説明

樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法

【課題】外周に突起が形成された樹脂被覆線材の樹脂の使用量を抑える。
【解決手段】本発明の樹脂被覆装置1は、上流側から下流側へ向かって走行する金属線材の全周囲に対して溶融された樹脂を金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する被覆手段4と、被覆手段4で樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して樹脂を長手方向に沿って断続する複数の樹脂突起6を形成する突起形成手段7と、金属線材を走行させる走行状態と金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とで切り換え自在に金属線材を引き取る引取手段とを備えており、被覆手段4は引取手段が停止状態にある際に溶融した樹脂を突起形成手段に供給可能とされ、突起形成手段7は引取手段が停止状態である際に被覆手段4から溶融した樹脂が供給されて樹脂突起を形成する金型を有しているとともに引取手段が走行状態である際に樹脂突起を金型外へ取出可能とする金型開閉部を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線材の表面に樹脂を被覆させる樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅や鋼などの金属線材(棒材、線材あるいはパイプ材)の表面を、PVCやPEなどの熱可塑性樹脂で被覆する技術は従来より公知である。このような金属線材に対する熱可塑性樹脂の被覆は、線材用の樹脂被覆装置にて行われる。
ところで、このような熱可塑性樹脂を被覆した線材(以下、樹脂被覆線材という)については、被覆後の外見に目立った特徴がないため、外観による識別が非常に難しくなっている。特に、交流電力ケーブルや信号ケーブルには複数の樹脂被覆線材を撚り集めて1本のケーブルとしたものがあり、このようなケーブルでは配線工事での樹脂被覆線材同士の識別を簡単にしたいという要望が強い。そのため、外見に目立った特徴がないこのような樹脂被覆線材に突起などの目印を設けて、識別性に優れた樹脂被覆線材を得る技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂被覆線材の表面に、「長手方向に連続した突起」を形成して、樹脂被覆線材の識別性を高めたものが開示されている。この特許文献1の技術は、樹脂被覆装置において、金属線材の表面に配される樹脂とは異なる第2の樹脂、例えば着色剤などが含まれた樹脂などを溶融状態で供給するものである。この特許文献1の装置では、補助押出機から押し出された第2の樹脂を、クロスヘッドボディの内部で第1の樹脂に重ね合わせ、重ね合わせた状態のまま樹脂流路から押し出して、金属線材の表面を被覆する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−84611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1における樹脂被覆線材は、連続した突起を形成したものであるため、突起を形成しないものより多くの樹脂が必要となる。特許文献1の図を参照すると比較的微小な突起が示されているに過ぎないが、この突起の幅を金属線材と同程度の幅広く形成したり、高さをより高く形成したりすると、更に多くの樹脂が必要となる。しかしながら、特許文献1においては、樹脂の使用量を抑える手段については何ら提案されていない。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、外周に突起が形成された樹脂被覆線材の樹脂の使用量を抑えることができる樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の樹脂被覆装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の樹脂被覆装置は、上流側から下流側へ向かって走行する金属線材の全周囲に対して、溶融された樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する被覆手段と、前記被覆手段で樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、前記長手方向に沿って断続する複数の樹脂突起を形成する突起形成手段と、前記金属線材を引き取ることで走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とで切り換え自在な引取手段と、を備えており、前記被覆手段は、前記引取手段が停止状態にある際に溶融した樹脂を前記突起形成手段に供給可能とされ、前記突起形成手段は、前記引取手段が停止状態である際に前記被覆手段から溶融した樹脂が供給されて前記樹脂突起を形成する金型を有しているとともに、前記引取手段が走行状態である際に前記樹脂突起を金型外へ取出可能とする金型開閉部を有していることを特徴とするものである。
【0008】
好ましくは、前記金型は、前記樹脂突起を形成する凹部を備えており、前記凹部の上流側に前記被覆手段からの樹脂を当該凹部へ導入する樹脂導入ギャップが形成されていると良い。
また、本発明の樹脂被覆方法は、上流側から下流側へ向かって走行する金属線材の全周囲に対して、溶融された樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆し、前記樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、突起形成手段で前記長手方向に沿って断続する複数の樹脂突起を形成するに際して、前記金属線材を、連続して走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止する停止状態とに切り換え自在としておいて、前記金属線材が停止状態にある際に、溶融した樹脂を前記突起形成手段の金型内に供給して前記樹脂突起を形成し、前記金属線材が走行状態にある際に、前記樹脂突起を金型外へ取り出すことを特徴とするものである。
【0009】
好ましくは、前記金型に関し、前記樹脂突起を形成する凹部を設けると共に、前記凹部の上流側に前記樹脂導入ギャップを形成しておいて、前記樹脂導入ギャップを介して当該凹部に前記樹脂を導入すると良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法によれば、外周に突起が形成された樹脂被覆線材の樹脂の使用量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の樹脂被覆装置を模式的に示す正面断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】樹脂充填中の樹脂被覆装置の正面断面図である。
【図4】本発明の樹脂被覆方法の工程を示す図である。
【図5】本発明の樹脂被覆装置を用いて製造される樹脂被覆線材を模式的に示す斜視図であり、(b)は同じ樹脂被覆装置を用いて製造される樹脂被覆線材のその他の例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の樹脂被覆装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本発明の樹脂被覆装置1の全体構成を示している。
本発明の樹脂被覆装置1は、金属線材Wをその長手方向に沿って走行させることが可能な被覆線材を引き取る引取機(図示せず)と、この引取機により引き取られることで走行する金属線材Wの全周囲に対して、溶融された樹脂3で被覆する被覆手段4とを備えている。さらに、この樹脂被覆装置1は、被覆手段4で樹脂3の被覆層が形成された被覆線材の周囲の一部に対して、被覆層の表面に樹脂3を長手方向に沿って断続的に肉盛り(被覆)可能とするために、樹脂3の被覆層が形成された被覆線材の長手方向に断続する複数の樹脂突起6を形成する突起形成手段7を備えている。
【0013】
なお、以下の説明において、樹脂被覆装置1は、金属線材Wを図1の左側から右側に向かって水平に移動(走行)させつつ被覆を行うものとし、図1の紙面における左側を装置の説明をする際の上流側、図1の紙面における右側を装置の説明をする際の下流側とする。また、図1の紙面における上下を装置の説明をする際の上下とする。
樹脂被覆装置1において樹脂3を被覆する対象である金属線材Wは、銅や鋼などの金属で形成された長尺材(線材、板材、棒材またはパイプ材)である。本実施形態の金属線材Wには銅製で断面形状が矩形の線材が用いられているが、金属線材Wの断面形状は例えば丸形(円形)や環形であっても良いし、金属線材Wには中実な棒材や板材、或いは中空のパイプ材などを用いることもできる。
【0014】
金属線材Wを水平方向に沿って移動させる引取機(図示せず)は、後述するクロスヘッドボディ8の下流側に配備されていて、金属線材Wを被覆した後の被覆線材を引き取ることで、下流側(図1における右側)に向かって水平に送るものとなっている。このようにして引取機で移動させられた金属線材Wは、被覆手段4を通過する。
被覆手段4は、金属線材Wの周囲を溶融された樹脂3で被覆するものである。被覆手段4は、金属線材Wを案内する芯金10と、この芯金10で案内された金属線材Wの全周囲に樹脂3を被覆するダイス11と、これらの芯金10とダイス11とを内部に収容するクロスヘッドボディ8(被覆手段4の本体)とを有している。
【0015】
詳しくは、芯金10は、漏斗を水平方向に横倒ししたような形状を有する部材であり、大径に開口する大径筒部10aと、この大径筒部10aより小径に開口する小径筒部10bと、大径筒部10aと小径筒部10bとの間に配備される円錐筒部10cとを有している。芯金10は、大径に開口した大径筒部10aを上流側に向けると共に小径に開口した小径筒部10bを下流側に向けるようにして配備されている。
【0016】
クロスヘッドボディ8は溶融した樹脂3から加わる圧力に耐えられるように金属などの材料を用いて厚肉に形成されている。クロスヘッドボディ8の内部には、芯金10の外形(大径筒部10aと円錐筒部10cの上流側の外形)に合わせて空洞が形成されており、この空洞には、芯金10が収容されていて、当該芯金10の小径筒部10bの先端がクロスヘッドボディ8から下流側に向かって突出するようになっている。
【0017】
クロスヘッドボディ8の空洞は芯金10の外形よりやや大きいサイズに形成されており、クロスヘッドボディ8の内周面と芯金10の外周面との間に隙間が形成されている。このクロスヘッドボディ8と芯金10との間に形成される隙間は、溶融した樹脂3を流通可能な流路となっている。この流路の上流側には図示していない押出機が配備されており、流路には押出機で可塑化された樹脂3が供給されている。
【0018】
一方、ダイス11は、クロスヘッドボディ8の下流側となる部分に嵌り込むように配備されている。このダイス11の内部にも、芯金10の外形(円錐筒部10cの下流側の外形と小径筒部10b)に合わせて空洞が形成されており、この空洞に芯金10の小径筒部10bが収容されている。
ダイス11の空洞もクロスヘッドボディ8より小さいサイズに形成されており、ダイス11の内周面と芯金10の外周面との間に隙間が形成されている。このダイス11と芯金10との間に形成される隙間も溶融した樹脂3を流通可能な流路となっており、この流路を流通した樹脂3はダイス11の下流側の面から押し出される。
【0019】
上述した被覆手段4では、この芯金10の下流側に向けて突出した部分にダイス11を被せ、このダイス11をクロスヘッドボディ8で外側から覆った上で、このクロスヘッドボディ8の開口をダイス抑え部材12で蓋をするようにして固定している。
このようにして被覆手段4では、押出機で可塑化された樹脂3が、クロスヘッドボディ8と芯金10との間に形成される隙間、次にダイス11と芯金10との間に形成される隙間を経由して、ダイス11の下流側の端面から押し出される。このようにして押し出された樹脂3は、芯金10の内部を通過してきた金属線材Wの全周囲に塗布されるようになり、樹脂3で長手方向に連続的に被覆された金属線材W(以下、樹脂被覆線材という)が製造されることとなる。
【0020】
ところで、このようにして製造された樹脂被覆線材について、樹脂3の被覆層に上にさらに帯状の突起(樹脂突起6)を形成したものがある。
そこで、本発明の樹脂被覆装置1では、上述した被覆手段4で被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲(表面)をさらに樹脂3で長手方向に沿って断続的に被覆することにより、樹脂3で隆起状に形成された樹脂突起6を長手方向に断続して複数形成する突起形成手段7をさらに設けている。
次に、この突起形成手段7について、詳しく説明する。
【0021】
図1及び図2に示すように、突起形成手段7は樹脂被覆層の表面に樹脂突起6を形成する凹部13を備えた金型と、この金型が前記被覆線材の全周囲を覆う閉状態と当該周表面から離間した開状態とで金型を繰り返し開閉可能な金型開閉部15とを備えている。
突起形成手段7を構成する金型は、移動金型及び固定金型から構成されている。本実施形態では固定金型として下金型17が、移動金型として上金型16が設けられている。下金型17は、その上面が樹脂被覆線材の外周の一部に合わせて形成されており、その上面に樹脂被覆線材を載置可能となっている。なお、樹脂被覆線材の断面形状が矩形の場合の図示例では、下金型17が平板状に形成されており、その上面が平面に形成されている。また、樹脂突起6を形成する際には、この下金型17は、上下方向に高さ調整が可能な金型支持台18に載せられた状態で高さ位置が固定される。
図2に示すように上金型16は、ブロック状の部材であって、その下面には下方に向かって開口する溝部19が形成されている。この溝部19は、上金型16の下面に上流側から下流側に向かって直線状に伸びるように樹脂被覆線材の上面形状に合わせて形成されている。それゆえ、上金型16を下降させて下金型17に重ね合わせると、この上金型16の溝部19に樹脂被覆線材が入り込んで収容される。
【0022】
一方、図1に示すように、この上金型16の溝部19の上面には、溝部19からさらに上方に向かって凹むように形成された凹部13が設けられている。この凹部13は、後述する樹脂突起6に対応した形状を備えており、本実施形態の場合であればこの凹部13によって略直方体形状(図5(a)に示すような形状)の樹脂突起6を形成可能としている。
【0023】
なお、上述した上金型16と下金型17との間には、上金型16を下降させて下金型17に重ねた際に、上金型16と下金型17とが樹脂被覆線材の断面形状と合致する形状となるように、両金型の水平方向の位置決めを行う位置決めピン21が設けられている。
また、上金型16及び下金型17の内部には、押し出された樹脂3の冷却を早めて樹脂突起6の効率的な形成を可能とするため、冷却水を流す冷却水流路24が形成されている。
【0024】
金型開閉部15は、移動金型を案内しながら移動させて金型を開閉させるものである。本実施形態では、金型開閉部15は、上金型16を上下に案内して上金型16の凹部13を被覆層に対向させる閉状態と被覆層の周表面から離間した開状態とを交互に繰り返し可能なものとされている。金型開閉部15は、上金型16の四箇所(上金型16の回りを水平面上でバランスよく取り囲むような4位置)に設けられて上金型16を上下に沿って案内するスライドレール25と、下金型17に対して上金型16を上下方向に移動させるラックアンドピニオン式の昇降機構26とを有している。
【0025】
スライドレール25は、水平断面でL字状の断面を備えた棒状の部材であり、上下方向に沿って立設するように取り付けられて、上金型16の水平方向に沿った移動を規制しつつ上金型16を上下に案内できるようになっている。
昇降機構26は、上金型16の側面に上下方向に直線状に設けられたラック部27と、ラック部27と噛合して上金型16を上下に移動させるピニオンギヤ28とを有しており、電動モータなどを用いてピニオンギヤ28を回転駆動させることにより上金型16を下金型17に対して昇降させて、上金型16および下金型17からなる金型を開閉することができるようになっている。
【0026】
ところで、上述した突起形成手段7を用いて樹脂突起6を形成するには、例えば上金型16の内部を上下方向に貫通する貫通穴を、その下端が凹部13に開口するように形成しておいて、閉状態にある金型の凹部13に溶融した樹脂3を供給する必要がある。ただ、このような樹脂3の供給手段を採用する場合には、金型の構造が複雑になりやすく金型の加工に別途コストが必要となる他、凹部13に溶融した樹脂を供給する押出機のために別途コストが必要となる。
【0027】
そこで、本発明の樹脂被覆装置1では、被覆手段4から供給される樹脂3を突起形成手段7にも導いてこの被覆手段4から供給される樹脂3だけで突起を形成できるようにしているのである。
つまり、金属線材Wの走行を一時的に停止して、金属線材Wに対する樹脂3の被覆を一時的に休止する。そして、この走行停止中には、被覆手段4は送り出す樹脂3を突起形成手段7に振り替えて供給可能となる。そして、被覆手段4から樹脂3が供給された突起形成手段7で樹脂被覆層の表面に樹脂突起6を形成している。
【0028】
具体的には、本発明の樹脂被覆装置1では、まず金属線材Wを引き取ることで走行させる走行状態と、金属線材Wの走行を一時的に停止した停止状態とに切り換え自在な引取手段を備えている。一方で、被覆手段4は、引取手段が停止状態にある際も、引取手段が走行状態にある際と同様に溶融した樹脂3を連続して送り出すことが可能とされている。そして、本発明の樹脂被覆装置1では、このように引取手段が停止状態にある際に被覆手段4から送り出される樹脂3を樹脂導入ギャップ20から金型の凹部13内に案内して樹脂突起6を形成している。
【0029】
以下、本発明の樹脂被覆装置1に設けられる引取手段及び被覆手段4の特徴を説明すると共に、樹脂導入ギャップ20について詳しく説明する。
具体的には、上述した引取手段は、被覆手段4に対して金属線材Wの搬送方向の下流側に金属線材Wを引き取る図示しないローラを備えている。このローラは、例えば運転時間及び停止時間が調整可能な電動モータで運転を制御されており、金属線材Wを連続して走行させる走行状態と、金属線材Wの走行が一時的に停止させられる停止状態とを、所定の時間に亘って交互に選択できるようになっている。
【0030】
一方、被覆手段4は、金属線材Wの表面に溶融した樹脂3を連続して供給できるようになっている。つまり、金属線材Wが走行状態であるときも停止状態であるときも、被覆手段4は金属線材Wの表面に対しては溶融した樹脂3をダイス11の下流側の端面から供給し続ける。
それゆえ、金属線材Wが走行状態であるときは、引取手段から引き取られる金属線材Wの全周囲に樹脂3が順次供給され、金属線材Wを連続して送り出しつつその表面に樹脂被覆層を連続形成することが可能となる。また、金属線材Wが停止状態であるときには、供給される樹脂3の大部分が樹脂導入ギャップ20から突起形成手段7に流れ込んでこの突起形成手段7で樹脂突起6を形成するために用いられる。
【0031】
図3に示すように、樹脂導入ギャップ20は、樹脂突起6を形成する金型の凹部13内に溶融した樹脂3を被覆手段4からスムーズに案内するために必要な間隙である。具体的には、本実施形態の突起形成手段7の場合であれば図3の拡大図で示す間隔Dが樹脂導入ギャップ20となっている。
具体的には、上金型16の金型表面(下面)の中央には上方に向かって凹んだ凹部13が形成されており、この凹んだ凹部13の周囲には金型表面が取り囲むように配設されている。この凹部13を囲む金型表面のうち、上流側の金型表面には、水平方向に対して傾斜したテーパ面22が形成されている。このテーパ面22は、上流側から下流側に向かうにつれて樹脂被覆層の表面から離れるようになっていて、上流側では樹脂被覆層に接しているが、下流側に行くほど樹脂被覆層からの距離が大きくなる。そして、テーパ面22の中でも樹脂被覆層から最も離れた下流側の端と樹脂被覆層との距離、言い換えればテーパ面22とダイス抑え部材12出口における樹脂被覆層との最大距離Dが上述した樹脂導入ギャップ20となる。
【0032】
このように樹脂導入ギャップ20を設ければ、金属線材Wの送り出しが停止されているときに被覆手段4から供給される樹脂3を、スムーズに金型の凹部13に案内することができ、樹脂被覆層の表面に樹脂突起6を容易に形成することが可能となるからである。
また、本実施形態の場合、ダイス抑え部材12には、テーパ面22とは逆向きの逆テーパ面23が形成されている。
【0033】
詳しくは、この逆テーパ面23は、下流側に向かうにつれて金属線材Wの表面に徐々に近接するように傾斜していて、ダイス11の後端面から押し出された樹脂3をその傾斜した表面に沿って案内して、金属線材Wの表面に樹脂3を接触させることを可能としている。このようにして溶融した樹脂3と接触した金属線材Wは、ダイス抑え部材12の後端側の開口(出口)から樹脂3と一緒に押し出される。つまり、ダイス抑え部材12の後端側の開口は、樹脂被覆線材を押し出す押出ノズルの口金として機能する。
【0034】
なお、前述した押圧部15により、上金型16が下降し金型が閉じた状態(閉状態)にある際には、逆テーパ面23の後端側の開口(出口)は、樹脂導入ギャップ20の入口に一致して連通するようになっている。
次に、上述した突起形成手段7を用いて樹脂被覆を行いながら樹脂突起6を形成する方法、言い換えれば本実施形態の樹脂被覆方法を説明する。
【0035】
図3,図4(a)〜図4(e)に示すように、本実施形態の樹脂被覆方法は、上流側から下流側へ向かって走行する金属線材Wの全周囲に対して、溶融された樹脂3をこの金属線材Wの長手方向に沿って連続的に被覆し、樹脂3の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、樹脂3を長手方向に沿って断続的に被覆する際、換言すると突起形成手段で断続する複数の樹脂突起6を形成するに際して、金属線材Wを、連続して走行させる走行状態と、金属線材Wの走行を一時的に停止する停止状態とに切り換え自在としておいて、金属線材Wが停止状態にある際に、溶融した樹脂3を連続して金属線材Wの全周囲に供給することで、その樹脂3を金型に形成された樹脂導入ギャップ20を介して金型内に導入して、樹脂突起6を形成するものである。
【0036】
具体的には、樹脂被覆は以下の手順で行われる。
図4(a)に示すように、金属線材Wを水平方向に沿って走行させ、この走行する金属線材Wの表面に溶融された樹脂3を押し出して、樹脂3で金属線材Wの表面を全周囲に亘って被覆する。
この状態では、樹脂被覆線材(金属線材W)は所定の搬送速度(走行速度)で絶え間なく走行しており、また溶融した樹脂3はダイス11の後端面からダイス抑え部材12の逆テーパ面23を経由し、ダイス抑え部材12の後端面の開口から押し出されて、金属線材Wの表面を被覆している。
【0037】
図4(b)に示すように、樹脂突起6を形成するには、金属線材Wの送り出しを一時的に停止(停止状態に)する。そして、この一時停止に合わせて金型開閉部15を用いて上金型16とした金型17を重ね合わせて金型を閉状態とする。
そうすると、図4(c)乃至は図3に示すように、ダイス抑え部材12の後端面(上流側面)の開口から逆テーパ面23を介して押し出された樹脂3が、金型の凹部13に入るところでテーパ面22に沿って上方に案内され、金型の凹部13に入ったところで既に被覆されている樹脂3を乗り越えるようにして凹部13内に流れ込む。それゆえ、樹脂3をスムーズに金型の凹部13に案内することができ、樹脂被覆層の表面に樹脂突起6が形成され易くなる。
【0038】
図4(d)に示すように、金型の凹部13が樹脂3により充填されると、樹脂被覆層の表面に樹脂突起6が確実に形成される。
図4(e)に示すように、樹脂突起6が樹脂被覆層に形成されたら、金型開閉部15を用いて金型を樹脂突起6の取り出しが可能な開状態にさせた後、金属線材Wを再び停止状態から走行状態にする。これ以降は、上述した図4(a)〜図4(e)の操作を繰り返すことにより、樹脂被覆層の表面に複数の樹脂3突起を長手方向に断続的に形成することが可能となる。
【0039】
図5(a)に示すように、上述の樹脂被覆方法で樹脂被覆層の表面に形成される樹脂突起6は、長手方向に断続的に複数設けられる。このように樹脂突起6を金属線材Wの長手方向に断続的に形成すれば、樹脂突起6の成形に必要な樹脂3の量が連続的に形成したものに比べて少なく抑えられる。
さらに、上述の樹脂被覆方法では、同じ被覆手段4から供給される同じ樹脂3を用いて、樹脂被覆層の形成と樹脂突起6の形成とが行われるため、樹脂突起6を形成するための樹脂を金型内に供給する経路を別途用意する必要がなく、装置構成が簡単になるという長所を備えている。
【0040】
なお、上述した例は、矩形状の金属線材Wの表面に樹脂突起6を形成した例であったが、図5(b)に示すように断面形状が円形状の金属線材Wの表面に樹脂突起6を形成することもできる。
以上述べた如く、本実施形態の樹脂被覆装置1を用いることで、樹脂突起6の成形に必要な樹脂3の量が連続的に形成したものに比べて少なく抑えることができる。
【0041】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせ、金属線材の断面形状、樹脂突起の形状などを適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 樹脂被覆装置
3 樹脂
4 被覆手段
6 樹脂突起
7 突起形成手段
8 クロスヘッドボディ
9 送出ローラ
10 芯金
10a芯金の大径筒部
10b芯金の小径筒部
10c芯金の円錐筒部
11 ダイス
12 ダイス抑え部材
13 凹部
15 金型開閉部
16 上金型
17 下金型
18 金型支持台
19 溝部
20 樹脂導入ギャップ
21 位置決めピン
22 テーパ面
23 逆テーパ面
24 冷却水流路
25 スライドレール
26 昇降機構
27 ラック部
28 ピニオンギヤ
W 金属線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側へ向かって走行する金属線材の全周囲に対して、溶融された樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する被覆手段と、
前記被覆手段で樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、前記長手方向に沿って断続する複数の樹脂突起を形成する突起形成手段と、
前記金属線材を引き取ることで走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とで切り換え自在な引取手段と、
を備えており、
前記被覆手段は、前記引取手段が停止状態にある際に溶融した樹脂を前記突起形成手段に供給可能とされ、
前記突起形成手段は、前記引取手段が停止状態である際に前記被覆手段から溶融した樹脂が供給されて前記樹脂突起を形成する金型を有しているとともに、前記引取手段が走行状態である際に前記樹脂突起を金型外へ取出可能とする金型開閉部を有していることを特徴とする樹脂被覆装置。
【請求項2】
前記金型は、前記樹脂突起を形成する凹部を備えており、前記凹部の上流側に前記被覆手段からの樹脂を当該凹部へ導入する樹脂導入ギャップが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆装置。
【請求項3】
上流側から下流側へ向かって走行する金属線材の全周囲に対して、溶融された樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆し、前記樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、突起形成手段で前記長手方向に沿って断続する複数の樹脂突起を形成するに際して、
前記金属線材を、連続して走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止する停止状態とに切り換え自在としておいて、
前記金属線材が停止状態にある際に、溶融した樹脂を前記突起形成手段の金型内に供給して前記樹脂突起を形成し、前記金属線材が走行状態にある際に、前記樹脂突起を金型外へ取り出すことを特徴とする樹脂被覆方法。
【請求項4】
前記金型に関し、前記樹脂突起を形成する凹部を設けると共に、前記凹部の上流側に樹脂導入ギャップを形成しておいて、
前記樹脂導入ギャップを介して当該凹部に前記樹脂を導入することを特徴とする請求項3に記載の樹脂被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121252(P2012−121252A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274756(P2010−274756)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】