説明

橋梁に用いる伸縮装置及びその製造方法

【課題】本発明は、遊間の距離の変化すなわち、橋台と桁(床版)との間の遊間及び又は桁(床版)と桁(床版)の遊間の伸縮に対応してその収縮を弾性モルタルで均一に吸収分散させ、弾性モルタルが低温時等において上方に弯曲状に浮き上がるのを防止することを目的とする。
【解決の手段】橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士対向する左右の側壁と前後の側壁で囲まれた窪み部を形成し、該窪み部に弾性モルタルを稠密に充填し、該弾性モルタルの上面を舗装体で密閉状に被覆し、弾性モルタルの底面に敷設したスライドシートの両端部近傍位置の幅方向に沿って弾性モルタルの浮き上がり防止用アンカーボルトを埋設した橋梁に用いる伸縮装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋や道路橋などの橋梁の継手部における季節により変化する熱的伸縮を吸収緩和する橋台と桁端部の遊間あるいは、橋脚で支承された桁と桁(床版と床版)の間にできる遊間の直上部を含む部位のそれぞれに設置する埋設型の伸縮装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
具体的には、高架橋や道路橋などの橋梁の継手部における舗装体の端部同士に鋼製の接続具を使用することを排除し、従来のように車両通過時の振動音を無くし車両の滑らかな走行を確保し、該埋設型の伸縮装置により橋梁の継手部における熱的伸縮を吸収し、舗装体に熱的伸縮に伴う亀裂の発生を解消し得る構造とし、伸縮装置での橋梁継ぎ手部における熱的伸縮を吸収し、長期使用に耐える橋梁に用いる伸縮装置及びその製造方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
本発明者は先に、特願2010−025806に係る橋梁に用いる伸縮装置及びその製造方法の発明(以下、先の発明という)をした。すなわち、先の発明は、次のとおりである。
先の発明の請求項1の橋梁に用いる伸縮装置の発明は、橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士又は路盤と床版の対向する上端面部に閉空間部を形成するための両側壁を備えた断面矩形状の切り欠き部を形成し、該断面矩形状の切り欠き部への充填と前記遊間を跨ぐように形成し、かつ前記床版の切り欠きがされていない上面及び路盤の上面と面一となる弾性モルタルを充填形成し、該弾性モルタルの上面を舗装体で密閉状に被覆することを特徴とする。
【0004】
先の発明の請求項2の橋梁に用いる伸縮装置の発明では、前記橋梁に用いる伸縮装置を構成する上記弾性モルタルは、ポアソン比が0.1〜0.5で、弾性係数が6.5×10〜1.0×104 N/mm2で、圧縮強度が0.1〜15.0N/mm2で、曲げ強度が0.1〜12.0N/mm2で、たわみ量が1.0〜20mmの特性を備えた材料であることを特徴とする。
【0005】
先の発明の請求項3の橋梁に用いる伸縮装置の発明では、上記弾性モルタルは、その下部表面部と、上記切り欠いた床版上面ないし橋台上面との接触部の一部が相互にフリーとなるように付着分離材が設けられていることを特徴とする。
【0006】
先の発明の請求項4の橋梁に用いる伸縮装置の発明では、前記橋梁に用いる伸縮装置を構成する上記弾性モルタルの下部表面と、上記切り欠いた床版上面ないし橋台上面との接触面の間には、橋梁の伸縮に伴い前記弾性モルタルで分散吸収できる幅に亘って付着分離材を設けたことを特徴とする。
【0007】
先の発明の請求項5の橋梁に用いる伸縮装置の発明では、前記橋梁に用いる伸縮装置を構成する上記弾性モルタル中の中間部位には、橋梁の伸縮に伴い生じる前記弾性モルタルへのひび割れの影響を防ぐためのひび割れ防止シートが一層又は複数層に埋設されていることを特徴とする。
【0008】
先の発明の請求項6の橋梁に用いる伸縮装置の発明では、前記橋梁に用いる伸縮装置を構成する上記弾性モルタル中の中間部位には、ひび割れ防止シートの一層又は複数層を埋設するとともに該弾性モルタルの下部表面に防水を兼ねた付着分離材となる付着分離シートを設けたことを特徴とする。
【0009】
先の発明の請求項7の橋梁に用いる伸縮装置の発明では、前記橋梁に用いる伸縮装置の上記遊間部位が狭くない場合には、該遊間部位の下部に装填した円筒バックアップ材と弾性モルタル下面で囲まれた空間部に砂又は硅砂を充填したことを特徴とする。
【0010】
先の発明の請求項8の橋梁に用いる伸縮装置の製造方法の発明では、橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士又は路盤と床版の対向する上端面に閉空間部を形成するための両側壁を備えた断面矩形状の切り欠き部を予め形成するステップと、橋梁の継手部に確保された遊間を弾性変形可能な材料で塞ぐステップと、前記断面矩形状の切り欠き部に面した遊間部位及び該遊間部位を挟んで左右の断面矩形状に切り欠いた床版上面に弾性モルタルが充満するように充填する前に、該弾性モルタルの下面と前記切り欠いた床版上面とが固着することがないように接触部の一部を相互にフリーとなるように付着分離材を敷設するステップと、両側壁を備えた断面矩形状の切り欠き部に弾性モルタルを充填するステップと、該弾性モルタルの中間部位に該弾性モルタルのひび割れを防止するためのひび割れ防止シートを一層又は複数層を埋設するステップと、該弾性モルタルを前記床版の上面、路盤の上面と面一となるように充填するステップとを備え、該弾性モルタルの上面は舗装体で密閉状に被覆されていることを特徴とする。
【0011】
【特許文献1】特願2010‐025806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1の発明は、舗装体の補修工事においては舗装体だけを削り取るだけで済み、弾性モルタルは床版と同じ高さであり、舗装体の削り取り作業に弾性モルタルが削り取られることは無くそのまま使用でき、しかも従来の橋梁の継手部位には鋼材やゴム材が舗装体表面に表われているが、上記特許文献1の発明では継手に代わって弾性モルタルの表面が舗装体で密閉状に覆われるので従来の継手に起因する車両等の走行時の振動に伴う環境騒音からも開放されるという利点を有する半面、以下のような技術的課題を有している。
【0013】
上記特許文献1の発明は、橋梁の橋台と桁(床版)との間の遊間及び又は桁(床版)と桁(床版)の間の遊間が季節や施工地域等により、遊間の距離が温度変化、応力変化等により伸縮変形することとなる。特に、遊間の距離が縮まる圧縮方向の力が作用したときに、弾性モルタルが圧縮応力を受けることにより、弾性モルタルは床版とフリーの状態で接しているために浮き上がりが発生する問題があった。
【0014】
また、弾性モルタルは、その下部表面部と、床版ないし橋台との接触部の一部が相互にフリーとなるように付着分離材が設けられているので、弾性モルタルを充填するたびに付着分離材が移動する恐れが発生し、該付着分離材の移動に伴って弾性モルタルの底部の一部が床版に付着し、弾性モルタルの自由な動きが規制されることとなる。
【0015】
本発明の目的は、遊間の距離の変化すなわち、橋台と桁(床版)との間の遊間及び又は桁(床版)と桁(床版)の遊間の伸縮に対応してその収縮を弾性モルタルで均一に吸収分散させることができるようにするとともに、付着分離材が移動しないように取り付けると同時に弾性モルタルが低温時等において上方に弯曲状に浮き上がるのを防止することを目的とする橋梁に用いる伸縮装置及びその製造方法を提供することにある。そして、弾性モルタルは遊間部位を中心に道路の進行方向の左右同じ距離に形成した窪み部の閉空間に充填形成されるが、この閉空間は天井の舗装体と、路床の端面と、該路床の上端から窪んだ位置の橋台上面と、橋台上面に同じ高さで窪んだ路床上面と、該窪んだ路床上面から立ち上がる路床端面と道路幅方向の前後に対向する側壁で形成される。或いは閉空間の別のパターンとして、遊間部位を中心に道路の進行方向の左右同じ距離に形成した窪み部である床版の底面及び側壁及び舗装体により形成される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る橋梁に用いる伸縮装置は、橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士又は路盤と床版の対向する左右の側壁と前後の側壁で囲まれた窪み部を形成し、該窪み部に弾性モルタルを稠密に充填し、該弾性モルタルの上面は前記床版の上面及び路盤の上面と面一に形成し、該弾性モルタルの上面を舗装体で密閉状に被覆するとともに、該弾性モルタルの底面端部を含む両端部を床版に接着固定し、かつ該接着固定されていない弾性モルタルの底面にはスライドシートを敷設するか又は付着分離材を配置し、該スライドシート又は付着分離材の両端部近傍位置の幅方向に沿って弾性モルタルの浮き上がり防止用アンカーボルトを該弾性モルタルの厚さ方向の全体に亘って埋設する如く前記床版に間隔をおいて植設したことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る橋梁に用いる伸縮装置を構成する上記請求項1に係る弾性モルタルは、ポアソン比が0.1〜0.5で、弾性係数が6.5×10〜1.0×104 N/mm2で、圧縮強度が0.1〜15.0N/mm2で、曲げ強度が0.1〜12.0N/mm2で、たわみ量が1.0〜20mmの特性を備えた材料であることを特徴とする。
【0018】
上記弾性モルタル中の中間部位には、橋梁の伸縮に伴い生じる前記弾性モルタルへのひび割れの影響を防ぐためのひび割れ防止シートが一層又は複数層に埋設されていることを特徴とする。
【0019】
また、上記弾性モルタル中の中間部位には、ひび割れ防止シートの一層又は複数層を埋設するとともに該弾性モルタルの底部表面に防水を兼ねた付着分離材となる付着分離シートを設けたことを特徴とする。
【0020】
上記遊間部位が狭くない場合には、該遊間部位に装填した円筒バックアップ材と弾性モルタル底面で囲まれた空間部に砂又は硅砂を充填したことを特徴とする。
【0021】
窪み部の底面の左右両端部で固定され、遊間で垂れ下がるようにして遊間バックアップ材を保持する脱落防止繊維シートを設けたことを特徴とする。
【0022】
弾性モルタルの最上面を被覆する防水シートを舗装体の最下面に敷設したことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る橋梁に用いる伸縮装置の製造方法は、橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士又は路盤と床版の対向する上端面に舗装体による閉空間部を形成するための車両走行方向左右側壁及び幅方向前後側壁を備えた窪み部を予め形成するステップと、橋梁の継手部に確保された遊間を弾性変形可能な材料で塞ぐステップと、前記窪み部に面した遊間部位及び該遊間部位を挟んで左右及び前後の窪み部に弾性モルタルを充填する前に、該窪み部の底面のうち両端部及びその近傍を除いた他の底面にスライドシートを敷設するか又は付着分離材を配置するステップと、窪み部の左右両端部、幅方向前後の端部及び底面端部に弾性モルタルを固定するためのプライマー処理するステップと、前記敷設したスライドシート又は配置した付着分離材の両端近傍位置に間隔をおいて浮き上がり防止用アンカーボルトを該弾性モルタルの厚さ方向の全体に亘って埋設する如く前記床版に間隔をおいて植設するステップと、該窪み部の全体に弾性モルタルを前記床版の上面、路盤の上面と面一となるように稠密に充填するステップと、該弾性モルタルの上面は舗装体で密閉状に被覆するステップを備えていることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る橋梁に用いる伸縮装置の製造方法は、該弾性モルタルの中間部位に該弾性モルタルのひび割れを防止するためのひび割れ防止シートを一層又は複数層を埋設するステップを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の効果は、次の通りである。
1.従来の橋梁部舗装構成で施工が可能である為、舗装体の継ぎ手部が不要となり、車両は連続した舗装体を走行することとなり、従来のような継ぎ手部での振動や経年変化での振動の発生がない。
2.舗装体の打替時に舗装体の基層底面に接する伸縮装置は取替えを行う必要がないので、舗装作業の簡略化、効率化が図れる。
【0026】
3.弾性モルタルの底面のうちの車両進行方向両端部及びその近傍を除いた底面は、不陸(凹凸のある面)ないし平坦な面で床版表面と付着分離にシート又は付着分離材を使用しているため、遊間における床版同士の伸縮に対し弾性モルタルはフリーな状態で伸縮することができる。
【0027】
また、遊間の距離が縮まる乃至狭くなるような高い温度下では弾性モルタルの密度は高くなり、反対に遊間の距離が伸びる例えば氷点下又は低温下の温度では遊間の距離が広がり弾性モルタルに引張り力が作用して上方に反り上がる形状となるが、弾性モルタルの両端部底面及びその近傍底面及びに幅方向前後の側面にそれぞれプライマー等の接着剤による固定と、浮き上がり防止用アンカーボルトとが相俟って該弾性モルタルの厚さ方向の全体に亘って埋設する如く前記床版に間隔をおいて植設する構成としたので、低温時における弾性モルタル自体の反りが解消され、弾性モルタルの内部応力の均一な分散が図れると同時に弾性モルタルの両端部の接着剤による固定と幅方向に沿って植設した浮き上がり防止用アンカーボルトによって弾性モルタル両端部が床版から離反することも解消され、長期使用に耐えることとなる。
【0028】
反対に高温時においても、弾性モルタルの内部において圧縮応力が均一に分散され、弾性モルタルの両端部の接着剤による固定と複数配列した浮き上がり防止用アンカーボルトの協働作用によって圧縮応力の緩和が図られ、弾性モルタルの左右前後両端部に過度な負荷がかかることが解消される。
【0029】
4.橋梁の継ぎ手部における舗装体の下方に埋設した.弾性モルタルの熱収縮率は窪み部における床版の熱収縮率とは異なるので、床版が寒い温度条件下において遊間の距離が広がるように作用しようとも弾性モルタル自体はそれに追随することなく引っ張り応力が均一に分散されて伸び、弾性モルタル自体ひび割れをすることはない。
【0030】
5.弾性モルタルは常温型プレミックス現場練で行うこともできるので、窪み部の平面形状は矩形形状に限定されるものではなく弯曲形状等であっても良く、要は遊間を挟んで左右に横断する形状で、舗装体の直下に埋設する構造であればよい。
【0031】
6.弾性モルタルの上面及び該弾性モルタルの前後左右に位置する床版上面と舗装体の接触面との間に熱溶融する防水シートを敷設することにより弾性モルタルの特性を維持することと床版や遊間に水の浸入を阻止することができ、伸縮装置の恒久化が期待できる。
【0032】
7.本発明に係る橋梁に用いる伸縮装置は、弾性モルタルの特性としてポアソン比、弾性係数、圧縮強度、曲げ強度及びたわみ量のそれぞれを実験上、許容される数値範囲に特定することにより橋梁の継手部における伸縮作用を舗装体に直接影響を及ぼすことなく弾性モルタル自体で分散吸収することができる。また、弾性モルタル自体によって継手部における伸縮作用を分散吸収することができることと相俟って弾性モルタル自体は周囲を側壁及び底壁で囲まれた窪み部と舗装体とによって閉空間内に密接状態で稠密に閉じ込められるために、車両等の走行荷重等によって弾性モルタルが変形することなく強度上、十分耐えるという弾性と強度という相矛盾する条件を同時に解決することができる。
【0033】
また、本発明は弾性モルタルの両端部及び底面端部を除いて床版とフリーの状態となるようにスライドシートや接着分離材を設けたので、橋梁の熱的伸縮に際して床版の伸縮と弾性モルタルが該床版に強い力で圧接状態に接していても遊間に面する床版が前後に伸縮するときに接着分離材等の作用によって一種のすべり状態で移動することとなり、弾性モルタルとの一体的な伸縮運動を伴わずに分離した伸縮移動が行われる結果として弾性モルタルの持つ分散吸収能力と相俟って舗装体へのひび割れや隆起現象が解消される。
【0034】
さらに、遊間を中心とした床板との付着分離幅相当部位に接着分離材として防水機能を備えたスライドシートを敷設することにより遊間に水が流れることが無くなりこの面からも舗装体へのひび割れの発生や隆起現象の解消が図れる上に防水効果も発揮できる。
【0035】
特に、遊間の幅が狭い箇所では、発泡体からなる円筒状バックアップ材を使用することなく簡単に発泡樹脂材を充填するだけで済む。また、遊間の幅が狭い箇所では、ひび割れ防止シートも不要となる。
【0036】
一方では、遊間の幅が通常の幅若しくは広い幅である場合は、橋梁の伸縮も大きくなるので、弾性モルタル内の中間部位にひび割れ防止シートを敷設することにより弾性モルタル自体が分散吸収能を有する上に弾性モルタルのひび割れ防止が図られ、橋梁の伸縮に伴う舗装体への路面の変形が解消される。
【0037】
なお、本発明では橋梁の伸縮の影響を解消させるために弾性モルタルで行なっているが、その弾性モルタルの充填部位は床版に閉空間部を形成するための両側壁を備えた窪み部であり、窪み部の無い床版上面及び弾性モルタル上面には直接車両等が走行する舗装体が形成されるために、舗装体の補修工事においては舗装体だけを削り取るだけで済み、弾性モルタルは床版と同じ高さであり、舗装体の削り取り作業に弾性モルタルが削り取られることは無くそのまま使用できる。しかも従来の橋梁の継手部位には鋼材やゴム材が舗装体表面に表われているが、本発明では継手に代わって弾性モルタルの表面が舗装体で密閉状に覆われるので従来の継手に起因する車両等の走行時の振動に伴う環境騒音からも開放される。
【0038】
本発明の方法によれば、橋梁の継手部における伸縮に伴う舗装体のひび割れ等のトラブルが解消される上に、伸縮装置自体の交換も大幅に減少する結果、路面舗装の改修工事が大幅に減少し、無駄な国、地方自治体の予算の削減が図られ、かつ伸縮装置の取り付け作業も短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の断面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の断面図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の断面図である。
【図6】本発明の一実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の平面図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す橋梁に用いる伸縮装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図1及び図2において遊間2の幅は通常の間隔又は広い間隔の場合について説明しており、発泡体からなる円筒状のバックアップ材3及びその上に砂又は珪砂4を充填した場合について説明したが、遊間2の幅が狭い場合は図3〜図4に示すようにその空間部に合成樹脂製発泡材からなるバックアップ材3を充填する。
【0041】
1は橋梁の継手部に用いる伸縮装置である。橋梁の継手部は橋脚で支承される床版5又は桁 (以下、床版という) の対向する端部同士の間に遊間2を設ける場合と橋台で床版5が支承される場合等多様な形態が考えられるがいずれの場合にも適用される。本例では床版5の端部同士での場合について説明する。
【0042】
橋梁の継手部には伸縮装置1が設けられるが、確保された遊間2を挟んで左右に位置する床版5、5同士の対向する上端面には閉空間部を形成するための車両の進行方向の左右の両側壁6、6と床版5、5をハツリ等によって形成される底部床版5a、5aと床版5の幅方向前後の側壁(図示せず)とによって上部が開口した窪み部6を形成する。この開口した窪み部6の上部は舗装体8によって封鎖され、この密閉した閉空間に弾性モルタル7が稠密に充填される。閉空間の底部床版5a、5aは施工現場においてハツリ等の作業により形成する場合は表面が凹凸形状となるが必要に応じて凹凸部にコンクリート等を充填して凹凸面を少なくするようにしても良い。窪み部に充填する弾性モルタル7の平面形状は矩形状に限定されるものではなく左右対称の曲面形状等であっても良い。
【0043】
遊間2には予め弾力性のある材料で充填し、その充填物の上面は窪み部6の底面である床版5の底部床版5aと同じ高さに形成する(図1乃至図4参照)か、若干高めの平坦状に形成する(図1参照)。すなわち、道路の幅方向の遊間2に発泡剤等から成る伸縮性のある素材で形成した例えば円筒状のバックアップ材3を配設し、その上に砂や珪素等から成る粒子4を窪み部の底面位置相当まで充填する。図1の場合においては、バックアップ材3や砂又は珪素4が遊間2から落下しないようにするために落下防止用繊維シート11を窪み部6の底面及び遊間2に装填したバックアップ材3を下支えするように設置し、落下防止用繊維シート11の両端部を幅方向に沿って間隔をおいて落下防止用アンカーボルト12で床版5に固定する。
【0044】
上記閉空間に稠密に充填した弾性モルタル7の特性は次の通りである。すなわち、ポアソン比が0.1〜0.5で、弾性係数が6.5×10〜1.0×104 N/mm2で、圧縮強度が0.1〜15.0N/mm2で、曲げ強度が0.1〜12.0N/mm2で、たわみ量が1.0〜20mmの特性を備えた材料である。弾性係数はより好ましくは6.5×10〜1.0×103 N/mm2 である。弾性モルタル7をこのような数値範囲に特定した理由は、橋梁の継手部における伸縮作用を舗装体8に直接影響を及ぼすことなく弾性モルタル7自体で分散吸収することができるようにすることと、舗装体にかかる車両等の走行荷重等によって弾性モルタルが変形することなく強度上も十分に耐えることができるという弾性と強度という相矛盾する条件を同時に解決するためである。
【0045】
弾性モルタル7の成分はバインダーと骨材(粗材と中級材)とセメントとファイバーを主成分として含有している。各成分の体積比率は1対1の割合で配合すると、バインダーは1000g、骨材は粗粒発泡材(粗材)が100〜600gと粒状発泡材(中級材)が50〜400gと珪砂4号の骨材(粗)が0〜900gと珪砂7号(珪)とセメント30〜600gと所定繊維長のファイバーは20〜50gである。上記成分を配合する場合、弾性モルタル7自体が橋梁の継手部における伸縮作用を分散吸収する機能を発揮し得るとともに一方では舗装体8上を走行する車両等の重量に耐える機械的特性を備えるように配慮する必要がある。しかし、本発明では弾性モルタル7を稠密に充填する空間は一種の密閉した閉空間である床版5の車両進行方向左右の側壁と、床版5の幅方向前後の側壁と、床版5の遊間2を挟んだ窪み部6の底面と、解放した窪み部6の上面を覆う舗装体8で構成される。
【0046】
弾性モルタル7は遊間2を挟んで左右及び前後に対向する床版5の閉空間部を形成するための左右の両側壁及び前後の両側壁の上端面が舗装体8の最下面であるアスファルト合材の基層8bと面一(同一の高さ面)となるように形成する。なお、床版5の幅方向前後に形成する両側壁は図示していないが、図7には右端に図示されている。
【0047】
すなわち、遊間2を挟んで左右に対向する床版5の上端面は舗装体8の最下面と同じ高さ位置(面一)に形成し、かつ床版5の幅方向前後に対向する両側壁(図示せず)は舗装体8の最下面と同じ高さ位置(面一)に形成して、上面が開放した容器形状の空間部が形成される。容器形状の空間部には弾性モルタル7が空間部全体を埋め尽くすようにして稠密に充填する。充填された弾性モルタル7の上面は舗装体8で被覆され、いわば閉空間に弾性モルタル7が稠密に充満した状態で充填される。舗装体8は図1乃至図4では高機能アスファルト合材8a(改質2型)を表層とし、基層にマスチックアスファルト合材8b(改質2型)を使用した場合を示すが、この舗装体構造はこれに限定されるものではない。
【0048】
弾性モルタル7中の中間部位の遊間2相当部位から左右の所定幅に亘り橋梁の伸縮に伴う弾性モルタル7への伸縮の影響が想起されるが通常は弾性モルタル7自体が遊間2の伸縮に対して略均一に分散球種可能である。しかし、遊間2の間隔が熱的影響により過度に引き伸びる力が作用するときは弾性モルタル7内に同じ厚さ方向に伸縮補強シート9を1枚又は複数枚敷設してもよい(図2参照)。伸縮補強シート9として、本例ではアラミド3軸メッシュシート(芳香族ポリアミド繊維で引張り強度・弾力・耐熱性がきわめて大きい繊維)を使用したが、これに限定されるものではなく弾性モルタル7の均一な伸びに寄与し得るものであれば他の材料やシートであっても良い。通常の橋梁の伸縮に伴う伸縮作用は遊間2の部位に相当する弾性モルタル7部分で生起することとなるので、弾性モルタル7自体で橋梁の伸縮現象を分散吸収できるが、より一層、効果的な引っ張りに対する作用を吸収するという観点から効果的に伸縮補強シート9を採用する。
【0049】
10は窪み部の底面5aに敷設したスライドシートで、弾性モルタル7と床版5との接触面が相互にフリーの状態で接している(図1乃至図4参照)。従来のように接着剤やアンカーボルト等で両者を固定すると橋梁の熱的伸縮作用によって弾性モルタル7自体も連動することにより舗装体8へのひび割れに直接影響を及ぼすのを解消するためである。また、スライドシート10に代えて砂又は珪砂等の分離材を使用しても良く(図3参照)、さらにはスライドシート10と砂又は珪砂等の分離材を併用しても良い(図示せず)。
【0050】
スライドシート10及び又は分離材の敷設範囲は、遊間2相当部位から左右の弾性モルタル7の所定幅に亘り橋梁の伸縮を効率良く分散吸収できる範囲とする。スライドシート10、砂又は珪砂等の分離材を敷設する場合、スライドシート10及び又は分離材の敷設範囲を窪み部6の底面全体に敷設するのは好ましくない。何故ならば、車両進行方向の窪み部の底面の両端部及びその近傍の底面及び左右の両側壁及び幅方向の前後の両側壁にはプライマー等の接着剤13を塗布して弾性モルタル7の両端側壁及びその底面近傍を床版5及び床版底面5aに固定することにより、温度変化に伴う弾性モルタル7の端部が床版5から離反することが無いようにするためである。特に、弾性モルタル7に引っ張りの力が作用するときに重要である。
【0051】
このように、弾性モルタル7の端部及びその近傍の固定と、スライドシート10又は付着分離材の両端部近傍位置の幅方向に沿って弾性モルタル7の浮き上がり防止用アンカーボルト14を弾性モルタル7の厚さ方向の全体に亘って埋設する如く床版5に間隔をおいて植設することとが相俟って、遊間2の距離が開く方向すなわち温度低下に伴い遊間2を挟む床版5の対向面に引っ張り力が作用するときに、幅方向に配列した浮き上がり防止用アンカーボルト14群が引っ張り力に対する一種の抵抗する壁となるとともに弾性モルタル7の端部も床版5から離反しないように阻止する力が働くとともに弾性モルタル7の浮き上がりを阻止することができ、左右の浮き上がり防止用アンカーボルト14群間で引っ張り力に対する均一な分散吸収がなされる。反対に、遊間2の距離が狭まるときは、弾性モルタル7には浮き上がりの力は作用することが無く、左右の浮き上がり防止用アンカーボルト14群間で密度が高くなり、均一な圧縮力が作用することとなる。
【0052】
図1〜図3は舗装体8からの水の侵入が弾性モルタル7内に入るのを阻止するための防水シート15を弾性モルタル7の上面全体を被覆し得るようにした断面図である。防水シート15の敷設により、弾性モルタル7が長期に亘り特性を劣化させることが無く安定した品質が得られることから、コスト面からも有利である。
【実施例1】
【0053】
弾性モルタルの成分として、バインダーはアルファーゾル(商品名)1000gと、骨材(粗)は粗粒発泡材150〜500gと、骨材(中級)は粒状発泡材60〜300gと、骨材(粗)は珪砂4号0〜85gと、骨材(中級) 珪砂7号0〜700gと、普通ポルトランドセメント100〜600gと、太さ15μで12mm長のファイバー28〜64gを主成分として各成分の体積比率が1対1の割合で混合した。
遊間の間隙幅は80mmで、その空間部を円筒ウレタン成形体と珪砂4号を使用して埋めた。舗装体は改質2型アスファルト合材を使用した。
【0054】
弾性モルタルの性能試験結果は、ポアソン比が0.1〜0.5で、弾性係数は6.5×10〜1.0×103 N/mm2で、圧縮強度は0.1〜15.0N/mm2 曲げ強度は0.1〜12.0N/mm2 で、たわみ量は1.0〜20mmであった。
供試体として、弾性モルタルは厚さ50mm、幅方向の長さが500mm、走行方向の弾性モルタル長が620mmで、弾性モルタル7に浮き上がり防止用アンカーボルト14を幅方向に沿って端部から50mmの位置と、そこから200mmの位置と、さらにそこから200mmの位置にそれぞれ一列に3本を左右の端部寄りに植設した。舗装体8のアスファルト合材表層8aの厚さ40mm、アスファルト合材基層8bの厚さは35mmとし、擬似床版の全長1700mm、擬似床版幅550mmで、擬似床版の厚さは100mmで、床版5の表面から50mmの深さに窪み部6を形成した。
、弾性モルタル7の上面はアスファルト合材表層8aとアスファルト合材基層8bの舗装体8で被覆した。
この供試体の弾性モルタル表面の温度変化による弾性モルタルの浮き上がり量を測定した。
【0055】
アスファルト合材表層8aの表面温度が20.4℃乃至20.5℃での窪み部底面からの浮き上がり量を測定したところアップ量は0.00mm〜0.68mmであり、浮き上がり量はすべて1mm以内に収まることが判明した。
次に、弾性モルタルの高温試験を行った。アスファルト合材表層8aの表面温度が41℃では弾性モルタルの浮き上がり量は0.08mmであり、アスファルト合材表層8aの表面温度が50℃では0.45mm弾性モルタルが浮き上がり、表面温度が60.4℃では0.86mm弾性モルタルが浮き上がったが、いずれも弾性モルタルの浮き上がり量は1mmに満たないことが判明した。
更に、弾性モルタルの低温試験を行った。アスファルト合材表層8aの表面温度が0.0℃では遊間の距離がRで−6.00mm、Lで−6.12で、弾性モルタルのアップ量は−0.39mmであり、−10.0℃では遊間の距離がRで−9.99mm、Lで−10.14で、弾性モルタルのアップ量は−0.74mmであった。これらの結果から、浮き上がり防止用アンカーボルトを間隔をおいて弾性モルタルの左右端部寄りに植設することにより弾性モルタルの浮き上がりを阻止することが判明した。
【実施例2】
【0056】
実施例1の弾性モルタル中の中間部位に1枚のアラミド3軸メッシュシートを遊間部位から左右の所定幅に亘り敷設し、さらに弾性モルタルの底面にスライドシート及び砂又は珪砂を敷設した。その結果、弾性モルタルの能力が一層発揮された。
【符号の説明】
【0057】
1 伸縮装置
2 遊間
3 バックアップ材
4 砂又は珪砂
5 床版
5a 底部床版
6 窪み部
7 弾性モルタル
8 舗装体
8a アスファルト合材表層
8b アスファルト合材基層
9 ひび割れ防止シート
10 スライドシート
11 落下防止用繊維シート
12 落下防止用アンカーボルト
13 接着剤
14 浮き上がり防止用アンカーボルト
15 アスファルト合材防水シート
16 壁高欄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士又は路盤と床版の対向する左右の側壁と前後の側壁で囲まれた窪み部を形成し、該窪み部に弾性モルタルを稠密に充填し、該弾性モルタルの上面は前記床版の上面及び路盤の上面と面一に形成し、該弾性モルタルの上面を舗装体で密閉状に被覆するとともに、該弾性モルタルの底面端部を含む両端部を床版に接着固定し、かつ該接着固定されていない弾性モルタルの底面にはスライドシートを敷設するか又は付着分離材を配置し、該スライドシート又は付着分離材の両端部近傍位置の幅方向に沿って弾性モルタルの浮き上がり防止用アンカーボルトを該弾性モルタルの厚さ方向の全体に亘って埋設する如く前記床版に間隔をおいて植設したことを特徴とする橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項2】
上記弾性モルタルは、ポアソン比が0.1〜0.5で、弾性係数が6.5×10〜1.0×104 N/mm2で、圧縮強度が0.1〜15.0N/mm2で、曲げ強度が0.1〜12.0N/mm2で、たわみ量が1.0〜20mmの特性を備えた材料であることを特徴とする請求項1記載の橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項3】
上記弾性モルタル中の中間部位には、橋梁の伸縮に伴い生じる前記弾性モルタルへのひび割れの影響を防ぐためのひび割れ防止シートが一層又は複数層に埋設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項4】
上記弾性モルタル中の中間部位には、ひび割れ防止シートの一層又は複数層を埋設するとともに該弾性モルタルの底部表面に防水を兼ねた付着分離材となる付着分離シートを設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項5】
上記遊間部位が狭くない場合には、該遊間部位に装填した円筒バックアップ材と弾性モルタル底面で囲まれた空間部に砂又は硅砂を充填したことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項6】
窪み部の底面の左右両端部で固定され、遊間で垂れ下がるようにして遊間バックアップ材を保持する脱落防止繊維シートを設けたことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項7】
弾性モルタルの最上面を被覆する防水シートを舗装体の最下面に敷設したことを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の橋梁に用いる伸縮装置。
【請求項8】
橋梁の継手部に確保された遊間を挟んで左右に位置する床版同士又は路盤と床版の対向する上端面に舗装体による閉空間部を形成するための車両走行方向左右側壁及び幅方向前後側壁を備えた窪み部を予め形成するステップと、橋梁の継手部に確保された遊間を弾性変形可能な材料で塞ぐステップと、前記窪み部に面した遊間部位及び該遊間部位を挟んで左右及び前後の窪み部に弾性モルタルを充填する前に、該窪み部の底面のうち両端部及びその近傍を除いた他の底面にスライドシートを敷設するか又は付着分離材を配置するステップと、窪み部の左右両端部、幅方向前後の端部及び底面端部に弾性モルタルを固定するためのプライマー処理するステップと、前記敷設したスライドシート又は配置した付着分離材の両端近傍位置に間隔をおいて浮き上がり防止用アンカーボルトを該弾性モルタルの厚さ方向の全体に亘って埋設する如く前記床版に間隔をおいて植設するステップと、該窪み部の全体に弾性モルタルを前記床版の上面、路盤の上面と面一となるように稠密に充填するステップと、該弾性モルタルの上面は舗装体で密閉状に被覆するステップを備えていることを特徴とする橋梁に用いる伸縮装置の製造方法。
【請求項9】
弾性モルタルの中間部位に該弾性モルタルのひび割れを防止するためのひび割れ防止シートを一層又は複数層を埋設するステップを備えていることを特徴とする請求項8記載の橋梁に用いる伸縮装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−36176(P2013−36176A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171077(P2011−171077)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(502206522)
【出願人】(510036218)
【出願人】(509001766)
【出願人】(505304735)
【出願人】(510036230)湘南テクノ株式会社 (2)
【出願人】(507194017)株式会社高速道路総合技術研究所 (33)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【Fターム(参考)】