説明

樹脂組成物

【課題】機械的強度と耐熱性の良い薄肉成形品用として適した樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)ポリカーボネート系樹脂を含む熱可塑性樹脂、(B)流動性改良剤及び必要に応じて(C)難燃剤を含み、さらに(D)強化用長繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む樹脂組成物であって、前記樹脂付着長繊維束が、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記強化用長繊維の束に(A)成分及び(B)成分、さらに必要に応じて(C)成分を含む成分を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の電子機器のハウジングや内部シャーシ用となる薄肉成形品の製造材料として適した樹脂組成物、それを用いた薄肉成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器ハウジングは薄肉の成形体からなるものであり、曲げ弾性率が高いこと、耐衝撃性に優れること、吸水による寸法変化が小さいこと、さらに場合によって難燃性などが要求される。
【0003】
特許文献1には、ガラス繊維含有熱可塑性樹脂からなる自動車エンジンルーム内用軽量樹脂組成物と、前記組成物から射出圧縮成形を適用して成形品を製造することが記載されている。
熱可塑性樹脂の種類については段落番号0031において多数列挙されているが、難燃性を向上させる場合に難燃剤を配合すること及び難燃性を付与することについての記載はない。
段落番号0042には、成形品中の平均ガラス繊維長が2〜20mm、特に3〜15mmの範囲となることが記載され、前記範囲内にするため、全長が3〜100mm、好ましくは4〜50mmのガラス繊維が互いに平行に配列されたガラス繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを使用できることが記載されている。
【0004】
特許文献2は、所定範囲の曲げ弾性率を有する熱可塑性樹脂と、互いに平行に配列されペレットほぼ同一長を有する10〜90重量%の無機繊維を含み、長さが3〜100mmである無機繊維含有熱可塑性樹脂ペレットの発明が記載されている。
段落番号0041には多数の任意成分が列挙されており、その中に難燃剤、難燃助剤が含まれているが実施例では使用されておらず、難燃性を付与することについては特に記載されていない。
段落番号0055には、自動車の内装材、建材、土木などの各種分野での省エネルギー、省資源化材料としての活用が期待されると記載されている。
【0005】
特許文献3は、(A)長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット、(B)難燃剤ペレット、(C)滑剤を乾式混合した組成物が記載されている。
(A)成分で使用できる熱可塑性樹脂と長繊維は、段落番号0025と0041に多数列挙されているが、特定の樹脂と長繊維の組み合わせについては記載されていない。
段落番号0095には、電子機器のケーシング、ハウジング等の用途が記載されている。
【0006】
特許文献4には、エポキシ系収束剤を用いたガラス繊維チョップドストランドと難燃剤としての有機含ハロゲン難燃剤を含む難燃性ガラス繊維強化樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献5には、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、強化繊維からなる長繊維強化熱可塑性樹脂組成物が開示されているが、難燃性を向上させる場合に難燃剤を配合すること及び難燃性を付与することについての記載はない。また、耐熱性の改善を解決課題としていることから、可塑化効果(流動性向上効果)のある有機リン酸エステルを添加することは記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−257442号公報
【特許文献2】特開2000−289023号公報
【特許文献3】特開2009−167270号公報
【特許文献4】特開平7−11100号公報
【特許文献5】特開2008−202012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、機械的強度、耐熱性が優れた薄肉成形品が得られる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0010】
また本発明は、機械的強度、耐熱性が優れた薄肉成形品と、その製造方法を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)ポリカーボネート系樹脂を含む熱可塑性樹脂、(B)流動性改良剤及び必要に応じて(C)難燃剤を含み、さらに(D)強化用長繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂付着長繊維束が、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記強化用長繊維の束に(A)成分及び(B)成分、さらに必要に応じて(C)成分を含む成分を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、樹脂組成物を提供する。
【0012】
本発明は、他の課題の解決手段として、上記の樹脂組成物からなる、厚みが0.3〜1.5mmであり、残存繊維長が0.3〜1.5mmの範囲である薄肉成形品を提供する。
【0013】
本発明は、さらに他の課題の解決手段として、上記の樹脂組成物を用いた薄肉成形品の製造方法であって、
前記樹脂組成物を射出成形法又は射出圧縮成形法により成形する、薄肉成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物から得られた成形品は、薄肉であっても高い機械的強度、耐熱性を有しており、難燃剤を含む組成物にした場合には、前記の機械的強度、耐熱性を高いレベルで維持したまま、難燃性を付与することができる。このため、機械的強度や耐熱性、さらには必要に応じて難燃性が要求される各種薄肉成形品用途として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<樹脂組成物>
本発明の組成物は、(A)成分、(B)成分及び必要に応じて(C)成分、さらに(D)成分を含有する樹脂付着長繊維束を含むものであり、前記樹脂付着繊維束のみからなるものでもよいし、必要に応じてさらに他の成分を含有するものでもよい。
【0016】
本発明の組成物に含まれる樹脂付着繊維束は、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねた強化用長繊維束に(A)成分及び(B)成分、必要に応じて(C)成分を含む成分を溶融させた状態で付着させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである。
【0017】
本発明の組成物に含まれる樹脂付着繊維束は、強化用長繊維束に(A)及び(B)成分、必要に応じて(C)成分が付着されたものであり、付着状態によって、
強化用長繊維束の中心部まで樹脂が浸透され(含浸され)、繊維束を構成する中心部の繊維間にまで樹脂が入り込んだ状態のもの(以下「樹脂含浸繊維束」という)、
強化用長繊維束の表面のみが樹脂で覆われた状態のもの(以下「樹脂表面被覆繊維束」という)、
それらの中間のもの(繊維束の表面が樹脂で覆われ、表面近傍のみに樹脂が含浸され、中心部にまで樹脂が入り込んでいないもの)(以下「樹脂一部含浸繊維束」という)を含むものである。
【0018】
本発明の組成物に含まれる樹脂付着繊維束としては、分散性及び流動性の観点から、樹脂含浸繊維束が好ましい。
【0019】
〔(A)成分〕
(A)成分の熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート系樹脂を含むものである。
(A)成分の熱可塑性樹脂は、(A−1)ポリカーボネート系樹脂に加えて(A−2)スチレン系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂を含むものが好ましい。
【0020】
(A−1)成分のポリカーボネート系樹脂としては、2,2−ビス(4−オキシフェニル)アルカン系、ビス(4−オキシフェニル)エ−テル系、ビス(4−オキシフェニル)スルホン、スルフィド又はスルホキサイド系などのビスフェノ−ル類からなる重合体、もしくは共重合体〔(A-1-1)成分〕の他、ポリカーボネートとオルガノシロキサンとの共重合体〔(A-1-2)成分〕を挙げることができる。
(A−1)成分のポリカーボネート系樹脂としては、(A-1-1)成分又は(A-1-2)成分を単独で使用するほか、(A-1-1)成分と(A-1-2)成分を併用することもできる。
【0021】
(A-1-1)成分のポリカーボネート系樹脂としては公知のものを用いることができ、例えば、特許第3376753号公報の段落番号0010、0011に記載されたもの、特許第3319638号公報の段落番号0011〜0026に記載されたもの、特許第3989630号公報の段落番号0006〜0010記載されたものを用いることができる。
【0022】
(A-1-2)成分のポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体としては、特開平10−7897号公報の段落番号0010〜0014に記載の芳香族ポリカーボネートから誘導されたブロックとジオルガノシロキサンから誘導されたブロックとを有する共重合体、前記公報の段落番号0032に記載されている(8)ポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体−1、ポリジメチルシロキサンの量が共重合体全体の15重量%であるポリカーボネート−オルガノポリシロキサン共重合体(ケイ素含量は5.25重量%)、粘度平均分子量22,000、(9)ポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体−2、ポリジメチルシロキサンの量が共重合体全体の5重量%であるポリカーボネート−オルガノポリシロキサン共重合体(ケイ素含量は1.75重量%)、粘度平均分子量22,000を用いることができる。
【0023】
また(A-1-2)成分のポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体としては、以下に示す特開2010−280923号公報の段落番号0027〜0028に記載されているものを用いることができる。
ポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体は、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部からなるものであり、例えば、ポリカーボネートオリゴマーとポリオルガノシロキサン部を構成する末端に反応性基を有するポリオルガノシロキサン(ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)とを、塩化メチレンなどの溶媒に溶解させ、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を加え、トリエチルアミンなどの触媒を用い、界面重縮合反応することにより製造することができる。これらポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体は、例えば、特開平3−292359号公報、特開平4−202465号公報、特開平8−81620号公報、特開平8−302178号公報、特開平10−7897号公報に開示されている。
ポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体の重合度は、3〜100、ポリジメチルシロキサン部の重合度は2〜500程度のものが好ましく用いられる。
また、ポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体中(副生するビスフェノールAポリカーボネートを含む)のポリジメチルシロキサンの含有量としては、通常0.2〜30質量%、好ましくは0.3〜20質量%の範囲である。
【0024】
さらに(A-1-2)成分のポリカーボネートとオルガノシロキサン共重合体としては、特開2011−46911号公報に記載されているものを用いることができる。
【0025】
(A−2)成分は、スチレン系樹脂のみを使用してもよいし、ポリエステル系樹脂のみを使用してもよいし、スチレン系樹脂とポリエステル系樹脂を併用してもよい。
【0026】
(A−2)成分のスチレン系樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、ASS樹脂、PS樹脂、HIPS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、SB樹脂、SBS樹脂、SEBS樹脂、SIS樹脂、SIPS樹脂、SEPS樹脂等を挙げることができる。スチレン系樹脂としてはABS樹脂及び/又はAS樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
(A−2)成分のポリエステル樹脂は公知のものを用いることができ、例えば、特許第3376753号公報の段落番号0012〜0017に記載された芳香族ポリエステル、特許第3319638号公報の段落番号0027〜0032に記載されたポリアルキレンテレフタレート、特許第3989630号公報の段落番号0012、0013に記載された熱可塑性ポリエステル樹脂を用いることができる。好ましくはポリエチレンテレフタレ−ト、ポリプロピレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリトリメチレンテレフタレートを用いることができる。
【0028】
(A)成分が(A−1)成分と(A−2)成分からなるときの(A)成分中の(A−1)成分と(A−2)成分の割合は、
(A−1)成分の割合は50〜98質量%であり、好ましくは55〜96質量%であり、
(A−2)成分の割合は50〜2質量%であり、好ましくは45〜4質量%である。
【0029】
〔(B)成分〕
(B)成分の流動性改良剤は、溶融状態の樹脂組成物の流動性を高めるように作用する成分であり、樹脂付着繊維束の製造時において、繊維束と樹脂組成物が接触し易くするように作用する成分でもある。
(B)成分の流動性改良剤としては、芳香族ポリエステルオリゴマー、環状(アルキレンテレフタレート)オリゴマー、芳香族ポリカーボネートオリゴマー、ポリカプロラクトン、低分子量アクリル系共重合体、脂肪族ゴム-ポリエステルブロック共重合体から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0030】
芳香族ポリエステルオリゴマーとしては、特開2003−26911号公報の段落番号0051〜0052に記載されている、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、グリコール類又はそのエステル形成性誘導体とを、公知の方法に従い、加圧ないし若干減圧の条件下加熱することによって製造されるものを用いることができる。
芳香族ポリエステルオリゴマーの重合度は、圧力、加熱温度等を調節することによって所望値に決定される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸が最も好ましく、イソフタル酸、フタル酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル、酸クロリド等が好ましい。
グリコール類又はそのエステル形成性誘導体としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。この際、グリコール成分の一部をグリセリン、ペンタエリスリトール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA等で置き換えてもよい。
【0031】
環状(アルキレンテレフタレート)オリゴマーとしては、特開2010−6920号公報の段落番号0012〜0015に記載されているものを用いることができる。
重合度2〜30の重合度のオリゴマーからなり、その主要成分が12までの重合度を有する環状オリゴマーの混合物が好ましい。市販品としては、サイクリクスコーポレーション社製CBT(環状ポリ(ブチレンテレフタレート)オリゴマー;融点140〜190℃)を挙げることができる。
【0032】
芳香族ポリカーボネートオリゴマーとしては、特開2003−26911号公報の段落番号0053に記載されているものを用いることができる。
【0033】
ポリカプロラクトンとしては、特開2003−26911号公報の段落番号0054に記載されているものを用いることができる。
【0034】
低分子量アクリル系共重合体としては、特開2003−26911号公報の段落番号0055に記載されているものを用いることができる。
具体的には、メタアクリル酸又はアクリル酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルを少なくとも7%以上、好ましくは20〜40重量%含む共重合体であり、重量平均分子量が40,000以下、好ましくは25,000以下のものである。このようなアクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、1,3ブチレン−ジアクリレートなどを例示出来る。メタクリル酸エステルとしてはメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、1,3−ブチレン−ジメタクリレートなどがあり、中でもブチルメタクリレートが好ましい。これらのエステルと共重合する成分は、スチレン、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ブテン−1等のビニル単量体があり、好ましい単量体は、スチレン、アクリロニトリルである。
【0035】
脂肪族ゴム-ポリエステルブロック共重合体としては、特開2003−26911号公報の段落番号0056に記載されているものを用いることができる。
具体的には、脂肪族ジエン系ゴムに脂肪族ラクトンを開環重合させポリエステルブロックを形成させてなるブロック共重合体であって、脂肪族ジエン系ゴムの片末端又は両末端にポリエステルブロックを有するゴム−ポリエステルブロック共重合体である。脂肪族ジエン系ゴムの数平均分子量は1,000〜4,000であり、分子の両末端にカルボキシキル基、水酸基、ビニル基、アミノ基等の官能基を有するもので、官能基としては水酸基が好ましい。脂肪族ジエン系ゴムとしては、α,ω−1,2−ポリブタジエングリコール、水素添加α,ω−1,2−ポリブタジエングリコール、水酸基末端変性−1,4−ポリブタジエン、液状ポリクロロプレン、液状天然ゴムなどがあり、ポリブタジエン系化合物又は部分的もしくは完全に水素添加されたポリブタジエン系化合物が好ましい。
ゴム−ポリエステルブロック共重合体としては、末端に水酸基を有する脂肪族ジエン系ゴムの末端水酸基に脂肪族ラクトンを触媒存在下に逐次開環重合させてポリエステルブロックを形成させたものが好ましく、脂肪族ラクトンとしてはε−カプロラクトンが好ましい。ブロック共重合体中のポリエステル鎖の末端基は通常水酸基となるが、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合を介して非反応基で末端基封鎖することが望ましい。
特に好ましいのは無水酢酸によるアセチル化、シリル化剤によるシリルエーテル化により末端封鎖されたものである。
【0036】
組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量中、0.5〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。前記範囲であると、(A)成分及び(D)成分、さらに必要に応じて(C)成分と溶融混練したときの流動性を高めることができるため、樹脂付着繊維束の製造が容易になる。
【0037】
〔(C)成分〕
(C)成分の難燃剤は、必要に応じて難燃性を付与する場合において使用される成分である。
(C)成分の難燃剤としては、シリコーン系難燃剤が好ましい。シリコーン系難燃剤は公知のものを使用することができ、例えば、特開2005−320457号公報の段落番号0051〜0079に記載されたシリコーン系難燃剤、前記公報の実施例(段落番号0097)で使用されている信越化学(株)製「X−40−9805」、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製「トレフィルF202」、特開2005−200588号公報の段落番号0012に記載の置換基としてメチル基とフェニル基を持つシロキサンポリマー、実施例で使用している信越化学工業(株)製「X−40−9805」、特開2004−27113号公報の段落番号0055、0056に記載されたものを使用することができ、その他、メチル基とフェニル基を持つシロキサンポリマー(シリコーンレジン)としての信越化学工業株式会社製 KR−480を使用することができる。
【0038】
組成物中の(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、より好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部である。
【0039】
〔(D)成分〕
(D)成分の強化用長繊維は、公知のガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、無機繊維(ガラス繊維を除く)等を使用することができるが、ガラス繊維が好ましい。
【0040】
組成物中の(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して12〜240質量部が好ましく、より好ましくは16〜100質量部、さらに好ましくは24〜67質量部である。
(D)成分の含有量が前記範囲内であると、成形体の機械的強度を高めることができ、薄肉成形体の成形も容易になる。
【0041】
〔樹脂付着繊維束の製造方法〕
樹脂付着繊維束は、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記強化用長繊維束に(A)成分と(B)成分を溶融させ、必要に応じて(C)成分を分散させた状態で付着させて、一体化した後に、3〜30mmの長さに切断して得ることができる。
【0042】
本発明では、樹脂付着繊維束の含有成分として(B)成分の流動性改良剤を使用することで(A)及び(B)成分、さらに必要に応じて(C)成分を溶融混練したときの流動性が高められるため、(D)成分からなる強化用長繊維束への(A)及び(B)成分、さらに必要に応じて(C)成分の付着工程が容易になることから、樹脂付着繊維束の製造も容易になる。
【0043】
樹脂付着繊維束は、ダイスを用いた周知の製造方法により製造することができ、例えば、特許文献2(特開平6−313050号公報)の段落番号7、特許文献3(特開2007−176227号公報)の段落番号23のほか、特公平6−2344号公報(樹脂被覆長繊維束の製造方法並びに成形方法)、特開平6−114832号公報(繊維強化熱可塑性樹脂構造体およびその製造法)、特開平6−293023号公報(長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法)、特開平7−205317号公報(繊維束の取り出し方法および長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−216104号公報(長繊維強化樹脂構造物の製造方法)、特開平7−251437号公報(長繊維強化熱可塑性複合材料の製造方法および製造装置)、特開平8−118490号公報(クロスヘッドダイおよび長繊維強化樹脂構造物の製造方法)等に記載の製造方法を適用することができる。
【0044】
樹脂付着繊維束の長さ(即ち、樹脂付着繊維束に含まれている(D)成分の強化長繊維の長さ)は、3〜30mmの範囲であり、好ましくは5mm〜20mm、より好ましくは6mm〜15mmである。3mm以上であると組成物から得られる成形体の機械的強度を高めることができ、30mm以下であると成形性が良くなる。
【0045】
樹脂付着繊維束の直径は特に制限されるものではないが、0.5mm〜5mmの範囲にすることができる。
【0046】
本発明の薄肉成形品に含まれている(D)成分に由来する残存繊維長は、0.3〜1.5mmが好ましく、0.5〜1.3mmがより好ましい。前記範囲であると十分な衝撃強度を得ることができる。
【0047】
<その他の成分>
本発明の組成物には、本発明の課題を解決できる範囲内で、難燃助剤、熱安定剤、滑剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、離型剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0048】
<薄肉成形品及びその製造方法>
本発明の薄肉成形品は、上記した樹脂付着繊維束を用い、射出成形法等の公知の樹脂成形法を適用して製造することができ、その他、成形体中に含まれる(D)成分の強化繊維の長さをより長く維持できることから、射出圧縮成形法を適用して製造することができる。
【0049】
射出圧縮成形法は公知の樹脂成形方法であり、樹脂の充填中は一時的にわずかにキャビティを拡大し、充填を無理なく行った後、型締め機構や金型内に組み込まれた油圧シリンダー等を利用して、成形品の一部又は全面を加圧、圧縮して所定の形状を付与する方法である。射出圧縮成形法には金型構造の面から大きく分けて、ローリンクス法とマイクロモールド法の二つに分かれるが、いずれの方法も適用することができる。
【0050】
本発明の薄肉成形品は、薄肉でかつ高い機械的強度を示すため、厚みが0.3〜1.5mmであり、残存繊維長が0.3〜1.5mmの範囲であるものが好ましい。
【0051】
本発明の薄肉成形品は、電子機器のハウジング用又は内部シャーシ用として適している。
電子機器としては、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、スマートフォン、スマートブック、カーナビゲーション、ゲーム機、コンパクトカセット、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、電子手帳、電子辞書、電卓、ハードディスクレコーダー、パーソナルコンピューター、モバイルコンピューター、タブレットPC、ビデオカメラ、デジタルカメラから選ばれるものを挙げることができる。
【実施例】
【0052】
製造例1(樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)
(A)成分と(A−2)成分と(B)成分の流動性改良剤とさらに(C)成分の難燃剤やその他各種添加剤からなる樹脂混合物を表1に示す配合でタンブラーにて混合後、2軸押出機(270℃)にて、溶融混練して、ペレット状の樹脂組成物を得た。
(D)成分であるガラス長繊維からなる集束剤で束ねられた繊維束(ガラス繊維1:約4000本の繊維の束)をクロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、別の2軸押出機(シリンダー温度290℃)から表1に示す上記樹脂組成物ペレットの溶融混練物を供給して(D)成分のガラス長繊維束に含浸させ、所定の繊維含有量の樹脂組成物を得た。その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、ペレット状(円柱状)の樹脂含浸繊維束を得た。このようにして得た樹脂含浸繊維束を切断して確認したところ、ガラス長繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されていた。
【0053】
実施例及び比較例
実施例1〜9では、製造例1で得た樹脂含浸繊維束を使用した。
比較例1〜3は、表2に示す成分を使用して製造例1に準じて樹脂含浸繊維束を製造しようとしたが、繊維束にポリカーボネート樹脂を含浸させることができなかった。
【0054】
<測定方法>
(1)重量平均繊維長
試験片作成方法
下記条件にてISO多目的試験片A型形状品(厚み4mm)を作製した。
【0055】
装置:(株)日本製鋼所製、J−150EII
シリンダー温度280℃
金型温度:100℃
スクリュー:長繊維専用スクリュー
スクリュー径:51mm
ゲート形状20mm幅サイドゲート
上記試験片から約3gの試料を切出し、650℃で加熱して灰化させて繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006−274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。
【0056】
(2)引張強度(MPa)
ISO527に準拠して測定した。
(3)曲げ強度(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(4)曲げ弾性率(MPa)
ISO178に準拠して測定した。
(5)シャルピー衝撃強度(kJ/m2
ISO179/1eAに準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
(6)耐熱性(荷重たわみ温度)
ISO75に準拠し、1.80MPaの荷重で評価した。
(7)難燃性
UL94の垂直燃焼試験(V-0〜V-2)にて、実施例及び比較例の組成物から作製した厚さ1.2mmの試験片にて試験した。
【0057】
<使用成分>
(A−1)成分
PC−1:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製,ユーピロンS2000F,粘度平均分子量約22000
PC−2:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製,ユーピロンS3000F,粘度平均分子量約18000
(A−2)成分
ABS−1:乳化重合ABS樹脂(ゴム量40質量%,アクリトニトリル量26質量%)
AS:ダイセルポリマー(株)製セビアンN 050
PET:(株)ベルポリエステルプロダクツ製ベルペットEFG6C
(B)成分
ポリカプロラクトン:株式会社ダイセル製 プラクセルH1P
環状ポリエステルオリゴマー:CYCLICS CORPRATION製 CBT100
(C)成分
ガラス繊維1:ガラス繊維ロービング,繊維径17μm,エポキシシランカップリング 剤で集束されているもの
(D)成分
メチルフェニルシリコンレジン:信越化学工業株式会社製 KR−480
(その他)
PTFE:旭硝子(株)製 Fluon PTFE CD141
安定剤1:BASFジャパン社製,イルガノックス1010
安定剤2:(株)ADEKA製,アデカスタブ PEP36
安定剤3:(株)ADEKA製,アデカスタブ AX71
オレフィンワックス:Honeywell International,Inc.製,ACポリエチレン9A
タルク:林化成(株)製,ミクロンホワイト5000S
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1、表2において、(A-1)成分と(A-2)成分及び(B)成分は質量%表示であり、他の成分は、(A-1)成分と(A-2)成分と(B)成分の合計100質量部に対する質量部表示である。よって、実施例8の場合には、樹脂含浸繊維束中の(C)成分の含有割合は3.9質量%、(D)成分は40質量%となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート系樹脂を含む熱可塑性樹脂、(B)流動性改良剤及び必要に応じて(C)難燃剤を含み、さらに(D)強化用長繊維を含む樹脂付着長繊維束を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂付着長繊維束が、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記強化用長繊維の束に(A)成分及び(B)成分を溶融させ、さらに必要に応じて(C)成分を分散させた状態で付着させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分の熱可塑性樹脂が、(A−1)ポリカーボネート系樹脂に加えて(A−2)スチレン系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分の流動性改良剤が、芳香族ポリエステルオリゴマー、環状(アルキレンテレフタレート)オリゴマー、芳香族ポリカーボネートオリゴマー、ポリカプロラクトン、低分子量アクリル系共重合体、脂肪族ゴム-ポリエステルブロック共重合体から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(C)成分の難燃剤がシリコーン系難燃剤である、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂付着長繊維束が、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねた強化用長繊維束に(A)成分及び(B)成分及び必要に応じて(C)成分を含む成分を溶融させた状態で、強化用長繊維束の表面を被覆し、かつ強化用長繊維束内に含浸させて一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂付着長繊維束が、(D)成分の強化用長繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねた強化用長繊維束に(A)成分及び(B)成分及び必要に応じて(C)成分を含む成分を溶融させた状態で、強化用長繊維束の表面を被覆し、強化用長繊維束内に含浸させることなく一体化した後に、3〜30mmの長さに切断したものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(D)成分の強化用長繊維がガラス繊維である、請求項1〜6のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂被覆長繊維束が、直径が0.5〜5mmで、長さが3〜30mmのものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、厚みが0.3〜1.5mmであり、残存繊維長が0.3〜1.5mmの範囲である薄肉成形品。
【請求項10】
薄肉成形品が電子機器のハウジング用又は内部シャーシ用である、請求項9記載の薄肉成形品。
【請求項11】
電子機器が、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、スマートフォン、カーナビゲーション、ゲーム機、コンパクトカセット、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、電子手帳、電子辞書、電卓、ハードディスクレコーダー、パーソナルコンピューター、ビデオカメラ、デジタルカメラから選ばれるものである請求項10記載の薄肉成形品。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いた請求項9又は11記載の薄肉成形品の製造方法であって、
前記樹脂組成物を射出成形法又は射出圧縮成形法により成形する、薄肉成形品の製造方法。

【公開番号】特開2013−107979(P2013−107979A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253847(P2011−253847)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】