説明

樽容器の充填方法および充填装置

【課題】樽容器の重量がバラつく場合にも、ビールなどの飲料を必要量だけ充填する。
【解決手段】充填装置(10)が、飲料が充填される前における充填前樽容器(40)の重量を測定する充填前樽容器重量測定手段(12)と、充填前樽容器重量測定手段により測定された充填前樽容器の重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出する偏差算出手段(31)と、充填前樽容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段(21)と、飲料充填手段によって飲料が充填された後における充填後樽容器の重量を測定する充填後樽容器重量測定手段(17)と、偏差算出手段により算出された偏差が負である場合に充填後樽容器の重量に偏差の絶対値を加算した補正重量を算出する充填後樽容器の補正重量算出手段(17’)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樽容器、例えばビール樽に飲料、例えばビールを充填する充填方法およびその方法を実施する充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にビールは瓶容器または缶容器に充填された状態で販売される。そのような販売形態に加えて、ビールは、工場においてビール樽または専用タンクに充填され、次いで店舗においてビール樽に取付けられた専用のディスペンサを通じてコップまたはジョッキ等に注出された状態で販売される場合もある。
【0003】
ビールをビール樽などに充填する場合には、ビール充填後におけるビール樽の総重量を測定し、測定された重量が所定値よりも小さい場合には、そのビール樽を製造ラインから排出するようにしている。これにより、ビール樽が充填不足の状態で市場に出回るのを防止できる。
【0004】
同様に、特許文献1には、カップ麺などのカップ内充填量を計量し、計量された充填量が所定量よりも少ない場合には、そのカップを製造ラインから排出することが開示されている。
【特許文献1】特開2006−44665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ビール樽は、店舗で使用された後で工場においてビールが再び充填される、いわゆる再利用可能容器であるので、比較的長年に亙って流通する。さらに、ビール樽は比較的多数の部品が組合わさって構成されており、部品毎に重量のバラツキが存在するので、部品点数の少ない瓶容器または缶容器に比べて、空のビール樽の重量はビール樽毎のバラツキが大きい。従って、ビール充填後におけるビール樽の総重量に基づいて充填不足を判断する場合には、以下のような問題点が生じうる。
【0006】
図8は従来技術において空ビール樽の重量xと、ビールの充填重量yとの関係を数式で示す図である。図8の式(a)で示されるように、標準的な重量の空ビール樽(重量がx0)に充填重量y0のビールを充填すると、ビール樽の充填後総重量z0は「x0+y0」で表される。
【0007】
一方、図8の式(b)で表されるように、標準的な重量x0よりも軽い空ビール樽(重量が最小値x1)に充填重量y0のビールを充填すると、ビール樽の充填後重量z1(=x1+y0)は充填後総重量z0(=x0+y0)よりも小さくなる。同様に、式(c)で表されるように、標準的な重量x0よりも重い空ビール樽(重量が最大値x2)に充填重量y0のビールを充填すると、ビール樽の充填後重量z2(=x2+y0)は充填後重量z0(=x0+y0)よりも大きくなる。
【0008】
ここで、ビール樽に充填重量y0のビールを充填して販売する場合に、ビールの充填不足を判断するための所定値としていかなる値を採用すべきかを考える。空ビール樽が常に標準的な重量x0で一定である場合には、「x0+y0」を所定値とし、充填後重量がこの所定値を越えたビール樽のみを出荷すれば、充填不足のビール樽が市場に出荷されることはない。
ただし、前述したようにビール樽の重量には比較的大きなバラツキが存在する。このため、重い空ビール樽(例えば、重量が最大値x2)にビールが充填されると、充填されたビールの重量が「y0」よりも小さい場合であっても、ビール樽の充填後重量が所定値「x0+y0」を上回る事態が生じる。このような場合には、このような場合には充填不足のビール樽が市場に出荷されることになる。
【0009】
従って、充填不足のビール樽が市場に出荷される事態を確実に防止するためには、充填不足を判断するための所定値としてビール樽の充填後重量z2(=x2+y0)を採用する必要がある。
【0010】
しかしながら、充填不足を判断するための所定値として充填後総重量z2を採用する場合には、比較的軽量の空ビール樽(最大値x2を下回る重量。例えば図8においては、重量がx0またはx1)にビールを重量y0だけ充填したとしても、充填後重量は所定値z2を越えないので、そのビール樽は充填不足であると判断される。そして、充填不足であると判断された場合には、ビール樽に充填されたビールを一旦、廃棄して再充填する必要があるので、ビールの原料が無駄になるだけでなく生産性も低下することになる。
【0011】
充填不足を判断するための所定値として充填後重量z2を採用した場合に充填不足と判断されないようにするためには、充填後重量を所定値z2まで到達させるために、比較的軽量の空ビール樽に充填されるビールの重量を重量y0よりも意図的に増やす必要がある(図8の「y'」、「y''」参照)。このため、従来技術においては、充填不足を解消するのに十分な重量のビールが充填されるように充填装置を設定していた。しかしながら、このような手法では、ビールを必要以上に充填することになるので、ビール工場において無駄になるビールの総重量は著しく大きくなり、生産性にも影響を与える。従って、ビールの充填重量は、充填不足を解消することのできる最小限の重量に抑えることが望まれている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、樽容器、例えばビール樽の重量にバラツキが存在する場合であっても、充填不足の樽容器を市場に出荷させることなく、かつビールの生産性を低下させることのない樽容器の充填方法およびその方法を実施する充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定する充填前樽容器重量測定手段と、該充填前樽容器重量測定手段により測定された前記充填前樽容器の重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出する偏差算出手段と、前記充填前樽容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、該飲料充填手段によって飲料が充填された後における充填後樽容器の重量を測定する充填後樽容器重量測定手段と、前記偏差算出手段により算出された前記偏差が負である場合に前記充填後樽容器の重量に前記偏差の絶対値を加算した補正重量を算出する充填後樽容器の補正重量算出手段とを具備する、樽容器の充填装置が提供される。
【0014】
すなわち1番目の発明においては、充填前の空の樽容器が所定の空樽容器基準重量よりも軽い場合には、その差分を考慮して、充填後の樽容器の重量を増加するようにしている。このため、飲料充填後の樽容器の重量に基づいて充填不足を判断する場合に、軽量の空の樽容器を使用したことに基づいて充填不足と判断されることはない。さらに、1番目の発明においては、そのような充填不足と判断されるのを回避するために飲料を必要以上に充填する必要性を排除することもできる。
【0015】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記充填後樽容器の重量または前記充填後樽容器の補正重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には当該樽容器を前記充填装置から排出する排出手段を具備する。
すなわち2番目の発明においては、充填重量が不足した場合に、充填不足の樽容器が市場に流通するのを防止できる。
【0016】
3番目の発明によれば、飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定する充填前樽容器重量測定手段と、該充填前樽容器重量測定手段により測定された前記充填前樽容器の重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出する偏差算出手段と、前記充填前の樽容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段とを具備し、前記偏差算出手段により算出された前記偏差が負である場合には、前記飲料充填手段は、前記所定の充填重量に前記偏差の絶対値を加算した重量の飲料を充填するようにした樽容器の充填装置が提供される。
【0017】
すなわち3番目の発明においては、充填前の空の樽容器が所定の空樽容器基準重量よりも軽い場合には、その差分を考慮して、飲料を所定の充填重量よりも余分に充填するようにしている。このため、飲料充填後の樽容器の総重量に基づいて充填不足を判断する場合に、軽量の空の樽容器を使用したことに基づいて充填不足と判断されることはない。
【0018】
4番目の発明によれば、3番目の発明において、さらに、前記飲料充填手段によって飲料が充填された後の前記樽容器の重量を測定する充填後樽容器重量測定手段と、該充填後樽容器重量測定手段によって測定された前記充填後樽容器の重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には当該樽容器を前記充填装置から排出する排出手段とを具備する。
すなわち4番目の発明においては、充填重量が不足した場合に、充填不足の樽容器が市場に流通するのを防止できる。
【0019】
5番目の発明によれば、飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定し、前記充填前樽容器の測定された重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出し、前記充填前の樽容器に所定の充填重量の飲料を充填し、前記偏差が負である場合には、充填後における前記樽容器の重量に前記偏差の絶対値をを加算した充填後樽容器の補正重量を算出する樽容器の充填方法が提供される。
【0020】
すなわち5番目の発明においては、充填前の空の樽容器が所定の空樽容器基準重量よりも軽い場合には、その差分を考慮して、充填後の樽容器の総重量を増加するようにしている。このため、飲料充填後の樽容器の総重量に基づいて充填不足を判断する場合に、軽量の空の樽容器を使用したことに基づいて充填不足と判断されることはない。さらに、5番目の発明においては、そのような充填不足と判断されるのを回避するために飲料を必要以上に充填する必要性を排除することもできる。
【0021】
6番目の発明によれば、5番目の発明において、さらに、前記樽容器の重量または充填後樽容器の補正重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には、当該樽容器を前記充填装置から排出する。
すなわち6番目の発明においては、充填重量が不足した場合に、充填不足の樽容器が市場に流通するのを防止できる。
【0022】
7番目の発明によれば、飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定し、前記充填前樽容器の測定された重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出し、前記偏差が負である場合には、所定の充填重量に前記偏差を加算した重量の飲料を充填する樽容器の充填方法が提供される。
【0023】
すなわち7番目の発明においては、充填前の空の樽容器が所定の空樽容器基準重量よりも軽い場合には、その差分を考慮して、飲料を所定の充填重量よりも余分に充填するようにしている。このため、飲料充填後の樽容器の総重量に基づいて充填不足を判断する場合に、軽量の空の樽容器を使用したことに基づいて充填不足と判断されることはない。
【0024】
8番目の発明によれば、7番目の発明において、さらに、飲料が充填された後の前記樽容器の重量を測定し、前記樽容器の測定された重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には、当該樽容器を前記充填装置から排出する。
すなわち8番目の発明においては、充填重量が不足した場合に、充填不足の樽容器が市場に流通するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同一の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づくビール樽用の充填装置の概念図である。図1に示される充填装置10は、複数の樽容器、例えばビール樽40を矢印A方向に順次搬送するコンベヤなどの搬送経路11と、搬送経路11に隣接して配置されていてビール樽40を矢印B方向に順次搬送する環状の回転通路20とを含んでいる。
【0026】
回転通路20には、ビールをビール樽40に充填するために複数、例えば二十個の充填部21が周方向に等間隔で設けられている。図1においては、回転通路20上に位置するビール樽40に対応した位置のそれぞれに、充填部21が設けられているものとする。
【0027】
図2は図1の線I−Iに沿ってみた充填部の縦断面図である。図2においては、ビール樽40は口金を下方に向けた倒立状態で回転通路20上に配置される。充填装置10の上方には、伸縮自在なロッド52を備えたエアシリンダ51が設けられている。そして、ロッド52の先端には略「+」字形状のクランプハンド53が取付けられている。エアシリンダ51を作動してロッド52を延ばすことによって、ビール樽40はクランプハンド53と回転通路20との間に把持される。
【0028】
充填部21は、ビール樽40の樽口(図示しない)に係合可能な充填ヘッド23と、ビール用の貯留タンク(図示しない)から充填ヘッド23まで延びる送液管22とを含んでいる。ビール用の貯留タンク(図示しない)内のビールは、送液管22および充填ヘッド23を通じて樽口からビール樽40内に充填される。
【0029】
図示されるように、送液管22には、送液管22内を流れるビールの流量を検出する流量計25が設けられている。さらに、ビールの流れに対して流量計25の下流には、ビールの流量を制御する流量制御弁26が設けられている。これら流量計25および流量制御弁26は後述する制御装置30に接続されている。
【0030】
さらに、図2においては、ビールの充填前にプリストレスガスをビール樽40内に供給する供給管路55と、ビール樽40内のプリストレスガスを排出する排出管路56とが示されている。プリストレスガスは、不活性ガス、例えば二酸化炭素または窒素であり、ビールの液中に溶存した炭酸ガスがビール樽40への充填時に分離または発泡するのを防止する役目を果たす。なお、排出管路56には、プリストレスガスの排出流量を制御する制御弁57が設けられており、この制御弁57も制御装置30に接続されている。詳細には説明しないものの、ビール樽40に供給されたプリストレスガスはビールの充填作用に応じて排出管路56を通じて排出される。
【0031】
再び図1を参照すると、搬送経路11上に搬送されたビール樽40は、搬送方向Aに対して上流側のスターホイール13およびガイド14によって回転通路20に搬送される。回転通路20に搬送されたビール樽40は回転通路20によって矢印B方向に回転しつつ、一つの充填部21によってビールが充填される。
【0032】
言い換えれば、上流側スターホイール13におけるビール樽投入位置から下流側スターホイール15におけるビール樽排出位置まで回転通路20が回転する間に、所定量のビールがビール樽40に充填される。ビールが充填されたビール樽40は下流側のスターホイール15およびガイド16によって搬送経路11に再び戻る。このような構成であるので、図1においてスターホイール13、15の間に位置している充填部21aにはビール樽40が配置されない。
【0033】
本発明に基づく充填装置10においては、第一重量測定手段12が上流側スターホイール13よりも上流において搬送経路11上に設けられている。この第一重量測定手段12は、ビールが充填される前における空のビール樽40の重量を測定する。
【0034】
同様に、搬送経路11には、第二重量測定手段17が下流側スターホイール15の下流に設けられている。第二重量測定手段17は、ビールが充填された後におけるビール樽40の総重量を測定する。
【0035】
図示されるように、第二重量測定手段17の下流においては分岐搬送通路18が搬送経路11から分岐している。分岐搬送通路18は通常は動作しておらず、起動部19が起動したときにのみ動作する。第二重量測定手段17により測定されたビール樽40の総重量が所定値Z2を下回った場合には、起動部19が起動して、そのビール樽40は搬送経路11から分岐搬送通路18に排出される。つまり、分岐搬送通路18はそのようなビール樽40を排出する排出手段としての役目を果たす。
【0036】
第一および第二の重量測定手段12、17ならびに起動部19も制御装置30に接続されている。ここで、制御装置30はデジタルコンピュータであり、充填装置10全体の制御を行うようになっている。図1に示されるように制御装置30は、後述する偏差算出部31と、比較部32と、第一および第二の信号送信部33、34と、起動信号送信部36と、記憶部35とを含んでいる。
【0037】
図3は、本発明の第一の実施形態に基づく充填装置の動作プログラムに関するフローチャートである。図3に示される動作プログラム100および後述する動作プログラム200は制御装置30の記憶部35内に予め記憶されているものとする。
【0038】
以下、図3を参照しつつ、本発明の第一の実施形態に基づく充填装置の動作について説明する。動作プログラム100のステップ101においては、搬送経路11上に搬送される空のビール樽40の重量Xを重量測定手段12によって測定する。測定された重量Xは制御装置30の偏差算出部31に供給される。
【0039】
次いで、ステップ102においては、偏差算出部31は、供給された重量Xから記憶部35に予め記憶された空ビール樽基準重量X0を減算し、それにより、偏差ΔX(=X−X0)を算出する。ここで、空ビール樽基準重量X0は、バラツキが存在する複数のビール樽40の平均値または中央値であり、実験などにより予め決定されているものとする。
【0040】
次いで、重量が測定されたビール樽40は上流側スターホイール13およびガイド14によって搬送経路11から回転通路20まで移動され、対応する充填部21によって前述したように把持される。そして、空のビール樽40は回転通路20と共に回転しつつ、充填部21の充填ヘッド23から所定の充填重量Yのビールが当該ビール樽40に充填される(ステップ103)。
【0041】
充填重量Yのビールが充填されて当該ビール樽40が下流側スターホイール15付近まで移動すると、当該ビール樽40は下流側スターホイール15およびガイド16によって回転通路20から搬送経路11まで再び戻される。次いで、第二重量測定手段17において、ビール樽40自体の重量Xとビールの充填重量Yとを合計した総重量Zが測定される。
【0042】
その後、ステップ105においては、偏差ΔXが零よりも小さいか否かが制御装置30の比較部32によって判定される。偏差ΔXが零以上である場合、つまり空のビール樽40の重量Xが空ビール樽基準重量X0以上である場合には、特別な処理を行うことなしに、ステップ107に進む。すなわち、この場合には、第二重量測定手段17によって測定された充填後ビール樽40の総重量Zに基づいて、当該充填後ビール樽40が充填不足であるか否かが判定される。
【0043】
一方、ステップ105において偏差ΔXが零よりも小さい場合には、図1に示される信号送信部33によって偏差ΔXの絶対値に関する信号が第二重量測定手段17に送信される。図1に示されるように、第二重量測定手段17は補正重量算出手段17’を含んでいる。このような場合には、補正重量算出手段17’は、ステップ104において測定された総重量Zに偏差ΔXの絶対値を加算した値を充填後ビール樽40の新たな総重量Z(補正重量)として算出する(ステップ106)。
【0044】
ステップ106において偏差ΔXの絶対値が加算された総重量Zまたはステップ104において測定された総重量Zは制御装置30の比較部32に送信される。そして、ステップ107においては、比較部32によって、総重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2よりも小さいか否かが判定される。ここで、充填後ビール樽基準総重量Z2は、制御装置30の記憶部35に予め記憶された所定の値であり、統計等により予め決定された空ビール樽重量の最大値X2に充填基準重量Y0(ビールの出荷重量)を加算した値である。
【0045】
そして、重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2よりも小さいと判定された場合には、当該充填後ビール樽40のビールは充填不足であると判断される。そのような場合には、起動信号送信部36からの信号が起動部19に送信されることによって分岐搬送通路18が起動する。これにより、当該充填後ビール樽40は搬送経路11から分岐搬送通路18に移送され、充填装置10から排出される(ステップ108)。
【0046】
一方、総重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2よりも小さくないと判定された場合には、充填不足ではないと判断できる。この場合には、起動信号送信部36は動作せず、当該充填後ビール樽40は搬送経路11上をそのまま移動して、次工程に搬送される。
【0047】
空ビール樽重量Xとビール充填重量Yとの関係を数式で示す図4を用いて、第一の実施形態における各種空ビール樽への充填状態を説明する。図4および後述する図6において符号X0は空ビール樽基準重量を示しており、符号X1、X2はそれぞれ空ビール樽の重量Xの最小値および最大値を示している(X1<X0<X2)。また、これら図面においては、充填基準重量Y0のビールが充填されるものとする。
図4において式(A)で示されるように、空ビール樽重量Xが最大値X2である場合には、偏差ΔX(=X2−X0)が正の値になるので、図3におけるステップ106の処理は行われない。従って、充填後におけるビール樽40の総重量Z2は、空ビール樽重量の最大値X2と充填基準重量Y0との和(=総重量Z2)として表される。従って、この場合には、充填不足と判断されることもない。
一方、式(B)で示されるように、空のビール樽40の重量Xが最大値X2よりも小さい場合、例えば空のビール樽40の重量Xが最小値X1である場合には、図3におけるステップ106において補正重量算出手段17’によって偏差ΔX(=X1−X0)の絶対値が総重量に加算される。従って、この場合における総重量Zは、空ビール樽重量の最小値X1と充填基準重量Y0と偏差ΔXの絶対値との和(=総重量Z1)として表される。
図4から分かるように、本発明の第一の実施形態においては、偏差ΔXの絶対値分だけ空のビール樽40の重量を増大させたので、総重量Z1は充填後ビール樽基準総重量Z2に等しくなる。このため、本発明の第一の実施形態においては、軽量(例えば重量が最小値X1)の空のビール樽40を使用した場合であっても、総重量Zを増大させているために、充填不足と判断されることはない。
【0048】
従来技術においては軽量のビール樽40を使用する際には、充填後ビール樽基準総重量Z2を越えるまでビールの充填重量を増やす必要があった。しかしながら、本発明の第一の実施形態においては、偏差ΔXの絶対値を総重量Zに加算した値を新たな総重量Zとしているので、ビールを必要以上に充填する必要はない。このため、ビールを余分に充填することに基づくビール製造業者の負担を抑えることが可能になる。
ところで、実際にはビールの充填重量にはバラツキがあり、実際の充填重量Yが基準充填重量Y0よりも大きい場合および小さい場合が存在する。そして、充填重量Yが基準充填重量Y0よりも小さい場合には、第一の実施形態においてもステップ107において総重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2を下回り、そのビール樽40は充填装置10から排出され、充填不足の樽容器が市場に流通することはない。しかしながら、従来技術において充填重量Yが基準充填重量Y0よりも大きい場合、事実上は充填不足とは言えないにもかかわらず或るビール樽40の重量Xが空ビール樽基準重量X0より軽量であって且つ充填重量Yと基準充填重量Y0との差よりも、前記空ビール樽基準重量X0と前記重量Xとの差の方が大きい場合には、そのビール樽40は充填装置10から排出されていたが、第一の実施形態においては、そのようなビール樽40が充填不足であると判断されることはないため充填装置10から排出されることなく次工程に搬送されるビール樽40の比率を高めることが可能である。
【0049】
図5は本発明の第二の実施形態に基づく充填装置の動作プログラムに関するフローチャートである。図5に示される動作プログラム200のステップ201、202、203は動作プログラム100のステップ101、102、105とそれぞれ同じであるので説明を省略する。
【0050】
第二の実施形態において偏差ΔXが零より小さいと判定された場合には、ステップ204において、第二の信号送信部34が偏差ΔXの絶対値に応じた信号を当該ビール樽40に対応した充填部21に送信する。これにより、所定の充填重量Yに偏差ΔXの絶対値を加算した値が、当該ビール樽40に充填されるべきビールの新たな充填重量Yとして設定される。なお、図5から分かるように、偏差ΔXが零より小さくないと判定された場合には、所定のビール充填重量Yは変更されない。
【0051】
次いで、ステップ205においては、充填部21によって、所定の充填重量Yまたはステップ204において変更された新たな充填重量Yのビールが当該ビール樽40に充填される。そして、ステップ206において、第二重量測定手段17によって充填後におけるビール樽40の総重量Zが測定される。その後、前述したステップ107、108と同様に、図5のステップ207、208において当該ビール樽40が充填不足の場合には、そのビール樽40が充填装置10から排出される。
【0052】
第二の実施形態における各種空ビール樽への充填状態を、図4と同様な図6を用いて説明する。図6に示される式(A)は、図4の場合と同様であるので説明を省略する。
【0053】
図6において式(B')で示されるように、空のビール樽40の重量Xが最大値X2よりも小さい場合、例えば空のビール樽40の重量Xがその最小値X1である場合には、図5におけるステップ204において偏差ΔXの絶対値が充填基準重量Y0に加算される。すなわち、この場合には、充填基準重量Y0に偏差ΔXの絶対値を加算した量のビールが実際に充填されることになる。従って、総重量Zは、空ビール樽の重量の最小値X1と充填基準重量Y0と偏差ΔXの絶対値との和(=総重量Z1')として表される。このように第二の実施形態においては、実際に充填されるビールの充填重量が変更されることに注意されたい。
【0054】
図6から分かるように、本発明の第二の実施形態においては、偏差ΔXの絶対値分だけビールの充填重量Yを増大させたので、この場合における総重量Z1'は充填後ビール樽基準総重量Z2に等しくなる。このため、本発明の第二の実施形態においては、軽量(例えば重量が最小値X1)の空のビール樽40を使用した場合であっても、総重量Zが増大しているために、充填不足と判断されることはない。
【0055】
第二の実施形態においては比較的軽量のビール樽40が使用される場合には、充填後におけるビール樽40の総重量Zを増大させるために、ビールを充填基準重量Y0以上に充填している。これにより、ビールを必要以上に充填することになり、ビール製造業者にとって負担になりうる。しかしながら、充填完了後に充填不足であると判断される場合には充填されたビールを一旦、廃棄して再充填する必要があるので、第二の実施形態においては、そのような場合と比較すれば、廃棄されるビールの量は少なくて済む。
なお、第二の実施形態においても同様に、ビールの充填重量にはバラツキがある。このため、第二の実施形態においても充填重量Yが基準充填重量Y0よりも小さい場合には、ステップ207において総重量Zが充填後ビール樽基準総重量Z2を下回り、そのビール樽40は充填装置10から排出され、充填不足の樽容器が市場に流通することはない。しかしながら、従来技術において充填重量Yが基準充填重量Y0よりも大きい場合、事実上は充填不足とは言えないにもかかわらず、或るビール樽40の重量Xが空ビール樽基準重量X0より軽量であって且つ充填重量Yと基準充填重量Y0との差よりも、前記空ビール樽基準重量X0と前記重量Xとの差が大きい場合には、そのビール樽40は充填装置10から排出されていたが第二の実施形態においては、そのようなビール樽40が充填不足であると判断されることはないため、充填装置10から排出されることなく次工程に搬送されるビール樽40の比率を高めることが可能である。
【0056】
言い換えれば、第二の実施形態においては、総重量Zに基づいて充填不足と判定される可能性があることが、ビールの充填前に偏差ΔXの絶対値から予測できる。そして、充填不足が予測される場合には、充填不足と判断されない程度の余分のビール(偏差ΔXの絶対値に相当)を、ビール充填時に一緒に充填するようにしている。
【0057】
充填時間とビールの流速に関する信号との関係を示す図7(a)および図7(b)を参照して、ビールを余分に充填する充填作用を説明する。これら図面においては、横軸はビールの充填時間を示しており、縦軸はビールの流速に関する信号を示している。なお、これら図面に示されるビールの流速は流量制御弁26により制御される。
【0058】
図7(a)は、図6のステップ203において偏差ΔXが零より小さくないと判定されたためにビールの充填重量を変更しない場合を示している。図7(a)に示されるように、このような場合には、時間T0から時間T1にかけてビールの流速を流速QAから最大流速QBまで徐々に増大させる。ビールの流速を徐々に増大させる理由は、充填時にビール内の炭酸ガスが分離または発泡するのを防止するためである。
【0059】
次いで、ビールの流速が最大流速QBに到達すると、時間T1から時間T2までビールを最大流速QBで充填し続ける。その後、時間T2になると流量制御弁26を閉鎖してビールの供給を瞬時に遮断する。
【0060】
一方、図7(b)は、図6のステップ203において偏差ΔXが零より小さいと判定されたためにビールの充填重量を増大させる場合を示している。このような場合には、時間T0から時間T2までにおいては、ビールの流速は図7(a)の場合と同様に制御される。
【0061】
そして、時間T2に到達すると、ビールの流速を最大流速QBから流速QAまで瞬時に低下させる。次いで、時間T2から時間T3までビールを流速QAで充填する。ここで、時間T3は偏差ΔXの絶対値に応じてビールの充填前に算出される値である。その後、時間T3に到達すると流量制御弁26を閉鎖してビールの供給を遮断する。
【0062】
このように、第二の実施形態においては、通常の場合には充填終了時間である時間T2の後で、ビールを余分に充填するようにしている。これにより、ビール充填重量の追加を比較的容易かつ正確に行うことが可能となる。また、第二の実施形態においては、ビール充填開始時におけるビールの充填重量の挙動を変化させていないので、充填時にビール内の炭酸ガスが分離または発泡するのを防止できるのが分かるであろう。当然のことながら、偏差ΔXの絶対値に対応する分だけ時間T2を後ろにずらすようにしてもよい。また、偏差ΔXの絶対値だけ充填重量を増やすことができるように、流速および時間をどのように変更してもよいことは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に基づくビール樽用の充填装置の概念図である。
【図2】図1の線I−Iに沿ってみた充填部の縦断面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に基づく充填装置の動作プログラムに関するフローチャートである。
【図4】本発明の第一の実施形態において空ビール樽重量Xとビール充填重量Yとの関係を数式で示す図である。
【図5】本発明の第二の実施形態に基づく充填装置の動作プログラムに関するフローチャートである。
【図6】本発明の第二の実施形態において空ビール樽重量Xとビール充填重量Yとの関係を数式で示す図である。
【図7】(a)充填時間とビールの流速に関する信号との関係を示す図である。(b)充填時間とビールの流速に関する信号との関係を示す他の図である。
【図8】従来技術において空ビール樽の重量xとビールの充填重量yとの関係を数式で示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 充填装置
11 搬送経路
12 第一重量測定手段(充填前樽容器重量測定手段)
13、15 スターホイール
14、16 ガイド
17 第二重量測定手段(充填後樽容器重量測定手段)
17’ 補正重量算出手段
18 分岐搬送通路(排出手段)
19 起動部
20 回転通路
21、21a 充填部
22 送液管
23 充填ヘッド
25 流量計
26 流量制御弁
30 制御装置
31 偏差算出部
32 比較部
33 第一信号送信部
34 第二信号送信部
35 記憶部
36 起動信号送信部
40 ビール樽
X 空ビール樽重量
X0 空ビール樽基準重量
Y ビール充填重量
Y0 ビール充填基準重量
Z 総重量
Z2 充填後ビール樽基準総重量
ΔX 偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定する充填前樽容器重量測定手段と、
該充填前樽容器重量測定手段により測定された前記充填前樽容器の重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出する偏差算出手段と、
前記充填前樽容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段と、
該飲料充填手段によって飲料が充填された後における充填後樽容器の重量を測定する充填後樽容器重量測定手段と、
前記偏差算出手段により算出された前記偏差が負である場合に前記充填後樽容器の重量に前記偏差の絶対値を加算した補正重量を算出する充填後樽容器の補正重量算出手段とを具備する、樽容器の充填装置。
【請求項2】
さらに、前記充填後樽容器の重量または前記充填後樽容器の補正重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には当該樽容器を前記充填装置から排出する排出手段を具備する請求項1に記載の充填装置。
【請求項3】
飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定する充填前樽容器重量測定手段と、
該充填前樽容器重量測定手段により測定された前記充填前樽容器の重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出する偏差算出手段と、
前記充填前の樽容器に所定の充填重量の飲料を充填する飲料充填手段とを具備し、
前記偏差算出手段により算出された前記偏差が負である場合には、前記飲料充填手段は、前記所定の充填重量に前記偏差の絶対値を加算した重量の飲料を充填するようにした樽容器の充填装置。
【請求項4】
さらに、前記飲料充填手段によって飲料が充填された後の前記樽容器の重量を測定する充填後樽容器重量測定手段と、
該充填後樽容器重量測定手段によって測定された前記充填後樽容器の重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には当該樽容器を前記充填装置から排出する排出手段とを具備する請求項3に記載の充填装置。
【請求項5】
飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定し、
前記充填前樽容器の測定された重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出し、
前記充填前の樽容器に所定の充填重量の飲料を充填し、
前記偏差が負である場合には、充填後における前記樽容器の重量に前記偏差の絶対値をを加算した充填後樽容器の補正重量を算出する樽容器の充填方法。
【請求項6】
さらに、前記樽容器の重量または充填後樽容器の補正重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には、当該樽容器を前記充填装置から排出する請求項5に記載の充填方法。
【請求項7】
飲料が充填される前における充填前樽容器の重量を測定し、
前記充填前樽容器の測定された重量から所定の充填前樽容器基準重量を減算して偏差を算出し、
前記偏差が負である場合には、所定の充填重量に前記偏差を加算した重量の飲料を充填する樽容器の充填方法。
【請求項8】
さらに、飲料が充填された後の前記樽容器の重量を測定し、
前記樽容器の測定された重量が所定の充填後樽容器基準重量よりも小さい場合には、当該樽容器を前記充填装置から排出する請求項7に記載の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−62994(P2008−62994A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245524(P2006−245524)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】