説明

橋梁の壁高欄、残存型枠、及び橋梁の壁高欄の構築方法

【課題】残存型枠11の耐久性、残存型枠11の取付作業の能率を向上させること。
【解決手段】床版3の外端部に立設された残存型枠11と、残存型枠11の内側面に一体的に接合されたコンクリート壁43と、を具備し、残存型枠11は、床版3の外端部に立設されかつコンクリートからなる型枠本体13と、型枠本体13に埋設されかつ表面に防食塗装が施されたエキスパンドメタル15と、エキスパンドメタル15に接合されかつ表面に防食塗装が施された鋼材17と、を備えたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁の床版に構築された壁高欄、橋梁の床版等の高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠、及び橋梁の床版に壁高欄を構築する壁高欄の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高所の床版に構築された壁高欄の先行技術として、特許文献1に示すものがあり、先行技術に係る壁高欄の構成について簡単に説明すると、次のようになる。
【0003】
即ち、床版の外端部には、残存型枠が立設されており、この残存型枠は、コンクリートからなる型枠本体を備えている。また、残存型枠の内側面には、コンクリート壁が一体的に接合されており、このコンクリート壁は、残存型枠と残存型枠の内側に配置した内側型枠との間にコンクリートを打設することによって形成されたものである。ここで、型枠本体の引張強度及び曲げ強度を高めるために、通常、型枠本体(型枠本体のコンクリート)に鉄筋を埋設したり、型枠本体のコンクリートにアラミド繊維等の合成繊維を混入したりしている。
【特許文献1】特許第3636960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、型枠本体のコンクリートに鉄筋を埋設した場合には、型枠本体の引張強度及び曲げ強度を十分に高めることができるものの、型枠本体のコンクリートの厚みを厚くして、鉄筋の防錆効果、換言すれば、型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を確保する必要がある。そのため、残存型枠の重量が増大して、残存型枠を床版に取付ける作業(残存型枠の取付作業)が厄介かつ煩雑なものになる。
【0005】
一方、型枠本体のコンクリートに合成繊維を混入した場合には、型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を考慮しないで、型枠本体の厚みを薄くできるものの、型枠本体としての剛性及び強度(引張強度、曲げ強度)を十分に高めることができない。そのため、残存型枠の耐久性、換言すれば、壁高欄の耐久性を向上させることが困難になる。
【0006】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の橋梁の壁高欄、残存型枠、及び橋梁の壁高欄の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴は、高所の床版に構築された壁高欄において、前記床版の外端部に立設された残存型枠と、前記残存型枠の内側面に一体的に接合され、前記残存型枠と前記残存型枠の内側に配置した内側型枠との間にコンクリートを打設することによって形成されたコンクリート壁と、を具備し、前記残存型枠は、前記床版の外端部に立設され、コンクリートからなる型枠本体と、前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、を備えたことを要旨とする。
【0008】
第1の特徴によると、前記型枠本体のコンクリートに前記網状体が埋設されると共に、前記網状体に接合された前記鋼材の一部分が前記型枠本体の内側面から露出してあって、換言すれば、前記鋼材が前記型枠本体のコンクリートと前記コンクリート壁のコンクリートの両方に埋まっているため、前記型枠本体のコンクリートと前記網状体との結合性、前記型枠本体のコンクリートと前記鋼材との結合性、及び前記コンクリート壁のコンクリートと前記鋼材との結合性を十分に確保することできる。
【0009】
また、前記網状体及び前記鋼材は、表面に、防食塗装がそれぞれ施されているため、前記型枠本体のコンクリートの厚みを厚くしなくても、前記網状体及び前記鋼材の防錆効果、換言すれば、前記型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を確保することができる。
【0010】
本発明の第2の特徴は、高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠において、コンクリートからなる型枠本体と、前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、前記型枠本体の内側面の下端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、コンクリート漏れ防止用のシール材を保持する下部シール保持板と、を具備したことを要旨とする。
【0011】
第2の特徴によると、前記型枠本体のコンクリートに前記網状体が埋設されると共に、前記網状体に接合された前記鋼材の一部分が前記型枠本体の内側面から露出してあって、換言すれば、前記鋼材が前記型枠本体のコンクリートと前記コンクリート壁のコンクリートの両方に埋まるようになっているため、前記型枠本体のコンクリートと前記網状体との結合性、前記型枠本体のコンクリートと前記鋼材との結合性、及び前記コンクリート壁のコンクリートと前記鋼材との結合性を十分に確保することができる。
【0012】
また、前記残存型枠の内側面の下端側に前記コンクリート漏れ防止用のシール材を保持する前記下部シール保持板が前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられているため、前記壁高欄の構築中に、前記残存型枠の内側に打設されたコンクリート(具体的には、前記床版におけるコンクリート床又は前記コンクリート壁を形成する際に打設されたコンクリート)が前記残存型枠と前記床版の隙間から漏れることを防止できる。
【0013】
更に、前記網状体及び前記鋼材は、表面に、防食塗装がそれぞれ施されているため、前記型枠本体のコンクリートの厚みを厚くしなくても、前記網状体及び前記鋼材の防錆効果、換言すれば、前記型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を確保することができる。
【0014】
本発明の第3の特徴は、高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠において、コンクリートからなる型枠本体と、前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、前記型枠本体の内側面の上端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、雨水侵入防止用のシール材を覆うように保持する上部シール保持板と、を具備したことを要旨とする。
【0015】
第3の特徴によると、前記型枠本体のコンクリートに前記網状体が埋設されると共に、前記網状体に接合された前記鋼材の一部分が前記型枠本体の内側面から露出してあって、換言すれば、前記鋼材が前記型枠本体のコンクリートと前記コンクリート壁のコンクリートの両方に埋まるようになっているため、前記型枠本体のコンクリートと前記網状体との結合性、前記型枠本体のコンクリートと前記鋼材との結合性、及び前記コンクリート壁のコンクリートと前記鋼材との結合性を十分に確保することができる。
【0016】
また、前記残存型枠の内側面の上端側に前記雨水侵入防止用のシール材を覆うように保持する前記上部シール保持板が前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられているため、紫外線による前記雨水侵入防止用のシール材の劣化を抑えつつ、前記残存型枠と前記コンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができる。
【0017】
更に、前記網状体及び前記鋼材は、表面に、防食塗装がそれぞれ施されているため、前記型枠本体のコンクリートの厚みを厚くしなくても、前記網状体及び前記鋼材の防錆効果、換言すれば、前記型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を確保することができる。
【0018】
本発明の第4の特徴は、高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠において、コンクリートからなる型枠本体と、前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、前記型枠本体の内側面の下端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、コンクリート漏れ防止用のシール材を保持する下部シール保持板と、前記型枠本体の内側面の上端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、雨水侵入防止用のシール材を保持する上部シール保持板と、を具備したことを要旨とする。
【0019】
第4の特徴によると、前記型枠本体のコンクリートに前記網状体が埋設されると共に、前記網状体に接合された前記鋼材の一部分が前記型枠本体の内側面から露出してあって、換言すれば、前記鋼材が前記型枠本体のコンクリートと前記コンクリート壁のコンクリートの両方に埋まるようになっているため、前記型枠本体のコンクリートと前記網状体との結合性、前記型枠本体のコンクリートと前記鋼材との結合性、及び前記コンクリート壁のコンクリートと前記鋼材との結合性を十分に確保することができる。
【0020】
また、前記残存型枠の内側面の下端側に前記コンクリート漏れ防止用のシール材を保持する前記下部シール保持板が前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられているため、前記壁高欄の構築中に、前記残存型枠の内側に打設されたコンクリートが前記残存型枠と前記床版の隙間から漏れることを防止できる。
【0021】
更に、前記残存型枠の内側面の上端側に前記雨水侵入防止用のシール材を覆うように保持する前記上部シール保持板が前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられているため、紫外線による前記雨水侵入防止用のシール材の劣化を抑えつつ、前記残存型枠と前記コンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができる。
【0022】
また、前記網状体及び前記鋼材は、表面に、防食塗装がそれぞれ施されているため、前記型枠本体のコンクリートの厚みを厚くしなくても、前記網状体及び前記鋼材の防錆効果、換言すれば、前記型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を確保することができる。
【0023】
本発明の第5の特徴は、橋梁の床版の外端側に壁高欄を構築する方法において、第2の特徴から第4の特徴のうちのいずれかの特徴からなる残存型枠を用意し、前記残存型枠を倒伏した姿勢で前記床版の外端方向へ移動させることにより、前記残存型枠の一端側に固定した取付金具に備えた係合突起を、前記床版の外端側に固定したブラケットに形成したガイド部に前記床版の内方向から係合させるピン係合ステップと、前記ピン係合ステップの終了後に、前記係合突起を前記ガイド部に係合させた状態で、前記係合突起を支点として前記残存型枠を回転させることにより、前記残存型枠を倒伏した姿勢から起立した姿勢に変更する姿勢変更ステップと、前記姿勢変更ステップの終了後に、前記取付金具を前記ブラケットに締結する締結ステップと、前記締結ステップの終了後に、前記床版における前記残存型枠の内側に内側型枠を立設し、前記残存型枠と前記内側型枠との間にコンクリートを打設して、前記コンクリートを硬化させることにより、前記残存型枠の内側面に一体的に接合したコンクリート壁を形成するコンクリート壁形成ステップと、を具備したことを要旨とする。
【0024】
第5の特徴によると、第2の特徴から第4の特徴のうちのいずれかの特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の特徴から本発明の第5の特徴のうちのいずれかの特徴によれば、前記型枠本体のコンクリートと前記網状体との結合性、前記型枠本体のコンクリートと前記鋼材との結合性、及び前記コンクリート壁のコンクリートと前記鋼材との結合性を十分に確保することできるため、前記型枠本体の剛性及び強度を十分に高めることができる。
【0026】
また、前記型枠本体のコンクリートの厚みを厚くしなくても、前記型枠本体のコンクリートにおける防錆効果を確保することができるため、前記残存型枠の軽量化を図って、前記残存型枠の取付作業の能率を向上させることができる。
【0027】
本発明の第2の特徴、本発明の第4の特徴、又は本発明の第5の特徴によれば、前記壁高欄の構築中に、前記残存型枠の内側に打設されたコンクリートが前記残存型枠と前記床版の隙間から漏れることを防止できるため、前記壁高欄の構築作業の能率を向上させることができる。
【0028】
本発明の第3の特徴から本発明の第5の特徴のうちいずれかの特徴によれば、前記残存型枠と前記コンクリート壁との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができるため、前記壁高欄の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態について図1から図9を参照して説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態に係る壁高欄の断面図、図2は、本発明の実施形態に係る残存型枠を裏からみた図、図3は、図2を上から見た図、図4は、図2におけるIV-IV線に沿った図、図5は、図1における矢視部Vの拡大図、図6は、図1における矢視部VIの拡大図、図7から図9は、本発明の実施形態に係る壁高欄の構築方法を説明する図である。
【0030】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る壁高欄1は、橋梁の床版(高所の床版の一例)3に構築された構造であって、壁高欄1の具体的な構成等は、以下のようになる。なお、壁高欄1の周辺構造である床版3は、橋梁の橋桁(図示省略)に設けられた底板5と、この底板5の上面に設けられかつ底板5を補強するH形鋼材7と、底板5の上面に一体的に接合されたコンクリート床9とを備えおり、コンクリート床9は、底板5の上側にコンクリートを打設することによって形成されたものである。
【0031】
底板5の外端部には、複数(1つのみ図示)のコンクリート製の残存型枠11がそれぞれ立設されており、複数の残存型枠11は、連結具(図示省略)によって一体的に連結されている。そして、残存型枠11の具体的な構成は、次のようになる。
【0032】
即ち、図2から図4に示すように、残存型枠11は、四角形状の型枠本体13を備えており、この型枠本体13は、コンクリートからなるものである。そして、型枠本体13の略全領域には、型枠本体13を補強するエキスパンドメタル15(網状体の一例)が埋設されており、このエキスパンドメタル15は、鉄又はステンレス等からなるものである。また、エキスパンドメタル15は、表面に、ダブルコートカチオン電着塗装等によって代表される防食塗装が施されている。
【0033】
エキスパンドメタル15には、上下方向(型枠本体13の高さ方向)へ延びた一対の溝形鋼材(形鋼材の1つ)17が一体的に接合されており、各溝形鋼材17の一部分(本発明の実施形態にあっては、溝形鋼材17の断面高さの半分程度)は、型枠本体13の内側面から露出している。また、各溝形鋼材17には、複数の取付穴19が間隔を置いて形成されており、複数の取付穴19は、前記連結具及び前記セパレート等の取付に用いられるものである。更に、各溝形鋼材17は、表面に、ダブルコートカチオン電着塗装等によって代表される防食塗装が施されている。なお、上下方向へ延びた一対の溝形鋼材17の他に、型枠本体13の幅方向へ延びた複数の溝形鋼材がエキスパンドメタル15に一対の溝形鋼材17を連結するように接合されたり、溝形鋼材17の代わりに、H形鋼材等の別の形鋼材を用いたりしても構わない。
【0034】
図1、図4、及び図6に示すように、型枠本体13の内側面の下端側には、コンクリート漏れ防止用のシール材21を保持する下部シール保持板23が型枠本体13の幅方向に沿って横断するように設けられており、この下部シール保持板23の基端部は、エキスパンドメタル15に一体的に接合されている。また、下部シール保持板23は、鉄等からなるものであって、表面に、ダブルコートカチオン電着塗装等によって代表される防食塗装が施されている。更に、下部シール保持板23の先端部は、型枠本体13の厚み方向(換言すれば、水平方向)に対して上向きに傾斜している。なお、本発明の実施形態にあって、コンクリート漏れ防止用のシール材21は、合成ゴムからなるシール板21aと、合成ゴム又は合成樹脂からなるペースト状のコーキング材21bであるが、シール板21aを省略しても構わない。
【0035】
図1、図3、及び図5に示すように、型枠本体13の内側面の上端側(上端付近)には、雨水侵入防止用のシール材25を覆うように保持する上部シール保持板27が型枠本体13の幅方向に沿って横断するように設けられており、この上部シール保持板27の基端部は、エキスパンドメタル15に一体的に接合されている。また、上部シール保持板27は、鉄等からなるものであって、表面に、ダブルコートカチオン電着塗装等によって代表される防食塗装が施されている。更に、上部シール保持板27は、先端側が低くなるように型枠本体13の厚み方向に対して傾斜している。なお、本発明の実施形態にあって、雨水侵入防止用のシール材25は、合成ゴム又は合成樹脂からなるペースト状のコーキング材である。
【0036】
続いて、壁高欄1の構成のうち残存型枠11以外の構成について説明する。
【0037】
図1に示すように、底板5の上面の外端側には、複数(1つ図示)のブラケット29が床版3の長さ方向(図1において紙面に向かって表裏方向)に沿って間隔を置いて固定されており、各ブラケット29には、L型形状のガイド長穴(ガイド部の一例)31が形成されてあって、各ガイド長穴31は、水平部分31aと垂直部分31bを有している。また、各ブラケット29には、複数のボルト穴33が貫通して形成されている(図2参照)。
【0038】
各残存型枠11における一対の溝形鋼材17の下端側には、取付金具35がそれぞれ固定されており、各取付金具35は、対応するブラケット29のガイド長穴31に床版3の内方向から係合した係合ピン(係合突起の一例)37を備えている。また、各取付金具35には、複数のボルト穴39が貫通して形成されている(図2参照)。そして、各取付金具35は、整合関係にあるボルト穴33,39を挿通した締結ボルト41によって対応するブラケット29に締結されるようになっている。
【0039】
複数の残存型枠11の内側面には、コンクリート壁43が一体的に接合されており、このコンクリート壁43の上面は、床版3の内方向に向かって徐々に低くなるように水平方向に対して傾斜している。また、コンクリート壁43は、残存型枠11と残存型枠11の内側にセパレート(図示省略)等を介して立設した木製の内側型枠45との間にコンクリートを打設することによって形成されたものであって、木製の内側型枠45は、壁高欄1の構築後に撤去されるものである。更に、コンクリート壁43には、コンクリート壁43を補強する鉄筋ユニット47が適宜に埋設されている。
【0040】
続いて、本発明の実施形態に係る橋梁の壁高欄の構築方法について説明する。
【0041】
本発明の実施形態に係る壁高欄の構築方法は、作業者M(図8参照)の作業によって橋梁の床版3の外端側に壁高欄1を構築する方法であって、次のように、(i)ピン係合ステップと、(ii)姿勢変更ステップと、(iii)締結ステップと、(iv)繰り返しステップと、(v)コンクリート壁形成ステップとを具備している。
【0042】
(i)ピン係合ステップ
図7(a)(b)に示すように、残存型枠11を倒伏した姿勢で床版3の外端方向(換言すれば、底板5の外端方向)へ移動させることにより、残存型枠11に固定された一対の取付金具35における係合ピン37を対応するブラケット29におけるガイド長穴31の水平部分31aに床版3の内方向からそれぞれ係合させる。更に、図7(c)に示すように、残存型枠11の一端側(下端側)を下げることにより、一対の取付金具35における係合ピン37を対応するブラケット29のガイド長穴31の垂直部分31bに落とし込むようにそれぞれ係合させる。
【0043】
なお、ピン係合ステップ中に、シール板21aを底板5の外端部に載置しておく。
【0044】
(ii)姿勢変更ステップ
(i)ピン係合ステップの終了後に、図8及び図9(a)に示すように、一対の取付金具35における係合ピン37を対応するブラケット29におけるガイド長穴31の垂直部分31bに係合させた状態で、係合ピン37を支点として残存型枠11をそれぞれ回転させることにより、残存型枠11を倒伏した姿勢から起立した姿勢に変更する。
【0045】
(iii)締結ステップ
(ii)姿勢変更ステップの終了後に、図9(b)に示すように、シール板21aをずらさないように、残存型枠11を僅かに持ち上げて、一対の取付金具35におけるボルト穴39を対応するブラケット29におけるボルト穴33にそれぞれ整合させる。そして、整合関係にある複数対のボルト穴33,39に締結ボルト41をそれぞれ挿通して、複数の締結ボルト41によって一対の取付金具35を対応するブラケット29にそれぞれ締結する。これにより、コンクリート床9の打設前における床版3の外端部(底板5の外端部)に残存型枠11を強固に取付けることができる。
【0046】
なお、一対の取付金具35を対応するブラケット29にそれぞれ締結した後、下部シール保持板23の下面と底板5の上面との間にコーキング材21bを充填しておく。
【0047】
(iv)繰り返しステップ
(iii)締結ステップの終了後に、(i)ピン係合ステップから(iii)締結ステップを繰り返すことにより、底板5の外端部に複数の残存型枠11を強固に取付けることができる。そして、複数の前記連結具によって複数の残存型枠11を一体的に連結する。
【0048】
(v)コンクリート壁形成ステップ
(iv)繰り返しステップの終了後に、底板5の上側にコンクリートを打設して、コンクリートを硬化させることにより、底板5の上面に一体的に接合したコンクリート床9を形成する。次に、コンクリート床9における残存型枠11の内側に複数の木製の内側型枠45を立設する。そして、残存型枠11と内側型枠45との間にコンクリートを打設して、コンクリートを硬化させることにより、残存型枠11の内側面に一体的に接合したコンクリート壁43を形成する。
【0049】
なお、コンクリート壁43を形成した後に、各上部シール保持板27の下面とコンクリート壁43の上面との間にシール材(コーキング材)25を充填しておく。
【0050】
以上により、橋梁の床版3の外端側に壁高欄1を構築することができる。
【0051】
なお、(i)ピン係合ステップと、(ii)姿勢変更ステップと、(iii)締結ステップとを具備した方法、換言すれば、本発明の実施形態に係る壁高欄の構築方法の一部を、床版3の外端部に残存型枠11を取付ける床版の取付方法として捉えることもできる。
【0052】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0053】
型枠本体13のコンクリートにエキスパンドメタル15が埋設されると共に、エキスパンドメタル15に接合された溝形鋼材17の一部分が型枠本体13の内側面から露出してあって、換言すれば、溝形鋼材17が型枠本体13のコンクリート壁43のコンクリートの両方に埋まるようになっているため、型枠本体13のコンクリートとエキスパンドメタル15との結合性、型枠本体13のコンクリートと溝形鋼材17との結合性、及びコンクリート壁43のコンクリートと溝形鋼材17との結合性を十分に確保することができる。
【0054】
また、残存型枠11の内側面の下端側にコンクリート漏れ防止用のシール材21を保持する下部シール保持板23が型枠本体13の幅方向に沿って横断するように設けられているため、壁高欄1の構築中に、残存型枠11の内側に打設されたコンクリート(具体的には、コンクリート床9を形成する際に打設されたコンクリート)が残存型枠11と底板5の隙間から漏れることを防止できる(打設コンクリートの漏れ防止作用)。特に、下部シール保持板23の先端部は、型枠本体13の厚み方向に対して上向きに傾斜しているため、残存型枠11の内側に打設されたコンクリートの内圧により下部シール保持板23の先端部にくさび効果が働いて、下部シール保持板23の保持力が強まって、打設コンクリートの漏れ防止作用を高めることができる。
【0055】
更に、型枠本体13の内側面の上端側に雨水侵入防止用のシール材25を覆うように保持する上部シール保持板27が型枠本体13の幅方向に沿って横断するように設けられ、コンクリート壁43の上面が床版3の内方向に向かって徐々に低くなるように水平方向に対して傾斜しているため、紫外線による雨水侵入防止用のシール材25の劣化を抑えつつ、残存型枠11とコンクリート壁43との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができる(雨水の侵入防止作用)。特に、上部シール保持板27は、先端側が低くなるように型枠本体13の厚み方向に対して傾斜しているため、上部シール保持板27の先端は型枠本体13の内側面上の雨水を切ることができ、雨水の浸入防止作用を高めることができる。
【0056】
また、エキスパンドメタル15、溝形鋼材17、下部シール保持板23、及び上部シール保持板27は、表面に、防食塗装がそれぞれ施されているため、型枠本体13のコンクリートの厚みを厚くしなくても、エキスパンドメタル15、溝形鋼材17、下部シール保持板23、及び上部シール保持板27の防錆効果、換言すれば、型枠本体13のコンクリートにおける防錆効果を確保することができる。
【0057】
以上の如き、本発明によれば、型枠本体13のコンクリートとエキスパンドメタル15との結合性、型枠本体13のコンクリートと溝形鋼材17との結合性、及びコンクリート壁43のコンクリートと溝形鋼材17との結合性を十分に確保することができるため、型枠本体13の剛性及び(引張強度、曲げ強度)を十分に高めることができる。
【0058】
また、型枠本体13のコンクリートの厚みを厚くしなくても、型枠本体13のコンクリートにおける防錆効果を確保することができるため、残存型枠11の軽量化を図って、残存型枠11の取付作業の能率を向上させることができる。
【0059】
更に、壁高欄1の構築中に、残存型枠11の内側に打設されたコンクリートが残存型枠11と底板5の隙間から漏れることを防止できるため、壁高欄1の構築作業の能率を向上させることができる。
【0060】
また、残存型枠11とコンクリート壁43との接合部への雨水の侵入を長期に亘って防止することができるため、壁高欄1の耐久性を向上させることができる。
【0061】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係る壁高欄の断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る残存型枠を裏からみた図である。
【図3】図2を上から見た図である。
【図4】図2におけるIV-IV線に沿った図である。
【図5】図1における矢視部Vの拡大図である。
【図6】図1における矢視部VIの拡大図である。
【図7】本発明の実施形態に係る壁高欄の構築方法を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態に係る壁高欄の構築方法を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態に係る壁高欄の構築方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0063】
1 壁高欄
3 床版
5 底板
7 H形鋼材
9 コンクリート床
11 残存型枠
13 型枠本体
15 エキスパンドメタル
17 溝形鋼材
21 シール材
23 下部シール保持板
25 シール材
27 上部シール保持板
29 ブラケット
29 取付金具
31 ガイド長穴
31a 水平部分
31b 垂直部分
33 ボルト穴
35 取付金具
37 係合ピン
39 ボルト穴
41 締結ボルト
43 コンクリート壁
45 内側型枠
47 鉄筋ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床版に構築された橋梁の壁高欄において、
前記床版の外端部に立設された残存型枠と、
前記残存型枠の内側面に一体的に接合され、前記残存型枠と前記残存型枠の内側に配置した内側型枠との間にコンクリートを打設することによって形成されたコンクリート壁と、を具備し、
前記残存型枠は、
前記床版の外端部に立設され、コンクリートからなる型枠本体と、
前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、
前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、を備えたことを特徴とする橋梁の壁高欄。
【請求項2】
高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠において、
コンクリートからなる型枠本体と、
前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、
前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、
前記型枠本体の内側面の下端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、コンクリート漏れ防止用のシール材を保持する下部シール保持板と、を具備したことを特徴とする残存型枠。
【請求項3】
高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠において、
コンクリートからなる型枠本体と、
前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、
前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、
前記型枠本体の内側面の上端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、雨水侵入防止用のシール材を覆うように保持する上部シール保持板と、を具備したことを特徴とする残存型枠。
【請求項4】
高所の床版に構築された壁高欄に用いられる残存型枠において、
コンクリートからなる型枠本体と、
前記型枠本体に埋設され、表面に防食塗装が施されてあって、前記型枠本体を補強する網状体と、
前記網状体に接合され、一部分が前記型枠本体の内側面から露出し、表面に防食塗装が施された鋼材と、
前記型枠本体の内側面の下端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、コンクリート漏れ防止用のシール材を保持する下部シール保持板と、
前記型枠本体の内側面の上端側に前記型枠本体の幅方向に沿って横断するように設けられ、雨水侵入防止用のシール材を覆うように保持する上部シール保持板と、を具備したことを特徴とする残存型枠。
【請求項5】
前記下部シール保持板は、表面に防食塗装が施されていることを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の残存型枠。
【請求項6】
前記下部シール保持板の先端部は、前記型枠本体の厚み方向に対して上向きに傾斜していることを特徴とする請求項2、請求項4、又は請求項5のうちのいずれかの請求項に記載の残存型枠。
【請求項7】
前記上部シール保持板は、表面に防食塗装が施されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の残存型枠。
【請求項8】
前記上部シール保持板は、先端側が低くなるように前記型枠本体の厚み方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項3、請求項4、又は請求項7のうちのいずれかの請求項に記載の残存型枠。
【請求項9】
橋梁の床版の外端側に壁高欄を構築する方法において、
請求項2から請求項8のうちのいずれかの請求項に記載の残存型枠を用意し、
前記残存型枠を倒伏した姿勢で前記床版の外端方向へ移動させることにより、前記残存型枠の一端側に固定した取付金具に備えた係合突起を、前記床版の外端側に固定したブラケットに形成したガイド部に前記床版の内方向から係合させるピン係合ステップと、
前記ピン係合ステップの終了後に、前記係合突起を前記ガイド部に係合させた状態で、前記係合突起を支点として前記残存型枠を回転させることにより、前記残存型枠を倒伏した姿勢から起立した姿勢に変更する姿勢変更ステップと、
前記姿勢変更ステップの終了後に、前記取付金具を前記ブラケットに締結する締結ステップと、
前記締結ステップの終了後に、前記床版における前記残存型枠の内側に内側型枠を立設し、前記残存型枠と前記内側型枠との間にコンクリートを打設して、前記コンクリートを硬化させることにより、前記残存型枠の内側面に一体的に接合したコンクリート壁を形成するコンクリート壁形成ステップと、を具備したことを特徴とする壁高欄の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−243237(P2009−243237A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93957(P2008−93957)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(596182209)タカムラ総業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】