説明

樹脂製クリップ

【課題】アンカー部と一体に成形されている樹脂製の皿部により、相手部材の取付け孔周囲のシール性を確保する。
【解決手段】クリップ本体10が、アンカー部12と、該アンカー部の基部側12bから一体に外方へ張り出した皿部16とを備え、アンカー部を相手部材の取付け孔に挿入することにより、クリップ本体が相手部材に取付けられるとともに、皿部16が相手部材の表面に押付けられて取付け孔の周囲をシールする構成の樹脂製クリップであって、皿部16において、少なくとも相手部材の表面に押付けられるシール面18に撥水性をもたせている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアトリム等をドアインナパネル等に組付けるに際して使用される樹脂製クリップに関する。詳しくは、アンカー部をドアインナパネル等の相手部材の取付け孔に挿入することによって相手部材に取付けられ、かつ、その状態で取付け孔の周囲をシールすることが可能な樹脂製クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の樹脂製クリップは、例えば特許文献1に開示された技術が既に知られている。この技術では、相手部材の取付け孔に挿入されるアンカー部の基部においてフランジ(皿部)が一体に成形されており、この皿部の外側がエラストマー等の弾性素材からなるシールパッドによって被われている。このシールパッドは、皿部を被う部分から外方へ広がったスカート部を有し、このスカート部が相手部材の表面に押付けられて取付け孔の周囲をシールするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−278731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、樹脂製の皿部とエラストマー等のシールパッドとを二色成形してシール性を確保することから、クリップ自体が高価になるとともに、シールパッドが皿部から剥がれ落ちるおそれがある。
このような不具合を回避するために、アンカー部と一体に成形されている皿部に適度の柔軟性をもたせ、この皿部がドアインナパネル等の相手部材の表面に押付けられることでシール性を確保する形式のクリップもある。しかしながら、樹脂製の皿部によるシール性には限界があり、要求どおりのシール性を確保することは困難とされている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、アンカー部と一体に成形されている樹脂製の皿部により、相手部材の取付け孔周囲のシール性を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、クリップ本体が、アンカー部と、該アンカー部の基部側から一体に外方へ張り出した皿部とを備え、アンカー部を相手部材の取付け孔に挿入することにより、クリップ本体が相手部材に取付けられるとともに、皿部が相手部材の表面に押付けられて取付け孔の周囲をシールする構成の樹脂製クリップであって、皿部において、少なくとも相手部材の表面に押付けられるシール面に撥水性をもたせている。
【0007】
このように、アンカー部と一体に成形された皿部のシール面に撥水性をもたせることにより、クリップ本体を相手部材に取付けた状態において、該取付け孔の周囲のシール性を充分に確保することができる。したがって、皿部にゴム製のパッキンを後から組付け、あるいは皿部にエラストマー等のシール材を二色成形によって接合することでシール性を確保する従来のクリップと比較して、シンプルで安価なクリップを提供することができる。また、従来のクリップでは、パッキンの脱落やシール材が剥がれるおそれがあるが、そのような不具合も解消される。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、クリップ本体が撥水剤を添加した樹脂材で成形され、皿部およびアンカー部を含むクリップ本体の表面に撥水剤をブリードアウトさせて撥水性をもたせている。
この構成にあっては、クリップ本体の皿部に加えてアンカー部も撥水性を有することから、相手部材の取付け孔に挿入されたアンカー部を通じて水が侵入するのを抑え、結果として皿部のシール面側に水が溜まるのを防止してシール機能をより高めることができる。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、少なくとも皿部のシール面に撥水性を補助する微細な形状の凹凸を設けている。
これにより、少なくとも皿部のシール面については超撥水機能を果たすことになり、取付け孔の周囲のシール性は確実なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1の樹脂製クリップを表した斜視図。
【図2】図1の正面図。
【図3】図1の平面図。
【図4】実施の形態1における樹脂製クリップの使用状態を表した説明図。
【図5】実施の形態1の樹脂製クリップと相手部材との一部を表した拡大断面図。
【図6】樹脂製クリップにおける皿部の部分形状の変更例を表した拡大断面図。
【図7】実施の形態2の樹脂製クリップを表した斜視図。
【図8】図7の正面図。
【図9】実施の形態2の樹脂製クリップと相手部材との一部を表した拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を図面にしたがって説明する。
実施の形態1
図1〜図5に示されているクリップ本体10は、樹脂による一体成形品である。このクリップ本体10の構成は、図1および図2において上側に位置するアンカー部12と、下側に位置する連結部14と、これらの境目に位置する皿部16とに大別される。
アンカー部12は、その先端側12aと基部側12bとの間において周方向へ間隔をもって配置された複数個(4個)の撓み片12cを備えている。アンカー部12の先端側12aは円錐形状のブロックになっており、反対の基部側12bはクリップ本体10のベースとして必要な所定の剛性を有する。そして、各撓み片12cは、個々の両端が先端側12aと基部側12bとに結合された「両持ち梁」のようになっており、それぞれの弾性によってアンカー部12の軸心側へ撓むことができる。
【0012】
各撓み片12cは、アンカー部12の基部側12b寄りにおいて最も外方へ膨出した係止肩12dをそれぞれ備えている。そこで、アンカー部12が図4あるいは図5で示すドアインナパネル等の相手部材20に開けられている取付け孔22に挿入されると、後述のように各撓み片12cの係止肩12dが相手部材20の内側に位置して取付け孔22の周縁に係合する。これにより、クリップ本体10が相手部材20に取付けられた状態に保持される。アンカー部12の先端側12aと基部側12bとは、各撓み片12cと干渉しないように配置された支柱12eによって互いに結合されている。この支柱12eは、例えば平面形状が「キの字」状をしており(図3)、アンカー部12の曲げに対する剛性を確保している。
なお、アンカー部12における撓み片12cの個数または支柱12eの形状については種々の変更が可能である。
【0013】
連結部14は、アンカー部12の基部側12bから連続しており、上下二枚のフランジ14a,14bと、これらの間に位置する小径の円柱部分14cとによって構成されている。連結部14は、クリップ本体10を図4で示すドアトリム等の装着部材30に取付けるためのものである。なお、前述のようにクリップ本体10は樹脂によって一体に成形されるのであるが、連結部14については皿部16と別に成形し、あるいは二色成形とする場合がある。
装着部材30には、その意匠面とは反対側の裏面において連結部14を結合するための座部32が設けられている。座部32には一端が開放されたスリット34があり、このスリット34に連結部14の円柱部分14cを押し込むことで、両フランジ14a,14bが座部32の上下面に位置した状態で連結部14が座部32に結合される。
【0014】
皿部16は、アンカー部12における基部側12bの外周から該アンカー部12の軸心を中心として外方へ斜めに張り出した円板形状であって、樹脂材による適度の弾性を有する。この皿部16の平面形状は、周知のように真円の他に楕円や長円などがある。また皿部16は、アンカー部12が図4あるいは図5で示す相手部材20の取付け孔22に挿入されたとき、この相手部材20における取付け孔22の周辺に強く押付けられて弾性変形する。
【0015】
クリップ本体10の使用については、前述のように連結部14を図4で示す装着部材30の座部32に取付けた後、アンカー部12を相手部材20の取付け孔22に挿入する。この挿入により、アンカー部12の各撓み片12cが軸心側へ押し撓められながら取付け孔22を通過し、それぞれの係止肩12dが取付け孔22の周縁に係合する。これによって、クリップ本体10が相手部材20に取付けられ、このクリップ本体10を通じて装着部材30が相手部材20に装着される。
クリップ本体10が相手部材20に取付けられた状態では、前述のように皿部16が相手部材20における取付け孔22の周辺に押付けられる。この皿部16において相手部材20の表面(図4あるいは図5の左側面)に押付けられる側のシール面18は、取付け孔22の周辺のシール性を確保する上で重要である。
【0016】
そこで、本実施の形態では、例えばシール面18をフッ素化合物やシリコンオイルといった撥水剤でコーティングすることにより、このシール面18にロータス効果(ハスの葉効果)による撥水性をもたせている。このシール面18の撥水性により、皿部16と相手部材20の表面との間のシール性が確保される。この結果、図4の矢印で示すように相手部材20の右側面から取付け孔22に浸入してくる水は皿部16によって止水され、装着部材30の側(ドア内側)に水がしみ出ることが防止される。
撥水剤によるコーティングは、アンカー部12および皿部16を含めてクリップ本体10の表面全体に施してもよい。また、クリップ本体10を含油ポリアセタールやフッ素入りポリアセタール等の撥水剤の添加樹脂で成形し、この撥水剤をクリップ本体10の表面にブリードアウトさせ、あるいはクリップ本体10を、ポリプロピレン、ポリアセタール、ナイロン、ポリエチレンといった撥水効果のある樹脂材で成形することにより、クリップ本体10の表面全体に撥水性をもたせることも可能である。
【0017】
いずれの手段においても、アンカー部12および皿部16を含めたクリップ本体10の表面全体に撥水性をもたせることにより、皿部16における前述のシール性に加えてアンカー部12も撥水作用を発揮する。このアンカー部12の撥水により、取付け孔22に挿入されたアンカー部12を通じて相手部材20の右側面から水が浸入するのを抑え、結果として皿部16のシール面18側に水が溜まるのを防止することができる。したがって、皿部16と相手部材20の表面との間のシール性が、より高められる。
なお、クリップ本体10の皿部16によってシール性を確保できることは、ゴム製のパッキンを後から組付ける場合やエラストマー等のシール材を二色成形する場合と比較して、クリップ本体10のコストを低減できるとともに、パッキンの脱落やシール材の剥がれといった不具合も解消される。
【0018】
前述のように撥水樹脂で成形され、あるいは撥水コーティングが施された皿部16のシール面18は、平滑な面であっても充分に撥水性を有することになる。そこで、この撥水性を有するシール面18の表面に図6で示すようなマイクロメートル単位の凹凸18aをつけると、該シール面18の撥水性が向上する。さらに、この凹凸18aの表面にナノメートル単位の凹凸18bをつければ、シール面18の撥水性はより向上する。この場合、相手部材20の取付け孔22に浸入してくる水は、シール面18の超撥水機能によって効果的に止水される。
なお、凹凸18a,18bは、クリップ本体10を成形する金型におけるシール面18用の成形面に、マイクロメートル単位あるいはナノメートル単位のシボ加工を行う等によって簡単に成形することができる。
【0019】
実施の形態2
図7〜図9に示されているクリップ本体10は、アンカー部12における基部側12bの外周からほとんど水平に外方へ張り出した皿部16Aを備えている。この皿部16Aにおいても、クリップ本体10が相手部材20に取付けられた状態では、そのシール面18Aの全域が相手部材20における取付け孔22の周辺に密着する(図9)。そして、少なくとも皿部16Aのシール面18Aに撥水性をもたせている点は、実施の形態1と同様である。
【符号の説明】
【0020】
10 クリップ本体
12 アンカー部
12b 基部側
16 皿部
18 シール面
20 相手部材
22 取付け孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリップ本体が、アンカー部と、該アンカー部の基部側から一体に外方へ張り出した皿部とを備え、アンカー部を相手部材の取付け孔に挿入することにより、クリップ本体が相手部材に取付けられるとともに、皿部が相手部材の表面に押付けられて取付け孔の周囲をシールする構成の樹脂製クリップであって、
皿部において、少なくとも相手部材の表面に押付けられるシール面に撥水性をもたせた樹脂製クリップ。
【請求項2】
請求項1に記載された樹脂製クリップであって、
クリップ本体が撥水剤を添加した樹脂材で成形され、皿部およびアンカー部を含むクリップ本体の表面に撥水剤をブリードアウトさせて撥水性をもたせた樹脂製クリップ。
【請求項3】
請求項1に記載された樹脂製クリップであって、
少なくとも皿部のシール面に撥水性を補助する微細な形状の凹凸を設けた樹脂製クリップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−52810(P2011−52810A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204735(P2009−204735)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(308011351)大和化成工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】