説明

樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体

【課題】
本発明は、簡便かつ材料依存性、環境依存性が低く、高信頼性を有する樹脂の接合方法、及びその接着複合体を提供する。
【解決手段】
固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接着により材料間を共有結合で結ぶことを特徴とする樹脂複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ高信頼性を有する樹脂の接合方法、及びその接着複合体に関する。具体的には、自動車及び関連産業、情報家電及び関連産業、機械産業、メカトロ機械産業、光学機器産業、建築産業など広大な産業分野で使用される接合連結基盤技術と製品群が関係する。特に自動車軽量化のための外装、電気自動車用バッテリー、精密電子機器の筐体などがあげられる。
【背景技術】
【0002】
従来の接合技術は、釘、ねじ等を利用したアンカー効果(投錨効果)による接合、あるいは、20世紀に入ってから流動する接着剤を利用した分子間力による接合が主なものであった。該接着剤使用に代表される物理接着の場合は、基板の表面粗さが大きい程アンカー効果により接着性が向上することが知られている。しかし、アンカー効果、分子間力を利用した接合は、材料依存性、環境(温度、湿度等)依存性が高く、21世紀の物造産業の要求に答えられなくなってきている。
【0003】
このような問題点を解決すべく種々の接着方法が検討されており、その改善策の一つとして、軽金属表面を化学薬品により粗化することで微細な穴を作製し、溶融させた樹脂を穴内に流し、アンカー効果にて接着複合体を形成している例がある。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、これらの技術は、軽金属、特にアルミニウムのみに限定され、また樹脂についても特定の樹脂に限定されており、材料依存性の点で課題がある。また、接着現象はアンカー効果であるため、高温領域では、その接着性を保つことが非常に難しい。更に表面を処理する薬剤が環境負荷物質であるなど諸問題を抱えている。
【0005】
更に、別の改善策として、物理接着方法から化学的接着方法への転換が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、金属等の固体と樹脂の溶融接着に関する記述はなく、その実証がなされていない。従って、前述のような従来技術の問題点を解決した溶融接着方法は、いまだに知られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−103563号公報
【特許文献2】特開2006−213677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、アンカー効果を主な原理としている接着方法は、材料依存性、環境依存性、更に環境負荷と解決を望まれる課題が多く存在する。一方、化学結合による接着方法では、金属等の固体と樹脂の溶融接着に関する実証がなされていない。本発明は、材料依存性をなくし、全ての金属、セラミックス、樹脂と樹脂複合体製造方法を構築することを目的とし、更にその接着現象を化学結合にすることで、環境依存性のない樹脂複合体を製造することで、このような課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記問題点に対して、本発明者らは種々検討を重ねた結果、固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接触により材料間を共有結合で結ぶことで、材料依存性、環境依存性が低く、環境負荷物質を使用せず、上記問題点を解決する複合体の製造方法及び接着複合体が得られることを見出した。このように、本発明の溶融接着方法は、従来の物理接着又は化学接着の概念から大きく一歩を踏み出した画期的発明と言えるものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
項1.固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接着により材料間を共有結合で結ぶことを特徴とする樹脂複合体の製造方法。
【0009】
項2.溶融接着が200〜330℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合体の製造方法。
【0010】
項3.分子接着剤が下記一般式(1)
−R−SiX13-n1 ・・・・・・・・(1)
(式中、R は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄の少なくとも1種類を含む反応性官能基。Rは、炭素数1〜20 の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、これらの置換基には、更に異種原子もしくは官能基が介在してもよい。また、X1 は、炭素数 1〜20 の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を、Y1 は、炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n は、1、2または3の自然数を夫々表す。)
で示される化合物1種類以上からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【0011】
項4.分子接着剤が下記一般式(2)
【0012】
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、これらの置換基には、更に−NH−、−CO−、−O−、−S−、−COO−等を含んでいてもよい。Rは水素原子、更に置換基を有していても良い炭素数1〜10の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、また、Xは、炭素数1〜20 の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を、Y は、炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n は1、2又は3の自然数を夫々表す。MはH、Li、Na、K又はCsである)
で示される化合物1種類以上からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【0013】
項5.分子接着剤が式(3)
【0014】
【化2】

(式中、R5、6は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、これらの置換基には、更に−NH−、−CO−、−O−、−S−、−COO−等を含んでいてもよい。また、Xは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜10の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Yは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n、mは1,2または3の自然数を夫々表し、MはH、Li、Na、K又はCsである)
で示される化合物1種類以上からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【0015】
項6.固体表面が、金属基板、セラミックス基板、樹脂基板からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【0016】
項7.前記金属基板が、銅、ステンレス、アルミニウム及び/又はこれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂複合体の製造方法。
【0017】
項8.前記金属基板が、予めアルカリ水溶液、塩基性薬品からなる群から選択される少なくとも一種の薬品により処理されていることを特徴とする請求項6乃至請求項7の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【0018】
項9.樹脂が、熱可塑性樹脂あることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【0019】
項10.熱可塑性樹脂が、ABS、PA、PPS、PBTの群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の樹脂複合体の製造方法。
【0020】
項11.請求項1乃至10の何れかに記載の製造方法で製造された樹脂複合体。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、分子接着剤を用いて樹脂との溶融接着法を採用することで、樹脂の複合体製造時に課題となる、基材及び樹脂材料の種類が限定的である、表面を粗化する必要ある、環境負荷物質を利用する、高温での信頼性が低い等の、従来技術の問題点を一挙に解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接着により材料間を共有結合で結ぶことを特徴とする樹脂複合体の製造方法に関する。
【0023】
1.固体表面
本発明にいう固体表面とは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、金属基板、セラミックス基板、樹脂基板からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ここで、金属基板としては、例えばAl、Mg、Zn、Cu、Sn、Ag、Ni、Si、Au、Fe、Pt、Mo、Wとこれらの合金などの板、箔及びその積層板、曲面形状体、球体、これらの積層体などの形状のものを挙げることができる。また、これらの金属基板のうち、Cu、Ag、Ni、Au、Ni/Fe、Co、Fe、Pt、真鍮を、めっきにより形成することもできる。中でも銅、ステンレス、アルミニウム及び/又はこれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも一種から成る金属基板が本発明に特に好ましく用いられる。
【0024】
また、セラミックス基板としては、Al、Mg、Zn、Cu、Sn、Ag、Ni、Siの酸化物などを挙げることができる。具体的には、例えばアルミナ、チタン酸バリウム、ジルコニア、フェライト、炭化珪素、窒化珪素、酸化亜鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、窒化ホウ素、ガラス、ヒドロキシアパタイトが挙げられる。これらセラミックス基板は、箔、板、曲面形状体、球体、これらの積層体などの形状のものを挙げることができる。
【0025】
更に、樹脂基板としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、i−ポリプロピレン、石油樹脂、ポリスチレン、s−ポリスチレン、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリルニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、ポリシアノアクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・エチレン共重合体、
【0026】
フッ化ビニリデン・プロピレン共重合体、1,4−トランスポリブタジエン、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・フォルマリン樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グリプタル樹脂、変性グリプタル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、不飽和ポリエステル樹脂、アリルエステル樹脂、ポリカーボネート、6−ナイロン、6,6−ナイロン又は6,10−ナイロンなどのポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリアミドイミド、ケイ素樹脂、シリコンゴム、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイドとトリアリルイソシアヌルブレンド物、(ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイド、トリアリルイソシアヌル、パーオキサイド)ブレンド物、ポリキシレン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PPI、カプトン)、液晶樹脂とこれら複数材料のブレンド物などの高分子材料と架橋物などのフイルム、板、曲面形状体などの形状のものを挙げることができる。
【0027】
これらの樹脂および樹脂配合物の熱による変形を防ぎ、形状を保持するためや補強するためには、金属粉、金属繊維、セラミックス、セラミックス繊維、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、湿式及び乾式シリカなどの充填剤やレーヨン、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、スチール、ケブラー繊維(デュポン社の登録商標)、炭素繊維、ガラス繊維などの繊維や布を入れたり、過酸化物などの架橋剤や多官能性モノマーを加えて三次元化して使用することができる。これら樹脂基板は、箔、板、曲面形状体、球体、これらの積層体などの形状のものを挙げることができる。
【0028】
本発明の固体表面に好ましく用いられる基板材料としては、複合体の使用目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス(SUS)、鉄、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、ガラス、マグネシウム、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン類、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。なお、基板の厚さや大きさは、使用目的に合わせて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0029】
2.樹脂
本発明で用いる固体表面(基板)に溶融接着により複合化する樹脂は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチック又は汎用プラスチック等が挙げられる。
【0030】
具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びそのけん化物、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12、MXDナイロン等のポリアミド(PA)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリアクリル酸などのアクリル系樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンやポリフロロエチレン等の含ハロゲンポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等の熱可塑性エラストマーとその水素添加物、液晶ポリマー、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリオキシメチレン(POM)等のポリアセタール類、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フラン−ホルムアルデヒド樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、シリコーン樹脂、油性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は単独でも2種以上の組合せでも使用される。
【0031】
これらの中でも、熱可塑性のABS、PA、PPS、PBT或いはアクリル系樹脂、熱硬化性のエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂或いはポリイミド樹脂類が特に好適である。
【0032】
3.分子接着剤
本発明において「分子接着剤」とは、一般式(1)
−R−SiX13-n1 ・・・・・・・・(1)
(式中、R は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄の少なくとも1種類を含む反応性官能基。Rは、炭素数1〜20 の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、これらの置換基には、更に異種原子もしくは官能基が介在してもよい。また、X1 は、炭素数 1〜20 の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を、Y1 は、炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n は、1、2または3の自然数を夫々表す。)
で示される化合物を示す。
【0033】
ここで、分子接着剤とは、上記一般式(1)の構造から明らかなように、OH基を有する基板表面と化学結合可能な基(アルコキシシリル基、一般式(1)中のY1)及び樹脂と反応が可能な基(反応性基、一般式(1)中のR)の両方を含むものであり、該分子接着剤を基板表面に化学的に結合させることで、樹脂と優れた反応性を有する反応性固体表面を提供する。更に、樹脂との反応により本発明である樹脂複合体を製造できるものである。
【0034】
一般式(1)で示される分子接着剤の具体例としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(3−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン等のアミン系材料、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系材料、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系材料、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
更に、下記のような構造を有する一般式(2)又は(3)で示される分子接着剤も挙げることができる。
一般式(2)
【0036】
【化3】

【0037】
(式中、Rは、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、これらの置換基には、更に−NH−、−CO−、−O−、−S−、−COO−等を含んでいてもよい。Rは水素原子、更に置換基を有していても良い炭素数1〜10の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、また、Xは、炭素数1〜20 の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を、Y は、炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n は1、2又は3の自然数を夫々表す。MはH、Li、Na、K又はCsである)
一般式(3)
【0038】
【化4】


(式中、R5、6は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、これらの置換基には、更に−NH−、−CO−、−O−、−S−、−COO−等を含んでいてもよい。また、Xは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜10の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Yは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n、mは1,2または3の自然数を夫々表し、MはH、Li、Na、K又はCsである)
【0039】
ここで、R、Rは、炭素数1〜20(好ましくは1〜12、より好ましくは2〜8)である飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、具体的には、例えば、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCHCHCHCH−、−CHCHSCHCH−、−CHCHCHSCHCHCH−、−CHCHNHCHCHCH−、−(CHCHNCHCHCH−、−C−、−C−、−CHCH−、−CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−、−CHCHOCONHCHCHCH−、−CHCHNHCONHCHCHCH−、−(CHCHCHOCONHCHCHCH−等を挙げることができる。
【0040】
また、Rは、水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜20(好ましくは2〜8)の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基であり、具体的には、例えば、CH−、C−、n−C−、CH=CHCH−、n−C−、C−、C11−等を挙げることができる。
【0041】
〜Xは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜10(好ましくは1〜6)の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、具体的には、例えば、H−、CH−、C−、n−C−、i−C−、n−C−、i−C−、t−C−等を挙げることができる。
【0042】
〜Yは、炭素数1〜10(好ましくは1〜6)のアルキルオキシ基であり、例えば、CHO−、CO−、n−CO−、i−CO−、n−CO−、i−CO−、t−CO−等を挙げることができる。n、mは1〜3の整数であり、M〜M2は、H、Li、Na、K又はCsである。
【0043】
一般式(2)又は一般式(3)で示される化合物の具体例としては、6−(3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(TES)、6−(3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−(3−(モノメチルジエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(DES)、6−(3−(ジメチルモノエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(MES)、6−ジ−(3−トリエトキシシリルプロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(BTES)、6−N−シクロヘキシル−N−(3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム、6−N−ベンジル−N−(3−(モノメチルジエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム等を挙げることができる。上記一般式(1)〜(3)で示される分子接着剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
分子接着剤層の厚さは、特に限定されないが、1×10−3〜1×10μmであることが好ましく、1×10−3〜1×10−2μmであることがより好ましい。分子接着剤層の厚さが1×10μmをこえると接着性が低下する傾向がある。
【0045】
本発明で用いる分子接着剤、すなわち、上記一般式(1)で示される分子接着剤、特には、一般式(2)〜(3)で示される分子接着剤は、アルコキシシリル基により基板表面のOH基と化学結合することができる。また、各種官能基を有することにより樹脂と反応することができる。従って、基板と樹脂の異種材料間での接着を化学結合により可能にするものであり、材料依存性、環境依存性、環境負荷材料の使用等の課題を一挙に解決することができる。
【0046】
4. 樹脂複合体の製造方法
本発明の樹脂複合体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、固体表面(基板)を分子接着剤により処理し、樹脂と溶融接着させる方法であればいかなる方法も採用することができる。
例えば、基板上を分子接着剤で処理し、反応性固体表面基板を形成し、該反応性固体表面基板と樹脂を加熱、加圧により反応させる方法を採用することができる。ここで重要な事は、反応性固体表面基板と樹脂が接触することであり、その為には前記のとおり、加熱、加圧による溶融接着が好ましく、変形により表面の粗さを緩和することが特に好ましい。
【0047】
以下に、これらの方法について更に具体的詳細に説明する。
4−1 基板の前処理方法
本発明において、固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成するに当り、例えば基板の表面に存在するOH基と分子接着剤とを反応させることにより形成させることができる。
【0048】
OH基が表面にない基板を用いる場合は、前処理によりOH基を導入しておくことが好ましい。また、OH基を有する基板であっても、分子接着剤との反応性を向上させるために前処理を行ってもよい。前処理方法としては、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、UV照射処理等を挙げることができる。
【0049】
これらの処理方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、コロナ放電処理であれば、「コロナ処理」、日本接着学会誌、Vol.36,No.3,126(2000)に記載された方法、大気圧プラズマ処理であれば、「プラズマ処理」、日本接着学会誌、Vol.41,No.1,4(2005)に記載された方法を好適に用いることができる。これらの処理によって固体表面に、多くの−OH基、−COOH基、−C=O基等が生成するか、又は表面に現れる(L.J.Gerenser:J.Adhesion Sci. Technol.7,1019(1997)参照)。
【0050】
一般に固体表面は大気中の汚れ成分を吸収して汚染しているが、上記のような前処理を行うことによって、洗浄と同時に−OH基を表面に発生させることも可能である。
【0051】
コロナ放電処理は、コロナ表面改質装置(例えば、信光電気計装(株)製のコロナマスター)を用いて、電源:AC100V、出力電圧:0〜20kV、発振周波数:0〜40kHzで0.1〜60秒、温度0〜60℃の条件で行うことができる。
【0052】
大気圧プラズマ処理は大気圧プラズマ発生装置(例えば、松下電工(株)製のAiplasuma)を用いて、プラズマ処理速度10〜100mm/s、電源:200又は220V AC(30A)、圧縮エア:0.5MPa(1NL/min)、10kHz/300W〜5GHz、電力:100W〜400W、照射時間:0.1〜60秒の条件で行うことができる。
【0053】
UV照射は、UV−LED照射装置(例えば、(株)オムロン製のUV−LED照射装置ZUV−C30H)を用いて、波長:200〜400nm、電源:100V AC、光源ピーク照度:400〜3000mW/cm、照射時間:1〜60秒の条件で行うことができる。
【0054】
高分子材料については、前記処理にて分子接着剤との反応に十分なOH基が得られない場合もあり、OH基を増幅させる方法として、OH基含有高分子材料、OH基含有感光性
材料を使用することもできる。
【0055】
また、予めアルカリ脱脂液等による洗浄や金属表面の虚弱酸化膜を除去、又は/及び微細な凹凸を作成する目的で塩基性薬品を使用していてもよい。
【0056】
4−2 反応性固体表面基板の形成方法
固体表面に分子接着剤を反応させる方法としては、特に限定されるものはなく、公知の方法を用いることができる。例えば、浸漬、塗布、噴霧等を挙げることができるが、均一に前記溶液と接触することができる点から、浸漬による方法が好ましい。浸漬方法は、分子接着剤溶液に基板を浸漬し、加熱、乾燥することにより行うことができる。
【0057】
分子接着剤溶液の濃度としては、特に限定されるものではなく適宜選択することができるが、例えば、5×10−3〜5重量%であることが好ましく、0.01〜1重量%であることがより好ましい。濃度を前記範囲内にすることで、接着強度が高くなるため好ましい。
また、溶媒としては特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、塩化メチレンなどのハロゲン化物、ブタン、ヘキサンなどのオレフィン類、テトラヒドロフラン、ブチルエーテルなどのエーテル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類、ジメチルホルムアミド、メチルピロリドンなどのアミド類、水など、又はこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0058】
浸漬処理条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、0〜100℃の溶液の温度で、1秒〜60分間の浸漬することが好ましい。浸漬条件は溶液の温度、時間及び濃度によって支配されるので、一義的に決められないが、一定濃度では、温度が低い場合は時間が長く、また温度が高い場合は時間が短くなる傾向がある。
【0059】
また、加熱条件としては、20〜250℃で1秒〜120分間行うことが好ましく、50〜200℃で1〜60分間がより好ましく、さらには80〜180℃で1〜30分間が好ましい。加熱条件がこの範囲にあることで、生産性が高く経済的にも好ましい。加熱方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができるが、例えば、オーブン、ドライヤー、高周波加熱等を用いる方法を挙げることができる。
【0060】
なお、分子接着剤溶液と固体表面(基板)の反応が不充分な場合には、上記の接触と加熱を1〜10回程度繰り返すこともできる。すなわち、1回の接触及び加熱時間を短縮し、反応回数を増やす方が有効である場合もある。また、基板の一部に分子接着剤を処理することも、適宜樹脂複合体の用途に応じて行うことができる。一部に分子接着剤を処理する方法としては特に限定されないが、マスキングにより基板の一部を保護したり、マスクを利用した露光による分子接着剤の分解等が挙げられる。
【0061】
4−3 樹脂複合体の製造方法
固体表面(基板)上に形成した反応性固体表面の全面又は一部に、樹脂を接触させ、加圧下、加熱により溶融接着して形成することができる。樹脂との反応性を向上させる目的で、例えば分子接着剤に含まれる官能基の反応性を高めるために過酸化物、ビスマレイミド類化合物、アルカリ金属等の架橋助剤を使用することもできる。ここで、過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等があげられる。ビスマレイミド類化合物としては、m−フェニルビスマレイミド等、分子接着剤と反応した後も樹脂との反応性官能基が残存している化合物があげられる。
【0062】
本発明において、樹脂は所望の形状(例えばシート状)に予め成形しておいてよい。減圧条件下での加圧、又は加圧条件としては、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。しかし、大気圧に限りなく近い条件では基板への密着性が悪く、また極端に圧力の高い条件では基板の破壊を生じたり、樹脂が薄膜化し、充分な機能を有さない傾向がある。
【0063】
加圧方法としては、油圧式プレス機、真空プレス機、重りをあげることができる。加熱により樹脂が溶融又は/及び変形、更に界面の反応を促進させ、接着させる場合は、樹脂の物性に依存するため決めることはできないが、通常60〜350℃、好ましくは200〜330℃、更に好ましくは230〜300℃で、1〜3600秒間、好ましくは10〜600秒間加熱して接着物を得ることが好ましい。加熱方法としては、オーブン、ドライヤー、高周波加熱等を挙げることができる。
【0064】
以上詳述したとおり、本発明の方法に従って、固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接着により材料間を共有結合で結ぶことにより、材料依存性の少なく、優れた接着性と高い信頼性を有する樹脂複合体を提供できるものである。
【0065】
本発明の製造方法によって得られる樹脂複合体は、電子実装部品、精密機械部品、建築構造体、回路配線基板、装飾めっき製品、接着複合体製品に好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜3
(OH基化処理基板の製造)
基板として、アルミニウム板(Al、1×30×70mm、(株)ニラコ製)、SUS304基板(1×30×70mm、(株)ニラコ製)、黄銅基板(0.2×30×50mm、(株)ニラコ製)を用い、信光電気計装(株)製コロナ放電装置を用いて、13kWの出力、2m/minの速度で3往復コロナ放電処理を行い、OH基化処理基板を作製した。
【0067】
(反応性固体表面基板の製造)
得られた基板を6−(3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(TES)の95%水/エタノール溶液(0.2wt%)に5分間浸漬後150℃、10分間オーブン中加熱をし、エタノール洗浄・ドライヤー乾燥をすると分子接着剤(TES)が結合した反応性固体表面基板を得た。
【0068】
(反応性固体表面基板とABS樹脂の接着物の製造)
同様の処理により得られた基板2枚の分子接着剤処理面にてABS樹脂板(1×20×25mm、東レ製、トヨラック100G30)を挟み込み、0.2MPaの圧力下で溶融接着温度を250℃、1分間加熱したところ、各種基板とABS樹脂のせん断試験用接着複合体が得られた。
【0069】
実施例4〜6
樹脂として、ABS樹脂に代えて、ナイロン66(PA66、1×20×25mm、東レ製、アミランCM3001)を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体を得た。
【0070】
実施例7〜9
樹脂として、ABS樹脂に代えて、ポリフェニレンサルファイド(PPS、1×20×25mm、DIC製、FZ−1130)を用い、溶融接着温度を270℃にした以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体を得た。
【0071】
実施例10〜12
樹脂として、ABS樹脂に代えて、ポリブチレンテレフタレート(PBT、1×20×25mm、ポリプラスチック製、ジュラネックス3300)を用い、溶融接着温度を270℃にした以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体を得た。
【0072】
比較例1〜12
TES処理を行わない以外は、実施例1〜12と同様に行って樹脂複合体を得た。
【0073】
<TES結合確認>
基板とTESの結合確認は、基板上に分子接着剤TES処理後、X線光電子分光XPS(アルバックファイ社製、パーキンエルマPHI5600ESCAシステム)により全ての元素を測定することにより行った。
【0074】
その結果、アルミニウム基板にコロナ放電後、TES処理をすると、XPS測定の結果から、TES由来の硫黄原子に基づくS2pピークの存在が観察され、基板とTESが結合していることが明らかになった(図1参照)。比較実験として、TES処理を行わなかった基板においては、硫黄原子はまったく検出されなかった。同様にして、SUS304基板、黄銅基板についても測定を行い、TES処理基板からのみ、S2pピークが検出された。
【0075】
<強度測定方法>
1)樹脂複合体の接着性
樹脂複合体を引張試験機((株)島津製作所製オートグラフP−100)により、50mm/minの速度で引張、せん断強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0076】


【表1】

【0077】
表1の結果から明らかなように、分子接着材TESが結合した反応性固体表面基板に樹脂を複合化すると、いずれも樹脂層の破断が観察され、高いせん断強度で樹脂が基板に接着していることが明らかになった。一方、未処理の比較例では測定前に剥がれてしまい測定不能であった。
【0078】
実施例13〜15
(樹脂複合体せん断試験時の温度雰囲気の影響)
実施例4、5、8で作製した樹脂複合体せん断サンプルを用いて各温度にて恒温槽付き引張試験機((株)島津製作所製オートグラフAGS−10KNB)により、50mm/minの速度で引張せん断強度を測定した。
【0079】
比較例13〜15
比較例4、5、8で作製した樹脂複合体せん断サンプルを用いて各温度にて恒温槽付き引張試験機((株)島津製作所製オートグラフAGS−10KNB)により、50mm/minの速度で引張せん断強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2の結果から明らかなように、分子接着材TESが結合した反応性固体表面基板に樹脂を複合化すると、せん断試験温度雰囲気を200℃まで上昇しても十分なせん断強度を保っていることがわかる。化学結合でなければ考えられない結果であり、本発明の高い信頼性を示している。一方、未処理の比較例では測定前に剥がれてしまい測定不能であった。
【0082】
実施例16
(ヒートサイクル試験の影響)
実施例5で作製したPA66/SUS304樹脂複合体せん断サンプルを、ヒートサイクル試験機(楠本化成(株)社製、品番NT2010)にて−30℃×1時間保持、その後105℃まで温度を上昇し更に1時間保持する条件を1サイクルとして10サイクルのヒートサイクル試験を行った。その後、サンプルを恒温槽付き引張試験機((株)島津製作所製オートグラフAGS−10KNB)により、50mm/minの速度で各温度雰囲気下、引張せん断強度を測定した。
【0083】
比較例16
実施例14での結果を比較例として用いた。
その結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
表3の結果から明らかなように、分子接着材TESが結合した反応性固体表面基板に樹脂を複合化すると、ヒートサイクル試験後でもほとんど影響がないことがわかる。更に、せん断試験温度雰囲気を上昇させても十分なせん断強度を保っていることも明らかになった。重ねて本発明の高い信頼性が示された。
【0086】
実施例17
(機密性評価試験用樹脂複合体の作製)
基板として直径3mmの丸棒(SUS304)を信光電気計装(株)製コロナ放電装置にて10秒間コロナ放電処理を行い、OH基化処理基板を作製した。
【0087】
得られた基板を6−(3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム(TES)の95%水/エタノール溶液(0.2wt%)に5分間浸漬後150℃、10分間オーブン中加熱をし、エタノール洗浄・ドライヤー乾燥をすると分子接着剤(TES)が結合した反応性固体表面基板を得た。
PA66で作成された樹脂片にSUS304丸棒を挿入し、加熱溶融接着をして、気密性評価試験用樹脂複合体を得た。
【0088】
(機密性評価試験)
得られた接着複合体を図2に示すような機密性評価試験装置にエアーカプラを用いて設置し、水槽に浸漬された。エアーコンプレッサで作られた圧縮空気をエアーレギュレータと圧力計により調整しながら、複合体の接着部に圧力をかけていく。
【0089】
複合部から空気が漏れる場合、気泡として肉眼で確認できる。気泡を確認した時点の空気圧力数値により、複合体の接着による密着性を評価した。
実施例17において、TES処理を行わないことを除いては同様に複合体を作成し、密着性の評価を行った。
【0090】
比較例17
実施例17において、TES処理を行わないことを除いては同様に処理し、樹脂複合体を作製した。
その結果を表4に示す。
【0091】
【表4】



【0092】
表4の結果から明らかなように、分子接着剤が結合した反応性固体表面基板に樹脂を複合化すると、接着強度のみならず化学結合による接着であるため高い機密性を有することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、自動車及び関連産業、情報家電及び関連産業、機械産業、メカトロ機械産業、光学機器産業、建築産業などの産業分野で有効である。特に自動車軽量化のための外装、電気自動車用バッテリー、精密電子機器の筐体などが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】固体表面のXPS測定のチャートを示す。
【図2】機密性評価試験装置の略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接着により材料間を共有結合で結ぶことを特徴とする樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
溶融接着が200〜330℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
分子接着剤が下記一般式(1)
−R−SiX13-n1 ・・・・・・・・(1)
(式中、R は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄の少なくとも1種類を含む反応性官能基。Rは、炭素数1〜20 の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を示し、これらの置換基には、更に異種原子もしくは官能基が介在してもよい。また、X1 は、炭素数 1〜20 の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を、Y1 は、炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n は、1、2または3の自然数を夫々表す。)
で示される化合物1種類以上からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
分子接着剤が下記一般式(2)
【化1】


(式中、Rは、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、これらの置換基には、更に−NH−、−CO−、−O−、−S−、−COO−等を含んでいてもよい。Rは水素原子、更に置換基を有していても良い炭素数1〜10の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、また、Xは、炭素数1〜20 の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン原子又は水素原子を、Y は、炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n は1、2又は3の自然数を夫々表す。MはH、Li、Na、K又はCsである)
で示される化合物1種類以上からなることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
分子接着剤が式(3)
【化2】


(式中、R5、6は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、これらの置換基には、更に−NH−、−CO−、−O−、−S−、−COO−等を含んでいてもよい。また、Xは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜10の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Yは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく炭素数1〜10のアルキルオキシ基であり、n、mは1,2または3の自然数を夫々表し、MはH、Li、Na、K又はCsである)
で示される化合物1種類以上からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
固体表面が、金属基板、セラミックス基板、樹脂基板からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
前記金属基板が、銅、ステンレス、アルミニウム及び/又はこれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項8】
前記金属基板が、予めアルカリ水溶液、塩基性薬品からなる群から選択される少なくとも一種の薬品により処理されていることを特徴とする請求項6乃至請求項7の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項9】
樹脂が、熱可塑性樹脂あることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項10】
熱可塑性樹脂が、ABS、PA、PPS、PBTの群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の樹脂複合体の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載の製造方法で製造された樹脂複合体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254793(P2010−254793A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106122(P2009−106122)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(308012509)株式会社いおう化学研究所 (5)
【出願人】(301053383)株式会社ニュートン (6)
【出願人】(508173831)株式会社東亜エレクトロニクス (2)
【Fターム(参考)】