説明

橋梁とその施工方法

【課題】桁下空間における施工足場等の設置を不要とでき、高い施工性の下で構造信頼性の高い接合構造を備えた橋梁とその施工方法を提供すること。
【解決手段】上フランジと下フランジ11を少なくとも備えた鋼製の溶接桁もしくは形鋼からなる2以上の鋼桁1が橋軸方向に繋がれて主桁100が構成され、2以上の該主桁100が橋軸直角方向に併設されて構成される橋梁400であり、相互に繋がれる鋼桁1のうち、それぞれの鋼桁1の下フランジ11同士が嵌合継手10によって繋がれて主桁100が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋軸方向に伸びる複数の主桁が橋軸直角方向に併設されてなる橋梁とその施工方法に係り、特に桁下空間に余裕がない場合に好適な橋梁とその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
計画高水位、桁下に通過鉄道や道路などがあって桁下空間に制約がある条件下で橋梁を新設する場合や、老朽化したRC橋(RC: Reinforced Concrete)やPC橋(PC: Prestressed Concrete)等の構造高さの低い橋梁の架け替えをおこなう場合などにおいては、桁高が支間長(橋脚間の距離)の1/30〜1/40程度の中規模(支間長は20m〜50m程度)のいわゆる「低桁高橋」が一般に施工される。なお、低桁高橋に関する公開技術として特許文献1に開示の合成桁橋を挙げることができる。
【0003】
このような低桁高橋においては、低桁高でかつ高剛性の橋梁とするために主桁を構成する下フランジが往々にして厚くなってしまい、それに伴って、箱桁等を繋いで主桁を構成する際の高力ボルト(ハイテンションボルト、以下、HTBという)による摩擦接合におけるボルト本数が多くなり易いことから、施工性が悪く、また、当該箇所の防食を現場で施工することから長期的な防食性能に対する懸念もある。
【0004】
そこで、HTB摩擦接合に代わって現場溶接による接合を挙げることができるが、この施工方法は、降雨や降雪(湿度に関係)、風や台風といった自然条件の影響を受け易いことから防護設備の設置が必須となり、結果として工程の長期化に繋がり、さらに別途非破壊検査も必須となることから、施工手間が多くなるという課題がある。
【0005】
また、上記するHTB摩擦接合、現場溶接接合のいずれであっても、低桁高橋の桁下空間には吊り足場をはじめとする施工足場を設ける必要性が極めて高い。たとえば、下フランジでのHTBの締め付け作業においては、下フランジの下方からHTBの挿入あるいは締め付けをおこなうことがあるし、いずれの接合も接合後の下フランジ下面の塗装が必要となる。
【0006】
しかしながら、上記するように桁下空間が狭隘な場合には施工足場を設置するに十分なスペースが確保し難いケースや、空間が狭隘ゆえに設置自体に時間を要するケースがあり、このことも工程の長期化や施工性の低下の大きな原因の一つとなる。
【0007】
以上のことより、たとえば桁下空間に余裕がない施工条件においても、主桁の構築にあたって少なくともその構成部材である下フランジにおいてHTB接合や溶接接合以外の接合方法であって、かつ自然条件に左右され難い接合方法を適用することにより、この桁下空間に施工足場等を設置するのを不要とでき、自然条件如何に関わらずに計画工程に沿って施工をおこなうことができ、高い施工性の下で構造信頼性の高い接合構造を備えた橋梁とこのような橋梁の施工方法に関する技術の発案が当該技術分野において急務の解決課題の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−132749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、桁下空間における施工足場等の設置を不要とでき、高い施工性の下で構造信頼性の高い接合構造を備えた橋梁とその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による橋梁は、上フランジと下フランジを少なくとも備えた鋼製の溶接桁もしくは形鋼からなる2以上の鋼桁が橋軸方向に繋がれて主桁が構成され、2以上の該主桁が橋軸直角方向に併設されて構成される橋梁であって、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジ同士が嵌合継手によって繋がれて前記主桁が形成されているものである。
【0011】
本発明の橋梁では、鋼製の溶接桁(箱桁など)もしくは形鋼(H形鋼、I形鋼、C形鋼など)といった鋼桁が橋軸方向に繋がれて構成された主桁に関し、少なくとも繋がれる2つの鋼桁を構成する下フランジ同士を嵌合継手によって繋ぐものである。
【0012】
ここで、「嵌合継手」とは、たとえば被接続部材である2つの下フランジの双方に雄部材(たとえばせん断キー)を設けておき(工場や現場ヤードにて架設に先んじて下フランジに固着しておく)、双方の雄部材と嵌り込む2つの凹溝を備えた雌部材の該凹溝を対応する雄部材に嵌合させることによって形成される継手のことを意味している。
【0013】
この嵌合継手は、たとえば2つの下フランジの双方に設けられた雄部材に対して、これらに嵌り込む凹溝を備えた雌部材を鋼桁の側方から滑り込ませるようにしてその凹溝と対応する雄部材を嵌め合いすることにより、容易に嵌合継手が形成できる。すなわち、作業員は、たとえば鋼桁の下フランジの上面に載った姿勢で、鋼桁の側方から把持した雌部材を雄部材に嵌り込むようにして取り付けることができるため、下フランジ同士の接合に際して下フランジ下方に施工足場は不要となる。
【0014】
2以上の鋼桁の少なくとも下フランジ同士を嵌合継手で繋ぎ、上フランジ同士は適宜の方法(HTB、溶接等)で繋ぎながら橋軸方向に伸びる所定支間長の主桁が形成され、この主桁を橋軸直角方向に隣り合うように、もしくは間隔を置いて併設し、必要に応じて併設する主桁同士をボルト等で繋いで一体化することによって所定の支間長と幅を有する橋梁が形成される。
【0015】
上記する橋梁によれば、主桁を形成する相隣する2つの鋼桁それぞれの下フランジの双方が、HTB接合や溶接ではなく、嵌合継手にて接続されていることから、この嵌合継手は、下フランジ下方に施工足場を要することなく、下フランジ上に作業員が載った姿勢で形成することができ、また、自然条件に何等左右されることなく施工をおこなうことができる。さらに、上フランジ同士の接合をHTB接合や溶接におこなうとした場合でも、少なくとも下フランジ同士の接合分だけHTB接合や溶接による接合箇所数を低減することができるため、施工性を向上させることができる(溶接等に比して嵌合継手の方が格段に施工効率は高い)。
【0016】
したがって、上記する橋梁は既述する低桁高橋(支間長の1/30〜1/40程度の中規模(支間長は20m〜50m程度)の橋梁)に特に好適である。
【0017】
ここで、本発明の橋梁の一実施の形態として、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの上面にせん断キーが設けてあり、双方のせん断キーに嵌合部材が嵌合されて嵌合継手が形成される形態を挙げることができる。
【0018】
この実施の形態は、下フランジの特に上面に嵌合継手が形成された橋梁であり、下フランジの上面にのみ嵌合継手が形成されることから、下フランジ下方の桁下空間での作業が不要であることは勿論のこと、下フランジから桁下空間側に向かって鋼材等が突出しないことから、桁下空間が極めて狭隘な場合であってもそのことによって橋梁の施工に何等支障が生じることはない。
【0019】
ここで、「嵌合部材」としては、たとえば2つの鋼製のせん断キーを収容する2つの凹溝を備えた鋼製部材(「鋼製」には、鋼(炭素鋼)、アルミ、銅、ステンレス、チタンやそれらの合金などが含まれる)などを挙げることができる。なお、せん断キーや嵌合部材は、軽量で高強度なFRP部材(Fiber Reinforced Plastic で、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のマトリックス樹脂内に炭素繊維やガラス繊維の短繊維、長繊維、連続繊維が含有してなる部材)などであってもよい。
【0020】
また、せん断キーは、下フランジに固着される形態のほかにも、下フランジに凹溝を設けておき、ここにせん断キーを落とし込んで凹溝が位置決め固定される形態であってもよい。
【0021】
2つのせん断キーのそれぞれに嵌合部材の有する2つの凹溝が嵌め合いされて形成された嵌合継手においては、たとえば、この嵌合継手に対して2つの鋼桁から引張りを受ける場合、あるいは、2つの鋼桁から圧縮を受ける場合のいずれであっても、双方のせん断キーと嵌合部材の内部を引張力や圧縮力が流れる力の流れが形成できることから、この嵌合部材は応力伝達部材と称することもできる。
【0022】
また、本発明の橋梁の他の実施の形態として、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの下面にも別途のせん断キーが設けてあり、双方の該別途のせん断キーに別途の嵌合部材が嵌合されて別途の嵌合継手が形成され、下フランジの上下面にある嵌合継手で前記主桁が形成されている形態を挙げることができる。
【0023】
この実施の形態は、下フランジの上面と下面の双方にそれぞれ嵌合継手が形成された橋梁であり、下フランジの下面に嵌合継手を形成する際には、下フランジの上方に居る作業員が下フランジの側方から下フランジの下面に設けられたせん断キーに対して嵌合部材をスライドさせながら嵌め込むことにより、下フランジの上面にのみ嵌合継手がある形態と同様、桁下空間に作業足場がなくても容易にその嵌合継手を形成することができる。また、下フランジの上下面に嵌合継手が形成されることから、上面のみに嵌合継手を具備する形態に比して接合強度が高くなり易いことは勿論のことである。
【0024】
また、本発明の橋梁のさらに他の実施の形態として、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジ同士が嵌合継手で繋がれることに加えて、上フランジ同士も別途の嵌合継手によって繋がれて前記主桁が形成されている形態を挙げることができる。
【0025】
本発明の橋梁は上記するように、下フランジの上面のみが嵌合継手で接合される形態、上下面が嵌合継手で接合される形態を包含するものであるが、いずれの形態であっても、少なくとも下フランジは嵌合継手にて接合されるものである。ここで、「少なくとも下フランジは」とは、このように下フランジのみの形態のほか、上フランジも嵌合継手で接合される形態を含む意味であり、より詳細には、相隣する鋼桁の上フランジの下面同士が嵌合継手で接合される形態や、上フランジの上下面が嵌合継手で接合される形態を包含するものである。
【0026】
下フランジのみが嵌合継手で接合される形態においては、上フランジはHTB接合や溶接接合が適用できる。上フランジをこれらの接合形態で接合する場合には、作業員が上フランジ上に位置し、もしくは下フランジ上に位置して作業をおこなうことができるため、依然として桁下空間に施工足場を設ける必要はない。
【0027】
なお、たとえば形鋼からなる鋼桁同士の接合においては、その下フランジと上フランジのみならず、ウェブ同士を添接板を介してHTB接合してもよいし、さらに、上フランジとウェブと下フランジのそれぞれに溶接されるダイヤフラム等で鋼桁の補強がおこなわれてもよいことは勿論のことである。
【0028】
さらに、本発明による橋梁は、以下のいずれか一種の構造を呈した形態であってもよい。
すなわち、
(1)前記溶接桁の内部をコンクリートが閉塞している、
(2)橋軸直角方向に隣接する前記形鋼の間をコンクリートが閉塞している、
(3)橋軸直角方向に併設する2以上の主桁がコンクリート床版で一体化されている、
(4)前記(1)もしくは前記(2)のいずれか一種と前記(3)の組み合わせ、のいずれか一種の構造形態である。
【0029】
鋼−コンクリートの複合構造とすることによって橋梁全体の剛性を高めることができる。そして、鋼桁内へのコンクリートの充填作業も主桁の上方からおこなうことができるため、桁下空間に施工足場を設ける必要はない。
【0030】
なお、コンクリートが充填されていない併設した複数の主桁の上部にたとえばスタッドジベルや鉄筋を突出させ、これを巻き込むようにしてコンクリート床版を設け、このコンクリート床版を介して複数の主桁が繋がれて鋼−コンクリートの複合構造の橋梁が形成されてもよいし(上記実施の形態(3))、コンクリートが内部に充填された併設する複数の主桁の上部にコンクリート床版を設け、このコンクリート床版を介して複数の主桁が繋がれて鋼−コンクリートの複合構造の橋梁が形成されてもよい(上記実施の形態(4))。
【0031】
また、本発明は橋梁の施工方法にも及ぶものであり、この施工方法は、上フランジと下フランジを少なくとも備えた鋼製の溶接桁もしくは形鋼からなる2以上の鋼桁が橋軸方向に繋がれて主桁が構成され、2以上の該主桁が橋軸直角方向に併設されて構成される橋梁の施工方法であって、相互に繋がれる鋼桁の下フランジ同士を嵌合継手によって繋いで前記主桁を形成することを特徴とするものである。
【0032】
既述するように、下フランジ同士をHTB接合や溶接等に代わって嵌合継手によって繋いで主桁を形成することから、桁下空間に施工足場を設置する必要はないし、降雨や降雪、風や台風といった自然条件に左右されることなく施工をおこなうことができるため、施工性もよく、工程短縮を図ることが可能となる。
【0033】
この橋梁の施工方法においても、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの上面にせん断キーが設けてあり、双方のせん断キーに嵌合部材を嵌合させて嵌合継手を形成する実施の形態を適用できる。
【0034】
また、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの下面にも別途のせん断キーが設けてあり、双方の該別途のせん断キーに別途の嵌合部材を嵌合させて別途の嵌合継手を形成し、下フランジの上下面にある嵌合継手で前記主桁を形成する実施の形態を適用できる。
【0035】
さらに、相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の上フランジ同士をさらに別途の嵌合継手によって繋いで前記主桁を形成する実施の形態を適用できる。
【0036】
また、支間長を画定する対向する支持構造体(たとえば橋台)間に複数の主桁を架け渡す施工は、工場や現場ヤードにて複数の鋼桁を支間長相当の長さとなるように接合して主桁を製作し、これを重機で吊り上げながら支持構造体間に一度に架け渡す方法のほか、相対する橋梁の支持構造体の一方側から鋼桁を繋ぎながら支持構造体の他方側へ張り出していき、この鋼桁の繋ぎと張り出しを順次おこなって双方の支持構造体間に主桁を架け渡す、いわゆる送り出し工法にて支持構造体間に複数の主桁を架け渡すことができる。
【0037】
特に後者の送り出し工法の場合には、相互に繋がれた鋼桁を送り出す過程でこの鋼桁が一時的に片持ち梁状態となることから、比較的剛性の高い箱桁を適用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
以上の説明から理解できるように、本発明の橋梁とその施工方法によれば、鋼桁が橋軸方向に繋がれて構成された主桁に関し、少なくとも繋がれる2つの鋼桁を構成する下フランジ同士が嵌合継手によって繋がれていることにより、桁下空間における施工足場の設置を不要とでき、施工性を向上させることができ、しかも構造信頼性の高い接合構造を備えた橋梁を得ることができる。そして、このように施工足場の設置を不要とできることから、本発明の橋梁やその施工方法は一般に桁下空間が狭隘な条件下で施工される低桁高橋やその施工に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の橋梁の施工方法の一実施の形態の施工フロー図である。
【図2】図1のII部の拡大図である。
【図3】図2で示す嵌合継手の形成方法を説明した模式図である。
【図4】図1に続いて施工方法を説明した施工フロー図である。
【図5】図4に続いて施工方法を説明した施工フロー図である。
【図6】図5に続いて施工方法を説明した施工フロー図である。
【図7】(a)は主桁に引張力が作用した際の嵌合継手における引張応力の流れを模擬した図であり、(b)は主桁に圧縮力が作用した際の嵌合継手における圧縮応力の流れを模擬した図である。
【図8】(a)、(b)の順に、嵌合継手の他の実施の形態の形成方法を説明した模式図である。
【図9】嵌合継手のさらに他の実施の形態を説明した図である。
【図10】嵌合継手のさらに他の実施の形態を説明した図である。
【図11】嵌合継手のさらに他の実施の形態の形成方法を説明した模式図である。
【図12】嵌合継手のさらに他の実施の形態の形成方法を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の橋梁とその施工方法の実施の形態を説明する。なお、図示する橋梁を構成する主桁は鋼桁として箱桁が適用され、この箱桁を橋軸方向に繋いで形成されたものであるが、箱桁以外の鋼桁を橋軸方向に繋いで主桁を形成してもよく、さらに、主桁を構成する鋼桁の基数や橋梁を構成する主桁の基数は図示例以外の多様な形態が適用できることは勿論のことである。また、橋軸方向は図示例のように直線状に限定されるものでなく、湾曲状、直線と湾曲線が組み合わされた線形のものなどがある。さらに、図示例は箱桁内にコンクリートが充填されていないが、箱桁内にコンクリートが充填されて主桁の剛性がより一層高められた橋梁であってもよいことは勿論のことである。
【0041】
(橋梁とその施工方法の実施の形態)
図1,4,5,6はこの順に、橋梁の施工方法のフロー図となっている。
【0042】
図示する施工方法の実施の形態は、一定の支間長を有して対向する2つの橋台200,200間に3本の主桁を一方の橋台200側から他方へ向かって順次送り出す、送り出し工法にて橋梁を施工するものである。なお、手延機を用いた送り出し工法の場合は、橋台間にたとえばトラス架構体を配してこれを手延機の搬送路とする施工方法が適用される場合もあるが、本発明の施工方法では、施工される橋梁の下方空間が狭隘であり、この下方空間を利用しない施工方法である。したがって、たとえば一方の橋台200の後方ヤードに不図示の搬送路を仮に設け、転倒防止措置などが講じられた不図示の手延機の一端に箱桁1や、相互に繋がれた複数の箱桁1が把持された姿勢で搬送路上を移動しながら、箱桁1や繋がれた複数の箱桁1が他方の橋台200側へ送り出される。
【0043】
図示する2つの橋台200,200間の支間長は20m〜50m程度であり、橋梁が施工される下方空間には不図示の鉄道や道路がここを通過する等により、施工上の制約があるものとする。このように施工上の制約がある条件下においては、支間長の1/30〜1/40程度低桁高橋の施工が好ましく、したがって図示例の施工方法で施工される橋梁はこの低桁高橋を対象としている。
【0044】
橋台200と橋台200を繋ぐ方向が橋軸方向となり、これに直交して橋台200の幅方向が橋軸直角方向となる。
【0045】
一方の橋台200側の後方ヤードにおいて、図示する鋼製の箱桁1,1の下フランジ11,11同士を嵌合継手10で接続し、箱桁1,1の側面同士は添接板3を双方に跨るように配してボルト4で接続し、上フランジ同士はたとえば溶接にて接続しながら、箱桁1,1同士を橋軸方向に接続する。
【0046】
図1で示すように、このように接続された箱桁1,1を他方の橋台200側へ送り出し(X方向)、所定長さ送り出した段階で送り出しを停止する。
【0047】
このように、図示例のような条件で送り出し工法を適用する場合には、施工途中の主桁が一時的に片持ち梁状態となるため、主桁を構成する鋼桁としては比較的剛性(断面剛性)の高い図示例のような箱桁1が望ましいが、鋼桁として箱桁以外の形鋼(I形鋼やH形鋼)を何等排除するものではない。
【0048】
図2は、図1の嵌合継手10を拡大した図であり、図3は、図2で示す嵌合継手の形成方法を説明した模式図である。
【0049】
図3で示すように、箱桁1,1の側面のうち、下フランジ11側の端部には側面溝13が開設されており、箱桁1,1が橋軸方向で当接した姿勢において、2つの側面溝13,13が連通して相対的に大断面の側面溝が形成される。
【0050】
一方、下フランジ11の上面には、その側端から側面溝13を通り、箱桁1の内部に延びるとともに鉛直方向から所定角度だけ傾斜した姿勢のせん断キー12が固着されており、箱桁1,1の2つが当接した姿勢において、図示するように逆ハの字状(下フランジ11の上面から上方に向かってテーパー状に広がる形状)を呈する2つのせん断キー12,12が形成されている。
【0051】
この逆ハの字状のせん断キー12,12がそれぞれ遊嵌する凹溝2a,2aを備えた鋼製の嵌合部材2の該凹溝2a,2aを対応するせん断キー12,12に遊嵌させながら箱桁1の側方から嵌合部材2を差し込んでいき(Y方向)、所定数の嵌合部材2を同様の方法で嵌め込んでいくことにより、図2で示すような嵌合継手10が形成される。
【0052】
2つのせん断キー12,12が逆ハの字状を呈していることで、これらに嵌合部材2が嵌め込まれた際に、嵌合部材2はせん断キー12,12から外れる危険性がない。より具体的には、2つの箱桁1,1同士が下フランジ11,11間を開こうとする方向に変位しようとする場合(図2中のZ1方向の回転による変位)や、逆に下フランジ11,11を押圧する方向に変位しようとした場合(図2中のZ2方向の回転による変位)のいずれにおいても、逆ハの字状のせん断キー12,12とこれらに嵌め合いされた嵌合部材2の嵌合姿勢は維持される。なお、凹溝2aとせん断キー12が遊嵌でなく、摺動するように双方が相補的形状に形成されている場合には、より強固な嵌め合い構造が形成される。
【0053】
また、この嵌合継手10の形成においては、箱桁1の下フランジ11の上方に不図示の作業員が載り、嵌合部材2を箱桁1の側方から嵌め込むことによって形成できることから、下フランジ11の下方空間に施工足場を設ける必要は一切なく、また、この嵌合継手10の形成が溶接の場合のように雨や風等の自然条件に左右される(これらの条件によっては施工できなくなる)こともない。さらに、HTB接合や現場溶接では不可能である、下フランジ11下面の全面工場塗装化が可能となり、塗装品質を保証し易く、下フランジ継手部の防食耐久性の向上を図ることができる。
【0054】
図1で示す送り出しが停止された箱桁1,1に対し、同様に他の箱桁1を橋軸方向で接続して支間長相当の長さを有する主桁10を形成し、さらにこれを他方の橋台200側へ送り出することにより、図4で示すように橋台200,200間に主桁100が架け渡される。
【0055】
図1,4の施工方法が橋軸直角方向で繰り返されることにより、図5で示すように3本の主桁100が橋軸直角方向に併設された構造が形成される。なお、工程短縮を図る場合には、それぞれの主桁100に対応する搬送路を橋台200の後方ヤードに設け、対応する手延機でそれぞれの箱桁1を把持しながら同時に送り出すようにしてもよい。
【0056】
図5で示す主桁100の上フランジ面には不図示のスタッドジベルが固着され、さらに、コンクリート床版用の鉄筋が配筋される。さらに、必要に応じて主桁100の中空内部や主桁100,100間にPC鋼材(PC鋼より線等)が配される。
【0057】
図6で示すように3条の主桁100の上にコンクリート床版300が施工され、ガードレール310をはじめとする所定の付帯設備が設けられることによって橋梁400が施工される。
【0058】
なお、図示する橋梁400は、相互に接合されていない3条の主桁100がコンクリート床版300を介して一体化が図られた構造であるが、隣接する主桁100,100同士がボルトや溶接にて接合された構造であってもよいし、さらに、隣接する主桁間を補剛プレートで繋ぐ等の措置を講じてもよい。
【0059】
また、箱桁1の内部にコンクリートが充填され、主桁100の剛性がより一層高められた構造であってもよい。
【0060】
(嵌合継手における応力の伝達作用)
次に、図7を参照して、橋軸方向に外力が作用した際の嵌合継手における応力の流れを説明する。
【0061】
図7aは主桁に引張力が作用した際の嵌合継手における引張応力の流れを模擬した図であり、図7bは主桁に圧縮力が作用した際の嵌合継手における圧縮応力の流れを模擬した図である。
【0062】
図7aで示すように主桁に引張力Pが作用した場合には、一方の箱桁1の下フランジ11、せん断キー12、嵌合部材2、他方のせん断キー12、他方の箱桁1の下フランジ11を通る引張応力の流れf1が形成されて応力伝達が図られる。
【0063】
一方、図7bで示すように主桁に圧縮力Qが作用した場合においても、一方の箱桁1の下フランジ11、せん断キー12、嵌合部材2、他方のせん断キー12、他方の箱桁1の下フランジ11を通る圧縮応力の流れf2が形成されて応力伝達が図られる。
【0064】
いずれの場合においても、一方の下フランジ11に作用する応力はせん断キー12に支圧応力として伝達され、せん断キー12に伝達された応力は嵌合部材2に支圧応力として伝達される(引張と圧縮で支圧応力が作用する部位が相違するだけ)。
【0065】
嵌合部材2に伝達された引張応力や圧縮応力は嵌合部材2内で軸方向の応力、偏心曲げ応力等として作用し、他方のせん断キー12に支圧応力として伝達される。
【0066】
このように、図示する嵌合継手10は、圧縮や引張といった外力に抗しながら、その伝達の流れが明確であり、構造信頼性の高い接続構造を形成するものである。
【0067】
(嵌合継手の他の実施の形態)
図8〜12にはそれぞれ、嵌合継手の他の実施の形態を示している。
【0068】
図8a,bは、嵌合継手の他の実施の形態の形成方法を説明した模式図である。図示する嵌合継手10Aは、せん断キーが下フランジに予め固着されているものでなく、せん断キー12’を落とし込むための落し込み溝11aが下フランジ11に設けてあり、現地にて作業員が落し込み溝11aにせん断キー12’を落とし込んで位置決め固定した後に、逆ハの字状に開いた2つのせん断キー12’のそれぞれに凹溝2aを嵌め込みながら嵌合部材2を取付けて形成されるものである。
【0069】
一方、図9で示す嵌合継手10Bは、下フランジ11の上面に嵌合継手を具備するのみならず、下面にも別途の嵌合継手を具備してなる、上下一対の嵌合継手である。下フランジ11の上面の逆ハの字状のせん断キー12,12に対応するように下面にハの字状にせん断キー12A,12Aが設けられ、対応するせん断キー12Aに凹溝2Aaが嵌め込まれて嵌合部材2Aが取り付けられる。
【0070】
また、図10で示す嵌合継手10Cは、下フランジ11,11同士を繋ぐのみならず、上フランジ14,14同士もそれらの下面でハの字状に設けられたせん断キー15,15に対し、対応する凹溝2Baが嵌め込まれて嵌合部材2Bが取り付けられたものである。
【0071】
図11は、嵌合継手のさらに他の実施の形態の形成方法を説明した模式図である。
【0072】
同図で示す嵌合継手は、それぞれの箱桁1の下フランジ11の端面に雌部材11bが設けられていて、双方の雌部材11b、11bに嵌め込まれる(Y方向)2つの雄部材を具備する嵌合部材2Cが取り付けられて形成されるものである。
【0073】
図12は、嵌合継手のさらに他の実施の形態の形成方法を説明した模式図である。
【0074】
同図で示す嵌合継手は、図8で示すせん断キー落とし込み形態の変形例であり、具体的には、使用されるせん断キー12”が図8のせん断キー12’と異なり、円柱体のものを使用し、これを下フランジ11に設けられた落し込み溝11bに落とし込み、次いで、2つのせん断キー12”が嵌り込む孔2Daを具備する板状で補剛フランジ2Dbを備えた嵌合部材2Dをせん断キー12”に取付けて形成されるものである。
【0075】
せん断キー12”は、円柱状以外にも多角形柱体などであってもよいが、少なくとも柱体であって、図8で示すせん断キー12’のように屈曲していないものであればよい。このようなせん断キー12”を使用することにより、せん断キー12”、嵌合部材2Dともに上方から落とし込んで嵌合継手を形成することができる。また、せん断キー12”の落とし込みに先行して、嵌合部材2Dの孔2Daと下フランジ11の落し込み溝11bを位置合わせしておき、最後にせん断キー12”を孔2Daの上方から落とし込んで嵌合継手を形成することもできる。
【0076】
本発明の橋梁の構成部材である主桁を形成する鋼桁同士を繋ぐ接続構造は、以上で説明するように少なくとも鋼桁の下フランジ同士(の上面のみ、もしくは上下面)を嵌合継手にて繋ぐ構造であり、このように下フランジ同士を嵌合継手で接続することにより、下フランジの下方空間における施工足場等の設置を不要としながら、良好な施工性の下で構造信頼性の高い接続構造を形成することができる。なお、嵌合継手は図示例に何等限定されるものではなく、せん断キーや嵌合部材の形状形態は多様である。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…鋼桁(箱桁、溶接桁)、11…下フランジ、11a…落し込み溝、11b…雌部材、12,12’,12”…せん断キー、13…側面溝、14…上フランジ、15…せん断キー、2,2A,2B,2C,2D…嵌合部材、2a,2Aa、2Ba…凹溝、3…添接板、4…ボルト、10,10A,10B,10C…嵌合継手、100…主桁、200…橋台(支持構造体)、300…コンクリート床版、400…橋梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジと下フランジを少なくとも備えた鋼製の溶接桁もしくは形鋼からなる2以上の鋼桁が橋軸方向に繋がれて主桁が構成され、2以上の該主桁が橋軸直角方向に併設されて構成される橋梁であって、
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジ同士が嵌合継手によって繋がれて前記主桁が形成されている橋梁。
【請求項2】
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの上面にせん断キーが設けてあり、双方のせん断キーに嵌合部材が嵌合されて嵌合継手が形成される請求項1に記載の橋梁。
【請求項3】
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの下面にも別途のせん断キーが設けてあり、双方の該別途のせん断キーに別途の嵌合部材が嵌合されて別途の嵌合継手が形成され、下フランジの上下面にある嵌合継手で前記主桁が形成されている請求項2に記載の橋梁。
【請求項4】
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の上フランジ同士がさらに別途の嵌合継手によって繋がれて前記主桁が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の橋梁。
【請求項5】
さらに以下のいずれか一種の構造を呈している、
(1)前記溶接桁の内部をコンクリートが閉塞している、
(2)橋軸直角方向に隣接する前記形鋼の間をコンクリートが閉塞している、
(3)橋軸直角方向に併設する2以上の主桁がコンクリート床版で一体化されている、
(4)前記(1)もしくは前記(2)のいずれか一種と前記(3)の組み合わせ、
からなる請求項1〜4のいずれかに記載の橋梁。
【請求項6】
上フランジと下フランジを少なくとも備えた鋼製の溶接桁もしくは形鋼からなる2以上の鋼桁が橋軸方向に繋がれて主桁が構成され、2以上の該主桁が橋軸直角方向に併設されて構成される橋梁の施工方法であって、
相互に繋がれる鋼桁の下フランジ同士を嵌合継手によって繋いで前記主桁を形成することを特徴とする橋梁の施工方法。
【請求項7】
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの上面にせん断キーが設けてあり、双方のせん断キーに嵌合部材を嵌合させて嵌合継手を形成する請求項6に記載の橋梁の施工方法。
【請求項8】
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の下フランジの下面にも別途のせん断キーが設けてあり、双方の該別途のせん断キーに別途の嵌合部材を嵌合させて別途の嵌合継手を形成し、下フランジの上下面にある嵌合継手で前記主桁を形成する請求項7に記載の橋梁の施工方法。
【請求項9】
相互に繋がれる鋼桁のうち、それぞれの鋼桁の上フランジ同士をさらに別途の嵌合継手によって繋いで前記主桁を形成する請求項6〜8のいずれかに記載の橋梁の施工方法。
【請求項10】
相対する橋梁の支持構造体の一方側から、前記鋼桁を繋ぎながら支持構造体の他方側へ張り出していき、この鋼桁の繋ぎと張り出しを順次おこなって双方の支持構造体間に主桁を架け渡す請求項6〜9のいずれかに記載の橋梁の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−96111(P2013−96111A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238528(P2011−238528)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(307018542)日鉄トピーブリッジ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】