数を表す。
【0055】
前記化学式(1)で表されるヒマシ油から誘導された変性ポリオールとしては、例えば商品名 URIC AC―005(水酸基価194〜214mgKOH/mg、粘度700〜1500mPa・s/25℃)、AC−006(水酸基価168〜187mgKOH/g、粘度3000〜5000mPa・s/25℃)、AC−008(水酸基価180mgKOH/g、粘度1600mPa・s/25℃)、AC−009(水酸基価225mgKOH/g、粘度1500mPa・s/25℃)(以上、伊藤製油株式会社製)が挙げられる。なお、粘度は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0056】
ヒマシ油由来ポリオールとリン酸エステル化合物とを含むポリオール(d−1−1−2)としては、例えば、特開2005−89712号公報に開示されているような、リシノレイン酸から誘導されたヒマシ油ポリオールと、全炭素数が12以上の酸性リン酸エステル化合物と、必要に応じてテルペンフェノール類とを含有するポリオール組成物を使用することができる。
【0057】
ヒマシ油ポリオールとしては、ヒマシ油より誘導されるポリオール、ヒマシ油を変性して得られるポリオールが挙げられる。
【0058】
ヒマシ油より誘導されるポリオールとは、このグリセリンエステルのリシノレイン酸の一部をオレイン酸に置換したもの、ヒマシ油を鹸化して得られるリシノレイン酸をトリメチロールプロパンその他の短分子ポリオールとエステル化したもの、これらとヒマシ油との混合物等、ヒマシ油由来の脂肪酸エステルポリオールである。
【0059】
ヒマシ油を変性して得られるポリオールとしては、例えば、植物油変性ポリオール、芳香族骨格(例えばビスフェノールA等)を有する変性ポリオール等が挙げられる。植物油変性ポリオールは、グリセリンエステルのリシノレイン酸の一部を、他の植物より得られる脂肪酸、例えば大豆油、なたね油、オリーブ油等より得られるリノール酸、リノレン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸に置換して得られるものである。
【0060】
ヒマシ油由来ポリオールとリン酸エステル化合物とを含むポリオール(d−1−1−2)としては、例えば、URIC H−1262、H2151U(以上、伊藤製油株式会社製)が挙げられる。
【0061】
上記のURIC H−1262は、ヒマシ油ポリオールと全炭素数が12以上の酸性リン酸エステル化合物とを含むポリオール(粘度:3,500〜8,500mPa・s/25℃、水酸基価:240〜290mgKOH/g)、酸価:4〜15mgKOH/g)である。これは、セルロース繊維同士の分散性向上と熱可塑性樹脂中へのセルロース繊維の分散性向上とに有利であり、特にセルロース繊維同士の分散性向上に有利である。
【0062】
また、上記のURIC H−2151Uは、ヒマシ油系ポリオールと全炭素数が12以上の酸性リン酸エステル化合物とテルペンフェノール類とを含むポリオール(粘度:3,500〜8,500mPa・s/25℃、水酸基価:240〜290mgKOH/g、酸価:4〜15mgKOH/g)である。これは、セルロース繊維同士の分散性向上と熱可塑性樹脂中へのセルロース繊維の分散性向上とに有利であり、特にセルロース繊維同士の分散性向上に有利である。
【0063】
セバシン酸ポリエステルポリオール(d−1−1−3)としては、例えば、URIC SE−1006(伊藤製油株式会社製)が挙げられる。URIC SE−1006の水酸基価は110mgKOH/gであり、酸価は0.2mgKOH/gである。
【0064】
ポリブタジエンポリオール(d−1−2)としては、例えば、1,2−ポリブタジエンポリオール、1,4−ポリブタジエンポリオール等のホモポリマー、ポリ(ペンタジエン・ブタジエン)ポリオール、ポリ(ブタジエン・スチレン)ポリオール、ポリ(ブタジエン・アクリロニトリル)ポリオール等のコポリマー、それらポリオールに水素添加した水素添加ポリブタジエンポリオールが挙げられる。
【0065】
ポリブタジエンポリオールは市販されており、例えば、出光興産株式会社製の「Poly bd R−15HT(水酸基価:102.7mgKOH/g、重量平均分子量(Mw):1200)」、「Poly bd R−45HT(水酸基価:46.6mgKOH/mg、Mw:2800)」等が挙げられる。
【0066】
ポリブタジエンポリオール(d−1−2)の重量平均分子量(GPC法)は、50〜3000であることが好ましく、800〜1500であることがより好ましい。
【0067】
エポキシポリオール樹脂(d−1−3)は、エポキシ樹脂に活性水素化合物を反応させて得られるものである。
【0068】
ここで使用されるエポキシ樹脂としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルシノール等の単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2−テトラ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビスフェノールFノボラック、テルペンジフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリジルエーテル化合物;上記単核多価フェノール化合物あるいは多核多価フェノール化合物のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加物のポリグリシジルエーテル化合物;上記単核多価フェノール化合物の水添物のポリグリシジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリグリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA−エチレンオキシド付加物等の多価アルコール類のポリグリシジルエーテル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族または脂環族多塩基酸のグリシジルエステル類およびグリシジルメタクリレートの単独重合体または共重合体;N,N−ジグリシジルアニリン、ビス(4−(N−メチル−N−グリシジルアミノ)フェニル)メタン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂は、末端イソシアネートのプレポリマーによって内部架橋されたものでもよい。
【0069】
これらのエポキシ樹脂の中でも、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール(ビスフェノールAD)、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4−ビス(4−ヒドロキシクミルベンゼン)等のポリグリシジルエーテル化合物等のビスフェノール型エポキシ樹脂を使用すると、上記効果が得られやすく好ましい。
【0070】
エポキシポリオール樹脂(d−1−3)は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と、カルボン酸化合物、ポリオール、アミノ化合物等の活性水素化合物とを反応させて得られる。
【0071】
上記カルボン酸化合物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、乳酸、酪酸、オクチル酸、リシノール酸、ラウリン酸、安息香酸、トルイル酸、桂皮酸、フェニル酢酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂肪族、芳香族または脂環式モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロ酸、ヒドロキシポリカルボン酸等が挙げられる。
【0072】
上記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオールが挙げられる。
【0073】
上記アミノ化合物としては、ジブチルアミン、ジオクチルアミン等のジアルキルアミン化合物;メチルエタノールアミン、ブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジメチルアミノプロピルエタノールアミン等のアルカノールアミン化合物;モルホリン、ピペリジン、4−メチルピペラジン等の複素環式アミン化合物が挙げられる。
【0074】
上記活性水素化合物の中でも、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン化合物が好ましい。
【0075】
また、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン等の活性水素基を2個以上有する化合物で、エポキシ樹脂を鎖延長することもできる。
【0076】
上記エポキシ樹脂に上記活性水素化合物を反応させる際には、エポキシ樹脂に活性水素化合物を付加させる通常の方法を採用することができる。例えば、三級アミン化合物、ホスホニウム塩等の周知の触媒の存在下に、両者を60〜200℃に加熱し、3〜10時間反応させる方法を用いることができる。
【0077】
エポキシポリオール樹脂(d−1−3)は、市販されているものを利用でき、例えば、EPICLON U−125−60BT(DIC株式会社製、水酸基価:100〜140mgKOH/g)が挙げられる。
【0078】
ポリイソプレンポリオールまたはその水素添加物(d−1−4)について説明する。
【0079】
このような成分(d−1−4)としては、例えば、出光興産株式会社製のPoly ip(登録商標)(水酸基末端液状ポリイソプレン)が挙げられる。Poly ip(登録商標)(水酸基価:46.6mgKOH/g、数平均分子量(Mn):2500)は、分子末端に反応性の高い水酸基を備えたポリイソプレンタイプの液状ポリマーである。
【0080】
水素添加物としては、出光興産株式会社製のエポール(登録商標)(水酸基末端液状ポリオレフィン)が挙げられる。エポール(登録商標)(水酸基価50.5mgKOH/mg、Mn2500)は、「Poly ip(登録商標)」に対して水添して得られる液状のポリオレフィンである。分子内に二重結合はほとんど残っていない。
【0081】
<ヒマシ油水添物(d−2)>
本発明で用いられるヒマシ油水添物(d−2)は、前記ヒマシ油を水素添加した化合物であり、硬化ヒマシ油とも言われる。
【0082】
ヒマシ油水添物(d−2)は市販されているものを利用でき、例えば、伊藤製油株式会社製のヒマシ硬化油(ヒマシ油の水素添加物、水酸基価:158mgKOH/g、酸価:1mgKOH/g)が挙げられる。
【0083】
<リシノール酸誘導体(d−3)>
リシノール酸誘導体(d−3)は、例えば、ヒマシ油の加水分解で得られ、具体的には、ソルビタンモノリシノレート(d−3−1)、12−ヒドロキシステアリン酸エステル(d−3−2)、12−ヒドロキシステアリルアミド(d−3−3)などが例示される。
【0084】
ソルビタンモノリシノレート(d−3−1)は、ソルビタンと(例えばヒマシ油から得られる)リシノール酸とから得られるソルビタン脂肪酸エステルである。ソルビタンは、グルコースやフルクトースなどを還元して得られるソルビトール(別名:グルシトール)を分子内脱水して五角形や六角形の環状タイプの分子構造としたものである。脂肪酸とソルビタンとのエステルがソルビタン脂肪酸エステルであり、ソルビタン部分を[sorbitan]と表せば、模式的な化学式はR−COO−[sorbitan]と表すことができる。
【0085】
ソルビタンモノリシノレート(d−3−1)は、市販されているものを利用でき、例えば、伊藤製油株式会社製のSURFRIC♯310(ノニオン系界面活性剤、ソルビタンモノリシノレート、水酸基価:288mgKOH/g、酸価:7mgKOH/g、HLB6〜7)が挙げられる。
【0086】
12−ヒドロキシステアリン酸エステル(d−3−2)は、例えば、ヒマシ油の加水分解物であるリシノール酸を水素添加し、得られた12−ヒドロキシステアリン酸をエステル化して得られる。
【0087】
ここで用いる12−ヒドロキシステアリン酸エステルの製法としては、従来公知の方法が採用されうる。例えば、12−ヒドロキシステアリン酸と一価アルコールとを、オルトチタン酸アルキルエステルやp−トルエンスルホン酸等を触媒として、水と共沸混合物を作る芳香族炭化水素、例えばトルエンやキシレンと加熱還流する。そして、生成した水を系外に分離除去することにより得られるものが好適に用いられる。この反応の進行度合は、例えば酸価の測定から判断できる。
【0088】
前記一価アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ドデシルアルコール、n−ヘキサデシルアルコール、n−オクタデシルアルコール、アリルアルコール、オレイルアルコール等の脂肪族一価アルコール;シクロヘキサノール、シクロオクタノール、シクロドデカノールなどの脂環式一価アルコール;ベンジルアルコール、β−フェネチルアルコールの様なアリルアルカノール;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールエーテル誘導体等をその例として挙げることができ、なかでも脂肪族一価アルコールおよびポリオキシアルキレングリコールエーテル誘導体が好ましい。これら一価アルコールは、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0089】
12−ヒドロキシステアリン酸エステル(d−3−2)は、上記効果が効率良く得られるという観点から、ヒマシ油由来のメチル−12−ヒドロキシステアレートが好ましい。メチル−12−ヒドロキシステアレートは、市販されているものを利用でき、例えば、ITOHWAX E−210(メチル−12−ヒドロキシステアレート、水酸基価:160mgKOH/g、酸価:1.6mgKOH/g)、ITOHWAX E−70G(12−ヒドロキシステアリン酸エステル、融点69℃、水酸基価349mgKOH/g、酸価1.3mgKOH/g)(以上、伊藤製油株式会社製)などが挙げられる。
【0090】
12−ヒドロキシステアリルアミド(d−3−3)の製造方法としては、例えば、(i)12−ヒドロキシステアリン酸と、ヘキサメチレンジアミンなどの1級ジアミンとを反応させることによって得る方法、(ii)12−ヒドロキシステアリン酸のアルキルエステルと、ヘキサメチレンジアミンなどの1級ジアミンとを反応させることによって12−ヒドロキシステアリルアミドを得る方法、(iii)12−ヒドロキシステアリン酸および12−ヒドロキシステアリン酸のアルキルエステルの混合物と、ヘキサメチレンジアミンなどの1級ジアミンとを反応させることによって得る方法、(iv)12−ヒドロキシステアリン酸クロライドと、ヘキサメチレンジアミンなどの1級ジアミンとを反応させることによって得る方法などが挙げられる。
【0091】
上記1級ジアミンとしては、炭素数が2〜12であることが好ましく、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらのうち、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミンおよび1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンが好ましい。
【0092】
特にヘキサメチレンジアミンが、セルロース繊維同士の分散性向上と熱可塑性樹脂中へのセルロース繊維の分散性向上との点で好ましい。
【0093】
これら1級ジアミンは、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0094】
12−ヒドロキシステアリルアミド(d−3−3)は、上記効果が効率良く得られるという観点から、ヒマシ油由来のN,N’−ヘキサメチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミドが好ましい。例えば、市販品として、ITOHWAX J−630(N,N’−ヘキサメチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、水酸基価:150mgKOH/g、酸価:5mgKOH/g、全アミン価:3mgKOH/g)(伊藤製油株式会社製)を利用できる。
【0095】
成分(d)を添加する場合の添加量は、前記成分(a)〜(c)の合計100質量%に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.3〜15質量%であることがより好ましい。添加量が0.1質量%未満であると、添加量が少な過ぎて所望の効果が得られない虞がある。一方、15質量%を超えると樹脂組成物の製造が困難となり、射出成形性および成形品の外観が悪化する虞がある。
【0096】
上記樹脂組成物は、前記成分(a)〜(d)以外の任意成分を適宜添加できる。例えば、成形加工性、セルロース繊維の分散性の観点から、金属石鹸を添加することが好ましい。金属石鹸としては、炭素数12〜30の脂肪酸から誘導される、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸が挙げられる。金属石鹸の配合量は、前記成分(a)〜(c)の合計100質量%に対し、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜15質量%である。また、樹脂組成物の剛性向上の観点から、ガラス繊維等の補強材も任意成分として用いることができる。補強材の配合量は、前記成分(a)〜(c)の合計100質量%に対し、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0097】
さらに、酸化防止剤、充填剤、滑剤、染料、有機顔料、無機顔料、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、ワックス、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル捕捉剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等の他の添加成分を、上記目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0098】
上記樹脂組成物は、上記成分(a)〜(c)、ならびに必要に応じて成分(d)および他の添加成分を溶融混練することにより得られる。溶融混練の方法は特に制限がなく、従来公知の方法を使用することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、熱ロール、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、または各種ニーダー等を使用する方法を採用することができる。
【0099】
上記樹脂組成物は、通常の成形方法により、所望の形状の成形体を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法などが好適である。
【0100】
得られる成形体は、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有するものである。特に、JIS K6758「ポリプロピレン試験方法」(1995年)に準拠して測定したシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)が3kJ/m以上であることが好ましい。このような成形体は、特に自動車用部材として有用である。
【0101】
自動車用部材としては、具体的には、内装用部材としてインストルメントパネル、インストルメントロアカバー(ニーボルスター)、各種フィニッシャー類(インストルメントパネル、ドアインナートリム)、サイドトリム、ドアトリム、フロントトリム、センターコンソール、外装用部材としてドアアウターパネル、エンジンフードパネル、トランクリッドパネル、ルーフパネル、フロントフェンダー、バンパーフェイシア、カウルトップ、シルスポイラー、エンジンルーム内部材としてラジエターファン、ファンシェラウド、チェーンカバー、エアエレメントカバー、インテークパイプ、バッテリートレイ、ヒューズボックスカバー、ウォッシャタンク等が挙げられる。特に、上記樹脂組成物は、高い機械強度と耐衝撃性とが求められるインストルメントパネル、ドアトリム、外装用部材全般に好適に用いられる。
【実施例】
【0102】
以下、上記樹脂組成物を、実施例を通じてさらに詳細に説明するが、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0103】
実施例および比較例で使用した材料は、以下の通りである。
【0104】
・成分(a)熱可塑性樹脂
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、J139)。
【0105】
・成分(b)セルロース繊維
(b−1)以下の製造方法により作成したセルロース繊維。
【0106】
旭化成せんい株式会社製セルロースナノファイバー不織布のシートを、シュレッダーを用いて約5mm角の切片に切り分けた。5質量%に調整した塩酸水溶液の中に前記切片の濃度が0.5質量%になるように加えた。次いで、この水溶液を高圧乳化装置(株式会社美粒製、NANO3000−1BT)を用いて100MPaの水圧で10回溶液を処理した。高圧乳化処理後、得られた溶液に対し、pHメーターを見ながら、かつ良く攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで中和した。得られた溶液を、吸引濾過器を用いて濾過し、濾別された固形物状のセルロースファイバーを良く純水で洗い、中和生成物である塩化ナトリウムを除去した。さらに洗ったセルロースを純水に0.1質量%になるように懸濁分散させ、高圧乳化装置を用いて同様の条件にて5回処理した。得られたセルロース分散液に対し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥処理を施すことにより目的のセルロース繊維を得た。平均繊維長(L):3μm、平均繊維径(D):4nm、アスペクト比(L/D)50〜1000。
【0107】
(b−2)日本製紙ケミカル株式会社製、サンローズ(登録商標)、平均繊維長(L)300μm、平均繊維径(D):50μm、アスペクト比(L/D)2〜10、製造方法:エステル化。
【0108】
なお、セルロース繊維の繊維長、繊維径、およびアスペクト比は次のように測定した。
【0109】
セルロース繊維の固形分濃度が0.0001質量%になるように、エタノール50%水溶液で希釈し、セルロース繊維の水分散液を得た。この際、固形分濃度は、凍結乾燥機を用いて粉末化し、さらに150℃の乾燥オーブンで5時間処理した重さから固形分濃度を算出している。次いで、上記セルロース繊維の水分散液を45kHzの超音波洗浄機で2時間処理し、得られた溶液の試料台に置き、風乾させた。このサンプルを、走査型電子顕微鏡を用いて5000倍で観察した。観察視野から無作為に30本のセルロース繊維を選び、その長さと繊維径とをそれぞれ測定し、相加平均をとり、それらを平均繊維長(L)、および平均繊維径(D)とした。さらにその値を用いて、アスペクト比(L/D)を算出した。
【0110】
・成分(c)無機物
平均粒子径は、前記成分(b)と同様の方法で測定した。また、実施例および比較例で使用した成分の詳細は、下記表1の通りである。
【0111】
【表1】

【0112】
・成分(d)分散剤
水酸基価が30mgKOH/g以上である分散剤を使用した。実施例および比較例で使用した成分の詳細は、下記表2の通りである。
【0113】
【表2】

【0114】
・成分(e) 他の添加成分
(e−1)ガラス短繊維強化PP:ダイセルポリマー株式会社製、ダイセルPP PG8N1(ガラス短繊維40質量%含有)
(e−2)金属石鹸:日東化成工業株式会社製、Ca−St(ステアリン酸カルシウム)。
【0115】
なお、粘度、水酸基価、および酸価は、下記のようにして測定した。
【0116】
・粘度測定方法
粘度は、JIS K7117−1「プラスチック−液状,乳濁状又は分散状の樹脂−ブルックフィールド形回転粘度計による見掛け粘度の測定方法」(1999年)に準拠して、単一円筒型回転粘度計(B形TVC−5)を用いて、下記の要領で測定した。
【0117】
1.測定器に500mlビーカー(標準)を使用
2.標準ロータは、低・中粘度用としてのM1〜M4ロータ、中・高粘度用としてのH1〜H7ロータの2種から選択した。
【0118】
・水酸基価測定方法
水酸基価とは、試料1g中に含まれるOH基をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数である。JIS K1557−1「プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基価の求め方」(2007年)に準拠して、無水酢酸を用いて試料中のOH基をアセチル化し、使われなかった酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定した。算出方法は、下記数式1の通りである。
【0119】
【数1】

【0120】
・酸価測定方法
試料油1gに含まれる酸性成分を中和するために要する水酸化カリウムのmg数で表す。JIS K1557−5「プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第5部:色数、粘度、酸価及びpHの求め方」(2007年)に準拠して、以下の要領で測定した。
【0121】
(1)終点pHの測定
200mlビーカに緩衝貯蔵液Bを10ml採取し、滴定溶剤を100ml加えて電極を浸け、30秒間でpHが0.1以内の変化となったpHを緩衝の終点とする。
【0122】
(2)酸価の測定
1.試料20gを200mlビーカに正確に秤量する
2.トルエン、2−プロパノール、および純水の混合溶剤125mlを加え、0.1mol/l水酸化カリウム滴定液で滴定する。
【0123】
上記(1)の結果 pH11.72を終点として設定し、下記数式2により酸価を求めた。また、同様の手順でブランクを求めた。
【0124】
【数2】

【0125】
(実施例1〜26、比較例1〜6)
下記表6〜8に示す配合比で、成分(a)〜(c)、ならびに必要に応じて成分(d)およびその他の添加物を二軸押出機に投入し、溶融混練し、組成物をペレット化した。その後、ペレットを120トンの射出成形機で、下記表3に示す条件で8.5mm×5mm×厚さ3mmのシートに成形した。
【0126】
【表3】

【0127】
得られたシートについて、以下の各評価を行った。
【0128】
比重、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、およびノッチ付シャルピー衝撃強度は、JIS K6758「ポリプロピレン試験方法」(1995年)に準拠して測定した。メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」(1999年)に準拠して、230℃、21.2N荷重で測定した。硬度は、JIS K6758「ポリプロピレン試験方法」(1995年)に準拠して、ロックウェル硬度を測定した。
【0129】
(射出成形性)
得られたシートについて、下記表4に示す基準で目視評価を行った。
【0130】
【表4】

【0131】
(射出成形品外観)
得られたシートの表面について、下記表5に示す基準で目視評価を行った。
【0132】
【表5】

【0133】
各実施例および各比較例の配合比を表6〜8に、評価結果を表9〜11にそれぞれ示す。なお、表6〜8の配合比は、すべて質量部で表されている。
【0134】
【表6】

【0135】
【表7】

【0136】
【表8】

【0137】
【表9】

【0138】
【表10】

【0139】
【表11】

【0140】
表9〜11の評価結果から明らかなように、実施例の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂およびセルロース繊維の中に、特定の無機物を配合しているので、セルロース繊維を良好に分散することができ、高い機械的強度と衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れている。したがって、実施例の樹脂組成物は、特に自動車内外装用部材用として有用であり、上記特性に優れた自動車内外装用部材を提供することができる。なお、実施例27は、水酸基価が好ましい範囲から外れる成分(d)(分散剤)を用いた樹脂組成物の例であるが、曲げ弾性率がやや低下した。
【0141】
一方、比較例1は特許文献1に準じて作製した樹脂組成物であり、成分(a)の含有量が高く成分(b)の含有量が低いため、機械的強度(曲げ弾性率)およびシャルピー衝撃強度が低下した。
【0142】
比較例2は、成分(a)の含有量が高く成分(b)の含有量が低いため、機械的強度および衝撃強度が低下した。また、比較例3は、成分(b)の含有量が高いため、成形性が悪く射出成形ができず、評価ができなかった。
【0143】
比較例4および比較例5は、成分(c)の含有量が範囲外にあるもので、機械的強度、衝撃強度、成形性、および外観の全ての点において満足することができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)熱可塑性樹脂 25〜84.5質量%、
成分(b)セルロース繊維 15〜60質量%、および
成分(c)無機物 0.5〜15質量%、
(ただし、前記成分(a)〜(c)の合計は100質量%である)
を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分(b)セルロース繊維のアスペクト比が2〜2,000である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(c)無機物は金属化合物である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(c)無機物は炭酸カルシウムおよびタルクの少なくとも一方である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(a)熱可塑性樹脂はオレフィン樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに成分(d)分散剤が、前記成分(a)〜(c)の合計100質量%に対して、0.1〜20質量%含有される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(d)分散剤は、水酸基価が30mgKOH/g以上である化合物である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成される、自動車用部材。

【公開番号】特開2012−201767(P2012−201767A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66761(P2011−66761)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】