説明

樹脂組成物

【課題】 硬化後の樹脂組成物中でのマイグレーションを防止し、かつ樹脂組成物の保存中の硬化反応を抑制する、具体的には、樹脂組成物を液状で使用する場合の保存中の増粘を抑制することを課題とする。したがって、保存特性に優れ、硬化後には耐マイグレーション性に優れた高信頼性の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、及び(C)特定構造のトコール類およびトコトリエノール類等の化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、特に、フリップチップ型半導体素子の封止に適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置は、基板と、基板上に搭載された半導体素子を備えており、半導体素子と基板間を、バンプやボンディングワイヤー等で電気的に接続した後、樹脂組成物で封止し、製造されている。
【0003】
近年、液晶ドライバIC等の半導体素子の高密度化、高出力化の要求に応えるため、半導体素子を搭載する基板の配線パターンのファインピッチ化が進んでいる。このファインピッチ化、および高出力化に伴う高電圧化により、配線パターン間のマイグレーションが危惧されている。マイグレーションは、配線パターンの金属が、電気化学反応によって溶出し、抵抗値低下が生じる現象である。ここで、配線パターンは、半導体装置作動時に、電極として作用する。図1に、電極がCuである場合のマイグレーションを説明する模式図を示す。マイグレーションは、まず陽極2で、反応式:Cu+(OH)→Cu(OH)によりCuが溶出し、基板1上を、Cu(OH)が実線矢印の向き、すなわち陰極3方向に移動し、陰極3では、基板1上で、反応式:CuOH+H→Cu+2HOによりCuが破線矢印向き、すなわち陽極2方向に析出する。通常、配線パターンは、エポキシ樹脂系の樹脂組成物からなる半導体封止剤で封止されているが、エポキシ樹脂に吸水されたHO由来のOHやHにより、マイグレーションが発生する。さらに、雰囲気中にClイオンがあると、マイグレーションは飛躍的に加速される。このClイオンは、通常、エポキシ樹脂の不純物として存在する。マイグレーションが起きると、配線パターンの陽極−陰極間の抵抗値が低くなり、マイグレーションが進行すると、陽極と陰極の短絡に至る。なお、Cu(OH)は、正確には、Cu(OH)の場合と、Cu(OH)の場合があり、Cu(OH)の場合には、その濃度差により陰極側に移動し、Cu(OH)の場合には、電気的に移動する。
【0004】
このマイグレーションを防止するため、イオン結合剤として、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、およびこれらのイソシアヌル類から選ばれる少なくとも1種の可能物を含む樹脂組成物が報告されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、ベンゾトリアゾール類等を、エポキシ樹脂中に分散すると、室温において、エポキシ樹脂とベンゾトリアゾール類の硬化反応が進行し、粘度が著しく増加する。また、ベンゾトリアゾール類は、マイグレーションを防止する効果はあるが、電極部分の銅の腐食を防止できない、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−98646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬化後の樹脂組成物中でのマイグレーションを防止し、かつ樹脂組成物の保存中の硬化反応を抑制する、具体的には、樹脂組成物を液状で使用する場合の保存中の増粘を抑制することを課題とする。したがって、保存特性に優れ、硬化後には耐マイグレーション性に優れた高信頼性の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した樹脂組成物に関する。
〔1〕(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、ならびに
(C)一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、mは、1〜5の整数である)で表される化合物、および一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、1〜5の整数である)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種
を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
〔2〕(C)成分が、5,7,8−トリメチルトコール、5,8−ジメチルトコール、7,8−ジメチルトコール、8−メチルトコール、5,7,8−トリメチルトコトリエノール、5,8−ジメチルトコトリエノール、7,8−ジメチルトコトリエノール、および8−メチルトコトリエノールからなる群より選択される少なくとも1種である、上記〔1〕記載の樹脂組成物。
〔3〕さらに、(D)カップリング剤を含有する、上記〔1〕または〔2〕記載の樹脂組成物。
〔4〕さらに、(E)フィラーを含有する、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔5〕さらに、(F)ゴム成分を含有する、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔6〕(C)成分が、樹脂組成物:100質量部に対して、0.01〜10質量部である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物の硬化物。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の樹脂組成物を含む、半導体封止剤。
〔8〕上記〔7〕記載の半導体封止剤を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明〔1〕によれば、保存特性に優れ、具体的には、樹脂組成物を液状で使用する場合に保存中の増粘が抑制され、かつ硬化後に耐マイグレーション性に優れる樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
本発明〔7〕によれば、耐マイグレーション性に優れた高信頼性の半導体装置を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電極がCuである場合のマイグレーションを説明する模式図である。
【図2】樹脂組成物の注入性の評価方法を説明する模式図である。
【図3】実施例4の樹脂組成物を用いて耐マイグレーション性評価をした後の写真である。
【図4】比較例2の樹脂組成物を用いて耐マイグレーション性評価をした後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、ならびに
(C)一般式(1):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、mは、1〜5の整数である)で表される化合物、および一般式(2):
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、1〜5の整数である)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種
を含有することを特徴とする。
【0021】
(A)成分としては、樹脂組成物をアンダーフィル材として使用する場合には、液状エポキシ樹脂が好ましく、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、液状水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状脂環式エポキシ樹脂、液状アルコールエーテル型エポキシ樹脂、液状環状脂肪族型エポキシ樹脂、液状フルオレン型エポキシ樹脂、液状シロキサン系エポキシ樹脂等が挙げられ、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、液状シロキサン系エポキシ樹脂が、硬化性、耐熱性、接着性、耐久性の観点から好ましい。なお、樹脂組成物をフィルム状等の固体で使用する場合には、(A)成分は、固体のエポキシ樹脂であると好ましく、固体のエポキシ樹脂としては、液状エポキシ樹脂として挙げたものの固体が挙げられ、フィルム成型性の観点から、フェノキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ当量は、粘度調整の観点から、80〜250g/eqが好ましい。市販品としては、新日鐵化学製ビスフェノールF型エポキシ樹脂(品名:YDF8170)、新日鐵化学製ビスフェノールF型エポキシ樹脂(品名:YDF870GS)、三菱化学製アミノフェノール型エポキシ樹脂(グレード:JER630、JER630LSD)、DIC製ナフタレン型エポキシ樹脂(品名:HP−4032D)、モメンティブ・パフォーマンス製シロキサン系エポキシ樹脂(品名:TSL9906)、新日鐵化学株式会社製1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(品名:ZX1658GS)等が挙げられる。(A)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0022】
(B)成分は、酸無水物、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤が挙げられる。酸無水物としては、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、ドデセニル無水コハク酸、脂肪族二塩基酸ポリ無水物、クロレンド酸無水物、メチルブテニルテトラヒドロフタル酸無水物、アルキル化テトラヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、アルケニル基で置換されたコハク酸無水物、グルタル酸無水物等が挙げられ、メチルブテニルテトラヒドロフタル酸無水物が好ましい。アミン系硬化剤としては、鎖状脂肪族アミン、環状脂肪族アミン、脂肪芳香族アミン、芳香族アミン等が挙げられ、芳香族アミンが好ましい。フェノール系硬化剤としては、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられ、フェノールノボラックが好ましい。市販品としては、三菱化学製酸無水物(グレード:YH306、YH307)、日本化薬製アミン硬化剤(品名:カヤハードA−A)、明和化成製フェノール硬化剤(品名:MEH8005)等が挙げられる。(B)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0023】
(C)成分は、通常、液体であり、樹脂組成物の保存時の硬化反応、具体的には、樹脂組成物を液状で使用する場合の保存時の増粘を抑制し、かつ硬化後の耐マイグレーション性を向上させる。(C)成分が硬化した樹脂組成物の耐マイグレーション性を向上させる理由としては、(C)成分中のオキサン環(テトラヒドロピラン環)が、金属銅やCu(OH)等のCuイオンに配位結合するためである、と考えられる。なお、オキサン環は、あまり大きな電子供与性を持たないため、例えば、アゾ基やアジ基を含む環状構造を含む化合物とは異なり、樹脂組成物の保存中の硬化反応による増粘を抑制することができる。また、オキサン環と結合する炭化水素(一般式(1)または一般式(2)のカッコ内)は、(C)成分の液体化に寄与している、と考えられる。
【0024】
さらに、(C)成分は、液体であるため、(A)成分に所望の量を含有させることができる。詳細に説明すると、一般に、樹脂組成物を製造する場合、(A)成分と(C)成分を混合した後、(B)成分を混合する。ここで、(A)成分に固体の粉体材料を混合する場合には、予め(A)成分と粉体材料を混合してマスターバッチを作製しないと、均一な樹脂組成物を得ることが難しいため、マスターバッチ作製工程が必要になる上に、均一なマスターバッチが得られる(A)成分と粉体材料との比率が限定される。これに対して、(C)成分は、液体であるため、マスターバッチを作製する必要がなく、(A)成分に所望の量を含有させることができる。
【0025】
(C)成分は、一般式(1):
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基、好ましくは水素または炭素数1のアルキル基であり;mは1〜5の整数、好ましくは3である)で表される化合物、および一般式(2):
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基、好ましくは水素または炭素数1のアルキル基であり;nは、1〜5の整数、好ましくは3である)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、トコール類またはトコトリエノール類であると、より好ましい。
【0030】
トコール類としては、5,7,8−トリメチルトコール(α−トコフェロール)、5,8−ジメチルトコール(β−トコフェロール)、7,8−ジメチルトコール(γ−トコフェロール)、8−メチルトコール(δ−トコフェロール)が、トコトリエノール類としては、5,7,8−トリメチルトコトリエノール(α−トコトリエノール)、5,8−ジメチルトコトリエノール(β−トコトリエノール)、7,8−ジメチルトコトリエノール(γ−トコトリエノール)、8−メチルトコトリエノール(δ−トコトリエノール)が、樹脂組成物の保存特性や硬化後の樹脂組成物の耐マイグレーション性の観点から好ましい。(C)成分としては、例えば、和光純薬工業から市販されている試薬を使用すればよい。(C)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0031】
樹脂組成物は、良好な反応性、信頼性の観点から、(A)成分のエポキシ当量:1に対して、(B)成分の酸無水当量が、好ましくは0.6〜1.2であり、より好ましくは0.65〜1.1である。0.6以上であると、反応性、硬化後の樹脂組成物のPCT試験での耐湿信頼性、耐マイグレーション性が良好であり、一方、1.2以下であると、増粘倍率が高くなり過ぎず、ボイドの発生が抑制される。
【0032】
(C)成分は、樹脂組成物:100質量部に対して、0.01〜10質量部含むと好ましく、0.01〜5質量部含むと、より好ましい。0.01質量部以上であると、耐リード腐食性が良好であり、10質量部以下であると、樹脂組成物の増粘率の上昇を抑制することができる。
【0033】
また、(C)成分は、樹脂組成物の硬化物:100質量部に対して、0.01〜10質量部含むと好ましく、0.01〜5質量部含むと、より好ましい。ここで、樹脂組成物は、硬化時の質量減少が約1〜2質量%と少なく、(C)成分の揮発量は非常に小さいため、硬化物中での好ましい(C)成分の含有量は、樹脂組成物中での含有量と同様である。ここで、(C)成分の定量分析は、質量分析法で行う。
【0034】
樹脂組成物は、さらに、(D)成分であるカップリング剤を含有すると、密着性の観点から好ましく、(D)成分としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランが、密着性の観点から好ましい。市販品としては、信越化学工業製KBM403、KBE903、KBE9103等が挙げられる。(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0035】
樹脂組成物は、さらに、(E)成分であるフィラーを含有すると好ましい。(E)成分としては、コロイダルシリカ、疎水性シリカ、微細シリカ、ナノシリカ等のシリカ、アクリルビーズ、ガラスビーズ、ウレタンビーズ、ベントナイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、(E)成分としてのフィラーの平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、0.01〜50μmであることが、樹脂組成物中にフィラーを均一に分散させるうえで好ましく、また、樹脂組成物をアンダーフィル材として使用した際の注入性に優れる等の理由から好ましい。0.01μm未満だと、樹脂組成物の粘度が上昇して、アンダーフィル材として使用した際に注入性が悪化するおそれがある。50μm超だと、樹脂組成物中にフィラーを均一に分散させることが困難になるおそれがある。(E)成分としてのフィラーの平均粒径は、0.05〜30μmであることがより好ましく、さらに、フィラーの平均粒径が、0.1〜10μmであることがさらに好ましい。市販品としては、扶桑化学工業製アモルファスシリカ(製品名:SP03B、平均粒径:200nm、日本アエロジル製疎水性フュームドシリカ(製品名:R805、平均粒径:20nm)等が挙げられる。ここで、フィラーの平均粒径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計により測定する。(E)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0036】
樹脂組成物は、さらに、(F)成分であるゴム成分を含有すると、樹脂組成物の硬化物の応力緩和の観点から好ましく、(F)成分としては、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴムが挙げられる。(F)成分は、固体のものを使用することができる。形態は特に限定されず、例えば、粒子状、粉末状、ペレット状のものを使用することができ、粒子状の場合は、例えば、平均粒径が、10〜750nm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは、50〜300nmである。(F)成分は、常温で液状のものも使用することもでき、例えば、平均分子量が比較的低いポリブタジエン、ブタジエン・アクリロニトリルコポリマー、ポリイソプレン、ポリプロピレンオキシド、ポリジオルガノシロキサンが挙げられる。また、(F)成分は、末端にエポキシ基と反応する基を有するものを使用することができ、これらは固体、液状いずれの形態であってもよい。市販品としては、宇部興産製ATBN1300−16、CTBN1008−SP等が挙げられる。(F)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0037】
樹脂組成物は、さらに、(G)成分である硬化促進剤を含有すると、適切な硬化性が得られるので好ましく、硬化促進剤は、エポキシ樹脂の硬化促進剤であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、アミン系硬化促進剤、リン系硬化促進剤等が挙げられる。
【0038】
アミン系硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、2,4−ジアミノ−6−〔2’―メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジン等のトリアジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン等の第三級アミン化合物が挙げられる。中でも、2,4−ジアミノ−6−〔2’―メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジン、2−フェニル−4−メチルイミダゾールが好ましい。また、リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン等が挙げられる。硬化促進剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。なお、(B)成分に酸無水物系硬化剤を使用する場合には、硬化性、保存安定性の点から、アミン系硬化促進剤を使用することが好ましい。
【0039】
(G)成分は、エポキシ樹脂等でアダクトされたアダクト型であっても、マイクロカプセル型であってもよい。マイクロカプセル型の市販品としては、旭化成イーマテリアルズ製マイクロカプセル化潜在性硬化剤(製品名:HX3088)等が挙げられる。
【0040】
(D)成分は、樹脂組成物:100質量部に対して、好ましくは0.01〜15質量部、より好ましくは0.05〜10質量部、更に好ましくは0.1〜5質量部含有される。0.05質量部以上であると、密着性が向上し、PCT試験での耐湿信頼性がより良好になり、15質量部以下であると、樹脂組成物の発泡が抑制される。
【0041】
(E)成分は、樹脂組成物:100質量部に対して、好ましくは0.1〜90質量部、より好ましくは0.5〜60質量部含有される。0.5〜60質量部であると、線膨張係数を下げられ、かつ注入性の悪化をさけることができる。
【0042】
(F)成分は、樹脂組成物:100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部含有される。0.1質量部以上であると、樹脂組成物の硬化物の応力を緩和し、30質量部以下であると耐湿信頼性が低下しない。
【0043】
(G)成分は、樹脂組成物:100質量部に対して、好ましくは0.1質量部より多く5質量部未満、より好ましくは0.2〜4質量部、さらに好ましくは0.3〜3.0質量部含有される。0.1質量部以上であると、反応性が良好であり、5質量部以下であると、耐湿信頼性が良好あり、更に増粘倍率が安定である。
【0044】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じ、カーボンブラックなどの顔料、染料、消泡剤、酸化防止剤、応力緩和剤、その他の添加剤等を配合することができる。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、例えば、(A)成分〜(C)成分およびその他添加剤等を同時にまたは別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶融、混合、分散させることにより得ることができる。これらの混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、温度:25℃での粘度が50〜2000mPa・sであると、注入性の観点から好ましい。ここで、粘度は、東機産業社製E型粘度計(型番:TVE−22H)で測定する。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、ディスペンサー、印刷等で基板の所望の位置に形成・塗布される。ここで、樹脂組成物は、フレキシブル配線基板等の基板と半導体素子との間に、少なくとも一部が基板の配線上に接するように形成する。
【0048】
本発明の樹脂組成物の硬化は、80〜300℃で行うことが好ましく、また、200秒以内で硬化させると、半導体封止剤として用いるときの生産性向上の観点から好ましい。
【0049】
なお、半導体素子、基板は、所望のものを使用することができるが、フリップチップボンディングの半導体素子とCOFパッケージ用基板の組合せが好ましい。
【0050】
このように、本発明の樹脂組成物は、半導体封止剤に非常に適しており、この半導体封止剤を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する半導体装置は、耐マイグレーション性、および耐リード腐食性に優れ、高信頼性である。
【実施例】
【0051】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0052】
〔実施例1〜20、比較例1、2〕
表1、表2に示す配合で、樹脂組成物を作製した。作製した樹脂組成物は、すべて液状であった。(C)成分には、和光純薬工業製α−トコフェロールやβ−トコフェロール、α−トコトリエノールを使用した。なお、実施例1〜20、比較例1、2において、(B)成分の酸無水当量、アミン当量またはフェノール当量は、(A)成分のエポキシ当量:1に対して、いずれも0.8であった。
【0053】
〔粘度の評価〕
作製した直後の樹脂組成物の粘度(初期粘度、単位:mPa・s)を、東機産業社製E型粘度計(型番:TVE−22H)で測定した。表3、表4に、初期粘度(表には、粘度と記載した)の測定結果を示す。また、樹脂組成物を24時間または48時間、25℃、相対湿度50%で保管した後の粘度を測定し、(24または48時間後の粘度)/(初期粘度)を粘度上昇率(単位:%)とした。表3、表4に、結果を示す。
【0054】
〔吸水率の評価〕
作製した樹脂組成物を150℃、60分で硬化させた試料の初期重量をW(g)とし、PCT試験槽(121℃±2℃/湿度100%/2atmの槽)中に20時間置いた後、室温まで冷却して得た試験片の重量をW(g)とし、下記式で、吸水率(単位:%)を求めた。
吸水率=(W−W)/W × 100 (%)
表3、表4に、吸水率の評価結果を示す。
【0055】
〔曲げ弾性率の評価〕
離型剤を塗布したガラス板とガラス板との間に、作製した樹脂組成物を挟み、150℃、60分で350μmのシート状に硬化させ、万能試験機((株)島津製作所製 AG−I)を用いて室温での曲げ弾性率を求めた。なお、n=3で測定し、平均値を用いた。また、試験片の膜厚及び幅は、5点測定し、平均値を計算値に用いた。曲げ弾性率は、好ましくは1.0〜10.0GPa、より好ましくは2.0〜8.0GPaである。表3、表4に、曲げ弾性率の評価結果を示す。
【0056】
〔抽出Clイオン量の評価〕
作製した樹脂組成物を150℃、60分で硬化させて得た試料を、5mm角程度に粉砕した。硬化塗膜:2.5gにイオン交換水25cmを加え、PCT試験槽(121℃±2℃/湿度100%/2atmの槽)中に20時間置いた後、室温まで冷却して得た抽出液を試験液とした。上記の手順で得られた抽出液のClイオン濃度を、イオンクロマトグラフを用いて測定した。表3、表4に、抽出Clイオン量の評価結果を示す。
【0057】
〔注入性の評価〕
図2に、樹脂組成物の注入性の評価方法を説明する模式図を示す。まず、図2(A)に示すように、基板20上に20μmのギャップ40を設けて、半導体素子の代わりにガラス板30を固定した試験片を作製した。但し、基板20としては、フレキシブル基板の代わりにガラス基板を使用した。次に、この試験片を110℃に設定したホットプレート上に置き、図2(B)に示すように、ガラス板30の一端側に、作製した樹脂組成物10を塗布し、図2(C)に示すように、ギャップ40が樹脂組成物11で満たされるまでの時間を測定し、90秒以下で満たされた場合を「良」とした。表3、表4に、注入性の評価結果を示す。
【0058】
〔耐マイグレーション性の評価〕
樹脂組成物の耐イオンマイグレーション性を評価するため、高温高湿バイアス試験(THB試験)を実施した。試験方法は、以下のとおりである。スズメッキ(0.2±0.05μm)された銅配線(パターン幅10μm、線間幅15μm、パターンピッチ25μm)を持つポリイミドテープ基材上に、作製した樹脂組成物を20μm厚みで塗布し、150℃で30分間処理し、封止剤を硬化させて試験片を作製した。この試験片についてイオンマイグレーション評価システム(エスペック社製)を用いて、110℃/湿度85%の条件下で、DC60Vの電圧を印加したときの抵抗値の変化を測定し、抵抗値が1.00×10Ωを下回った時点を閾値として、銅配線のマイグレーションを評価した(単位:時間)。抵抗値が閾値を下回らなかったものについては、1000時間を越えた時点で試験終了とした。表3、表4に、耐マイグレーション性の評価結果を示す。図3、図4に、耐マイグレーション性評価後の写真を示す。写真にスケールはついていないが、上記のようにパターン幅10μm、線間幅15μmの銅配線である。図3は実施例4、図4は比較例2の写真である。
【0059】
〔耐リード腐食性の評価〕
上記耐マイグレーション性の評価を行った試験片を、光学顕微鏡オリンパス製(型番:STM6)を用いて、50倍の対物レンズで観察した。配線の腐食が配線幅の1/3に満たないものを「○」、1/3以上のものを「×」とした。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
表3、表4からわかるように、実施例1〜20の全てで、粘度上昇率が低く、注入性が良好で、吸水率が低く、耐マイグレーション性、および耐リード腐食性が優れており、曲げ弾性率が所望値であった。また、マイグレーションを促進する塩素量もイオンクロマトグラフの検出限界以下であった。これに対して、(C)成分を含まない比較例1は、耐リード腐食性が良くなかった。(C)成分の代わりに、ベンゾトリアゾールを含む比較例2は、粘度上昇率が高く、耐リード腐食性も良くなかった。実施例4の図3と、比較例2の図4を比較すると、図4ではリードの腐食が進行していた。
【0065】
上記のように、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の保存中の硬化反応を抑制、具体的には、樹脂組成物を液状で使用する場合の保存時の増粘を抑制し、かつ硬化後の樹脂組成物中でのマイグレーションを防止でき、特に、フリップチップ型半導体素子に適している。
【符号の説明】
【0066】
1 基板
2 陽極
3 陰極
10、11 樹脂組成物
20 基板
30 ガラス板
40 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、ならびに
(C)一般式(1):
【化7】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、mは、1〜5の整数である)で表される化合物、および一般式(2):
【化8】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、1〜5の整数である)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種
を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
(C)成分が、5,7,8−トリメチルトコール、5,8−ジメチルトコール、7,8−ジメチルトコール、8−メチルトコール、5,7,8−トリメチルトコトリエノール、5,8−ジメチルトコトリエノール、7,8−ジメチルトコトリエノール、および8−メチルトコトリエノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(D)カップリング剤を含有する、請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(E)フィラーを含有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(F)ゴム成分を含有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分が、樹脂組成物:100質量部に対して、0.01〜10質量部である、請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の樹脂組成物を含む、半導体封止剤。
【請求項8】
請求項7記載の半導体封止剤を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する、半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95883(P2013−95883A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241766(P2011−241766)
【出願日】平成23年11月3日(2011.11.3)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】