説明

樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法

【課題】 樹脂フィルムの密着性に優れた表面形態を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板は、Siを0.1〜0.5質量%、Feを0.2〜0.7質量%、Mnを0.5〜1.5質量%、Mgを0.5〜2.0質量%、およびCuを0.1〜0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金板であって、アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaを0.30〜0.55μm、アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAを0.2〜0.8μm、最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度を70個/mm2以下、アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚を25nm以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料缶等の包装容器用素材として用いられる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の飲料缶等の包装容器用素材としては、成形性、耐食性および強度等の面から、アルミニウム合金板が幅広く適用されている。
そして、このようなアルミニウム合金板に絞り加工やしごき加工(以下、「DI(Drawing and Ironing)加工」という)等を施して形成された包装容器用アルミニウム缶のニーズが増大しており、種々の形状を有するアルミニウム缶が研究、開発されている。
【0003】
前記の包装容器用アルミニウム缶の代表的なものとしては、図1に示すようなネジ付きの開口部14を有するボトル缶11(キャップは省略)と、図2に示すような缶胴22および缶蓋(不図示)からなるDI缶21があり、これらは何れもDI加工が施されたものである。
【0004】
このような包装容器用アルミニウム缶に使用されるアルミニウム合金板としては、所望の特性が得られるように成分調整が行われたJIS H 4000に規定される3004合金(Al−Mn系アルミニウム合金)などが多く用いられ、これを、鋳造処理、均質化熱処理、熱間圧延処理、冷間圧延処理、必要に応じて焼鈍処理を行った後に、最終冷間圧延を行うことによって、所定の板厚を有するアルミニウム合金板を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そして、これら包装容器用アルミニウム缶の内表面には、アルミニウム合金板から充填物中へのアルミニウム等の溶出を防止するため、例えば、エポキシ・フェノール、エポキシ・尿素、ビニルオルガノゾル等の溶剤系或いはアクリル変性エポキシ樹脂を含む塗膜用水性塗料を用いてスプレー塗装が施され、その後オーブンで塗装焼け付きを行うことにより、3乃至5μm厚さ程度の塗膜が形成されている。
【0006】
しかし、最近では以下のような理由により、従来の塗装による塗膜に代わってPET(polyethylene terephthalate)等の樹脂フィルムをラミネートしたアルミニウム合金板が使われるようになっている。
(1)従来の塗膜には、環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)の疑いのあるビスフェノールA等が含まれるため、これが充填物中に溶け出す虞がある。
(2)DI加工時には、成形時の潤滑性を高めるためプレス油(潤滑油)が使われるが、これを取り除くために脱脂設備や排水処理設備等が必要となり、これらを維持管理するためには莫大な費用を要する。
【0007】
これに対し、PET等の樹脂フィルムをアルミニウム合金板にラミネートする場合には、樹脂フィルムから環境ホルモンの疑いのある物質が溶け出す心配もなく安全である。
また、成形時に使用する潤滑油は熱処理により揮発させるため、脱脂設備や排水処理設備が不要となるので、維持管理のための費用も不要となる。
【0008】
なお、このような樹脂フィルムをアルミニウム合金板にラミネートした場合、このままの状態では密着性が不十分であり、絞り加工やしごき加工などの成形加工を行うと、前記樹脂フィルムが剥離してしまうことがあった。そこで、前記のような成形加工を行った場合であっても樹脂フィルムが剥離しないよう、密着性を高めることを目的として、アルミニウム合金板に樹脂フィルムをラミネートした後に、そのフィルムの融点以上の温度で熱処理(リメルト処理)を行うこととしている。
【特許文献1】特公昭61−7465号公報(第2頁右欄第23行〜第4頁左欄第28行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、樹脂フィルムをラミネートしたアルミニウム合金板を用いてリメルト処理を行うと、従来のPET等の樹脂フィルムラミネートしたアルミニウム合金板では、その表面に部分的な膨れが発生するといった問題や、樹脂フィルムをラミネートしたアルミニウム合金板を用いてDI加工すると樹脂フィルムが剥離するといった問題があった。
【0010】
本発明者らは、このような問題に対し原因追及のため検討を重ねた結果、前記問題はアルミニウム合金板と樹脂フィルムの密着性が不十分なため生じたものであり、ラミネート後のリメルト処理によって、アルミニウム合金板と樹脂フィルムとの間に微小な気泡が生成され、アルミニウム合金板と樹脂フィルムの密着領域(接触面積)が減少したことにより発生したことが明らかとなった。
【0011】
なお、DI加工におけるしごき率(%)は、「しごき率(%)={(元板の板厚−しごき後の板厚)/(元板の板厚)}×100」で求めることができ、例えば、元板の板厚が0.32mmであって、しごき後の板厚が0.125mmである通常の2ピースボトル缶やDI缶におけるしごき率はおよそ60%程度と非常に大きいものとなる。
このような状況下では、アルミニウム合金板が引き延ばされると同時に樹脂フィルムも引き延ばされて剥離し易くなるので、アルミニウム合金板と樹脂フィルムの密着性を向上させることは非常に重要な課題であるといえる。
【0012】
本発明は前記課題に鑑みて創案されたものであり、その目的は、リメルト処理した後にしごき率の大きな加工を受けた場合であっても、アルミニウム合金板から樹脂フィルムが剥離しない、樹脂フィルムの密着性に優れた表面形態を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、アルミニウム合金の組成と、アルミニウム合金板の板表面の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaや、圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAを規制し、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度と酸化皮膜の平均膜厚を規制することにより、樹脂フィルムとの密着性を向上できるアルミニウム合金板の表面形態を見出し、本発明を完成させるに至った。
また、本発明者らは、かかるアルミニウム合金板の製造方法において、熱間圧延を開始するときの温度条件、および最終冷間圧延で用いる圧延用ワークロール胴部表面のロール軸方向での算術平均粗さRaを特定の範囲に規制すると好適に樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、請求項1に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板は、Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金板であって、前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaが0.30乃至0.55μm、前記アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAが0.2乃至0.8μm、最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度が70個/mm2以下、前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚が25nm以下であることを特徴とする。
【0015】
このように、請求項1に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板は、アルミニウム合金の組成を適切な範囲に規制しているので、しごき成形性や座屈強度といった、缶としての要求特性を満たすことができる。また、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板は、算術平均粗さRaやろ波中心線うねりWCAを適切に規制するとともに、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度と酸化皮膜の平均膜厚を適切に規制しているので、樹脂フィルムを留める高いアンカー効果を得ることができる結果、樹脂フィルムが剥離し難く、樹脂フィルムの密着性に優れたものとすることができる。
【0016】
また、請求項2に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する第一工程、第一工程後に均質化熱処理する第二工程、第二工程後に熱間圧延する第三工程、及び第三工程後に冷間圧延する第四工程、を順に行うことで樹脂被覆包装容器用のアルミニウム合金板を製造する方法であって、前記第三工程の熱間圧延の開始温度を450乃至550℃の温度条件下で行い、かつ、前記第四工程の冷間圧延における最終冷間圧延を、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaが0.4乃至0.8μmである圧延用ワークロールを用いて行うことを特徴とする。
【0017】
このように、請求項2に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法は、第一工程で所定の組成を有するアルミニウム合金を溶解して鋳造することで、当該所定の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を得ることができる。次に、第二工程でこのアルミニウム合金の鋳塊を均質化熱処理することによって金属組織内の成分の均質化を行うとともに、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物の大きさや個数密度の制御を行う。そして、第三工程で450〜550℃の開始温度で熱間圧延を行うことで酸化皮膜の膜厚を適切な範囲に制御し、次の第四工程で冷間圧延を行う。この場合において、冷間圧延における最終冷間圧延を、ロール軸方向における所定の算術平均粗さRaを有する圧延用ワークロールを用いて行うことで、アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向の算術平均粗さRa、およびアルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAを所望の範囲に制御したアルミニウム合金板を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、しごき率の大きな加工を受けても樹脂フィルムを留める高いアンカー効果を得ることができる結果、樹脂フィルムが剥離し難く、樹脂フィルムの密着性に優れた表面形態を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を提供することができる。
また、本発明によれば、樹脂フィルムの密着性に優れた表面形態を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、本発明はこの実施の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変更・改変することが可能である。
【0020】
[1.樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板]
本発明者らは、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板として樹脂フィルムの剥離の難易およびERVに注目し、これらとアルミニウム合金板の特性や成分について種々実験研究した。
その結果、アルミニウム合金板の組成を、Si:0.1乃至0.5質量%、Fe:0.2乃至0.7質量%、Mn:0.5乃至1.5質量%、Mg:0.5乃至2.0質量%、およびCu:0.1乃至0.4質量%、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金となるよう規制し、かかるアルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaを0.30乃至0.55μm、アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAを0.2乃至0.8μm、最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度を70個/mm2以下、アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚を25nm以下に規制することで、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板として必要な強度(座屈強度)や成形性(しごき成形性)を有し、かつ、樹脂フィルムを留める高いアンカー効果を得ることができた。
以下に、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の各種成分の含有量を限定した理由および板材としての性状を特定した理由について説明する。
【0021】
(Si:0.1乃至0.5質量%)
Siは、均質化熱処理においてAl−Mn−Fe系の金属間化合物と結び付き、高硬度なAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物を形成する。Siの含有量が0.1質量%未満であると、樹脂フィルムとの密着性向上に必要である、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の形成が充分ではなく、樹脂フィルムとの密着性が不足する。一方、Siの含有量が0.5質量%を超えると、材料強度或いは再結晶挙動に影響を及ぼし、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物の個数密度が多くなりすぎ、また、成形性も悪化する。したがって、本発明におけるSiの含有量は0.1乃至0.5質量%とする。
【0022】
(Fe:0.2乃至0.7質量%)
Feは、Mnと同じくAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物を形成する。Feの含有量が0.2質量%未満であると、樹脂フィルムとの密着性向上に必要である、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の形成が充分ではなく、樹脂フィルムとの密着性が不足する。一方、Feの含有量が0.7質量%を超えると、最大長が20μmを超えるような巨大なAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物が多数生成し、成形性を悪化させる。したがって、本発明におけるFeの含有量は0.2乃至0.7質量%とする。
【0023】
(Mn:0.5乃至1.5質量%)
Mnは、材料強度に寄与すると共に、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物を形成し、樹脂フィルムとの密着性向上に寄与する元素である。Mnの含有量が0.5質量%未満であると最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の形成が充分ではなく、樹脂フィルムとの密着性が不足するとともに強度も不足する。一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると強度が高まり、成形性が悪化する。したがって、本発明におけるMnの含有量は0.5乃至1.5質量%とする。
【0024】
(Mg:0.5乃至2.0質量%)
Mgは、前記のCuと同じく材料強度に寄与する元素である。Mgの含有量が0.5質量%未満であると、必要とする強度が得られ難い。一方、Mgの含有量が2.0質量%を超えると加工硬化が大きくなり、成形性が低下する。したがって、本発明におけるMgの含有量は0.5乃至2.0質量%とする。
【0025】
(Cu:0.1乃至0.4質量%)
Cuは、材料強度に寄与する元素である。また、均質化熱処理後によって、Cuはアルミニウム合金中に固溶した状態となる。このため、樹脂フィルムをラミネートした後のリメルト処理工程で析出硬化性が付与される。この場合、Cuの含有量が0.1質量%未満であると充分な材料強度を得ることができない。一方、Cuの含有量が0.4質量%を超えると強度が高くなりすぎ、成形性が低下する。したがって、本発明におけるCuの含有量は0.1乃至0.4質量%とする。
【0026】
(不可避的不純物)
本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板においては、不可避的不純物として例えば、Cr:0.1質量%以下、Zn:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.1質量%以下、B:0.1質量%以下に制限してこれらを含有することは、本発明の効果を妨げるものではないので、このような不可避的不純物の含有は許容される。
【0027】
(アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRa:0.30乃至0.55μm)
通常の圧延では、圧延方向に平行な方向にアルミニウム合金板の表面に圧延目が形成される。このため、本発明では、この圧延目に直角な方向での表面粗さRaを規定している。
本発明においては、アルミニウム合金板の表面における圧延方向に直角な方向に測定した算術平均粗さRaが0.30μm未満であると、アルミニウム合金板の表面に形成された微小な凹凸に樹脂フィルムが入り込んで固定する効果、いわゆるアンカー効果が低く、高しごき率下において樹脂フィルムの密着性を確保できない。
一方、算術平均粗さRaが0.55μmを超えると、ラミネート時にアルミニウム合金板と樹脂フィルムの間に気泡が生じ易くなる。このようにして生じた気泡は、リメルト処理の熱によって膨張し、アルミニウム合金板と樹脂フィルムにおける密着領域(接触面積)が減少してしまい、樹脂フィルムの密着性が大幅に低下することとなる。
したがって、本発明におけるアルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向に測定した算術平均粗さRaは0.30乃至0.55μmとする。
【0028】
(アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCA:0.2乃至0.8μm)
圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAは、前記したアルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaと比較して、より長波長のうねり成分である。このため、アルミニウム合金板表面上の凹凸による樹脂フィルムを固定するアンカー効果は、前記したアルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaより高いものとなる。
本発明においては、アルミニウム合金板の表面における圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAが0.2μm未満であると、アルミニウム合金板の表面凹凸が小さくなるので、かかるアンカー効果を得ることができない。
一方、ろ波中心線うねりWCAが0.8μmを超えた状態では、前記と同様に、ラミネート時にアルミニウム合金板と樹脂フィルムの間に気泡が生じ易くなるので、樹脂フィルムの密着性が低下する。
したがって、本発明におけるアルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向に測定したろ波中心線うねりWCAは0.2乃至0.8μmとする。
このように、アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向でのアンカー効果と圧延方向に平行な方向でのアンカー効果を適切に制御することによって、部分的な樹脂フィルムの膨れの発生防止や、高しごき率下における樹脂フィルムの剥離を防止することができる。したがって、前記算術平均粗さRaおよびろ波中心線うねりWCAを同時に満足する必要がある。
【0029】
(最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度:70個/mm2以下)
樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に含まれるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物は、硬度が非常に高く、ラミネートされた樹脂フィルムを強固に固定する役割を担う。
この場合、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の個数密度が70個/mm2を超えると、DI加工後、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物周辺で樹脂フィルムとアルミニウム合金板の間に微小間隙が多数形成され、樹脂フィルムの密着性が低下する。
したがって、本発明における最大長10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の個数密度は70個/mm2以下とする。
なお、均質化熱処理を行う際に行う鋳塊の面削量を多くすると、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物の大きさや単位面積当たりの個数密度を減らすことができるので、他の製造条件(コスト等)を勘案した上で適宜に面削量を設定するとよい。
【0030】
(アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚が25nm以下)
本発明においては、アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜は、主にAl23で構成される。
この場合、酸化皮膜の平均膜厚が25nmを超えると、例えば、耐食性皮膜として一般的なリン酸クロメート皮膜を形成させた後にも、アルミニウム合金板とリン酸クロメート皮膜との間に脆い酸化皮膜が残存することとなり、高しごき率で成形した場合において、樹脂フィルムが剥離し易くなる。
したがって、本発明におけるアルミニウム合金板表面に形成された酸化皮膜の平均膜厚は25nm以下とする。
なお、後記するように酸化皮膜の膜厚は、熱間圧延の開始温度を高くすることで厚くすることができ、熱間圧延の開始温度を低くすることで薄くすることができる。
【0031】
[2.樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法]
また、本発明者らは、DI加工によっても樹脂フィルムが剥離しない樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法における製造条件に着目して種々実験研究を行った。
その結果、前記所定の組成、すなわち、Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有するよう規制し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製した後に、この鋳塊を均質化熱処理し、開始温度条件を450乃至550℃とする熱間圧延を行う。そして、その後の冷間圧延における最終冷間圧延を、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaが0.4乃至0.8μmである圧延用ワークロールを用いて行うことで、本発明が所望するところの樹脂被覆包装容器用のアルミニウム合金板を製造することができることを見出した。
以下、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法において、熱間圧延の開始温度および圧延用ワークロール胴部表面のロール軸方向での算術平均粗さRaを規制した理由について説明する。
【0032】
(熱間圧延の開始温度:450乃至550℃)
熱間圧延の開始温度を調節することで樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の表面に形成する酸化皮膜の膜厚の調節を行う。
熱間圧延の開始温度が450℃未満であると、圧延荷重が過大となり、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を製作することが困難となる。
一方、熱間圧延の開始温度が550℃を超えると、形成される酸化皮膜の成長が大きくなりすぎる。
したがって、本発明における熱間圧延の開始温度は450乃至550℃とする。
【0033】
(最終冷間圧延で用いる圧延用ワークロールのロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRa:0.4乃至0.8μm)
このワークロール胴部表面の算術平均粗さRaは、圧延されるアルミニウム合金板の算術平均粗さRaおよびろ波中心線うねりWCAに大きな影響を与えるものである。本発明者らが行った実験の結果、この圧延用ワークロールのロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaを0.4乃至0.8μmに規制することで圧延されたアルミニウム合金板の算術平均粗さRaおよびろ波中心線うねりWCAが本発明で規制した範囲に制御できることが分かった。
最終冷間圧延における圧延用ワークロールのロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaが0.4μm未満の場合、得られたアルミニウム合金板の表面は鏡面に近い状態となってしまうので、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が所望する算術平均粗さRa、および、ろ波中心線うねりWCAを得ることができない。
一方、圧延用ワークロールのロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaが0.8μmを超えると、アルミニウム合金板の表面が粗面化するので、ラミネート時にアルミニウム合金板と樹脂フィルムの間に気泡が生じ易くなり、結果として、樹脂フィルムの密着性を低下させ、本発明で所望するところの樹脂フィルムの密着性を確保できなくなる。また、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が所望する算術平均粗さRa、および、ろ波中心線うねりWCAを得ることができない。
したがって、最終冷間圧延における圧延ロールの算術平均粗さRaは0.4乃至0.8μmとする。
【0034】
以上説明した本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板は、図1に示すような従来の一例の2ピースボトル缶11や、図2に示すような従来の一例のDI缶21等に好適に用いることができるとともに、従来の種々のアルミニウム合金板のラミネート材(不図示)にも好適な素材である。
【0035】
なお、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を図1に示す従来の一般的なボトル缶11に適用する場合には、PET樹脂などをラミネートした本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に対してカッピング加工やDI成形等の缶体成形を施して胴体部12を形成し、続いてこの胴体部12にネッキング加工を施してネック部13を形成し、胴体部12とネック部13と底部とをDI成形により一体的に成形加工することによって好適に製造することができる。
【0036】
なお、この2ピースボトル缶11には、胴体部12と当該胴体部12の所定部分にネック部13が形成され、このネック部13のエンド部には開口部14が形成されている。また、この開口部14の近傍の外周にはスクリューキャップ取り付け用のネジ切り加工が施されてネジ部15が設けられている。そして、この開口部14と対抗する部分の底部が胴体部12と連続して構成されている。
【0037】
また、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を図2に示す従来の一般的なDI缶21に適用する場合には、PET樹脂などをラミネートした本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に対してカッピング加工やDI成形等の缶体成形を施して胴体部22を形成し、続いてこの胴体部22にネッキング加工を施してネック部23を形成し、引き続いてこのネック部23のエンド部に開口部24を形成するとともにこの開口部24の口径が胴体部22の径に比べて小さくなるように加工することによって好適に製造することができる。
【0038】
そして、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を従来の一般的なラミネート材に適用する場合には、従来公知のラミネート材に適用されている各種のフィルムを、接着剤等を介して貼り合せた後、そのフィルムの融点以上で熱処理(通常230〜270℃程度)が施される工程等を経て、ラミネート材を作製することができる。
【実施例】
【0039】
[実施例A]
以下、本発明に係る樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の発明例を、本発明の必要条件を満たさない比較例と対比させて具体的に説明する。
まず、表1に示すような組成からなるアルミニウム合金の鋳塊を用いて同一の製造条件、すなわち、鋳造処理、均質化熱処理、および熱間圧延処理(開始温度:540℃)の順で各処理を行った後、冷間圧延処理(最終冷間圧延)を行い、0.32mm(圧延率85%)の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を得た。なお、この冷間圧延処理においては、鋳鍛鋼製圧延用ワークロール(ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRa:0.54μm)を使用して、本発明の必要条件を満たす発明例No.1〜6の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板と、本発明の必要条件を満たさない比較例No.1〜10の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板をそれぞれ製造した。
なお、表1中の下線は本発明で規制する数値範囲を満たしていないことを示す。
【0040】
【表1】

【0041】
そして、かかる組成と前記した製造方法によって製造した樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板における最大長10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度(表2において、「金属間化合物の個数密度」と表記する。)、酸化皮膜の平均膜厚、算術平均粗さRa、および、ろ波中心線うねりWCAの各特性値を以下の評価方法により求めた。
【0042】
(Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物のサイズおよび単位面積当たりの個数密度の測定)
Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物のサイズおよび単位面積当たりの個数密度の測定は、次の手順で行った。
(1)発明例No.1〜6および比較例No.1〜10の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の表層を、機械研磨により5μm除去して鏡面とした。
(2)樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の表面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM−T330)の成分画像にて、倍率500倍で観察し、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物を抽出し、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物の分布を表すイメージマップを作成した。
(3)これに画像解析処理(高速画像処理装置、東芝製、TOSPIX−II)を施した組織写真を用いて、前記画像を20視野測定し、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物の最大部の長さ(最大長)および単位面積当たりの数を統計的にカウントし、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の個数密度を求めた。
【0043】
(酸化皮膜の平均膜厚)
酸化皮膜の平均膜厚の測定は、前記各アルミニウム合金板に対して、オージェ電子分析装置(VG SCIENTIFIC社製、型式310D)を用いて、アルミニウム合金板の表面から深さ方向の酸素濃度を測定し、相対的な酸素濃度が20%になる深さを測定し、その深さを酸化皮膜の厚さとみなした。これを、各アルミニウム合金板に対して場所を変えて5箇所で行い、平均したものを酸化皮膜の平均膜厚とした。
【0044】
(算術平均粗さRa
表面粗さの測定は、前記各アルミニウム合金板に対して、表面粗さ測定機(小坂研究所製、サーフコーダSE−30D)を用いて、圧延方向に直角な方向に走査し、算術平均粗さRa(JIS B 0601−1994)を求めることで行った。
なお、算術平均粗さRaの測定は、触針径=2μm、規準長さ=8.00mm、走査速度=0.5mm/秒、カットオフ値λc=0.8mmの条件で行った。
【0045】
(ろ波中心線うねりWCA
ろ波中心線うねり(JIS B 0610−1987)の測定は、前記各アルミニウム合金板に対して、表面粗さ測定機(小坂研究所製、サーフコーダSE−30D)を用いて、圧延方向に平行な方向に走査することで行った。
なお、ろ波中心線うねりWCAの測定は、触針径=2μm、規準長さ=8.00mm、走査速度=0.5mm/秒、低域カットオフ値fh=0.8mm、高域カットオフ値fl=8mmの条件で行った。
このようにして求めた各特性値の結果を表2に示す。なお、表2中の下線は本発明で規制する数値範囲を満たしていないことを示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表1および表2から分かるように、発明例No.1〜6は、本発明で規定する必要条件を満たすものであり、比較例No.1〜10は本発明で規定する必要条件を満たさないものである。
すなわち、比較例No.1および比較例No.2はSiの含有量に関して、それぞれ本発明で規定する数値範囲の下限値または上限値から外れているものである。特に、比較例No.2は最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度も本発明で規制する数値範囲の上限値から外れているものである。
【0048】
また、比較例No.3および比較例No.4は、Feの含有量に関して、それぞれ本発明で規定する数値範囲の下限値または上限値から外れているものである。特に、比較例No.4は最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度も本発明で規制する数値範囲の上限値から外れているものである。
【0049】
また、比較例No.5および比較例No.6は、Mnの含有量に関して、それぞれ本発明で規定する数値範囲の下限値または上限値から外れているものである。特に、比較例No.6は最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度も本発明で規制する数値範囲の上限値から外れているものである。
【0050】
さらに、比較例No.7および比較例No.8は、Mgの含有量に関して、それぞれ本発明で規定する数値範囲の下限値または上限値から外れているものである。
また、比較例No.9および比較例No.10は、Cuの含有量に関して、それぞれ本発明で規定する数値範囲の下限値または上限値から外れているものである。
【0051】
そして、発明例No.1〜6および比較例No.1〜10の各樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板にリン酸クロメート処理(Cr量で、10mg/m2)を行い、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の両面に厚さ20μmのPET樹脂をラミネートし、260℃にて熱処理を行い、樹脂フィルムを被覆したアルミニウム合金板を得た。
そして、この樹脂フィルムを被覆したアルミニウム合金板を用いて、以下の方法によりDI缶21(図2参照)を作製した。
(1)カップ成形加工を施すことでブランク径φ140mm、カップ径φ90mmの缶体を作製した。
(2)次に、前記缶体に再絞り加工を施した。
(3)更に、しごき成形加工として前記缶体に対して3回しごきを施し、しごき率65%で薄肉部厚さ105μm、胴径D3がφ66mm、高さHが123mmのDI缶21を作製した。
【0052】
その後、樹脂フィルムの密着性に関する評価として、樹脂フィルムの剥離およびERVについての評価を実施した。また、2ピースボトル缶やDI缶などの包装容器に加工するのに必要なしごき成形性、および包装容器として必要な強度の指標として、座屈強度を測定した。樹脂フィルムの剥離性、ERV、しごき成形性、および座屈強度の評価は、以下の方法で行った。
【0053】
(樹脂フィルムの剥離性)
前記各樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板から成形されたDI缶の胴体部について、缶体の内外表面を目視観察し、樹脂フィルムの密着性を評価した。
樹脂フィルムの剥離や部分的な膨れも見られないものを、問題なしと評価し(「○」)、または、完全にアルミニウム合金板から樹脂フィルムが剥離したものを問題ありと評価した(「×」)。
【0054】
(ERV)
ERV(Enamel Rate Value)は、各DI缶内に、1%食塩水と0.02%界面活性剤からなる溶液を満たした後、溶液と缶の外表面の間に6.2Voltの直流電圧を4秒間印加したときの電流値を電流計により測定し、20缶の平均値を求めた。
ERVが10mA未満であれば、樹脂フィルムの微小な剥離(ピンホール)はないものと考えられることから、10mA未満を良好と評価し(「○」)、また、10mA以上を不良と評価した(「×」)。
【0055】
(しごき成形性)
しごき成形性は、前記したDI缶を連続成形で10000缶製缶したときに破断が発生した個数により評価を行った。破断した個数が0〜3個であるものを良好と評価し(「○」)、4個以上発生したものを不良と評価した(「×」)。
【0056】
(座屈強度)
座屈強度は、DI缶の軸方向に圧縮荷重を負荷し、缶胴部が座屈したときの荷重を測定してその平均値を求めた。座屈強度が1.5kN以上であるものを良好と評価し(「○」)、1.5kN未満であるものを好ましくないと評価した(「×」)。
これらの評価結果を表2に示す。なお、表2中の下線は、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板として好ましくない結果であることを示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、本発明の必要条件を満たす発明例No.1〜6においては、高しごき率における加工を施しても樹脂フィルムの剥離は見られず問題はなかった(「○」)。また、ERVも良好なものであった(「○」)。さらに、しごき成形性および座屈強度のいずれの結果も良好なものであった(「○」)。
【0059】
しかし、本発明の必要条件を満たさない比較例No.1〜10においては、前記の高しごき率における加工を施した際に、樹脂フィルムが剥離し、また、ERVも劣る結果となった。さらに、しごき成形性および座屈強度についても劣る結果となった。
【0060】
すなわち、樹脂フィルムの剥離性については、比較例No.1〜6において完全にアルミニウム合金板から樹脂フィルムが剥離し、問題あり(「×」)となった。
また、ERVについても、比較例No.1〜6の電流値が10mA以上となり、不良(「×」)という結果となった。
そして、しごき成形性については、比較例No.2,4,6,8,10において、不良(「×」)という結果を得た。
さらに、座屈強度については、比較例No.5,7,9において、好ましくない評価となった(「×」)。
【0061】
[実施例B]
次に、本発明の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を製造するのに好適な条件についての検討を行った。
まず、表4に示すように、本発明で規定する組成を有する発明例No.1および比較例No.11〜17のアルミニウム合金の鋳塊を用いて、鋳造処理、均質化熱処理、熱間圧延処理の順で処理を行った後、冷間圧延処理を行い、0.32mm(圧延率85%)の板厚の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を製造した。
ここで、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造条件として、熱間圧延を開始するときの温度条件(表4において、「熱間圧延の開始温度」と表記する)、および冷間圧延処理の最終冷間圧延に用いる鋳鍛鋼製圧延用ワークロールのロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRa(表4において、「圧延用ワークロールの算術平均粗さRa」と表記する)は、表4に示すように調整した。なお、表4には、本発明で規制する数値範囲を満たす発明例No.1も示している。また、表4中の下線は本発明で規制する数値範囲を満たさないものを示す。
【0062】
【表4】

【0063】
比較例No.11,12,15〜17は、アルミニウム合金の組成については本発明で規制する数値範囲を満たすものであるが、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造条件において、圧延用ワークロールのロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaが本発明で規制する数値範囲から外れているものである。また、比較例No.13,14は、熱間圧延を開始するときの温度条件が本発明で規制する数値範囲から外れているものである。
【0064】
これら比較例No.11〜17の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板について、最大長10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度(表5において、「金属間化合物の個数密度」と表記する。)、酸化皮膜の平均膜厚、算術平均粗さRa、およびろ波中心線うねりWCAの各特性値の測定を、前記の方法に準じて行った。かかる結果を表5に示す。なお、表5中の下線は本発明で規制する数値範囲を満たしていないことを示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5に示すように、比較例No.13,14は、酸化皮膜の平均膜厚が本発明で規制する数値範囲の上限値から外れているものである。
また、比較例No.11,12,15,16,17は、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の算術平均粗さRaが本発明で規制する数値範囲の上限値または下限値から外れているものである。特に、比較例No.15,16,17はろ波中心線うねりWCAも本発明で規制する数値範囲の上限値または下限値から外れている。
【0067】
このような特性値を有する比較例No.11〜17について、前記と同様、樹脂フィルムの剥離性、ERV、しごき成形性、および座屈強度の評価を、前記の方法に準じて行った。これらの評価結果を表6に示す。なお、表6中の下線は本発明で規制する数値範囲を満たさないことを示す。
【0068】
【表6】

【0069】
表6に示すように、比較例No.11〜17のいずれにおいてもアルミニウム合金板から樹脂フィルムが完全に剥離し、問題ありという評価結果(「×」)、およびERVについても電流値が10mA以上となり、不良(「×」)という結果を得ることとなった。
【0070】
以上述べたように、本発明によると、アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaや、圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAを適切に規制し、また、アルミニウム合金板の組成成分、最大長が10μm以上のAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度、および酸化皮膜の平均膜厚を適切に規制したので、厳しい加工が施された場合であっても、樹脂フィルム、PETとの密着性に優れた樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を得ることができた。
【0071】
また、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法において、熱間圧延を開始するときの温度条件、および最終冷間圧延処理で用いる圧延用ワークロール胴部表面のロール軸方向での算術平均粗さRaを適切なものとした圧延用ワークロールを用いて圧延することとしたので、当該アルミニウム合金板の表面状態を適切なものとすることができる結果、樹脂フィルム、特にPETをラミネートして高しごき率で加工した場合であっても、アルミニウム合金板から樹脂フィルムが剥離せず、また、熱処理後の表面に生じる部分的な膨れが発生しない、樹脂フィルムの密着性に優れた表面形態を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を得ることができた。
【0072】
なお、以上に例示した各発明例では、熱間圧延処理後に冷間圧延処理を行って作製されたアルミニウム合金板を例に説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、熱間圧延処理後に連続或いはバッチ式の焼鈍処理を施すことや、或いは、冷間圧延処理を多段階に分けて行い、冷間圧延処理間に連続或いはバッチ式の焼鈍処理を施した場合であっても、これら発明例と同様に樹脂フィルムの密着性に優れた表面形態を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来の一例の2ピースボトル缶の形状を模式的に示す斜視図である。
【図2】従来の他の一例のDI缶の形状を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
11 2ピースボトル缶
12 胴体部
13 ネック部
14 開口部
15 ネジ部
21 DI缶
22 胴体部
23 ネック部
24 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaを0.30乃至0.55μmの範囲とし、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりWCAを0.2乃至0.8μmの範囲とし、
最大長が10μm以上であるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度を70個/mm2以下とし、かつ、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚を25nm以下としたことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する第一工程、第一工程後に均質化熱処理する第二工程、第二工程後に熱間圧延する第三工程、及び第三工程後に冷間圧延する第四工程、を順に行うことで樹脂被覆包装容器用のアルミニウム合金板を製造する方法であって、
前記第三工程の熱間圧延の開始温度を450乃至550℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第四工程の冷間圧延における最終冷間圧延を、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さRaが0.4乃至0.8μmである圧延用ワークロールを用いて行うことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−77283(P2006−77283A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261665(P2004−261665)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)