説明

樹脂補強用有機繊維、および繊維補強熱可塑性樹脂

【課題】樹脂補強用繊維の熱可塑性樹脂への接着性、分散性を汎用かつ安価に向上させることによって、熱可塑性樹脂成型品の引張強度、曲げ剛性などの力学物性、熱寸法安定性、表面外観、耐久性および耐衝撃性に優れた有機繊維強化熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】有機繊維の表面に、(A)熱硬化性樹脂と(B)結晶核剤を含む皮膜が有機繊維に対し1〜20重量%付与されており、かつ(A)と(B)との重量比率が(A)/(B)=99/1〜50/50の範囲である、樹脂補強用有機繊維、ならびにこの(イ)樹脂補強用有機繊維と、(ロ)熱可塑性樹脂を主成分とし、(イ)と(ロ)との混合重量比が5/95〜70/30である繊維強化熱可塑性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂補強用有機繊維、さらにこの樹脂補強用有機繊維を熱可塑性樹脂中に配合してなる繊維補強熱可塑性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電・OA機器など軽量化、薄型化などによる省エネルギー化を図ることが環境負荷低減の面から材料技術革新の大きなテーマとなっていることは周知の通りである。これらの自動車や家電・OA機器などの軽量化を図る大きな要素の一つとして、金属材料から軽量な有機樹脂へ材料代替が進んでいる。これらの樹脂材料は、剛性や耐衝撃性、熱寸法安定性などの向上を図るためにガラス繊維などの補強材で補強することが一般的である。しかしながら、ガラス繊維はマトリックス樹脂に比べて高比重であり、さらに軽量化を図るためにこれに代わる有機繊維補強による樹脂複合体の軽量化が注目されている。また、ガラス繊維は硬くて脆いため、樹脂複合体成型時にガラス繊維が粉々に割れて補強効果を発現するに充分なアスペクト比が得られないといった課題や、高炉において溶融ガラスが残ってしまうためサーマルリサイクルが難しいなどリサイクル面においても課題を有する。
【0003】
このような背景のもと、汎用性、生産性の高いオレフィン系樹脂やポリアミド樹脂など熱可塑性樹脂に対する有機繊維補強が図られてきている。力学特性、耐衝撃性、熱寸法安定性などを向上させるのにより高い補強効果を得るためには、繊維とマトリックス樹脂間の界面接着性が高く、かつ樹脂成型時も安定な繊維表面の皮膜層であり、さらに繊維の凝集欠点すなわち分散性を両立させることが重要である。この繊維表面の活性化、安定な皮膜形成のために、安価で取扱いやすく汎用性の高いエポキシ樹脂で繊維表層を被覆させて有機繊維による補強効果を高めることが試みられていることがよく知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、芳香族ポリアミド繊維に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と水溶性ナイロン化合物と水溶性ポリエステル樹脂とが付着されている樹脂補強用芳香族ポリアミド短繊維が開示されている。この方法では、複合樹脂の耐摩耗性、引張強度、曲げ弾性率を向上することができるが、マトリックス樹脂との接着力が不充分であり、耐久性、耐衝撃性面での課題があるとともに、処理作業が煩雑かつ高価であることが課題であった。
【0005】
また、特許文献2、3には、オレフィン系樹脂成形体補強用アラミド繊維として、エポキシ化合物とアイオノマー樹脂からなる処理剤で処理する技術が開示されている。この方法では、オレフィン系樹脂に対するアラミド繊維の接着力が大幅に向上するが、イオン性結合で界面接着を担っているため、耐久性、耐衝撃性の面で更なる改良が必要であった。
【0006】
さらに、マトリックス樹脂の補強による高性能化としてタルク、クレーなどの無機フィラーと有機繊維の組合せで補強する技術もあり、例えば、特許文献4にはオレフィン系樹脂に有機長繊維とタルクを含有させた長繊維強化樹脂組成物が開示されている。この方法によればオレフィン系樹脂への繊維の優れた分散性とともに機械特性、耐衝撃性を向上できるが、繊維と樹脂との界面接着が充分ではなく得られる補強効果は限定的なものであるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−235170号公報
【特許文献2】特許第3167514号
【特許文献3】特許第3179262号
【特許文献4】特開2009−114331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みなされたもので、その目的は、樹脂補強用繊維の熱可塑性樹脂への接着性、分散性を汎用かつ安価に向上させることによって、熱可塑性樹脂成型品の引張強度、曲げ剛性などの力学物性、熱寸法安定性、表面外観、耐久性および耐衝撃性に優れた有機繊維強化熱可塑性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、有機繊維の表面に、(A)熱硬化性樹脂と(B)結晶核剤を含む皮膜が有機繊維に対し1〜20重量%付与されており、かつ(A)と(B)との重量比率が(A)/(B)=99/1〜50/50の範囲である、樹脂補強用有機繊維に関する。
次に、本発明は、上記の(イ)樹脂補強用有機繊維と、(ロ)熱可塑性樹脂を主成分とし、(イ)と(ロ)との混合重量比が5/95〜70/30であることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維表面に結晶核剤を配置することによる樹脂との物理的接着力の向上を図ることによって樹脂補強用繊維の接着性、分散性を汎用かつ安価に向上させ、熱可塑性樹脂成型品の引張強度、曲げ剛性などの力学物性、熱寸法安定性、表面外観、耐久性および耐衝撃性に優れた有機繊維強化熱可塑性樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<樹脂補強用有機繊維>
本発明の樹脂補強用有機繊維は、有機繊維の表面に、(A)熱硬化性樹脂と(B)結晶核剤を含む皮膜が付与されてなるものである。
【0012】
〔有機繊維〕
有機繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維(ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド系繊維;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド系繊維;脂環族ポリアミド系繊維など、全芳香族ポリアミド系繊維;ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズアミド、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等もしくはこれらの共重合体からなる繊維、例えばコポリフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタラミド繊維など)、ポリイミド系繊維(ポリエーテルイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリアミノビスマレイミド繊維、ビスマレイミドトリアジン繊維など)、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレート、ポリC2−4アルキレンナフタレート、これらのコポリエステルなどの芳香族ポリエステル系繊維、ポリアリレート系繊維、液晶性ポリエステル繊維など)、ポリカーボネート系繊維(ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのビスフェノール型ポリカーボネート繊維、水添ビスフェノール型ポリカーボネート繊維など)、オレフィン系繊維[ポリエチレン繊維(低密度ポリエチレン繊維、高密度ポリエチレン繊維など)、ポリプロピレン繊維など]、アクリル系繊維(ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル繊維、ポリアクリロニトリルやアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル系繊維など)、ビニル系繊維(ポリビニルアルコール系繊維、塩化ビニル系繊維、酢酸ビニル系繊維など)、ポリフェニレンオキシド系繊維[ポリフェニレンオキシド繊維、変性ポリフェニレンオキシド(ポリスチレンとのブレンドなど)繊維など]、ポリフェニレンスルフィド系繊維(ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリビフェニレンスルフィド繊維、ポリフェニレンスルフィドケトン繊維、ポリビフェニレンスルフィドスルホン繊維など)、ポリスルホン系繊維(ポリスルホン繊維、ポリエーテルスルホン繊維など)、ポリアセタール系繊維(ポリアセタール繊維など)、ポリエーテルケトン系繊維(ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維など)、ポリベンゾオキサゾール系繊維(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール系繊維など)、ケナフ、セルロース(レーヨン)系繊維などが挙げられる。これらの有機樹脂繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの繊維のうち、本発明においては汎用性、機械的特性と耐熱性のバランスから、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、レーヨン、ナイロン66、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイドが好ましい。
【0013】
〔(A)熱硬化性樹脂〕
本発明における有機繊維の表面には、表面活性化と熱可塑性樹脂の混練、成型工程においても安定な皮膜を形成するために、(A)熱硬化性樹脂が用いられる。
(A)熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、レゾール型フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂やこれらの共重合体、変性体が挙げられるが、汎用性、取扱い性、加工性や熱力学特性の観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂が好ましい。特に好ましくは、エポキシ樹脂である。
【0014】
具体的には、エポキシ樹脂としては、ポリエポキシ化合物、例えばグリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ヘキサントリオール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリグリセリンなどの脂肪族多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物から得られるポリグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3’,4’−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート等の過酢酸等で不飽和結合部を酸化して得られるエポキシ化合物等が挙げられ、特に汎用性の高いグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルのうち少なくとも1種以上から選ばれる多官能性脂肪族エポキシ化合物が好ましい。
【0015】
これらのエポキシ樹脂は、公知の架橋剤によって硬化される。例えば、塩基であれば、水酸化ナトリウムやアンモニアのような無機塩基、モルホリン、ピペラジン、アミノアルコールなどの有機アミンを代表とする有機塩基が例として挙げられる。
【0016】
また、エポキシ樹脂中には、得られる皮膜の強度や接着性を高める成分を含んでいても良い。例として、膜を架橋可能とするブロックドイソシアネート化合物が挙げられる。
ブロックドイソシアネート化合物としては、特に限定はなく、例えばブロックドポリイソシアネート化合物が挙げられる。ブロックドポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加反応生成物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生ぜしめるものである。ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネート、あるいはこれらのポリイソシアネートと活性水素原子を1個以上有する化合物としては、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等が例示される。
【0017】
また、ウレタン樹脂としては、分子内に2個水酸基を有する化合物(以下、これを「ジオール成分」と記す)と、分子内に2個イソシアネート基を有する化合物(以下、これを「ジイソシアネート成分」と記す)とを、水を含まず、活性水素を有さない有機溶媒中で付加重合させることにより得ることができる。また、溶媒がない状態で原料を直接反応させることによっても目的物のポリウレタン樹脂を得ることができる。
ジオール成分としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカ−ボネートジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリアセタ−ル、ポリシロキサン等のポリオール化合物、並びにエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール等の低分子量のグリコール類が挙げられる。
また、ジイソシアネート成分としては、脂肪(脂環)族系ポリイソシアネート(テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなど);芳香族系ポリイソシアネート(キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなど);これらの変性体(カービジイミド、ウレチジオン、ビューレットおよびイソシアヌレート変性体);およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0018】
さらに、フェノール樹脂としては、レゾルシン-ホルマリン樹脂誘導体あるいはこれにエチレン尿素化合物を含むものが好ましく挙げられる。レゾルシン-ホルマリン樹脂誘導体は、アルカリ触媒下で得られたものが好ましく使用され、さらにレゾルシン-ホルマリン樹脂は接着性向上のためにレゾルシンとホルマリンとのノボラック型縮合体やクロロフェノール化合物などの収着型接着剤を含有することが好ましい。
上記レゾルシン-ホルマリン樹脂において、レゾルシンとホルマリン初期縮合物は、アルカリ触媒下で得られたもので、レゾルシンとホルマリンのモル比が1:0.3〜1:5、特に1:0.75〜1:2.0の範囲であることが好ましい。なお、上記レゾルシン-ホルマリン樹脂において、レゾルシンとホルマリンのノボラック型縮合物を使用するに際しては、アルカリ触媒水溶液に溶解後、ホルマリンを添加し、レゾルシンとホルマリン初期縮合物と同様のモル比にするのが好ましい。ここで、このエチレン尿素化合物とは、加熱によりエチレンイミン環が開環して反応し、繊維と樹脂との接着性を向上させるもので、その代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの芳香族、脂肪族イソシアネートとエチレンイミンとの反応性生物が挙げられ、特にジフェニルメタンジエチレン尿素の芳香族エチレン尿素化合物が良好な結果を与える。
【0019】
〔(B)結晶核剤〕
本発明においては、有機繊維の表層に(B)結晶核剤を配合することが特徴である。
上記の(A)熱硬化性樹脂に(B)結晶核剤を強固に埋包することによって、有機繊維の表面皮膜層中あるいはその表層においてマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の結晶化が進み、熱可塑性樹脂の結晶化度の向上とともに有機繊維とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂との界面における物理的接着力を飛躍的に向上させ、熱可塑性樹脂成形品の力学特性、熱寸法安定性や耐久性、耐衝撃性を向上することを見出した。また、繊維補強熱可塑性樹脂の混練時に粉体状の結晶核剤を混ぜることを低減あるいは省略することが可能となるため、工業生産性の観点からも非常に効果的であることを見出した。
【0020】
(B)結晶核剤としては、具体的にはタルク、クレー、カオリン、ワラストナイト等の無機物、有機酸の金属塩、有機リン酸エステルの金属塩などの有機系金属塩が好ましく用いることができ、汎用性、取扱性の観点からタルク、クレーがより好ましい。
なお、有機酸の金属塩としては、例えば酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、p−t−ブチル安息香酸ナトリウム、フタル酸水素ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸ナトリウム等の有機カルボン酸の金属塩が挙げられる。また、有機リン酸エステルの金属塩としては、例えばリン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸2、2’−メチレンビス(4、6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどが挙げられる。
(B)結晶核剤の平均粒径(JIS Z8825−1に準拠して測定)は、10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超える場合は繊維表層に付着しにくく、さらに脱離しやすく、工程通過性や成型樹脂の補強効果が不充分となる傾向がある。平均粒径は5μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
〔有機繊維表面における皮膜の形成〕
本発明における有機繊維表面の(A)熱硬化性樹脂、および(B)結晶核剤を含む表面皮膜は、繊維に対して1〜20重量%付与されている。1重量%未満の場合は、繊維表層に均一な皮膜を形成できずマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂との充分な接着が得られないばかりか、繊維と樹脂間の界面に欠陥を形成しまうため成型樹脂の物性低下を引き起こす。一方、20重量%を超える場合は、高価となるばかりでなく繊維表面処理、樹脂成形時のスカムが多発して生産性が著しく低下するだけでなく、皮膜が脆化する傾向であり、成型樹脂の耐久性、耐衝撃性が低下してしまう傾向がある。付着量としては、繊維に対して2〜10重量%付与されていることがより好ましい。
【0022】
また、本発明の樹脂補強用有機繊維において、(A)熱硬化性樹脂と、(B)結晶核剤の混合重量比は、(A)/(B)=99/1〜50/50の範囲である。(B)結晶核剤の混合重量比が1よりも低いとマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂への結晶化促進効果が不充分であり、成型樹脂の力学特性や耐久性、耐衝撃性が低下する。一方、(B)結晶核剤の混合重量比が50を超えると、有機繊維表面の皮膜が脆化し結晶核剤を繊維表層に保持できず、成型樹脂の耐久性、耐衝撃性が低下してしまう傾向がある。本発明における(A)熱硬化性樹脂と(B)結晶核剤の混合重量比は、(A)/(B)=99/5〜60/40の範囲であることがより優れた繊維補強効果を得られるのでより好ましい。
【0023】
また、本発明の樹脂補強用有機繊維は、有機繊維に対し、(A)熱硬化性樹脂および(B)結晶核剤を、水系分散体、あるいはそのままのニートの状態で、製糸工程あるいはディップ加工、スプレー、オイリングローラー等公知の方法によって付与、熱処理することによって得られる。熱処理温度としては有機繊維の物性を損なわない範囲であれば特に制約はないが、250℃以下かつ有機繊維の融点より20℃以上低い温度で熱セット、エージングを行う。
【0024】
なお、有機繊維への(A)〜(B)成分の処理は、通常、有機繊維がマルチフィラメント(あるいはトウ)の状態で行われるが、その後、用途に応じて、適宜の長さにカットされて、樹脂補強用として用いられる。
【0025】
<繊維補強熱可塑性樹脂>
本発明の繊維補強熱可塑性樹脂は、以上の樹脂補強用有機繊維をマトリックス成分である熱可塑性樹脂に配合してなるものである。
【0026】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、繊維による補強効果が得られるものであれば特に制限は無いが、中でもポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリエステル、ポリアミドの群から選ばれるいずれか一つであることが好ましい。
【0027】
より具体的に例示するとすれば、例えば熱可塑性樹脂がポリエステルである場合には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)またはポリブチレンナフタレート(PBN)あるいはそれらの共重合体からなるものであることが好ましい。また、熱可塑性樹脂がポリアミドである場合には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11またはナイロン12あるいはそれらの共重合体からなるものであることが好ましい。そして、熱可塑性樹脂がポリオレフィンである場合には、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンあるいはそれらの共重合体からなるものであることが好ましい。より詳細な好ましいポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(PE−UHMW)あるいはブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1などのα−オレフィンやそれらの共重合体、アタクチックポリスチレン(APS)、イソタクチックポリスチレン(IPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)やそれらの共重合体などのポリオレフィン系樹脂、あるいは不飽和カルボン酸やその誘導体で変性した変性ポリオレフィン系樹脂、またはそれらの2種類以上のブレンド物を例示することができる。さらにはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンあるいはそれらの共重合体からなるポリオレフィンを主とするものであることが、物性と価格のバランスの点では好ましい。
【0028】
また、本発明で使用する熱可塑性樹脂には、用途に応じて分散剤、滑剤、難燃剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、カーボンブラック、結晶化促進剤(増核剤)、可塑剤、顔料や染料のごとき着色剤などを含有させることが可能であることはいうまでも無い。さらに本発明では、必要に応じて適量の無機フィラー、例えばタルク、クレー、マイカ、ウォラストナイトなどを熱可塑性樹脂に添加しても良い。
【0029】
本発明において、(イ)樹脂補強用有機繊維と(ロ)熱可塑性樹脂の混合重量比は5/95〜70/30である。(イ)樹脂補強用有機繊維の(ロ)熱可塑性樹脂に対する混合重量比が5未満の場合、補強すべき繊維量が少ないため熱可塑性樹脂の補強効果を得ることができない。一方、(イ)樹脂補強用有機繊維の(ロ)熱可塑性樹脂に対する混合重量比が70を超える場合、(ロ)熱可塑性樹脂の混練、成型時に繊維の凝集、交絡が多発しやすく成型樹脂物性の著しい低下を招く。本発明における(イ)樹脂補強用有機繊維と(ロ)熱可塑性樹脂の混合重量比は、10/90〜50/50であることが優れた繊維補強効果を得られるのでより好ましい。
【0030】
本発明の繊維補強熱可塑性樹脂は、公知の方法、たとえば長繊維引抜成型、短繊維で混練したペレットを溶融射出成型する方法や、短繊維、織編物を用いたプレス成型、ブロー成型などによって樹脂成形品を得ることができる。また、得られた樹脂成型品は車両、電機・電子機器、機械、建築・土木用の樹脂成形部品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、各種特性は以下の方法により測定した。
(1)樹脂成形品の引張強度、弾性率
ASTM−D−638法に準拠し、試料厚み3.2mm、試験速度10mm/分、23℃で測定した。
(2)樹脂成形品の曲げ弾性率
ASTM−D−790法に準拠し、試料厚み3.2mm、試験速度2mm/分、支点間距離50mm、23℃で測定した。
(3)樹脂成形品のIZOD衝撃強度(ノッチ付き)
ASTM−D−256法に準拠し、試料厚み3.2mm、23℃で測定した。
(4)樹脂成形品の荷重たわみ温度
ASTM−D−648法に準拠し、18.5kgf/cm2負荷で測定した。
(5)樹脂成形品の表面外観
樹脂成形品の平板の表面を目視にて観察した。繊維分散が良好で平板表面が平滑な場合は○、繊維が開繊していない繊維束がごく一部に見られるものは△、繊維が開繊していない繊維束が多数見られるものは×をして3段階で評価した。
【0032】
実施例1〜3、比較例1〜5
(A)熱硬化性樹脂であるエポキシ化合物(エポキシ樹脂)として、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製
デナコールEX−614B)、(B)結晶核剤としてタルク(日本タルク社製 K−1、平均粒径5μm)を表1に示す重量比で混合し、次いで軟化水で希釈したのちにエポキシ総量に対して1/30量の水酸化ナトリウムを加えて混合水分散体を調製した。この混合水分散体を用いて、ポリエチレンナフタレート繊維(帝人ファイバー(株)製
テオネックス;BHT 1670T250 Q904N、総繊度1,670dtx、フィラメント数250)にディップ付与し、150℃で2分間、240℃で1分間の定長熱処理を行ってエポキシ処理ポリエチレンナフタレート繊維とした。なお、繊維へのエポキシ/タルク付着量はその、混合水分散体の濃度調整により行い、表1に示す付着量に調整した。得られた繊維をギロチン式カッターで3mm長にカットしたのち、ポリプロピレン樹脂チップ〔(株)プライムポリマー プライムポリプロJ106〕と2軸押出成型機(テクノベル社製 KZW31-42MG-01R)で表1に示す繊維添加量で200℃の温度で混練、ペレタイズ化したのち、200℃で射出成型(東洋機械金属(株)PLASTAR Si-80IV)を行って所定の繊維補強樹脂成形品を得た。評価結果はまとめて表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により得られる繊維補強されてなる熱可塑性樹脂成形品は、車両、電機・電子機器、機械、建築・土木用の樹脂成形部品として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維の表面に、(A)熱硬化性樹脂と(B)結晶核剤を含む皮膜が有機繊維に対し1〜20重量%付与されており、かつ(A)と(B)との重量比率が(A)/(B)=99/1〜50/50の範囲である、樹脂補強用有機繊維。
繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項2】
有機繊維が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、レーヨン、ナイロン66、ポリビニルアルコール、およびポリフェニレンサルファイドの群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の樹脂補強用有機繊維。
【請求項3】
(A)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、およびフェノール樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の樹脂補強用有機繊維。
強化熱可塑性樹脂。
【請求項4】
(B)結晶核剤が、タルク、クレー、カオリン、ワラストナイトから選ばれた無機物、あるいは有機酸の金属塩、有機リン酸エステルの金属塩から選ばれた有機系金属塩である請求項1〜3いずれかに記載の樹脂補強用有機繊維。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の(イ)樹脂補強用有機繊維と、(ロ)熱可塑性樹脂を主成分とし、(イ)と(ロ)との混合重量比が5/95〜70/30であることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項6】
(ロ)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリエステル、およびポリアミドの群から選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の繊維補強熱可塑性樹脂。
【請求項7】
ポリオレフィンが、ポリエチレン、またはポリプロピレンあるいはそれらの共重合体からなるものである請求項6記載の繊維補強熱可塑性樹脂。
【請求項8】
ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンナフタレートあるいはそれらの共重合体からなるものである請求項6記載の繊維補強熱可塑性樹脂。
【請求項9】
ポリアミドが、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11またはナイロン12あるいはそれらの共重合体からなるものである請求項6に記載の繊維補強熱可塑性樹脂。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載された繊維補強熱可塑性樹脂を溶融、成形して得られることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項11】
車両、電機・電子機器、機械、あるいは建築・土木用の樹脂成形部品である、請求項10記載の樹脂成形体。

【公開番号】特開2012−251037(P2012−251037A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123292(P2011−123292)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】