説明

樹脂製品及びその製造方法並びに金属皮膜の成膜方法

【課題】高価な金属の使用量を削減してコストを下げても、十分な光輝性及び不連続構造の金属皮膜が得られるようにする。
【解決手段】樹脂製品10(例えばミリ波レーダー装置カバー)は、板状の樹脂基材11と、樹脂基材11の上に成膜された下地膜12と、下地膜12の上に成膜された光輝性及び不連続構造の金属皮膜13とを含み、金属皮膜13の上には保護膜としてのトップ塗膜、おさえ塗膜等が形成される。金属皮膜13は、第1の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第1膜13aと、第1膜13aの表面が空気に触れて改質された改質表面13bと、改質表面13bの上に第2の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第2膜13cとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝性及び不連続構造の金属皮膜を有する樹脂製品及びその製造方法、並びに、該金属皮膜の成膜方法に関し、ミリ波レーダー装置カバーその他の各種用途に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
自動車が周囲の物に接近したことを運転者に警告するために、距離測定用のミリ波レーダー装置を自動車の各部、例えばラジエータグリル、サイドモール、バックパネル等の背後に設けることが検討されている。しかし、これらのラジエータグリル等が金属皮膜により光輝性をもたせたものである場合、その金属皮膜がミリ波を遮断し又は大きく減衰させる。そのため、レーダー装置のミリ波の経路上は、光輝性及びミリ波透過性のレーダー装置カバーによって覆う必要がある。金属皮膜がミリ波透過性を有するには、不連続構造、すなわち、金属皮膜が一面に連続しておらず、多数の微細な金属膜が島状に互いに僅かに離間した状態で敷き詰められてなる構造(海島構造)をなす必要がある。
【0003】
従来のミリ波レーダー装置カバーは、この光輝性及び不連続構造の金属皮膜を、In等の単一金属を真空蒸着法により成膜している(特許文献1、2等)。これは、In等の金属に不連続構造を形成しやすい性質があるからである。その性質に乏しい大部分の金属を真空蒸着法により成膜しても、外観上十分な光輝性が得られる膜厚領域にまで到ったときに、連続構造となって電気抵抗が低くなり、ミリ波透過性が不十分となる。
【特許文献1】特開2000−159039号公報
【特許文献2】特開2000−344032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特にInは高価であり、製品コストが高くなるという問題がある。そこで、Inの使用量の削減やIn以外の金属の使用が求められるところである。
【0005】
そこで、本発明の目的は、高価な金属の使用量を削減してコストを下げても、十分な光輝性及び不連続構造の金属皮膜が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、次の手段(1)〜(3)を採ったものである。
【0007】
(1)樹脂基材と、前記樹脂基材の上に第1の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第1膜と、前記第1膜の表面が空気に触れて改質された改質表面と、前記改質表面の上に第2の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第2膜とを含む光輝性及び不連続構造の金属皮膜とを含む樹脂製品。
【0008】
(2)樹脂基材の上に第1の金属を真空蒸着して不連続構造の第1膜を形成するステップと、前記第1膜の表面を空気に触れさせて改質するステップと、前記改質した表面の上に第2の金属を真空蒸着して不連続構造の第2膜を形成するステップとを含んで光輝性及び不連続構造の金属皮膜を成膜する樹脂製品の製造方法。
【0009】
(3)第1の金属を真空蒸着して不連続構造の第1膜を形成するステップと、前記第1膜の表面を空気に触れさせて改質するステップと、前記改質した表面の上に第2の金属を真空蒸着して不連続構造の第2膜を形成するステップとを含んで光輝性及び不連続構造の金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法。
【0010】
これらの手段における各要素について態様の例示を以下にする。
【0011】
1.樹脂基材
樹脂基材の形態としては、特に限定されないが、板材、シート材、フィルム材等を例示できる。樹脂基材の樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂、ポリスチレン、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリウレタン等を例示できる。
【0012】
2.下地膜
本発明においては、樹脂基材の上に(金属皮膜の下地となる)下地膜を成膜してもよいし成膜しなくてもよい。下地膜としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。
1.有機系化合物よりなる下地膜
有機系塗料(アクリル系塗料等)を塗布して形成された塗膜を例示できる。その膜厚は0.5〜20μm程度が好ましい。
2.無機系化合物よりなる下地膜
無機系塗料(SiO2、TiO2等の金属化合物を主成分とするもの)を塗布して形成された塗膜や、物理真空蒸着法により付けた金属化合物よりなる薄膜等を例示できる。
【0013】
3.金属皮膜
本発明において光輝性及び不連続構造の金属皮膜が成膜されるメカニズムは、第1の金属を真空蒸着して不連続構造(海島構造)の第1膜を形成した後、その第1膜の表面を空気に触れさせると、空気による何らかの作用により(現在は不明)、その上に真空蒸着される第2の金属が連続成長することを妨げるような改質表面が生成され、従って第2の金属がたとえ連続構造をとりやすい金属であっても第1の不連続構造を維持して不連続構造に成膜される、というものと推定される。
【0014】
3−1.蒸着金属
従って、第1の金属はもともと真空蒸着で不連続構造をとりやすい金属であることが好ましく、そのような金属としては、In、Cr等を例示できる。一方、第2の金属は、特に限定されず、真空蒸着で不連続構造をとりやすい金属でもよいし連続構造をとりやすい金属でもよい。
よって、第1の金属と第2の金属とは、同種の金属であってもよいし、異種の金属であってもよい。異種の金属の場合、第1の金属と第2の金属との組み合わせを、次のとおり例示する。
【0015】
(a)第1の金属がInであり、第2の金属がCr又はAlである組み合わせ
(b)第1の金属がCrであり、第2の金属がInである組み合わせ
【0016】
3−2.金属皮膜の膜厚
金属皮膜の膜厚は、特に限定されないが、10〜100nmが好ましい。10nm未満では光輝性が低下する傾向となり、100nmを越えると電気抵抗が低くなり、例えばミリ波透過性を損なう傾向となるからである。
第1膜と第2膜とに分けて考えると、第1膜は5〜30nmが好ましい。5nm未満では膜が不安定となり、30nmを越えると二膜構成にする意味(効果)がないからである。また、第2膜は5〜95nmが好ましい。5nm未満では色効果などが発揮できなくなり、95nmを越えると島状モルフォロジーが崩れ、耐久性や、例えばミリ波透過性が低くなるからである。
【0017】
3−3.表面改質処理
第1膜の表面を空気に触れさせて改質する処理について、まずその方法としては、第1膜を真空蒸着により成膜した後にその真空蒸着に用いていた真空状態のチャンバに空気を導入する方法ないし大気に開放する方法を例示できる。また、第1膜の表面を空気に触れさせる改質時間としては、30分以上であることが好ましい。
【0018】
4.その他の膜等
金属皮膜の上に金属皮膜を保護するための保護膜を形成することが好ましい。樹脂基材の下面側が意匠面である場合には、金属皮膜の上に保護膜としておさえ塗膜等を形成するとよい。さらに、おさえ塗膜の上に樹脂背後材が射出成形等されてもよい。一方、金属皮膜の上面側が意匠面である場合、金属皮膜の上に保護膜としてのクリヤートップ塗膜等を形成するとよい。
【0019】
5.樹脂製品の種類(用途)
金属皮膜が不連続であることから、電気抵抗が高いためミリ波透過性や落雷防止性があり、腐食の伝搬を抑制するため耐食性があり、樹脂基材の屈曲に金属皮膜が追従しやすい等の性質がある。これらの性質から、樹脂製品の種類(用途)として、特に限定されないが、次のものを例示できる。
(a)ミリ波透過性による用途として、ミリ波レーダー装置カバーを例示できる。該カバーの適用部位は、特に限定されないが、自動車の外装塗装製品への適用が好ましく、特にラジエータグリル、グリルカバー、サイドモール、バックパネル、バンパー、エンブレム等に適する。
(b)落雷防止性による用途として、雨傘等を例示できる。
(c)処理部分のみ電気が通らないことによる用途として、プリント配線基板を例示できる。
(d)耐食性による用途として、エンブレム、ラジエータグリル、光輝モール等を例示できる。
(e)屈曲に追従することによる用途として、軟質光輝モール等を例示できる。
(f)その他、赤外線透過性による用途として、電子レンジ用容器を例示できる。
【0020】
また、本発明は、上記の課題を解決するために、次の手段(4)を採ったものである。
(4)樹脂基材と、前記樹脂基材の上に第1の金属が真空蒸着されてなる第1膜と、前記第1膜の上に前記第1の金属とは異なる第2の金属が真空蒸着されてなる第2膜とを含む光輝性及び不連続構造の金属皮膜とを含み、前記金属皮膜によるミリ波往復透過減衰量が4dB以下(より好ましくは2dB以下)である樹脂製品。
【0021】
同手段において、樹脂基材、下地膜、その他の膜等、樹脂製品の種類(用途)については、上記手段(1)〜(3)と同様の態様を例示できる。金属皮膜については、第1の金属がInであり、第2の金属がCrである組み合わせを例示でき、その膜厚に関しては上記手段と同様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高価な金属の使用量を削減してコストを下げても、十分な光輝性及び不連続構造の金属皮膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に示す樹脂製品10(例えばミリ波レーダー装置カバー)は、板状の樹脂基材11と、樹脂基材11の上に成膜された下地膜12と、下地膜12の上に成膜された光輝性及び不連続構造の金属皮膜13とを含み、金属皮膜13の上には保護膜としてのトップ塗膜、おさえ塗膜等が形成される。金属皮膜13は、第1の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第1膜13aと、第1膜13aの表面が空気に触れて改質された改質表面13bと、改質表面13bの上に第2の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第2膜13cとを含む。
【0024】
この樹脂製品10は、次の工程により製造されたものである。樹脂基材11は例えばPC(ポリカーボネート)よりなる板厚3〜6mmの板状のものである。
(1)樹脂基材11の上に下地膜12を成膜する。
(2)下地膜12付きの樹脂基材11をチャンバに入れてチャンバ内を真空引きし、下地膜12の上に第1の金属を真空蒸着して不連続構造の第1膜を形成するステップ
(3)前記真空状態のチャンバを大気に開放して、第1膜の表面を大気に触れさせて改質するステップ
(4)再びチャンバ内を真空引きし、改質表面の上に第2の金属を真空蒸着して不連続構造の第2膜を形成するステップ
この(2)〜(4)により、光輝性及び不連続構造の金属皮膜を成膜する。
【実施例】
【0025】
板厚5mmの板状のPC基材を用い、PC基材の上にアクリルウレタン系塗料なる下地膜(膜厚5μm)を成膜し、次の表1に示すとおり、その下地膜の上に実施例1,2及び比較例1〜5の金属皮膜を成膜し、金属皮膜の膜厚とミリ波往復透過減衰量(ミリ波の周波数は76GHz)を調べた。ミリ波往復透過減衰量は、PC基材(下地膜も含む。以下同じ。)と金属皮膜との両者をミリ波が往復する際の透過減衰量(絶対値)を求め、その絶対値からPC基材のみをミリ波が往復する際の透過減衰量を減じることにより、金属皮膜のみによるミリ波往復透過減衰量(蒸着分)を求めた。
【0026】
【表1】

【0027】
PC基材のみによるミリ波往復透過減衰量を測定したところ2.88dBであった。
比較例1は、Crを真空蒸着して膜厚30nmのCr膜を成膜した例であり、ミリ波往復透過減衰量(蒸着分)が3.49dBと大きかった。このことは、Cr膜が十分な不連続構造を形成しておらず、電気抵抗値が低いことを表しており、ミリ波透過性はNGである。
比較例2は、Inを真空蒸着して膜厚3nmのIn膜を成膜した後、引き続き(真空状態を維持したまま)Crを真空蒸着して膜厚27nmのCr膜を成膜した例であり、やはりミリ波透過性はNGであった。
【0028】
比較例3は、Inを真空蒸着して膜厚3nmのIn膜を成膜した後、チャンバに酸素ガスを導入してチャンバ内の気圧を10-3Paから10-2Paにまで高めて5分保持してIn膜の表面を酸素ガスに曝し、その後再びチャンバ内を真空引きし、Crを真空蒸着して膜厚27nmのCr膜を成膜した例であり、やはりミリ波透過性はNGであった。このことは、In膜の表面がこの程度の酸素によっては改質されず、格別の変化が現れないことを意味している。
比較例4は、比較例3に対して酸素ガスを導入してIn膜の表面を酸素ガスに曝す時間を20分に延長した例であり、やはりミリ波透過性はNGであった。従って、In膜の表面は酸素によっては改質されないものと考えられる。
【0029】
実施例1は、Inを真空蒸着して膜厚10nmのIn膜を成膜した後、チャンバを大気に開放して45分保持して、In膜の表面を大気に触れさせて改質し、その後再びチャンバ内を真空引きし、Crを真空蒸着して膜厚20nmのCr膜を成膜した例であり、ミリ波往復透過減衰量(蒸着分)が1.04dBと小さかった。このことは、In膜/Cr膜よりなる金属皮膜が十分な不連続構造を形成していて、電気抵抗値が高いことを表している。
実施例2は、実施例1に対してIn膜の膜厚を大きくする一方、Cr膜の膜厚を小さくした例であり、ミリ波往復透過減衰量(蒸着分)はさらに小さい0.24dBであった。この結果は、表1にはないが、Inを真空蒸着して膜厚30nmのIn膜のみを成膜した場合の結果と同等であり、金属皮膜が十分な不連続構造を形成していて、電気抵抗値が高いことを表している。
これらの実施例1,2によれば、高価なInの使用量を削減してコストを下げても、十分な光輝性及び不連続構造の金属皮膜が得られる。
【0030】
比較例5は、実施例2に対して、チャンバを大気に開放する代わりに、比較例3の酸素ガスの導入を行った例であり、ミリ波透過性はNGであった。従って、やはりIn膜の表面はこの圧の酸素によっては改質されないものと考えられる。
【0031】
以上の結果から、In膜の改質は、空気(特に酸素以外の何らかの可能性が高い)による何らかの作用により(現在は不明)、その上に真空蒸着される金属が連続成長することを妨げるような改質表面が生成されるものと考えられる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態の樹脂製品を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 樹脂製品
11 樹脂基材
12 下地膜
13 金属皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材の上に第1の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第1膜と、前記第1膜の表面が空気に触れて改質された改質表面と、前記改質表面の上に第2の金属が真空蒸着されてなる不連続構造の第2膜とを含む光輝性及び不連続構造の金属皮膜と
を含む樹脂製品。
【請求項2】
樹脂基材の上に第1の金属を真空蒸着して不連続構造の第1膜を形成するステップと、
前記第1膜の表面を空気に触れさせて改質するステップと、
前記改質した表面の上に第2の金属を真空蒸着して不連続構造の第2膜を形成するステップと
を含んで光輝性及び不連続構造の金属皮膜を成膜する樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
第1の金属を真空蒸着して不連続構造の第1膜を形成するステップと、
前記第1膜の表面を空気に触れさせて改質するステップと、
前記改質した表面の上に第2の金属を真空蒸着して不連続構造の第2膜を形成するステップと
を含んで光輝性及び不連続構造の金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法。
【請求項4】
前記第1の金属がInであり、前記第2の金属がCrである請求項1記載の樹脂製品。
【請求項5】
前記第1の金属がInであり、前記第2の金属がCrである請求項2又は3記載の樹脂製品の製造方法又は金属皮膜の成膜方法。
【請求項6】
樹脂基材と、
前記樹脂基材の上に第1の金属が真空蒸着されてなる第1膜と、前記第1膜の上に前記第1の金属とは異なる第2の金属が真空蒸着されてなる第2膜とを含む光輝性及び不連続構造の金属皮膜とを含み、
前記金属皮膜によるミリ波往復透過減衰量が4dB以下である樹脂製品。
【請求項7】
前記第1の金属がInであり、前記第2の金属がCrである請求項6記載の樹脂製品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−162125(P2007−162125A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237911(P2006−237911)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】