説明

樹脂組成物

【課題】アスペクト比が高いセルロース繊維を良好に分散することができ、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】成分(a)熱可塑性樹脂 30〜80質量%、成分(b)セルロース繊維 15〜60質量%、成分(c)水溶性樹脂 2〜20質量%、および成分(d)変性オレフィン樹脂 0.5〜15質量%(ただし、前記成分(a)〜(d)の合計は100質量%である)を含む、樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関する。さらに詳細には、セルロース繊維を良好に分散させることができ、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維径が小さい微小繊維は、種々の添加剤、例えば、樹脂成形体の強度を向上させるためのフィラーとして、また、不織布状シートの強度を改善するための強化剤、濾過性能を向上させるための濾過助剤、食品添加物などに広く利用されている。
【0003】
また、微小繊維は、表面積の大きさ、均一分散性、絡み合い、粉体保持性などの特性を利用して、物質強度の向上以外にも、隠蔽性、絶縁性、軽量化などの改善において、広く実用化されている。
【0004】
しかし、微小繊維をベース樹脂に混合する場合、ベース樹脂および/または微小繊維の種類によっては、微小繊維をベース樹脂に均一に分散させるのが困難であり、併用効果が十分に得られない場合がある。特に、セルロース繊維は親水性基を有するため、樹脂に対する分散性は低い。
【0005】
特許文献1には、棒状粒子からなる結晶性セルロース微粉末と分散剤とを用いた、機械的強度や衝撃強度の高い熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この文献によれば、結晶性セルロース微粉末と熱可塑性樹脂とを溶融混練することによって樹脂組成物を得ており、樹脂の制限もなく、コスト面に優れる樹脂組成物が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−282923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物では、一次粒子としてアスペクト比が小さい結晶セルロースの分散体を噴霧乾燥し、二次粒子化または三次粒子化した結晶セルロースの乾燥物を用いている。この結晶セルロースの乾燥物は、一次粒子よりもさらにアスペクト比が小さいものとなるため、得られる樹脂組成物の機械的強度が不十分であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、アスペクト比が高いセルロース繊維を良好に分散することができ、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意研究を積み重ねた。その結果、熱可塑性樹脂およびセルロース繊維を含む樹脂組成物中に、さらに水溶性樹脂および変性オレフィン樹脂を配合することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
熱可塑性樹脂およびセルロース繊維を含む組成物の中に、水溶性樹脂および変性オレフィン樹脂を配合することにより、アスペクト比が高いセルロース繊維を良好に分散させることができる。これにより、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、樹脂組成物の各成分について、さらに詳細に説明する。
【0012】
[成分(a)熱可塑性樹脂]
成分(a)熱可塑性樹脂(以下、単に成分(a)とも称する)の具体例としては、例えば、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、有機酸ビニルエステル樹脂またはその誘導体、ビニルエーテル樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン樹脂(環状オレフィン樹脂を含む)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(飽和ポリエステル樹脂など)、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル樹脂(2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴムまたはエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0013】
これらの樹脂のうち、ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂が好ましい。
【0014】
ポリアミド樹脂の具体例としては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド;ポリ−1,4−ノルボルネンテレフタルアミド、ポリ−1,4−シクロヘキサンテレフタルアミドポリ−1,4−シクロヘキサン−1,4−シクロヘキサンアミドなどの脂環式ポリアミド;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド;これらのポリアミドのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分により形成されるコポリアミドなどが挙げられる。なお、前記ポリアミド樹脂には、ポリアミドエラストマーも含まれる。
【0015】
飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、芳香族ポリエステル(テレフタル酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレンテレフタレート;ナフタレン酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンナフタレートなどの炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレンナフタレートなど);脂肪族ポリエステル(アジピン酸単位を有するポリエステル、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのポリアルキレンアジペート;ポリ乳酸など)、ポリアリレート、液晶性ポリエステルなどが挙げられる。これらのポリエステルは、通常、結晶性を有している。なお、飽和ポリエステル樹脂は、構成成分以外のジカルボン酸成分および/またはグリコール成分により変性されていてもよい。また、前記飽和ポリエステル樹脂には、ポリエステルエラストマーも含まれる。
【0016】
ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレンエーテル)などの単独重合体、これらの単独重合体をベースとして構成された変性ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリフェニレンエーテル単独重合体またはその共重合体にスチレン重合体がグラフトしている変性グラフト共重合体などが挙げられる。
【0017】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の具体例としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリビフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどが挙げられる。
【0018】
オレフィン樹脂としては、オレフィン単量体の単独重合体の他、オレフィン単量体の共重合体、オレフィン単量体と他の共重合性単量体との共重合体が含まれる。オレフィン単量体の具体例としては、例えば、鎖状オレフィン[エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2〜20(好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜4)のα−オレフィンなど]、環状オレフィン[例えば、シクロペンテンなどの炭素数4〜10のシクロアルケン;シクロペンタジエンなどの炭素数4〜10のシクロアルカジエン;ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの炭素数8〜20のビシクロアルケンまたは炭素数8〜20のビシクロアルカジエン;ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの炭素数10〜25のトリシクロアルケンまたはトリシクロアルカジエンなど]などが挙げられる。これらのオレフィン単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。上記オレフィン単量体のうち、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜4のα−オレフィンなどの鎖状オレフィンが好ましい。
【0019】
前記オレフィン単量体と共重合可能な他の共重合性単量体の具体例としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系単量体;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)など];ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;およびブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0020】
前記オレフィン樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、または線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン(ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなど)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1などの三元共重合体などの鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)の共重合体などが挙げられる。また、オレフィン単量体と他の共重合性単量体との共重合体の具体例としては、例えば、鎖状オレフィン(特に、エチレン、プロピレンなどの炭素数2〜4のα−オレフィン)と脂肪酸ビニルエステル単量体との共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピオン酸ビニル共重合体など);鎖状オレフィンと(メタ)アクリル単量体との共重合体[鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)と(メタ)アクリル酸との共重合体(例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、プロピレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマーなど);鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体(例えば、エチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体など);など];鎖状オレフィン(特に炭素数2〜4のα−オレフィン)とジエンとの共重合体(例えば、エチレン−ブタジエン共重合体など);オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴムなど)などが挙げられる。該オレフィン樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0021】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの炭素数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジルエステルなど]、アクリロニトリルなどのアクリル単量体の単独重合体または共重合体;アクリル単量体と他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0022】
前記アクリル単量体の単独重合体または共重合体の具体例としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。アクリル単量体と他の単量体との共重合体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0023】
ビニル樹脂の具体例としては、例えば、塩化ビニル樹脂[塩化ビニルモノマーの単独重合体(ポリ塩化ビニル樹脂など)、塩化ビニル単量体と他の単量体との共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)など]、ビニルアルコール樹脂(ポリビニルアルコールなどの単独重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの共重合体など)、ポリビニルホルマールなどのポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。これらのビニル系樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0024】
上記の中でも、成分(a)として使用する熱可塑性樹脂としては、比重、強度、成形加工性、価格のバランスの観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0025】
なお、上記熱可塑性樹脂が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0026】
上記熱可塑性樹脂は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。これらの熱可塑性樹脂を合成するための重合方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、高圧ラジカル重合法、中低圧重合法、溶液重合法、スラリー重合法、塊状重合法、気相重合法等を挙げることができる。また、重合に使用する触媒も特に制限はなく、例えば、過酸化物触媒、チーグラー−ナッタ触媒、メタロセン触媒等が挙げられる。市販品の例としては、例えば、株式会社プライムポリマー製のポリプロピレンであるJ139などが挙げられる。
【0027】
成分(a)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(d)の合計量を100質量%として、30〜80質量%である。含有量が30質量%未満であると、組成物の成形が困難となる。一方、80質量%を超えると、所望の効果が得られにくくなる。成分(a)の含有量は、好ましくは35〜75質量%、より好ましくは40〜70質量%である。
【0028】
[成分(b)セルロース繊維]
成分(b)セルロース繊維(以下、単に成分(b)とも称する)の具体例としては、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース繊維(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)繊維、ヒドロキシプロピルセルロース繊維など);カルボキシアルキルセルロース繊維(カルボキシメチルセルロース(CMC)繊維、カルボキシエチルセルロース繊維など);アルキルセルロース繊維(メチルセルロース繊維、エチルセルロース繊維など);再生セルロース(レーヨン、セロファンなど)などのセルロース誘導体など]などが挙げられる。これらセルロース繊維は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0029】
なお、セルロース繊維として、パルプを用いる場合、パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプなど)、または化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプなど)などであってもよい。必要に応じて叩解(予備叩解)処理された叩解繊維(叩解パルプなど)や、パルプや不織布に対して解繊処理を行って得られる繊維であってもよい。さらに、セルロース繊維は、慣用の精製処理、例えば、脱脂処理などが施された繊維(例えば、脱脂綿など)であってもよい。
【0030】
セルロース繊維の平均繊維長(L)は、好ましくは0.03〜500μm、より好ましくは0.05〜200μmである。また、セルロース繊維の平均繊維径(直径)(D)は、好ましくは4nm〜80μm、より好ましくは4nm〜40μmである。さらに、セルロース繊維のアスペクト比(L/D)は、好ましくは5以上であり、より好ましくは10〜1,000である。かような範囲であれば、セルロース繊維の凝集を抑制でき、流動性に優れた樹脂組成物が得られうる。なお、セルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径、およびアスペクト比は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0031】
上記の中でも、成分(b)として使用するセルロース繊維としては、大量生産性の観点から、食品用途で使用量が多く、量産法が確立されているカルボキシメチルセルロース繊維が好ましい。また、安価なパルプや不織布を原料とし、解繊処理を行って得られるセルロース繊維もまた好ましい。
【0032】
上記セルロース繊維は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、例えば、旭化成せんい株式会社製のセルロースナノファイバー不織布、日本製紙ケミカル株式会社製のNPファイバー(登録商標)などが挙げられる。
【0033】
成分(b)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(d)の合計量を100質量%として、15〜60質量%である。含有量が15質量%未満であると、所望の効果が得られにくくなる。一方、60質量%を超えると、樹脂組成物の製造が困難となり、成形品の外観や耐摩耗性が悪化する虞がある。成分(b)の含有量は、好ましくは15〜55質量%、より好ましくは20〜50質量%である。
【0034】
[成分(c)水溶性樹脂]
樹脂組成物はさらに、成分(c)水溶性樹脂(以下、単に成分(c)とも称する)および後述の成分(d)変性オレフィン樹脂を含む。成分(c)水溶性樹脂および成分(d)変性オレフィン樹脂を配合することで、樹脂組成物中の成分(b)セルロース繊維を良好に分散させることできる。この理由は以下の通りであると考えられる。もちろん、効果発現のメカニズムは、以下のメカニズムに何ら限定されるものではない。
【0035】
セルロース繊維は、分子内に水酸基を多く含むため、水との親和性が高い。一方、熱可塑性樹脂は、一般的に疎水性が高く、セルロース繊維と熱可塑性樹脂とを単に溶融混合しただけでは、セルロース繊維同士、および熱可塑性樹脂同士が塊を形成し、結果として、セルロース繊維の激しい凝集が発生する。また、セルロース繊維は、濃度が20質量%以下である水分散液の形態、または水を多量に含んだ粘土状物の形態で入手できる場合が多い。水分が含まれた状態でセルロース繊維と熱可塑性樹脂とを溶融混練すると、混練後の成形物に不具合(シルバー、ボイドなどの外観不良、樹脂の加水分解による耐衝撃性などの機械物性低下など)が発生する。そのため、セルロース繊維を乾燥粉末化して用いることが一般的である。しかし、水を含んだセルロース繊維をそのままセルロースを乾燥してしまうと、セルロース繊維同士が複雑に絡まるか、もしくはセルロース繊維同士の接触面で固着を起こし、ミリ〜センチ単位の凝集体を形成してしまう。この乾燥の最中に発生したセルロース繊維の凝集を、溶融混練で解すことを試みても、従来技術ではセルロース繊維をよく分散させることができなかった。
【0036】
そこで、水を含んだセルロース繊維の中に成分(c)水溶性樹脂を添加し乾燥を行うと、セルロース繊維同士が接触する箇所に水溶性樹脂が介在することで、セルロース繊維の絡み合いや固着を抑制することができる。しかし、まだこの状態では、セルロース繊維を熱可塑性樹脂中に分散させることは難しい。水溶性樹脂が存在することにより、セルロース繊維の親水性が低下し、熱可塑性樹脂の疎水性に近づいてはいるものの、溶融混練すると熱可塑性樹脂中のセルロース繊維の分散は不十分で、目的の機械物性を有する樹脂組成物を得ることは難しい。そこで、さらに樹脂組成物中に、成分(d)変性オレフィン樹脂を存在させ、成分(a)〜(d)を溶融混練する。変性オレフィン樹脂は、いわば水溶性樹脂と熱可塑性樹脂との間を取り持って、互いの相溶性を高める役割を果たし、水溶性樹脂が存在するセルロース繊維の親水性をさらに低下させ、熱可塑性樹脂の疎水性へさらに近づけることができる。
【0037】
セルロース繊維の乾燥時の凝集を水溶性樹脂の介在により抑制すること、およびセルロース繊維の疎水性を水溶性樹脂および変性オレフィン樹脂により高めることにより、熱可塑性樹脂中のセルロース繊維の分散性が向上すると考えられる。
【0038】
このようにして、セルロース繊維の分散性が向上した樹脂組成物は、セルロース繊維が本来有するアスペクト比を生かすことができ、高い剛性を有し、また、応力集中が分散されるため、優れた耐衝撃性を有する。
【0039】
成分(c)として使用する水溶性樹脂としては、水に溶解する重合体または共重合体であれば、特に制限されない。具体例としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性ナイロン、ポリアクリルアミド、キチン類、キトサン類、デンプン、およびこれらの共重合体などが挙げられる。これら水溶性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記水溶性樹脂が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0040】
これら水溶性樹脂の中でも、得られる樹脂組成物の機械的物性を考慮すると、成分(a)熱可塑性樹脂と溶融温度が近い樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂よりも先に水溶性樹脂が溶融した場合、水溶性樹脂中でセルロース繊維が自由に動くことができてしまい、混練機の機械的せん断が熱可塑性樹脂にかからず、セルロース繊維の凝集が発生する虞があるからである。
【0041】
このような観点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0042】
成分(c)水溶性樹脂の重量平均分子量は、5000〜50000であることが好ましい。このような範囲であれば、セルロース繊維の凝集を効率良く抑制することができる。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値を採用する。
【0043】
成分(c)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(d)の合計量を100質量%として、2〜20質量%である。含有量が2質量%未満であると、セルロース繊維の組成物中での分散性が向上し難い。一方、20質量%を超えると、樹脂組成物の機械的物性が低下する。例えば、ポリビニルアルコールの量が上記範囲を超えると、樹脂組成物の耐衝撃性の低下や流れ不良などが発生し、樹脂組成物の成形が困難となる。成分(c)の含有量は、好ましくは3〜18質量%、より好ましくは4〜15質量%である。
【0044】
成分(c)は合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、例えば、PVA505(ポリビニルアルコール、株式会社クラレ製)、K−90(ポリビニルピロリドン、株式会社日本触媒製)などが挙げられる。
【0045】
[成分(d)変性オレフィン樹脂]
成分(d)変性オレフィン樹脂(以下、単に成分(d)とも称する)は、オレフィン樹脂の主鎖または側鎖に官能基を有する樹脂である。
【0046】
前記オレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−2、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2〜20のα−オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の鎖状もしくは環状ポリエン、またはスチレン、置換スチレンなどのモノマーを単位とする同種モノマーの重合体または異種モノマーの共重合体などが挙げられる。なお、前記ポリオレフィン樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記変性オレフィン樹脂が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。
【0047】
成分(d)変性オレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸またはその誘導体を用いて前記オレフィン樹脂を変性した樹脂であることが好ましい。前記不飽和カルボン酸とは、カルボキシル基を含有する不飽和化合物をいい、その誘導体とは該化合物の酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等をいう。
【0048】
例を挙げれば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸およびこれらの無水物;フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル;(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。
【0049】
これらの中でも、好ましくは無水イタコン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチルである。なお、前記不飽和カルボン酸またはその誘導体は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
成分(d)としては、入手のしやすさから、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、または無水マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性オレフィン樹脂が好ましい。
【0051】
成分(d)は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。成分(d)の合成は、特に制限されず、従来公知の方法により行われうる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して溶融したオレフィン樹脂に、不飽和カルボン酸またはその誘導体を添加し反応させる溶融法が挙げられる。この際、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物(ラジカル開始剤)を用いてもよい。
【0052】
市販品の例としては、例えば、ユーメックス1010、ユーメックス2000(以上、三洋化成工業株式会社製)などが挙げられる。
【0053】
成分(d)変性オレフィン樹脂の重量平均分子量は、10000〜40000であることが好ましい。このような範囲であれば、水溶性樹脂と熱可塑性樹脂との間の相溶性をより高めうる。
【0054】
成分(d)の樹脂組成物中の含有量は、成分(a)〜(d)の合計量を100質量%として、0.5〜15質量%である。含有量が0.5質量%未満であると、成分(b)および成分(c)が成分(a)に混ざり難くなり、セルロース繊維の樹脂中の分散性の向上が得られ難くなる。一方、15質量%を超えると、樹脂組成物の機械的物性が低下する。成分(d)の含有量は、好ましくは1〜14質量%、より好ましくは2〜13質量%である。
【0055】
なお、成分(c)水溶性樹脂と成分(b)セルロース繊維との質量比は、成分(c)/成分(b)=0.05/1〜1/1であることが好ましく、0.1/1〜1/1であることがより好ましい。かような範囲であれば、成分(c)水溶性樹脂と成分(b)セルロース繊維との混合物を乾燥する際、セルロース繊維の凝集が起こりにくく、樹脂組成物の機械的物性が向上しうる。
【0056】
さらに、成分(d)変性ポリオレフィン樹脂と、成分(b)セルロース繊維および成分(c)水溶性樹脂の合計量との質量比は、成分(d)/(成分(b)+成分(c))=0.05/1〜0.3/1であることが好ましい。より好ましくは、成分(d)/(成分(b)+成分(c))=0.05/1〜0.2/1である。かような範囲であれば、成分(b)セルロース繊維の熱可塑性樹脂中での分散性が向上しうる。
【0057】
[成分(e)他の成分]
前記樹脂組成物は、前記成分(a)〜(d)以外の他の成分を、成分(e)として適宜添加することができる。例えば、成形加工性や、セルロース繊維の分散性の観点から、金属石鹸、分散剤などが挙げられる。具体的には、金属石鹸としては、例えば、ステアリン酸カルシウムなどの炭素数12〜30の脂肪酸から誘導される金属石鹸が挙げられる。分散剤としては、例えば、水酸基価が30mgKOH/g以上であるポリオール、ヒマシ油水添物、リシノール酸誘導体などが挙げられる。
【0058】
成分(e)を添加する場合の添加量は、前記成分(a)〜(d)の合計100質量%に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.3〜15質量%であることがより好ましい。
【0059】
また、樹脂組成物の剛性向上の観点から、ガラス繊維等の補強材も任意成分として用いることができる。補強材の配合量は、前記成分(a)〜(d)の合計100質量%に対し、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0060】
さらに、酸化防止剤、充填剤、滑剤、染料、有機顔料、無機顔料、可塑剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、ワックス、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル捕捉剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等の他の添加成分を、上記目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0061】
[樹脂組成物の製造方法]
上記樹脂組成物は、上記成分(a)〜(d)、ならびに必要に応じて成分(e)を溶融混練することにより得られる。各成分の添加順は特に制限されない。しかしながら、成分(b)セルロース繊維と成分(c)水溶性樹脂とを混合および乾燥し、得られた混合物に対して、成分(a)熱可塑性樹脂および成分(d)変性オレフィン樹脂を加え溶融混練することを有する製造方法が好ましい。このような製造方法であれば、セルロース繊維の分散性がより向上した樹脂組成物が得られる。
【0062】
以下、かような製造方法について詳細に説明するが、樹脂組成物の製造方法は、下記の形態に何ら制限されるものではない。
【0063】
まず、セルロース繊維と水との混合物(混合物A)に、あらかじめ水に溶かしておいた水溶性樹脂をよく攪拌しながら加え、セルロース繊維、水溶性樹脂および水を含む混合物Bを作製する。次に、この混合物Bを、乾燥機などを用いて乾燥し、混合物Cを作製する。その後、混合物C、熱可塑性樹脂、および変性オレフィン樹脂をよく混合し、溶融混練を行うことにより、上記樹脂組成物を得る。
【0064】
混合物A中のセルロース繊維の含有量は、1〜80質量%であることが好ましい。かような範囲であれば、水中でセルロース繊維の絡み合いや固着が起こりにくく、セルロースの水分散液または粘土状物が効率良く得られる。
【0065】
混合物Bの乾燥方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。例えば、スプレードライにより一度に造粒まで行い混合物Cを作製する方法;熱風乾燥機、スプレードライヤーなどにより乾燥を行い、粗乾燥物を一度作製した後ボールミル、ヘンシェルミキサーなどにより粉砕する方法などが挙げられる。また、水分が残存するスラリー状態の混合物Cを用いてもよい。
【0066】
混合物C中の水分量は、好ましくは0.01〜95質量%、より好ましくは0.01〜60質量%、さらに好ましくは0.01〜40質量%である。かような範囲であれば、溶融混練に用いる装置の損傷を抑制することができ、また、溶融混練に用いる装置とは別の、水分を除去する装置を用意する必要がなくなり、装置の大型化が容易となり、量産性に優れる。
【0067】
溶融混練の方法は特に制限がなく、従来公知の方法を使用することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、熱ロール、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、または各種ニーダー等を使用する方法を採用することができる。
【0068】
上記樹脂組成物は、通常の成形方法により、所望の形状の成形体を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法などが好適である。
【0069】
得られる成形体は、高い機械的強度と優れた衝撃強度とを有するものである。特に、JIS K6758「ポリプロピレン試験方法」(1995年)に準拠して測定したシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)が3kJ/m以上であることが好ましい。このような成形体は、特に自動車用部材として有用である。
【0070】
自動車用部材としては、具体的には、内装用部材としてインストルメントパネル、インストルメントロアカバー(ニーボルスター)、各種フィニッシャー類(インストルメントパネル、ドアインナートリム)、サイドトリム、ドアトリム、フロントトリム、センターコンソール、外装用部材としてドアアウターパネル、エンジンフードパネル、トランクリッドパネル、ルーフパネル、フロントフェンダー、バンパーフェイシア、カウルトップ、シルスポイラー、エンジンルーム内部材としてラジエターファン、ファンシェラウド、チェーンカバー、エアエレメントカバー、インテークパイプ、バッテリートレイ、ヒューズボックスカバー、ウォッシャタンク等が挙げられる。特に、上記樹脂組成物は、高い機械強度と耐衝撃性とが求められるインストルメントパネル、ドアトリム、外装用部材全般に好適に用いられる。
【実施例】
【0071】
以下、上記樹脂組成物を、実施例を通じてさらに詳細に説明するが、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
実施例および比較例で使用した材料は、以下の通りである。
【0073】
・成分(a)熱可塑性樹脂
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、J139)。溶融温度170℃。
【0074】
・成分(b)セルロース繊維
(b−1)以下の製造方法により作成したセルロース繊維。
【0075】
旭化成せんい株式会社製セルロースナノファイバー不織布のシートを、シュレッダーを用いて約5mm角の切片に切り分けた。5質量%に調整した塩酸水溶液の中に前記切片の濃度が0.5質量%になるように加えた。次いで、この水溶液を高圧乳化装置(株式会社美粒製、NANO3000−1BT)を用いて100MPaの水圧で10回溶液を処理した。高圧乳化処理後、得られた溶液に対し、pHメーターを見ながら、かつ良く攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を加えることで中和した。得られた溶液を、吸引濾過器を用いて濾過し、濾別された固形物状のセルロースファイバーを良く純水で洗い、中和生成物である塩化ナトリウムを除去した。さらに洗ったセルロースを純水に0.1質量%になるように懸濁分散させ、高圧乳化装置を用いて同様の条件にて5回処理した。得られたセルロース分散液に対し、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥処理を施すことにより目的のセルロース繊維を得た。平均繊維長(L):3μm、平均繊維径(D):4nm、アスペクト比(L/D)50〜1000。
【0076】
(b−2)日本製紙ケミカル株式会社製、NPファイバー(登録商標) W−10MG2、平均繊維長(L)30μm、平均繊維径(D):10μm、アスペクト比(L/D):3。
【0077】
なお、セルロース繊維の繊維長、繊維径、およびアスペクト比は次のように測定した。
【0078】
セルロース繊維の固形分濃度が0.0001質量%になるように、エタノール50%水溶液で希釈し、セルロース繊維の水分散液を得た。この際、固形分濃度は、凍結乾燥機を用いて粉末化し、さらに150℃の乾燥オーブンで5時間処理した重さから固形分濃度を算出している。次いで、上記セルロース繊維の水分散液を45kHzの超音波洗浄機で2時間処理し、得られた溶液の試料台に置き、風乾させた。このサンプルを、走査型電子顕微鏡を用いて5000倍で観察した。観察視野から無作為に30本のセルロース繊維を選び、その長さと繊維径とをそれぞれ測定し、相加平均をとり、それらを平均繊維長(L)、および平均繊維径(D)とした。さらにその値を用いて、アスペクト比(L/D)を算出した。
【0079】
・成分(c)水溶性樹脂
下記表1に記載のものを用いた。
【0080】
【表1】

【0081】
・成分(d)変性オレフィン樹脂
下記表2に記載のものを用いた。
【0082】
【表2】

【0083】
・成分(e)他の添加成分
下記表3に記載のものを用いた。
【0084】
【表3】

【0085】
(実施例1)
成分(c−1)ポリビニルアルコールの水溶液 3kg(濃度:5質量%)を、30Lヘンシェルミキサーの中に入れ、攪拌しながら、成分(b−1)セルロース繊維の水スラリー 15kg(濃度:5質量%)を5分かけて入れた。さらに、1500rpm以下で10分間攪拌子、成分(c−1)、成分(b−1)、および水を含む混合物を18kg得た。この混合物全量を、スプレードライヤーを用いて水分を除去し、成分(c−1)および成分(b−1)を含む乾燥混合物を得た。この乾燥混合物中の水分量は、5質量%であった。
【0086】
上記で得られた乾燥混合物をヘンシェルミキサーに入れ、30分間粉砕処理を行い、粉末状の乾燥混合物を得た。二軸押出機を用いて、ホッパーより成分(a−1)ポリプロピレンと成分(d−1)変性オレフィン樹脂とを供給した。さらに、サイドフィードにより、上記粉末状の乾燥混合物を目的の濃度になるように計量しながら供給し、溶融混練を行い、目的とする樹脂組成物のペレットを製造した。
【0087】
その後、得られたペレットを、120トンの射出成形機を用い、下記表4に示す条件で、8.5mm×5mm×厚さ3mmのシートに成形した。
【0088】
【表4】

【0089】
(実施例2〜22、比較例1〜7)
下記表7〜9に示す配合比で、成分(a)〜(d)、ならびに必要に応じて成分(e)を二軸押出機に投入し、溶融混練し、組成物をペレット化した。その後、ペレットを120トンの射出成形機で、上記表4に示す条件で8.5mm×5mm×厚さ3mmのシートに成形した。
【0090】
得られたシートについて、以下の各評価を行った。
【0091】
比重、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、およびノッチ付シャルピー衝撃強度は、JIS K6758「ポリプロピレン試験方法」(1995年)に準拠して測定した。メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」(1999年)に準拠して、230℃、21.2N荷重で測定した。硬度は、JIS K6758「ポリプロピレン試験方法」(1995年)に準拠して、ロックウェル硬度を測定した。
【0092】
(射出成形性)
得られたシートについて、下記表5に示す基準で目視評価を行った。
【0093】
【表5】

【0094】
(射出成形品外観)
得られたシートの表面について、下記表5に示す基準で目視評価を行った。
【0095】
【表6】

【0096】
各実施例および各比較例の配合比を表7〜9に、評価結果を表10〜12にそれぞれ示す。なお、表7〜9の配合比は、すべて質量部で表されている。
【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
【表11】

【0102】
【表12】

【0103】
表10〜12の評価結果から明らかなように、実施例の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂およびセルロース繊維の中に、水溶性樹脂および変性オレフィン樹脂を配合しているため、セルロース繊維を良好に分散することができる。よって、得られた樹脂組成物は、高い機械的強度と衝撃強度とを有し、かつ成形性に優れている。したがって、実施例の樹脂組成物は、特に自動車内外装用部材用として有用であり、上記特性に優れた自動車内外装用部材を提供することができる。なお、実施例21は、アスペクト比が好ましい範囲から外れる成分(b)(セルロース繊維)を用いた樹脂組成物の例であるが、機械的強度(引張強度、曲げ強さ、曲げ弾性率)およびシャルピー衝撃強度がやや低下した。
【0104】
一方、比較例1は、成分(a)の含有量が多く成分(b)の含有量が少ないため、機械的強度(引張強度、曲げ強さ、曲げ弾性率)およびシャルピー衝撃強度が低下した。
【0105】
比較例2は、成分(b)の含有量が多いため、組成物の粘度が上昇し、溶融混合時の二軸押出機の許容トルクを超え、成形ができなかった。比較例3は、成分(c)が配合されていないため、機械的強度(引張強度、曲げ強さ、曲げ弾性率)およびシャルピー衝撃強度が低下した。
【0106】
比較例4は、成分(c)の含有量が範囲外であるため、機械的強度(引張強度、曲げ強さ、曲げ弾性率)およびシャルピー衝撃強度が低下した。特に、シャルピー衝撃強度は、試験機の検出下限以下であった。比較例5は、成分(d)が配合されていないため、機械的強度(引張強度、曲げ強さ、曲げ弾性率)およびシャルピー衝撃強度が低下した。
【0107】
比較例6は、成分(c)の含有量が範囲外であるため、シャルピー衝撃強度が低下した。比較例7は、成分(c)の化合物が好ましい水溶性樹脂ではないため、機械的強度(引張強度、曲げ強さ、曲げ弾性率)が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)熱可塑性樹脂 30〜80質量%、
成分(b)セルロース繊維 15〜60質量%、
成分(c)水溶性樹脂 2〜20質量%、および
成分(d)変性オレフィン樹脂 0.5〜15質量%
(ただし、前記成分(a)〜(d)の合計は100質量%である)
を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分(a)熱可塑性樹脂はオレフィン樹脂である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(b)セルロース繊維のアスペクト比は5以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(c)水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(d)変性オレフィン樹脂は酸変性オレフィン樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
成分(b)セルロース繊維と成分(c)水溶性樹脂とを混合および乾燥し、
得られた混合物に対して、成分(a)熱可塑性樹脂および成分(d)変性オレフィン樹脂を加え溶融混練することを有する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物、または請求項6に記載の製造方法により得られる樹脂組成物から形成される、自動車用部材。

【公開番号】特開2012−236906(P2012−236906A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106570(P2011−106570)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】