説明

橋梁および橋梁用制震ダンパー

【課題】構造的にコンパクトかつ軽量とし、橋脚への負荷を小さく抑えることができる、橋梁用の制震ダンパーの提供
【解決手段】
橋梁100は、橋桁102と支持構造体104との間に介在し、橋桁102に作用する水平力を減衰させる制震ダンパー108とを備えている。制震ダンパー108は、中間プレート141と、中間プレート141の両面に取り付けられた粘弾性体142、143と、中間プレート141の両面に取り付けられた粘弾性体142、143にそれぞれ取り付けられたサイドプレート144、145とを備えている。中間プレート141は、支持構造体104に対する橋桁102の可動方向に沿って配置され、中間プレート141は、橋桁102と支持構造体104のうち一方の部材に取り付けられ、かつ、サイドプレート144、145は他方の部材に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁および橋梁用制震ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁は、橋桁と、橋桁を支持する支持構造体(橋台又は橋脚)と、橋桁と支持構造体との間に配置された支承とを備えている。橋桁は、温度変化に対する影響で伸縮する。歪としてはそれ程大きくないが、橋桁は橋軸に沿って長い部材であるため、伸縮量としては、数センチから数十センチに達する場合がある。かかる橋桁の熱による伸縮を吸収するため、橋桁と、支持構造体(橋台又は橋脚)とは剛結せず、橋桁と支持構造体との間に支承が配置されている。支承は、沓(シュー)とも称され、支持構造体に対する橋桁の変位を吸収しうる構造を備えている。支承には、色々な種類がある。例えば、固定支承は、回転変位のみを許容し、鉛直荷重と水平荷重を支持する。可動支承は、鉛直荷重を支持し、水平方向の変位は許容する。橋桁の両端を橋台によって支持する場合、橋桁の一端を固定支承とし、他端を可動支承とする。これにより、橋軸に沿った当該橋桁の伸縮を許容することができる。しかしながら、橋桁の一端を固定支承とし、他端を可動支承とする場合、地震動に伴う荷重が固定支承に集中し易く、固定支承が設けられた支持構造体へ負荷が集中する。
【0003】
このように地震時に固定支承に負荷が集中するのを緩和するため、水平力を分散させることができる水平力分散支承が提案されている。かかる水平力分散支承には、振動を減衰させる装置としてオイルダンパーや、鉛プラグ入り積層ゴム支承などの減衰機能を備えた装置を組み合わせた構造が知られている(例えば、実開平5−3315号公報、特許第4336857号公報、特開平2007−32046号公報)。また、摩擦力によって地震動を減衰させる部材として摩擦ダンパーを用いた構造が知られている(特許4336857号公報)。また、かかる水平力分散支承には、減衰ゴムと、鋼板とを交互に複数枚積層した積層ゴムが用いられる場合がある(例えば、特開2011−33194号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−3315号公報
【特許文献2】特許第4336857号公報
【特許文献3】特開平2007−32046号公報
【特許文献4】特許第4336857号公報
【特許文献5】特開2011−33194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
橋梁の支承構造では、地震動に対する橋桁の揺れを小さくし、かつ、地震動を早期に減衰させることができるように、地震動を減衰させる構造を設けることが望ましい。かかる地震動を減衰させる構造は、構造的にコンパクトかつ軽量とし、橋脚への負荷を小さく抑えることが望まれる。
【0006】
ここで、地震動を減衰させる構造として、シリンダ型のオイルダンパーなどは、シリンダ軸線に沿った一方向には減衰機能を発揮するが、シリンダ軸線に直交する方向には機能しない。このため、シリンダの軸方向を変位させるクレビス構造を組み合わせることや、複数のオイルダンパーを非平行に取り付けることなどが提案されている。この場合、構造は複雑になるが、それでもシリンダ型のオイルダンパーでは、橋桁の可動方向に沿った全方向に均一に減衰機能を発揮させるには至らない。また、シリンダ型のオイルダンパーは、経年的にはオイルが漏れるなどの問題が生じ得る。このため、メンテナンスの頻度を高くする必要がある。また、オイルダンパーは、速度依存性がある。例えば、橋桁のゆっくりとした変位や、長周期の振動に対しては抵抗が小さくなるが、直下型の地震動のように、短周期の振動に対しては抵抗が高くなる。
【0007】
また、水平な面に対して全方向に機能させることができる減衰装置として、積層ゴムがある。積層ゴムは、所要の鉛直荷重を支持する必要があるため、減衰ゴムと、鋼板とを交互に複数枚積層する構造である。かかる積層ゴムは、製造上割高であり、コストが嵩み易く、かつ、設置するスペースに所要の高さや面積を要する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る橋梁は、橋桁と、橋桁を支持する支持構造体と、橋桁と支持構造体との間に介在し、橋桁の鉛直荷重を支持する可動支承と、橋桁と支持構造体との間に介在し、橋桁に作用する水平力を減衰させる制震ダンパーとを備えている。制震ダンパーは、中間プレートと、中間プレートの両面に取り付けられた粘弾性体と、中間プレートの両面に取り付けられた粘弾性体にそれぞれ取り付けられたサイドプレートとを備えている。中間プレートは、支持構造体に対する前記橋桁の可動方向に沿って配置され、中間プレートは、橋桁と支持構造体のうち一方の部材に取り付けられ、かつ、サイドプレートは他方の部材に取り付けられている。
【0009】
かかる橋梁によれば、地震時に橋桁と支持構造体のうち一方の部材に取り付けられた中間プレートと、他方の部材に取り付けられたサイドプレートとは、橋桁の可動方向に沿って相対的に変位する。これにより、粘弾性体にせん断変形が生じ、橋桁に作用する振動を早期に減衰させることができる。また、かかる構造によれば、制震ダンパーの粘弾性体は、一方向に限らず、橋桁の可動方向に沿って360度の何れの方向にもせん断変形が可能である。また、制震ダンパーは、中間プレートと、中間プレートの両側面に取り付けられた粘弾性体と、中間プレートの両側面に取り付けられた粘弾性体にそれぞれ取り付けられ、中間プレートに対してせん断方向に変位可能なサイドプレートとを備えている。この場合、減衰ゴムと、鋼板とを交互に複数枚積層した積層ゴムに比べて、構造が簡素であり、製造が容易である。また、中間プレートは、支持構造体に対する橋桁の可動方向に沿って配置されている。また、橋桁と支持構造体のうち、中間プレートは一方の部材に取り付けられ、かつ、サイドプレートは他方の部材に取り付けられている。このため、設置スペースにも自由度を高めることが容易である。
【0010】
ここで、粘弾性体は、中間プレートと前記サイドプレートとに、それぞれ直接接着されていてもよい。また、粘弾性体は、中間プレートとサイドプレートとの間において、矩形柱で構成されており、当該矩形の角はRが付けられていてもよい。また、粘弾性体は、高減衰ゴム成形体であってもよい。また、高減衰ゴム成形体は、主鎖にC−C結合を有するポリマーからなる基材ゴムに、該基材ゴム100重量部に対して100〜150重量部のシリカを添加し、該シリカに対してシラン化合物を10重量%〜30重量%の割合で配合したゴムであってもよい。
【0011】
また、橋梁は、さらに、支持構造体に対して橋桁の一箇所において鉛直方向荷重と、水平方向荷重とを支持する固定支承を備えていてもよい。
【0012】
また、橋梁用制震ダンパーは、中間プレートと、中間プレートの両側面に取り付けられた粘弾性体と、中間プレートの両側面に取り付けられた粘弾性体にそれぞれ取り付けられ、中間プレートに対してせん断方向に変位可能なサイドプレートとを備えている。そして、中間プレートとサイドプレートのうち、一方の部材には橋桁に取り付けられる第1取付部が設けられており、他方の部材には前記橋桁を支持する支持構造体に取り付けられる第2取付部が設けられている。
【0013】
この場合、粘弾性体は、中間プレートとサイドプレートとに、それぞれ直接接着されていてもよい。また、粘弾性体は、中間プレートとサイドプレートとの間において、矩形柱で構成されており、当該矩形の角はRが付けられていてもよい。
【0014】
また、粘弾性体は、高減衰ゴム成形体であってもよい。この場合、高減衰ゴム成形体は、例えば、主鎖にC−C結合を有するポリマーからなる基材ゴムに、該基材ゴム100重量部に対して100〜150重量部のシリカを添加し、該シリカに対してシラン化合物を10重量%〜30重量%の割合で配合したゴムであるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る橋梁を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る橋梁に取り付けられた制震ダンパーを示す側面図である。
【図3】図3は、図2のIII−III断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る制震ダンパーの平面図である。
【図5】図5は、中間プレートの平面図である。
【図6】図6は、中間プレートの側面図である。
【図7】図7は、サイドプレートの平面図である。
【図8】図8は、サイドプレートの側面図である。
【図9】図9は、支持構造体に対して橋桁が変位した場合における制震ダンパーの状態を示す側面図である。
【図10】図10は、支持構造体に対して橋桁が変位した場合における制震ダンパーの状態を示す側面図である。
【図11】図11は、支持構造体に対して橋桁が変位した場合における制震ダンパーの状態を示す平面図である。
【図12】図12は、制震ダンパーのヒステリシスループを模式的に示している。
【図13】図13は、制震ダンパーの粘弾性体にせん断変位が生じた状態を示す模式図である。
【図14】図14は、他の実施形態に係る橋梁の支承構造を示す図である。
【図15】図15は、他の実施形態に係る制震ダンパーの取付構造を示す側面図である。
【図16】図16は、他の実施形態に係る制震ダンパーの取付構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る橋梁および橋梁用制震ダンパーを図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、同じ作用を奏する部材または部位には、適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
【0017】
≪橋梁100≫
図1は、本発明の一実施形態に係る橋梁100を示す図である。橋梁100は、図1に示すように、橋桁102と、支持構造体104と、可動支承106と、制震ダンパー108とを備えている。ここで、橋桁102は、橋板を支える部材である。また、支持構造体104は、橋桁102を支持する部材である。支持構造体104には、橋脚121、122や橋台123、124が含まれる。橋脚121、122は、橋桁102を支える支柱であり、橋台123、124は、橋桁102を支える基礎(土台)である。
【0018】
≪橋脚121、122、橋台123、124≫
この実施形態では、橋脚121、122は、地面10に埋設させた基礎部121a、122aと、基礎部121a、122aから立った状態で設置されている。橋脚121、122の上端には、橋桁102を直接支持する支承を設置する支承設置部121b、122bが設けられている。橋台123、124は、概ね地面10に埋設されている。地面10から露出した橋台123、124の上部には、橋桁102を直接支持する支承を設置する支承設置部123a、124aが設けられている。
【0019】
≪橋桁102≫
ここで、橋桁102は、一般的には、長さが数メートルから数十メートルに達する鋼板製の長軸の部材であり、温度環境の変化に伴う熱膨張と熱収縮によって伸縮する。伸縮量としては、数センチ、場合によっては、数十センチに達する。かかる橋桁102の熱による伸縮を吸収するため、橋桁102と、支持構造体104(橋台123、124または橋脚121、122)とは、剛結せず、支持構造体104に対する橋桁102の変位を許容しうる構造としている。この実施形態では、支持構造体104が橋桁102の変位を許容できるように、橋桁102と支持構造体104との間に、図2および図3に示すように、可動支承106と制震ダンパー108とが設けられている。図2は、この実施形態における橋梁100に取り付けられた制震ダンパー108の側面図である。また、図3は、制震ダンパー108が取り付けられた部位について、橋軸Lに対して直交する断面図(図2のIII−III断面図)である。
【0020】
≪可動支承106≫
ここで、可動支承106は、橋桁102と支持構造体104との間に介在し、橋桁102の鉛直荷重を支承する部材である。この実施形態では、可動支承106は、橋桁102に作用する水平力によって、支持構造体104(ここでは、橋脚121、122と橋台123、124)に対して橋桁102が変位するのを許容する部材である。ここでは、橋桁102は、橋脚121、122と橋台123、124に対して、橋軸Lの方向のみならず、橋軸Lに対して幅方向に移動することが許容されている。また、橋桁102の支承構造によっては、橋桁102は、橋軸Lの方向のみならず、例えば、斜めに移動することも許容されうる。制震ダンパー108は、橋桁102と支持構造体104との間に介在し、橋桁102に作用する水平力を減衰させる部材である。かかる可動支承106は、滑り支承や転がり支承などで構成するとよい。なお、支持構造体104に対する橋桁102の可動領域を拘束するため、支持構造体104と橋桁102との間には、適宜に固定支承(図示省略)やストッパ(図示省略)が設けられている。
【0021】
この実施形態では、図1に示すように、橋台123、124の支承設置部123a、124aに制震ダンパー108が設けられている。図3に示すように、可動支承106は、支承設置部123a、124aにおいて、橋桁102の幅方向W(橋軸直交方向とも称される。)において、少なくとも2箇所に設けられている。この実施形態では、可動支承106は、支承設置部123a、124aにおいて、制震ダンパー108を間に挟むように、2箇所に設けられている。これにより、橋桁102は、橋桁102の長さ方向に沿った橋軸Lの周りに回転しないように可動支承106によって支持されている。
【0022】
≪制震ダンパー108≫
図4は、制震ダンパー108の平面図である。この実施形態では、制震ダンパー108は、図2に示すように、中間プレート141と、粘弾性体142、143と、サイドプレート144、145とを備えている。
【0023】
≪中間プレート141≫
図5は中間プレート141の平面図であり、図6は中間プレート141の側面図である。この実施形態では、中間プレート141は、図2に示すように、粘弾性体142、143が取り付けられる平板状の部材である。図5中、中間プレート141に粘弾性体142、143が取り付けられる部位を2点鎖線で示す。
【0024】
図5および図6に示すように、中間プレート141の一端には橋桁102に取り付けられる取付片151が設けられている。取付片151は、板状の部材であり、中間プレート141に対して直交するように取り付けられている。中間プレート141の一端と取付片151との交差部分には、リブ152が取り付けられている。中間プレート141と、取付片151と、リブ152は、それぞれ溶接されている。この制震ダンパー108では、図2に示すように、中間プレート141の両側面に粘弾性体142、143が取り付けられている。
【0025】
≪サイドプレート144、145≫
サイドプレート144、145は、図2に示すように、中間プレート141の両側面に取り付けられた粘弾性体142、143に対して、中間プレート141とは反対側の面にそれぞれ取り付けられている。サイドプレート144、145は、中間プレート141に対してせん断方向に変位可能な部材である。図7はサイドプレート144、145の平面図であり、図8はサイドプレート144、145の側面図である。この実施形態では、サイドプレート144、145は、粘弾性体142、143が取り付けられる平板状の部材である。
【0026】
図7および図8に示すように、サイドプレート144、145の一端には橋台123に取り付けられる取付片161が設けられている。取付片161は、板状の部材であり、サイドプレート144、145に対して直交するように取り付けられている。サイドプレート144、145の一端と取付片161との交差部分には、リブ162が取り付けられている。サイドプレート144、145と、取付片161と、リブ162は、それぞれ溶接されている。
【0027】
≪粘弾性体142、143≫
粘弾性体142、143は、この実施形態では、矩形のゴム成形体である。粘弾性体142、143には、例えば、高減衰性を有する粘弾性ゴム(高減衰ゴム)を用いることができる。かかる高減衰ゴムには、例えば、天然ゴム,スチレンブタジエンゴム(SBR),ニトリルブタジエンゴム(NBR),ブタジエンゴム素材(BR),イソプレンゴム(IR),ブチルゴム(IIR),ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR),クロロプレンゴム(CR)のゴム素材に、高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物を用いることができる。高減衰性を発揮させうる添加剤としては、例えば、カーボンブラックやシラン化合物など、種々の添加剤が知られている。なお、粘弾性体142、143についての好適な一例については、後で詳述する。
【0028】
この実施形態では、粘弾性体142、143は、中間プレート141と、サイドプレート144、145に直接接着されている。ここでは、粘弾性体142、143は、基材として、ゴムが用いられており、ゴム素材を加硫成形する際に、中間プレート141とサイドプレート144、145とに加硫接着させるとよい。
【0029】
例えば、粘弾性体142、143を成形する際、中間プレート141の両面にそれぞれ対向するように金型にサイドプレート144、145を配置する。この実施形態では、粘弾性体142、143を成形する部位において、中間プレート141とサイドプレート144、145とを対向させる。そして、中間プレート141とサイドプレート144、145とが対向する部位に対して、サイドプレート144、145のリブ162は外側に向ける。また、中間プレート141の取付片151と、サイドプレート144、145の取付片161とは、中間プレート141とサイドプレート144、145とが対向する部位から互いに反対側に延出させる。
【0030】
粘弾性体142、143は、このように中間プレート141とサイドプレート144、145が配置された金型において、中間プレート141とサイドプレート144、145とが対向した空間にそれぞれ成形される。この際、粘弾性体142、143は、中間プレート141とサイドプレート144、145のそれぞれに加硫接着される。これにより、中間プレート141の両面に粘弾性体142、143を取り付け、かつ、中間プレート141の両面に取り付けられた粘弾性体142、143にそれぞれサイドプレートを取り付けることができる。かかる制震ダンパー108のサイドプレート144、145は、粘弾性体142、143のせん断変形を伴わせて、中間プレート141に対してせん断方向に変位させることができる。
【0031】
また、この実施形態では、粘弾性体142、143は、断面が矩形の柱状に成形されており、矩形の角部にはRが設けられている。このように、粘弾性体142、143の角部に所要の大きさのRを設けることにより、せん断変形する際に角部への応力集中を小さく抑えることができる。また、所要の大きさのRを設けることによって、中間プレート141に対してサイドプレート144、145が変位する方向に対する影響が小さくなる。なお、粘弾性体142、143は、断面を矩形とすることに限らない。例えば、粘弾性体142、143は、断面を円形にしてもよい。粘弾性体142、143は、断面を円形にすることにより、中間プレート141に対してサイドプレート144、145が変位する方向に対する影響が概ね均一になる。
【0032】
この実施形態では、橋桁102と支持構造体104との間に、可動支承106と、制震ダンパー108とが介在している。このため、橋桁102は、可動支承106によって支持されつつ、地震時の振動や風などの影響を受けて、支持構造体104に対して移動しうる。上述した制震ダンパー108の中間プレート141は、かかる支持構造体104に対する橋桁102の可動方向に沿って配置されている。この実施形態では、中間プレート141は、支持構造体104に対する橋桁102の可動方向に実質的に平行に配置されている。ここで、橋桁102の可動方向は、支持構造体104に対して橋桁102が移動しうる方向を意味する。従って、橋桁102の支承構造によって定まり、必ずしも一方向に限定されない。そして、中間プレート141は橋桁102と支持構造体104のうち一方の部材(この実施形態では、橋桁102)に取り付けられている。また、制震ダンパー108のサイドプレート144、145は、橋桁102と支持構造体104のうち他方の部材(この実施形態では、支持構造体104としての橋台123)に取り付けられている。
【0033】
≪制震ダンパー108の取り付け≫
詳しくは、この実施形態では、図2に示すように、制震ダンパー108は、取付部材171、172を介して、橋桁102と、支持構造体104(具体的には、支承設置部123a)との間に取り付けられている。
【0034】
≪取付部材171≫
取付部材171は、橋桁102に中間プレート141を取り付ける部材である。取付部材171は、橋桁102の下面に取り付けられる第1プレート171aと、中間プレート141の取付片151が取り付けられる第2プレート171bと、リブ171cとを備えている。ここでは、第1プレート171aと第2プレート171bとの端部を直交させ、かつ、角部にリブ171cを取り付けて補強している。第1プレート171aと第2プレート171bとリブ171cとは溶接するとよい。この実施形態では、第1プレート171aは橋桁102の下面に取り付けられており、第2プレート171bは、橋桁102の下方に延出し、制震ダンパー108が取り付けられる橋台123の支承設置部123aの方に向けられている。
【0035】
≪取付部材172≫
また、取付部材172は、支持構造体104(具体的には、橋台123の支承設置部123a)とサイドプレート144、145とを取り付ける部材である。取付部材172は、支承設置部123aに取り付けられる第1プレート172aと、サイドプレート144、145の取付片161が取り付けられる第2プレート172bと、リブ172cとを備えている。ここでは、第1プレート172aと第2プレート172bとの端部を直交させ、かつ、角部にリブ172cを取り付けて補強している。第1プレート172aと第2プレート172bとリブ172cとは溶接するとよい。この実施形態では、第1プレート172aは支承設置部123aの上面に取り付けられており、第2プレート172bは支承設置部123aの上方に延出し、橋桁102の下部に取り付けられた取付部材171の第2プレート171bに対向している。
【0036】
図2に示すように、橋桁102に取り付けられた取付部材171の第2プレート171bと、支承設置部123aに取り付けられた取付部材172の第2プレート172bとは、それぞれ橋桁102の橋軸方向に向けられて、互いに対向している。この制震ダンパー108の中間プレート141の取付片151は、橋桁102に取り付けられた取付部材171の第2プレート171bに取り付けている。また、サイドプレート144、145の取付片161は、支承設置部123aに取り付けられた取付部材172の第2プレート172bに取り付けられている。制震ダンパー108の中間プレート141とサイドプレート144、145、および、取付部材171、172の取り付けは、特に限定されないが、ボルトナットのように、取り外し可能な締結構造を用いるとよい。これにより、制震ダンパー108の交換が容易になる。
【0037】
制震ダンパー108と、橋桁102または支持構造体104との間に、初期状態で、粘弾性体142、143にせん断変形が生じないように調整する調整部材を設けてもよい。かかる調整部材として、この実施形態では、図2に示すように、中間プレート141と、取付部材171との間にスペーサ173を介在させている。かかるスペーサ173は、支持構造体104に橋桁102を設置した初期状態で、粘弾性体142、143にせん断変形が生じないように、中間プレート141の取付位置を調整する部材である。なお、初期状態で、粘弾性体142、143にせん断変形が生じないように調整する調整部材は、かかるスペーサ173に限定されない。
【0038】
≪制震ダンパー108の作用≫
図9と図10は、それぞれ支持構造体104としての橋台123、124に対して橋桁102が橋軸Lに沿って変位した場合を示している。また、図11は、支持構造体104としての橋台123、124に対して橋桁102が橋軸Lに直交する方向に変位した場合について、制震ダンパー108の状態を示す平面図である。
【0039】
この制震ダンパー108は、制震ダンパー108の中間プレート141は、かかる支持構造体104に対する橋桁102の可動方向に実質的に平行に配置されている。そして、中間プレート141は橋桁102と支持構造体104のうち一方の部材(この実施形態では、橋桁102)に取り付けられている。また、制震ダンパー108のサイドプレート144、145は、橋桁102と支持構造体104のうち他方の部材(この実施形態では、支持構造体104としての橋台123)に取り付けられている。このため、図9〜図11に示すように、支持構造体104としての橋台123、124に対して橋桁102が変位した場合、それに応じて制震ダンパー108の中間プレート141とサイドプレート144、145とが相対的に変位する。かかる中間プレート141とサイドプレート144、145の相対変位に応じて、粘弾性体142、143はせん断変形する。
【0040】
制震ダンパー108の粘弾性体142、143には、支持構造体104としての橋台123、124に対する橋桁102の移動方向に関わらず、せん断変形が入力される。図12は、制震ダンパー108のヒステリシスループを模式的に示している。図12中の横軸は粘弾性体142、143に作用するせん断変位であり、縦軸は中間プレート141とサイドプレート144、145に作用させるせん断荷重を示している。この制震ダンパー108は、一周期毎に、当該ヒステリシスループAで囲まれた部分のエネルギに相当する振動のエネルギを吸収することができる。
【0041】
なお、この制震ダンパー108では、図2に示すように、中間プレート141の両側に粘弾性体142、143が接着されている。さらに、サイドプレート144、145は、粘弾性体142、143の外側に接着されている。このため、中間プレート141とサイドプレート144、145とにせん断方向の変位が生じたときに、両側の粘弾性体142、143から、それぞれ中間プレート141に作用するモーメント(中間プレート141を回転させようとする力)が互いに相殺される。このため、中間プレート141とサイドプレート144、145とは、安定した状態でせん断変位が生じる。
【0042】
図13は、制震ダンパー108の粘弾性体142、143にせん断変位が生じた状態を模式的に示している。図13中の矢印a、bは、粘弾性体142、143に作用するせん断力を示している。また、同図中の矢印c、dは、粘弾性体142、143に作用するモーメントを示している。この場合、制震ダンパー108のせん断力a、bが釣合い、さらにモーメントc、dが釣合う。これにより、制震ダンパー108に安定した状態でせん断変形が生じ、支持構造体104と橋桁102とが安定した状態で相対変位する。また、サイドプレート144、145は、それぞれモーメントc、dによって、回転する方向に力を受ける。この実施形態では、リブ162によって、サイドプレート144、145が回転しないように支持されている。
【0043】
この制震ダンパー108によれば、中間プレート141とサイドプレート144、145とにせん断変位が生じた場合に、粘弾性体142、143に生じるせん断変形によって所要の抗力が生じる。これにより、橋梁100に生じる振動を早期に減衰させることができる。なお、上記のように、この制震ダンパー108は、橋桁102の変位に応じて、粘弾性体142、143にせん断変形が生じる。このため、制震ダンパー108を構成する中間プレート141、粘弾性体142、143、サイドプレート144、145の各部材は、かかるせん断荷重に対して所要の耐力を備えるように設計されているとよい。
【0044】
この制震ダンパー108は、粘弾性体142、143に作用するせん断変形に応じて抗力が生じるので、地震動のように、短周期の振動に対しても、所要の減衰機能を発揮することができる。また、制震ダンパー108は、基本的には、中間プレート141と、粘弾性体142、143と、サイドプレート144、145との5層構造であり、積層ゴム支承に比べて構造が簡素であり、製造は容易である。また、積層ゴム支承に比べて、高さを抑えることができ、設置スペースにも自由度がある。
【0045】
また、上述した実施形態では、粘弾性体142、143は、中間プレート141とサイドプレート144、145とに、それぞれ直接接着(加硫接着)されている。このため、部品点数を抑えることができ、かつ、制震ダンパー108の設置が容易になる。
【0046】
また、上述したように粘弾性体142、143は、中間プレート141とサイドプレート144、145との間において、矩形柱で構成されており、当該矩形の角はRが付けられている。この場合、粘弾性体142、143を矩形とすることによって、中間プレート141とサイドプレート144、145とに略矩形のプレートを採用した場合に、粘弾性体142、143のせん断断面に比較的広い面積を確保することができる。また、かかる矩形の角にRを設けることによって、粘弾性体142、143がせん断変形する際に角部への応力集中を小さく抑えることができる。
【0047】
≪粘弾性体142、143の好適例≫
ここで、粘弾性体142、143には、せん断変形に対して、所要の抗力を発揮し、振動を早期に減衰させる機能を奏する高減衰ゴムの成形体が用いられていると良い。かかる高減衰ゴム成形体としては、主鎖にC−C結合を有するポリマーからなる基材ゴム100重量部に対してシリカを100〜150重量部添加し、そのシリカに対してシラン化合物を10重量%〜30重量%配合したものを挙げることができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態に係る橋梁100および橋梁用制震ダンパー108を説明したが、本発明は上記の実施形態には限定されない。
【0049】
例えば、図2に示す形態では、制震ダンパー108は、橋台123、124に設けられているが、制震ダンパー108は、支持構造体104に設けられていればよく、橋脚121、122に設けられていてもよい。また、制震ダンパー108は、橋桁102を支持する一部の支持構造体104に設けてもよいし、全ての支持構造体104に設けてもよい。また、中間プレート141を橋桁102に取り付け、サイドプレート144、145を橋台123、124(支持構造体104)に取り付けた構造を例示したが、これに限定されない。例えば、中間プレート141を支持構造体104に取り付け、サイドプレート144、145を橋桁102に取り付けてもよい。
【0050】
また、図14は、他の実施形態に係る橋梁100Aの支承構造を示している。この橋梁100Aは、図14に示すように、橋桁102の一箇所において鉛直方向荷重と、水平方向荷重とを支持する固定支承112を備えていてもよい。このように、橋梁の支承構造は、一部を固定支承としてもよいし、また、固定支承を備えずに、全可動支承としてもよい。
【0051】
また、例えば、初期状態で、粘弾性体142、143にせん断変形が生じないように調整する調整部材として、中間プレート141と橋桁102に設けた取付部材171との間に、スペーサ173を配置する例を挙げた(図2)。かかる調整部材は、かかる形態に限定されず、例えば、サイドプレート144、145と、橋台123、124に設けた取付部材172との間にスペーサを配置してもよい。
【0052】
また、図15は、他の実施形態に係る橋梁100Bを示している。この橋梁100Bでは、制震ダンパー108は、設置スペースの都合により、支持構造体104(橋脚121、122や橋台123、124)の側面に取り付けられていてもよい。この場合、支持構造体104の側面に、制震ダンパー108を取り付ける取付部材172Aを取り付けている。図示例では、橋台123(支持構造体104)の側面に取り付けられた取付部材172Aには、制震ダンパー108のサイドプレート144、145が取り付けられている。
【0053】
また、中間プレート141や、サイドプレート144、145は、上述した形態に限定されない。図16は、他の実施形態に係る橋梁100Cを示している。この橋梁100Cでは、制震ダンパー108Aの中間プレート141Aおよびサイドプレート144A、145Aは、単純な平板で構成されている。そして、かかる中間プレート141Aや、サイドプレート144A、145Aは、適当な取付部材181、182を介在させて、橋桁102に取り付けられた取付部材171と、支持構造体104に取り付けられた取付部材172とに取り付けられている。この場合、中間プレート141Aと、サイドプレート144A、145Aは平板で構成できるので、粘弾性体142、143を成形する際の金型において、中間プレート141Aと、サイドプレート144A、145Aを組み込む構造が簡素化し、金型を安価に形成することができる。これにより、製造コストを安価に抑えることができる。この場合、中間プレート141Aと取付部材181との取付構造、サイドプレート144A、145Aと取付部材182との取付構造は、取り外し可能構造にするとよい。図16に示す例では、各部材をボルトナットで締結している。
【0054】
以上、本発明の一実施形態に係る橋梁について、種々を説明したが、本発明に係る橋梁は、特段言及されない限りにおいて、上述した何れの実施形態にも限定されない。
【符号の説明】
【0055】
10 地面
100、100A、100B、100C 橋梁
102 橋桁
104 支持構造体
106 可動支承
108,108A 制震ダンパー(橋梁用制震ダンパー)
112 固定支承
121、122 橋脚
121a、122a 基礎部
121b、122b 支承設置部
123、124 橋台
123a、124a 支承設置部
141、141A 中間プレート
142、143 粘弾性体
144、144A、145、145A サイドプレート
151 取付片
152 リブ
161 取付片
162 リブ
171 取付部材
171a 第1プレート
171b 第2プレート
171c リブ
172、172A 取付部材
172a 第1プレート
172b 第2プレート
172c リブ
173 スペーサ
181、182 取付部材
A ヒステリシスループ
L 橋軸
W 橋桁の幅方向(橋軸直交方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁と、
前記橋桁を支持する支持構造体と、
前記橋桁と支持構造体との間に介在し、前記橋桁の鉛直荷重を支持する可動支承と、
前記橋桁と支持構造体との間に介在し、前記橋桁に作用する水平力を減衰させる制震ダンパーとを備え、
前記制震ダンパーは、
前記中間プレートと、
前記中間プレートの両面に取り付けられた粘弾性体と、
前記中間プレートの両面に取り付けられた粘弾性体にそれぞれ取り付けられたサイドプレートと
を備え、
前記中間プレートは、前記支持構造体に対する前記橋桁の可動方向に沿って配置され、
前記中間プレートは、前記橋桁と前記支持構造体のうち一方の部材に取り付けられ、かつ、前記サイドプレートは他方の部材に取り付けられた、橋梁。
【請求項2】
前記粘弾性体は、前記中間プレートと前記サイドプレートとに、それぞれ直接接着されている、請求項1に記載された橋梁。
【請求項3】
前記粘弾性体は、前記中間プレートと前記サイドプレートとの間において、矩形柱で構成されており、当該矩形の角はRが付けられている、請求項1または2に記載された橋梁。
【請求項4】
前記粘弾性体は、高減衰ゴム成形体である、請求項1から3までの何れか一項に記載された橋梁。
【請求項5】
前記高減衰ゴム成形体は、主鎖にC−C結合を有するポリマーからなる基材ゴムに、該基材ゴム100重量部に対して100〜150重量部のシリカを添加し、該シリカに対してシラン化合物を10重量%〜30重量%の割合で配合したゴムである、請求項4に記載された橋梁。
【請求項6】
さらに、前記支持構造体に対して前記橋桁の一箇所において鉛直方向荷重と、水平方向荷重とを支持する固定支承を備えた、請求項1から5までの何れか一項に記載された橋梁。
【請求項7】
中間プレートと、
前記中間プレートの両側面に取り付けられた粘弾性体と、
前記中間プレートの両側面に取り付けられた粘弾性体にそれぞれ取り付けられ、前記中間プレートに対してせん断方向に変位可能なサイドプレートと
を備え、
前記中間プレートと前記サイドプレートのうち、一方の部材には橋桁に取り付けられる第1取付部が設けられており、他方の部材には前記橋桁を支持する支持構造体に取り付けられる第2取付部が設けられた、橋梁用制震ダンパー。
【請求項8】
前記粘弾性体は、前記中間プレートと前記サイドプレートとに、それぞれ直接接着されている、請求項7に記載された橋梁用制震ダンパー。
【請求項9】
前記粘弾性体は、前記中間プレートと前記サイドプレートとの間において、矩形柱で構成されており、当該矩形の角はRが付けられている、請求項7または8に記載された橋梁用制震ダンパー。
【請求項10】
前記粘弾性体は、高減衰ゴム成形体である、請求項7から9までの何れか一項に記載された橋梁用制震ダンパー。
【請求項11】
前記高減衰ゴム成形体は、主鎖にC−C結合を有するポリマーからなる基材ゴムに、該基材ゴム100重量部に対して100〜150重量部のシリカを添加し、該シリカに対してシラン化合物を10重量%〜30重量%の割合で配合したゴムである、請求項10に記載された橋梁用制震ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−108260(P2013−108260A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253201(P2011−253201)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】