説明

樹脂製Oリングの形状回復方法

【課題】パーフルオロエラストマー製のOリングの使用後の断面形状を、使用前の断面形状に回復させる方法を提供する。
【解決手段】Oリングの断面形状を使用前の断面形状に回復する方法は、断面形状が使用前の断面形状から変形した使用後のパーフルオロエラストマー製のOリングを、25℃以上、400℃以下の範囲の温度と、大気圧より低圧の圧力下で、熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製Oリングの形状回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置として、例えばプラズマCVD装置に樹脂製Oリングが用いられている。樹脂製Oリングとしては、プラズマに対する耐久性のあるパーフルオロエラストマー製のOリング(デュポン社の商品名ケムラッツ(登録商標)、商品名カルレッツ(登録商標)等)が使用されている(図1)。
【0003】
上記樹脂製Oリングは、その経時変化による劣化のため、1年に1回定期的に新品と交換していた。しかしながら、新品は大変高価であるため、コストが非常に高くなっていた。
【0004】
この樹脂製Oリングの交換理由を分析したところ、Oリング素材の劣化によるものではなく、使用後の断面形状が変形し、扁平になることによるものであることがわかった(図2)。
【0005】
現在、形状回復させる方法として各種の提案がある。
たとえば、特許文献1には、形状記憶性を有するゴムを加熱することにより形状回復させる点が記載されている。特許文献3には、変形した形状記憶性を有するシールディングガスケットを恒温機で80℃に加熱すると形状回復する点が記載されている。
【特許文献1】特開2007−262279号公報
【特許文献2】特開平02−050042号公報
【特許文献3】特開平07−258626号公報
【特許文献4】特開平11−241155号公報
【特許文献5】特開昭58−224721号公報
【特許文献6】特開2006−332554号公報
【特許文献7】特開2006−041539号公報
【特許文献8】特開平07−074119号公報
【非特許文献1】"ケムラッツ(R)Chemraz"、華陽物産株式会社、[2008年9月17日検索]インターネット<http://www.kayo-corp.co.jp/common/pdf/chemraz.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、形状記憶性を有するゴムが記載されている。この形状記憶性を有するゴムは、Tgが室温付近に設定されており、Tg点以下の温度で変形させた後、Tg点以上に加熱するとゴム状態となって元の形状に戻ることができる。
そこで、使用後の断面形状が変形したパーフルオロエラストマー製Oリング(商品名ケムラッツ(デュポン社、登録商標))のOリングを加熱した。しかしながら、パーフルオロエラストマー製のOリングは、形状記憶樹脂ではないため、加熱のみでは、このOリングの使用後の断面形状を、使用前の断面形状に回復させることができないことがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、断面形状が使用前の断面形状から変形した使用後のパーフルオロエラストマー製のOリングを、
25℃以上、400℃以下の範囲の温度と、大気圧より低圧の圧力下で、熱処理することで、前記Oリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法が提供される。
【0008】
使用後の断面形状が使用前の断面形状から変形したパーフルオロエラストマー製のOリングを、25℃以上、400℃以下の範囲の温度と、大気圧より低圧の圧力とを適宜調整して、熱処理することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パーフルオロエラストマー製のOリングの使用後の断面形状を、使用前の断面形状に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の一形態を図面を参照して以下に説明する。ただし、本実施の形態に関して前述した一従来例と同一の部分は、同一の名称を使用して詳細な説明は省略する。
なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0011】
本実施の形態のOリングの断面形状を使用前の断面形状に回復する方法は、断面形状が使用前の断面形状から変形した使用後のパーフルオロエラストマー製のOリングを、25℃以上、400℃以下の範囲の温度と、大気圧より低圧の圧力下で、熱処理することが好ましい。
【0012】
パーフルオロエラストマー製のOリング(以下、単にOリングという)は、市販されているものを用いることができる。Oリングとしては、たとえば、商品名ケムラッツ(デュポン社、登録商標)、商品名カルレッツ(デュポン社、登録商標)、商品名フローリッツ(日本バルカー工業株式会社)等を挙げることができる。これらのパーフルオロエラストマー製のOリングのTgは、室温25℃以下である。
【0013】
パーフルオロエラストマーの構造は、エラストマーの特徴である主鎖部:TFE(テトラフルオロエチレン)、枝分れ部:PMVE(パーフロロメチルビニルエーテル)、および架橋部を含み、主鎖部と枝分れ部とが完全にフッ素化されていることを特徴とする(図4)。
【0014】
このOリングの使用前の断面形状は、ほぼ真円である(図2)。ここで使用前とは、市販されているOリングを購入した後に、このOリングを使用していないときを示す。しかしその後、たとえば、プラズマCVD装置などに使用すると、交換する時期には、Oリングの使用前の断面形状は、圧力方向に変形し、たとえば、扁平形状となる(図2)。このときを、使用後とする。また、Oリングの使用後の断面形状を、使用前の断面形状に回復させた後、さらにOリングを使用して、Oリングの断面形状が、圧力方向に変形し、たとえば、扁平形状となったときも、使用後を意味する。
【0015】
Oリングの使用後の断面形状が、圧力方向に変形した形状は、使用前の断面形状であるほぼ真円から少しでも変形した形状を含むことができる。また、Oリングの使用後の断面形状は、圧力方向に大きく変形していてもよい。
また、たとえば、Oリングの使用後の断面形状の扁平率(断面高さ/断面幅×100)は、1より小さい。
たとえば、Oリングの断面形状の評価の方法としては、Oリングをカッターで切断した断面の形状を楕円と仮定し、切断面をファイバースコープで観察するとともに、長軸と短軸とを、それぞれ、ファイバースコープ内蔵の測長ツールで計測することができる。さらに、この評価の方法を用いて、真空オーブンベーク処理前と、処理後とで、Oリングの断面の形状の長軸、短軸のデータを収集し比較することができる。
【0016】
図3は、本実施の形態のOリングの形状回復におけるベーク工程を示す図である。
本実施形態のベーク工程において、真空オーブン装置を用いることができる。真空オーブン装置として、たとえば市販されているものを用いることができる。
真空オーブン装置などの使用装置の使用可能温度条件と使用可能圧力条件とを調整することで、Oリングを、25℃以上、400℃以下の範囲の温度と、大気圧より低圧の圧力とで、所定時間ベークすることができるが、この方法に限定されない。
25℃とは、熱処理前の室温であり、400℃とは、Oリングが熱劣化しない最大の温度とすることができる。熱劣化しない最大の温度は、Oリングの種類によって決定される。
【0017】
本実施の形態の温度は、40℃以上とすることができる。また、非特許文献1によると、たとえば、ケムラッツ(登録商標)の最高使用温度は、200℃台である。このことから、本実施の形態の温度は、最高使用温度以下とすることが好ましい。この最高使用温度は、Oリングの種類によって、決定されている。
【0018】
たとえばプラズマCVD装置では、Oリングは、約80℃以上、約100℃以下の範囲で使用されている。100℃より高い温度では、Oリングにダメージを与える可能性がある。これを回避するために、さらに、好ましくは、温度を、100℃以下とすることができる。
【0019】
本実施の形態の大気圧より低圧の圧力は、0Torrより大きければよい。上記真空オーブン装置の真空ポンプ等の能力も考慮して、0.001Torr以上とすることができる。
また、本実施の形態の大気圧より低圧の圧力は、大気圧760Torrの1/10程度でもよい。好ましくは、76Torr以下とすることができる。圧力を、上記の範囲の低圧にすることで、Oリングの外皮面から外側に向かう力を継続的にかけることができるものと考えられる。1Torrは、SI単位で約133.322Paである。
【0020】
本実施の形態のベーク時間は、温度条件、圧力条件により、概ね決定することができる。また、他の部品の洗浄時のベーク時間などの経験や、ベーク炉への入炉・出炉が、同じ時刻にできるという管理の容易性等により、ベーク時間を決定することができる。好ましいベーク時間は、約24Hであるが、これに限定されない。
【0021】
[実施例1]
図3を参照して、Oリングと真空オーブン装置について説明する。
パーフルオロエラストマー製のOリングとして、ケムラッツ(登録商標)を使用した。使用前の断面形状がほぼ真円のOリングを、約1年使用し、交換時期のOリングを用いた。このOリングの使用後の断面形状は、Oリングをカッターで切断した断面の形状を楕円と仮定し、切断面をファイバースコープで観察するとともに、長軸と短軸とを、それぞれ、ファイバースコープ内蔵の測長ツールで計測したところ、圧力方向に扁平した形状であった。つまり、使用後のOリングは、断面形状が圧力方向に扁平した形状を有するドーナッツ状のリングであった。また、真空オーブン装置は、市販されているものを使用した。
真空オーブン装置の温度条件と圧力条件を、100℃、1Torrに設定し、ベーク炉にOリングを入炉し、24Hベークした。
続いて、Oリングを取り出して、Oリングの断面形状を、上記の方法で同様にして評価し、真空オーブンベーク処理前と、処理後とで、Oリングの断面の形状の長軸、短軸のデータを収集し比較した。このOリングの断面形状は、ほぼ真円であり、使用前の断面形状とほぼ同じになった。
このことから、Oリングの使用後の圧力方向に扁平した断面形状を、使用前の断面形状であるほぼ真円に回復させることができた。
さらに、この使用前の断面形状に回復させたOリングを、たとえばプラズマCVD装置に用いたところ、問題なく装置を使用することができた。また、回復させたOリングは、使用前のOリングと同程度の期間使用できることが分かった。
【0022】
[実施例2]
実施例2では、真空オーブン装置の温度条件と圧力条件を、40℃、76Torrに変更し、その他は実施例1と同様に実施した。
これにより、Oリングの断面形状を、扁平形状からほぼ真円に回復させることができた。
【0023】
[実施例3]
実施例3では、真空オーブン装置の温度条件と圧力条件を、100℃、76Torrに変更し、その他は実施例1と同様に実施した。
これにより、Oリングの使用後の圧力方向に扁平した断面形状を、使用前の断面形状であるほぼ真円に回復させることができた。
【0024】
[実施例4]
実施例4では、真空オーブン装置の温度条件と圧力条件を、40℃、0.001Torrに変更し、その他は実施例1と同様に実施した。
これにより、Oリングの使用後の圧力方向に扁平した断面形状を、使用前の断面形状であるほぼ真円に回復させることができた。
【0025】
[実施例5]
実施例5では、真空オーブン装置の温度条件と圧力条件を、100℃、0.001Torrに変更し、その他は実施例1と同様に実施した。
これにより、Oリングの使用後の圧力方向に扁平した断面形状を、使用前の断面形状であるほぼ真円に回復させることができた。
【0026】
[実施例6]
実施例6では、パーフルオロエラストマー製のOリングとして、カルレッツ(登録商標)を使用し、その他は実施例1と同様に実施した。
これにより、Oリングの使用後の圧力方向に扁平した断面形状を、使用前の断面形状であるほぼ真円に回復させることができた。
[比較例1]
比較例1では、パーフルオロエラストマー製のOリングではなく、フッ素系ゴムのバイトン(登録商標)を使用し、その他は実施例1と同様に実施した。
しかし、これにより、Oリングの使用後の圧力方向に扁平した断面形状を、使用前の断面形状であるほぼ真円に回復させることができなかった。
Oリングの断面形状を回復できなかった理由としては、バイトン(登録商標)の素材であるフッ素系ゴムは、主鎖部の一部に、炭素―水素結合が存在していることが考えられる(図4)。そのため、パーフルオロエラストマー製のOリングとは、温度条件、圧力条件などの回復条件が異なる可能性が考えられる。
【0027】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】Oリングの上面図である。
【図2】Oリングの断面図である。
【図3】本実施の形態のOリングの形状回復におけるベーク工程を示す図である。
【図4】パーフルオロエラストマーとフッ素系ゴムの化学構造式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が使用前の断面形状から変形した使用後のパーフルオロエラストマー製のOリングを、
25℃以上、400℃以下の範囲の温度と、大気圧より低圧の圧力下で、熱処理することで、前記Oリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。
【請求項2】
前記大気圧より低圧の圧力が、0.001Torr以上である請求項1に記載のOリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。
【請求項3】
前記大気圧より低圧の圧力が、76Torr以下である請求項1または2に記載のOリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。
【請求項4】
前記温度が、40℃以上である請求項1から3のいずれかに記載のOリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。
【請求項5】
前記温度が、100℃以下である請求項1から4のいずれかに記載のOリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。
【請求項6】
使用後の前記断面形状が、扁平形状である請求項1から5のいずれかに記載のOリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。
【請求項7】
前記使用前の断面形状が、ほぼ真円である請求項1から6のいずれかに記載のOリングの断面形状を前記使用前の断面形状に回復させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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