説明

樹脂被覆箔を調製するための固体状粉末製剤およびそのプリント基板の製造への使用

本発明は、固体状熱硬化性樹脂組成物および樹脂被覆箔、これを用いたガラス布補強樹脂被覆箔ならびにこれらのプリント基板の製造への使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状熱硬化性樹脂組成物を含有する固体状粉末製剤およびかかる製剤から得られた任意的に補強されている樹脂被覆箔(resin coated foil)ならびにこれらのプリント基板の製造への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板(PCB)を製造するために、熱硬化性エポキシ樹脂製剤が広く使用されている。適度な価格および良好な総合的技術特性のため、これらはいまだに電子機器における工業的標準である(Martin W. Jawitz(Ed.), Printed circuit board materials handbook, Mc Graw Hill, New York 1997, 第6章)。エポキシをこのように多用途原料としている重要な特性は、例えば高い熱安定性、良好な銅のピール強度または低い吸水性である。最終電子製品の所望の難燃性を担保するために、エポキシ樹脂は一般にそれ自体が製剤化されて難燃剤となる。これは、例えば臭素化エポキシ樹脂の使用によって達成することができる。しかしながら環境的な配慮およびOEMs(相手先ブランド製造)からの要求は、その使用を益々制限している。従って、リン化合物または金属水酸化物(例えばAlまたはMg)に基づく他の難燃剤が用途を見い出している。
機械的特性を向上するために、エポキシ樹脂と組み合わせて補強材がよく使用され、プリプレグおよび積層体が形成されている(Martin W. Jawitz(Ed.), Printed circuit board materials handbook, Mc Graw Hill, New York 1997, 第9章)。最も近年に使用されている補強材はガラス織物である。例えば現在、織物をエポキシ樹脂製剤の溶媒系溶液に含浸し、次いで溶媒をゆっくりと蒸発させて同時に樹脂をb−ステージ化する、いわゆる処理剤中にガラス織物を含浸することによってプリプレグが製造されている。この溶液は粘度が低いから、ガラス織物の良好な濡れが容易に実現される。
【0003】
溶媒系プロセスは、本質的にいくつかの重大な不利益点を有する。溶媒自体は最終製品の一部とならない。すなわち、溶媒は溶質(例えばエポキシ樹脂製剤)の運搬媒体としてのみ働く。このような溶液は、典型的には約50%の固形分濃度を有する。このことは、溶媒がその目的を果たした後には多量のエネルギーを要して蒸発させられ、通常は焼却によって結局は廃棄される、すなわち出発原料の約50%が最後はゴミとなることを意味する。このことは、かかる工場への投資額および維持費を大きく増加する。健康、環境、安全への配慮およびVOC規制が、重大な関係を有する別のテーマである。さらに、溶媒を抱き込んだ廃空気を扱うのに必要な装置および爆発性雰囲気を回避するための検出器により、上記被覆ラインが複雑で高価になる。溶媒を除去し、その後に表面を再び平坦化するプロセスに消費される時間は、粉末のマトリクスを単に溶融して平坦化するよりも、本質的に遅くて効率が低い。さらに、粉末被覆によった場合には、高速硬化系が使用された場合であっても中間製品および最終製品に溶媒を含まないことが保証される。この観点から、比較的コンパクトな被覆ラインによる高いスループットを実現することができる。一方、プリント基板工業で使用される基本材料には厳格な要求がある。特に、高密度相互接続多層(HDI層)の製造が予定されている超薄型プリプレグまたは樹脂被覆箔は、通常の粉末被覆用途から予想されるところを大きく超えた、広範囲にわたるOEM仕様に対処しなければならない。顕著な熱的頑強性を要求する、鉛非含有はんだのリフロー方式の多数回の繰り返しを経由するためには、良好な耐はんだ衝撃性が不可欠である。JEDEC(電子機器技術評議会)の要請に合致するためには、水分吸収量が低いことを要する(JEDEC要求を参照すると、多数回の鉛非含有はんだ衝撃試験およびCAF耐性)。溶融粘度が低いことによってガラス繊維織物への完全な含浸が可能となる。ガラス繊維織物は、導電性陽極フィラメント成長耐性(CAF−耐性)を有する材料に不可欠である。これら特性のすべてがハロゲンを含有しない難燃剤の存在下で維持されなければならない。ハロゲンを含有しない難燃剤は、十分に低いUL−V0回数を達成するために必要である。
【0004】
PCB工業で使用されるガラス織物の含浸および基体の被覆に用いられている熱硬化性樹脂組成物の多くは、使用される商品の大多数と同様に有機溶媒中に希釈されている。ハロゲンを含有しない難燃剤はすべて、希釈されたもしくは液状のリン含有成分であるか、または熱硬化性エポキシ樹脂マトリクス中へ反応する可能性を持たない固体状添加剤のどちらかである。他の可能性は金属水酸化物の使用であろうが、このようなフィラーは許容しえないほど多くの配合量を要する。一般にこれらフィラーはすべて、機械的特性または他の特性をかなりの程度に劣化する。フィラー含有量を多くするとまた、溶融粘度がとても高くなり、従って繊維に対する濡れ性が減少する。従って、ガラス布に対する含浸および濡れの能力を有する固形分100%のエポキシ樹脂製剤を持つことが要求されている。固体状樹脂製剤は、粉末として製造することができ、それ自体として塗布される。
全体としての固体状樹脂製剤は、いくつかの限界的条件に合致しなければならない。粉末を作るために必要な種々の加工工程(押出し、粉砕、分級、篩い)を行うことができるように、組成物の非架橋段階(A−ステージ)におけるTgは十分に高くなければならない。Tgが低すぎる場合には凝集が起こりうる。同時に、樹脂がガラス布に適当に含浸するように、高温における組成物の溶融粘度は十分に低くなければならない。さらに顕著な熱安定性、ハロゲン化成分を使用しないUL−V0の耐燃焼性能、低い水分吸収量および優れた銅接着性が、PCB用途に使用される基本材料における典型的な要求を満たすために重要なパラメータである。
WO2004/085550A2は、粉末被覆、粉末被覆系水性分散体、その調製プロセスおよび基体上に被覆層を調製するプロセス、とりわけ多層構造の調製に関する。このプロセスは、いかなる有機溶媒の使用をも必要としない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の基本的な目的は、溶融粘度が低くありながら粉末のTgは高く(50℃超)、高速架橋が可能な粉末被覆用組成物を提供することである。本組成物は、その難燃性が架橋機構に不利益な影響を有さず、難燃性樹脂被覆箔の調製に有用でなければならない。本発明の目的はさらに、銅のピール強度が高く、貯蔵寿命が向上されており、そして粉砕プロセスにおけるより高いスループットの如き良好な加工特性を有する組成物を提供することである。本組成物は、次工程の積層工程において、空隙、湿潤欠陥、空気泡などを生ぜすに成功裏にガラス布に浸透する能力を有さなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、この目的は下記の成分:
(A)20℃において固体状であるエポキシ樹脂、
(B)20℃において固体状であり、平均官能基数が>3、好ましくは>5、より好ましくは>7、および最も好ましくは≧9であるフェノール系硬化剤、
(C)20℃において固体状であるリン変性エポキシ樹脂、および
(D)潜在型触媒
を含有する熱硬化性樹脂組成物を含有する粉末製剤によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による粉末製剤および比較製剤のDSC走査である。
【図2】本発明の組成物につき、転化率%で表した種々の温度における架橋速度である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
成分(A)は、150〜1,800g/eqの範囲のエポキシ当量(EEW)を有する化学変性されたエポキシ樹脂であることが好ましい。
「エポキシ当量(EEW)」という用語は、エポキシ1グラム当量を含有する樹脂のg単位の重量として定義される。樹脂鎖が側鎖を有さない直線であると仮定し、さらに両末端がエポキシ基で終わっていると仮定すると、エポキシド当量は、ジエポキシ樹脂の平均分子量の2分の1、トリエポキシの平均分子量の3分の1、などである。当業界においては、「エポキシ価」という用語も使用されており、樹脂100gに含有されるエポキシ基の官能基数を表す。両方の用語は相互変換できる。エポキシ価を100で割り算するとエポキシ当量となる。エポキシ当量を定量する実際的な方法は、エポキシ基にハロゲン化水素を付加することに基づく。添加した酸の量と、標準塩基による滴定で定量した消費されなかった量との差が、エポキシ含量の尺度である。実際には、塩化水素、臭化水素またはヨウ化水素が使用される。
上記の化学変性されたエポキシ樹脂は、イソシアネート変性エポキシ樹脂、ブタジエン−アクリロニトリルゴム変性エポキシ樹脂、多官能エポキシ−フェノールノボラック樹脂およびビスフェノールA型または脂環式エポキシ樹脂を包含する。
【0009】
本発明で使用される好適な固体状硬化剤(B)は、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂およびビスフェノールA型ノボラック樹脂よりなる群から選択される。これらは、WO2004/085550A2に記載されている硬化剤の如く、エポキシ基を全く持たない。
本発明の好ましい実施態様によれば、固体状硬化剤(B)は平均官能基数が少なくとも9であるフェノールノボラック樹脂である。ここで、平均官能基数とは、1分子あたりの官能基(−OH)数の平均を表す。このような固体状硬化剤は、例えばTD 2131(Dainippon Ink & Chemicals Inc.から市販)およびPF 0790K04(Hexionから市販)を包含する。
【0010】
成分(C)は、例えばDOPO(ジ−ヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)−変性多官能エポキシフェノールまたはクレゾールノボラック樹脂およびDOPO−HQ 2−(6−オキソ−6H−6,5−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィン−6−イル)ベンゼン−1,4−ジオール)変性二官能エポキシ樹脂よりなる群より選択される固体状のリン変性エポキシ樹脂である。さらに、Struktol VP 3752(Schill+Seilacherから市販)およびEXA 9726(Dainippon Ink & Chemicals Inc.から市販)の名を挙げることもできる。EXA 9726は、基本的には有機溶媒(MEK、アセトン)中のEXA 9726溶液であるEXA 9710に該当する。
【0011】
本発明における使用のための好ましい固体状リン変性エポキシ樹脂は、さらに米国特許出願公開US2006/0223921A1に記載されている。本文献は、式Iのリン酸誘導体の少なくとも1つを例えばエポキシ樹脂と反応させることによって得られる難燃性ポリマーのためのプレポリマーを開示している。
(RO)(R)P(O)−R
ここで、RおよびRは、互いに独立に、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリールまたはアルキルアリールアルキル基を表し、
は水素または置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリールまたはアルキルアリールアルキル基を表す。
本発明における使用のための好適なリン変性エポキシ樹脂は、さらに日本特許出願公開JP2000080251に記載されている。
【0012】
本発明の好ましい実施態様によると、固体状リン変性エポキシ樹脂は、EEWが500g/eq未満であり、リン含量が2重量%を超える、二官能エポキシ樹脂である。
成分(D)は潜在型触媒である。この潜在型触媒は、Dyhard(登録商標) UR 300およびDyhard(登録商標) UR 500(Degussaから市販)のように、常温においては化学的にブロックされており、>120℃の高温において触媒活性成分が生成する。
潜在型触媒(D)は置換尿素触媒またはウロン型触媒である。かかる置換尿素触媒は、一般化学構造
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、R1は置換または非置換のフェニル基を表し、R2およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基から選択される、
を有する。
このような置換尿素触媒の4級化により、式[RN−C(OR)=NR(ここで、R〜Rは水素または有機基から選択され、Xは酸アニオンである)を有するウロン型触媒を得る。
本発明で使用される置換ウロン型触媒は、例えばURAcc 43(Degussaから市販)である。
熱硬化性樹脂組成物は、任意的に無機フィラー(E)をさらに含有していてもよい。かかる無機フィラーは、SiO、Al、AlOOH、カオリンおよびタルクを包含する。
無機フィラーの平均粒系は5ミクロン未満であることが好ましい。
【0015】
粉末製剤の組成は所望の物理特性によって変更することができるけれども、一般には成分(A)〜(D)および任意的に成分(E)を、下記に記した量で含有する。
(i)成分(A)25〜50重量%、好ましくは35〜45重量%
(ii)成分(B)15〜25重量%、
(iii)成分(C)15〜25重量%、
(iv)成分(D)0.05〜1重量%、
(v)成分(E)0〜40重量%、好ましくは20〜30重量%。
【0016】
例えば好ましい組成は、以下から選択されるエポキシ樹脂35〜45%を含有する;XAC 4151(Asahi Kaseiから市販)、AER 4151(Asahi Kaseiから市販)、EPPN 502H(Nippon Kayakuから市販)、Hypox RK84L(CVCから市販)およびこれらの混合物。成分(A)の好ましい態様は上記4つのエポキシ樹脂のすべてからなる。
このようなエポキシ混合物とともに使用されるために好適な硬化剤(B)はPF 0790 K04(Hexionから市販)である。
本発明の好ましい態様によると、リン変性エポキシ樹脂としてEXA 9726(Dainippon Ink & Chemicals Inc.から市販)が使用される。
上記の混合物とともに、潜在型触媒としてURAcc 43(Degussa)が使用される。
【0017】
特に好ましい粉末製剤は、XAC 4151(Asahi Kaseiから市販)、AER 4151(Asahi Kaseiから市販)、EPPN 502H(Nippon Kayakuから市販)、Hypox RK84L(CVCから市販)、PF 0790K04(Hexionから市販)、EXA 9726(Dainippon Ink & Chemicals Inc.から市販)およびURAcc 43(Degussaから市販)を、上記した(i)〜(iv)の量で含有する。
【0018】
本発明の組成物は、潜在性(latency)が高く、架橋後のガラス転移温度が高いことを特徴とする。
本発明において、潜在性は以下のように定義される:
潜在性[°K]=走査型示差熱量計(DSC)で測定された発熱ピーク温度[℃]−発熱開始温度[℃]
従って、潜在性(開始温度からピーク温度までの幅)が小さければ反応熱ピークが狭いことを意味し、このことにより、特に架橋温度が150℃を超え、ピーク温度が180℃未満のとき、架橋機構はより潜在的となる。エンタルピーピークが広いと貯蔵寿命が低下し、高速架橋性を有さない。
この用途においては、ガラス転移温度付近で物理的特性の多くが損なわれるため、架橋後のガラス転移温度(Tg)が高いことが要求される。例えば靭性が減少し、熱膨張率が増加する。
【0019】
後に説明するように、本発明の組成物は、触媒(D)と硬化剤(B)との組み合わせにより、所望の高い潜在性と架橋後の高いTgとを達成する。換言すると、この硬化剤、特に平均官能基数が>3、好ましくは>5、より好ましくは>7、もっとも好ましくは≧9の硬化剤、および潜在型触媒、特に置換尿素またはウロン型触媒、の組み合わせは、従来技術の熱硬化性エポキシ樹脂組成物と比較して顕著に優れて機能する。
好ましくは、本発明の組成物は、開始温度からピーク温度までの幅として測定した潜在性が20K未満である。好ましくは開始温度が140〜160℃の範囲であり、ピーク温度が180℃未満であるべきである。
架橋後には、組成物は150〜160℃の範囲のTgを有することが好ましい。
【0020】
本発明の組成物の他の重要な特徴は向上された貯蔵寿命および高速架橋能である。樹脂被覆箔の調製に使用される樹脂組成物の取扱いおよび加工のためには両項目ともが重要である。本発明の組成物では、120℃未満においては有意の架橋が起こらないが、150℃を超える高温ではむしろ高速に架橋が起こる。製剤は、160℃の温度において30分以内で完全に架橋し、170℃においては完全架橋するのにわずか15分の加熱時間で十分である。
【0021】
本発明の組成物の貯蔵寿命は、反応エンタルピーの損失が15%未満であることによって検証される。この値は溶融粘度および遅延特性に有意の変化をもたらさない。本発明の組成物を6℃未満の温度で貯蔵すると、反応熱の変化は観察されない。
その向上された貯蔵寿命の観点から、本発明の粉末製剤を6か月を超えて貯蔵することが可能である。
【0022】
本発明の組成物はまた、難燃剤の量およびその架橋機構への影響を考慮すると、向上された難燃性を示すものである。要するに、難燃剤は、追加の元素としてリンを含有する以外は、本発明の組成物における成分(A)として使用されるエポキシ樹脂と類似した化学構造を有する。従って難燃剤は、熱硬化性組成物を架橋して得られる主骨格構造中に取り込まれる。この取り込みにより、従来技術で知られている従来の難燃剤を使用するのに比べて低い難燃剤濃度においてVO等級が実現される。さらに構造が類似するとの観点から、難燃剤が架橋生成物の一部となることによって、この難燃剤は組成物が熱硬化する架橋機構に不利益な影響を及ぼさない。
【0023】
本発明で使用される固体状リン変性エポキシ樹脂は、2−(6−オキソ−6H−6,5−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィン−6−イル)ベンゼン−1,4−ジオールと(フェノール/ホルムアルデヒド重縮合物および1−クロロ−2,3−エポキシプロパンのエーテル化反応生成物)との重付加生成物であることが特に好ましい。このようなDOPO変性多官能エポキシ−フェノールノボラック樹脂を以下に示す:
【0024】
【化2】

【0025】
本発明で使用される他の特に好ましい固体状リン変性エポキシ樹脂は下記に示すHCA−HQ変性二官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0026】
【化3】

【0027】
上記のエポキシ樹脂の調製は、日本特許出願公開JP2000080251および米国特許出願公開US2006/0223921A1に記載されている。
固体状リン変性エポキシ樹脂は、試験した試料の全燃焼時間を顕著に短縮する。同時に、試料は従来からのリン系難燃剤と比較して優れた銅のピール強度を示した。
要約すると、本発明の組成物は、樹脂被覆箔の調製に使用される資格を該組成物に与える、向上された物理特性を有する。該樹脂被覆箔は、今度はこれらを製造プリント基板の調製に使用することができる。特に上述した如き熱硬化性樹脂組成物を含有する粉体製剤は、下記の物理特性を有する:
(i)IPM 650 2.4.25Cに準拠してDSCにより測定したときに50℃を超える、非転化のA−ステージにおけるガラス転移温度、
(ii)角度2°のコーンプレート形状を用いて回転速度5rpmで測定したときに140℃において20Pas未満の溶融粘度、
(iii)IPM 650 2.4.25Cに準拠してDSCにより測定したときに>150℃である、190℃において20分間架橋した後のガラス転移温度、
(iv)熱重量分析(TGA)で測定したときの1%重量減少温度が390℃を超える、分解温度、および
(v)ASTM D150−98(2004)に準拠して1GHzにおいて測定したときに、<3.4である誘電率(Dk)および<0.018である誘電正接(Df)。
上述の熱重量分析(TGA)は、温度に依存する、試料の重量変化の測定に使用することができる、当業界で公知の方法である。従ってTGAは、材料の熱分解の挙動ないしプロフィールを分析することを可能とする手段である。
【0028】
本発明はさらに、基体を上述の粉末製剤で被覆して被覆基体を得て、そして該粉末製剤を、例えば150℃以上の如き高温で基体に熱固定して樹脂被覆基体を得ることによって得ることのできる、樹脂被覆箔を提供する。
このような被覆プロセスに使用するための好適な基体は、上述の熱硬化性樹脂組成物が所望の程度に溶融する高温に晒されることに耐えるポリマー箔のほか、金属、例えば銅、アルミニウムまたはニッケル、の箔から選択される。
樹脂被覆箔は、補強材、好ましくはプリプレグまたは積層体を形成するために用いられる補強材、を有することが好ましい。このような補強材は、織布およびガラス布を包含する。
【0029】
従って本発明はさらに、例えばE−ガラス布で補強され、電着銅で覆われた(clad)樹脂被覆箔を提供する。
このような、補強された樹脂被覆箔は、IPC TM 650 2.4.24.1に準拠して層間剥離試験を行ったときに、30分を超える層間剥離耐性を有する。これに加えて、IPC TM 650 2.4.8Cに準拠した試験において、銅厚35ミクロンにて17N/cmを超える銅のピール強度を示す。
銅の覆いを除去した上記の如き積層構造は、高圧調理容器中で2.6bar(140℃に相当)にて30分間煮沸した後に、288℃におけるはんだ浸漬試験に20秒間耐え、IPC TM 650 2.6.16に準拠した試験において積層剥離または気泡発生がわずかしか観察されない。IPC TM 6502.6.2Cに準拠した試験における40ミクロンのフィルムの水分吸収量は、1%未満である。
【0030】
このガラス布補強フィルムはハロゲン化化合物の不存在下で、増加する厚さが240ミクロン(6層に相当する)となるまで厚さ200ミクロンのFR4芯上に圧着するか、あるいは厚さ160ミクロン(4層に相当する)のベアの積層体(bare laminate)として圧着して、UL垂直燃焼性試験で試験したときにV0級を獲得する。
上記した潜在性を維持するためには触媒Cを穏やかに混合することが重要な条件であるが、特許請求された熱硬化性樹脂組成物の配合は押出機によって行うことができる。冷たいベルトおよび冷却したロールは溶融物の温度を冷却して下げ、結局は薄片状に粉砕することが可能となる。
【0031】
粉末は、上記の薄片から粉砕、例えばインパクトミルまたはエアージェットミル、によって作られる。粉末から微細物を除去するために、所望によって後の被覆プロセスまでに分粒器を使用することができる。従って平均粒径は所望の値に調整することができる。
この粉末は、基体、例えば金属箔、に塗布することができ、上述したように高温にて基体に熱固定される。
【実施例】
【0032】
本発明について、以下の実施例によってさらに説明する。これらの実施例で実施した試験法の大多数はIPC TM650(米国電子回路協会)に関係する。このマニュアルにより、基本的な環境的、物理的および電気的試験を含む、電子および電気部品を試験するための一律の方法が制定された。これらの試験は、IPC標準および仕様を支持するために開発された(IPC TM650(米国電子回路協会)2215 Sanders Road, Northbrook, IL 60062−6135)。
より詳しくは、下記のパラメータについて以下のようにして試験した。
(a)架橋後のガラス転移温度(Tg)は、IPC TM 650 2.4.25Cに準拠して測定した。
(b)ゲル時間は、IPC TM 650 2.3.18Aに準拠して測定した。
(c)層間剥離時間(TMA法)は、IPC TM 650 2.4.24.1に準拠して測定した。
(d)粘度は、角度2°のコーンプレート形状を用い、回転速度5rpmで測定した。温度は140℃(+/−0.5K)に設定した。
(e)HPCTは、試験方法」IPC TM 650 2.6.16に準拠して測定した。
(f)ピール強度は、IPC TM 650 2.4.9に準拠して測定した。
(g)全燃焼時間(試料あたり)は、IPC TM 650 ULに準拠して測定した。
(h)吸水量は、IPC TM 650 2.6.2.1に準拠して測定した。
【0033】
実施例1
熱硬化性樹脂組成物の調製には以下の成分を使用した。
硬化剤A:フェノールノボラック樹脂、平均官能基数≧9(成分B)
硬化剤B:フェノールノボラック樹脂、平均官能基数<3
触媒1:イミダゾール誘導体(例えばShikoku Co. Ltd.から市販の2−フェニルイミダゾールCurezol 2−PZ)
触媒2:置換尿素触媒(成分D)
第1表に示した製剤は、加熱下に混合した後、反応エンタルピーおよび冷却後のガラス転移温度を検出するため、走査型示差熱量計(DSC)にて−30℃〜300℃の温度範囲で調べた。典型的なDSC走査を図1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
上記イソシナネート変性エポキシ樹脂が本検討の主骨格を形成する。硬化剤量は、化学量論比に設定した。触媒のレベルは、全製剤において0.8重量%である。
【0036】
【表2】

【0037】
第1表中の数値は、触媒と架橋剤との正に適切な組み合わせが、所望の狭幅の潜在性および高い架橋後Tgの双方に対して良好に機能することを実証している。官能基数の多い硬化剤とウロン型触媒との組み合わせ(製剤ST00034−2)が、他の比較例(製剤ST00034−1、ST00034−3およびST00034−4)と比べて顕著に良好であった。
実施例2
下記の製剤の貯蔵寿命および架橋能力を以下のように調べた:
完全に製剤とされた粉末の貯蔵寿命を調べるために、反応エンタルピーの減少を使用した。製造直後の反応エンタルピーを測定し、これを参照とした。次いで粉末を常温<23℃にて貯蔵し、3か月後および6か月後に再度試験した。架橋状況をDSCで調べた。試料をDSC測定セル中に置き、温度および時間を変量した。その後、反応エンタルピーの残存量を検出し、添加率の程度として調べた。
【0038】
120℃未満では関連のある架橋は存在しないが、図2に示したように150℃より上に温度を上げると架橋速度が比較的速い。この製剤は、温度160℃では30分以内で完全に架橋され、170℃ではわずか15分のベーク時間で完全架橋には十分である。
【0039】
いくつかの製剤(異なるエポキシ樹脂の組み合わせ)の貯蔵寿命を説明するため、反応エンタルピーの減少を第2表に示した。すべて特許請求されたフェノール系硬化剤およびブロックされた触媒の組み合わせで架橋したものである。反応エンタルピーの典型的な減少が15%未満であることは許容することができ、溶融粘度および流動特性に顕著な変化をもたらすものではない。製剤を温度≦6℃で貯蔵した場合には、反応熱は変化しない。
【0040】
【表3】

【0041】
製剤の詳細
ST00036:上記イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノールノボラック硬化剤(B)、無機フィラー(E)および置換尿素触媒(D)を含有する。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例3
実施例2に記載した製剤ST00036を参照として使用し、以下に言及するリン源を、合計リン含量が1重量%となるのに要する比で加えた。
使用した難燃剤のリン含量、融点および化学構造を以下の第3表に示す。
このリストは、その性質から粉末製剤に適用可能なリン源、例えば融点>50℃のもの、のうちのほんの一部を含むにすぎない。
【0044】
【表5】

【0045】
試験したリン源はすべて有効であり、合計燃焼時間を顕著に減少した。成分Cが、総合的に最も優れた結果を示した。遊離のDOPOを含有する製剤は、T288耐性および銅のピール強度において非常に劣っていた。DOPO誘導体HCA−HQは、かなり良好であったが、(未転化の)残存粒子が観察された。このことは本成分の融点が高いことに起因するものであろう。成分XZ 92588も銅のピール強度にかなり劣っていた。第4表の結果参照。参照のST00036は難燃性を全く有さない。
【0046】
【表6】

【0047】
総括すると、本発明は、エポキシ樹脂、固体状硬化剤、前記エポキシ樹脂と類似する構造を有するリン含有二官能難燃剤、潜在型触媒、特に尿素触媒、および任意的に無機フィラーを含有する粉末被覆組成物を提供するものである。かかる硬化剤および触媒の組み合わせにより、低い溶融粘度における迅速な架橋を可能としつつ、しかし粉末のTgを高いまま(50℃超)とすることができる。リン含有難燃剤は樹脂の主骨格の一部となる。これは、今まで使用されてきた難燃剤と比較して少量で使用することができ、架橋の機構に悪影響を与えない。
本発明の組成物は、銅のピール強度がより高く、貯蔵寿命が向上されており、そして粉砕工程における高いスループットの如き良好な加工特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分:
(A)20℃において固体状であるエポキシ樹脂、
(B)20℃において固体状であり、平均官能基数>3であるフェノール系硬化剤、
(C)20℃において固体状であるリン変性エポキシ樹脂、および
(D)潜在型触媒
を含有する熱硬化性樹脂組成物を含有する粉末製剤。
【請求項2】
上記エポキシ樹脂(A)が150〜1,800g/eqの範囲のエポキシ当量を有する化学的に変性されたエポキシ樹脂である、請求項1の粉末製剤。
【請求項3】
上記フェノール系固体状硬化剤(B)が平均官能基数が少なくとも9のフェノール系ノボラック樹脂である、請求項1の粉末製剤。
【請求項4】
上記リン変性固体状エポキシ樹脂(C)が500g/eq未満のエポキシ当量および2重量%を超えるリン含量を有する二官能エポキシ樹脂である、請求項1の粉末製剤。
【請求項5】
潜在型触媒(D)が置換尿素またはウロン型触媒である、請求項1の粉末製剤。
【請求項6】
無機フィラー(E)をさらに含有する、請求項1の粉末製剤。
【請求項7】
上記無機フィラー(E)の平均粒径が5ミクロン未満である、請求項6の粉末製剤。
【請求項8】
実質的に
(i)成分(A)25〜50重量%、
(ii)成分(B)15〜25重量%、
(iii)成分(C)15〜25重量%、
(iv)成分(D)0.05〜1重量%、
(v)成分(E)0〜40重量%
からなる請求項1〜7の粉末製剤。
【請求項9】
実質的に
(i)成分(A)35〜45重量%、
(ii)成分(B)15〜25重量%、
(iii)成分(C)15〜25重量%、
(iv)成分(D)0.05〜1重量%、
(v)成分(E)20〜30重量%
からなる請求項8の粉末製剤。
【請求項10】
上記エポキシ樹脂(A)がイソシアネート−変性エポキシ樹脂、ブタジエン−アクリロニトリルゴム−変性エポキシ樹脂、多官能エポキシ−フェノールノボラック樹脂およびビスフェノールA型または脂肪族環状エポキシ樹脂よりなる群から選択される、請求項1または2の粉末製剤。
【請求項11】
上記フェノール系固体状硬化剤(B)がフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂およびビスフェノールA型ノボラック樹脂よりなる群から選択される、請求項1または3の粉末製剤。
【請求項12】
上記リン変性固体状エポキシ樹脂が2−(6−オキソ−6H−6,5−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィン−6−イル)ベンゼン−1,4−ジオールと(フェノール/ホルムアルデヒド重縮合物および1−クロロ−2,3−エポキシプロパンのエーテル化反応生成物)との重付加生成物である、請求項1または4の粉末製剤。
【請求項13】
上記潜在型触媒が一般化学構造
【化1】

ここで、R1は置換または非置換のフェニル基であり、R2およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基から選択される、
を有する群から選択される請求項1または5の粉末製剤。
【請求項14】
上記フィラーがSiO、Al、AlOOH、カオリンおよびタルクよりなる群から選択される、請求項1、6および7のいずれかの粉末製剤。
【請求項15】
(i)IPM 650 2.4.25Cに準拠してDSCにより測定したときに50℃を超える、A−ステージにおけるガラス転移温度、
(ii)角度2°のコーンプレート形状を用いて回転速度5rpmで測定したときに140℃において20Pas未満の溶融粘度、
(iii)IPM 650 2.4.25Cに準拠してDSCにより測定したときに150℃である、190℃において20分間架橋した後のガラス転移温度、
(iv)熱重量分析(TGA)で測定したときの1%重量減少温度が390℃を超える分解温度、および
(v)ASTM D150−98(2004)に準拠して1GHzにおいて測定したときに、<3.4である誘電率(Dk)および<0.018である誘電正接(Df)
を有する、請求項1〜14のいずれかの粉末製剤。

【請求項16】
基体を請求項1〜15の粉末製剤で被覆して被覆された基体とし、そして150℃以上に加熱して前記粉末製剤を前記基体に熱固定して樹脂で被覆された箔とすることによって得られる、樹脂被覆箔。
【請求項17】
補強材を有してプリプレグまたは積層体を形成する、請求項16の樹脂被覆箔。
【請求項18】
上記補強材が織布およびガラス布よりなる群から選択される、請求項17の樹脂被覆箔。
【請求項19】
E−ガラス布で補強され、電着銅で覆われた、請求項18の樹脂被覆箔。
【請求項20】
35ミクロンの銅厚における銅のピール強度が17N/cmを超え、300℃における層間剥離耐性が30分を超える、請求項19の樹脂被覆箔。
【請求項21】
銅の覆いを除去してオートクレーブ中で30分間煮沸した後の、288℃におけるはんだ浸漬試験に20秒間耐える、請求項20の樹脂被覆箔。
【請求項22】
ハロゲン化化合物を含有せず、そして
増加する厚さが6層に相当する240ミクロンとなるまで厚さ200ミクロンのFR4芯上に圧着するか、あるいは
4層に相当する厚さ160ミクロンのベアの積層体として圧着して
UL垂直燃焼性試験にV0として合格する、請求項21の樹脂被覆箔。
【請求項23】
下記の工程:
(i)成分(A)〜(D)および任意的に成分(E)を混合する工程、
(ii)工程(i)で得られた混合物を溶融押出しする工程、ならびに
(iii)押出された混合物を粉砕して篩い分けする工程
を有する、請求項1〜15の粉末製剤を調製する方法。
【請求項24】
請求項16〜22の樹脂被覆箔のプリント基板の製造への使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−507985(P2011−507985A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537307(P2010−537307)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010473
【国際公開番号】WO2009/074303
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(503037583)アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー (55)
【氏名又は名称原語表記】ATOTECH DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】