説明

樹脂補強用繊維

【課題】十分な強度と寸法安定性を有する有機系繊維をマトリックス樹脂中に均一に分散させ、優れた補強効果を有する樹脂補強用繊維を提供する。
【解決手段】芯鞘型複合繊維であって、下記(1)〜(3)を満たす樹脂補強用繊維。(1)芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーの融点が、鞘部を構成する熱可塑性ポリマーの融点より20℃以上高い。(2)上記繊維の引張強度が4.5cN/dt以上。(3)上記繊維の150℃における乾熱収縮率が15%以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂材料に有用な樹脂補強用繊維に関する。更に詳しくは、樹脂中の分散が良好で、十分な補強効果を有し、成型時の寸法安定性にも優れた樹脂補強用複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂補強用材料としては、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などが主として用いられてきたが、近年、用途の多様化と環境への配慮の点で、リサイクル性や廃棄時に問題のあるガラス繊維等の無機系繊維から、ポリエステル、ポリアミド、ビニロン等の有機系繊維へ置き換える検討がされている。
【0003】
樹脂補強用繊維の効果を有効に発現するには、マトリックスとなる樹脂への分散性、および親和性を向上させる必要があり、マトリックスとなる樹脂と親和性を有するポリマーを鞘成分とした芯鞘型複合繊維を樹脂補強用繊維として用いることが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、これらの方法では分散性は向上するものの、補強繊維としての性能が規定されておらず、補強繊維の強度が不足したり、マトリックス樹脂と混合した際に補強繊維の収縮が起こり剥離しやすくなるなど、補強効果を十分に発現できていない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−315610号公報
【特許文献2】特開2003−96622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は十分な強度と寸法安定性を有する有機系繊維をマトリックス樹脂中に均一に分散させ、優れた補強効果を有する樹脂補強用繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、芯鞘型複合繊維であって、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とする樹脂補強用繊維に関する。
(1)芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーの融点が、鞘部を構成する熱可塑性ポリマーの融点より20℃以上高いこと。
(2)上記繊維の引張強度が4.5cN/dt以上であること。
(3)上記繊維の150℃における乾熱収縮率が15%以下であること。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マトリックス樹脂中での分散性に優れるのみならず、有機系繊維を強化用繊維として強度、寸法安定性にも優れ、補強効果を十分に発現可能な樹脂補強用複合繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の樹脂補強用繊維は芯鞘型複合繊維からなる。
本発明の樹脂補強用繊維の芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーの融点は、鞘部を構成する熱可塑性ポリマーの融点より20℃以上高ければ特に限定はされない。芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーとしては、例えばポリエステル系、ポリアミド系、ポリパラフェニレンスルフィド系、ポリエーテルケトン系、全芳香族ポリエステル系などが挙げられるが、これらの樹脂成分は単一もしくは混合されて用いることもできる。なかでも汎用性や操作性、物性の点からポリエステル系ポリマーが好ましく用いられる。
【0009】
ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル類、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル類を挙げることができる。ポリエステル系ポリマーの中ではポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。その場合の極限粘度(35℃、オルソクロロフェノール中で測定)は、好ましくは0.5〜1.5dl/g、さらに好ましくは、0.6〜1.0dl/gであり、これにより、芯鞘型複合繊維の強度を確保するうえで望ましい。
なお、ポリアミド系ポリマーとしては、ナイロン6
、ナイロン6 6 、ナイロン4 6等が好適である。
【0010】
一方、鞘部の熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、ポリアクリル系などを挙げることができるが、芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーと、融点差が20℃以上あることが必要である。ここで、融点(Tm)は、DSC(示差走査熱量測定)法による測定方法(昇温速度=20℃/分)で求めることができる。融点差が20℃未満であると、マトリックスとなる樹脂と芯鞘型複合繊維を混合する際に、鞘部の熱可塑性ポリマーが溶融した際に芯部のポリマーまでもが軟化、あるいは溶融してしまい、強化材料としての補強効果が大きく損なわれてしまうことになる。融点差は、好ましくは30℃以上である。これらの鞘部を構成する熱可塑性ポリマー樹脂成分は、単一もしくは混合されて用いることもできる。
鞘部の熱可塑性ポリマーとしては、汎用性の高い材料の中でも比重が小さく高い補強効果の発現を見込むことができるという面から、ポリプロピレン系ポリマーが好ましい。
【0011】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯部/鞘部の比率は特に限定はされないが、質量比で70/30〜30/70とすることが、紡糸特性、延伸特性、熱的安定性、繊維物性の観点から適当であり、さらに好ましくは、60/40〜80/20とすることが良い。芯部の割合が多すぎると成形材料のマトリックス成分樹脂との接着性や分散性が低下し、また、鞘部が多くなると繊維形成時の加工性が下がり、強度や収縮性が不十分となり強化材料としての補強効果に影響を及ぼす。
【0012】
本発明の芯鞘型複合繊維の単糸繊度は、カットして短繊維化した際のアスペクト比と合わせて繊維補強樹脂材料の用途に応じて適宜選択されるべきであり、特に限定されないが、均一な繊径である方が分散時の均一性などの点から好ましい。上記芯鞘型型複合繊維の単糸繊度は、好ましくは0.5〜30dtexである。また、単繊維の断面形状は特に限定されないが、三角、扁平、くびれ付扁平等、異型断面の方が、単繊維の表面積が大きくなり好ましい。
【0013】
次に、本発明の芯鞘型複合繊維の引張強度は、4.5cN/dt以上であることが必要である。引張強度が4.5cN/dt未満であると、優れた補強効果は得られ難くなる。引張強度の上限は特に規定されないが、構成するポリマーの製糸工程性を考慮に入れ4.5cN/dt以上で適宜選択される。かかる芯鞘型複合繊維の引張強度は、さらに好ましくは4.8〜8.0cN/dtexである。なお、本発明の樹脂補強用繊維に用いられる芯鞘型複合繊維の強度を4.5cN/dtex以上にするには、例えば十分な重合度を有する芯成分を鞘成分と紡糸時に複合後、低紡速でかつ高延伸倍率で延伸すればよい。
【0014】
次に、本発明の芯鞘型複合繊維の150℃における乾熱収縮率は15%以下であることが必要である。乾熱収縮率が15%を超えると、マトリックス樹脂に該芯鞘型複合繊維を分散混合した際に繊維の収縮が大きく起こり、成型加工性および成型後の寸法安定性が低下することとなる。好ましい乾熱収縮率は12%以下である。乾熱収縮率を15%以下にするには、芯成分に結晶性ポリマーを用い、延伸熱セット時の熱セット温度を結晶化温度以上とし、また熱セット時間を所望の収縮率となる様に適宜設定すればよい。
【0015】
本発明の芯鞘型複合繊維は、公知の芯鞘複合紡糸装置を用いて製造することができる。すなわち、芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーと、鞘部を構成する熱可塑性ポリマーを、所定の水分率以下とした後、別々に溶融押出機に供給し、それぞれのポリマー融液をギアポンプで計量後パック、口金内部で合流させ、芯鞘型複合繊維として溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜5,000m/分の速度で溶融紡糸後、巻き取ってから延伸、熱処理、あるいは一旦巻き取らずに直接延伸、熱処理する方法などが挙げられる。製糸の際は、紡速、熱セット温度などの条件を適宜選択し、本発明に規定する所定の強度、収縮率の範囲内とする必要がある。
【0016】
延伸温度は、ポリマーのガラス転移温度以上であれば安定して延伸可能な予熱温度でよく、一般的には60℃から120℃、好ましくは70℃から100℃である。また、延伸倍率は所望の延伸糸伸度になる延伸倍率でよく、紡糸方法によって原糸伸度が大きく異なるのでここでは特に限定しないが、一般的に1.2倍から6倍までの範囲がよく、より好ましくは1.5倍から5倍の間である。熱セット温度は延伸糸を熱セットし熱収縮率を狙いの範囲に定め、経時による変化を止める目的でおこなうので、延伸糸の結晶化が起こる温度以上で糸が溶断しない温度であれば、延伸糸の用途に合わせて選択したのでよい。具体的には110℃から200℃、より好ましくは130℃から190℃である。延伸における延伸方法は特に限定は無く、1段延伸、2段延伸、3段以上の多段延伸に収縮操作を加えたいずれの方法であってもよい。
延伸処理後、ギロチンカッターなどを用いて、適宜の長さ、0.5〜30mmに切断して短繊維化して樹脂補強用繊維として、マトリックス樹脂にブレンドして用いられる。
【0017】
なお、本発明の芯鞘型複合繊維の芯部および/または鞘部ポリマーに、必要に応じて任意の添加剤、例えば触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤等が含まれていても良い。
【0018】
本発明の樹脂補強用繊維を用いて、繊維強化樹脂成形品を得るには、本発明の芯鞘型複合繊維からなる短繊維〔樹脂補強用繊維〕を成形用樹脂(マトリックス樹脂)に添加し、射出成形により成形することが好ましい。成形樹脂としては、公知のいかなる樹脂も使用可能であるが、オレフィン系ポリマー、より好ましくはポリプロピレン系ポリマーが好ましい。
この場合、本発明の芯鞘型複合繊維とマトリックス樹脂との混合割合は、質量比で、5/95〜70/30程度である。
【0019】
この場合、成形温度としては、鞘成分である熱可塑性ポリマー、例えばポリプロピレン系ポリマーの融点以上の温度で成形することが好ましく、芯成分としては射出成形の際に溶融しない温度とする。したがって、芯成分がポリエステル系ポリマー、鞘成分がポリプロピレン系ポリマーである場合、成形温度は、通常、170〜240℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における各項目は下記の方法で測定した。
(1)融点
JIS K7121記載の示査走査熱量測定(DSC)に従って得たDSC曲線における吸熱ピーク温度として定義した。
(2)単糸繊度
JIS L1015 8.5.1 b)に基づき延伸糸の総繊度を求めた後、構成する繊維本数で除して求めた。
(3)繊維の引張強度
20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度とした。
(4)乾熱収縮率
繊維(芯鞘型複合繊維)を10ターンの「かせ」とし、1/30dtex相当の荷重をかけて1分後の長さ(L0)を測定した後、150℃の雰囲気下で、無加重で30分間熱処理後取り出し、再度1/30dtex相当の荷重をかけて1分後の長さらに(L1)を測定し、下記式から計算により求め、乾熱収縮率とした。
乾熱収縮率(%)=〔(L0−L1)/L0〕×100
【0021】
(5)成形品の引張強さ、分散性、接着状態
マトリックス樹脂として芯鞘型複合繊維の鞘部と同等の樹脂を用い、1mm長にカットした芯鞘型複合繊維が30質量%となるように溶融混練し、厚さ3mmの樹脂プレートを成型した。得られた樹脂プレートを用いてJIS−K7113に準拠して引張強さを測定した。また、樹脂プレートの表面、および断面を目視で観察し、分散性を外観から3段階で評価した(○;分散性良く良好、△;概ね分散はしているものの一部繊維同士が凝集している状態、×;繊維同士の凝集がみられるなど分散性不良)。さらに、接着状態については、断面部を×100倍で拡大し、顕微鏡にてマトリックス樹脂と繊維との接着状態を観察し、3段階で評価した(○;接着状態良好、△;良好に接着している部分と不良部分が混在している状態、×;隙間などがあり不良)。なお、マトリックス樹脂としてポリプロピレン(サンアロマー社製、PM900A、メルトインデックス30g/10分、230℃、2.16kgf)を用いた場合の芯鞘型複合繊維との溶融混練温度は170℃とした。
【0022】
実施例1
融点が259℃、極限粘度0.91dl/g(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレート(帝人ファイバー社自製品)を、水分率70ppm以下となるまで乾燥した後、押出機にて290℃で溶融し、他方、融点165℃、メルトインデックス30g/10分(230℃、2.16kgf)のポリプロピレン(サンアロマー社製のPM900A)を別の押出機にて230℃で溶融し、芯鞘型断面を形成可能な紡糸口金内で合流させ、吐出孔を12孔を有する紡糸口金から、鞘/芯の質量比が30/70となるように紡出し、油剤付与後紡糸速度1,000m/分で引き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を予熱温度84℃、延伸倍率4.2倍、熱セット温度135℃にて延伸熱セットを実施し、単糸繊度6dtexの芯鞘型複合繊維を得た。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
【0023】
実施例2、比較例1〜2
実施例1と同様の方法で、口金および吐出量変更して単糸繊度を低くしたものを実施例2、吐出量を低下させ、かつ延伸倍率を3.2倍としたものを比較例1、熱セット温度を100℃としたものを比較例2としてそれぞれの物性、評価結果を表1に示す。
【0024】
比較例3〜4
芯鞘型複合繊維の代わりに実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートチップを用いて製造したPET延伸糸(単糸繊度が6dtex、長さ1mm)を樹脂補強用繊維として用いて実施例1と同様にして評価した例を比較例3、芯部にナイロン12(宇部興産株式会社製、UBESTA3035JU5)を用いて実施例1と同様に芯鞘型複合繊維を作成したものを比較例4として、それぞれ表1に示す。
【0025】
表1に示されるとおり、本発明の範囲内である実施例1、2は、マトリックス樹脂と混練した際、分散性、接着状態が良く、補強繊維として芯鞘型複合繊維を用いない比較例3と比較して顕著な補強効果を示す。それに対し、繊維の引張強度の低い比較例1、収縮率の高い比較例2は樹脂プレートの補強効果が十分でなく、さらに芯鞘型複合繊維の芯部ポリマーと鞘部ポリマーとの融点差の小さい比較例4ではさらに顕著に補強効果が不足する結果となった。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の樹脂補強用繊維は、マトリックス樹脂中での分散性に優れるのみならず、有機系繊維を強化用繊維として強度、寸法安定性にも優れ、補強効果を十分に発現可能な樹脂補強用複合繊維であるので、自動車用内装パネルを初めとする内装部材およびバンパーなどの外装部材、建築材料、携帯電話などの生活家電製品など、特に軽量化も併せて重視される繊維強化樹脂成形品の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型複合繊維であって、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とする樹脂補強用繊維。
(1)芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーの融点が、鞘部を構成する熱可塑性ポリマーの融点より20℃以上高いこと。
(2)上記繊維の引張強度が4.5cN/dt以上であること。
(3)上記繊維の150℃における乾熱収縮率が15%以下であること。
【請求項2】
芯部を構成する繊維形成性熱可塑性ポリマーが、ポリエステル系ポリマーである請求項1記載の樹脂補強用繊維。
【請求項3】
鞘部を構成する熱可塑性ポリマーが、ポリプロピレン系ポリマーである請求項1または2記載の樹脂補強用繊維。

【公開番号】特開2013−23795(P2013−23795A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161995(P2011−161995)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】