説明

樹脂製ピペット

【課題】液体の秤量精度が良く、液残りや液だまりがなく、透明性に優れた樹脂製ピペットを提供することにある。
【解決手段】 円筒状の本体部と、該本体部の先端側に備えられ液体を吸引する先端部と、
該本体部の基端側に接合され吸引装置と接続する接続部と、から構成され、
前記先端部と前記本体部とは一体的に射出成形され、前記本体部の基端端部には前記接続部の先端端部と勘合する第一勘合手段を、前記接続部の先端端部には前記本体部の基端端部と勘合する第二勘合手段、が付設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ピペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピペットは生化学試験を始めとする液体を使用する様々な分野で使用されている。
この中でも主に液体を移し替える際の吸引、保持、排出用として用いられるピペットがある。この種のピペットには更に本体に吸引保持した液体の容量が判別できるように目盛りが表示されているものがあり、この目盛りによって液体の秤量を行なう場合もある。
【0003】
尚、本発明におけるピペットとは、液体の吸引、排出の確認及び保持した液体の秤量を、ピペット本体を通して目視で行なうものをいい、秤量機能の付いたマイクロディスペンサーに接続して使用するディスペンサーチップは含まない。
【0004】
ピペットはガラス製と樹脂製の2種類に大きく分けられるが、衝撃に強く軽量で、取り扱い性に優れた樹脂性のディスポーザブルピペットが主に使用されており、安価である点や、放射線滅菌が出来るといった点も樹脂性ピペットの優れた点である。
【0005】
樹脂製ピペットは一般的にピペッターと呼ばれる片手操作で液体の吸引排出を機械的に行なう装置に装着して使用されている。
前述のとおり樹脂製ピペットはガラス製ピペットに比べて多くの優位性を有しているが、一方では樹脂製ピペット特有の問題点もある。
【0006】
樹脂製ピペットの製造方法は従来2種類の方法しかなく、押出成形で成形した本体部材、射出成形で成形した液体を吸引する先端部材、及び射出成形で成形したピペット装置に接続する頸部を3つの部材に分けて成形し、それぞれを溶着する方法(例えば、特許文献1参照)と、押出成形で成形した円筒部材の両端部を絞り加工により異型に延伸することにより液体を吸引する先端部分と、本体、及び頸部を一体で形成する方法が知られている。
【0007】
押出成形は、その成形方法の特性上、成形品には押出し方向に筋が発生する為、保持した液体の視認性についてはガラス製ピペットに比較して劣るものとなる。
特に、生化学分野における細胞分散操作等でピペットに保持した液体中の物質の分散状態等を確認する作業が必要な場合に液体の視認性の悪さが問題となる。
【0008】
更に、押出成形ではどうしても切断工程が必要であるが、切断時に発生する樹脂の屑が付着して異物の原因となるリスクを有している。
前述の製造方法のうち、前者の方法、即ち押出成形で成形した本体部材と、射出成形で成形した先端及び頸部部材を溶着する方法で作られたピペットでは、特に先端と本体部材の溶着部分に液体の残留(液溜まり)が発生してしまい、秤量誤差やコンタミネーションの原因となる問題があった。
また、押出成形と絞り加工により一体で形成する後者の方法においては、前述の液体の残留は発生しないが、絞り加工は精度が得られず、製品個体毎に容積にばらつきが出てしまう問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開平9−950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液体の秤量精度が良く、液残りや液だまりがなく、透明性に優れた樹脂製ピペットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(7)に記載の本発明により達成される。
(1)円筒状の本体部と、該本体部の先端側に備えられ液体を吸引する先端部と、該本体部の基端側に接合され吸引装置と接続する接続部と、から構成され、前記先端部と前記本体部とは一体的に射出成形され、前記本体部の基端端部には前記接続部の先端端部と勘合する第一勘合手段を、前記接続部の先端端部には前記本体部の基端端部と勘合する第二勘合手段、が付設されていることを特徴とする樹脂製ピペット。
(2)前記接続部は、基端部に吸引装置に接続可能な小径筒部と、前記本体部と勘合する大径筒部と、前記小径筒部及び/又は前記大径筒部に内挿されたフィルターと、から構成されている(1)に記載の樹脂製ピペット。
(3)前記本体部は、基端部に向かって拡径する接合部を有し、前記接合部基端部の内径は前記接続部の大径筒部の内径とほぼ等しい(1)又は(2)に記載の樹脂製ピペット。
(4)前記大径筒部の内径(A)と、前記本体部略中央部の内径(B)との比(A)/(B)は、1.01以上、3.0以下である(2)又は(3)に記載の樹脂製ピペット。
(5)前記本体部の基端部の内外径いずれかが、先端側に向かって0.010度以上、0.5度以下の勾配角度で細径化している(1)乃至(4)のいずれかに記載の樹脂製ピペット。
(6)前記本体部に付設された第一勘合手段は、前記接続部に付設された第二嵌合手段に勘合する凸部あるいは凹部を有している(1)乃至(5)のいずれかに記載の樹脂製ピペット。
(7)前記接続部に付設された第二勘合手段は、前記本体部に付設された第一嵌合手段に勘合する凹部あるいは凸部を有している請求項1乃至6のいずれかに記載の樹脂製ピペット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生化学試験を始めとする液体を取り扱う試験において、液体の秤量精度が良く、液残りや液だまりがなく、透明性に優れた樹脂製ピペットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の樹脂製ピペットについて図面を用いて詳細に説明する。
図1は吸引部を有する本体部と、接続部を示す図である。図2は本体部基端側及び接続部先端側の拡大断面図であり、図3は第一嵌合部と第二嵌合部の拡大断面図である。図4は本発明の樹脂製ピペットの印刷前の全体図であり、図5は目盛りが施された本発明の樹脂製ピペットの全体図である。
【0014】
本発明の樹脂製ピペット(13)は、円筒状の本体部(1)と、該本体部(1)の先端側に備えられ液体を吸引する先端部(2)と、が射出成形により一体的に形成されている。
これにより、従来のピペットにおいて先端部と本体部との溶着箇所で発生していた液残りや液溜まりの問題が無くなり、コンタミネーションの原因を排除できると共に液体の吸引・排出をスムーズに行うことができる。
【0015】
また、射出成形で成形することによって、特に押出成形で見られるような押出し長軸方向の樹脂の筋が本体部(1)に発生せず、表面に高い平滑性が得られ、更に透明性に優れるため、液体や液体中の物質の視認がしやすく操作性を良好なものとすることができる。
【0016】
射出成形のもう一つの利点としては、押出成形や押出成形による成形品の絞り加工に比べて寸法精度が高い為、精度の高い液体の秤量をおこなうことができる。
【0017】
更に、先端部(2)と本体部(1)が射出成形により一体的に射出成形されているため、組立時に切断工程を含まず、安価に製造できるばかりでなく、異物の原因となる切断時の樹脂屑の発生を防止することができる。
【0018】
また、本発明の樹脂製ピペット(13)は、上記ピペッターと呼ばれる吸引・排出を行なう為の装置に接続して使用することにより液体の吸引・保持・排出操作をより容易かつ正確に行なうことができる。
【0019】
上記接続部(3)は、上記本体部(1)と勘合する大径筒部(7)と、基端部には上記ピペッターとの接続が可能な小径筒部(6)を有している。(図2参照)
【0020】
また、上記小径筒部(6)及び/又は上記大径筒部(7)にフィルター(8)が内挿されていることが好ましい。こうすることで、上記ピペッターからの異物や細菌等の落下による液体の汚染を防止することができる。
【0021】
上記フィルターの種類は特に限定するものではなく、綿、不織布、紐、焼結フィルター等の多孔質体を使用することができる。
【0022】
液体の吸引操作を行なう際に、誤ってピペッターまで液体を吸引してしまうとピペッターを汚染または破損させてしまう場合があり、もし接続部(3)にフィルター(8)が内挿されている場合にはピペッターまでの到達は未然に防ぐことが可能であるが、その場合でも一旦フィルターに接触した液体は汚染させてしまい、特に細胞培養の様な生化学実験においては重篤な実験ミスにつながる場合がある。
【0023】
そのために、接続部(3)の大径筒部(7)の内径を、上記本体部(1)略中央部の内径よりも大きくすることが好ましく、そうすることによって吸引容量が円筒状の本体部(1)と接続部(3)の接合部(9)を通過する時、緩衝の役目となって液体の通過速度が減速され、ピペッター又はフィルター(8)までの液の到達を未然に防ぐことができる。
【0024】
上記大径筒部(7)の内径を上記本体部(1)略中央部の内径よりも大きくした場合に、接合部分の内面に段差が出来てしまうことを防ぐ為、本体部は上記接続部(3)と接合する部分において上記接続部(3)とほぼ等しい内径を有する様に基端部に向かって拡径する接合部(9)を有していることが好ましい。
【0025】
上記大径筒部(7)の内径(A)と、上記本体部(1)略中央部の内径(B)との比(A)/(B)は1.01以上、3.0以下であることが好ましく、これによって接合時の液体の通過速度が充分に減速されピペッターまたはフィルターまでの液の到達を未然に防ぐことが容易になる。
【0026】
(A)/(B)が1.01以上、1.8以下であれば、ピペット操作時に接続部(3)が作業の妨げにならず特に好ましい。
【0027】
上記本体部(1)の基端端部に付設された第一勘合手段(4)は、上記接続部(3)の先端端部に付設された第二勘合手段(5)に勘合する凸部(11)あるいは凹部(不図示)を有していることが好ましい。こうすることで両者の位置決めが安定し、ズレの発生が抑えられる為に好ましい。
【0028】
また、上記接続部(3)の先端短部に付設された第二勘合手段(5)は、上記本体部(1)に付設された第一嵌合手段(4)に勘合する凹部(12)あるいは凸部(不図示)を有していることが好ましい。
【0029】
前述の第一嵌合手段(4)及び第二嵌合手段(5)に形成された凸部あるいは凹部は、端部の淵に沿って全周に形成されていても良いし、部分的に形成されていても良い。
【0030】
液体の吸引、保持、排出をおこなうため、接続部(3)と本体部(1)の接合には圧力及び液体の漏れがないよう気密性が付与されている必要があり、併せて使用時の取り扱いに耐えうる強度も必要となる。
そのための接合手段は特に限定するものではないが、接着剤による接着、有機溶剤による溶着、熱溶着(高周波溶着、超音波溶着)等を用いることができる。その中でも接合の確実性および製造時の効率性や異物混入を低減できる点において、熱溶着での接合が好ましい。
【0031】
本発明の樹脂製ピペット(13)の材質は特に限定するものではないが、例えばポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリルニトル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂から選ばれるものを単独で用いることもできるし、組合わせて用いることもできる。又はこれらのうち何れかの樹脂を含む共重合体を用いることが透明性の点において好ましい。
【0032】
その中でも成形性に優れたポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂のいずれかを含む共重合体が特に好ましい。
【0033】
また、ポリメチルペンテン樹脂、及びそれを含む共重合体を選択すると薬品への耐性が得られるので、用途に応じてそれらの樹脂を選択することできる。
【0034】
更に、上記本体部(1)の基端部の内外径いずれかが、先端部(2)に向かって0.005度以上、1度以下の勾配角度で細径化していることが好ましい。こうすることで、射出成形の際金型からの離型性に優れるため、効率の良い成形ができ、成形品の寸法精度にも優れるため、好ましい。
【0035】
上記勾配が0.010度以上、0.5度以下であれば前述の利点に加えて、ピペットにした際に前述の勾配が液体の吸引・排出速度に与える影響が少なく、操作性に優れるため、特に好ましい。
【0036】
本発明の樹脂製ピペット(13)は上記本体部(1)及び/又は接続部(3)の大径筒部(7)に吸引保持した液体の容量が判別できるように目盛り(10)を付設する事により液体の秤量にも使用することができる。
【0037】
目盛り(10)の付設方法は特に限定するものではなく、本体部(1)を成形する金型に予め目盛りを刻印しておくことにより射出成形と同時に付設する方法や、本体部(1)を成形した後にスクリーン印刷、タンポ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、レーザー印刷、等で付設する方法を選択することができる。
【0038】
本発明の樹脂製ピペット(13)を生化学実験等の無菌条件を必要とする用途に使用する場合、製造後に滅菌することが好ましい。
【0039】
滅菌方法は特に限定するものではなく、エチレンオキサイドガスによるガス滅菌や、γ線または電子線による放射線滅菌等を選択することができるが、量産性や残留ガスの問題等を考慮した場合、放射線滅菌が好ましい。
【0040】
本発明の樹脂製ピペット(13)の容量は特に限定するものではないが、実験・検査に使用する場合は0.5mL乃至100mLの範囲が適しており、1mL、2mL、5mL、10mL、25mL、50mL等の複数のサイズを使い分けることによって作業性を更に向上させることができる。
【0041】
例えば設定容量を1mLのピペットを本発明の樹脂製ピペット(13)で作る場合には、当該樹脂製ピペットの容積、即ち実質的な最大容量を、前述の容量から10%乃至70%大きくしておくことで設定容量以上の液体を吸引する場合にも柔軟に対応出来、更に設定容量を吸引した際に誤ってピペッターやフィルターまで液が到達することを未然に防ぎやすくすることができる。
【0042】
尚、実質的な最大容量を設定容量よりも大きくする場合、設定容量は本体部(1)及び本体部(1)の拡径した接合部(9)よりも手前即ち先端側で保持しうる容量とすることが好ましく、そうすることにより設定容量までの秤量を本体部(1)に付設された目盛り(10)の視認により行なう際の作業性に優れる為好ましい。
【0043】
本発明の樹脂製ピペット(13)の全長は特に限定するものではないが、50mm乃至500mmの範囲であれば、液体の吸引、保持、排出の際、液面の視認性に優れるため好ましい。
【0044】
上記全長が200mm乃至400mmの範囲であれば生化学試験に使用する際、細胞培養用フラスコや培地ボトルからの液の吸引操作性に優れるため特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の樹脂製ピペットの本体部と接続部を示す図である。
【図2】本発明の樹脂製ピペットの第一勘合手段と第二勘合手段を示す図である。
【図3】本発明の樹脂製ピペットの第一勘合手段の凸部と第二勘合手段の凹部を示す拡大図である。
【図4】本発明の樹脂製ピペットの全体図を示す図である。
【図5】本発明の樹脂製ピペットの全体図及び目盛りを示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 本体部
2 先端部
3 接続部
4 第一勘合手段
5 第二勘合手段
6 小径筒部
7 大径筒部
8 フィルター
9 接合部
10 目盛
11 凸部
12 凹部
13 樹脂製ピペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部と、
該本体部の先端側に備えられ液体を吸引する先端部と、
該本体部の基端側に接合され吸引装置と接続する接続部と、
から構成され、
前記先端部と前記本体部とは一体的に射出成形され、
前記本体部の基端端部には前記接続部の先端端部と勘合する第一勘合手段を、前記接続部の先端端部には前記本体部の基端端部と勘合する第二勘合手段、が付設されていることを特徴とする樹脂製ピペット。
【請求項2】
前記接続部は、基端部に吸引装置に接続可能な小径筒部と、前記本体部と勘合する大径筒部と、前記小径筒部及び/又は前記大径筒部に内挿されたフィルターと、から構成されている請求項1に記載の樹脂製ピペット。
【請求項3】
前記本体部は、基端部に向かって拡径する接合部を有し、前記接合部基端部の内径は前記接続部の大径筒部の内径とほぼ等しい請求項1又は2に記載の樹脂製ピペット。
【請求項4】
前記大径筒部の内径(A)と、前記本体部略中央部の内径(B)との比(A)/(B)は、1.01以上、3.0以下である請求項2又は3に記載の樹脂製ピペット。
【請求項5】
前記本体部の基端部の内外径いずれかが、先端側に向かって0.010度以上、0.5度以下の勾配角度で細径化している請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂製ピペット。
【請求項6】
前記本体部に付設された第一勘合手段は、前記接続部に付設された第二嵌合手段に勘合する凸部あるいは凹部を有している請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂製ピペット。
【請求項7】
前記接続部に付設された第二勘合手段は、前記本体部に付設された第一嵌合手段に勘合する凹部あるいは凸部を有している請求項1乃至6のいずれかに記載の樹脂製ピペット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−214028(P2009−214028A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60734(P2008−60734)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】