説明

樹脂被覆金属顔料の製造方法

【課題】水性塗料、水性インキ等に用いた際の保存安定性(貯蔵安定性)に優れると共に、塗膜の耐薬品性に優れ、良好なメタリック調の塗膜外観を付与し得る樹脂被覆金属顔料の製造方法を提供する。
【解決手段】金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸及びリン酸エステルを接触させることを特徴とする樹脂被覆金属顔料の製造方法であり、樹脂被覆金属粒子として、金属粒子の表面が、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分を含む重合体で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる樹脂被覆金属顔料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタリック塗装やインク等における金属光沢成分として使用される樹脂被覆金属顔料の製造方法に関する。
【0002】
なお、この明細書及び特許請求の範囲において、「ポリ酸」の語は、ポリ酸のみならず、ポリ酸アンモニウム塩を含む意味で用い、「ヘテロポリ酸」の語は、ヘテロポリ酸のみならず、ヘテロポリ酸アンモニウム塩を含む意味で用い、「混合配位型ヘテロポリ酸」の語は、混合配位型ヘテロポリ酸のみならず、混合配位型ヘテロポリ酸のアンモニウム塩を含む意味で用いる。
【0003】
また、この明細書及び特許請求の範囲において、「モノマー」の語は、モノマー及びオリゴマーを含む意味で用いる。
【背景技術】
【0004】
近年、溶剤型塗料に代わり、溶剤使用比率を低減したハイソリッド型塗料、水性塗料、粉体塗料等が注目されている。
【0005】
水性メタリック塗料の場合、金属光沢成分である金属顔料が、酸、アルカリ、水と反応しやすいために、貯蔵中に金属顔料が変質して良好なメタリック色調を発現できなくなったり、貯蔵中に前記反応で発生した水素ガスにより貯蔵容器が膨らんで変形する(貯蔵安定性が悪い)ことが懸念される。また、水性メタリック塗料は、溶剤型塗料の代替としての位置づけから、耐薬品性や密着性等についても十分な性能を備えていることが要求されている。
【0006】
特許文献1には、金属粉末の表面に有機リン酸エステルを被覆することが提案され、特許文献2には、過酸化ポリモリブデン酸から誘導される皮膜が形成されたアルミニウム顔料が提案されているが、これらは貯蔵安定性は良いものの、耐薬品性と密着性において十分な性能が得られない。
【0007】
特許文献3には、アルミニウム粒子表面に膜厚0.5〜5nmのシリカ薄膜が多層に形成されてなるシリカ被覆アルミニウム顔料が提案されているが、これも貯蔵安定性は良いものの、耐薬品性と密着性において十分な性能が得られない。
【0008】
特許文献4、5には、金属粒子表面に樹脂を被覆した樹脂被覆金属顔料が提案されているが、耐薬品性は良いものの、貯蔵安定性が不十分である。
【0009】
特許文献6には、ラジカル重合性二重結合を有するカップリング剤等を含む共重合体樹脂で金属粒子表面を被覆してなる顔料が提案され、特許文献7には、金属顔料の表面にリン酸エステルが吸着してなるリン酸エステル吸着金属顔料を調製する吸着工程と、前記リン酸エステル吸着金属顔料の表面に樹脂被覆層を形成する被覆工程と、を含む樹脂被覆金属顔料の製造方法が記載されているが、これらの技術では、塗膜表面にブツが発生しやすく十分な意匠性が得られ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−8057号公報
【特許文献2】国際公開WO02−031061号公報
【特許文献3】特開2004−124069号公報
【特許文献4】特開昭64−40566号公報
【特許文献5】特開2005−146111号公報
【特許文献6】国際公開WO96−038506号公報
【特許文献7】特開2007−119671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、水性塗料、水性インキ等に用いた際の保存安定性(貯蔵安定性)に優れると共に、塗膜の耐薬品性に優れ、良好なメタリック調の塗膜外観を付与し得る樹脂被覆金属顔料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0013】
[1]金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸及びリン酸エステルを接触させることを特徴とする樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0014】
[2]金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸を接触させることを特徴とする樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0015】
[3]前記ポリ酸が、ヘテロポリ酸及び混合配位型ヘテロポリ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ酸であり、
前記ヘテロポリ酸及び前記混合配位型ヘテロポリ酸を構成する金属種が、Mo、V、Ti、SiまたはWである前項1または2に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0016】
[4]前記樹脂被覆金属粒子100質量部に対し前記ポリ酸を0.01〜10質量部混合することによって前記接触を行う前項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0017】
[5]前記樹脂被覆金属粒子として、金属分100質量部に対して樹脂が1〜40質量部被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる前項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0018】
[6]前記樹脂被覆金属粒子として、金属粒子の表面が、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分を含む重合体で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる前項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0019】
[7]前記樹脂被覆金属粒子として、金属粒子の表面が、共重合成分の一つとして下記一般式(I);
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R1及びR2は水素原子またはメチル基を示し、nは数平均で3〜40の範囲である)で表されるリン酸エステル成分を含む共重合体樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる前項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0022】
[8]前記一般式(I)におけるR1及びR2が共にメチル基である前項7に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0023】
[9]前記共重合体樹脂は、共重合成分として、前記リン酸エステル成分と、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1つ有したモノマーと、を含むものである前項7または8に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0024】
[10]前記樹脂被覆金属粒子を構成する金属がアルミニウムである前項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【0025】
[11]前項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法で製造された樹脂被覆金属顔料を含有することを特徴とする水性塗料。
【0026】
[12]前項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法で製造された樹脂被覆金属顔料を含有することを特徴とする水性インキ。
【発明の効果】
【0027】
[1]および[2]の発明に係る製造方法によれば、例えば水性塗料等に用いた場合に、保存安定性(貯蔵安定性)、塗膜の耐薬品性に優れ、塗膜にブツ等がない意匠性の高いメタリック調塗膜を形成し得る樹脂被覆金属顔料を、少ない工程数で生産性良く製造することができる。
【0028】
なお、[1]の製造方法は、[2]の製造方法と比べて水素ガス発生量をより低減できる点で、より好ましい製造方法である。このように[1]の製造方法の方が、水素ガス発生低減の点でより優れているのは、[2]の製造方法では得られる樹脂被覆金属粒子の被覆樹脂の外表面にポリ酸のみが固着しているのに対し、[1]の製造方法では樹脂被覆金属粒子の被覆樹脂の外表面にポリ酸及びリン酸エステルの両方が固着しているためと推定しているが、本製造方法により得られる樹脂被覆金属顔料の詳細な表面状態は定かではない。
【0029】
[3]の発明では、ポリ酸として、構成金属種がMo、V、Ti、SiまたはWであるヘテロポリ酸及び構成金属種がMo、V、Ti、SiまたはWである混合配位型ヘテロポリ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ酸を用いるから、保存安定性(貯蔵安定性)をより向上させた樹脂被覆金属顔料を製造できる。
【0030】
[4]の発明では、樹脂被覆金属粒子100質量部に対しポリ酸を0.01〜10質量部混合することによって前記接触を行うから、十分な貯蔵安定性を確保できると共に、塗料、インキ等のゲル化を十分に防止できる。
【0031】
[5]の発明では、樹脂被覆金属粒子は、金属分100質量部に対して樹脂が1〜40質量部被覆されてなる構成であるから、塗膜の耐薬品性及び密着性を十分に向上させることができる。
【0032】
[6]の発明では、樹脂被覆金属粒子として、金属粒子の表面が、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分を含む重合体で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いるから、水性塗料や水性インキ等に用いた場合にその塗膜の耐薬品性、密着性及び意匠性(外観)をより向上させることのできる樹脂被覆金属顔料を製造できる。
【0033】
[7]の発明では、樹脂被覆の共重合成分とするリン酸エステルモノマー成分がエステル鎖の長い特定構造を有するため、樹脂被覆形成時の疎水性溶媒によく溶けて未反応部を残さずに共重合するから、水性塗料や水性インキ等に用いた場合にその塗膜の耐薬品性、密着性及び意匠性(外観)をより一層向上させることのできる樹脂被覆金属顔料を製造できる。
【0034】
[8]の発明では、上記エステル鎖の長い特定構造のリン酸エステルモノマー成分として、前記一般式(I)におけるR1及びR2が共にメチル基である構成のものを用いるから、その疎水性度がより強く、樹脂被覆形成時の疎水性溶媒への溶解性及び反応性がより向上し、塗膜の耐薬品性及び意匠性(外観)をより向上させた樹脂被覆金属顔料を製造できる。
【0035】
[9]の発明では、被覆樹脂(共重合体)は、共重合成分として、前記リン酸エステル成分と、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1つ有したモノマーとを含むものであるから、塗膜の耐薬品性及び意匠性(外観)をより一層向上させた樹脂被覆金属顔料を製造できる。
【0036】
[10]の発明では、樹脂被覆金属粒子を構成する金属がアルミニウムであり、このアルミニウムは水と反応して水素ガスを多く発生するものであるが、本発明によれば、このように金属がアルミニウムである場合であっても水素ガス発生を十分に抑制できるので、優れた貯蔵安定性を確保できる。
【0037】
[11]の発明では、塗膜の耐薬品性に優れ、良好なメタリック調の塗膜外観を付与し得ると共に、保存安定性(貯蔵安定性)に優れた水性塗料が提供される。
【0038】
[12]の発明では、塗膜の耐薬品性に優れ、良好なメタリック調の塗膜外観を付与し得ると共に、保存安定性(貯蔵安定性)に優れた水性インキが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係る水性塗料用樹脂被覆金属顔料の製造方法(第1製造方法)は、金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸及びリン酸エステルを接触させることを特徴とする。また、本発明の別の製造方法(第2製造方法)は、金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸を接触させることを特徴とする。
【0040】
上記第1及び第2製造方法によれば、樹脂被覆金属粒子の表面にポリ酸及びリン酸エステルを接触処理しているので、又はポリ酸を接触処理しているので、このような接触処理を経て得られた樹脂被覆金属顔料は、これを用いて水性塗料、水性インキ等を作製した場合に、貯蔵中(保存中)の水性塗料、水性インキにおける水素発生量は格段に少ないものとなる。かくして、本製造方法で製造された樹脂被覆金属顔料は、例えば水性塗料等に用いた場合に、保存安定性(貯蔵安定性)、塗膜の耐薬品性に優れ、塗膜にブツ等がない意匠性の高いメタリック調塗膜を形成し得る樹脂被覆金属顔料を、少ない工程数で生産性良く製造することができる。
【0041】
本発明において、前記樹脂被覆金属粒子を構成する金属粒子としては、従来よりメタリック塗料用顔料として知られているものをいずれも使用できるが、一般的にはフレーク状アルミニウム粒子等のフレーク状金属粒子を用いる。
【0042】
前記フレーク状金属粒子としては、輝度感及び緻密感に優れたメタリック塗膜等を形成できる点で、平均粒径が2〜80μm、平均厚さが0.03〜3μmであるものを用いるのが好ましい。
【0043】
前記樹脂被覆金属粒子としては、金属粒子の表面が、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分(以下、「特定のモノマー成分」という場合がある)を含む重合体で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いるのが好ましい。前記重合体としては、前記特定のモノマー成分の1種による単独重合体であってもよいし、前記特定のモノマー成分の2種以上による共重合体であってもよいし、前記特定のモノマー成分(1種又は2種以上)と他のモノマー(1種又は2種以上)との共重合体であってもよい。
【0044】
前記特定のモノマー成分は、前記金属粒子を被覆する樹脂の少なくとも一部を構成するものである。
【0045】
前記ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル(リン酸モノエステル、リン酸ジエステル等)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アシッドホスホオキシポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
前記ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル(ホスホン酸モノエステル、ホスホン酸ジエステル)としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビス(2−クロロエチルビニルホスホネート)等が挙げられる。
【0047】
ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトシキシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
中でも、前記樹脂被覆金属粒子としては、金属粒子の表面が、共重合成分の一つとして下記一般式(I);
【0049】
【化2】

【0050】
(式中、R1及びR2は水素原子またはメチル基を示し、nは数平均で3〜40の範囲である)で表されるリン酸エステル成分を含む共重合体樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いるのが特に好ましい。
【0051】
前記一般式(I)で表されるリン酸エステル成分の代表例としては、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。これらの中でも、前記一般式(I)におけるR1及びR2が共にメチル基であるアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートが、メタリック塗膜の耐薬品性、密着性、意匠性(外観)により優れる点で、特に好ましい。
【0052】
なお、前記一般式におけるnが3未満では、被覆樹脂重合時に用いる疎水性溶剤に難溶となり、未反応のリン酸エステルモノマーが大量に残ってメタリック塗膜表面のブツ等になって外観に悪影響を及ぼしやすくなるので、好ましくない。これは、リン酸基の親水性が強すぎるためと考えられる。一方、前記一般式におけるnが40を超えると、リン酸エステルモノマー成分としての分子量が大き過ぎて、相対的にリン酸基の濃度が低下して耐水性を発現させる十分なアンカー効果が得られないし、エステル鎖の分子量が大きくなり塗膜との密着性が悪くなりやすくなるので、好ましくない。特に優れた塗膜外観を得る上で、前記一般式におけるnが数平均で3〜30の範囲がより好ましく、更にnが数平均で4〜20の範囲が特に好適である。
【0053】
前記一般式(I)のリン酸エステルモノマー成分は、1種でも良いし、2種以上の混合でも良い。また、通常不純物あるいは新たな添加成分として、ラジカル重合性二重結合を有しないリン酸モノおよび/またはジエステルを少量含んでいてもよい。
【0054】
前記特定のモノマー成分(ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分)の使用量(被覆量)は、金属粒子100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲が好ましい。この使用量が0.1質量部以上であることでメタリック塗料やメタリックインキの貯蔵安定性が良好なものとなるし、10質量部以下であることで樹脂被覆金属顔料の凝集を抑制できるし、塗膜の意匠性も向上させることができる。
【0055】
前記特定のモノマー成分(ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分)と共に樹脂被覆の共重合体を形成する他の共重合モノマー成分としては、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するモノマー(オリゴマーを含む)が好適であり、その具体例としては、不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等)、不飽和カルボン酸のニトリル(例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、不飽和カルボン酸のエステル(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸シクロヘキシル、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールプロパンメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジ−ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジ−ペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジ−ペンタエリスリトールペンタアクリレートモノプロピオネート、トリアクリルホルマール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル等)、環式不飽和化合物(例えばシクロヘキセン等)、芳香族系不飽和化合物(例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、シクロヘキセンビニルモノオキシド、ジビニルベンゼンモノオキシド、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アリルベンゼン、ジアリルベンゼン等)などが挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用できる。
【0056】
また、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するオリゴマーとしては、例えば、エポキシ化1、2−ポリブタジエン、アクリル変性ポリエステル、アクリル変性ポリエーテル、アクリル変性ウレタン、アクリル変性エポキシ、アクリル変性スピラン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用できる。
【0057】
前記樹脂被覆金属粒子の被覆樹脂は、耐薬品性を向上できる点で、三次元架橋構造であるのが好ましい。三次元架橋構造とする場合には、前記重合体を構成するモノマー成分の少なくとも1つに、ラジカル重合性二重結合を2個以上有するモノマーを用いるのが好ましい。
【0058】
前記樹脂被覆金属粒子において、金属粒子100質量部に対して被覆樹脂量が1〜40質量部であるのが好ましい。1質量部以上とすることで密着性、耐薬品性を十分に向上できるし、40質量部以下とすることでメタリック塗膜の意匠性を十分に向上できる。
【0059】
前記金属粒子の表面に共重合等による樹脂被覆を行う際には、反応効率を増大させるために重合開始剤を用いるのが好ましい。この重合開始剤としては、ラジカル重合用として一般的なものが使用可能であり、例えば、イソブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等のパーオキサイド類、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0060】
前記重合開始剤の使用量は、重合成分の合計量100質量部に対し0.1質量部以上は必要であり、さらに好ましくは0.4質量部以上用いるのがよい。但し、100質量部以上用いると、重合が急激に進行するが、樹脂被覆層が弱くなる傾向が顕著であるから、100質量部未満の使用量にするのが好ましい。
【0061】
前記金属粒子の表面に共重合等による樹脂被覆を行う際、重合温度は、一般的には40〜150℃が適当である。この重合工程においては、効率的な重合反応を維持するために、重合系内を窒素などの不活性ガスで置換しておくことが推奨される。また、重合時間は、1〜24時間が好ましく、2〜8時間が特に好ましい。
【0062】
前記重合に用いる好ましい溶媒は、疎水性であって、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンの如きアルカン類、その異性体、シクロアルカン類、その異性体、これらの混合物等が挙げられ、芳香族化合物を含有していても良い。工業的に特に望ましい重合溶媒は、JIS K2201に規定される工業ガソリン4号、工業ガソリン5号であり、コスト、沈殿重合の起こり易さ、安全性などから、ミネラルスピリットと呼ばれる脂肪族炭化水素が好適である。
【0063】
このようにして樹脂被覆を施した金属粒子(顔料)を含むスラリーは、濾過などの適当な方法で溶剤をある程度除くことにより、ペースト状とされる。
【0064】
次に、前記樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸及びリン酸エステルを接触させることによって、本発明の樹脂被覆金属顔料を得る。
【0065】
前記接触の順序は特に限定されない。即ち、1)樹脂被覆金属粒子にポリ酸を接触させた後に該粒子にさらにリン酸エステルを接触させるようにしてもよいし、2)樹脂被覆金属粒子にリン酸エステルを接触させた後に該粒子にさらにポリ酸を接触させるようにしてもよいし、3)ポリ酸とリン酸エステルを同時に接触させるようにしてもよい。前記3)の場合には、例えばポリ酸及びリン酸エステルを含有した混合組成物と、樹脂被覆金属粒子とを混合すればよい。これらの中でも、ポリ酸及びリン酸エステルを含有した混合組成物と、樹脂被覆金属粒子とを混合するのが、製造工程数を少なくできて生産性を向上できる点で、好ましい。
【0066】
また、前記樹脂被覆金属粒子にポリ酸を接触させることによって、本発明の樹脂被覆金属顔料を得ることもできる。
【0067】
前記ポリ酸及び/又はリン酸エステルとの接触処理を行う際には、例えば、樹脂被覆金属粒子を水溶性有機溶媒に分散させたスラリー液にポリ酸及び/又はリン酸エステルを投入して接触処理を行ってもよいし(液相法)、樹脂被覆金属顔料ペーストが水溶性有機溶媒に既に置換された状態のものであればこの顔料ペーストにポリ酸及び/又はリン酸エステルを直接に添加処理してもよいし(バルク法)、ポリ酸及び/又はリン酸エステルを水溶性有機溶媒に溶解せしめたものを、ペースト状態の樹脂被覆金属粒子に投入して接触処理を行ってもよい(バルク法)。但し、前記液相法でポリ酸及び/又はリン酸エステルとの接触処理を行う際にはバルク法よりもポリ酸及び/又はリン酸エステルを多く投入する必要がある。
【0068】
前記ポリ酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、イソポリ酸、ヘテロポリ酸、混合配位型ヘテロポリ酸等が挙げられる。
【0069】
前記イソポリ酸は、下記一般式(II);
(MmnX- …(II)
(式中、Mは金属原子であり、m、n、xはいずれも1以上の整数である)
で表される化合物である。
【0070】
前記ヘテロポリ酸は、下記一般式(III);
(XlmnX- …(III)
(式中、Mは金属原子であり、Xは、M以外のヘテロ原子であり、l、m、n、xはいずれも1以上の整数である)
で表される化合物である。
【0071】
前記混合配位型ヘテロポリ酸は、上記一般式(III)において金属原子Mが2種類以上の金属原子で構成された化合物である。
【0072】
中でも、前記ポリ酸としては、ヘテロポリ酸(ヘテロポリ酸アンモニウム塩を含む)及び混合配位型ヘテロポリ酸(混合配位型ヘテロポリ酸のアンモニウム塩を含む)からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ酸を用いるのが好ましい。具体的には、例えば、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸、ケイタングストモリブデン酸、ケイバナドモリブデン酸、及びこれらのアンモニウム塩等が挙げられる。
【0073】
前記ポリ酸は、前記樹脂被覆金属粒子100質量部に対して0.01〜10質量部混合して前記接触処理を行うのが好ましい。0.01質量部以上であることで十分な貯蔵安定性を確保することができると共に、10質量部以下であることで塗料等のゲル化を十分に防止することができる。中でも、前記ポリ酸は、前記樹脂被覆金属粒子100質量部に対して0.01〜5質量部混合して前記接触処理を行うのがより好ましい。
【0074】
前記リン酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、酸性リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールリン酸、エポキシ化合物とリン酸との反応によるリン酸エステル、アクリル化合物とリン酸との反応によるリン酸エステル、アクリル系のリン酸エステル、メタクリル系のリン酸エステル等が挙げられる。
【0075】
中でも、前記リン酸エステルとしては、炭素数4〜18の脂肪族アルコール(1価アルコール、多価アルコールいずれでもよい)から誘導される酸性リン酸エステル(正燐酸モノエステル、正燐酸ジエステルいずれでもよい)を用いるのが、貯蔵安定性をより向上できる点で、好ましい。なお、前記正燐酸モノエステルは、R−O−PO(OH)2で表される化合物であり、前記正燐酸ジエステルは、(R−O)2PO(OH)で表される化合物である。
【0076】
前記炭素数4〜18の脂肪族アルコールから誘導される酸性リン酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ステアリルアシッドホスフェート、ミリスチルアシッドホスフェート、パルミチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、n−デシルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ヘキシルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0077】
前記リン酸エステルは、前記樹脂被覆金属粒子100質量部に対して0.1〜10質量部混合して前記接触処理を行うのが好ましい。0.1質量部以上であることで十分な貯蔵安定性を確保することができると共に、10質量部以下であることで塗膜等の密着性、耐水性を十分に確保することができる。中でも、前記リン酸エステルは、前記樹脂被覆金属粒子100質量部に対して0.5〜5質量部混合して前記接触処理を行うのがより好ましい。
【0078】
また、リン酸エステルで前記接触処理を行う際には、リン酸エステルの中和のためにアミンで処理してもよい。また、リン酸エステルのアミンによる中和は、どのような順序で行ってもよいが、樹脂被覆金属粒子にポリ酸を接触させた後に該粒子にさらにリン酸エステル及びアミンの混合物を接触させるのが好ましい。
【0079】
前記接触処理を経て得られた樹脂被覆金属顔料を密閉容器に入れて40〜80℃で熱処理を行っても良い。
【0080】
また、前記接触処理を経て得られた樹脂被覆金属顔料に、必要に応じて、塗料分野で一般的に使用されている各種添加剤(顔料、染料、潤滑剤、分散剤、色別れ防止剤、レベリング剤、スリップ剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、有機リン酸塩、有機亜リン酸塩、リンケイ酸塩、ニトロパラフィン、有機金属アミン塩など)を添加混合してもよい。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
(樹脂被覆工程)
2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、市販のアルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「FM4010」、アルミニウム粒子の平均粒径11μm、不揮発分66質量%)227.3g及びミネラルスピリット1023gを加え、アルミニウム顔料スラリーを作製し、フラスコ内に窒素を少量流しながら攪拌を行った。
【0083】
50mLビーカー中において、ポリオキシエチレンラウリルエーテル7.5gをアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(前記一般式(I)で表される化合物で、R1及びR2が共にメチル基であってnが5〜6であるもの、ユニケミカル社製の「ホスマーPP」)1.5gに添加し、ガラス棒を用いて撹拌し、さらにミネラルスピリットを9.0g添加して撹拌することによって乳化物を得た。
【0084】
上記乳化物を前記アルミニウム顔料スラリーに加え、さらにエポキシ化1,2−ポリブタジエン(ADEKA株式会社製「アデカサイザーBF−1000」)12.2g、トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトアクリレートTMP−A」)7.0g、ジビニルベンゼン(新日鐵化学株式会社製「DVB−570」)2.0gを加えた後、系の温度を80℃まで昇温させ、次いでアゾビスイソブチロニトリル(株式会社日本ファインケム製「ABN−R」)1.5gを添加して6時間撹拌を行った。この6時間の重合反応の終了後、ろ過を行い、ミネラルスピリットで洗浄することによって、樹脂被覆アルミニウム顔料(ペースト)を得た。得られたペーストの質量は285g、不揮発分は60質量%であった。
【0085】
(接触処理工程)
2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、前記樹脂被覆工程で得られた樹脂被覆アルミニウム顔料ペースト166.7g(樹脂被覆金属顔料固形分を100g含有する)及びブチルカルビトール666.6gを加えて、樹脂被覆アルミニウム顔料スラリーを作製し、フラスコ内に窒素を少量流しながら攪拌を行った。前記スラリーを50℃まで昇温した後、リンタングステン酸5.0gを前記スラリーに加えて2.5時間攪拌を行った。この2.5時間の接触処理の終了後、ろ過を行い、ブチルカルビトールで洗浄を行うことによって、リンタングステン酸で表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を得た。
【0086】
次に、前記リンタングステン酸で表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料に、トリデシルホスフェート2.0g及び加熱残分調整用ブチルカルビトール20gを加えて混練することによって、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0087】
<実施例2>
トリデシルホスフェートの使用量を4.0gとした以外は、実施例1と同様にして、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0088】
<実施例3>
(樹脂被覆工程)
実施例1と同一の樹脂被覆工程を実施することによって、不揮発分が60質量%の樹脂被覆アルミニウム顔料(ペースト)を得た。
【0089】
(接触処理工程)
2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、前記樹脂被覆工程で得られた樹脂被覆アルミニウム顔料ペースト166.7g及びブチルカルビトール450gを加えて、樹脂被覆アルミニウム顔料スラリーを作製した後、ろ過を行って、ブチルカルビトール置換された樹脂被覆アルミニウム顔料を得た。この顔料に、リンタングステン酸0.1g、トリデシルホスフェート2.0g及び加熱残分調整用ブチルカルビトール15gの均一混合物を加えて5分間混練することによって、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0090】
<実施例4>
樹脂被覆工程において、アルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「FM4010」)227.3gに代えて、アルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「CS460」、アルミニウム粒子の平均粒径15μm、不揮発分70質量%)214.3gを使用した以外は、実施例1と同様にして、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0091】
<実施例5>
接触処理工程において、ブチルカルビトール(表では「DB」と略記載)666.6gに代えて、プロピレングリコールモノメチルエーテル(表では「PGM」と略記載)666.6gを使用した以外は、実施例1と同様にして、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0092】
<実施例6>
接触処理工程において、リンタングステン酸5.0gに代えて、リンモリブデン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様にして、リンモリブデン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0093】
<実施例7>
接触処理工程において、リンタングステン酸0.1g、トリデシルホスフェート2.0g、加熱残分調整用ブチルカルビトール20gと共に、さらにラウリルアミン1.0gを加えた以外は、実施例3と同様にして、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0094】
<実施例8>
樹脂被覆工程において、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル社製の「ホスマーPP」)1.5gに代えて、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(前記一般式(I)で表される化合物で、R1及びR2が共にメチル基であってnが10〜14であるもの、ローディア日華社製の「SIPOMER PAM 200」)3.0gを使用し、接触処理工程において、トリデシルホスフェート2.0gに代えて、C4〜C10(炭素数4〜10)の混合リン酸エステル2.0gを使用した以外は、実施例3と同様にして、リンタングステン酸と混合リン酸エステルで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0095】
<実施例9>
樹脂被覆工程において、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル社製の「ホスマーPP」)1.5gに代えて、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(前記一般式(I)で表される化合物で、R1及びR2が共にメチル基であってnが10〜14であるもの、ローディア日華社製の「SIPOMER PAM 200」)3.0gを使用し、接触処理工程において、リンタングステン酸0.1gに代えて、リンモリブデン酸アンモニウム0.1gを使用した以外は、実施例3と同様にして、リンモリブデン酸アンモニウムとトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0096】
<実施例10>
樹脂被覆工程において、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル社製の「ホスマーPP」)1.5gに代えて、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(前記一般式(I)で表される化合物で、R1及びR2が共にメチル基であってnが10〜14であるもの、ローディア日華社製の「SIPOMER PAM 200」)3.0gを使用し、接触処理工程において、リンタングステン酸0.1gに代えて、リンバナドモリブデン酸0.1gを使用した以外は、実施例3と同様にして、リンバナドモリブデン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0097】
<実施例11>
樹脂被覆工程において、アルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「FM4010」)227.3gに代えて、アルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「CS460」、アルミニウム粒子の平均粒径15μm、不揮発分70質量%)214.3gを使用し、エポキシ化1,2−ポリブタジエンの使用量を3.0gとし、トリメチロールプロパントリアクリレートの使用量を3.5gとし、ジビニルベンゼンの使用量1.0gとした以外は、実施例3と同様にして、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分55質量%)を得た。
【0098】
<実施例12>
(樹脂被覆工程)
実施例1と同一の樹脂被覆工程を実施することによって、不揮発分が60質量%の樹脂被覆アルミニウム顔料(ペースト)を得た。
【0099】
(接触処理工程)
2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、前記樹脂被覆工程で得られた樹脂被覆アルミニウム顔料ペースト166.7g及びブチルカルビトール450gを加えて、樹脂被覆アルミニウム顔料スラリーを作製した後、ろ過を行って、ブチルカルビトール置換された樹脂被覆アルミニウム顔料を得た。この顔料にトリデシルホスフェート2.0gを加えて5分間混練した後、更にリンタングステン酸0.1g及び加熱残分調整用ブチルカルビトール18gを加えて5分間混練することによって、リンタングステン酸とトリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0100】
<実施例13>
(樹脂被覆工程)
実施例1と同一の樹脂被覆工程を実施することによって、不揮発分が60質量%の樹脂被覆アルミニウム顔料(ペースト)を得た。
【0101】
(接触処理工程)
2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、前記樹脂被覆工程で得られた樹脂被覆アルミニウム顔料ペースト166.7g及びブチルカルビトール450gを加えて、樹脂被覆アルミニウム顔料スラリーを作製した後、ろ過を行って、ブチルカルビトール置換された樹脂被覆アルミニウム顔料を得た。この顔料に、リンタングステン酸0.1g及び加熱残分調整用ブチルカルビトール15gを加えて5分間混練することによって、リンタングステン酸で表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0102】
<比較例1>
実施例1と同一の樹脂被覆工程を実施することによって、不揮発分が60質量%の樹脂被覆アルミニウム顔料(ペースト)を得た。
【0103】
次に、2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、前記樹脂被覆工程で得られた樹脂被覆アルミニウム顔料ペースト166.7g及びブチルカルビトール450gを加えて撹拌した後、ろ過を行って、ブチルカルビトール置換された樹脂被覆アルミニウム顔料を得た。この顔料に、加熱残分調整用ブチルカルビトール20gを加えることによって、接触処理工程による表面処理を行っていない樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。この比較例1では、樹脂被覆工程を実施しているが、接触処理工程は実施していない。
【0104】
<比較例2>
樹脂被覆工程において、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル社製の「ホスマーPP」)1.5gに代えて、アクリル酸1.0gを使用した以外は、実施例1と同様にして、樹脂被覆アルミニウム顔料(ペースト)を得た。得られたペーストの質量は285g、不揮発分は60質量%であった。
【0105】
次に、2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、前記樹脂被覆工程で得られた樹脂被覆アルミニウム顔料ペースト166.7g及びブチルカルビトール450gを加えて撹拌した後、ろ過を行って、ブチルカルビトール置換された樹脂被覆アルミニウム顔料を得た。この顔料に、トリデシルホスフェート2.0g及び加熱残分調整用ブチルカルビトール17gを加えることによって、トリデシルホスフェートで表面処理された樹脂被覆アルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分50質量%)を得た。
【0106】
<比較例3>
市販のアルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「FM4010」、アルミニウム粒子の平均粒径11μm、不揮発分66質量%)227.3gにブチルカルビトール450gを加えて撹拌した後、ろ過を行って、ブチルカルビトール置換されたアルミニウム顔料を得た。この比較例3では、樹脂被覆工程及び接触処理工程のいずれも実施していない。
【0107】
<比較例4>
2L(リットル)のセパラブルフラスコ内に、市販のアルミニウム顔料ペースト(昭和アルミパウダー株式会社製、商品名「FM4010」、アルミニウム粒子の平均粒径11μm、不揮発分66質量%)151.5g及びブチルカルビトール681gを加え、アルミニウム顔料スラリーを作製し、フラスコ内に窒素を少量流しながら攪拌を行った。前記スラリーを50℃まで昇温した後、リンモリブデン酸5.0gを前記スラリーに加えて2.5時間攪拌を行った。この2.5時間の接触処理の終了後、ろ過を行い、ブチルカルビトールで洗浄を行うことによって、リンモリブデン酸で表面処理されたアルミニウム顔料を得た。
【0108】
次に、前記リンモリブデン酸で表面処理されたアルミニウム顔料に、トリデシルホスフェート2.0g及び加熱残分調整用ブチルカルビトール10gを加えて混練することによって、リンモリブデン酸とトリデシルホスフェートで表面処理されたアルミニウム顔料を含有する顔料組成物(加熱残分66質量%)を得た。この比較例4では、樹脂被覆工程を実施せず、接触処理工程を実施している。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
なお、表1〜3において、「DB」は、「ブチルカルビトール」の略記であり、「PGM」は、「プロピレングリコールモノメチルエーテル」の略記である。
【0113】
また、表1〜3において、「ポリ酸混合量(g)」は、樹脂被覆金属顔料(固形分)100gに対するポリ酸混合量(g)であり、「リン酸エステル混合量(g)」は、樹脂被覆金属顔料(固形分)100gに対するリン酸エステル混合量(g)であり、「ラウリルアミン混合量(g)」は、樹脂被覆金属顔料(固形分)100gに対するラウリルアミン混合量(g)である。
【0114】
次に、上記のようにして得られた実施例1〜12、比較例1〜4の各顔料組成物を用いて水性メタリック塗料を作製した。即ち、顔料組成物3.3g、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル5.5g、ブチルセロソルブ6.5g、純水15.5g、水性エマルジョン(昭和高分子社製「AP7010N」)35.5gを混合して十分に攪拌することによって、水性メタリック塗料を得た。また、実施例13の顔料組成物については、該顔料組成物3.3g、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル5.5g、ブチルセロソルブ6.5g、純水15.5g、水性エマルジョン(昭和高分子社製「AP7010N」)35.5g、トリデシルホスフェート0.1gを混合して十分に攪拌することによって、水性メタリック塗料を得た。これら水性メタリック塗料の貯蔵安定性を下記評価法に基づいて評価すると共に、前記水性メタリック塗料を用いて作成した塗膜の諸特性を下記評価法に基づいて評価した。これらの評価結果を表1〜3に示す。
【0115】
<貯蔵安定性評価法>
水性メタリック塗料40gを試験管に入れ、該試験管にガス捕集管を取り付け、これを50℃の恒温水槽にセットし、336時間経過後の水素ガス累積発生量(mL/塗料40g(アルミニウム分1.7g))を測定した。この測定の結果、水素ガス累積発生量が3.0(mL/アルミニウム分1.7g)未満であるものを「○」とし、水素ガス累積発生量が3.0(mL/アルミニウム分1.7g)以上であるものを「×」とした。
【0116】
<塗膜の表面状態(意匠性)の評価法>
水性メタリック塗料をABS樹脂板上に乾燥膜厚が10μmになるようにスプレー塗布して塗膜を形成した。この塗膜の表面を目視で観察し下記判定基準に基づき評価した。
(判定基準)
「○」…塗膜表面にブツ等が全くない
「△」…塗膜表面にブツが僅かに認められるが、実質的に良好な意匠性を備えている
「×」…塗膜表面にブツが多数認められて意匠性が悪い。
【0117】
<密着性評価法>
水性メタリック塗料をABS樹脂板上に乾燥膜厚が10μmになるようにスプレー塗布して塗膜を形成した。この塗膜に幅24mmのニチバン社製セロファンテープを貼り付けた後、引き剥がした。このセロファンテープ剥離操作を行った後のテープに付着しているアルミニウム顔料の状態を目視で観察し、下記判定基準に基づき評価した。
(判定基準)
「○」…テープにアルミニウム顔料が全く付着していない
「△」…テープにアルミニウム顔料が僅かに付着している
「×」…テープの全面にアルミニウム顔料が付着している。
【0118】
<耐薬品性の評価法>
水性メタリック塗料をABS樹脂板上に乾燥膜厚が10μmになるようにスプレー塗布して塗膜を形成した。この塗膜の上に直径3cmの塩化ビニル管を垂直に立設し、該塩化ビニル管の中に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を5mL注入して塗膜の上を浸漬し、この浸漬状態で常温で24時間放置した。その浸漬部と非浸漬部の色差(ΔE*(ab))をミノルタ社製分光測色計CM−3700dで測定し下記判定基準に基づき評価した。
(判定基準)
「○」…ΔE*(ab)が1.5より小さく、耐薬品性に優れている
「△」…ΔE*(ab)が1.5以上ではあるが、塗膜にアルミニウム顔料が残存しており問題がなく、耐薬品性が良好である
「×」…ΔE*(ab)が1.5以上であって、塗膜からアルミニウム顔料が完全に溶出し、基材(ABS樹脂板)が直に見えており、耐薬品性不良である。
【0119】
表から明らかなように、本発明の製造方法で得られた実施例1〜13の樹脂被覆金属顔料を含有してなる水性塗料は、貯蔵安定性に優れており、また該塗料で形成された塗膜は、意匠性(表面状態にブツがない)、密着性、耐薬品性のいずれにも優れていた。
【0120】
これに対し、樹脂被覆を行っていない比較例3、4では、密着性、耐薬品性ともに不良であった。また、接触処理を全く実施していない比較例1、3では、水素ガス累積発生量が多く貯蔵安定性が悪かった。また、ポリ酸による接触処理を実施していない比較例2は、水素ガス累積発生量が多く貯蔵安定性が悪かった。
【0121】
なお、ポリ酸及びリン酸エステルによる接触処理を行っている比較例4は、貯蔵安定性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係る製造方法で製造された樹脂被覆金属顔料は、水性塗料や水性インキ用の金属光沢付与成分として好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸及びリン酸エステルを接触させることを特徴とする樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項2】
金属粒子の表面が樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子に、ポリ酸を接触させることを特徴とする樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ酸が、ヘテロポリ酸及び混合配位型ヘテロポリ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリ酸であり、
前記ヘテロポリ酸及び前記混合配位型ヘテロポリ酸を構成する金属種が、Mo、V、Ti、SiまたはWである請求項1または2に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂被覆金属粒子100質量部に対し前記ポリ酸を0.01〜10質量部混合することによって前記接触を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂被覆金属粒子として、金属分100質量部に対して樹脂が1〜40質量部被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂被覆金属粒子として、金属粒子の表面が、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するリン酸エステル、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するホスホン酸エステル及びラジカル重合性二重結合を少なくとも1個有するカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分を含む重合体で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂被覆金属粒子として、金属粒子の表面が、共重合成分の一つとして下記一般式(I);
【化1】

(式中、R1及びR2は水素原子またはメチル基を示し、nは数平均で3〜40の範囲である)で表されるリン酸エステル成分を含む共重合体樹脂で被覆されてなる樹脂被覆金属粒子を用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項8】
前記一般式(I)におけるR1及びR2が共にメチル基である請求項7に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項9】
前記共重合体樹脂は、共重合成分として、前記リン酸エステル成分と、ラジカル重合性二重結合を少なくとも1つ有したモノマーと、を含むものである請求項7または8に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂被覆金属粒子を構成する金属がアルミニウムである請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂被覆金属顔料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法で製造された樹脂被覆金属顔料を含有することを特徴とする水性塗料。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法で製造された樹脂被覆金属顔料を含有することを特徴とする水性インキ。

【公開番号】特開2011−157516(P2011−157516A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21916(P2010−21916)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000186865)昭和アルミパウダー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】