説明

樹脂組成物

【課題】成形時に加えられる熱履歴による変色が抑制できる樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)セルロースエステル、(B)スチレン系樹脂及び(C)二酸化チタンを含有する樹脂組成物であって、(A)成分と(B)成分の含有量が、(A)成分95〜50質量%で、(B)成分50〜5質量%であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜10質量部であり、(A)成分と(B)成分の相溶化剤を含有していない樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルとスチレン系樹脂を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種樹脂を含む樹脂組成物は、家電製品や自動車の各種部品、ハウジング等、事務機器、電子・電気機器のハウジング等に使用されている。そして、樹脂組成物に使用する樹脂として、植物由来のものが使用されるようになっている。植物由来の樹脂としては、セルロースエステルやポリ乳酸等が知られており、これらを含む樹脂組成物が提案されている。
【0003】
特許文献1には、セルロースエステルと、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂と、前記セルローエステルに対する可塑剤と、この可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止するためのブリードアウト抑制剤とで構成された樹脂組成物の発明が開示されている。
この樹脂組成物には消臭剤を配合できることが記載されており、無機系消臭剤の1つとして酸化チタンが例示されており(段落番号0166〜0168)、任意成分として着色剤(染料、顔料等)(段落番号0228)を配合できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、(A)ポリ乳酸樹脂および(B)セルロースエステルから選ばれる一種以上の樹脂75〜10重量%、(C)芳香族ポリカーボネート樹脂25〜90重量%および(D)相溶化剤を(A)および(B)から選ばれる一種以上と(C)成分の合計量100重量部に対して1〜50重量部配合してなる樹脂組成物の発明が開示されている。
段落番号0150には、さらにカーボンブラック、酸化チタン、弁柄、群青、焼成イエローおよびさらに種々の色の顔料や染料を1種以上配合することにより種々の色に樹脂を調色、耐候(光)性、および導電性を改良することもできることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)セルロースを主成分とする繊維、(C)第一の難燃剤を含有しており、(C)第一の難燃剤として2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン骨格を有するリン酸塩(ポリリン酸メラミン)を含有する繊維強化難燃性樹脂組成物が開示されている。顔料や無機充填剤等を配合できることは記載されていない。
【0006】
特許文献4には、熱可塑性樹脂、セルロース系フィラー、無機質フィラーおよび発泡剤を含む木質系樹脂組成物において、セルロース系フィラーが含フッ素ポリマーの存在下でシリコーンにより変性処理したものである木質系樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献5には、白度80%以上のセルロース粉末1〜60重量%とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(以下、ABS樹脂)40〜99重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、(2)着色剤3〜20重量%と、該ABS樹脂に対して、200℃における剪断速度103 sec-1下での溶融粘度の比が0.4以下または2.5以上であるスチレン系樹脂80〜97重量%からなる樹脂組成物0.1〜10重量部と(3)発泡剤0.01〜1重量部を混合成形して得られる比重が0.5〜1.0である木目調樹脂成形物が開示されている。
(2)着色剤として数多くのものが例示されており(段落番号0020)、その中の1つとしてチタンホワイトが含まれているが、実施例で使用されているものはアントラキノン系顔料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−161943号公報
【特許文献2】特開2006−111858号公報
【特許文献3】特開2008−303288号公報
【特許文献4】特許第3704280号公報
【特許文献5】特許第3695958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、セルロースエステルをベースとする樹脂組成物であって、二酸化チタンを特定量含有させることによって、成形時に加えられる熱履歴による変色が抑制される樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)セルロースエステル、(B)スチレン系樹脂及び(C)二酸化チタンを含有する樹脂組成物であって、
(A)成分と(B)成分の含有量が、(A)成分95〜50質量%で、(B)成分50〜5質量%であり、
(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜10質量部であり、
(A)成分と(B)成分の相溶化剤を含有していない樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、(C)成分である二酸化チタンを所定量含有していることによる隠蔽効果によって、成形時に加えられる熱履歴によって得られた成形体の着色が抑制される(目立たなくなる)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<(A)成分>
(A)成分のセルロースエステルは、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートメチレート、セルロースアセテートヒドロキシエチレート、セルロースアセテートヒドロキシプロピオレート、セルロースブチレートヒドロキシポロピレート、セルロースジアセテート等から選ばれるものを挙げることができる。これらの中でもセルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)が好ましい。
【0013】
(A)成分のセルロースエステルは、流動性の改善や成形体の機械的強度を高める観点から、セルロースエステル100質量部に対して5〜25質量部の可塑剤を含むものでもよい。
可塑剤としては、フタル酸エステルを除いたアジペート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0014】
セルロースエステルの重量平均分子量は、流動性(加工性)を維持する観点から、10,000〜100,000の範囲であることが好ましく、15,000〜80,000の範囲であることがより好ましい。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置(島津製作所製のProminence GPC型)を用い、測定カラムとしてShim−pack GPC−80Mを用いて測定することができる。
【0015】
<(B)成分>
(B)成分のスチレン系樹脂は、構成単位としてスチレン単位を含むものであり、PS樹脂(ポリスチレンホモポリマー)のほか、共重合体を挙げることができる。
共重合体としては、ABS(アクリトニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリトニトリル−スチレン)樹脂、ASA(アクリトニトリル−スチレン−アクリルゴム)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)樹脂、ACS(アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン)樹脂、HIPS樹脂(耐衝撃性ポリスチレン)、MS(メチルメタクリレート−スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)樹脂、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、SB(スチレン−ブタジエン)樹脂、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)樹脂、SEBS樹脂(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレン)樹脂、SIBS(スチレン−イソプレン/ブタジエン−スチレン)樹脂、SEPS(スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン)樹脂等から選ばれるものを挙げることができ、これらを併用することもできる。
【0016】
(B)成分のスチレン系樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂又はこれらの組み合わせが好ましい。
【0017】
ABS樹脂を使用するときは、耐衝撃性の観点から、ゴム含有量が5〜60質量%のものが好ましく、10〜60質量%であるものが好ましい。
AS樹脂を使用するときは、成形性の観点から、メルトフローレートは10〜200g/10minのものが好ましく、15〜200g/10minのものがより好ましい。
ABS樹脂とAS樹脂を併用することで、ゴム含有量とメルトフローレートを上記した範囲内になるように調整することもできる。
【0018】
樹脂組成物中における(A)成分と(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量中、
(A)成分は50〜95質量%、好ましくは70〜95質量%、より好ましくは80〜95質量%であり、
(B)成分は50〜5質量%、好ましくは30〜5質量%、より好ましくは20〜5質量%である。
(A)成分の含有量が50質量%未満であるとき、(B)成分の含有量が50質量%を超えるときには、本発明の課題を解決することができない。
【0019】
<(C)成分>
(C)成分の二酸化チタンは、樹脂成分として特定割合の(A)成分と(B)成分を含有する本発明の樹脂組成物を成形して成形体を得るとき、成形時に加えられる熱履歴による成形体の変色を隠蔽することで変色を抑制する効果(隠蔽効果)を付与するための成分である。
【0020】
二酸化チタンは、ルチル形又はアナターゼ形等の結晶形を持つものがあるが、いずれの結晶形のものでもよい。
上記した隠蔽効果を発揮するためには、平均粒子径0.01〜3μmの範囲が好ましく、0.01〜1μmの範囲がより好ましい。平均粒子径は、電子顕微鏡により測定することができる。
二酸化チタンは、必要に応じて、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよい。
【0021】
樹脂組成物中の(C)成分の二酸化チタンの含有量は、(A)及び(B)成分の合計量100質量部中、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.3〜5質量部、より好ましくは0.5〜3質量部である。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、さらに(D)成分の滑剤を含有することができる。
(D)成分の滑剤としては、高級脂肪酸又はそのエステルやアミド等の誘導体、オレフィンワックス、流動パラフィンを挙げることができ、例えば、特開2000−212451号公報の段落番号0017〜0022に記載のもの(但し、〔0019〕、〔0020〕に記載の高級脂肪酸の塩は除く)を使用することができる。
【0023】
樹脂組成物中の(D)成分の滑剤の含有量は、(A)及び(B)成分の合計量100質量部中、0.01〜3質量部であり、好ましくは0.1〜2質量部である。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、さらに難燃剤として(E)成分のリン酸エステルを含有することができる。
(E)成分のリン酸エステルは、難燃剤として公知のものを使用することができ、例えば、大八化学社製のPX−200、202、CR−741、CR−733S、TPP(トリフェニルホスフェイト)等を使用することができる。
【0025】
樹脂組成物中の(E)成分のリン酸エステルの含有量は、(A)及び(B)成分の合計量100質量部中、5〜40質量部であり、好ましくは10〜40質量部、より好ましくは10〜30質量部である。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、さらに(F)成分の酸化防止剤を含有することができる。
(F)成分の酸化防止剤としては、樹脂用の酸化防止剤として公知のリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤(例えば、ホスファイト系酸化防止剤やチオエーテル系酸化防止剤などの特開平7−76640号公報の段落番号0015〜0025に記載されているものやトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリスイソデシルホスファイト等のアリルホスファイトやアルキルホスファイト)、アミン系酸化防止剤等を挙げることができるが、リン系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤が好ましい。
【0027】
樹脂組成物中の(F)成分の酸化防止剤の含有量は、(A)及び(B)成分の合計量100質量部中、0.01〜3質量部であり、好ましくは0.01〜1質量部である。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、無機充填剤、安定化剤(紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤等)、着色剤(染料、二酸化チタンを除く顔料等)、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、アンチブロッキング剤、分散剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤等を含有することができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、上記した(A)、(B)、(C)成分と必要に応じて含まれる他の成分を含有するものであるが、(A)成分と(B)成分の相溶化剤は含有していない。
本発明の樹脂組成物は、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、ニーダー等を用いて製造することができる。
【実施例】
【0030】
実施例及び比較例
表1に示す成分を混合して実施例及び比較例の組成物を得た。得られた組成物について、表1に示す各評価を行った。
【0031】
表1に示した成分の詳細は以下のとおり。
(A)成分
セルロースアセテートプロピオネート:CAP-482-20(イーストマンケミカル製)(置換度〔プロピオニル〕2.6、置換度〔アセチル〕0.1)
(B)成分
スチレン系樹脂1:ABS樹脂、ST/AN比=74/26、ゴム量=15、MFR=19g/10min
スチレン系樹脂2:ABS樹脂、ST/AN比=74/26、ゴム量=16、MFR=45g/10min
スチレン系樹脂3:ABS樹脂、ST/AN比=73/27、ゴム量=40、MFR=1g/10min
スチレン系樹脂4:AS樹脂、ST/AN比=76/24、MFR=32g/10min
ここで、STはスチレン、ANはアクリロニトリルを示し、MFRの試験条件は220℃10kgである。
(C)成分
二酸化チタン:R-FC5 90E(三協化学製)
(D)成分
滑剤1:アルフローH-50S(日本油脂製、エチレンビスステアリン酸アミド)
滑剤2:ハイコールK-350(カネダ製、流動パラフィン)
(E)成分
リン酸エステル:PX-200(大八化学製、芳香族縮合リン酸エステル)
(F)成分
酸化防止剤1:アデカスタブPEP-8(ADEKA製、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))
酸化防止剤2:イルガホス168(BASFジャパン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト)
【0032】
(難燃性)
UL-94規格に基づく垂直燃焼試験を行い、1.5mmの厚さを持つ成形品を使用し、評価した。
【0033】
(引張強さ及び引張伸び)
ISO527に準拠して、50mm/minの速度で引張試験を行い、引張り強さおよび引張伸び(引張破壊時呼びひずみ)を測定した。
【0034】
(シャルピー衝撃強さ)
ISO179/1eAに準拠して測定した。
【0035】
(荷重たわみ温度)
ISO75に準拠して、1.80MPaの曲げ応力で測定した。
【0036】
(メルトフローレート)
ISO1133に準拠して、測定した。
【0037】
(成形時の滞留変色)
三菱重工製265/100MS2成形機を用い、シリンダー温度220℃で90mm×50mm×3mmの試験片1を作製した。
さらに、同じ成形機内のシリンダー内にて、220℃で10分間滞留保持させたほかは試験片1と同様にして試験片2を作製した。
試験片1と試験片2の色差(ΔE)から滞留保持(220℃で10分間の滞留保持)の有無による色差〔ΔE〕)を次の基準で判定した。色差(ΔE)が小さいほど、成形時の滞留変色(熱による変色)が小さいことを示す。
(色相変化の判定)
×:ΔE8以上
△:ΔE3以上〜8未満
○:ΔE3未満
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロースエステル、(B)スチレン系樹脂及び(C)二酸化チタンを含有する樹脂組成物であって、
(A)成分と(B)成分の含有量が、(A)成分95〜50質量%で、(B)成分50〜5質量%であり、
(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜10質量部であり、
(A)成分と(B)成分の相溶化剤を含有していない樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(D)滑剤を含有する請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(E)リン酸エステルを含有する請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに(F)酸化防止剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分のセルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートから選ばれるものである請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(B)成分のスチレン系樹脂が、ABS樹脂及び/又はAS樹脂である請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−79319(P2013−79319A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219784(P2011−219784)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】