説明

樹脂製多層容器

【課題】滑り性、耐突刺し性及び表面光沢に優れた樹脂製多層容器を提供すること。
【解決手段】(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として備え、(I)(C)が8〜40質量%((A)+(B)+(C)=100質量%);及び(II)(A)+(B)+(C)の合計質量に対し、D)が100〜4000ppm;を満足する樹脂製多層容器であり、(D)は、好ましくは、(D)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH;(D)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH;または(D)HN−CO−(−CH−)k+4−CH=CH−(−CH−)−CHの式(m、n及びkは、6〜10の整数)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製多層容器に関し、特に、表層の滑り性、及び、耐突刺し性が改善された樹脂製多層容器に関する。更に詳しくは、該樹脂製多層容器の製造工程、充填工程、及び包装工程などの各工程で最適な滑り性を呈し、充填された内容物の液切れ性に優れ、輸送時、保管時及び使用時にも密封性が損なわれない樹脂製多層容器の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケチャップやマヨネーズなどの粘稠な内容物が充填される樹脂製多層容器(以下、単に「多層容器」または「容器」ということがある。)は、主にダイレクトブロー方式により、筒状のパリソンが押し出され、続いて、冷却金型内で容器の形状にブロー成形されることによって製造されることが多い。その樹脂材の構成としては、表層(内層及び/または外層)として、ポリオレフィン系樹脂、例えばポリプロピレン系樹脂などを使用し、中間層に、エチレンビニルアルコール共重合体などのバリア層を備えた多層構造のものが一般的である。
【0003】
例えば、特開平1−139347号公報(特許文献1)には、少なくとも外層がリニア低密度ポリエチレンと高圧法低密度ポリエチレンとを含有し、ガスバリヤー性樹脂層を有するチューブ容器が開示され、特開平10−166530号公報(特許文献2)には、少なくとも、表面樹脂層、中間層及び内面樹脂層を順次に積層してなるチューブ容器において、内面樹脂層が、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体の樹脂層からなり、中間層が、無機酸化物の蒸着層である該容器が開示されている。
【0004】
樹脂製多層容器には、透明性、光沢などとともに容器表面の滑り性が要求される。すなわち、樹脂製多層容器においては、容器成形工程、容器の移送工程、ユーザーによる食品等の内容物充填工程、内容物充填後の移送工程、更に容器包装工程など、ラインや温度、湿度等の環境条件を異にする各工程のそれぞれにおいて、安定した連続生産を確保するために、良好な滑り性を発揮することが要求される。例えば、容器成形工程ラインや、内容物充填工程における容器整列ラインにおいて、容器同士の接触が生じても、当該工程や次工程での作業や生産速度に影響しないように、滑り性が要求される。また、容器に内容物が充填された後の移送ラインでは、スムーズな移送を確保するために、移送コンベヤーと容器との間の滑り性が要求される。さらに、容器包装ラインにおいては、通常、外装フィルムによる容器の包装を、高速度で行うので、容器表面とラップフィルムとの間の滑り性が要求される。これらの各工程、ラインでは、温度や湿度等の環境条件が異なるので、様々な環境条件下において、樹脂製多層容器の表面の適正な滑り性が要求される。また、容器に充填されている内容物の液切れ性を改善するために、樹脂製多層容器の内表面の滑り性が要求される。
【0005】
樹脂製多層容器の滑り性を改善するために、従来、主として最外層または最内層の原料樹脂に、滑剤を添加することが行われている。滑剤は、通常、原料樹脂に、マスターバッチ方式で添加されたり、練り込まれたりする。
【0006】
滑剤としては、例えば、脂肪酸アミドが汎用され、具体的には、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド(ベヘニン酸
アミド)などが使用される。このうち、融点の低い滑剤は、例えばオレイン酸アミドであり、これを添加することにより、容器の温度が低いときに良好な滑り性を発揮する。融点の比較的高い滑剤は、例えばベヘニン酸アミドであり、これを添加することにより、食品などの内容物が高温充填されたときなどのように、容器が高温になるときに良好な滑り性を発揮できるようになる。これらの滑剤は、2種以上を混合して使用することも行われてきた。例えば、特開2009−214914号公報(特許文献3)には、非油性内容物を充填する多層容器において、容器内面のポリオレフィン系樹脂層に、不飽和脂肪族アミドと飽和脂肪族アミドとを配合することが開示されている。特開2010−189052号公報(特許文献4)には、油性内容物を充填する多層容器において、最外面層及び最内面層にポリオレフィン系樹脂層を有し、最内面層が直鎖低密度ポリエチレンであり、最外面層が不飽和脂肪族アミド等の滑剤を含有することが開示されている。また、特開平6−72422号公報(特許文献5)には、ポリオレフィン系樹脂の最外層とガスバリヤー層とを含む多層容器において、最外層のポリオレフィン系樹脂に、融点が異なる二種類以上の滑剤を添加することが開示されている。さらに、特開2005−307122号公報(特許文献6)には、天然物由来の油脂を原料とするスリップ剤(滑剤)として、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド及びエルカ酸アミドが開示されている。
【0007】
さらに、樹脂製多層容器においては、該多層容器を包装や梱包する際に、袋詰めして移送する際に、または、容器を保管している際に、容器同士または容器と諸部材が接触したり、場合によっては、衝撃を受けたりすることがある。これらの接触や衝撃により、容器の底部や胴部が破損し、容器の密封性が失われてしまうことがある。特に、樹脂製多層容器の耐突刺し性が不十分であると、冬季における容器の移送や保管時に容器が破損する確率が高く、製品の流通に対する信頼性が損なわれるので、改善が求められていた。
【0008】
加えて、樹脂製多層容器においては、表面光沢が劣ると、充填された内容物の状態を直感的に把握できないことがあるので、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−139347号公報
【特許文献2】特開平10−166530号公報
【特許文献3】特開2009−214914号公報
【特許文献4】特開2010−189052号公報
【特許文献5】特開平6−72422号公報
【特許文献6】特開2005−307122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、容器成形工程、容器移送工程、内容物の充填工程、及び包装工程に至るまでのそれぞれ異なるラインや環境条件下で、容器同士、容器と装置、容器と包装フィルムまたは容器と内容物との間などの適正な滑り性、容器に充填されている内容物の改善された液切れ性、十分な耐突刺し性、及び優れた表面光沢を有する樹脂製多層容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決することについて鋭意研究した結果、樹脂製多層容器の表層(最内層及び/または最外層)を、特定の不飽和脂肪酸アミドを含有するポリオレフィン系の樹脂組成物とすることによって、課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として備える樹脂製多層容器であって、
該樹脂組成物が、以下のI及びII:
(I)(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)が8〜40質量%;及び
(II)(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)が100〜4000ppm;
を満足することを特徴とする前記の樹脂製多層容器が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(13)の樹脂製多層容器が提供される。
【0014】
(1)前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、以下の(D)、(D)及び(D):
(D)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数);
(D)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数);及び
(D)HN−CO−(−CH−)k+4−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、kは、6≦k≦10の範囲の整数);
からなる群より選ばれる式で表される少なくとも1種の脂肪酸アミドを含有する前記の樹脂製多層容器。
【0015】
(2)前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドと、前記の(D)または(D)の式で表される少なくとも1種の脂肪酸アミドとの混合物である前記の樹脂製多層容器。
【0016】
(3)前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドにおけるmが、m=n+1またはm=n−1である前記の樹脂製多層容器。
【0017】
(4)前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドにおけるkが、k=nである前記の樹脂製多層容器。
【0018】
(5)前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドと、以下の(D11):
(D11)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、jは、6≦j≦10の範囲の整数であり、j≠n);
の式で表される脂肪酸アミドとの混合物である前記の樹脂製多層容器。
【0019】
(6)前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、分子構造中に不飽和cis構造炭素二重結合を2結合〜4結合有する化合物を含有する前記の樹脂製多層容器。
【0020】
(7)前記の樹脂組成物が、更に飽和脂肪酸アミドを含有する前記の樹脂製多層容器。
【0021】
(8)前記の表層が、最外層または最内層の一方または両方である前記の樹脂製多層容器。
【0022】
(9)更にバリア層を備える前記の樹脂製多層容器。
【0023】
(10)前記のバリア層が、エチレンビニルアルコール共重合体またはポリグリコール酸である前記の樹脂製多層容器。
【0024】
(11)更に回収層を備える前記の樹脂製多層容器。
【0025】
(12)前記の樹脂製多層容器が、表層、バリア層、接着層、及び、回収層を備えるものである前記の樹脂製多層容器。
【0026】
(13)最外層/接着層/バリア層/接着層/回収層/最内層からなる前記の樹脂製多層容器。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として備える樹脂製多層容器であって、
該樹脂組成物が、以下のI及びII:
(I)(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)が8〜40質量%;及び
(II)(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)が100〜4000ppm;
を満足することを特徴とする前記の樹脂製多層容器であることによって、容器成形工程、容器移送工程、内容物の充填工程、及び包装工程に至るまでのそれぞれ異なるラインや環境条件下で、容器同士、容器と装置、容器と包装フィルムまたは容器と内容物との間などの適正な滑り性を発揮することができ、また、容器に充填されている内容物の液切れ性が改善され、かつ、十分な耐突刺し性、及び優れた表面光沢を有する樹脂製多層容器を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
I.表層を形成する樹脂組成物
本発明の樹脂製多層容器は、表層、具体的には、容器の最外層または最内層の一方または両方が、(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪族アミドを含有する樹脂組成物から形成されたものである点に特徴を有する。
【0029】
1.(A)低密度ポリエチレン
本発明の樹脂製多層容器の表層に含有される(A)低密度ポリエチレンは、通常使用される低密度ポリエチレンを意味し、一般に、密度が0.910〜0.930g/cmのポリエチレンであり、好ましくは0.912〜0.928g/cmである。なお、ポリエチレンの密度は、JIS K6922−2に従って測定したものである。
【0030】
(A)低密度ポリエチレンは、MFR(温度190℃、荷重21.18N)が、好ましくは0.1〜10g/10分、より好ましくは0.3〜5g/10分、更に好ましくは0.5〜2g/10分の範囲内のものを使用することができる。また、(A)低密度ポリエチレンは、分子量分布の指標である多分散度(Mw/Mn)が、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.7以上の範囲にあるものが成形性の改善の点で有効である。多分散度(Mw/Mn)の上限は、3.0程度である。なお、ポリエチレンのMFRは、JIS K6922−2に従って測定したものであり、多分散度(Mw/Mn)は、JIS K7252に従って測定したものである。
【0031】
(A)低密度ポリエチレンとしては、いわゆる、チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られた高圧法ポリエチレン(軟質ポリエチレン)のほか、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)などエチレンと他のオレフィン単量体との共重合体も使用することができる。(A)低密度ポリエチレンとしては、合成品を使用することもできるが、市販品を使用してもよい。市販品としては、日本ポリエチレン株式会社製のノバテックLD(登録商標)、三井・デュポンポリケミカル株式会社製の低密度ポリエチレンなどがある。
【0032】
樹脂組成物中の(A)低密度ポリエチレンの含有量は、特に限定されないが、(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、通常30〜70質量%、好ましくは35〜65質量%、より好ましくは40〜60質量%の範囲である。樹脂組成物中の(A)低密度ポリエチレンの含有量が少なすぎると、後述のブロー成形押出における樹脂の溶融粘性が小さくなり、ブローバブルを取扱いにくくなるなどの成形上の問題を生じたり、容器の表面光沢が小さくなったりすることがある。樹脂組成物中の(A)低密度ポリエチレンの含有量が多すぎると、滑り性が低下したり、耐突刺し性が低下したりすることがある。
【0033】
2.(B)高密度ポリエチレン
本発明の樹脂製多層容器の表層に含有される(B)高密度ポリエチレンは、一般に、密度が0.942g/cm以上のポリエチレンである。通常は、密度が0.980g/cm以下のポリエチレンであり、好ましくは、0.945〜0.970g/cm、より好ましくは0.948〜0.965g/cmである。(B)高密度ポリエチレンは、MFR(温度190℃、荷重21.18N)が、好ましくは0.1〜10g/10分、より好ましくは0.3〜5g/10分、更に好ましくは0.5〜2g/10分の範囲内のものを使用することができる。また、多分散度(Mw/Mn)が、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.5以上の範囲にあるものが成形性の改善の点で有効である。多分散度(Mw/Mn)の上限は、5.5程度である。
【0034】
(B)高密度ポリエチレンは、合成品を使用することができるが、市販品の中から選択して使用することもできる。市販品としては、いわゆる、チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られた低圧法高密度ポリエチレンである、日本ポリエチレン株式会社製のノバテックHD(登録商標)、株式会社プライムポリマー製のハイゼックス(登録商標)などがある。
【0035】
樹脂組成物中の(B)高密度ポリエチレンの含有量は、特に限定されないが、(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、通常5〜60質量%、好ましくは10〜55質量%、より好ましくは12〜50質量%の範囲である。樹脂組成物中の(B)高密度ポリエチレンの含有量が少なすぎると、容器の剛性が不足したり、耐突刺し性が低下したりすることがある。樹脂組成物中の(B)高密度ポリエチレンの含有量が多すぎると、容器を成形するときに、ドローダウンが生じたり、ブロー成形に用いるパリソンにメルトフラクチャーを生じたりすることがある。
【0036】
3.(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン
本発明の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物からなる層を表層として有する樹脂製多層容器は、該樹脂組成物中において、(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンが8〜40質量%であることを特徴とする。
【0037】
(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン(以下、「メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィン」ということがある。)は、エチレン、または、エチレンを主成分としα−オレフィンを副成分とする混合単量体を、メタロセン触媒の存在下に重合させることにより得られるエチレン系ポリオレフィンである。したがって、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンは、メタロセン触媒の存在下で重合反応を行って得られるポリエチレンまたはエチレン・α−オレフィン共重合体を含むものである。
【0038】
メタロセン触媒は、メタロセン、即ち、置換または未置換のシクロペンタジエニル環2個と各種の遷移金属で構成されている錯体からなる遷移金属成分と、有機アルミニウム成分、特にアルミノキサンとからなる触媒の総称である。遷移金属成分としては、周期律表第IVb族、第Vb族または第VIb族の金属、特にジルコニウムまたはハフニウムが挙げられる。触媒中の遷移金属成分としては、一般に下記式
(Cp) MR
(式中、Cpは置換または未置換のシクロペンタジエニル環であり、Mは遷移金属であり、Rはハロゲン原子またはアルキル基である。)で表されるものが一般的に使用されている。
【0039】
アルミノキサンとしては、有機アルミニウム化合物を水と反応させることにより得られたものであり、線状アルミノキサン及び環状アルミノキサンがある。これらのアルミノキサンは、単独でも、他の有機アルミニウムとの組み合わせでも使用できる。
【0040】
メタロセン触媒を用いるエチレンまたはエチレンとα−オレフィンとの重合法は、多数の公報で公知であり、前記メタロセン触媒の存在下、有機溶剤中、液状単量体中または気相法での重合により合成されるが、これら公知のいずれの方法によるものでも、前記条件を満足するものは本発明の目的に使用できる。
【0041】
エチレンとα−オレフィンとの共重合体の場合、α−オレフィンとしては、炭素数が3〜10の範囲にあるものが好ましく、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等を挙げることができる。これらのα−オレフィンは共重合体中に3〜15モル%の量で存在するのが好ましい。
【0042】
メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは、分子量分布が狭いのが特徴であり、本発明においては、分子量分布の指標である多分散度(Mw/Mn)が好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.2以下であるものが使用される。なお、成形性を改善する目的で、重合時またはその後の工程にて比較的長鎖の分岐を導入したものも好適に使用される。また、メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは、通常、密度が0.890〜0.920g/cm、好ましくは0.892〜0.918g/cm程度であり、MFRが0.1〜10g/10分、好ましくは0.3〜5g/10分程度である。
【0043】
樹脂組成物中に、該(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンが存在することは、以下の方法で確認することができる。すなわち、樹脂ペレットを厚み100μmにガラスにて切断して試料とし、走査電子顕微鏡SEMに敷設して、生じた蛍光X線をエネルギー分配する分析器で測定し、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)のエネルギーに相当するピークの存在を確認する。該樹脂ペレットは、表層から削りだしたものでもよく、または、樹脂製多層容器の層間を剥離した表面の層を用いてもよい。
【0044】
(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは、合成品を使用することができるが、市販品の中から選択して使用することもできる。市販品としては、住友化学株式会社製のエクセレン(登録商標)、日本ポリエチレン株式会社製のハーモレックス(登録商標)やカーネル(登録商標)などがある。
【0045】
該樹脂組成物中の(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンが、(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、8質量%未満であると、得られる樹脂製多層容器の耐突刺し性が不足したり、表面光沢が低下したりすることがある。該樹脂組成物中の(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンが、同じく40質量%を超えると、得られる樹脂製多層容器の滑り性が悪化し、更に表面光沢が低下することがある。(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは、樹脂組成物中に、好ましくは9〜35質量%、より好ましくは10〜32質量%の範囲で含有することができる。
【0046】
4.(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミド
本発明における(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物は、該樹脂組成物中に、(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを100〜4000ppm含有する。(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミド(以下、「(D)の不飽和脂肪酸アミド」ということがある。)は、滑剤として機能するものである。(D)の不飽和脂肪酸アミドは、脂肪酸アミドの分子構造中に少なくとも1結合の炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸アミドである。該脂肪酸アミドの分子構造中に複数の炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸アミドである場合は、該炭素二重結合のすべてが、不飽和cis構造の炭素二重結合である不飽和脂肪族アミドである。不飽和脂肪酸アミドが、trans構造の炭素二重結合を有するものであると、樹脂材料の均一配合が不十分となったり、該trans構造を有する不飽和脂肪酸アミドが容器表面に析出したりすることがあり、滑り性が悪化するとともに、表面光沢が悪くなったり、突刺強度が低下する場合がある。
【0047】
(D)の不飽和脂肪酸アミドの含有量は、好ましくは150〜3900ppm、より好ましくは200〜3800ppm、更に好ましくは250〜3700ppm、特に好ましくは300〜3600ppmである。(D)の不飽和脂肪酸アミドの含有量が少なすぎると、滑り性が不足して、容器の製造中、搬送中または内容物の充填中に、容器同士または装置類との接触や衝突等によって、不良品の発生、製造ラインの停止、装置の故障等が生じるおそれがある。また、容器の最内層の滑り性が不足すると、内容物の充填がスムーズに行われなかったり、消費者の使用時に内容物の液切れ性が不十分となったりすることがある。(D)の不飽和脂肪酸アミドの含有量が多すぎると、得られた容器の表面光沢が小さくなったり、搬送作業中のベタ付きが多くなったりすることがある。前記(D)の不飽和脂肪酸アミドが、後述するように2種類以上の不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの混合物である場合は、混合物の合計量が上記の範囲に含まれる必要がある。
【0048】
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドは、好ましくは、分子構造中に不飽和cis構造の炭素二重結合を1結合有する不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドである。
【0049】
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドは、分子構造中に複数の不飽和cis構造の炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸アミドでもよく、分子構造中に不飽和cis構造の炭素二重結合を、好ましくは6結合以下、より好ましくは5結合以下、更に好ましくは4結合以下有する化合物である。したがって、本発明において最も好ましく使用される(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドは、分子構造中に不飽和cis構造炭素二重結合を1結合〜4結合含む不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドである。
【0050】
不飽和cis構造炭素二重結合を1結合有する(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドとしては、例えば、以下の式(D)〜(D):
(D)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数);
(D)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数);及び
(D)HN−CO−(−CH−)k+4−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、kは、6≦k≦10の範囲の整数);
からなる群より選ばれる式で表される少なくとも1種の脂肪酸アミド化合物が挙げられる。(以下、(D)の式で表される脂肪酸アミドを、「式(D)の脂肪酸アミド」ということがあり、更に単に「式(D)」ということがある。(D)または(D)の式で表される脂肪酸アミドについても同様である。)
【0051】
好ましい不飽和cis構造炭素二重結合を1結合有する(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0052】
式(D)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数):
cis−8,9−hexadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=6に相当)
cis−9,10−octadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=7に相当)
cis−10, 11−eicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=8に相当)
cis−11, 12− ethaeicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=9に相当)
cis−12, 13− tetraeicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)10−CH=CH−(−CH−)10−CH〕(n=10に相当)
【0053】
式(D)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数):
cis−6,7−tetradecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(m=6に相当)
cis−7,8−hexadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(m=7に相当)
cis−8,9−octadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(m=8に相当)
cis−9,10−eicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(m=9に相当)
cis−10, 11− ethaeicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)10−CH〕(m=10に相当)
【0054】
式(D)HN−CO−(−CH−)k+4−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、kは、6≦k≦10の範囲の整数):
cis−12,13− eicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)10−CH=CH−(−CH−)−CH〕(k=6に相当)
cis−13,14−docosenoamide〔HN−CO−(−CH−)11−CH=CH−(−CH−)−CH〕(k=7に相当)
cis−14,15− tetracosenoamide〔HN−CO−(−CH−)12−CH=CH−(−CH−)−CH〕(k=8に相当)
cis−15,16−hexacosenoamide〔HN−CO−(−CH−)13−CH=CH−(−CH−)−CH〕(k=9に相当)
cis−16,17− octacosenoamide〔HN−CO−(−CH−)14−CH=CH−(−CH−)10−CH〕(k=10に相当)
【0055】
また、分子構造中に不飽和cis構造炭素結合を2結合〜4結合有する化合物である(C)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドとしては、例えば、分子構造中に不飽和cis構造の炭素二重結合を4結合有する以下の化合物が挙げられる。
cis−5,6−8,9−11,12−14,15−arachidonic acid amide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−CH−CH=CH−CH−CH=CH−CH−CH=CH−(−CH−)−CH
【0056】
前記(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドとしては、前記式(D)〜式(D)の脂肪酸アミド、または、前記の分子構造中に複数の不飽和cis構造の炭素二重結合を有する脂肪酸アミド等から選ばれる1種類の脂肪酸アミドを使用すれば、十分所期の効果を奏することができるが、2種以上の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの混合物を使用してもよい。該脂肪酸アミドの混合物としては、前記の式(D)の脂肪酸アミドを含有するものであることが好ましい。
【0057】
したがって、好ましい(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの混合物は、前記の式(D)の脂肪酸アミドと、前記の(D)または(D)の式で表される少なくとも1種の脂肪酸アミドとの混合物である。該混合物中の式(D)の脂肪酸アミドの割合は、通常0.05〜99.95質量%、好ましくは0.1〜99.9質量%、より好ましくは0.5〜99.5質量%、更に好ましくは1〜99質量%の範囲である。したがって、前記の式(D)または式(D)、或いは式(D)と式(D)の混合物である脂肪酸アミドの割合は、通常99.95〜0.05質量%、好ましくは99.9〜0.1質量%、より好ましくは99.5〜0.5質量%、更に好ましくは99〜1質量%の範囲である。
【0058】
特に、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの混合物が、前記の式(D)の脂肪酸アミド、すなわち、HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数)と、前記の式(D)の脂肪酸アミド、すなわち、HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数)であって、m=n+1またはm=n−1である該脂肪酸アミドとの混合物であることが好ましい。
【0059】
具体的には、
式(D)が、cis−9,10−octadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=7に相当)であり、式(D)が、cis−6,7−tetradecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(m=6=n−1に相当)、または、cis−8,9−octadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(m=8=n+1に相当)である組み合わせの混合物などが好ましく使用できる。
【0060】
また、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの混合物が、前記の式(D)の脂肪酸アミド、すなわち、HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数)と、前記の式(D)の脂肪酸アミド、すなわち、HN−CO−(−CH−)k+4−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、kは、6≦k≦10の範囲の整数)であって、k=nである該脂肪酸アミドとの混合物であることが好ましい。
【0061】
具体的には、
式(D)が、cis−9,10−octadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=7に相当)であり、式(D)が、cis−13,14−docosenoamide〔HN−CO−(−CH−)11−CH=CH−(−CH−)−CH〕(k=7=nに相当)である組み合わせの混合物などが好ましく使用できる。
【0062】
さらに、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの混合物としては、前記の式(D)の脂肪酸アミドに属し、nの値が異なる2種以上の化合物の混合物を使用することができる。すなわち、(D)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数)と(D11)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、jは、6≦j≦10の範囲の整数であり、j≠n)との混合物を使用することができる。
【0063】
具体的には、例えば、式(D)が、cis−9,10−octadecenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(n=7に相当)であり、式(D11)が、cis−10, 11−eicosenoamide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH〕(j=8に相当)である組み合わせの混合物などが好ましく使用できる。
【0064】
さらにまた、分子構造中に不飽和cis構造炭素二重結合を2結合〜4結合含む(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、単独で、または、他の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドとの混合物として使用することもできる。該他の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドとしては、前記の式(D)〜(D)の脂肪酸アミドが好ましく用いられ、特に、式(D)の脂肪酸アミドが好ましい。具体的には、cis−5,6−8,9−11,12−14,15−arachidonic acid amide〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−CH−CH=CH−CH−CH=CH−CH−CH=CH−(−CH−)−CH〕と、式(D)であるcis−9,10−octadecenoamideとの混合物などが好ましく使用できる。
【0065】
5.(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの製造方法
本発明における樹脂組成物に含有される(D)の不飽和脂肪酸アミドは、市販品を使用してもよいし、市販品が混合物であったり、不純物を含有する場合は、所望の不飽和脂肪酸アミドを、抽出等により分離して得てもよい。しかし、例えば、前記の式(D)の脂肪酸アミド、すなわち、(D)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数)は、以下の方法により製造することができる。
【0066】
α,ω位にCHO−CO−末端基と水酸基末端またはカルボン酸末端とを有し、(m−1)連鎖のメチレン基(−CH−)m−1を有する以下の(式a):
(式a)CHO−CO−(−CH−)m−1−OH
で表される化合物を出発原料とする。((式a)では、水酸基末端を有する化合物を例示している。)
【0067】
(式a)で表される化合物の水酸基末端を、四臭化炭素(CBr)を用いて臭素置換し、次いで、トリフェニルフォスフィン(PPh,triphenylphosphine)を用いてシアン化メチル(CHCN)溶媒中で、臭素をPPhと反応させ、以下の(式b):
(式b)[CHO−CO−(−CH−)m−1−PPh]+Br
で表されるイオン性中間体を得る。
【0068】
イオン性中間体(式b)に、デシルアルデヒド(decyl aldehyde)を反応させて、PPh基を不飽和cis構造の炭素二重結合を有するアルキル基末端とした以下の(式c):
(式c)CHO−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH
で表されるα,ω構造化合物とする。
【0069】
次いで、(式c)のα,ω構造化合物のCHO−CO−末端基に水酸化リチウムを反応させて水酸基末端とし、これを塩化オキサリル(oxalyl chrolide)と塩化メチレンの溶媒中で飽和アンモニウムと反応させることでアミド基末端に変更し、以下の(式d):
(式d)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH
で表される不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを合成する。
【0070】
炭素数m(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数)を変更することにより、この合成経路を用いて所望の炭素数を有する不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを得ることができる。
【0071】
なお、不飽和炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの合成においては、周知のように、不飽和cis構造炭素二重結合を有する化合物と不飽和trans構造炭素二重結合を有する化合物とが同時に得られるので、酢酸エチルとヘキサンとを100%(初展開)〜40%の濃度勾配を付けた混合溶媒を用いて、クロマトグラフィー展開を行い、不飽和cis構造と不飽和trans構造の異性体を分離する。その際、あらかじめ、クロマトグラフィー展開時間毎の分画液に対して、プロトンH−NMR核磁気共鳴装置を用いて、化学シフト値に応じた同定をAldorich製標準物質を基に行い、分画液を特定する。その分画液を減圧乾燥して、所望する不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを回収する。
【0072】
6.その他の配合剤
本発明における樹脂組成物は、必要に応じて、その他の配合剤として、更に無機フィラー、熱安定剤、光安定剤、撥水剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤などの各種添加剤を含有することができる。
【0073】
また、本発明の樹脂組成物は、その他の配合剤として、本発明の目的を損なわない範囲内において、所望により、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどの他のポリマーを含有することができる。これら各種添加剤や他のポリマーの含有量は、樹脂組成物中に、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0074】
各種添加剤としては、式(D)の不飽和脂肪酸アミド以外の他の滑剤を使用することもできる。該他の滑剤としては、飽和脂肪酸アミドが好ましく、該飽和脂肪酸アミドを併用することにより、滑り性や表面光沢を更に改善できるなどの効果が奏される。飽和脂肪酸アミドとしては、通常、滑剤として使用されている化合物を使用することができ、例えば、ブチルアミド、吉草酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミドなどが挙げられ、好ましくは、ステアリン酸アミド(stearic acid amide)、ベヘン酸アミド(behenic acid amide)である。
【0075】
飽和脂肪酸アミドを含有する場合のその含有量は、式(D)の不飽和脂肪酸アミドと該飽和脂肪酸アミドとの合計含有量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下であり、その含有量の下限値は、0.5質量%程度であり、1質量%であれば十分な効果が実現できる。また、式(D)の不飽和脂肪酸アミドと該飽和脂肪酸アミドとの合計含有量は、(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、100〜4000ppmの範囲内であることが好ましい。
【0076】
II.樹脂製多層容器
本発明の樹脂製多層容器は、前記の樹脂組成物からなる層を表層に備える樹脂製多層容器である。本発明の樹脂製多層容器は、前記の樹脂組成物からなる層を、表層として有する2層、3層、4層、5層またはそれ以上の多層構成の樹脂製多層容器を含む。
【0077】
1.表層
樹脂製多層容器における表層としては、該容器の最外層と最内層とがある。本発明の樹脂製多層容器は、前記の樹脂組成物からなる層、すなわち、前記の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物からなる層を、該容器の最外層または最内層の一方または両方に備えるものであることができる。
【0078】
本発明の樹脂組成物からなる層を、樹脂製多層容器の最外層に配置することにより、容器の外表面の滑り性が向上するので、容器の製造中、搬送中または内容物の充填中に、容器同士または装置類との接触や衝突等によって、不良品の発生、製造ラインの停止、装置の故障等が生じることを防止できる効果があるとともに、表面光沢も優れたものとなる。
【0079】
本発明の樹脂組成物からなる層を、樹脂製多層容器の最内層に配置することにより、容器の内表面の滑り性が向上するので、内容物の充填がスムーズに行われたり、消費者の使用時に内容物の液切れ性が優れたりするなどの効果がある。
【0080】
本発明の樹脂組成物からなる層を、樹脂製多層容器の最外層及び最内層に配置することにより、前記の最外層に配置した場合と、最内層に配置した場合の両方の効果を併せて実現することができる。
【0081】
2.バリア層
本発明の樹脂製多層容器は、内容物の保存性を高めるために、更にバリア層を備えることが好ましい。該バリア層は、酸素バリア性、炭酸ガスバリア性等のガスバリア性や、水または水蒸気に対するバリア性を有するものを使用することができる。バリア層は、特に限定されず、容器の種類により、金属または無機酸化物を蒸着した樹脂フィルムの層、金属箔やバリア性樹脂の層などを使用することもできる。
【0082】
バリア層を形成するバリア性樹脂の好ましい例として、エチレンビニルアルコール共重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物(以下、これらを総称して「EVOH」ということがある。)を挙げることができる。さらに、酸素ガスバリア性のみならず、炭酸ガスバリア性にも優れていることから、ガスバリア性樹脂として、ポリグリコール酸を使用することができる。また、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から形成される芳香族ポリアミド(MXD6)や、ポリ塩化ビニリデンなどを使用することができる。
【0083】
EVOHとしては、エチレン含有量が20〜60モル%、好ましくは25〜55モル%、より好ましくは30〜50モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは97モル%以上、特に好ましくは99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が使用される。このEVOHは、フィルムを形成し得るに足りる分子量を有するものであり、一般に、MFR(190℃、21.18N)が6g/10分以下、好ましくは5g/10分以下、より好ましくは4g/10分以下である。
【0084】
3.接着層
本発明の樹脂製多層容器は、層間剥離強度を高める目的で、各層間に接着層を介在させることができる。接着層としては、押出加工が可能で、かつ、各樹脂層に良好な接着性を示すものであることが好ましい。樹脂製多層容器が、後述するブロー成形によって製造される多層ブロー成形容器である場合には、耐熱性や成形加工性の観点から、接着層を介在させなくてもよい場合もあるが、機械的特性や耐衝撃性などが要望される用途には、接着層を介在させることが好ましい。
【0085】
接着層としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン;グリシジル基含有エチレンコポリマー、熱可塑性ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド・アイオノマー、ポリアクリルイミドなどを挙げることができる。
【0086】
接着層には、所望により、無機フィラー、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、染料などの各種添加剤を含有させることができる。
【0087】
4.回収層
本発明の樹脂製多層容器は、容器の強度を高め、また、資源のリサイクル性を高めるために、回収層を備えるものであることが好ましい。
【0088】
回収層は、本発明の樹脂製多層容器それ自体から回収される材料(バリや製品容器の不要部分、製品規格外のボトルの回収品など)、または、本発明の樹脂製多層容器を製造する工程において回収される材料を、主成分として含有する層である。特に、本発明の樹脂製多層容器が、後述するブロー成形によって製造されるものである場合は、予備成形品であるパリソンにブローエアーを導入した後の成形容器の頭部(以下、「袋部」ということがある。)を切除する必要があるが、該切除された袋部を、破砕機にて粉末化した回収樹脂を原料として、回収層とすることができる。また、ブロー成形容器の前記の袋部以外の部分を切除して回収した樹脂や、成形前のパリソン、更には、樹脂製多層容器の各層を形成する材料や原料などを、主成分として含有するものでもよい。
【0089】
回収層には、更に本発明の樹脂製多層容器の各層を形成するための原材料、例えば、種々の樹脂原料や配合剤、接着剤等を含有させてもよい。
【0090】
5.多層容器
本発明の樹脂製多層容器は、前記の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物からなる層を表層として備えるものであり、好ましくは、層構成として、表層、バリア層、接着層、及び、回収層を備える樹脂製多層容器である。更に好ましくは、最外層/接着層/バリア層/接着層/回収層/最内層からなる層構成を備える樹脂製多層容器である。
【0091】
本発明の樹脂製多層容器の厚みは、特に限定されないが、容器胴部(側壁)の全層厚みは、通常20μm〜5mm、好ましくは100μm〜3mm、より好ましくは200μm〜1mmの範囲内である。
【0092】
全層厚みに対する表層の厚み(最外層及び/または最内層の合計厚みを意味する。)は、全層厚みに対して通常50〜90%である。なお、該厚みの比率は、ほぼ質量の比率に相当するので、以下、質量%で表記する。
【0093】
表層は、好ましくは55〜85質量%、より好ましくは60〜80質量%である。回収層は、通常5〜30質量%であり、好ましくは10〜25質量%、より好ましくは15〜25質量%である。バリア層は、通常1〜10質量%であり、好ましくは2〜8質量%、より好ましくは3〜6質量%である。接着層は、合計で、通常0.005〜2質量%であり、好ましくは0.007〜1.5質量%、より好ましくは0.008〜1.2質量%である。
【0094】
本発明の樹脂製多層容器における表層(最外層及び最内層)のうち最外層の表層全体に占める比率は、特に限定されないが、通常10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、より好ましくは20〜70質量%、特に好ましくは25〜65質量%である。
【0095】
本発明の樹脂製多層容器は、容器全体の厚みが、均一でもよいが、部分により厚みを変化させてもよい。多層容器の底部は、一般に、厚みを大きくすることが好ましい。
【0096】
本発明の樹脂製多層容器の容積は、特に限定されないが、好ましくは100〜3000cm、より好ましくは200〜2000cm、更に好ましくは300〜1000cmの範囲の容積を有する樹脂製多層容器である。
【0097】
[表面滑り摩擦係数]
本発明の樹脂製多層容器は、前記の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物からなる層を表層として備えることにより、滑り性に優れた容器である。該表層が、最外層または最内層の一方または両方であることにより、樹脂製多層容器の外表面及び/または内表面の滑り性を優れたものとすることができる。樹脂製多層容器の滑り性は、JIS K7125に準じる方法で測定した表面滑り摩擦係数によって評価することができる。具体的には、容器に温度23℃の水を満充填した後、2層構成(アルミニウム/LDPE)のシール材を用いて、シール材のLDPE側を容器の口部に載せて、加熱溶着して、容器の口部を密封する。この容器の口部は、該口部の外周部に蓋を螺着するための螺条を備えている。容器を引っ張るためのワイヤを蓋に固着し、次いで、蓋を容器の口部に螺着する。該容器を、ステンレス鋼の平板上に水平に横置きし、引張圧縮試験機を使用して、容器の口部に取り付けたワイヤを速度86mm/分で約2cm水平に引っ張ったときの最大引張荷重値を求め、該荷重値を容器の総重量で割り算して、容器の表面滑り摩擦係数とする。滑り摩擦が0.40以下であれば、滑り性が良好であるといえ、好ましくは0.38以下、より好ましくは0.35以下である。
【0098】
[突刺強度]
本発明の樹脂製多層容器は、前記の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物からなる層を表層として備えることにより、優れた耐突刺し性を有する容器である。樹脂製多層容器の耐突刺し性は、JIS T8051に準じる方法で、突刺強度を測定することにて評価することができる。具体的には、容器の底部から90〜130mm上方の範囲の胴部を輪切りし、その輪を切断したシートを試料とし、テンシロン万能試験機(圧縮試験機)を使用して、温度23℃の空調雰囲気において、先端φ3mm・曲率半径1.5mmの突刺し治具を、試料の表面に突刺し速度500mm/分で直角に突き刺し貫通させたときの最大突刺荷重(単位N)を測定して、試料厚み390μmに換算した値を容器の突刺強度とすることによって評価することができる。突刺強度が30N以上であれば、耐突刺し性に優れているといえ、好ましくは33N以上である。
【0099】
[表面光沢]
本発明の樹脂製多層容器は、前記の(A)、(B)、(C)及び(D)を含有する樹脂組成物からなる層を表層として備えることにより、優れた表面光沢を有する容器である。樹脂製多層容器の表面光沢は、JIS Z8528に準じる方法で測定することができる。具体的には、容器の底部から20〜100mm上方の胴部から、法線方向(T方向)60mm、縦方向(L方向)80mmを切り出して試料とし、温度23℃の空調雰囲気において、グロスメーターにより該試料の光沢(60°グロス値(%))をT方向及びL方向について測定して、T方向及びL方向の測定値の平均値を容器の表面光沢とする。表面光沢が40以上であれば、光沢が良好であるといえ、好ましくは43以上、より好ましくは45以上である。
【0100】
III.容器の製造方法
本発明の樹脂製多層容器は、ブロー成形容器(延伸ブロー成形容器を含む。)、射出成形容器、フィルムまたはシートから折り曲げ及び接着により作製された包装袋、シートを真空成形及び/または圧空成形してなるトレーやカップなど、様々な形状とすることができる。これらの中でも、ブロー成形容器が好ましく、ダイレクトブロー成形容器がより好ましい。
【0101】
本発明の樹脂製多層容器は、ブロー成形(延伸ブロー成形を含む。)、射出成形、フィルムまたはシートの折り曲げ及び接着、シートの真空成形及び/または圧空成形などによって様々な形状の容器を成形して製造することができる。例えば、あらかじめ製造した多層のシートまたはフィルムの三方または四方をシールして、包装用袋である樹脂製多層容器を製造することができる。また、あらかじめ製造した多層のシートまたはフィルムを、シート成形法(真空成形及び/または圧空成形)により、トレー、カップなどの形状の樹脂製多層容器を製造することができる。
【0102】
これらの中でも、ブロー成形によって樹脂製多層容器を製造することが好ましく、多層のパリソン(以下、「多層パリソン」ということがある。)を、容器形状のキャビティ壁を備える割型内でブロー成形することによって、ブロー成形品である多層容器を製造する。ブロー成形は、多層パリソンを製造した後、常温または室温に冷却しておき、ブロー成形を行うときに所定温度まで加熱するコールドパリソン方式によってもよいし、多層パリソンを製造し、続いてブロー成形を行うホットパリソン方式によってもよい。多層パリソンは、多層射出成形により製造することもできるが、溶融共押出によって筒状(以下、「管状」または「パイプ状」ということがある。)の多層パリソンを製造する方法が好ましく、共押出した多層のパリソンを続けてブロー成形するダイレクトブロー成形によって製造することが好ましい。以下、本発明の樹脂製多層容器をダイレクトブロー成形によって製造する場合について説明する。
【0103】
1.多層パリソンの製造
所定の多層構成を有する多層パリソンを共押出によって製造する方法としては、管状ダイを用いた共押出法、Tダイを用いた共押出法、インフレーション成形による共押出法などの方法が挙げられるが、いわゆる容器形状の容器をブロー成形によって製造する場合は、管状ダイを用いた共押出法により筒状(パイプ状)の多層パリソンを製造することが好ましい。管状ダイを用いた共押出法で多層パリソンを製造する場合は、樹脂の種類に対応する数の押出機を使用し、各層に対応する樹脂をそれぞれ管状に展開しながら、ダイ通路内で溶融樹脂を積層体の順序となるように合流させる。表層である最内層と最外層が同種の樹脂からなる場合には、更に分岐チャンネルを経て、他の層を形成する樹脂原料等を挟み込むように分岐させ、その後、押出ダイ内で合流させ、管状形状のダイヘッドから所定の層構成に整列積層した状態で樹脂を押し出す。ダイヘッドの温度は通常120〜240℃であり、好ましくは130〜230℃、より好ましくは140〜220℃の範囲の温度を採用することができる。ダイオリフイスの形状としては、円形のほか偏平形状のものも使用可能である。管状ダイを用いた共押出法によれば、多層パリソンの肉厚の変更制御を比較的容易に行うことができる。
【0104】
なお、先に述べたように、多層パリソンを共射出成形によって製造することもできる。複数台の射出シリンダを備えた成形機を用いて、単一のパリソン用射出成形金型のキャビティ内に、一回の型締め動作で、1つのゲートから、溶融した表層(最外層及び/または最内層)を形成する樹脂組成物及び他の層を形成する樹脂材料を共射出して有底の多層パリソンを形成する。多層パリソンの底部の一部若しくは全部には、バリア層が存在していなくてもよい。一般に、底部の厚みは胴部の厚みに比べて大きいため、底部が実質的に樹脂組成物層だけでもバリア性を発揮することができる。胴部のみにバリア層を配置することにより、多層容器の機械的強度の低下を防ぐとともに、バリア層の厚みを均一に制御することが容易になる。
【0105】
2.ブロー成形
ブロー成形では、前記の方法で共押出した筒状の多層パリソンを、割金型で挟んで、下端を融着して塞ぐとともに、上端を切断した後、開口した上端から加圧流体を吹き込んで容器形状に成形した後、不要となる容器口部の上部(頭部または袋部)を切除して、樹脂製多層容器を得る。
【0106】
ブロー成形用の割金型としては、鏡面仕上げのものでも、サンドブラスト加工したものでも使用でき、割金型の表面温度は一般に10〜50℃の範囲にあることが好ましい。また、ブロー成形用の流体としては、滅菌処理した空気を用いることが好ましく、その圧力は1.0〜15kg/cmの範囲にあるのが適当である。
【0107】
本発明の樹脂製多層容器は、延伸ブロー成形して製造することもできる。延伸ブロー成形工程では、多層パリソンを延伸可能な温度に調整した後、ブロー成形用金型のキャビティ内に挿入し、空気などの加圧流体を吹き込んで延伸ブロー成形を行う。長さ方向の延伸を行うためには、延伸ロッドを使用してもよい。延伸ブロー成形は、ホットパリソン方式またはコールドパリソン方式のいずれかの方式により行うことができる。全延伸倍率は、通常6〜9倍、耐圧容器では8〜9.5倍、耐熱容器では6〜7.5倍、大型容器では7〜8倍程度である。
【0108】
内容物の熱充填に適した耐熱性の樹脂製多層容器を製造する場合には、熱充填時の容器の熱収縮・変形を防止するために、ブロー成形用金型の温度を100℃以上に昇温し、金型内で熱処理(熱固定)してもよい。金型温度は、100〜165℃であり、一般耐熱容器の場合は145〜155℃、高耐熱容器の場合には、160〜165℃の範囲とすることが好ましい。熱処理時間は、多層容器の厚みや熱処理温度により変動するが、通常1〜30秒間、好ましくは2〜20秒間である。
【実施例】
【0109】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における樹脂原料及び容器の特性または物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0110】
[密度及びMFR]
樹脂の密度及びMFR(温度190℃、荷重21.18N)は、JIS K6922−2に従って測定した。
【0111】
[結晶融点]
樹脂の結晶融点は、JIS K7122に従って測定した。
【0112】
[多分散度(Mw/Mn)]
樹脂の分子量分布の指標である多分散度(Mw/Mn)は、JIS K7252に従って測定した。
【0113】
[表面滑り摩擦係数]
容器の表面滑り摩擦係数は、JIS K7125に準じる方法で測定した。具体的には、容器に温度23℃の水を満充填した後、2層構成(アルミニウム/LDPE)のシール材を用いて、シール材のLDPE側を容器の口部に載せて、加熱溶着して、容器の口部を密封した。この容器の口部は、該口部の外周部に蓋を螺着するための螺条を備えている。容器を引っ張るためのワイヤを蓋に固着し、次いで、蓋を容器の口部に螺着した。該容器を、ステンレス鋼の平板上に水平に横置きした。株式会社今田製作所製引張圧縮試験機、製品名SV50を使用し、容器の口部にワイヤを取り付けて、速度86mm/分で約2cm水平に引っ張ったときの最大引張荷重値を求め、容器の総重量で割り算して、容器の表面滑り摩擦係数とした。
【0114】
[突刺強度]
容器の突刺強度は、表面滑り摩擦係数の測定に用いた容器について、JIS T8051に準じる方法で測定した。具体的には、容器の底部から90〜130mm上方の胴部を輪切りし、その輪を切断したシートを試料とした。オリエンテック株式会社製のテンシロン万能試験機RC−121OAを使用して、温度23℃の空調雰囲気において、先端φ3mm・曲率半径1.5mmの突刺し治具を、試料の表面に突刺し速度500mm/分で直角に突き刺し貫通させたときの最大突刺荷重(単位N )を測定して、試料厚み390μmに換算した値を容器の突刺強度とした。
【0115】
[表面光沢]
容器の表面光沢は、表面滑り摩擦係数の測定に用いた容器について、JIS Z8528に準じる方法で測定した。具体的には、容器の底部から20〜100mm上方の胴部から、法線方向(T方向)60mm、縦方向(L方向)80mmを切り出して試料とした。温度23℃の空調雰囲気において、市販のグロスメーターにより該試料の光沢(60°グロス値(%))をT方向及びL方向について測定し、T方向及びL方向の測定値の平均値を容器の表面光沢とした。
【0116】
〔実施例1〕
複数の押出機と多層ダイを用いて、層構成が、最外層/接着層/バリア層/接着層/回収層/最内層である筒状パリソンを押し出し、ロータリー式のダイレクトブロー成形機により、内容積が500cmの多層構成の樹脂製多層容器(以下、「多層容器」という。)を成形した。多層容器の重量は、20gであった。
【0117】
(1)表層(最外層及び最内層):
(A)低密度ポリエチレン:日本ポリエチレン株式会社製の商品名ノバテックLD(登録商標)[密度0.924g/m、MFR(温度190℃、荷重21.18N)0.7g/10分、結晶融点113℃、多分散度(Mw/Mn)=2] 55質量%、
(B)高密度ポリエチレン:日本ポリエチレン株式会社製の商品名ノバテックHD(登録商標)[密度0.960g/m、MFR(温度190℃、荷重21.18N)0.7g/10分、結晶融点135℃、多分散度(Mw/Mn)=4] 25質量%、及び
(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィン:日本ポリエチレン株式会社製の商品名ハーモレックス[密度0.908g/m、MFR(温度190℃、荷重21.18N)0.9g/10分、結晶融点125℃、多分散度(Mw/Mn)=3] 20質量%、
[ただし、(A)、(B)及び(C)の質量%は、(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときの値である。]
並びに、
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミド:cis−9,10−octadecenoamide[HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH;式(D)の不飽和脂肪酸アミド]98質量%と、cis−5,6−8,9−11,12−14,15−arachidonic acid amide[HN−CO−(−CH−)−CH=CH−CH−CH=CH−CH−CH=CH−CH−CH=CH−(−CH−)−CH]2質量%との混合物 390ppm[ただし、(D)の合計含有量(ppm)は、(A)、(B)及び(C)の合計質量に対する比率である。以下の実施例及び比較例においても同様である。]
【0118】
(2)バリア層:株式会社クラレ製の商品名エバール[エチレン含有率がモル比で44%であるEVOH。密度1.140g/cm、MFR(温度190℃、荷重21.18N)1.7g/10分、結晶融点165℃]
【0119】
(3)回収層:本実施例により製造した多層容器をダイレクトブロー成形する際に生じる容器の頭部(袋部)を切除して、破砕機にてそれを粉末化した樹脂(回収樹脂)を原料とした。
【0120】
(4)接着層:三菱化学株式会社製の無水マレイン酸変性ポリオレフィン、商品名モディック(登録商標)
【0121】
(1)〜(4)の層の厚み比(質量比)は、74:4:21:1とした。
【0122】
成形された容器の表面滑り摩擦係数(以下、「滑り摩擦」という。)、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0123】
[実施例2]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 99.8質量%と、cis−8,9−octadecenoamide 〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH;式(D)の不飽和脂肪酸アミド〕0.2質量%との混合物に変更し、合計含有量を387ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0124】
[実施例3]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis− 9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 90.0質量%と、cis−8,9−octadecenoamide〔式(D)〕 10.0質量%との混合物に変更し、合計含有量を3500ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0125】
[実施例4]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 85.0質量%と、cis−6,7−tetradecenoamide 〔HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH;式(D)の不飽和脂肪酸アミド〕15.0質量%との混合物に変更し、合計含有量を350ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0126】
[実施例5]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−8,9−octadecenoamide〔式(D)〕 (単独)に変更し、含有量を400ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0127】
[実施例6]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis− 9,10 −octadecenoamide〔式(D)〕 98.0質量%と、cis−13,14−docosenoamide〔HN−CO−(−CH−)11−CH=CH−(−CH−)−CH;式(D)の不飽和脂肪酸アミド〕2.0質量%との混合物に変更し、合計含有量を1500ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0128】
[実施例7]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−13,14−docosenoamide〔式(D)〕 95.0質量%と、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 5.0質量%との混合物に変更し、含有量を250ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0129】
[実施例8]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 95.0質量%と、cis−13,14−docosenoamide〔式(D)〕 3.0質量%との混合物に変更し、更に飽和脂肪酸アミドであるbehenic acid amideを2.0質量%の割合で含有させ、これら脂肪酸アミドの合計の含有量を1000ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0130】
[実施例9]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 92.0質量%と、cis−13,14−docosenoamide〔式(D)〕 3.0質量%との混合物に変更し、更に飽和脂肪酸アミドであるstearic acid amideを5.0質量%の割合で含有させ、これら脂肪酸アミドの合計の含有量を1000ppmに変更したことを除いて、実施例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0131】
[比較例1]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、trans−9,10−octadecenoamide〔式(D)の不飽和脂肪酸アミドのtrans形に相当する。〕 (単独)に変更したことを除いて、実施例5と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0132】
[比較例2]
trans−9,10−octadecenoamide〔式(D)の不飽和脂肪酸アミドのtrans形に相当する。〕 (単独)を、trans−9,10−octadecenoamide 98.0質量%と、飽和脂肪酸アミドであるstearic acid amide2.0質量%との混合物に変更したことを除いて、比較例1と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表1の結果から、(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として備える樹脂製多層容器であって、該樹脂組成物が、(I)(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)が8〜40質量%;及び(II)(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)が100〜4000ppm;を満足する、実施例1〜9の樹脂製多層容器は、表面滑り摩擦係数が0.25〜0.32で、表面の滑り性が良好であり、突刺強度が34Nで、耐突刺し性に優れ、かつ、表面光沢が43〜54で、光沢が良好であることが分かった。
【0135】
これに対し、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドに代えて、不飽和trans構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有させた比較例1及び2の樹脂製多層容器は、耐突刺し性は実施例1〜9の樹脂製多層容器と同等であるものの、表面滑り摩擦係数が0.45または0.42と大きく、ベタ付き感があり、表面光沢が39と低く、光沢が良好ではないものであった。
【0136】
[実施例10]
表層を、(A)低密度ポリエチレン55質量%、(B)高密度ポリエチレン15質量%、及び(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィン30質量%に変更し、また、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの合計含有量を400ppmに変更したことを除いて、実施例2と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0137】
[実施例11]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 95.0質量%と、cis−13,14−docosenoamide〔式(D)〕 5.0質量%との混合物に変更したことを除いて、実施例10と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0138】
[実施例12]
表層を、(A)低密度ポリエチレン41質量%、(B)高密度ポリエチレン49質量%、及び(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィン10質量%に変更したことを除いて、実施例10と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0139】
[実施例13]
(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 95.0質量%と、cis−13,14−docosenoamide〔式(D)〕 5.0質量%との混合物に変更したことを除いて、実施例12と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0140】
[比較例3]
表層を、(A)低密度ポリエチレン45質量%、(B)高密度ポリエチレン10質量%、及び(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィン45質量%に変更したことを除いて、実施例13と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0141】
[比較例4]
表層を、(A)低密度ポリエチレン65質量%、(B)高密度ポリエチレン30質量%、及び(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィン5質量%に変更したことを除いて、比較例3と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0142】
[比較例5]
表層を、(A)低密度ポリエチレン65質量%、及び(B)高密度ポリエチレン35質量%に変更した〔(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは使用しなかった。〕こと、並びに、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを、cis−9,10−octadecenoamide〔式(D)〕 98.0質量%と、cis−13,14−docosenoamide〔式(D)〕 2.0質量%との混合物に変更し、更に脂肪酸アミドの合計含有量を90ppmに変更したことを除いて、比較例4と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0143】
[比較例6]
表層を、(A)低密度ポリエチレン100質量%に変更した〔(B)高密度ポリエチレン及び(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは使用しなかった。〕こと、並びに、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの合計含有量を350ppmに変更したことを除いて、比較例5と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0144】
[比較例7]
表層を、(A)低密度ポリエチレン55質量%、(B)高密度ポリエチレン25質量%、及び、チーグラー・ナッタ触媒存在下に重合して得たエチレン系ポリオレフィンである株式会社プライムポリマー製のウルトゼックス(登録商標)1520L〔密度0.913kg/m、MFR(温度190℃、荷重21.18N)2.3g/10分、結晶融点=115℃、多分散度(Mw/Mn)=2〕20質量%に変更した〔(C)メタロセン触媒エチレン系ポリオレフィンは使用しなかった。〕こと、並びに、(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドの合計含有量を390ppmに変更したことを除いて、比較例5と同様にして、多層容器を成形した。成形された容器の滑り摩擦、突刺強度及び表面光沢を測定した結果を表2に示す。
【0145】
【表2】

【0146】
表2の結果から、(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として備える樹脂製多層容器であって、該樹脂組成物が、(I)(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)が8〜40質量%;及び(II)(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)が100〜4000ppm;を満足する、実施例10〜13の樹脂製多層容器は、表面滑り摩擦係数が0.28〜0.35で、表面の滑り性が良好であり、突刺強度が30〜43Nで、耐突刺し性に優れ、かつ、表面光沢が42〜49で、光沢が良好であることが分かった。
【0147】
これに対し、表層(最内層及び最外層)が、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンを45質量%と多量に含有する樹脂組成物からなる比較例3の樹脂製多層容器は、表面滑り摩擦係数が0.49と大きく、ベタ付き感があるとともに、突刺強度が22Nと小さく、耐突刺し性が不足するものであった。また、表層(最内層及び最外層)が、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンを5質量%と少量しか含有しない樹脂組成物からなる比較例4の樹脂製多層容器は、突刺強度が29Nと小さく、耐突刺し性が不足し、表面光沢が36と低く、光沢が良好ではないものであった。さらに、表層(最内層及び最外層)が、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンを含有せず、かつ、不飽和脂肪酸アミドの含有量が90ppmと少量である比較例5の容器、及び、同じく(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンと(B)高密度ポリエチレンを含有しない比較例6の容器は、いずれも、表面滑り摩擦係数が0.42または0.41と大きく、ベタ付き感があるとともに、突刺強度が29Nまたは23Nと小さく、耐突刺し性が不足するものであった。そして、表層(最内層及び最外層)が、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンに代えて、チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィンを含有する樹脂組成物からなる比較例7の樹脂製多層容器は、突刺強度が28Nと小さく、耐突刺し性が不足するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として有する樹脂製多層容器であって、前記樹脂組成物が、
I: (A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)が8〜40質量%であり、
II: (A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)を100〜4000ppm含有する前記の樹脂製多層容器であることによって、容器の成形、移送から、内容物の充填、包装の各工程における様々な工程ラインや環境条件に適合する滑り性を発揮でき、また、容器に充填されている内容物の液切れ性が改善され、かつ、耐突刺し性が高く、表面光沢にも優れた樹脂製多層容器を提供できるので、生産性が高く、また、輸送時や保管時の信頼性が高い容器を提供することができ、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)低密度ポリエチレン、(B)高密度ポリエチレン、(C)メタロセン触媒を用いて得られたエチレン系ポリオレフィン、及び(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドを含有する樹脂組成物からなる層を表層として備える樹脂製多層容器であって、
該樹脂組成物が、以下のI及びII:
(I)(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%としたときに、(C)が8〜40質量%;及び
(II)(A)、(B)及び(C)の合計質量に対して、(D)が100〜4000ppm;
を満足することを特徴とする前記の樹脂製多層容器。
【請求項2】
前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、以下の(D)、(D)及び(D):
(D)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、nは、6≦n≦10の範囲の整数);
(D)HN−CO−(−CH−)m−2−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、mは、6≦m≦10の範囲の整数);及び
(D)HN−CO−(−CH−)k+4−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、kは、6≦k≦10の範囲の整数);
からなる群より選ばれる式で表される少なくとも1種の脂肪酸アミドを含有する請求項1に記載の樹脂製多層容器。
【請求項3】
前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドと、前記の(D)または(D)の式で表される少なくとも1種の脂肪酸アミドとの混合物である請求項2に記載の樹脂製多層容器。
【請求項4】
前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドにおけるmが、m=n+1またはm=n−1である請求項3に記載の樹脂製多層容器。
【請求項5】
前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドにおけるkが、k=nである請求項3に記載の樹脂製多層容器。
【請求項6】
前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、前記の(D)の式で表される脂肪酸アミドと、以下の(D11):
(D11)HN−CO−(−CH−)−CH=CH−(−CH−)−CH(ただし、jは、6≦j≦10の範囲の整数であり、j≠n);
の式で表される脂肪酸アミドとの混合物である請求項2に記載の樹脂製多層容器。
【請求項7】
前記の(D)不飽和cis構造炭素二重結合を有する脂肪酸アミドが、分子構造中に不飽和cis構造炭素二重結合を2結合〜4結合有する化合物を含有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。
【請求項8】
前記の樹脂組成物が、更に飽和脂肪酸アミドを含有する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。
【請求項9】
前記の表層が、最外層または最内層の一方または両方である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。
【請求項10】
更にバリア層を備える請求項1乃至9のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。
【請求項11】
前記のバリア層が、エチレンビニルアルコール共重合体またはポリグリコール酸である請求項10に記載の樹脂製多層容器。
【請求項12】
更に回収層を備える請求項1乃至11のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。
【請求項13】
前記の樹脂製多層容器が、表層、バリア層、接着層、及び、回収層を備えるものである請求項1乃至12のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。
【請求項14】
前記の樹脂製多層容器が、最外層/接着層/バリア層/接着層/回収層/最内層からなる請求項1乃至13のいずれか1項に記載の樹脂製多層容器。

【公開番号】特開2012−229037(P2012−229037A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97589(P2011−97589)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】