説明

樹脂被覆アルミニウム合金板およびそれを用いた缶蓋

【課題】 安定した開口性と耐フェザリング性を有する缶蓋に適用する樹脂被覆アルミニウム合金板、およびそれを用いた缶蓋を提供する。
【解決手段】 アルマイト処理、またはアルマイト処理とシラン処理を施してなるアルミニウム合金板の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆して樹脂被覆アルミニウム合金板とし、これを缶蓋に成形加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆アルミニウム合金板に関し、特に手で開口可能な缶蓋(イージーオプンエンドまたはEOE)に用いる樹脂被覆アルミニウム合金板、およびそれを用いた缶蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のジュース、ビールなどを充填した飲料缶や野菜や魚肉などを充填した食缶には、缶切りなどの開口治具を用いずに手で開口可能なイージーオプンエンドまたはEOEと呼ばれる缶蓋(以下、EOEという)が取り付けられている。これらのEOEはアルミニウム合金などの金属板に塗料を塗布したものが用いられていた。しかし、金属板に塗料を塗布し、焼き付ける際の有機溶媒やヒュームの飛散による環境に与える悪影響などの観点から、塗料の塗布に替えて熱可塑性樹脂を被覆してなる樹脂被覆金属板がEOEとして用いられるようになっている。
【0003】
樹脂被覆アルミニウム合金板を缶用材料に適用した例としては次のようなものがある。例えば特許文献1は、シラン処理、またはアルマイト処理とシラン処理などの表面処理を施したアルミニウム合金板に、ポリエステル樹脂などからなる熱可塑性樹脂を被覆してなる熱可塑性樹脂被覆アルミニウム合金板を開示しており、熱可塑性樹脂として、ポリエチレンやポリプロピレンなども用途により選択して適用することが記載されている。
【0004】
この公報に記載の熱可塑性樹脂被覆アルミニウム合金板は、絞りしごき缶、絞り加工後ストレッチ加工を施した缶、絞り加工後ストレッチ加工を施し、さらにしごき加工を施した缶などの厳しい加工が施され、特に皮膜の加工密着性が要求される用途に適用することを目的としたものであり、缶蓋に適用することを目的としたものではない。そのため、缶蓋に適用した場合の開口性、すなわちV字型のスコア加工部を断裂させて開口させた後に開口端面に樹脂が残る(フェザリング)ことなく開口できる特性に関しては必ずしも良好ではなく、安定した開口性が得られない。
【0005】
特許文献2は、樹脂被覆金属板をEOEとして用いた例であり、ラミネート缶蓋を構成する金属薄板に合成樹脂フィルムを接着した後、合成樹脂フィルム層に多数の微細孔を穿設して破断を容易にすることにより、フェザリングの1種であるエンゼルヘアの発生を防止する方法を開示している。しかし、この方法による缶蓋を缶に用いた場合、缶が高所から落下して変形が生じた場合、微細孔に亀裂が生じて金属板面が大気中に露出し、金属部分が腐食することがある。
【0006】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【特許文献1】国際公開公報WO98/51840号公報
【特許文献2】特開2002−254557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明においては、安定した開口性と耐フェザリング性を有する缶蓋に適用する樹脂被覆アルミニウム合金板、およびそれを用いた缶蓋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板は、アルマイト処理を施してなるアルミニウム合金板の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆してなる樹脂被覆アルミニウム合金板(請求項1)、または
アルマイト処理を施し、次いでシランカップリング剤を塗布乾燥してなるアルミニウム合金板の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆してなる樹脂被覆アルミニウム合金板(請求項2)であり
上記(請求項1または2)の樹脂被覆アルミニウム合金板において、前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、脂環式ポリオレフィン樹脂の上層と、変性ポリオレフィン樹脂の下層とからなる2層樹脂であること(請求項3)、または
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、脂環式ポリオレフィン樹脂と鎖式ポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる上層と、変性ポリオレフィン樹脂の下層とからなる2層樹脂であること(請求項4)、または
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂層が、脂環式ポリオレフィン樹脂の上層と、脂環式ポリオレフィン樹脂と鎖式ポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる中間層と、変性ポリオレフィン樹脂の下層とからなる3層樹脂であること(請求項5)、または
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる上層と、共重合ポリエステル樹脂の下層とからなる2層樹脂であること(請求項6)、または
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、ポリエステル樹脂の上層と、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる下層とからなる2層樹脂であること(請求項7)、または
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、ポリエステル樹脂の上層と、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる中間層と、共重合ポリエステル樹脂の下層とからなる3層樹脂であること(請求項8)を特徴とする。
【0009】
また本発明の缶蓋は、上記(請求項1〜8)の樹脂フィルム被覆アルミニウム合金板を用いた缶蓋(請求項9)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板は、アルマイト処理、またはアルマイト処理後のさらなるシラン処理などの表面処理を施したアルミニウム合金板に、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆したものであり、特に手で開口可能な缶蓋(イージーオプンエンドまたはEOE)に用いた際に開口しやすく、フェザリングを生じにくく、さらに樹脂層の内容物のフレーバーに与える影響が少ない。そのためEOE用の材料として好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、アルマイト処理を施すか、またはアルマイト処理を施した後にさらにシラン処理を施したアルミニウム合金板に、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆してなる樹脂被覆アルミニウム合金板をEOE用の材料として用いることにより、開口性と耐フェザリング性が常時良好な状態で得られるようにしたものである。以下、本発明の内容を説明する。
【0012】
従来、アルミニウム合金やティンフリースチールにポリエステル樹脂を積層被覆してなるポリエステル樹脂被覆金属板をEOE用の材料として用いることが試みられている。ポリエステル樹脂は縦横2軸方向に延伸加工した後、配向した結晶状態を熱固定したフィルムとすることにより、強度、加工性、および液体や気体などの耐透過性などの優れた特性が発現する。金属板に2軸延伸ポリエステルフィルムを積層被覆したポリエステル被覆金属板を缶材として適用する場合、2軸延伸ポリエステルフィルムの熱固定温度以上に加熱した金属板に2軸延伸ポリエステルフィルムを当接して熱圧着する。接着強度を向上させるために、ポリエステルフィルムと金属板の間に接着剤を介在させる場合もある。熱圧着する際に金属板に接する部分の樹脂は配向した結晶状態が崩れて非晶質化し、引張強度が低下し伸びが向上し、加工性が増大する。この非晶質化する部分は金属板の加熱温度が高く、金属板に接している時間が長いほど増大する。そのため、絞り缶や絞りしごき缶などの厳しい加工が施される缶用途にポリエステル被覆金属板を適用する場合は、非晶質化する部分を増大させて加工性を高めることが行われている。
【0013】
一方、ポリエステル被覆金属板をEOEに適用する場合は、金属板に設けたV字型のスコア加工部を断裂させて開口させる際に、金属板と被覆したポリエステルフィルムが共に断裂し、開口端面に樹脂が残ったり、缶蓋のプルタブ以外の部分からポリエステルフィルムが剥離する(フェザリング)ことのない、開口性(フィルムの引裂性)と接着性(耐フェザリング性)を両立することが要求される。このような特性を満足させるためには、ポリエステルフィルムの厚さ、金属板に積層する前の引張強度や伸びなどの物性、すなわち、フィルムの面配向係数、すなわち延伸倍率や熱固定温度などの製膜条件を厳密に管理したフィルムを用い、金属板に積層する際に金属板の温度を一定範囲に保持し、金属板との接触温度や加圧力を厳密に制御するなど、製膜条件を厳しく管理しなくてはならない。しかし、上記の特性を満足する範囲が極めて狭いために、製膜条件を厳しく管理してもEOEに適用可能なポリエステル被覆金属板を高歩留で製造することは極めて困難である。
【0014】
本発明においては、開口性、すなわち樹脂フィルムの引裂性を向上させるために、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を、アルマイト処理を施すかまたはアルマイト処理を施した後にさらにシラン処理を施したアルミニウム合金板に積層被覆することにより、優れた引裂性を有し、フェザリングを生じにくいEOE材料として適用するものである。
【0015】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板に積層被覆するポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂としては、各種のポリオレフィン系樹脂を2層または3層に積層した多層樹脂、またはポリエステル樹脂とそれに非相溶のポリオレフィン樹脂とをブレンドした樹脂と他のポリエステル樹脂を2層または3層に積層した多層樹脂を用いる。前者の多層樹脂としては、金属板との接着性に乏しい脂環式ポリオレフィン樹脂を上層とし、鎖式ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合してなる金属板との接着性に優れる変性ポリオレフィン樹脂を下層フィルムとする2層樹脂、または高価な脂環式ポリオレフィン樹脂に安価な鎖式ポリオレフィン樹脂をブレンドしたブレンド樹脂を上層とし、上記の変性ポリオレフィン樹脂を下層フィルムとする2層樹脂、または上層を脂環式ポリオレフィン樹脂、中間層を上記の脂環式ポリオレフィン樹脂と鎖式ポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂、下層を上記の変性ポリオレフィン樹脂として高価な脂環式ポリオレフィン樹脂の使用量を減少させた3層樹脂のいずれかの構成とすることが好ましい。
【0016】
これらの前者の構成の多層樹脂においては、上層樹脂層として単独で、または上層もしくは中間層のブレンド樹脂として鎖式ポリオレフィン樹脂とともに用いる脂環式ポリオレフィン樹脂として、ノルボルネンおよびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエンおよびこれらのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、シクロペンタジエンの3〜4量体などの1種または2種以上を開環重合法を用いて重合し、得られた開環重合体を水素添加して得られるポリマーを用いることができる。これらの脂環式ポリオレフィン樹脂はガラス転移温度が100℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃未満の脂環式ポリオレフィン樹脂を用いた場合、他の樹脂層とともにフィルムに製膜した場合にフィルムが伸びやすく、アルミニウム合金板に積層被覆してEOEとした場合、開口時にフェザリングが発生しやすくなり好ましくない。
【0017】
下層として用いる変性ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、またはエチレン/プロピレン共重合体をはじめとするエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン同士のランダム共重合体またはブロック共重合体などの鎖式ポリオレフィン樹脂のいずれかに、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸やそれらの無水物を2%以下グラフト重合してなる、いわゆる酸変性ポリオレフィンを用いることができる。
【0018】
上層もしくは中間層のブレンド樹脂として脂環式ポリオレフィン樹脂とともに用いる鎖式ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、またはエチレン/プロピレン共重合体をはじめとするエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン同士のランダム共重合体またはブロック共重合体などの鎖式ポリオレフィン樹脂のいずれかを用いることが好ましい。
【0019】
脂環式ポリオレフィン樹脂と鎖式ポリオレフィン樹脂とのブレンド樹脂は、ブレンド樹脂中において脂環式ポリオレフィン樹脂が10〜90重量%、鎖式ポリオレフィン樹脂が90〜10重量%でブレンドしてなるブレンド樹脂であることが好ましい。このブレンド樹脂において、脂環式ポリオレフィン樹脂が10重量%未満では良好な開口性が得られず、90重量%を超えると鎖式ポリオレフィン樹脂をブレンドするフィルムコスト低減の効果に乏しくなる。また、これらの鎖式ポリオレフィン樹脂に替えてアイオノマー樹脂、または上記の酸変性ポリオレフィン樹脂のいずれかを脂環式ポリオレフィン樹脂にブレンドして用いてもよい。
【0020】
上記の脂環式ポリオレフィン樹脂、ブレンド樹脂、変性ポリオレフィン樹脂のペレットを複数層の樹脂フィルムを押出可能な共押出機を用いて加熱溶解してTダイから押し出し、2層樹脂フィルムまたは3層樹脂フィルムに製膜する。このようにして得られる本発明の2層は3層の樹脂フィルムの厚さは上層と下層の2層フィルム、および上層、中間層、下層の3層フィルムのいずれの場合もトータル厚さで10〜50μmであることが好ましい。トータル厚さが10μm未満であると、アルミニウム合金板に積層被覆して缶蓋として用いた場合に内容物が樹脂フィルムを透過して、被覆素地のアルミニウム合金板を腐食することがある。一方、50μmを超えると開口により大きな力が必要となり、またフェザリングが生じやすくなり好ましくない。またこの10〜50μmのトータル厚さの2層樹脂フィルムまたは3層樹脂フィルムにおいて、下層の変性ポリオレフィン樹脂の厚さはトータル厚さの10〜60%であることが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂の厚さが10%未満であると樹脂フィルムとアルミニウム合金板の接着力が不足し、開口に際してスコア溝で囲まれたプルタブ外の部分で樹脂フィルムが剥離しやすくなる。一方、60%を超えても接着力の向上効果が飽和し、コスト的に有利でなくなる。
【0021】
また上記の各種のポリオレフィン系樹脂からなる2層または3層の樹脂フィルムの破断伸びは200%以下であることが好ましい。破断伸びが200%を超える樹脂フィルムを用いたEOEをこの温度範囲で開口した場合、樹脂フィルムが断裂しにくくフェザリングが生じやすくなる。破断伸びは特に0〜100℃の温度範囲で200%以下であることが好ましい。ジュースや炭酸飲料などの冷やして飲む飲料を充填した缶などは、行楽などに出発する前に0℃以下の温度に冷却して持って行き、目的地で内容物が凍った状態で開口する場合がある。また、汁粉やスープなどの飲料を充填した缶などは、沸騰水中に浸漬して暖めた状態で開口する場合がある。このように、缶蓋は0〜100℃の温度範囲で開口する可能性があるため、この温度範囲でフェザリングの発生を防止するためには、缶蓋用樹脂フィルムの破断伸びは0〜100℃の温度範囲で200%以下であることが好ましい。
【0022】
一方、後者のポリエステル樹脂とそれに非相溶のポリオレフィン樹脂とをブレンドした樹脂と他のポリエステル樹脂を2層または3層に積層した多層樹脂としては、上層がポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂、下層がポリエステル樹脂の2層樹脂、または上層がポリエステル樹脂、下層がポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂の2層樹脂、もしくは上層がポリエステル樹脂、中間層がポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂、下層がポリエステル樹脂の3層樹脂のいずれかの構成であることが好ましい。これらの2層または3層の樹脂に用いるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂は、70〜95重量%のポリエステル樹脂に30〜5重量%のポリオレフィン樹脂をブレンドしてなるものが好ましい。ポリオレフィン樹脂のブレンド量が5重量%未満では十分な引裂性が得られない。一方、30重量%を超えてブレンドすると樹脂フィルムの引張強度が著しく低下するので好ましくない。
【0023】
2層樹脂および3層樹脂のブレンド樹脂として用いるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのホモポリマーや、これらのホモポリマーを構成する多塩基酸や多価アルコールの一部を他の多塩基酸や多価アルコールで置換してなる共重合ポリエステル樹脂を用いることができるが、安価であることや製膜しやすさの観点からポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては安価で汎用に用いられているポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体のいずれかを用いることが好ましい。
【0024】
3層樹脂の上層として用いるポリエステル樹脂としては、ブレンド樹脂に用いるポリエステル樹脂と同様のポリエステル樹脂を適用できるが、フレーバー性に優れていること、安価であること、製膜しやすさの観点からポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。
【0025】
2層樹脂の上層または下層として、および3層樹脂における下層として用いるポリエステル樹脂としては、上記のポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのホモポリマーや、これらのホモポリマーを構成する多塩基酸や多価アルコールの一部を他の多塩基酸や多価アルコールで置換してなる共重合ポリエステル樹脂を適用できるが、比較的安価で汎用に用いられまたフレーバー性に優れるエチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体を用いることが好ましい。この共重合ポリエステル樹脂は、接着性の観点から75〜90モル%のエチレンテレフタレートと25〜10モル%のエチレンイソフタレートからなることが好ましい。
【0026】
これらのポリエステル樹脂には引裂性を向上させるために無機質粒子を含有させてもよい。無機質粒子としては平均粒径が0.2〜5.0μmの酸化珪素または酸化チタンであることが好ましい。平均粒径が0.2μm未満であると樹脂中に多量に含有させないと引裂性が向上せず、樹脂中に多量含有させると樹脂のアルミニウム合金板に対する接着性が劣化する。平均粒径が5.0μmを超えるとリベット加工性や凸部形成の加工性が低下し、好ましくない。これらの無機質粒子は、引裂性の観点から微細粒子の場合は多量に含有させ、粗大粒子の場合は少量含有させることが好ましい。そのため、平均粒子径と含有量を掛け合わせた積である下記の式を満足するように無機質粒子をポリエステル樹脂に含有させることが好ましい。
3≦含有量(重量%)×平均粒径(μm)≦10
含有量(重量%)×平均粒径(μm)の値が3未満または10を超える場合は良好な引裂性が得られない。
【0027】
このようにして得られる無機質粒子を含有するポリエステル樹脂は、単層の樹脂フィルムの状態における破断伸びが250%以下であることが好ましい。破断伸びが250%を超えると千切れにくくなり、良好な引裂性が得られない。
【0028】
上記のポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂と選択的に無機質粒子を含有するポリエステル樹脂のペレット、または上記のポリエステル樹脂、ブレンド樹脂、および選択的に無機質粒子を含有するポリエステル樹脂のペレットを、複数層の樹脂フィルムを押出可能な共押出機を用いて加熱溶解してTダイから押し出し、2層樹脂フィルムまたは3層樹脂フィルムに製膜する。このようにして得られる2層樹脂フィルムの厚さは全厚さが10〜50μm、ブレンド樹脂の厚さが7〜40μm、選択的に無機質粒子を含有するポリエステル樹脂の厚さが3〜10μmであることが好ましい。全厚さが10μm未満であると、アルミニウム合金板に積層被覆して缶蓋とした場合に内容物が樹脂フィルムを透過して、被覆素地のアルミニウム合金板を腐食することがある。一方、50μmを超えると開口により大きな力が必要となり、またフェザリングが生じやすくなり好ましくない。またこの10〜50μmの全厚さの2層樹脂フィルムにおいて、上層の樹脂の厚さが7μm未満、下層の選択的に無機質粒子を含有するポリエステル樹脂の厚さが3μm未満であると良好な引裂性が得られない。またポリエステル樹脂として共重合ポリエステル樹脂を用いた場合、高価であるので10μmの厚さを上限とする。
【0029】
また3層樹脂フィルムの厚さは、全厚さを2層樹脂フィルムにおける場合と同様の理由で10〜50μmとし、フレーバー性を向上させるために設ける上層のポリエステル樹脂の厚さは1〜10μmであることが好適である。その結果、2層樹脂フィルムにおける場合と同様の理由でブレンド樹脂の厚さを6〜30μm、選択的に無機質粒子を含有するポリエステル樹脂の厚さを3〜10μmとすることが好ましい。
【0030】
上記のポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆する基板としては、密着性に優れていることが必要であり、表面にアルマイト処理を施したアルミニウム合金板、またはアルマイト処理を施し、次いでシランカップリング剤を塗布乾燥してなるアルミニウム合金板を用いることが好ましい。
【0031】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記のポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を上記のアルミニウム合金板からなる基板の少なくとも片面に積層被覆することにより得られる。多層樹脂が各種のポリオレフィン系樹脂を2層または3層に積層した多層樹脂である場合は、2層または3層の下層である変性ポリオレフィン樹脂がアルミニウム合金板からなる基板に接するようにして、また多層樹脂がポリエステル樹脂とそれに非相溶のポリオレフィン樹脂とをブレンドした樹脂と他のポリエステル樹脂を2層または3層に積層した多層樹脂である場合は、2層または3層の下層であるポリエステル樹脂、または2層の下層であるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂からなるブレンド樹脂がアルミニウム合金板からなる基板に接するようにして、公知の熱接着法を用いて接着する。接着強度を高めるためにアルミニウム合金板と多層樹脂の間に接着剤を介して熱接着してもよい。また、前記した多層樹脂の製造において、共押出機でそれぞれの樹脂ペレットを加熱溶融してTダイから共押出する際に、アルミニウム合金板上に直接押し出して積層被覆してもよい。
【0032】
本発明の缶蓋は、上記のようにして得られる樹脂被覆アルミニウム合金板を円板状のブランクに打ち抜き、その片面に、またはアルミニウム合金板の片面のみに樹脂を被覆したアルミニウム合金板の場合は樹脂フィルムを被覆していない側の面にスコア溝を刻設することによって得られる。以下、実施例にて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
(多層樹脂の作成)
各種のポリオレフィン系樹脂からなる多層樹脂は、脂環式ポリオレフィン樹脂としてガラス転移温度が100℃であるノルボルネン(表1中でNRaで表示)、ガラス転移温度が135℃であるノルボルネン(表1中でNRbで表示)、鎖式ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン(表1中でPEで表示)、酸変性ポリオレフィン樹脂としてマレイン酸無水物を0.5重量%グラフト重合してなる変性ポリエチレン樹脂(表1中でMPEで表示)、アクリル酸を0.7重量%グラフト重合してなる変性ポリエチレン樹脂(表1中でAPEで表示)、アイオノマー(表1中でIOMで表示)を用い、押出法により表1に示す樹脂組成、層構成、および厚さを有する2層または3層の無延伸の樹脂フィルム(樹脂番号:a〜i)を作成した。また、比較用にポリエステル樹脂フィルム(上層が厚さ15μmのエチレンテレフタレート(95モル%)・エチレンイソフタレート(5モル%)共重合体(表1中でET(95)・EI(5)で表示)、下層が厚さ5μmのエチレンテレフタレート(85モル%)・エチレンイソフタレート(15モル%)共重合体(表1中でET(85)・EI(15)で表示)の2層フィルム、)の2軸延伸フィルム(樹脂番号:j、面配向係数:0.145)も作成した。ポリエステル樹脂フィルムの面配向係数はアッベイの屈折計を用いて測定した平面方向(縦方向、横方向)および厚さ方向の屈折率より算出した。これらの製膜した樹脂フィルムの伸びはテンンシロンで測定した。
【0034】
ポリエステル樹脂とそれに非相溶のポリオレフィン樹脂とをブレンドした樹脂と他のポリエステル樹脂を2層または3層に積層した多層樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(表2、3中でPETで表示)、ポリエチレン(表2、3中でPEで表示)、ポリプロピレン(表2、3中でPPで表示)、60モル%のエチレンと40モル%のプロピレンからなるエチレン・プロピレン共重合体(表2、3中でE・Pで表示)、酸化珪素を含有する85モル%のエチレンテレフタレートと15モル%のエチレンイソフタレートからなるエチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体(表2、3中でET・EIで表示)、または酸化チタンを含有する85モル%のエチレンテレフタレートと15モル%のエチレンイソフタレートからなるエチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体(表2、3中でET(85)・EI(15)で表示)のそれぞれのペレットを用いて、押出法により表2および表3に示す樹脂組成、層構成、および厚さを有する2層または3層の無延伸の樹脂フィルム(樹脂番号:k〜y)を作成した。また、比較用にこれらの樹脂フィルムの上層または下層として用いる酸化珪素または酸化チタンを含有する85モル%のエチレンテレフタレートと15モル%のエチレンイソフタレートからなるエチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体(表3中でET(85)・EI(15)で表示)の単層フィルム(樹脂番号:z)も押出法により作成した。これらの製膜した樹脂フィルムの伸びはテンンシロンで測定した。
【0035】
(アルミニウム合金板の処理)
上記のようにして製膜した多層樹脂を被覆する基板として、アルミニウム合金板(JIS:5182、厚さ:0.30mm)に下記の条件でアルマイト処理を施した。
[脱脂処理]
80℃に加熱した市販の脱脂剤(EC370、日本ペイント(株)製)の1%溶液中に20秒間浸漬した後、水洗し乾燥した。
[アルカリ処理]
50℃に加熱した10%水酸化ナトリウム水溶液中に15秒間浸漬した後、水洗し乾燥した。
[酸洗処理]
室温の7%硫酸中に5秒間浸漬した後、水洗し乾燥した。
[アルマイト処理]
上記のようにして脱脂処理、アルカリ処理、酸洗処理を施したアルミニウム合金板を陽極として、40〜50℃に加熱した15%の硫酸水溶液中で、10A/dmの電流密度で5秒間電解し、アルミニウム合金板にアルマイト処理を施し、表1〜3にAで示す多層樹脂被覆基板とした。
[シラン処理]
上記のようにしてアルマイト処理を施したアルミニウム合金板に、さらに下記の条件でシラン処理を施した。すなわち、シランカップリング剤(KBN903、信越化学(株)製)を水/エタノールを2/1に混合した溶液に5%の濃度で希釈し、30℃に加熱した溶液中に5秒間浸漬して塗布乾燥し、表1〜3にBで示す多層樹脂被覆基板とした。
【0036】
(樹脂被覆アルミニウム合金板の作成)
次いで、これらの多層樹脂被覆基板AまたはBの片面に、表1〜3に示す多層樹脂フィルムを熱接着法を用いて積層被覆し、表1〜3に示す樹脂被覆アルミニウム合金板(試料番号:1〜27)を作成した。比較用のポリエステル樹脂フィルムを積層被覆したアルミニウム合金板は、熱接着条件を変えて、配向をやや低下させたもの(試料番号:10)を作成した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
このようにして得られた表1〜3に示す試料番号:1〜26の樹脂被覆アルミニウム合金板から円板状のブランクを打ち抜き、樹脂フィルムを被覆していない面にスコア残厚が50μmとなるようにしてスコア溝を刻設し、プルタブリングを取り付けてEOE缶蓋を作成した。EOE缶蓋を各試料板から500個作成して開口し、開口端部の樹脂の残存状態を肉眼観察し、以下の基準で耐フェザリング性を評価した。
◎:500個全てにおいて樹脂の残存は認められない。
○:500個のうち2個未満でわずかな樹脂の残存が認められる。
△:500個のうち2個以上5個未満で樹脂の残存が認められる。
×:500個のうち5個以上で樹脂の残存が認められる。
評価結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表4に示すように、本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板から作成した缶蓋においては、優れた耐フェザリング性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板をEOEとして缶蓋に用いた場合、フェザリングを生じることなく安定して開口することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルマイト処理を施してなるアルミニウム合金板の少なくとも片面に、ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂を被覆してなる樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項2】
アルマイト処理を施し、次いでシランカップリング剤を塗布乾燥してなるアルミニウム合金板の少なくとも片面に、ポリオレフィンを含む多層樹脂を被覆してなる樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、脂環式ポリオレフィン樹脂の上層と、変性ポリオレフィン樹脂の下層とからなる2層樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、脂環式ポリオレフィン樹脂と鎖式ポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる上層と、変性ポリオレフィン樹脂の下層とからなる2層樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、脂環式ポリオレフィン樹脂の上層と、脂環式ポリオレフィン樹脂と鎖式ポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる中間層と、変性ポリオレフィン樹脂の下層とからなる3層樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる上層と、共重合ポリエステル樹脂の下層とからなる2層樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項7】
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、ポリエステル樹脂の上層と、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる下層とからなる2層樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂を含む多層樹脂が、ポリエステル樹脂の上層と、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂のブレンド樹脂からなる中間層と、共重合ポリエステル樹脂の下層とからなる3層樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂被覆アルミニウム合金板を用いてなる缶蓋。

【公開番号】特開2006−35508(P2006−35508A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215890(P2004−215890)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】