説明

樹脂被覆成形体及び樹脂被覆成形体の製造方法

【課題】非常に高い耐熱性が要求される分野(例えば、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂が求められる分野)に、環状オレフィン系樹脂を利用するための技術を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の表面の少なくとも一部に、環状オレフィン系樹脂層を配置する構成にし、上記環状オレフィン系樹脂層の主成分を210℃以上のガラス転移点を持つ環状オレフィン系樹脂にする。透明性を高める観点から、成形体は、ガラス転移点が130℃以上200℃以下の環状オレフィン系樹脂(B)を主成分とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆成形体及び樹脂被覆成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、主鎖に環状オレフィンの骨格を有する樹脂であり、高透明性、低複屈折性、高熱変形温度、軽量性、寸法安定性、低吸水性、耐加水分解性、耐薬品性、低誘電率、低誘電損失、環境負荷物質を含まない等、多くの特徴をもつ樹脂である。このため、環状オレフィン系樹脂は、これらの特徴が必要とされる多種多様な分野に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
とりわけ、高耐熱性、高透明性、及び、低複屈折性を発揮できる点から、環状オレフィン系樹脂は、レンズ、導光板、回折格子等の光学デバイス、建築ならびに照明分野等の産業材における透明な成形加工品の材料として用いられている。
【0004】
樹脂成形体は使用時、加工時等に高温に曝されることが多い。したがって、環状オレフィン系樹脂の耐熱性が高いほど、環状オレフィン系樹脂の利用分野は広がる。環状オレフィン系樹脂の耐熱性を向上させる方法として、主鎖の環状オレフィン骨格の含有量を多くする方法が知られている。
【0005】
しかしながら、環状オレフィン骨格の含有量が多すぎると、これを用いて作製した成形体は脆くなる。このため、環状オレフィン系樹脂の耐熱性は一定の水準までしか向上させることができないのが現状である。具体的には、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が210℃以上になると、成形体が脆くなる不具合が顕著になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−156048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、非常に高い耐熱性が要求される分野(例えば、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂が求められる分野)に、環状オレフィン系樹脂を利用するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の表面の少なくとも一部に、環状オレフィン系樹脂層を配置する構成にし、上記環状オレフィン系樹脂層の主成分を210℃以上のガラス転移点を持つ環状オレフィン系樹脂にすることで、脆くなる等の問題が生じず、且つ成形体に高い耐熱性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体と、前記成形体の表面の少なくとも一部に配置される環状オレフィン系樹脂層と、を備え、前記環状オレフィン系樹脂層は、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする環状オレフィン系樹脂組成物からなり、ISO75に基づいて測定した0.45MPaの荷重での、前記熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度が、前記環状オレフィン系樹脂組成物の荷重たわみ温度よりも低い樹脂被覆成形体。
【0010】
(2) 前記成形体は、ガラス転移点が130℃以上200℃以下の環状オレフィン系樹脂(B)を主成分とする(1)に記載の樹脂被覆成形体。
【0011】
(3) 熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の表面の少なくとも一部に、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を溶剤に溶解させた溶液を塗布し、溶剤を蒸発させる樹脂被覆成形体の製造方法。
【0012】
(4) 基材の表面の少なくとも一部に環状オレフィン系樹脂層を配置し、前記環状オレフィン系樹脂層は、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする物性改善方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂が求められる分野であっても、環状オレフィン系樹脂の利用が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の樹脂被覆成形体は、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体と、この成形体の表面の少なくとも一部に配置される環状オレフィン系樹脂層と、を備える。そして、環状オレフィン系樹脂層は、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする。以下、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体、環状オレフィン系樹脂層、樹脂被覆成形体の製造方法、樹脂被覆成形体、物性改善方法の順で説明する。
【0016】
<成形体>
成形体とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる。熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性が、環状オレフィン系樹脂層を構成する環状オレフィン系樹脂組成物の耐熱性より低ければ、様々な樹脂を使用可能である。環状オレフィン系樹脂層を、成形体の表面の少なくとも一部に配置することで、成形体に耐熱性を付与することができる。耐熱性とは、ISO75に基づいて測定した0.45MPaの荷重での荷重たわみ温度であり、試験片の形状を同じにして、荷重たわみ温度の大きさを比較する。
【0017】
使用可能な熱可塑性樹脂としては、環状オレフィン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド(ナイロン)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂等、従来公知の熱可塑性樹脂を例示することができる。なお、熱可塑性樹脂組成物は2種以上の異なる熱可塑性樹脂を含有してもよい。
【0018】
また、熱可塑性樹脂組成物は、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0019】
成形体を予め作製する必要がある場合、成形体は、射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、加熱圧縮成形法、押出し成形法、ブロー成形法等、従来公知の成形方法により得ることができる。
【0020】
このように、従来公知の熱可塑性樹脂、添加剤を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を使用できるが、特に環状オレフィン系樹脂を含むものが好ましい。熱可塑性樹脂組成物に含有可能な環状オレフィン系樹脂を、後述する環状オレフィン系樹脂層に含まれる環状オレフィン系樹脂と区別するために、環状オレフィン系樹脂(B)として説明する。
【0021】
成形体が環状オレフィン系樹脂(B)を主成分とすることで、環状オレフィン系樹脂の透明性等の光学特性を活かした樹脂被覆成形体が得られる。
【0022】
[環状オレフィン系樹脂(B)]
環状オレフィン系樹脂(B)は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0023】
また、環状オレフィン系樹脂(B)としては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0024】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0025】
環状オレフィン系樹脂(B)としては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物が好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0027】
環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体として、特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0028】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0029】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0030】
一般式(I)におけるR〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0031】
〜Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0032】
また、R〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、通りル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アン通りル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0033】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0034】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0035】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0036】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0037】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0038】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により環状オレフィン系樹脂(B)を得ることができる。
【0039】
〔その他共重合成分〕
環状オレフィン系樹脂(A)は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0040】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0041】
本発明は、高い耐熱性が要求される分野であっても、利用可能な樹脂被覆成形体である。したがって、成形体も高い耐熱性を有することが好ましい。このため、環状オレフィン系樹脂(B)のガラス転移点は約130℃以上約200℃以下であることが好ましい。環状オレフィン系樹脂(B)のガラス転移点が約130℃以上であれば、成形体の耐熱性が高くなり、高耐熱性が求められる分野にさらに適した樹脂被覆成形体になるため好ましい。ガラス転移点が約200℃以下であれば、成形体が脆くなる等の問題が生じないため好ましい。なお、環状オレフィン系樹脂(B)のガラス転移点の調整は、主鎖の環状オレフィン骨格の含有量を調整することで行うことができる。また、ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0042】
<環状オレフィン系樹脂層>
環状オレフィン系樹脂層は、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする。環状オレフィン系樹脂(A)について、以下説明する。
【0043】
[環状オレフィン系樹脂(A)]
環状オレフィン系樹脂(A)は、環状オレフィン系樹脂(B)と同様に、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含み、ガラス転移点が210℃以上のポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。また、環状オレフィン系樹脂(B)と同様に、上記重合体にさらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0044】
環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体として、特に好ましい例としては、環状オレフィン系樹脂(B)の場合と同様に、炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、上記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。また、上記一般式(I)で示される環状オレフィン成分としては、ノルボルネンの使用が好ましい。
【0045】
環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移点は210℃以上である。ガラス転移点が非常に高い環状オレフィン系樹脂(A)を使用することで、樹脂被覆成形体の耐熱性が向上する。つまり、成形体の物性を維持しつつ、樹脂被覆成形体の耐熱性を向上させることができる。さらに、環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とするため、透明性が高い。その結果、成形体の光学特性に与える影響も小さい。なお、ガラス転移点は環状オレフィン系樹脂(B)と同様の方法で調整することができる。
【0046】
このようなガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂(A)は、環状オレフィン系樹脂(B)と同様に、従来公知の重合方法で製造することができる。
【0047】
例えば、重合触媒系としては、周期律表第IVB 族から選ばれる遷移金属のメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物、又はボレート若しくはボラン化合物からなるメタロセン触媒系が挙げられる。
【0048】
メタロセン化合物の具体例としては、エチリデン−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、エチリデン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリレン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリル−ビス(2−メチル−インデニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピリデン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライドイソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピリデン−(1−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン−(1−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピリデン(1−インデニル)(3−イソプロピル−シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピリデン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン−(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン−(9−フルオレニル)[1−(3−メチル)シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン−(9−フルオレニル)[1−(3−tブチル)シクロペンタジエニル]ジルコニウムジクロライド等が挙げられる。なかでも、エチリデン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライドやイソプロピリデン−(1−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライドが好適である。ガラス転移点が上記の範囲を満たせば、他の触媒系であってもよい。
【0049】
次に、本発明で用いる有機アルミニウムオキシ化合物及びボレート若しくはボラン化合物について説明する。有機アルミニウムオキシ化合物は、従来公知のアルミノオキサンであってもよく、またベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。このような従来公知のアルミノオキサンは、具体的には、下記式(II)又は(III)で表される。
【化2】

【化3】

【0050】
(上記一般式(II)、(III)において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭化水素基であり、好ましくはメチル基、エチル基、特に好ましくはメチル基であり、nは2以上、好ましくは5〜40の整数である。)
【0051】
ボレート若しくはボラン化合物としては、例えば、テトラキスペンタフルオロフェニルトリチルボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルフェニルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリスペンタフルオロフェニルボラン等が挙げられる。これらの化合物を触媒の活性化剤として用いる場合、必要に応じてと有機アルミニウムと併用して用いる。有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム、トリtert−ブチルアルミニウム等の化合物が挙げられる。
【0052】
本発明では、上記のような触媒の存在下に、α−オレフィン成分と一般式(I)で示される環状オレフィン成分とを、通常の液相で共重合させる。この際に、一般に炭化水素溶媒が用いられる。このような炭化水素溶媒には、ペンタン、へキサン、へプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素及びそのハロゲン誘導体、シクロへキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素及びそのハロゲン誘導体、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びクロロベンゼン等のハロゲン誘導体等が用いられる。これら溶媒は組み合わせて用いてもよい。
【0053】
重合反応は、例えば、バッチ方式でも、セミ−バッチ方式で行ってもよい。重合容器は窒素置換することが好ましい。
【0054】
重合系におけるモノマーの仕込み量は特に制限はなく適宜決定される。溶液重合においては、溶媒中の環状オレフィンとα−オレフィンとの飽和濃度を調整することで、ガラス転移点は210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)得ることができる。ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るためには、通常、環状オレフィン20質量%以上90質量%以下の範囲、α−オレフィン1質量%以上50質量%以下の範囲で決定される。
【0055】
重合反応は、通常、温度が−20℃以上150℃以下である。ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは40℃以上120℃以下の範囲である。重合時間は、通常、5分以上5時間以下である。ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは15分以上3時間以下である。重合容器内の圧力は、例えば、エチレンやプロピレン等のガスを挿入する場合は、通常、0.01MPa以上5.0MPa以下である。ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは、0.05MPa以上2.0MPa以下の範囲である。
【0056】
重合に使用するメタロセン化合物の使用量は、通常、0.0001mmol/L以上100mmol/L以下である。ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは、0.0005mmol/L以上10mmol/L以下である。また、有機アルミニウムオキシ化合物の使用量は、メタロセン化合物1molあたり、通常、10mol以上100000mol以下、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは、100mol以上10000mol以下である。ボレート若しくはボラン化合物の使用量は、メタロセン化合物1molあたり、通常、1mol以上100mol以下である。ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは、1mol以上50mol以下である。なお、有機アルミニウムを用いる場合は、ボレート若しくはボラン化合物の1molあたり、通常、1mol以上1000mol以下、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を得るために、特に好ましくは、10mol以上100mol以下の範囲で用いられる。
【0057】
環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるシートは脆い。このため、本発明では、上記の成形体上に、環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする環状オレフィン系樹脂層を形成する。「層」として成形体上に配置することで、環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とすることの問題が抑えられる。環状オレフィン系樹脂層の厚みは、使用する環状オレフィン系樹脂(A)の種類により異なるが、約5μm以上約15μm以下が好ましい。
【0058】
<樹脂被覆成形体の製造方法>
本発明の樹脂被覆成形体の製造方法は特に限定されないが、共押出法、コーティング法等が挙げられる。
【0059】
本発明の環状オレフィン系樹脂層は、上述の通り、非常に高いガラス転移点を有する環状オレフィン系樹脂を主成分とする。このため、環状オレフィン系樹脂層の単独成形体は脆いため、非常に扱い難い。したがって、共押出法、コーティング法が好ましい。そして、ガラス転移点が210℃を超える環状オレフィン系樹脂の場合、溶液にした方が、樹脂被覆成形体の製造が容易なため、コーティング法が最も好ましい。
【0060】
好ましい「コーティング法」とは、予め製造した成形体の少なくとも片面に、環状オレフィン系樹脂(A)を溶剤に溶解させた溶液を塗布し、乾燥する方法である。
【0061】
コーティング法としては、特に限定されず従来公知の方法を採用することができる。従来公知の方法としては、例えば、スピンコート法、リップコート法、コンマコート法、ロールコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ディップコート法、バーコート法、流延成膜法、グラビアコート法、プリント法等が挙げられる。
【0062】
環状オレフィン系樹脂(A)を溶解させる溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤が好ましい。また、環状オレフィン系樹脂層と成形体との密着性向上の観点から、成形体を溶解可能な溶剤を使用することが好ましい。したがって、成形体が環状オレフィン系樹脂(B)を主成分とする場合、上記の好ましい溶剤に成形体が溶解するため好ましい。
【0063】
環状オレフィン系樹脂(A)を溶剤に溶解させた溶液の濃度は、特に限定されず、従来公知の方法で調整できる。例えば、成形体に対して塗布しやすい粘度になるように溶液の濃度を調整することができる。また、溶液の濃度は、形成される環状オレフィン系樹脂層の厚みに影響を与えることから、所望の厚みになるように溶液の濃度を調整する場合もある。
【0064】
成形体に溶液を塗布後、溶剤を蒸発させるための乾燥温度は特に限定されないが、環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移点以下に設定することが好ましい。また、シワ等外観の悪化を防ぐため温度を徐々に上昇させて乾燥させることが好ましい。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、熱風乾燥等の従来公知の方法を採用できる。
【0065】
<樹脂被覆成形体>
本発明の樹脂被覆成形体は、成形体の表面の少なくとも一部に環状オレフィン系樹脂層が配置されている。「表面の少なくとも一部」とは、成形体の表面の一部のみ耐熱性を向上させる必要があれば、一部にのみ環状オレフィン系樹脂層を配置すればよいことを指す。
【0066】
本発明の樹脂被覆成形体は、上記成形体が環状オレフィン系樹脂を主成分とするものであれば、透明性等に優れ、光学特性が良好なため好ましい。特に、環状オレフィン系樹脂の中でも、環状オレフィン系樹脂(B)を使用すると、成形体自体の耐熱性も低くないため好ましい。
【0067】
本発明の樹脂被覆成形体は、高温に曝される用途に好ましく使用することができる。例えば、透明電極(例えばITO)を蒸着させる基材として用いることができる。このような用途で使用される基材を単独の環状オレフィン系樹脂組成物で成形すると、基材が脆くなり、また、クラック等により透明性も低下し採用できない。しかし、本発明のように樹脂被覆成形体とすることで、脆くなる等の問題を抑えることができ、高温に曝される用途にも好ましく採用することができる。
【0068】
<物性改善方法>
本発明の物性改善方法について説明する。本発明の物性改善方法は、基材の表面の少なくとも一部に環状オレフィン系樹脂層を配置させ、上記環状オレフィン系樹脂層の主成分を、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)とする。
【0069】
基材としては、上述の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体以外にも、金属等の様々な従来公知の材料からなるものを使用可能である。また、耐熱性以外の物性向上を目的とする場合には、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性が環状オレフィン系樹脂組成物の耐熱性よりも高い必要はない。
【0070】
改善される物性とは、上述の耐熱性のように、環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする環状オレフィン系樹脂層の性質を基材に付与することで改善される物性を指す。なお、環状オレフィン系樹脂(A)については、上記と同様のため説明を省略する。
【0071】
基材に環状オレフィン系樹脂を配置させる方法は、特に限定されず、例えば、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂を溶剤に溶解させ、基材上にこの溶液を塗布し、塗布後に溶剤を乾燥させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0073】
<実施例>
実施例の樹脂被覆成形体を以下のように作製した。なお、環状オレフィン系樹脂の荷重たわみ温度はISO75 荷重0.45MPaで測定した値である。
【0074】
[成形体の製造]
環状オレフィン系樹脂(B)(Topas Advanced Polymers社製、「TOPAS6017S−04」、ガラス転移点178℃、荷重たわみ温度170℃)を表1に示す厚みに押出し成形した。
なお、実施例で使用した環状オレフィン系樹脂のガラス転移点は、JIS K7121に基づいて、示差走査型熱量計(TA INSTRUMENTS DSCQ−1000)を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
【0075】
[環状オレフィン系樹脂組成物]
環状オレフィン系樹脂組成物を作製するために下記環状オレフィン系樹脂(A−1)、環状オレフィン系樹脂(A−2)を製造した。製造方法の詳細について以下に示す。
【0076】
(環状オレフィン系樹脂(A−1)の製造)
十分に窒素置換した内容積2.0Lの攪拌機付槽型反応器にノルボルネン400部及びトルエン溶媒750部、メチルアルミノキサン6.3質量%トルエン溶液(東ソー・ファインケム株式会社製:P−MAOS)40部を仕込み、攪拌速度400rpmで攪拌しながら、溶液温度を70℃に加熱した。トルエン10部とエチリデン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライド0.012部をガラス容器に入れ、触媒溶液を調整した。
触媒溶液を反応器に添加し、その後直ちにエチレン圧が0.1MPaになるようにエチレンガスを供給した。重合中は、エチレン圧力が0.1MPaになるように調整した。触媒投入から120分経過後、エチレンガスの供給を止め、減圧し、エタノールを30部添加し、重合を停止した。塩酸酸性エタノールに樹脂を沈殿させた。沈殿した樹脂をエタノールで十分洗浄し、減圧下で70℃、6時間乾燥させ、目的とする環状オレフィン系樹脂(A−1)を得た。得られた樹脂A−1のガラス転移点は、217℃、荷重たわみ温度210℃であった。
【0077】
(環状オレフィン系樹脂(A−2)の製造)
環状オレフィン系樹脂(A−1)の製造において、エチリデン−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロライドの代わりに、イソプロピリデン−(1−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド0.011部を用いた以外は、環状オレフィン系樹脂(A−1)の製造と同様に行い、目的とする環状オレフィン系樹脂(A−2)を得た。得られた樹脂A−2のガラス転移温度は、243℃、荷重たわみ温度235℃であった。
【0078】
[樹脂被覆成形体の製造]
環状オレフィン系樹脂(A−1)又は環状オレフィン系樹脂(A−2)を溶剤(トルエン)に溶解させた室温の溶液(濃度10質量%)を、バーコート法により、表1に示す厚みになるように、成形体上に塗布し、室温で溶剤を蒸発させた。
【0079】
<比較例1>
比較例1として、環状オレフィン系樹脂(B)を押出成形した厚み100μmのシート状成形体を使用した。
【0080】
<比較例2>
比較例2として、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるシート状成形体(帝人デュポンフィルム社製、「テイジン テトロンフィルム」)を使用した。
【0081】
<比較例3>
比較例3として、環状オレフィン系樹脂(A−1)で厚み10μmのシート状成形体を得ようとしたが、脆くシートを成形することができなかった。
【0082】
<評価>
実施例、比較例について、耐熱性の評価、透明性の評価を行った。各評価の詳細は下記の通りである。
【0083】
[耐熱性、外観変化の評価]
耐熱性の評価は、実施例の樹脂被覆成形体、比較例の成形体を210℃の環境に5分間曝し、実施例の樹脂被覆成形体、比較例の成形体の変形を目視により観察した。
【0084】
[透明性の評価]
透明性の評価は、分光光度計(JASCO社製、「V−570」)を用いて、実施例の樹脂被覆成形体、比較例の成形体の厚み方向の全光線透過率を、JIS K7105に準じて測定した。測定結果を表1に示した。
【表1】

【0085】
表1の実施例1〜3、比較例1の結果から、環状オレフィン系樹脂(B)を主成分とする成形体上に、より耐熱性の高い環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする環状オレフィン系樹脂層を配置することによる耐熱性の向上が確認された。
【0086】
成形体、環状オレフィン系樹脂層ともに環状オレフィン系樹脂を主成分とすることにより、透明性に優れることが確認された。
【0087】
比較例2はPETを使用するため透明性が低いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体と、
前記成形体の表面の少なくとも一部に配置される環状オレフィン系樹脂層と、を備え、
前記環状オレフィン系樹脂層は、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする環状オレフィン系樹脂組成物からなり、
ISO75に基づいて測定した0.45MPaの荷重での、前記熱可塑性樹脂組成物の荷重たわみ温度が、前記環状オレフィン系樹脂組成物の荷重たわみ温度よりも低い樹脂被覆成形体。
【請求項2】
前記成形体は、ガラス転移点が130℃以上200℃以下の環状オレフィン系樹脂(B)を主成分とする請求項1に記載の樹脂被覆成形体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体の表面の少なくとも一部に、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を溶剤に溶解させた溶液を塗布し、溶剤を蒸発させる樹脂被覆成形体の製造方法。
【請求項4】
基材の表面の少なくとも一部に環状オレフィン系樹脂層を配置し、
前記環状オレフィン系樹脂層は、ガラス転移点が210℃以上の環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする物性改善方法。

【公開番号】特開2012−795(P2012−795A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135699(P2010−135699)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】