説明

樹脂製品及びその製造方法

【課題】より優れた耐摩傷性を発揮するトップコート層が、アンダーコート層に対して高い密着性をもって積層形成されてなる樹脂製品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート製の樹脂基材12の表面に積層されたアンダーコート層14上に、有機珪素化合物のプラズマCVD層からなる基層部18と、無機珪素化合物のプラズマCVD層からなる表層部20との複層構造を有するトップコート層16を更に積層形成して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製品及びその製造方法とに係り、特に、有機ガラスとして好適に使用可能な樹脂製品と、そのような樹脂製品の有利な製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、優れた成形性と軽量性とを兼ね備えた樹脂製品が、例えば、自動車等の車両の内外装部品や、電気、電子部品、或いは建築用部品等として、広く利用されてきている。そして、そのような樹脂製品のうち、例えば、ポリカーボネート製の成形品からなる透明性の高い樹脂製品は、無機ガラスに比して、軽量性や耐衝撃性、加工性に優れているところから、無機ガラスを代替する有機ガラスとして、例えば、自動車等の車両のウインドウガラスや各種のディスプレイ、或いは様々な計器類のカバー等に使用されている。
【0003】
ところで、ポリカーボネート製の樹脂製品は、紫外線に曝されると、変色や強度低下を引き起こす等、耐候性において問題があり、しかも、無機ガラスと比べて耐摩傷性に劣るといった欠点をも有している。そのため、ポリカーボネート製の樹脂製品を、屋外で使用されるものであって、表面の傷付きが重大な欠陥となる、例えば、自動車のウインドウガラス等に適用する場合には、かかる樹脂製品に対して、耐候性と耐摩傷性とを高めるための対策を講じる必要がある。
【0004】
かかる状況下、例えば、特開2010−253683号公報(特許文献1)には、ポリカーボネート等の樹脂成形体からなる樹脂基材の表面に、耐候性に富んだアクリル樹脂層等からなるアンダーコート層が積層形成されると共に、このアンダーコート層上に、有機珪素化合物のプラズマCVD層からなるトップコート層が、更に積層形成されてなる樹脂製品(樹脂成形体)が、開示されている。そして、そこには、トップコート層が有機珪素化合物のプラズマCVD層にて構成されていることによって、トップコート層のアンダーコート層に対する密着性が高められると共に、樹脂製品表面の耐摩傷性の向上が図られることが、記載されている。
【0005】
ところが、本発明者が、そのような従来のポリカーボネート製の樹脂製品の品質評価を行ったところ、有機珪素化合物層からなるトップコート層は、アンダーコート層に対する密着性に関して優れた特性を発揮するものの、耐摩傷性が、例えば、自動車のウインドウガラス等において要求される程の極めて高い基準に達していないことが、明らかとなったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−253683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面に積層されたアンダーコート層に対する密着性が高く、しかも、より優れた耐摩傷性を発揮するトップコート層が、アンダーコート層に積層形成されてなる樹脂製品と、そのような樹脂製品を有利に製造する方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、上記の課題を解決するために、ポリカーボネート製の樹脂成形品からなる樹脂基材の表面上にアンダーコート層を積層形成すると共に、該アンダコート層上に、珪素化合物層からなるトップコート層を更に積層形成してなる樹脂製品において、前記トップコート層が、前記アンダーコート層側に位置する基層部と、該基層部に積層された表層部との複層構造を有すると共に、該基層部が、有機珪素化合物層からなるプラズマCVD層にて構成されている一方、該表層部が、無機珪素化合物層からなるプラズマCVD層にて構成されていることを特徴とする樹脂製品を、その要旨とするものである。
【0009】
本発明の有利な態様の一つによれば、前記トップコート層の前記基層部のうち、該基層部の前記アンダーコート層との界面の全面を含む該アンダーコート層側部分が、全ての部位において炭素原子の含有率が一定の組成一定領域とされている一方、該基層部のうちの該アンダコート層側部分を除く部分が、該アンダコート層側から前記表層部側に向かって炭素原子の含有率が漸減する組成変化領域とされる。なお、ここで言う炭素原子の含有率とは、有機珪素化合物を構成する全ての原子の原子数に対する炭素原子の原子数の比率を言う。以下、同一の意味において使用する。
【0010】
そして、本発明にあっては、ポリカーボネート製の樹脂成形品からなる樹脂基材の表面上にアンダーコート層を積層形成すると共に、該アンダコート層上に、珪素化合物層からなるトップコート層を更に積層形成してなる樹脂製品の製造方法であって、(a)前記樹脂基材を準備する工程と、(b)該樹脂基材の表面に、前記アンダーコート層を積層形成する工程と、(c)該アンダーコート層が積層形成された前記樹脂基材を反応室内に収容した後、該反応室内を真空状態とする工程と、(d)前記真空状態とされた反応室内に有機珪素化合物ガスを導入し、該有機珪素化合物ガスをプラズマCVD法により反応させて、前記樹脂基材の前記アンダーコート層上に、有機珪素化合物層を積層形成する工程と、(e)前記有機珪素化合物層が前記アンダーコート層上に積層形成された前記樹脂基材を収容する前記反応室内に、無機珪素化合物ガスと反応ガスとを導入する一方、該反応室内への前記有機珪素化合物ガスの導入を停止し、該無機珪素化合物ガスと該反応ガスとをプラズマCVD法により反応させて、該有機珪素化合物層上に、無機珪素化合物層を更に積層形成することにより、前記アンダーコート層上に、前記トップコート層を、該有機珪素化合物層と該無機珪素化合物層とからなる複層構造において、積層形成する工程とを含むことを特徴とする樹脂製品の製造方法をも、また、その要旨とするものである。なお、ここで言う反応ガスとは、プラズマCVD法の実施により、プラズマ化されて、無機珪素化合物ガスのプラズマと反応することにより、無機珪素化合物層を構成する無機珪素化合物を生成するものである。以下、同一の意味において使用する。そして、かかる反応ガスとしては、酸素ガスや窒素ガス、アンモニアガス等が例示される。
【0011】
本発明の好ましい態様の一つによれば、前記無機珪素化合物ガスの前記反応室内への導入の開始から、該反応室内に導入される前記有機珪素化合物ガスの導入量を漸減させて、ゼロとすることにより、該反応室内への該無機珪素化合物ガスの導入開始から、該反応室内への該有機珪素化合物ガスの導入停止までの間、該有機珪素化合物ガスのプラズマCVD法による反応と、該無機珪素化合物ガスと前記反応ガスとのプラズマCVD法による反応とを同時に実施するようにされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従う樹脂製品にあっては、より優れた耐摩傷性を発揮するトップコート層が、アンダーコート層を介して、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面に対して、剥離を生じさせない、十分に高い密着性をもって積層され得る。従って、自動車等の車両のウインドウガラス等において要求される程の極めて高いレベルでの耐摩傷性が、より長期に亘って安定的に発揮され得るのである。
【0013】
また、本発明に従う樹脂製品の製造方法によれば、有機珪素化合物層と無機珪素化合物層とからなる複層構造のトップコート層を、樹脂基材表面のアンダーコート層上に、プラズマCVD装置の一つの反応室内で形成することができる。従って、上記の如き優れた特徴を有する樹脂製品を、より容易に且つ効率的に製造することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う樹脂製品の一実施形態を示す、部分断面説明図である。
【図2】図1に示された樹脂製品を製造する際に用いられるプラズマCVD装置を示す、断面説明図である。
【図3】本発明に従う樹脂製品において、トップコート層における厚さが異なる部位での炭素原子と酸素原子と珪素原子の含有率の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0016】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する樹脂製品の一実施形態として、自動車のリヤウインドウ用の樹脂ガラス10が、その部分断面形態において示されている。かかる図1から明らかなように、樹脂ガラス10は、樹脂基材12を有し、この樹脂基材12の両面には、アンダーコート層14が、それぞれ積層形成されている。また、それら各アンダーコート層14,14の樹脂基材12側とは反対側の面上には、トップコート層16が、それぞれ、更に積層形成されている。
【0017】
より具体的には、樹脂基材12は、透明な平板形態を呈し、ポリカーボネートを用いて射出成形された樹脂成形品にて構成されている。なお、樹脂基材12は、ポリカーボネート製の樹脂成形品であれば、射出成形以外の手法で成形されたものであっても良い。
【0018】
アンダーコート層14は、樹脂ガラス10に対して、紫外線耐性等に基づいた耐候性を付与すること等を目的として、樹脂基材12表面に積層されるもので、薄膜形態を呈している。このようなアンダーコート層14は、一般に、液状のアクリル樹脂やポリウレタン樹脂を樹脂基材12表面上に塗布して、塗膜を成膜した後、加熱操作や紫外線照射を行って、かかる塗膜を硬化させることにより形成される。なお、このようなアンダーコート層14は、形成工程の簡略化や形成に要する設備コストの低減等を図る上において、紫外線硬化膜にて構成されていることが、望ましい。また、アンダーコート層14は、耐候性を有するものであれば、上記例示以外の樹脂材料や硬化手法を採用して、形成することもできる。更に、かかるアンダーコート層14は、単層構造であっても、複数層が積層された複層構造であっても良い。
【0019】
アンダーコート層14の厚さは、特に限定されるものではないものの、一般には、単層構造であっても、複層構造であっても、全体の厚さが8〜12μm程度とされる。何故なら、アンダーコート層14の厚さが、8μmよりも薄いと、余りに薄いために、樹脂ガラス10に対して十分な耐候性を付与することが困難となる恐れがあるからであり、また、アンダーコート層14の厚さを12μmよりも厚くしても、樹脂ガラス10の耐候性を更に向上させることは難しく、却って、材料費の無駄となる可能性があるからである。
【0020】
トップコート層16は、珪素化合物からなる薄膜形態を呈している。よく知られているように、珪素化合物は、高い硬度を有し、それに基づいて、優れた耐摩耗性や耐摩傷性を発揮する。従って、かかる珪素化合物からなるトップコート層16が、アンダーコート層14上に積層されて、樹脂ガラス10の表面部分を構成していることによって、樹脂ガラス10に対して、優れた耐摩耗性や耐摩傷性が付与されているのである。
【0021】
そのようなトップコート層16の厚さは、何等、限定されるものではないものの、1.1〜2.2μm程度とされる。何故なら、トップコート層16の厚さが、1.1μmよりも薄いと、余りに薄いために、樹脂ガラス10に対して耐摩耗性や耐摩傷性を十分に付与することが困難となる恐れがあるからであり、また、トップコート層16の厚さを2.2μmよりも厚くしても、樹脂ガラス10の耐摩耗性や耐摩傷性の更なる向上を望むことは難しく、却って、材料費の無駄となる可能性があるからである。
【0022】
本実施形態では、特に、かかるトップコート層16が、アンダーコート層14側に位置する基層部18と、この基層部18上に積層された表層部20とからなる複層構造を有している。そして、基層部18が、有機珪素化合物層からなるプラズマCVD膜にて構成されており、また、表層部20が、無機化合物層からなるプラズマCVD膜にて構成されている。
【0023】
すなわち、トップコート層16の基層部18は、アンダーコート層14上に、プラズマCVD法により積層された薄膜からなり、珪素と炭素とを含んだ組成を有している。なお、基層部18には、酸素や水素が含まれていても良い。
【0024】
基層部18を構成する有機珪素化合物は、炭素を有しているため、無機珪素化合物に比して、多少、硬度が低いものの、アンダーコート層14上への積層状態下において、アンダーコート層中の、例えば炭素や酸素と容易に結合し、それによって、アンダーコート層14、ひいては基材12に対して優れた密着性を発揮する。従って、ここでは、トップコート層16のアンダーコート層14や基材12に対する密着性を高めるために、有機化合物からなる基層部18が、トップコート層16に形成されているのである。
【0025】
このような基層部18の厚さは、特に限定されるものではないものの、0.6〜1.2μm程度とされていることが望ましい。何故なら、有機珪素化合物層からなる基層部18の厚さが、0.6μmよりも薄いと、余りに薄いために、アンダーコート層14に対する密着性が不充分となる可能性があるからである。また、基層部18の厚さが1.2μmよりも厚くすると、トップコート層16のうちで、有機化合物層からなる基層部18の占める割合が大きくなり、換言すれば、トップコート層16のうちで、無機化合物層からなる表層部20の占める割合が小さくなり、そのために、トップコート層16の硬度が低下して、樹脂ガラス10の耐摩耗性や耐摩傷性の向上が十分に図れなくなる恐れが生ずるからである。
【0026】
そして、本実施形態においては、そのようなトップコート層16の基層部18のうち、アンダーコート層14との界面の全面を含むアンダーコート層14側部分、つまり、基層部18のアンダーコート層14側の部分の全体が、全ての部位において有機珪素化合物中の炭素原子の含有率が一定とされた組成一定領域22とされている。
【0027】
この基層部18における組成一定領域22を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率は、特に限定されるものではないものの、15〜30原子%であることが望ましい。何故なら、有機珪素化合物層は、炭素原子の含有率の増加に伴って、被積層物に対する密着性が上昇する傾向を有している。それ故、基層部18における組成一定領域22を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率が15原子%以上とされていることによって、基層部18(トップコート層16)のアンダーコート層14に対する密着性が、十分に高められるからである。換言すれば、組成一定領域22を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率が15原子%未満であると、基層部18のアンダーコート層14に対する密着性を、十分に満足し得る程度のレベルにおいて確保することが困難となる恐れがあるからである。しかしながら、組成一定領域22を構成する有機珪素化合物中に、炭素原子が30原子%を超える量において含まれていると、炭素原子の含有率が多過ぎるために、基層部18、ひいてはトップコート層16全体の硬度の低下を招く可能性がある。従って、基層部18のアンダーコート層14に対する十分な密着性と高い硬度とを有効に確保する上で、組成一定領域22を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率が、15〜30原子%とされていることが、好ましいのである。また、かかる含有率は、18〜25原子%とされていることが、より好ましい。
【0028】
また、組成一定領域22の厚さも、何等、限定されるものではないものの、好適には、0.3〜0.6μm程度とされる。何故なら、組成一定領域22の厚さが、0.3μmよりも薄いと、余りに薄いために、アンダーコート層14に対する十分な密着性を確保することが困難となる恐れがあるからであり、また、組成一定領域22の厚さを0.6μmよりも厚くすると、基層部18、ひいてはトップコート層16全体の硬度の低下を招く可能性があるからである。
【0029】
そして、基層部18は、組成一定領域22とされたアンダーコート層14側部分を除く残りの部分が、アンダーコート層14側から表層部20側に向かって、有機珪素化合物中の炭素原子の含有率が徐々に減少する組成変化領域24とされている。
【0030】
この組成変化領域24は、炭素原子の含有率の減少形態が、特に限定されるものではなく、アンダーコート層14側から表層部20側に向かって、連続的に減少するようになっていても良いし、或いは段階的に減少するようになっていても良い。つまり、組成変化領域24では、基層部16における組成変化領域24の厚さを横軸とし、組成変化領域24を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率を縦軸として描いたグラフが、右下がりに傾斜する直線と右下がりの曲線と右下がりの階段状の屈曲線と右下がりの波線のうちの何れか、或いはそれらのうちの幾つかの組合せとなるような形態において、炭素原子の含有率が減少するようになっているのである。
【0031】
組成変化領域24を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率は、一般には、組成一定領域24を構成する有機珪素化合物中の炭素原子の含有率が上限値とされ、また、その下限値がゼロよりも大きい値とされる。
【0032】
また、組成変化領域24の厚さも、何等、限定されるものではないものの、好適には、0.3〜0.6μm程度とされる。何故なら、組成変化領域24の厚さが、0.3μmよりも薄いと、余りに薄いために、表層部20と組成一定領域22との密着性が悪くなる恐れがあるからであり、また、組成変化領域24の厚さを0.6μmよりも厚くすると、成膜時間が増大し、それによって、コスト高となる可能性があるからである。
【0033】
このように、本実施形態では、無機珪素化合物からなる表層部20と、無機珪素化合物層に比して、アンダーコート層14との密着性に優れるものの、硬度の小さな有機珪素化合物層からなる基層部18の組成一定領域22との間に、組成変化領域24が介在させられて、トップコート層16が構成されている。そのため、かかるトップコート層16が、例えば、組成変化領域24を介することなく、炭素原子の含有率が一定の有機珪素化合物のみからなる基層部18と無機珪素化合物層からなる表層部20とが直接に積層されたトップコート層16と同等のアンダーコート層14に対する密着性を有しつつ、トップコート層16全体の硬度の向上が図られているのである。
【0034】
一方、トップコート層16の表層部20は、基層部18の組成変化領域24上に、プラズマCVD法により積層された、例えば、SiO2 やSiON、SiN 等の薄膜からなり、炭素を含まない組成を有している。このような表層部20を構成する無機珪素化合物層は、基層部18を構成する有機珪素化合物層よりも高い硬度を有している。それ故、本実施形態では、樹脂ガラス10の表面部分が、そのような無機珪素化合物層からなるトップコート層16の表層部20にて構成されていることにより、樹脂ガラス10に対して、更に一層優れた耐摩耗性や耐摩傷性が付与されているのである。
【0035】
また、無機珪素化合物層は、その硬度が、樹脂基材12やアンダーコート層14を形成するポリカーボネート製やアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の硬度よりも格段に高くされている。また、それらの樹脂の熱膨張係数と無機珪素化合物の熱膨張係数との差は、それらの樹脂の熱膨張係数と有機珪素化合物の熱膨張係数との差よりも大きな違いがある。例えば、ポリカーボネートの熱膨張係数が70〜80×10-6であるのに対して、有機SiO2の熱膨張係数は5〜8×10-6で、無機SiO2の熱膨張係数は2〜3×10-6である。それ故、かかる無機化合物層からなる表層部20がアンダーコート層14に対して直接に積層されていると、アンダーコート層14や樹脂基材12との熱膨張差応力等により、表層部20が、アンダーコート層14から剥がれ易くなってしまう。しかしながら、本実施形態では、無機珪素化合物層からなる表層部20とアンダーコート層14との間に、樹脂基材12やアンダーコート層14との熱膨張差が小さく、アンダーコート層14との密着性に優れた有機珪素化合物層からなる基層部18が介装されている。そのため、無機珪素化合物層からなるトップコート層がアンダーコート層14に対して直接に積層されている場合とは異なって、無機珪素化合物層からなる表層部20の剥離が、効果的に防止されるようになっているのである。また、有機珪素化合物層と無機珪素化合物層と間においては、Si−SiやSi−O、Si−Cの結合が存在し、これによって、剥離のない十分な密着性が確保される。
【0036】
このようなトップコート層16の表層部20の厚さは、特に限定されるものではないものの、0.5〜1μm程度とされる。何故なら、表層部20の厚さが、0.5μmよりも薄いと、余りに薄いために、必要な硬度を確保することが困難となって、樹脂ガラス10に対して十分な耐摩耗性や耐摩傷性を付与することが難しくなる恐れがあるからであり、また、表層部20の厚さを1μmよりも厚くすると、トップコート層16の基層部18の厚さが、相対的に薄くなって、基層部18によるアンダーコート層14や樹脂基材12との密着性の向上が不充分なものとなってしまう可能性があるからである。
【0037】
このように、本実施形態の樹脂ガラス10にあっては、樹脂基材12に対して、上記の構造を有するアンダーコート層14とトップコート層16とが積層形成されているため、十分な耐候性と優れた耐摩耗性及び耐摩傷性が有利に発揮され得る。そして、特に、トップコート層16のアンダーコート層14や樹脂基材12に対する密着性が十分に高められ、以て、優れた耐摩耗性や耐摩傷性が、更に効果的に確保され得ると共に、より長期に亘って安定的に維持され得るのである。
【0038】
ところで、かくの如き優れた特徴を有する樹脂ガラス10は、例えば、以下の手順に従って製造される。
【0039】
すなわち、先ず、ポリカーボネート製の樹脂基材12を射出成形等により成形する。その後、この樹脂基材12の両面に、アクリル樹脂やポリウレタン樹脂等の塗膜が熱硬化や紫外線硬化されたアンダーコート層14,14をそれぞれ積層形成する。
【0040】
次に、図2に示される如き構造を有するプラズマCVD装置26を用いて、樹脂基材12の両面に積層されたアンダーコート層14,14上に、トップコート層16を更に積層形成する。
【0041】
図2に示されるように、ここで用いられるプラズマCVD装置26は、平行平板方式を採用した従来のプラズマCVD装置と同様な基本構造を備えている。より具体的には、プラズマCVD装置26は、反応室としての真空チャンバ28を有している。この真空チャンバ28は、チャンバ本体30と蓋体32とを更に含んで構成されている。チャンバ本体30は、筒状の側壁部34と、かかる側壁部34の下側開口部を閉塞する下側底壁部36とを備えた有底筒状乃至は筐体状を呈している。蓋体32は、チャンバ本体30の上側開口部38の全体を覆蓋可能な大きさを有する平板にて構成されている。そして、かかる蓋体32が、チャンバ本体30の上側開口部38を覆蓋した状態で、図示しないロック機構にてロックされることにより、チャンバ本体30内が気密に密閉されるようになっている。
【0042】
また、蓋体32の下面には、上側ホルダ40,40が、一体的に立設されている。それら上側ホルダ40,40には、支持突起42,42が一体的に突設されている。そして、チャンバ本体30内に収容されたカソード電極44が、かかる支持突起42,42にて支持されて、上側ホルダ40,40に保持されている。また、カソード電極44には、給電線46の一端が接続され、この給電線46の他端は、真空チャンバ28外に設置された高周波電源48に接続されている。
【0043】
チャンバ本体30の下側底壁部36上には、下側ホルダ50,50が、一体的に立設されている。それら下側ホルダ50,50には、上側支持突起52,52と下側支持突起54,54とが、上下に離間して、それぞれ一体的に突設されている。そして、チャンバ本体30内に収容されたアノード電極56が、上側ホルダ40,40にて保持されたカソード電極44と上下方向に所定距離を隔てて対向した状態で、下側支持突起54,54にて支持されて、下側ホルダ50,50に保持されている。このアノード電極56は、アース接地されている。また、下側ホルダ50,50の上側支持突起52,52は、樹脂基材12を支持可能とされている。
【0044】
チャンバ本体30の側壁部34の下端部における周上の一箇所には、排気パイプ58が、チャンバ本体30の内外を連通するように側壁部34を貫通して、設置されている。また、かかる排気パイプ58上には、真空ポンプ60が設けられている。そして、この真空ポンプ60の作動によって、チャンバ本体30内の気体が排気パイプ58を通じて外部に排出されて、チャンバ本体30が減圧されるようになっている。
【0045】
また、側壁部34の上端側部位には、第一、第二及び第三の3個の導入パイプ62a,62b,62cが、側壁部34を貫通して、設置されている。そして、それら第一、第二及び第三導入パイプ62a,62b,62cにおいては、チャンバ本体30内に突入して開口する一端側開口部が、それぞれ、第一、第二、及び第三ガス導入口64a,64b,64cとされている。また、第一導入パイプ62aのチャンバ本体30外への延出側の他端部には、有機珪素化合物を液体状態において収容する第一ボンベ66aが接続されている。第二導入パイプ62bのチャンバ本体30外への延出側の他端部には、反応ガスとしての酸素ガスを収容する第二ボンベ66bが接続されている。第三導入パイプ62cのチャンバ本体30外への延出側の他端部には、無機珪素化合物を気体状態で収容する第三ボンベ66cが接続されている。
【0046】
さらに、第一導入パイプ62aのチャンバ本体30内への突入側の端部には、第一ボンベ66a内から供給されて、第一導入パイプ62a内を流通する液状有機珪素化合物を加熱して、気化する加熱ヒータ68が設けられている。また、第一乃至第三ボンベ66a,66b,66cの第一乃至第三導入パイプ62a,62b,62cとの接続部には、開閉バルブ70a,70b,70cが、それぞれ設けられている。
【0047】
かくして、かかるプラズマCVD装置26では、真空ポンプ60の作動により真空チャンバ28内が真空とされた状態において、第一ボンベ66aの開閉バルブ70aを開作動することにより、第一ボンベ66a内の液状有機珪素化合物が、第一導入パイプ62a内を真空チャンバ28側に吸い上げられて、流通するようになっている。また、第一導入パイプ62a内を流通する液状有機珪素化合物が、第一導入パイプ62aの真空チャンバ28側端部に設けられた加熱ヒータ68にて、加熱され、気化され、そして、そのようにして気化された有機珪素化合物ガスが、第一ガス導入口64aを通じて、真空チャンバ28内に導入されるようになっている。なお、液状有機珪素化合物を収容する第一ボンベ66aの第一開閉バルブ70aに対して、例えば、窒素ガス等の不活性ガスからなるキャリアガスを大気圧を超える圧力で収容したボンベ(図示せず)を接続し、このキャリアガスにて、第一ボンベ66a内の液状有機珪素化合物を、真空チャンバ28側に押し上げるようにしても良い。
【0048】
一方、第二ボンベ66b内や第三ボンベ66c内の酸素ガスや無機珪素化合物ガスは、大気圧を超える圧力で収容されているため、第二開閉バルブ70bや第三開閉バルブ70cの開作動により、第二導入パイプ62bや第三導入パイプ62cから、第二ガス導入口64bや第三ガス導入口64cを通じて、真空チャンバ28内に導入されるようになっている。
【0049】
そして、かくの如き構造とされたプラズマCVD装置26を用いて、樹脂基材12の両面に積層されたアンダーコート層14,14上に、トップコート層16を、それぞれ、更に積層形成する際には、先ず、図2に示されるように、樹脂基材12の両面にアンダーコート層14がそれぞれ積層形成されてなる中間製品72を、チャンバ本体30内に設けられた下側ホルダ50,50の上側支持突起52,52に支持させて、下側ホルダ50,50に保持させる。
【0050】
次いで、上側開口部38を蓋体32にて覆蓋した後、図示しないロック機構にて、蓋体32をチャンバ本体30にロックする。これにより、真空チャンバ28内を気密に密閉する。そして、その後、真空ポンプ60を作動させて、真空チャンバ28内を減圧する。この減圧操作によって、真空チャンバ28内の圧力を、例えば10-5〜50Pa程度とする。また、第一導入パイプ62a上の加熱ヒータ68をON作動させる。
【0051】
そして、真空チャンバ28内の圧力が所定の値となったら、真空ポンプ60を作動させたままで、第一導入パイプ62aと第二導入パイプ62bとにそれぞれ接続された第一ボンベ66aの第一開閉バルブ70aと第二ボンベ66bの第二開閉バルブ70bとを各々開作動する。これにより、第一ボンベ66a内の液状の有機珪素化合物を、第一導入パイプ62a内に流通させつつ、加熱ヒータ68にてガス化し、そして、かかる有機珪素化合物ガスを、第一ガス導入口64aを通じて、真空チャンバ28内に導入する。また、それと共に、第二ボンベ66b内の酸素ガスを、第二導入パイプ62b内に流通させて、第一ガス導入口64aから真空チャンバ28内に導入する。かくして、有機珪素化合物ガスと酸素ガスとを真空チャンバ28内に充満させる。
【0052】
なお、真空チャンバ28内に導入される有機珪素化合物ガスを構成する有機珪素化合物は、公知のものの中から適宜に選択されて用いられる。具体的には、かかる有機珪素化合物としては、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン等のシロキサン類や、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、トリメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシジメチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシラン類、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン類等が、例示される。そして、それらのうちの1種が単独で、或いは2種類以上が組み合わされて、用いられるのである。
【0053】
また、有機珪素化合物ガスを用いたプラズマCVD法によって有機珪素化合物を生成する場合には、真空チャンバ28内に有機珪素化合物ガスを単独で導入し、有機珪素化合物ガスのみをプラズマCVD法によって反応させて、有機珪素化合物を生成することもできるが、かかる有機珪素化合物ガスと酸素ガスとをプラズマCVD法により反応させれば、有機珪素化合物の生成スピードの向上が図られる。そこで、本工程では、後述する有機化合物層を効率的に形成する上で、真空チャンバ28内に、有機珪素化合物ガスと共に、酸素ガスを導入するようになっている。即ち、本工程においては、有機珪素化合物ガスと酸素ガスとを真空チャンバ28内に導入しているが、有機珪素化合物ガスのみを真空チャンバ28内に導入して、後述するプラズマCVD法を実施するようにしても良いのである。また、有機珪素化合物ガスと共に、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを真空チャンバ28内に導入して、プラズマCVD法を実施することも可能である。
【0054】
真空チャンバ28内に有機珪素化合物ガスと酸素ガスが充満して、真空チャンバ28の内圧が所定の値となったら、高周波電源48をON作動して、真空チャンバ28内に配置されたカソード電極44に対して、高周波電流を給電線46を介して供給する。これにより、カソード電極44とアノード電極56との間で放電現象を惹起させて、真空チャンバ28内に充満した有機珪素化合物ガスと酸素ガスとをそれぞれプラズマ化し、有機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとを、真空チャンバ28内に、比較的に低温の状態で発生させる。
【0055】
そして、真空チャンバ28内の空間や中間製品72の表面上において、有機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応を生じさせて、珪素と炭素とを少なくとも含んだ組成を有する有機珪素化合物を生成させると共に、それを中間製品72の全表面に堆積させる。以て、中間製品72の全表面上、即ち、アンダーコート層14の全表面上に、有機珪素化合物層を、比較的に低い温度下で、しかも十分に速いスピードで形成する。
【0056】
なお、本工程では、第一ボンベ66aの第一開閉バルブ70aと第二ボンベ66bの第二開閉バルブ70bの開作動が、その開作動量を何等変化させることなく、一定の量において、予め設定された一定の時間だけ実施される。これによって、有機珪素化合物ガスと酸素ガスの真空チャンバ28内への単位時間当たりの導入量がそれぞれ一定の量とされて、真空チャンバ28内の有機珪素化合物ガス量と酸素ガス量とが一定の割合に維持される。その結果、中間製品72のアンダーコート層14上に形成される有機珪素化合物層中の炭素の含有率が、全ての部位において、一定の値とされる。そうして、アンダーコート層14の全表面上に、有機珪素化合物のプラズマCVD層からなる、トップコート層16の基層部18のうちの組成一定領域22を所定の厚さで形成するのである。
【0057】
かかる基層部18の組成一定領域22の厚さは、本工程の実施時間、具体的には、第一及び第二ボンベ66a,66bの第一及び第二開閉バルブ70a,70bの開作動時間によって、適宜に調節されることとなる。換言すれば、第一及び第二ボンベ66a,66bの第一及び第二開閉バルブ70a,70bの一定開作動量での開作動時間は、予め設定された、基層部18の組成一定領域22の厚さの設定値等に応じて、適宜に決定されるのである。
【0058】
そして、第一ボンベ66aの第一開閉バルブ70aを開作動してから予め設定された時間が経過した時点で、第一開閉バルブ70aを少しずつ徐々に閉作動していき、閉作動開始から予め設定された時間が経過したときに、第一開閉バルブ70aを完全に閉鎖する。これにより、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量を漸減させていき、予め設定された時間が経過したときに、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量をゼロとする。
【0059】
また、第一開閉バルブ70aの閉作動の開始と同時に、第三ボンベ66cの第三開閉バルブ70cを少しずつ徐々に開作動していく。そして、第一開閉バルブ70aが完全に閉鎖された時点からは、第三開閉バルブ70cの開作動量を増加させずに一定の量とする。これにより、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量を減少させ始めてから、無機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への導入を開始すると共に、その導入量を徐々に増やしていく。そして、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量がゼロとなってからは、無機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への単位時間当たりの導入量を一定とする。
【0060】
なお、真空チャンバ28内に導入される無機珪素化合物ガスを構成する無機珪素化合物は、公知のものの中から適宜に選択されて用いられる。かかる無機珪素化合物としては、例えば、モノシラン(SiH4)やジシラン(Si26 )等が、それぞれ単独で、或いはそれらが組み合わされて使用される。
【0061】
一方、第二開閉バルブ70bは、第一開閉バルブ70aの閉作動が開始されてからも、それまでの開作動状態が維持される。これにより、酸素ガスを、第一開閉バルブ70aの閉作動が開始されるまでと同一の短時間当たりの導入量で真空チャンバ28内に導入し続ける。また、カソード電極44への高周波電流の供給も継続する。
【0062】
かくして、無機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への導入の開始から、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量がゼロとなるまでの間、真空チャンバ28内に導入された有機珪素化合物ガスと酸素ガスと無機珪素化合物ガスとを、それぞれプラズマ化して、それら有機珪素化合物ガスと酸素ガスと無機珪素化合物ガスのそれぞれのプラズマを、真空チャンバ28内に発生させる。このとき、真空チャンバ28内での有機珪素化合物ガスのプラズマの発生量は、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量の減少に伴ってが漸減していくが、真空チャンバ28内での無機珪素化合物ガスのプラズマの発生量は、真空チャンバ28内への無機珪素化合物ガスの導入量の増加に伴って漸増していくようになる。
【0063】
そして、それによって、無機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への導入の開始から、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量がゼロとなるまでの間、真空チャンバ28内の空間や中間製品72の表面上において、有機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応を生じさせる一方、それと並行して、無機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応も生じさせる。そうして、珪素と炭素とを少なくとも含んだ組成を有する有機珪素化合物を生成させると共に、それを中間製品72のアンダーコート層14に積層形成されたトップコート層16の基層部18の組成一定領域22上に堆積させ、以て、かかる組成一定領域22上に、有機珪素化合物層を、比較的に低い温度下で、しかも十分に速いスピードで形成する。なお、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量がゼロとなってからも、真空チャンバ28内に有機珪素化合物ガスが残存する間は、有機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応と、無機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応とが、同時に進行する。
【0064】
このとき、真空チャンバ28内での有機珪素化合物ガスのプラズマの発生量が漸減する一方、無機珪素化合物ガスのプラズマの発生量が漸増するため、トップコート層16の基層部18の組成一定領域22上に積層された有機珪素化合物層は、組成一定領域22上からの厚みが増すに従って炭素原子の含有率が徐々に減少する組成を有するようになる。そうして、かかる組成一定領域22上に、有機珪素化合物層からなり、且つアンダコート層14側から表面側に向かって炭素原子の含有率が漸減する組成変化領域24が、積層形成されることとなる。
【0065】
そして、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入量がゼロとなって、真空チャンバ28内に無機珪素化合物ガスと酸素ガスだけが導入されるようになり、また、真空チャンバ28内での有機珪素化合物ガスの残存量がゼロとなってからは、無機珪素化合物ガスのプラズマと酸素ガスのプラズマとの反応のみが進行する。
【0066】
これによって、珪素と酸素のみからなる組成を有する無機珪素化合物(SiO2)を生成させると共に、それを中間製品72に積層された基層部18の組成変化領域24上に堆積させ、以て、かかる組成変化領域24上に、無機珪素化合物層を、比較的に低い温度下で、しかも十分に速いスピードで形成する。そして、その結果、基層部18の全表面上に、無機珪素化合物のプラズマCVD層からなる表層部20を積層形成し、以て、有機珪素化合物層からなる基層部18と無機珪素化合物層からなる表層部20との複層構造を有するトップコート層16を、アンダーコート層14の全表面上に積層形成する。そうして、図1に示される如き構造を備えた、目的とする樹脂製品10を得るのである。
【0067】
なお、無機珪素化合物からなる表層部20の厚さは、第一及び第三開閉バルブ70a,70cの上記の如き開閉作動により、有機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への導入量がゼロとされて、無機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への単位時間当たりの導入量が一定とされてから、無機珪素化合物ガスの真空チャンバ28内への導入が停止されるまでの時間によって、適宜に調節されることとなる。換言すれば、第三ボンベ66cの第三開閉バルブ70cの一定開作動量での開作動時間は、予め設定された、表層部20の厚さの設定値等に応じて、適宜に決定されるのである。
【0068】
このように、本実施形態では、有機珪素化合物層からなる基層部18と無機珪素化合物層からなる表層部20との複層構造を有し、且つ基層部18が、組成一定領域22と組成変化領域24とにて構成されたトップコート層16のアンダーコート層14上への積層形成操作が、樹脂基材12の表面にアンダーコート層14が積層形成されてなる中間製品72を一つの真空チャンバ28内に収容配置したままで、プラズマCVD装置26を用いたプラズマCVD法の実施することによって、有機珪素化合物層からなる基層部18と無機珪素化合物層からなる表層部20との複層構造を有し、且つ基層部18が組成一定領域22と組成変化領域24とにて構成されたトップコート層16を、アンダーコート層14上に、より低い温度で、スピーディーに、しかも効率的に形成することができる。
【0069】
従って、本実施形態の製造手法によれば、優れた耐摩耗性や耐摩傷性がより長期に亘って安定的に確保され得る樹脂ガラス10を、極めて有利に得ることができるのである。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0071】
先ず、市販のポリカーボネート樹脂を用いて、公知の射出成形を行って、縦×横×厚さが100×100×5mmの矩形平板からなる3個の透明な樹脂基材を得た。
【0072】
次いで、それら3個の樹脂基材のそれぞれの表面の全面に、市販のアクリル樹脂を塗布し、これに紫外線を照射して硬化させた。これにより、3個の樹脂基材のそれぞれの表面の全面に、アクリル樹脂の塗膜からなるアンダーコート層を形成した。それら3個の樹脂基材表面上のアンダーコート層の厚さは、何れも10μmとした。
【0073】
そして、表面にアンダーコート層が形成された3個の樹脂基材のうちの1個を、図2に示される如き構造を有するプラズマCVD装置の真空チャンバ内に収容した後、真空チャンバ内を真空状態とした。このときの真空チャンバの内圧を1Paとした。
【0074】
その後、真空チャンバ内に、酸素ガスと有機珪素化合物ガスたるテトラエトキシシランガスとを、単位時間当たりの導入量が一定となるように導入して、充満させた後、高周波電源からカソード電極に高周波電流を供給して、酸素ガスのプラズマとテトラエトキシシランガスのプラズマを発生させることにより、アンダーコート層上に、珪素と炭素とを少なくとも含む有機珪素化合物層からなり、且つ全ての部位において炭素原子の含有率が一定とされた有機珪素化合物層(基層部の組成一定領域)を形成した。この組成一定の有機珪素化合物層の形成操作を30秒間、継続して実施した。なお、真空チャンバ内へのテトラエトキシシランガスの導入量は30ml/sec、真空チャンバ内への酸素ガスの導入量は40ml/secとした。また、高周波電源の出力値を2000Wとした。かくして形成された組成一定の有機珪素化合物層の厚さは0.5μmであり、また、炭素原子の含有率は25原子%であった。
【0075】
そして、組成一定の有機珪素化合物層の形成操作の開始から30秒間経過した後、テトラエトキシシランガスの真空チャンバ内への単位時間当たり導入量を徐々に減少させる一方、無機珪素化合物ガスたるモノシランガスを、真空チャンバ内に、単位時間当たりの導入量が徐々に増加するように導入した。このとき、酸素ガスを、組成一定の有機珪素化合物層の形成時と同じ単位時間当たりの導入量で、継続的に導入した。
【0076】
そして、酸素ガスとテトラエトキシシランガスとモノシランガスとを真空チャンバ内に導入している間、高周波電源の出力値を2000Wとしたままで、カソード電極に高周波電流を継続に供給して、酸素ガスのプラズマとテトラエトキシシランガスのプラズマをプラズマを発生させることにより、組成一定の有機珪素化合物層上に、アンダーコート層側から表面側に向かって炭素の含有率が漸減するように組成が変化する有機珪素化合物層(基層部の組成変化領域)を形成した。この組成が変化する有機珪素化合物層の形成操作を30秒間、継続して実施した。なお、真空チャンバ内へのテトラエトキシシランガスの導入量は30ml/secだけ減少するようにした。真空チャンバ内へのモノシランガスの導入量は50ml/secだけ増加するようにした。真空チャンバ内への酸素ガスの導入量は40ml/secとした。かくして形成された組成が変化する有機珪素化合物層の厚さは0.5μmであった。
【0077】
引き続き、組成が変化する有機珪素化合物層の形成操作の開始から30秒間経過した後、テトラエトキシシランガスの真空チャンバ内への導入を停止する一方、モノシランガスの真空チャンバ内への単位時間当たりの導入量を一定とした。このとき、酸素ガスを、組成が変化する有機珪素化合物層の形成時と同じ単位時間当たりの導入量で、継続的に導入した。
【0078】
そして、酸素ガスとモノシランガスとを真空チャンバ内に導入している間、高周波電源の出力値を2000Wとしたままで、カソード電極に高周波電流を継続に供給して、酸素ガスのプラズマとモノシランガスのプラズマを発生させることにより、組成が変化する有機珪素化合物層上に、無機珪素化合物層を形成した。この無機珪素化合物層の形成操作を60秒間、継続して実施した。なお、真空チャンバ内へのモノシランガスの導入量は50ml/secとした。真空チャンバ内への酸素ガスの導入量は40ml/secとした。かくして形成された無機珪素化合物層の厚さは1μmであった。
【0079】
かくして、図1に示されるように、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面にアンダーコート層が形成されると共に、有機珪素化合物層からなる基層部と無機珪素化合物層からなる表層部との複層構造を有し、且つ基層部に組成一定領域と組成変化領域とが設けられたトップコート層が、アンダーコート層上に積層形成されてなる透明な樹脂製品を得た。そして、この樹脂製品を実施例1とした。
【0080】
そして、上記のようにして得られた実施例1の樹脂製品におけるトップコート層の厚さの異なる部位での炭素原子と珪素原子と酸素原子の含有率(原子%)の違いを、電子線照射により構成元素(原子)の比率を分析する装置である電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe micro Analyzer)[型名:EPMA−1400(株)島津製作所製]を用いて調べた。その結果を図3に示した。かかる図3に示されるグラフから明らかなように、トップコート層の厚さ方向の中間部分において、厚みが増加するに従って、炭素原子の含有率が低下していることが判る。また、トップコート層の表面部分では、炭素原子の含有率が略一定となっていることも判る。
【0081】
一方、表面にアンダーコート層が形成された、残りの2個の樹脂基材のうちの1個を、実施例1の樹脂製品の製造の際に用いられたプラズマCVD装置の真空チャンバ内に収容した後、真空チャンバ内を真空状態とした。このときの真空チャンバの内圧を1.3×10-3Paとした。
【0082】
その後、真空チャンバ内に、有機珪素化合物ガスたるテトラエトキシシランガスとアルゴンガスとを、単位時間当たりの導入量が一定となるように導入して、充満させた後、高周波電源からカソード電極に高周波電流を供給して、テトラエトキシシランガスのプラズマを発生させることにより、アンダーコート層上に、珪素と炭素とを少なくとも含む有機珪素化合物層からなり、且つ全ての部位において炭素原子の含有率が一定とされた有機珪素化合物層を形成した。この組成一定の有機珪素化合物層の形成操作を120秒間、継続して実施した。なお、真空チャンバ内へのテトラエトキシシランガスの導入量は30ml/sec、真空チャンバ内へのアルゴンガスの導入量は300ml/secとした。また、高周波電源の出力値を2000Wとした。かくして形成された組成一定の有機珪素化合物層の厚さは2μmであり、また、炭素原子の含有率は25原子%であった。
【0083】
かくして、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面にアンダーコート層が形成されるものの、このアンダーコート層上に、有機珪素化合物層のみからなるトップコート層が積層形成されてなる透明な樹脂製品を得た。そして、この樹脂製品を比較例1とした。
【0084】
また、表面にアンダーコート層が形成された、残りの1個の樹脂基材を、実施例1や比較例1の樹脂製品の製造の際に用いられたプラズマCVD装置の真空チャンバ内に収容した後、真空チャンバ内を真空状態とした。このときの真空チャンバの内圧を6×10-3Paとした。
【0085】
その後、真空チャンバ内に、酸素ガスと窒素ガスと無機珪素化合物ガスたるモノシランガスとを、それぞれ、単位時間当たりの導入量が一定となるように導入し、充満させて、真空チャンバの内圧を1Paとした上で、高周波電源からカソード電極に高周波電流を供給して、モノシランガスのプラズマと、酸素ガスのプラズマとを発生させることにより、アンダーコート層上に、SiO2からなる無機珪素化合物層を形成した。このSiO2からなる無機珪素化合物層の形成操作を60秒間、継続して実施した。なお、真空チャン内へのモノシランガスの導入量は50ml/sec、真空チャンバ内への酸素ガスの導入量は40ml/sec、真空チャンバ内への窒素ガスの導入量は200ml/secとした。また、高周波電源の出力値を2000Wとした。かくして形成されたSiO2からなる無機珪素化合物層の厚さは1μmであった。
【0086】
引き続き、真空チャンバの内圧を、1Paに維持したままで、かかる真空チャンバ内に、窒素ガスと無機珪素化合物ガスたるモノシランガスとを、それぞれ、単位時間当たりの導入量が一定となるように導入し、充満させた後、高周波電源からカソード電極に高周波電流を供給して、モノシランガスのプラズマ、と窒素ガスのプラズマと、残存する酸素ガスのプラズマとを発生させることにより、SiO2からなる無機珪素化合物層上に、SiONからなる無機珪素化合物層を形成した。このSiONからなる無機珪素化合物層の形成操作を60秒間、継続して実施した。なお、真空チャン内へのモノシランガスの導入量は50ml/sec、真空チャンバ内への窒素ガスの導入量は200ml/secとした。また、高周波電源の出力値を2000Wとした。かくして形成されたSiONからなる無機珪素化合物層の厚さは1μmであった。
【0087】
かくして、ポリカーボネート製の樹脂基材の表面にアンダーコート層が形成されるものの、このアンダーコート層上に、無機珪素化合物層(SiO2とSiON)のみからなるトップコート層が積層形成されてなる透明な樹脂製品を得た。そして、この樹脂製品を比較例2とした。
【0088】
そして、上記のようにして得られた実施例1、比較例1、及び比較例2の3種類の透明な樹脂製品を用いて、各樹脂製品の耐摩傷性と、トップコート層のアンダーコート層に対する密着性とに関する評価試験を以下のようにして実施した。その結果を、下記表1に示す。
【0089】
<耐摩傷性試験>
JIS R3211に準拠したテーバー摩耗試験の実施前後におけるヘイズ値の差:ΔHを、JIS R3212に基づいて測定した。そして、その測定値:ΔHが2.0%以下のものを、耐摩耗性に優れたものとして、評価結果を○で示し、ΔHが2.0%を超えるものを、耐摩耗性に劣るものとして、評価結果を×で示した。なお、テーバー摩耗試験の実施に際しては、型番:CS−10F(テーバー社製)の摩耗輪を使用した。また、ヘイズ値の測定には、ヘイズ値測定機[型番:HZ−2P(スガ試験機株式会社製)]を使用した。ここで、ΔHの値が2.0%のものの評価結果を○としたのは、以下の理由による。即ち、自動車用のフロントガラスに使用される樹脂ガラスには、JIS R3211に準拠したテーバー摩耗試験の実施前後におけるヘイズ値の差:ΔHが2.0%以下であることが要求される。それ故、ここでは、ΔHの値が2.0%のものの耐摩傷性に関する評価結果を○としたのである。
【0090】
<密着性試験>
JIS K5600−5−6に準拠して実施した。そして、密着性試験の結果、剥離がなかったものを、密着性に優れたものとして、評価結果を○で示し、剥離が軽微であったものを、密着性に僅かに劣るものとして、評価結果を△で示した。
【0091】
【表1】

【0092】
かかる表1の結果から明らかなように、トップコート層が有機珪素化合物層のみからなる比較例1の樹脂製品は、密着性試験の評価結果が○となっているものの、耐摩傷性試験の評価結果が×となっている。また、トップコート層が無機珪素化合物層のみからなる比較例2の樹脂製品は、耐摩傷性試験の評価結果が○となっているものの、密着性試験の評価結果が△となっている。これに対して、本発明に従う構造を有する実施例1の樹脂製品は、耐摩傷性試験と密着性試験の評価結果が、何れも○となっている。これは、本発明に従う構造を有する樹脂製品が、耐摩傷性と密着性の両方において優れた特性を発揮するものであることを、如実に示している。
【0093】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0094】
例えば、無機珪素化合物層からなるトップコート層16の表層部は、SiO2以外に、例えば、SiON やSiO によっても構成可能である。これらの無機珪素化合物層を形成する場合には、プラズマCVD装置26の真空チャンバ28内に、モノシランやジシラン等の無機珪素化合物ガスと共に、反応ガスとして、窒素ガスやアンモニアガス等が導入されることとなる。
【0095】
トップコート層16の形成に際して用いられるプラズマCVD装置は、例示された構造を有するもの以外にも、公知の構造を有するものが、適宜に採用可能である。並行平板方式以外の、例えば、誘導結合方式の構造を採用することもできる。
【0096】
トップコート層16の基層部18における組成変化領域24を省略することもできる。即ち、トップコート層16を、全ての部位において炭素の含有率が一定とされた有機珪素化合物層のみからなる基層部と、無機珪素化合物層からなる表層部の複層構造としても良いのである。この場合には、例えば、プラズマCVD装置26を使用してトップコート層16を形成する際に、真空チャンバ28内への有機珪素化合物ガスの導入停止と無機珪素化合物ガスの導入開始とが、同時に且つ瞬時に行われることとなる。
【0097】
また、アンダーコート層14とトップコート層16を、樹脂ガラス10の片面のみに設けても良い。
【0098】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車のリヤウインドウ用の樹脂ガラスに適用したものの具体例を示したが、本発明は、ポリカーボネート製の樹脂成形品からなる樹脂基材の表面上に、アンダーコート層と、珪素化合物層からなるトップコート層とが、その順に積層形成されてなる樹脂製品の何れに対しても、有利に適用され得るものであることは、勿論である。
【0099】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0100】
10 樹脂ガラス 12 樹脂基材
14 アンダーコート層 16 トップコート層
18 基層部 20 表層部
22 組成一定領域 24 組成変化領域
26 プラズマCVD装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート製の樹脂成形品からなる樹脂基材の表面上にアンダーコート層を積層形成すると共に、該アンダコート層上に、珪素化合物層からなるトップコート層を更に積層形成してなる樹脂製品において、
前記トップコート層が、前記アンダーコート層側に位置する基層部と、該基層部に積層された表層部との複層構造を有すると共に、該基層部が、有機珪素化合物層からなるプラズマCVD層にて構成されている一方、該表層部が、無機珪素化合物層からなるプラズマCVD層にて構成されていることを特徴とする樹脂製品。
【請求項2】
前記トップコート層の前記基層部のうち、該基層部の前記アンダーコート層との界面の全面を含む該アンダーコート層側部分が、全ての部位において炭素原子の含有率が一定の組成一定領域とされている一方、該基層部のうちの該アンダコート層側部分を除く部分が、該アンダコート層側から前記表層部側に向かって炭素原子の含有率が漸減する組成変化領域とされている請求項1に記載の樹脂製品。
【請求項3】
ポリカーボネート製の樹脂成形品からなる樹脂基材の表面上にアンダーコート層を積層形成すると共に、該アンダコート層上に、珪素化合物層からなるトップコート層を更に積層形成してなる樹脂製品の製造方法であって、
前記樹脂基材を準備する工程と、
該樹脂基材の表面に、前記アンダーコート層を積層形成する工程と、
該アンダーコート層が積層形成された前記樹脂基材を反応室内に収容した後、該反応室内を真空状態とする工程と、
前記真空状態とされた反応室内に有機珪素化合物ガスを導入し、該有機珪素化合物ガスをプラズマCVD法により反応させて、前記樹脂基材の前記アンダーコート層上に、有機珪素化合物層を積層形成する工程と、
前記有機珪素化合物層が前記アンダーコート層上に積層形成された前記樹脂基材を収容する前記反応室内に、無機珪素化合物ガスと反応ガスとを導入する一方、該反応室内への前記有機珪素化合物ガスの導入を停止し、該無機珪素化合物ガスと該反応ガスとをプラズマCVD法により反応させて、該有機珪素化合物層上に、無機珪素化合物層を更に積層形成することにより、前記アンダーコート層上に、前記トップコート層を、該有機珪素化合物層と該無機珪素化合物層とからなる複層構造において、積層形成する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記無機珪素化合物ガスの前記反応室内への導入の開始から、該反応室内に導入される前記有機珪素化合物ガスの導入量を漸減させて、ゼロとすることにより、該反応室内への該無機珪素化合物ガスの導入開始から、該反応室内への該有機珪素化合物ガスの導入停止までの間、該有機珪素化合物ガスのプラズマCVD法による反応と、該無機珪素化合物ガスと前記反応ガスとのプラズマCVD法による反応とを同時に実施するようにした請求項3に記載の樹脂製品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−135879(P2012−135879A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287701(P2010−287701)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】