説明

樹脂製フィルム及び該フィルムを用いた積層体

【課題】 円偏光性を有する物質の円偏光の向きを制御して潜像を形成する必要がなく、しかも潜像パターンを追加・消去可能で、偽造防止媒体等に好適に使用し得る積層体を提供する。
【解決手段】 基材1と、円偏光性を有する層2と、潜像4を有する樹脂製フィルム3とを順次積層してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止媒体、可変型円偏光フィルム等に適用可能な樹脂製フィルム及び該フィルムを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、円偏光を利用した偽造防止媒体が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
しかし、上記従来の偽造防止媒体においては、コレステリック液晶層等の、本質的に円偏光性を有する物質の円偏光の向きを制御して、潜像を形成するものであった。
【0004】
しかも、特許文献2の偽造防止媒体は、製造時にあらかじめ潜像を形成する必要があり、偽造防止媒体製造後に、潜像を変更したり、新たな潜像を追加することはできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−71699号公報
【特許文献2】特開2000−255200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、円偏光性を有する物質の円偏光の向きを制御して潜像を形成する必要がなく、しかも潜像パターンを追加・消去可能で、偽造防止媒体等に好適に使用し得る樹脂製フィルム及び該フィルムを用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、透明な樹脂製フィルムに外的刺激を加えることで、その部分の光学的性質を変化させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の樹脂製フィルムは、光学的性質が異なる部分を一部に有し、該部分は、裸眼による目視では認識できないことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の積層体は、基材と、円偏光性を有する層と、前記樹脂製フィルムとを順次積層してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂製フィルムは、位相差付与部等の他の部分とは光学的性質が異なる部分を潜像として有するため、円偏光性を有する層に積層するだけで、偏光フィルムによる潜像の顕像化が可能な積層体を形成することができ、この積層体は偽造防止媒体や可変型円偏光フィルムとして使用可能である。
【0011】
更に、本発明の積層体は、円偏光性を有する層に潜像を形成する必要がないのみならず、サーマルヘッドによる加熱等の簡易な手段で、潜像の追加形成、消去が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の樹脂フィルムを用いた積層体の一例を示す図である。図1において、1は基材、2はコレステリック液晶層等の円偏光性を有する層、3は本発明の樹脂製フィルムである。
【0014】
図1に示す様に、本発明の樹脂製フィルム3は、例えば入射光の円偏光方向を逆転させて出射する位相差付与部等の他の部分とは光学的性質が異なる部分を潜像4として一部に有する。潜像4は、裸眼による目視では認識できないが、円偏光性を有する層2に積層した状態で、偏光フィルムを用いた目視では認識可能である。
【0015】
例えば、円偏光性を有する層2が、入射光5のうち左円偏光のみを反射する層である場合、潜像4を形成していない部分では、そのまま左円偏光6Lを出射するが、潜像4を形成した部分では円偏光方向が逆転し、右円偏光6Rを出射する。そして、図2(a)に示す様に潜像4を形成した場合、潜像4は裸眼による目視では認識できないが、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合、図2(b)に示す様に、潜像4(斜線部分)のみを光沢感のあるパターンとして認識することができる。また、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合、図2(c)に示す様に、潜像4以外の部分(斜線部分)を光沢感のあるパターンとして認識することができる。
【0016】
樹脂製フィルム3は延伸フィルムであることが好ましい。
【0017】
樹脂製フィルム3を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリブチルテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、アラミド等が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
樹脂製フィルム3の厚さは特に限定されないが、5〜250μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
【0019】
潜像4は、ホットスタンプ、レーザー、サーマルヘッド等による加熱等のエネルギー印加により形成することができる。潜像4は、樹脂製フィルム3を円偏光性を有する層2上へ積層した後にも形成することができるため、潜像4の追加形成が可能である。また、一旦形成した潜像に再度エネルギーを印可することにより、潜像を消去することも可能である。
【0020】
基材1としては、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、ミラーコート紙、コンデンサー紙、パラフィン紙等の紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合、アクリロニトリル・スチレン共重合体、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート等のプラスチックフィルム、金、銀、銅、アルミニウム等の金属等の単体又は複合体を好適に用いることができる。
【0021】
基材11は、透明であってもよいが、基材11まで透過した光を吸収して、余分な反射を防止できるように、暗色印刷を施してあることが好ましい。
【0022】
円偏光性を有する層2としては、コレステリック液晶層を好適に使用し得る。コレステリック液晶層は、例えばコレステリック液晶化合物の有機溶媒溶液、バインダー分散液、コレステリック液晶顔料を含むインキ等を、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルコーター法等の既知の方法で基材1に塗布することにより形成できる。また、コレステリック液晶配向を固定化した高分子フィルム、コレステリック液晶粒子を担体中に分散したフィルム等を基材1に貼り合わせて形成することもできる。
【実施例】
【0023】
<実施例1>
黒色PET基材に、10,12−ドコサジインジカルボン酸ジコレステリル(コレステリック液晶化合物)のトルエン溶液(固形分20%)をスピンコートで塗布して、コレステリック液晶層を形成した。このコレステリック液晶層は、左円偏光のみを反射する層である。
【0024】
次に、図2(a)に示す様に、厚さ12μmの透明PETフィルムに、インクリボンをはずした昇華型プリンターを用いて、表1に示す各印字エネルギーでベタ印字(20mm×10mm)を行い、裸眼による目視では確認できないパターンを形成した。表1に、各印字エネルギーにおけるヘッド温度を併せて示す。
【0025】
これらの透明PETフィルム、及び印字をしていない厚さ12μmの透明PETフィルムに、ワイヤーバーで接着剤を塗布し、コレステリック液晶層上へラミネートし、積層体を形成した。
【0026】
これらの積層体を、円偏光板を通して目視し、透明PETフィルムからの出射光の円偏光方向を確認し、表1に示した。
【0027】
まず、印字していないPETフィルムを用いた積層体No.1は、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合は全面黒色、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合は全面光沢色であった。即ち、印字していないPETフィルムは、コレステリック液晶層からの反射光である左円偏光をそのまま出射していた。
【0028】
また、積層体No.2〜6,8,9も、積層体No.1と同様であった。即ち、印字部、非印字部ともに、コレステリック液晶層からの反射光である左円偏光をそのまま出射しており、印字パターンを認識できなかった。
【0029】
ところが、積層体No.7は、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合、図2(b)に示す様に、印字部(斜線部分)のみを光沢感のあるパターンとして認識することができた。また、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合、図2(c)に示す様に、非印字部(斜線部分)を光沢感のあるパターンとして認識することができた。即ち、印字部が、左円偏光を右円偏光に変換して出射する位相差付与部となっており、非印字部とは光学的性質が異なる部分となっていた。
【0030】
<実施例2>
厚さ25μmの透明PETフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして積層体を形成し、透明PETフィルムからの出射光の円偏光方向を確認し、表1に示した。
【0031】
まず、印字していないPETフィルムを用いた積層体No.1は、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合は全面黒色、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合は全面光沢色であった。即ち、印字していないPETフィルムは、コレステリック液晶層からの反射光である左円偏光を右円偏光に変換して出射する位相差付与性を有していた。
【0032】
また、積層体No.2〜6,9も、積層体No.1と同様であった。即ち、印字部、非印字部ともに、コレステリック液晶層からの反射光である左円偏光を右円偏光に変換して出射しており、印字パターンを認識できなかった。
【0033】
ところが、積層体No.7,8は、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合、図2(b)に示す様に、印字部(斜線部分)のみを光沢感のあるパターンとして認識することができた。また、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合、図2(c)に示す様に、非印字部(斜線部分)を光沢感のあるパターンとして認識することができた。即ち、印字部では、左円偏光がそのまま出射されており、非印字部とは光学的性質が異なる部分となっていた。
【0034】
<実施例3>
厚さ50μmの透明PETフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして積層体を形成し、透明PETフィルムからの出射光の円偏光方向を確認した。結果を表1に示すが、実施例1と全く同じ結果が得られた。
【0035】
【表1】

【0036】
<実施例4>
実施例1で形成した積層体No.2に、実施例1と同様にして、印字エネルギー0.205mJ/dot(ヘッド温度215℃)で、同一パターンを重ね書きし、実施例1と同様に出射光の円偏光方向を確認したところ、印字部の出射光は左円偏光であった。
【0037】
更に、この積層体に、印字エネルギー0.266mJ/dot(ヘッド温度285℃)で、同一パターンを重ね書きし、出射光の円偏光方向を確認したところ、印字部の出射光は右円偏光であった。
【0038】
結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
<実施例5>
実施例1で形成した積層体No.4に、実施例1と同様にして、印字エネルギー0.266mJ/dot(ヘッド温度285℃)で、同一パターンを重ね書きし、実施例1と同様に出射光の円偏光方向を確認したところ、印字部の出射光は右円偏光であった。
【0041】
更に、この積層体に、印字エネルギー0.294mJ/dot(ヘッド温度309℃)で、同一パターンを重ね書きし、出射光の円偏光方向を確認したところ、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合は、印字部のみを光沢感のあるパターンとして認識することができたが、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して目視した場合は全面光沢色であり、印字パターンを認識できなかった。即ち、印字部の円偏光性は失われていた。
【0042】
結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
<実施例6>
実施例1で形成した積層体No.7に、実施例1と同様にして、印字エネルギー0.143mJ/dot(ヘッド温度145℃)で、同一パターンを重ね書きし、実施例1と同様に出射光の円偏光方向を確認したところ、印字部の円偏光性は失われていた。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
<実施例7>
実施例1で形成した積層体No.7に、実施例1と同様にして、0.205mJ/dot(ヘッド温度215℃)で、同一パターンを重ね書きし、実施例1と同様に出射光の円偏光方向を確認したところ、印字部の円偏光性は失われていた。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の積層体の使用方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
1 基材
2 円偏光性を有する層
3 樹脂製フィルム
4 潜像
5 入射光
6R 右円偏光(出射光)
6L 左円偏光(出射光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的性質が異なる部分を一部に有し、該部分は、裸眼による目視では認識できないことを特徴とする樹脂製フィルム。
【請求項2】
前記光学的性質が異なる部分は、円偏光性を有する層に積層した状態での偏光フィルムを用いた目視で認識可能であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製フィルム。
【請求項3】
前記光学的性質が異なる部分が、入射光の円偏光方向を逆転させて出射する位相差付与部であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂製フィルム。
【請求項4】
前記光学的性質が異なる部分が、エネルギー印加により形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂製フィルム。
【請求項5】
前記エネルギー印加が、サーマルヘッドによる加熱であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂製フィルム。
【請求項6】
前記樹脂が、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂製フィルム。
【請求項7】
基材と、円偏光性を有する層と、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂製フィルムとを順次積層してなることを特徴とする積層体。
【請求項8】
前記円偏光性を有する層が、コレステリック液晶層であることを特徴とする請求項7に記載の積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−3576(P2006−3576A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179109(P2004−179109)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】