説明

樹脂複合材料

【課題】微細化された黒鉛粒子がオレフィン系樹脂中に分散した新規な樹脂複合材料を提供すること。
【解決手段】板状黒鉛粒子と、該板状黒鉛粒子に吸着した、下記式(1):
−(CH−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基またはピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体と、該芳香族ビニル共重合体に結合した、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖からなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素鎖とを備える微細化黒鉛粒子、ならびにオレフィン系樹脂を含有することを特徴とする樹脂複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒子とオレフィン系樹脂とを含有する樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂は、価格と機械特性とのバランスに優れており、最も広範に使用される樹脂の1つである。このようなオレフィン系樹脂には、従来から、様々な特性を付与するために、様々な充填剤が添加されており、黒鉛粒子もその1つである。例えば、特開昭59−96142号公報(特許文献1)には、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂にカーボンブラックや黒鉛などの導電性フィラーを配合して熱可塑性樹脂に導電性を付与し、電磁波シールド性を向上させることが開示されている。しかしながら、黒鉛粒子は、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂との親和性が低いため、オレフィン系樹脂中で凝集しやすく、均一に分散させることが困難であり、黒鉛粒子の電気伝導性や機械特性がオレフィン系樹脂に十分に付与されているとは言えなかった。
【0003】
また、特開2003−268245号公報(特許文献2)には、層状炭素に水素化処理やアルキル化処理を施すことによって、層状炭素を樹脂中に均一に微分散できることが開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の方法に従って、アルキル亜鉛化合物を用いて黒鉛粒子にアルキル化処理を施しても、黒鉛粒子の表面はアルキル化されず、さらに、黒鉛粒子表面の共役構造が破壊され、電気伝導性が低下するという問題があった。また、アルキル亜鉛化合物などの有機金属化合物は不安定で取扱いが困難であり、工業的な生産には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−96142号公報
【特許文献2】特開2003−268245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、微細化された黒鉛粒子がオレフィン系樹脂中に分散した新規な樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、板状黒鉛粒子と、この板状黒鉛粒子に吸着した芳香族ビニル共重合体とを備える微細化黒鉛粒子中の前記芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖を導入することによって、前記板状黒鉛粒子をオレフィン系樹脂中に容易に分散させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の樹脂複合材料は、板状黒鉛粒子と、該板状黒鉛粒子に吸着した、下記式(1):
−(CH−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基またはピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体と、該芳香族ビニル共重合体に結合した、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖からなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素鎖とを備える微細化黒鉛粒子、ならびにオレフィン系樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0008】
このような樹脂複合材料において、前記微細化黒鉛粒子は前記オレフィン系樹脂中に分散した状態で存在していることが好ましい。前記芳香族ビニル共重合体としては官能基を有するものが好ましく、また、前記炭化水素鎖としては、前記官能基と反応する部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンから選択される少なくとも1種が前記官能基と結合することにより形成されたものが好ましい。
【0009】
本発明にかかる芳香族ビニル共重合体としては、前記ビニル芳香族モノマー単位と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルイミダゾール類およびビニルピリジン類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーから誘導される他のモノマー単位とを備えるものが好ましい。また、前記官能基としてはアミノ基が好ましく、前記官能基と反応する部位としては塩素原子、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0010】
なお、本発明にかかる微細化黒鉛粒子がオレフィン系樹脂中に容易に分散させることが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、通常の黒鉛粒子は、凝集しやすく、また、その表面が化学的に不活性であるため、極性の低いオレフィン系樹脂中に分散させることは困難であった。一方、本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、微細化された板状の黒鉛粒子の表面に前記芳香族ビニル共重合体が吸着しているため、板状黒鉛粒子間の凝集力が低下するとともに、前記芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖が導入されているため、微細化黒鉛粒子の表面がアルキル化される。その結果、本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、オレフィン系樹脂に対する親和性が向上し、オレフィン樹脂中において、凝集することなく、容易に分散させることが可能となると推察される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細化された黒鉛粒子がオレフィン系樹脂中に分散した新規な樹脂複合材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例4で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図5】実施例5で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図6A】実施例6で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図6B】実施例6で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図7】実施例6で作製したHDPE樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図8】比較例1で作製したPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真である。
【図9】PP樹脂複合材料中の微細化黒鉛粒子または黒鉛粒子の含有量とPP樹脂複合材料混練時のトルクとの関係を示すグラフである。
【図10】(a)は実施例7で作製したPP樹脂複合材料の写真であり、(b)は比較例3で作製したPP樹脂複合材料の写真である。
【図11】PP樹脂複合材料中の微細化黒鉛粒子または黒鉛粒子の含有量とPP樹脂複合材料の貯蔵弾性率との関係を示すグラフである。
【図12】PP樹脂複合材料中の微細化黒鉛粒子または黒鉛粒子の含有量とPP樹脂複合材料の損失弾性率との関係を示すグラフである。
【図13】実施例9、12および比較例5で作製したPP樹脂複合材料ならびに比較例2で作製したPP樹脂材料の貯蔵弾性率の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明の樹脂複合材料は、板状黒鉛粒子と、この板状黒鉛粒子に吸着した特定の芳香族ビニル共重合体と、この芳香族ビニル共重合体に結合した、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖とを備える微細化黒鉛粒子、およびオレフィン系樹脂を含有するものである。このような樹脂複合材料において、前記微細化黒鉛粒子は、前記オレフィン系樹脂中に分散した状態で存在していることが好ましい。これにより、黒鉛粒子が有する電気伝導性や熱伝導性といった特性が、オレフィン系樹脂に十分に付与される傾向にある。
【0014】
<微細化黒鉛粒子>
先ず、本発明にかかる微細化黒鉛粒子について説明する。本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、板状黒鉛粒子と、この板状黒鉛粒子に吸着した特定の芳香族ビニル共重合体と、この芳香族ビニル共重合体に結合した、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖とを備えるものである。
【0015】
前記微細化黒鉛粒子を構成する板状黒鉛粒子としては特に制限はなく、例えば、グラファイト構造を有する公知の黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛))をグラファイト構造が破壊されないように粉砕することによって得られるものが挙げられる。
【0016】
このような板状黒鉛粒子の厚さとしては特に制限はないが、0.3〜1000nmが好ましく、0.3〜100nmがより好ましく、1〜100nmが特に好ましい。また、板状黒鉛粒子の平面方向の大きさとしては特に制限はないが、例えば、長軸方向の長さ(長径)としては0.1〜500μmが好ましく、1〜500μmがより好ましく、短軸方向の長さ(短径)としては0.1〜500μmが好ましく、0.3〜100μmがより好ましい。
【0017】
また、本発明にかかる板状黒鉛粒子の表面には、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基が結合(より好ましくは共有結合)していることが好ましい。前記官能基は本発明にかかる芳香族ビニル共重合体との親和性を有するものであり、芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量および吸着力が増大し、微細化黒鉛粒子はオレフィン系樹脂中への分散性が高くなる傾向にある。
【0018】
このような官能基は、板状黒鉛粒子の表面近傍(好ましくは、表面から深さ10nmまでの領域)の全炭素原子の50%以下(より好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下)の炭素原子に結合していることが好ましい。官能基が結合している炭素原子の割合が前記上限を超えると、板状黒鉛粒子は、親水性が増大するため、芳香族ビニル共重合体との親和性が低下する傾向にある。また、官能基が結合している炭素原子の割合の下限としては特に制限はないが、0.01%以上が好ましい。なお、水酸基などの前記官能基はX線光電子分光法(XPS)により定量することができ、粒子表面から深さ10nmまでの領域に存在する官能基の量を測定することができる。なお、板状黒鉛粒子の厚さが10nm以下の場合には、板状黒鉛粒子の全領域に存在する官能基の量が測定される。
【0019】
本発明にかかる芳香族ビニル共重合体は、下記式(1):
−(CH−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基またはピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位と他のモノマー単位とを含有するものである。前記ビニル芳香族モノマー単位は、黒鉛粒子に対する吸着性を示すものであり、これにより、前記芳香族ビニル共重合体は、板状黒鉛粒子に吸着して板状黒鉛粒子同士の凝集力を低下させることが可能となる。
【0020】
また、本発明にかかる芳香族ビニル共重合体としては、官能基を有するものが好ましい。これにより、前記芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖を容易に導入することが可能となる。このような官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、水酸基、アミド基、イミノ基、グリシジル基などが挙げられ、中でも、アミノ基が好ましい。
【0021】
前記官能基を有する芳香族ビニル共重合体において、前記官能基は前記ビニル芳香族モノマー単位および前記他のモノマー単位のうちの少なくとも一方に存在していればよいが、板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の吸着性が損なわれないという観点から、前記他のモノマー単位が前記官能基を有するものであることが好ましく、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖を容易に導入できるという観点から、前記他のモノマー単位が前記官能基を有する他のビニルモノマー単位であることがより好ましい。
【0022】
本発明にかかる芳香族ビニル共重合体においては、前記ビニル芳香族モノマー単位の含有率が高い共重合体ほど、板状黒鉛粒子への吸着量が増大し、本発明にかかる微細化黒鉛粒子はオレフィン系樹脂中への分散性が高くなる傾向にある。ビニル芳香族モノマー単位の含有量としては、芳香族ビニル共重合体全体に対して10〜98質量%が好ましく、30〜98質量%がより好ましく、50〜95質量%が特に好ましい。ビニル芳香族モノマー単位の含有量が前記下限未満になると、芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が低下し、微細化黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にある。他方、ビニル芳香族モノマー単位の含有量が前記上限を超えると、他のモノマー単位が官能基を有するものである場合に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖が芳香族ビニル共重合体に結合しにくくなり、板状黒鉛粒子にオレフィン系樹脂との親和性が付与されず、微細化黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にある。
【0023】
本発明にかかるビニル芳香族モノマー単位としては、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアントラセンモノマー単位、ビニルピレンモノマー単位が挙げられる。また、これらのビニル芳香族モノマー単位は置換基を有していてもよい。このような置換基、すなわち、前記式(1)中のXで表される基が有していてもよい置換基としては、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、水酸基、アミド基、イミノ基、グリシジル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基)、カルボニル基、イミド基、リン酸エステル基などが挙げられ、中でも、微細化黒鉛粒子の分散性が向上するという観点からは、メトキシ基などのアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましく、前記ビニル芳香族モノマー単位に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖を結合させることが可能となるという観点からは、前記官能基が好ましい。このような置換基を有するビニル芳香族モノマー単位としては、例えば、アミノスチレンモノマー単位、ビニル安息香酸エステルモノマー単位、ヒドロキシスチレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位、アセチルスチレンモノマー単位などが挙げられる。これらの置換または無置換のビニル芳香族モノマー単位のうち、微細化黒鉛粒子の分散性が向上するという観点から、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位が好ましく、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖を結合できるという観点から、アミノスチレンモノマー単位が好ましい。
【0024】
本発明にかかる他のモノマー単位としては特に制限はないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルイミダゾール類およびビニルピリジン類からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するビニルモノマーから誘導される官能基含有ビニルモノマー単位が好ましい。このような官能基を有する他のビニルモノマー単位を含む芳香族ビニル共重合体を用いることによって、芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖を容易に導入することができ、また、得られた微細化黒鉛粒子はオレフィン系樹脂との親和性が向上し、オレフィン系樹脂中に容易に分散させることが可能となる。
【0025】
前記アミノ基を有する他のビニルモノマーとしては、アミノアルキル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン類(例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン)、ビニルイミダゾール類(例えば、1−ビニルイミダゾール)などが挙げられる。前記カルボキシル基を有する他のビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸が挙げられる。前記カルボン酸エステル基を有する他のビニルモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、前記水酸基を有する他のビニルモノマーとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、前記アミド基を有する他のビニルモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0026】
このような官能基を有する他のビニルモノマーのうち、芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖を容易に導入することができるという観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが好ましく、アミノアルキル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンがより好ましく、2−ビニルピリジンが特に好ましい。
【0027】
本発明にかかる微細化黒鉛粒子において、前記芳香族ビニル共重合体の数平均分子量としては特に制限はないが、1千〜100万が好ましく、5千〜10万がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の数平均分子量が前記下限未満になると、黒鉛粒子に対する吸着能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、溶媒への溶解性が低下したり、粘度が著しく上昇して取り扱いが困難になる傾向にある。なお、芳香族ビニル共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)、溶離液:クロロホルム)により測定し、標準ポリスチレンで換算した値である。
【0028】
また、本発明にかかる微細化黒鉛粒子においては、前記芳香族ビニル共重合体としてランダム共重合体を用いても、ブロック共重合体を用いてもよいが、微細化黒鉛粒子の分散性が向上するという観点から、ブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0029】
本発明にかかる微細化黒鉛粒子において、前記芳香族ビニル共重合体の含有量としては、前記板状黒鉛粒子100質量部に対して10−7〜10−1質量部が好ましく、10−5〜10−2質量部がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の含有量が前記下限未満になると、板状黒鉛粒子への芳香族ビニル共重合体の吸着が不十分なため、微細化黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、板状黒鉛粒子に直接吸着していない芳香族ビニル共重合体が存在する傾向にある。
【0030】
本発明にかかるアルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖は、前記芳香族ビニル共重合体に結合したものである。これにより、本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、その表面がアルキル化され、極性の低いオレフィン系樹脂に対する親和性を示し、オレフィン系樹脂中に容易に分散させることができる。また、このようなアルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖は、前記芳香族ビニル共重合体の側鎖に結合していることが好ましい。これにより、オレフィン系樹脂に対する微細化黒鉛粒子の親和性がさらに向上する傾向にある。
【0031】
このような微細化黒鉛粒子において、前記アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖としては、前記官能基を有する芳香族ビニル共重合体と、この官能基と反応する部位(以下、「反応性部位」という)を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンとがそれぞれ反応して、前記アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンの反応性部位が前記芳香族ビニル共重合体の官能基に結合することによって形成されたものであることが好ましい。
【0032】
このような反応性部位としては、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、カルボキシル基、カルボン酸無水物基(無水マレイン酸基など)、スルホン酸基、アルデヒド基、グリシジル基などが挙げられ、前記官能基との反応性が高いという観点から、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボン酸無水物基が好ましく、ハロゲン原子がより好ましく、塩素原子がさらに好ましい。さらに、前記官能基と前記反応性部位との組み合わせとしては、互いの反応性が高くなるという観点から、アミノ基とハロゲン原子の組み合わせ、アミノ基とカルボキシル基またはカルボン酸無水物基の組み合わせが好ましく、アミノ基と塩素原子の組み合わせ、アミノ基と無水マレイン酸基の組み合わせがより好ましく、アミノ基と塩素原子の組み合わせが特に好ましい。
【0033】
このような反応性部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンとしては特に制限はないが、分子末端に前記官能基を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィン(以下、それぞれ、「末端官能基含有アルキル化合物」、「末端官能基含有オリゴオレフィン」および「末端官能基含有ポリオレフィン」という)が好ましい。このような末端官能基含有アルキル化合物、末端官能基含有オリゴオレフィンおよび末端官能基含有ポリオレフィンは、前記官能基を有する芳香族ビニル共重合体と反応しやすく、芳香族ビニル共重合体に容易にアルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖を導入することができる。
【0034】
反応性部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンとして、具体的には、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンの塩素化物、臭素化物、水酸基含有物、マレイン酸変性物、(メタ)アクリル酸変性物などが挙げられ、中でも、末端塩素化物、末端水酸基含有物が好ましく、末端塩素化物がより好ましい。オリゴオレフィンおよびポリオレフィンの種類としては特に制限はないが、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖が導入されやすいという観点から、エチレンオリゴマー、ポリエチレン、プロピレンオリゴマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体(オリゴマーおよびポリマー)が好ましい。
【0035】
このような反応性部位を有するポリオレフィンの数平均分子量としては特に制限はないが、100〜100万が好ましく、1千〜1万がより好ましい。前記ポリオレフィンの数平均分子量が前記下限未満になると、導入されたポリオレフィン鎖が短く、オレフィン系樹脂に対する微細化黒鉛粒子の親和性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、芳香族ビニル共重合体に結合しにくく、ポリオレフィン鎖が導入されにくい傾向にある。また、同様に、前記反応性部位を有するアルキル化合物の分子量としては特に制限はないが、70〜500が好ましく、前記反応性部位を有するオリゴオレフィンの数平均分子量としては特に制限はないが、100〜5000が好ましい。
【0036】
本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、上述したように、オレフィン系樹脂との親和性が高く、本発明の樹脂複合材料においては、オレフィン系樹脂中に容易に分散するものであるが、さらに、溶媒への分散性に優れており、例えば、後述するように、本発明にかかる微細化黒鉛粒子とオレフィン系樹脂とを溶媒中で混合して本発明の樹脂複合材料を製造する場合においては、溶媒中に微細化黒鉛粒子を容易に分散させることが可能であり、オレフィン系樹脂中に微細化黒鉛粒子が均一に分散した本発明の樹脂複合材料を容易に得ることができる。
【0037】
次に、本発明にかかる微細化黒鉛粒子の製造方法について説明する。本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、原料の黒鉛粒子、前記式(1)で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体、過酸化水素化物、および溶媒を混合し、得られた混合物に粉砕処理を施し、微細化された黒鉛粒子中の芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖をさらに導入することによって製造することができる。
【0038】
本発明にかかる微細化黒鉛粒子を製造する際に原料として用いられる黒鉛粒子(以下、「原料黒鉛粒子」という)としては、グラファイト構造を有する公知の黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛))が挙げられ、中でも、粉砕することによって前記範囲の厚さを有する板状黒鉛粒子となるものが好ましい。このような原料黒鉛粒子の粒子径としては特に制限はないが、0.01〜5mmが好ましく、0.1〜1mmがより好ましい。
【0039】
また、原料黒鉛粒子を構成する板状黒鉛粒子の表面には、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基が結合(好ましくは共有結合)していることが好ましい。前記官能基は前記芳香族ビニル共重合体との親和性を有するものであり、芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が増大して、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖の導入量が増大するため、得られる微細化黒鉛粒子はオレフィン系樹脂に対する親和性が向上し、分散性も高くなる傾向にある。
【0040】
このような官能基は、板状黒鉛粒子の表面近傍(好ましくは、表面から深さ10nmまでの領域)の全炭素原子の50%以下(より好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下)の炭素原子に結合していることが好ましい。官能基が結合している炭素原子の割合が前記上限を超えると、板状黒鉛粒子は、親水性が増大するため、芳香族ビニル共重合体との親和性が低下する傾向にある。また、官能基が結合している炭素原子の割合の下限としては特に制限はないが、0.01%以上が好ましい。
【0041】
また、前記微細化黒鉛粒子の製造に用いられる過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物(例えば、ウレア、カルボン酸(安息香酸、サリチル酸など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カルボン酸エステル(安息香酸メチル、サリチル酸エチルなど))と過酸化水素との錯体;四級アンモニウム塩、フッ化カリウム、炭酸ルビジウム、リン酸、尿酸などの化合物に過酸化水素が配位したものなどが挙げられる。このような過酸化水素化物は、本発明にかかる微細化黒鉛粒子を製造する際に酸化剤として作用し、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊せずに、炭素層間の剥離を容易にするものである。すなわち、過酸化水素化物が炭素層間に侵入して層表面を酸化しながら劈開を進行させ、同時に芳香族ビニル共重合体が劈開した炭素層間に侵入して劈開面を安定化させ、層間剥離が促進される。その結果、板状黒鉛粒子の表面に前記芳香族ビニル共重合体が吸着し、この芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖が結合することによって、微細化黒鉛粒子をオレフィン系樹脂中に容易に分散させることが可能となる。
【0042】
前記微細化黒鉛粒子の製造に用いられる溶媒としては特に制限はないが、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエン、ジオキサン、プロパノール、γ−ピコリン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)が好ましく、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエンがより好ましい。
【0043】
本発明にかかる微細化黒鉛粒子を製造する場合には、先ず、前記原料黒鉛粒子と前記芳香族ビニル共重合体と前記過酸化水素化物と前記溶媒とを混合する(混合工程)。前記原料黒鉛粒子の混合量としては、溶媒1L当たり0.1〜500g/Lが好ましく、10〜200g/Lがより好ましい。原料黒鉛粒子の混合量が前記下限未満になると、溶媒の消費量が増大し、経済的に不利となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると液の粘度が上昇して取り扱いが困難となる傾向にある。
【0044】
また、前記芳香族ビニル共重合体の混合量としては、前記原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1〜1000質量部が好ましく、0.1〜200質量部がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の混合量が前記下限未満になると、得られる微細化黒鉛粒子のオレフィン樹脂中での分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、芳香族ビニル共重合体が溶媒に溶解しなくなるとともに、液の粘度が上昇して取り扱いが困難となる傾向にある。
【0045】
また、前記過酸化水素化物の混合量としては、前記原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1〜500質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。前記過酸化水素化物の混合量が前記下限未満になると、得られる微細化黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、原料黒鉛粒子が過剰に酸化され、得られる微細化黒鉛粒子の導電性が低下する傾向にある。
【0046】
次に、前記混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施して原料黒鉛粒子を板状黒鉛粒子に粉砕する(粉砕工程)。これにより、生成した板状黒鉛粒子の表面に前記芳香族ビニル共重合体が吸着した微細化黒鉛粒子が得られる。
【0047】
本発明にかかる粉砕処理としては、超音波処理(発振周波数としては15〜400kHzが好ましく、出力としては500W以下が好ましい。)、ボールミルによる処理、湿式粉砕、爆砕、機械式粉砕などが挙げられる。これにより、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊させずに原料黒鉛粒子を粉砕して板状黒鉛粒子を得ることが可能となる。また、粉砕処理時の温度としては特に制限はなく、例えば、−20〜100℃が挙げられる。また、粉砕処理時間についても特に制限はなく、例えば、0.01〜50時間が挙げられる。
【0048】
このようにして得られる微細化黒鉛粒子は、溶媒に分散した状態であり、ろ過や遠心分離などにより前記溶媒を除去することによって回収することができる。
【0049】
次に、前記粉砕工程で得られた微細化黒鉛粒子と、前記反応性部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンのうちの少なくとも1種とを混合し、前記微細化黒鉛粒子中の芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖を導入する(炭化水素鎖導入工程)。この場合、前記芳香族ビニル共重合体は官能基を有するものである必要があり、この官能基と前記反応性部位とを結合せしめて前記芳香族ビニル共重合体に、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖のうちの少なくとも1種の炭化水素鎖を導入する。
【0050】
この炭化水素鎖導入工程においては、前記粉砕工程で得られた微細化黒鉛粒子と、前記反応性部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンのうちの少なくとも1種と、溶媒とを混合し、必要に応じて得られた混合物を加熱することによって、官能基を有する芳香族ビニル共重合体と、反応性部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンのうちの少なくとも1種とを反応させる。溶媒としては特に制限はなく、上記で例示した溶媒を使用することができる。また、反応温度としては−10〜150℃が好ましく、反応時間としては0.1〜10時間が好ましい。
【0051】
炭化水素鎖導入工程における前記微細化黒鉛粒子の混合量としては、溶媒1L当たり1〜200g/Lが好ましく、1〜50g/Lがより好ましい。微細化黒鉛粒子の混合量が前記下限未満になると、溶媒の消費量が増大し、経済的に不利となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると液の粘度が上昇して取り扱いが困難となる傾向にある。
【0052】
また、前記反応性部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンの混合量としては、前記微細化黒鉛粒子100質量部に対して0.001〜500質量部が好ましく、10〜500質量部がより好ましい。前記アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンの混合量が前記下限未満になると、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖の導入量が少なく、オレフィン系樹脂に対する微細化黒鉛粒子の分散性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、液の粘度が上昇して取り扱いが困難となる傾向にある。
【0053】
このようにしてアルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖が導入された本発明にかかる微細化黒鉛粒子は、溶媒に分散した状態であり、ろ過や遠心分離などにより前記溶媒を除去することによって回収することができる。
【0054】
<オレフィン系樹脂>
本発明において、オレフィン系樹脂としては特に制限はなく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル共重合体、プロピレン−アクリル共重合体、ポリイソプレン、ネオプレン、ポリブタジエン、脂環式オレフィン重合体など公知のオレフィン系樹脂を使用することができる。
【0055】
このようなオレフィン系樹脂の重量平均分子量としては特に制限はないが、5千〜100万が好ましい。オレフィン系樹脂の重量平均分子量が前記下限未満になると、樹脂複合材料の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粘度が高くなりすぎて、樹脂複合材料を成形することが困難となる傾向にある。
【0056】
また、前記オレフィン系樹脂のメルトフローインデックスとしては特に制限はないが、1〜100g/min(190℃(ポリエチレン)または230℃(ポリプロピレン)、2.16kg荷重)が好ましい。オレフィン系樹脂のメルトフローインデックスが前記下限未満になると、流動性が低く、樹脂複合材料を成形することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、流動性が高くなりすぎ、樹脂複合材料を安定して成形することが困難となる傾向にある。
【0057】
<樹脂複合材料>
本発明の樹脂複合材料は、前記微細化黒鉛粒子と前記オレフィン系樹脂とを含有するものである。このように、本発明にかかる微細化黒鉛粒子を含有させることによって、前記オレフィン系樹脂に、電気伝導性や熱伝導性、高弾性率、高強度、摺動性、低線膨張を付与することが可能となる。
【0058】
このような樹脂複合材料において、前記微細化黒鉛粒子の含有量としては特に制限はないが、樹脂複合材料全体に対して、0.1〜80質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、1〜30質量%が特に好ましい。微細化黒鉛粒子の含有量が前記下限未満になると、樹脂複合材料の電気伝導性や熱伝導性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂複合材料を成形することが困難となる傾向にある。
【0059】
このような本発明の樹脂複合材料は、例えば、本発明にかかる微細化黒鉛粒子と前記オレフィン系樹脂とを所定の割合で混合することによって製造することができる。このとき、混練(好ましくは溶融混練)してもよいし、溶媒中で混合してもよい。前記溶媒としては特に制限はなく、本発明にかかる微細化黒鉛粒子を製造する際に用いられる溶媒として例示したものを使用することができる。
【0060】
溶媒中で前記微細化黒鉛粒子と前記オレフィン系樹脂とを混合すると、前記オレフィン系樹脂が溶媒に溶解して均一な状態になるとともに、微細化黒鉛粒子も溶媒中で高度に分散するため、互いに混ざり合いやすくなり、高度で均一な分散液を容易に得ることができる。また、得られた分散液に超音波処理を施すことによって、その均一性がさらに向上する傾向にある。そして、このようにして得られた分散液から溶媒を除去することによって、前記オレフィン系樹脂中に微細化黒鉛粒子が高度に分散した樹脂複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、芳香族ビニル共重合体の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(昭和電工(株)製「Shodex GPC101」)を用いて以下の条件で測定した。
<芳香族ビニル共重合体の測定条件>
・カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)
・溶離液:クロロホルム
・測定温度:25℃
・サンプル濃度:0.1mg/ml
・検出手段:RI
なお、芳香族ビニル共重合体の数平均分子量(Mn)は、標準ポリスチレンで換算した値を示した。
【0062】
(実施例1)
<微細化黒鉛粒子の調製>
スチレン(ST)18g、2−ビニルピリジン(2VP)2g、アゾビスイソブチロニトリル50mgおよびトルエン100mlを混合し、窒素雰囲気下、85℃で6時間重合反応を行なった。放冷後、クロロホルム−ヘキサンを用いて再沈殿により精製し、真空乾燥して3.3gのST−2VP(9:1)ランダム共重合体(Mn=25000)を得た。
【0063】
黒鉛粒子(日本黒鉛工業(株)製「EXP−P」、粒子径100〜600μm)20mg、ウレア−過酸化水素包接錯体80mg、前記ST−2VP(9:1)ランダム共重合体20mgおよびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)2mlを混合し、室温で5時間超音波処理(出力:250W)を施して黒鉛粒子分散液を得た。この黒鉛粒子分散液を24時間静置した後、目視により観察したところ、黒鉛粒子は沈降せず、得られた分散液は分散安定性に優れたものであった。また、得られた黒鉛粒子分散液をろ過し、ろ滓をDMFで洗浄した後、真空乾燥して微細化黒鉛粒子を回収した。この微細化黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、長さが1〜20μm、幅が1〜20μm、厚さが10〜50nmの板状に微細化されたものであることが確認された。
【0064】
<微細化黒鉛粒子のアルキル化>
末端水酸基含有ポリオレフィン(出光興産(株)製「エポール(R)」)4.59g、トリフェニルホスフィン1.1gおよび四塩化炭素40mlを混合し、窒素雰囲気下、80℃で攪拌しながら12時間加熱還流し、末端塩素化ポリオレフィンを合成した。加熱還流後の溶液にエバポレーションを施した後、ヘキサンを用いて末端塩素化ポリオレフィンを抽出した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン溶媒)で精製して1.5gの末端塩素化ポリオレフィン(Mn=2000(カタログ値))を得た。
【0065】
次に、この末端塩素化ポリオレフィン20mg、前記微細化黒鉛粒子10mgおよびトルエン1mlを混合し、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた分散液をろ過し、ろ滓をトルエンで洗浄して末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を得た。
【0066】
<樹脂複合材料の作製>
この末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子0.2gとアイソタクティックポリプロピレン(PP、Aldrich社製、重量平均分子量19万)20gとを混練器(ミニラボ)を用いて190℃で5分間混練し、PP樹脂複合材料を得た。
【0067】
また、前記末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子0.2gと高密度ポリエチレン(HDPE、Aldrich社製、メルトフローインデックス12g/min(190℃、2.16kg荷重))20gとを混練器(ミニラボ)を用いて190℃で5分間混練し、HDPE樹脂複合材料を得た。
【0068】
(実施例2)
2−ビニルピリジンの代わりに2−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAMA)0.2gを用い、スチレン(ST)の量を1.8g、アゾビスイソブチロニトリルの量を8mg、トルエンの量を10mlに変更した以外は実施例1と同様にして0.61gのST−DMAMA(9:1)ランダム共重合体(Mn=32000)を得た。
【0069】
前記ST−2VP(9:1)ランダム共重合体の代わりに、このST−DMAMA(9:1)ランダム共重合体0.1gを用い、黒鉛粒子の量を1g、ウレア−過酸化水素包接錯体の量を1g、DMFの量を50mlに変更した以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を得た。この黒鉛粒子分散液を24時間静置した後、目視により観察したところ、黒鉛粒子は沈降せず、得られた分散液は分散安定性に優れたものであった。
【0070】
得られた黒鉛粒子分散液をろ過し、ろ滓をDMFで洗浄した後、真空乾燥して微細化黒鉛粒子を回収した。この微細化黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、長さが1〜20μm、幅が1〜20μm、厚さが10〜50nmの板状に微細化されたものであることが確認された。
【0071】
この微細化黒鉛粒子10mgを用いた以外は実施例1と同様にして、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を調製し、さらに、PP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料を作製した。
【0072】
(実施例3)
2−ジメチルアミノエチルメタクリレートの代わりに4−ビニルピリジン(4VP)0.2gを用い、トルエンの量を7.5mlに変更した以外は実施例2と同様にして0.73gのST−4VP(9:1)ランダム共重合体(Mn=18000)を得た。
【0073】
前記ST−2VP(9:1)ランダム共重合体の代わりに、このST−4VP(9:1)ランダム共重合体0.1gを用いた以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を得た。この黒鉛粒子分散液を24時間静置した後、目視により観察したところ、黒鉛粒子は沈降せず、得られた分散液は分散安定性に優れたものであった。
【0074】
得られた黒鉛粒子分散液をろ過し、ろ滓をDMFで洗浄した後、真空乾燥して微細化黒鉛粒子を回収した。この微細化黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、長さが1〜20μm、幅が1〜20μm、厚さが10〜50nmの板状に微細化されたものであることが確認された。
【0075】
この微細化黒鉛粒子10mgを用いた以外は実施例1と同様にして、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を調製し、さらに、PP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料を作製した。
【0076】
(実施例4)
末端塩素化ポリオレフィンの代わりに塩素化ポリプロピレン(アルドリッチ社製、Mn=100000)20mgを用いた以外は実施例1と同様にして、塩素化ポリプロピレンで処理された微細化黒鉛粒子を調製し、さらに、PP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料を作製した。
【0077】
(実施例5)
末端塩素化ポリオレフィンの代わりに無水マレイン酸変性ポリプロピレン(Clariant社製「LICOCENE MA(R)」、粘度(140℃)=300mPa・s)20mgを用いた以外は実施例1と同様にして、無水マレイン酸変性ポリプロピレンで処理された微細化黒鉛粒子を調製し、さらに、PP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料を作製した。
【0078】
(実施例6)
黒鉛粒子(日本黒鉛工業(株)製「EXP−P」、粒子径100〜600μm)12.5g、ウレア−過酸化水素包接錯体12.5g、実施例1と同様にして調製したST−2VP(9:1)ランダム共重合体1.25g、DMF500mlを混合し、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製「スターバーストラボ」)を用いて、室温、シリンダー圧力200MPaの条件で10回湿式粉砕処理を行い、黒鉛粒子分散液を得た。この黒鉛粒子分散液を24時間静置した後、目視により観察したところ、黒鉛粒子は沈降せず、得られた分散液は分散安定性に優れたものであった。
【0079】
得られた黒鉛粒子分散液をろ過し、ろ滓をDMFで洗浄した後、真空乾燥して微細化黒鉛粒子を回収した。この微細化黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、長さが1〜20μm、幅が1〜20μm、厚さが10〜50nmの板状に微細化されたものであることが確認された。
【0080】
この微細化黒鉛粒子10mgを用いた以外は実施例1と同様にして、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を調製し、さらに、PP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料を作製した。
【0081】
(比較例1)
2−ビニルピリジンの代わりにN−フェニルマレイミド(PM)4gを用い、スチレン(ST)の量を36g、アゾビスイソブチロニトリルの量を100mg、トルエンの量を50mlに変更した以外は実施例1と同様にして25.6gのST−PM(9:1)ランダム共重合体(Mn=37000)を得た。
【0082】
前記ST−2VP(9:1)ランダム共重合体の代わりに、このST−PM(9:1)ランダム共重合体0.7gを用い、黒鉛粒子の量を7g、ウレア−過酸化水素包接錯体の量を7g、DMFの量を300mlに変更した以外は実施例1と同様にして黒鉛粒子分散液を得た。この黒鉛粒子分散液を24時間静置した後、目視により観察したところ、黒鉛粒子は沈降せず、得られた分散液は分散安定性に優れたものであった。
【0083】
得られた黒鉛粒子分散液をろ過し、ろ滓をDMFで洗浄した後、真空乾燥して微細化黒鉛粒子を回収した。この微細化黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、長さが1〜20μm、幅が1〜20μm、厚さが10〜50nmの板状に微細化されたものであることが確認された。
【0084】
この微細化黒鉛粒子10mgを用いた以外は実施例1と同様にして、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を調製し、さらに、PP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料を作製した。
【0085】
<光学顕微鏡による観察>
実施例1〜6および比較例1で得られたPP樹脂複合材料およびHDPE樹脂複合材料に190℃、40kg/cmでホットプレスを行い、厚さ0.5mmの薄膜を作製した。この薄膜を光学顕微鏡により観察した。図1〜6および図8には、実施例1〜6および比較例1で得られたPP樹脂複合材料の光学顕微鏡写真を、図7には、実施例6で得られたHDPE樹脂複合材料の光学顕微鏡写真を示す。また、これらの写真に基づいて、PP樹脂複合材料中およびHDPE樹脂複合材料中の微細化黒鉛粒子の分散性を評価した。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1および図1〜8に示した結果から明らかなように、アミノ基を有する芳香族ビニル共重合体を備える微細化黒鉛粒子を反応性部位を有するポリオレフィンで処理した場合(実施例1〜6)には、微細化黒鉛粒子をオレフィン系樹脂中に容易に分散させることが可能であることが確認された。これは、前記アミノ基と前記反応性部位とが反応することによって、微細化黒鉛粒子にポリオレフィン鎖が導入され、微細化黒鉛粒子のオレフィン系樹脂に対する親和性が高くなったためと推察される。
【0088】
一方、アミノ基を有しない芳香族ビニル共重合体を備える微細化黒鉛粒子を反応性部位を有するポリオレフィンで処理した場合(比較例1)には、微細化黒鉛粒子はオレフィン系樹脂中で凝集し、分散させることは困難であった。これは、比較例1においては、微細化黒鉛粒子中の芳香族ビニル共重合体にアミノ基などの官能基が存在せず、反応性部位を有するポリオレフィンとの反応が進行しないため、前記芳香族ビニル共重合体にポリオレフィン鎖が結合せず、微細化黒鉛粒子にオレフィン系樹脂に対する親和性が付与されなかったためと推察される。
【0089】
また、2VP単位を含有する芳香族ビニル共重合体を備える微細化黒鉛粒子を末端塩素化ポリオレフィンで処理した場合(実施例1および実施例6)には、DMAMA単位または4VP単位を含有する芳香族ビニル共重合体を備える微細化黒鉛粒子を末端塩素化ポリオレフィンで処理した場合(実施例2〜3)、2VP単位を含有する芳香族ビニル共重合体を備える微細化黒鉛粒子を塩素化ポリプロピレンまたは無水マレイン酸変性ポリプロピレンで処理した場合(実施例4〜5)に比べて、微細化黒鉛粒子をオレフィン系樹脂中により均一且つ高度に分散させることが可能であることがわかった。これは、2VP単位が、DMAMA単位や4VP単位に比べて、末端塩素化ポリオレフィンとの反応性が高く、あるいは分子末端に官能基を有する末端塩素化ポリオレフィンが、分子内部に官能基を有する塩素化ポリプロピレンや無水マレイン酸変性ポリプロピレンに比べて、2VP単位との反応性が高く、ポリオレフィン鎖が導入されやすいため、ポリオレフィン鎖によって立体的な極性基が効果的に遮蔽されたことによるものと推察される。
【0090】
(実施例7)
実施例1と同様にして末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子をドライ粉砕機で粉砕した。この末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子5質量部とアイソタクティックポリプロピレン(PP、Aldrich社製、重量平均分子量19万)95質量部とを混合し、PP樹脂複合材料を調製した。
【0091】
比重から計算した体積が80mlとなる量の前記PP樹脂複合材料を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製「18B−200」)を用いて190℃、100rpmで5分間混錬した。混練時のトルクを図9に示す。得られた混練物を取り出し、190℃、40kg/cmでホットプレスを行い、長さ30mm、幅5mm、厚さ0.5mmの試験片を作製した。
【0092】
得られた試験片の写真を図10に示す。また、この試験片の弾性率を、粘弾性スペクトロメーター(アイティー計測制御(株)製「DVA−220」)を用いて測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。
【0093】
(実施例8)
末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子の量を10質量部、前記アイソタクティックポリプロピレンの量を90質量部に変更した以外は実施例7と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。混練時のトルクを図9に示す。得られた試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。
【0094】
(実施例9)
末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子の量を20質量部、前記アイソタクティックポリプロピレンの量を80質量部に変更した以外は実施例7と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。混練時のトルクを図9に示す。得られた試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。また、貯蔵弾性率の温度依存性を図13に示す。
【0095】
(実施例10)
実施例1と同様にして末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子の代わりに、実施例6と同様にして末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を用いた以外は実施例7と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。混練時のトルクを図9に示す。得られた試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。
【0096】
(実施例11)
末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子の量を10質量部、前記アイソタクティックポリプロピレンの量を90質量部に変更した以外は実施例10と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。混練時のトルクを図9に示す。得られた試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。
【0097】
(実施例12)
末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子の量を20質量部、前記アイソタクティックポリプロピレンの量を80質量部に変更した以外は実施例10と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。混練時のトルクを図9に示す。得られた試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。また、貯蔵弾性率の温度依存性を図13に示す。
【0098】
(比較例2)
末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子を混合しなかった以外は実施例7と同様にしてPP樹脂材料を調製し、試験片を作製した。混練時のトルクを図9に示す。得られた試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。また、貯蔵弾性率の温度依存性を図13に示す。
【0099】
(比較例3)
末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子の代わりに黒鉛粒子(日本黒鉛工業(株)製「EXP−P」、粒子径100〜600μm)を用いた以外は実施例7と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。得られた試験片の写真を図10に示す。また、この試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。
【0100】
(比較例4)
黒鉛粒子「EXP−P」の量を10質量部、前記アイソタクティックポリプロピレンの量を90質量部に変更した以外は比較例3と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。この試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。
【0101】
(比較例5)
黒鉛粒子「EXP−P」の量を20質量部、前記アイソタクティックポリプロピレンの量を80質量部に変更した以外は比較例3と同様にしてPP樹脂複合材料を調製し、試験片を作製した。この試験片の弾性率を実施例7と同様に測定した。40℃における貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接を表2、図11〜12に示す。また、貯蔵弾性率の温度依存性を図13に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
一般に、充填剤を樹脂に添加すると、その添加量の増加とともに、樹脂複合材料の粘度が増大し、混練時のトルクは増大するが、図9に示した結果から明らかなように、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子をPP樹脂に添加した場合には、その添加量を増加しても、トルクの上昇は比較的小さく、成形時に有利なPP樹脂複合材料が得られた。特に、本発明にかかる微細化黒鉛粒子を調製する際に湿式粉砕処理を施した場合においては、添加量の増加とともにトルクが低下する傾向にあることがわかった。
【0104】
図10に示した結果から明らかなように、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子をPP樹脂に添加した場合には、微細化黒鉛粒子がPP樹脂中に均一に分散していることが確認された(図10(a))。一方、微細化していない黒鉛粒子を添加した場合には、黒鉛粒子の凝集が目視でも確認できるものであった(図10(b))。
【0105】
表2、図11〜12に示した結果から明らかなように、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子をPP樹脂に添加すると、その添加量の増加とともにPP樹脂複合材料の弾性率が増大することが確認された。また、弾性率の増大傾向は、微細化していない黒鉛粒子を添加した場合に比べて、大きくなることがわかった。さらに、弾性率の増大傾向は、本発明にかかる微細化黒鉛粒子を調製する際の黒鉛粒子の分散処理(超音波処理または湿式粉砕処理)に依存しないことがわかった。
【0106】
図13に示した結果から明らかなように、末端塩素化ポリオレフィンで処理された微細化黒鉛粒子と複合化したPP樹脂複合材料(実施例9および12)が、PP樹脂(比較例2)や微細化していない黒鉛粒子と複合化したPP樹脂複合材料(比較例5)に比べて、弾性率が増大する傾向は、PP樹脂の融点(150℃)付近まで維持されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明したように、本発明によれば、微細化された黒鉛粒子をオレフィン系樹脂中に容易に分散させることが可能となる。
【0108】
したがって、本発明の樹脂複合材料は、微細化された黒鉛粒子がオレフィン系樹脂中に分散されたものであるため、電気伝導性や熱伝導性といった黒鉛粒子の特性がオレフィン系樹脂に十分に付与されており、自動車用部品(例えば、樹脂成形体、外板用樹脂、摺動部材、内装材)、電気・電子機器用部品(例えば、放熱材料、パッケージ材)などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状黒鉛粒子と、該板状黒鉛粒子に吸着した、下記式(1):
−(CH−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基またはピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体と、該芳香族ビニル共重合体に結合した、アルキル鎖、オリゴオレフィン鎖およびポリオレフィン鎖からなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素鎖とを備える微細化黒鉛粒子、ならびにオレフィン系樹脂を含有することを特徴とする樹脂複合材料。
【請求項2】
前記微細化黒鉛粒子が前記オレフィン系樹脂中に分散した状態で存在していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合材料。
【請求項3】
前記芳香族ビニル共重合体が官能基を有するものであり、
前記炭化水素鎖は、前記官能基と反応する部位を有する、アルキル化合物、オリゴオレフィンおよびポリオレフィンから選択される少なくとも1種が前記官能基と結合することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂複合材料。
【請求項4】
前記芳香族ビニル共重合体が、前記ビニル芳香族モノマー単位と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルイミダゾール類およびビニルピリジン類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーから誘導される他のモノマー単位とを備えるものであることを特徴とする請求項3に記載の樹脂複合材料。
【請求項5】
前記官能基がアミノ基であることを特徴とする請求項3または4に記載の樹脂複合材料。
【請求項6】
前記官能基と反応する部位が、塩素原子、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜5のうちのいずれか一項に記載の樹脂複合材料。

【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−236960(P2012−236960A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127083(P2011−127083)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】