説明

橋梁の床版の損傷検出方法

【課題】少ない手間で検出作業を行うことができて、検出作業に必要な時間と費用を削減できる橋梁の床版の損傷検出方法を提供すること。
【解決手段】鋼製床版1上の舗装3を走行する路面測定車両から、赤外線熱映像カメラで舗装3の表面の赤外線熱動画像を取得する。赤外線熱動画像に基づいて、鋼製床版1のトラフ4を検出して鋼製床版1の構造を把握する。赤外線熱動画像のトラフ4に相当する領域のうちの低温の領域と、この領域を取り囲む矩形の低温部から、所定のトラフ部材と密閉ダイヤフラム42の内側に滞水を検出する。滞水が検出されたトラフ4に対応するデッキプレート2に、貫通亀裂を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の床版上に敷設された舗装の表面側から撮影された赤外線熱動画像を用いて、舗装の裏面側に位置する床版の損傷を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路の高架橋等のような道路用の橋梁(以下、道路橋という)は、地盤に固定された橋脚と、橋脚間に掛け渡された主桁と、主桁の上に設置された床版と、床版の上に敷設された舗装とで主要な構造が構成されている。道路橋の床版は、舗装上を走行する車両の荷重を、主桁を通して橋脚に伝達する機能を有し、鉄筋コンクリートで形成されたRC床版や、鋼材で形成された鋼床版や、鉄筋コンクリートと鋼材とで形成された合成床版等、種々の形式のものが開発されている。
【0003】
道路橋の床版は、舗装上の走行車両による繰り返し荷重に起因して、ひび割れや亀裂等の損傷が生じる場合がある。このような損傷が進行すると、損傷の周辺部が荷重の作用に伴って変位を繰り返して損傷が拡大し、損傷部の上方に存在する舗装の部分に、ポットホールや剥離等の損傷を発生させる。このように、床版の損傷は舗装の損傷を招き、延いては車両の通行に悪影響を与えるので、床版の損傷を早期に検出することが求められる。しかしながら、床版は舗装に覆われているので、舗装の表面側から床版の損傷を検出するのは困難である。多くの場合、舗装のポットホール等が生じて補修を行う際に、傷んだ舗装を除去して初めて床版の損傷が検出されている。
【0004】
従来、橋梁の床版の損傷を早期に検出する方法として、サーモグラフィ熱映像を利用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この床版の損傷検出方法は、RC床版の上側面に160℃程度の温度の舗装材料を敷設し、この舗装材料の熱がRC床版を伝達して下側面に表れる温度分布を、RC床版の下方から赤外線熱映像カメラで取得する。RC床版中に欠陥部としての空洞や空隙が存在すると、温度の伝達が妨げられ、欠陥部の下方の表面温度が健全部と比較して低温域となって表れる。したがって、床版の下側面の低温域を抽出することにより、床版内の欠陥部の存在を検出できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−247964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の橋梁の床版の損傷検出方法は、床版の下方から下側面を赤外線熱映像カメラで撮影する必要があるので、道路橋の下方に他の構造物や鉄道や河川等が存在する場合、撮影の作業が困難になるという問題がある。したがって、長距離の高架路線を対象として床版の損傷検出を行う場合、検出作業の手間が嵩み、多くの時間と費用がかかる恐れがある。また、上記橋梁の床版の損傷検出方法は、床版の下方から下側面の温度分布を撮影するので、床版の下側に配置された支持部材が支障となって床版の全体の温度分布を把握し難く、したがって、床版に損傷検出をできない部分が生じるという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の橋梁の床版の損傷検出方法は、床版を舗装材料によって160℃程度に加熱する必要があるので、床版の損傷検出を行う機会が舗装の敷設工事を行う場合に限られ、高い自由度で床版の損傷検出を実行できないという問題がある。さらに、床版の損傷検出を行うには、舗装の敷設工事が必要となるので、道路の交通規制が必要であり、道路交通に与える影響が大きいという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、少ない手間で検出作業を行うことができ、したがって、検出作業に必要な時間と費用を削減できる橋梁の床版の損傷検出方法を提供することにある。また、本発明の課題は、床版全体に対して損傷検出が可能な橋梁の床版の損傷検出方法を提供することにある。さらに、他の工事と同時に実行する必要が無くて、高い自由度で任意の時期に実行できる橋梁の床版の損傷検出方法を提供することにある。さらに、道路の交通規制が不要で、道路交通に与える影響の小さい橋梁の床版の損傷検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の橋梁の床版の損傷検出方法は、
舗装の表面側から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、舗装の裏面側に位置して舗装を支持する床版の構成部材を検出する部材検出ステップと、
検出された床版の構成部材に関連して舗装の表面に表れる温度分布パターンに基づいて、床版の内部又は床版の表面の水の滞留を検出する滞水検出ステップと、
検出された水の滞留に基づいて、床版の構成部材の損傷を検出する損傷検出ステップと
を備えることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、舗装の表面側から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、舗装の裏面側に位置して舗装を支持する床版の構成部材が検出される。検出された床版の構成部材に関連して舗装の表面に表れる温度分布パターンに基づいて、床版の内部又は床版の表面の水の滞留が検出される。例えば、検出された所定の構成部材によって区画される領域が、同種の構成部材によって区画される他の領域に対して局所的に温度差がある場合、水の熱容量は床版を構成するコンクリートや鉄等の熱容量よりも大きいことから、上記所定の構成部材によって区画される領域に、水が滞留していることを判断できる。検出された水の滞留に基づいて、床版の構成部材の損傷が検出される。例えば、上記所定の構成部材によって区画され、水の滞留が検出された領域の上側に位置する部材に、損傷が存在することが検出される。
【0011】
上記構成の橋梁の床版の損傷検出方法によれば、赤外線熱動画像は舗装の表面側から撮影されたものであるので、この赤外線熱動画像を取得する際、橋梁の下方に他の構造物や鉄道や河川が存在しても、橋梁の下方の状態に影響を受けることなく撮影の作業を容易に行うことができる。したがって、床版の下方から下側面を赤外線熱映像カメラで撮影する従来よりも、床版の損傷検出作業の手間を削減でき、作業にかかる時間と費用を削減できる。また、上記赤外線熱動画像は、舗装の表面側から撮影されたものであるので、床版の下側面から撮影された赤外線熱画像のように支持部材が支障となって欠損部分が生じることが無い。したがって、床版の実質的に全体に対して損傷検出を行うができる。さらに、上記赤外線熱動画像は動画であるので、道路の比較的長い区間を比較的短時間で撮影することができる。したがって、床版の損傷検出作業の効率を高めることができる。
【0012】
また、上記構成の橋梁の床版の損傷検出方法によれば、表面の温度分布を赤外線熱動画像として取得すべき舗装は、従来のように舗装材料等によって加熱させる必要が無い。すなわち、本発明の橋梁の床版の損傷検出方法は、太陽光による自然加熱によって舗装に生じた温度分布を感知し、温度の相違を識別することにより、床版の損傷検出を行うことができる。したがって、従来のように、床版の損傷検出の機会が舗装の敷設工事を行う場合に限られることがなく、高い自由度で床版の損傷検出を実行できる。また、舗装材料や他の加熱媒体で床版を予め加熱する必要が無いので、床版の損傷検出作業を容易にできる。また、床版の損傷検出を行う際、従来のように舗装の敷設工事を行う必要が無いので、道路の交通規制が不要であり、道路交通に与える影響を削減できる。
【0013】
本発明の橋梁の床版の損傷検出方法は、赤外線熱動画像で損傷を直接検出するのではなく、所定の部材と滞水との相関性に着目し、先ず、滞水を赤外線熱動画像で検出することにより、部材の損傷を検出しようとするものである。このように、部材の損傷を、滞水を介して検出することにより、部材が舗装の裏側に位置していても、従来よりも簡易な検出作業により、比較的少ない作業時間と費用で損傷検出が可能となるのである。
【0014】
一実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法は、上記赤外線熱動画像は、上記舗装の上を走行する車両から撮影されたものである。
【0015】
上記実施形態によれば、赤外線熱動画像は、上記舗装の上を走行する車両から撮影されたものであるので、舗装の表面側から撮影されるものであるにもかかわらず、舗装上の道路の交通規制が不要である。したがって、この床版の損傷検出方法は、実行する際に道路交通に与える影響を少なくできる。
【0016】
一実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法は、上記赤外線熱動画像は、インジウムアンチモン量子型赤外線熱映像カメラによって撮影されたものである。
【0017】
上記実施形態によれば、赤外線熱動画像の撮影にインジウムアンチモン量子型赤外線熱映像カメラを用いることにより、例えば、このインジウムアンチモン量子型赤外線熱映像カメラを車両に搭載し、時速約60kmから100kmの速度で走行する上記車両から撮影を行って、舗装の表面の鮮明な赤外線熱動画像を取得できる。したがって、撮影対象である舗装上の道路の交通渋滞を引き起こすことなく、赤外線熱動画像の撮影を行うことができる。その結果、道路交通に与える影響が実質的に無い状態で、床版の損傷検出作業を行うことができる。
【0018】
一実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法は、上記床版は、上記舗装の裏面を支持する鋼製のデッキプレートと、このデッキプレートの下側に固定された鋼製のトラフを有する鋼製床版であり、
上記部材検出ステップは、舗装の上を走行する車両から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、上記デッキプレートとトラフとの接続部を検出し、
上記滞水検出ステップは、検出された上記デッキプレートとトラフとの接続部の間の領域のうち、他の領域に対して温度差を有する領域を滞水が生じた領域として検出し、
上記損傷検出ステップは、デッキプレートの部分であって、上記滞水が生じた領域に対応する部分に、貫通亀裂の発生を検出する。
【0019】
上記実施形態によれば、鋼製のデッキプレートとトラフを有する鋼製床版について、部材検出ステップで、舗装の上を走行する車両から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、上記デッキプレートとトラフとの接続部が検出される。滞水検出ステップで、検出された上記デッキプレートとトラフとの接続部の間の領域のうち、他の領域に対して温度差を有する領域が、滞水が生じた領域として検出される。損傷検出ステップで、デッキプレートの部分であって、上記滞水が生じた領域に対応する部分に、貫通亀裂の発生が検出される。このように、舗装の表面側から舗装の表面を撮影してなる赤外線熱動画像に基づいて、この舗装の裏側の鋼製床版の構造を把握し、把握した構造で規定される領域の滞水を検出することにより、鋼製床版のデッキプレートの貫通亀裂を効果的に検出することができる。なお、上記鋼製床版を構成するトラフとは、樋形状を有してデッキプレートの下側面に取り付けられた部材を意味する。
【0020】
本発明の他の側面による床版の損傷検出方法は、舗装の表面側から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、舗装の裏面側に位置して舗装を支持する床版の構成部材に起因する温度分布を検出する部材温度分布検出ステップと、
検出された床版の構成部材に起因する温度分布のパターンに基づいて、床版の内部又は床版の表面における空気の存在又は水の滞留を検出する空気層・滞水検出ステップと、
検出された空気の存在又は水の滞留に基づいて、床版の構成部材の損傷を検出する損傷検出ステップと
を備えることを特徴としている。
【0021】
上記構成によれば、舗装の表面側から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、舗装の裏面側に位置して舗装を支持する床版の構成部材に起因する温度分布が検出される。検出された床版の構成部材に起因して舗装の表面に表れる温度分布パターンに基づいて、床版の内部又は床版の表面における空気の存在又は水の滞留が検出される。例えば、検出された所定の領域が、他の領域に対して局所的に温度差がある場合、水の熱容量は床版を構成するコンクリートや鉄等の熱容量よりも大きい一方、空気の熱容量はコンクリートや鉄等の熱容量よりも小さいことから、上記所定の領域に、空気の存在又は水の滞留を判断できる。検出された空気の存在又は水の滞留に基づいて、床版の構成部材の損傷が検出される。例えば、上記所定の領域に位置する部材に、損傷が存在することが検出される。
【0022】
また、上記構成の橋梁の床版の損傷検出方法によれば、舗装を従来のように舗装材料等で事前に加熱させる必要が無く、太陽光による自然加熱によって舗装に生じた温度分布を感知し、温度の相違を識別して床版の損傷検出を行うので、高い自由度で床版の損傷検出を実行できる。また、舗装材料や他の加熱媒体で床版を予め加熱する必要が無いので、床版の損傷検出作業を容易にできる。また、床版の損傷検出を行う際、従来のように舗装の敷設工事を行う必要が無いので、道路の交通規制が不要であり、道路交通に与える影響を削減できる。
【0023】
一実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法は、上記床版は、上記舗装の裏面を支持し、鉄筋とコンクリートを有する鉄筋コンクリート床版であり、
上記部材温度分布検出ステップは、舗装の上を走行する車両から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、上記コンクリートの他の領域に対して温度差が生じた領域を検出し、
上記空気層・滞水検出ステップは、検出された領域の他の領域に対する温度差の値に基づいて、上記コンクリートの上記領域に空気層又は滞水を検出し、
上記損傷検出ステップは、空気層又は滞水が生じたコンクリートの部分に、空隙、ひび割れ、又は劣化を検出する。
【0024】
上記実施形態によれば、鉄筋とコンクリートを有する鉄筋コンクリート床版について、部材温度分布検出ステップで、舗装の上を走行する車両から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、上記コンクリートの他の領域に対して温度差が生じた領域が検出される。空気層・滞水検出ステップで、検出された領域の他の領域に対する温度差の値に基づいて、上記コンクリートの上記領域に、空気層や滞水が生じていることが検出される。損傷検出ステップで、空気層や滞水が生じている領域に対応するコンクリートの部分に、ひび割れの発生が検出される。このように、舗装の表面側から舗装の表面を撮影してなる赤外線熱動画像に基づいて、この舗装の裏側のコンクリート床版の温度分布を把握し、把握した温度分布に基づいて空気層や滞水を検出することにより、コンクリート床版のコンクリートのひび割れを効果的に検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、舗装の表面側から撮影した舗装の表面の赤外線熱動画に基づいて、舗装の裏面側の床版の構造を間接的に把握でき、この構造に対応する滞水を検出することにより、例えばデッキプレートの貫通亀裂等のような床版の損傷を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の損傷検出方法を適用する鋼製床版を示す図である。
【図2】トラフとデッキプレートとの溶接部に生じる亀裂を示す部分横断面図である。
【図3】実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法の工程を示したフローチャートである。
【図4】舗装の赤外線熱動画像の1フレームを示す図である。
【図5】床版の滞水部分を含んだ領域の舗装の赤外線熱動画像の1フレームを示す図である。
【図6】トラフの内部の構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態の床版の損傷検出方法を適用する床版としての鋼製床版を、下側から観察した様子を示す図である。この鋼製床版1は、デッキプレート2と、デッキプレート2の上面に敷設された舗装3を有する。デッキプレート2の下面には、補強部材として、U字状断面を有して橋軸方向に延在するトラフ4と、トラフ4と平行に延在してI型断面を有する縦リブ5と、橋軸直角方向に延在してI型断面を有する横リブ6が設けられている。デッキプレート2、トラフ4、縦リブ5及び横リブ6は、いずれも鋼材で形成されている。トラフ4、縦リブ5及び横リブ6は、デッキプレート2に溶接で固定されている。トラフ4とデッキプレート2との溶接部には、図2の断面図に示すように、ビード21が形成されている。
【0029】
舗装3はアスファルトで形成されている。なお、舗装3は、アスファルトのみで形成される以外に、少なくとも一部がコンクリートや樹脂で形成されていてもよい。
【0030】
この鋼製床版1は、都市高速道路の高架橋に用いられており、図示しない橋脚によって支持されている。
【0031】
この種の鋼製床版1は、舗装3上を走行する車両の荷重を頻繁に受けることから、図2に示すように、デッキプレート2とトラフ4との溶接部を起点として、デッキプレート2に貫通亀裂7が生じる。このデッキプレート2の貫通亀裂7は、図2のようにビード21のトラフ4内側の端縁から進展する場合のほか、ビード21のトラフ4外側の端縁から進展する場合がある。いずれの場合も、デッキプレート2の貫通亀裂7の周辺部分が車両の通行に伴って変位し、舗装3の貫通亀裂7の周辺部分が損傷して、舗装3に大きな損傷が生じる恐れがある。このように、舗装3の損傷は、貫通亀裂7と関連しており、車両の安全な走行を害する恐れがあるので、デッキプレート2の貫通亀裂7の早期発見と補修が必要となる。
【0032】
このような状況において、本実施形態では、都市高速道路の所定の路線を構成する全ての鋼製床版1に対し、赤外線熱動画を用いて、デッキプレート2の損傷としての貫通亀裂7を検出する。
【0033】
図3は、本実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法の工程を示したフローチャートである。図3のフローチャートに示すように、まず、鋼製床版1上の舗装3の表面の赤外線熱動画像を取得する(ステップS1)。この赤外線熱動画像に基づいて、鋼製床版1の部材を検出して構造を把握する(ステップS2)。続いて、赤外線熱動画像に基づき、把握した鋼製床版1の構造を考慮して、鋼製床版1における水の滞留を検出する(ステップS3)。この後、検出された水の滞留に基づいて、鋼製床版1の部材の損傷を検出する(ステップS4)。以下、各ステップの詳細を説明する。
【0034】
(ステップS1)
鋼製床版1上の舗装3の表面の赤外線熱動画像を、この舗装3上を走行する車両から撮影する。上記車両は、マイクロバス又はボックス型商用車を改造して作成された路面測定車両であり、進行方向の前側部の屋根に、赤外線熱映像カメラと可視光線映像カメラを搭載した撮影装置が設けられている。赤外線熱映像カメラはインジウムアンチモン量子型であり、マイクロボロメータ型カメラ等と比較して感度が高いので、時速約60kmから100kmの速度で移動しながらブレの少ない赤外線熱動画像を得ることができる。赤外線熱映像カメラにより、路面測定車両の前方の舗装3の表面を、等時間間隔(例えば毎秒5フレーム)、或いは、等距離間隔(例えば5m間隔)で撮影して赤外線熱動画を取得すると共に、この赤外線熱映像カメラによる撮影範囲と略同じ範囲を可視光線映像カメラで同時に撮影するようになっている。路面測定車両には、GPS(全地球測位システム)のアンテナが設けられており、このアンテナで受信した位置情報を、赤外線熱動画と可視光線動画に関連付けて記憶装置に記憶するようになっている。
【0035】
上記路面測定車両で、損傷検出を行う対象である都市高速道路の高架橋を走行しながら、舗装3の赤外線熱動画を撮影する。このとき、インジウムアンチモン量子型の赤外線熱映像カメラにより赤外線熱動画を撮影するので、路面測定車両は時速約60km以上の速度で走行できる。したがって、高架橋を一般車両に開放した状態で、路面測定車両の走行車線の交通規制を行うことなく、撮影を行うことができ、しかも、道路の交通渋滞を引き起こすことが無い。その結果、道路交通に与える影響が実質的に無い状態で、鋼製床版1の損傷検出作業を行うことができる。本実施形態では、舗装3の赤外線熱動画像を、日気温が最高となる14時から14時半の間に撮影し、橋梁の温度が全体として最高となる時の舗装3表面の温度分布を取得した。
【0036】
(ステップS2)
上記赤外線熱動画像に基づいて、鋼製床版1の部材を検出して構造を把握する。図4は、走行する路面測定車両から撮影した赤外線熱動画像の1フレームを示したものである。なお、赤外線熱動画像は、舗装3の表面の温度分布を、一般的に、赤から紫に至る色彩グラデーションで示した色彩分布図として表される。図4の端には、色彩と温度の対応を表すグラデーションスケールが示されているが、図4は、色彩が削除され、明度のみによって示されている。図4に示すように、舗装3の表面に、鋼製床版1の部材であるトラフ4の設置領域が、高温領域T2,T4,T6によって表れている。一方、トラフ4の相互間の領域であって、デッキプレート2の下側面が露出するトラフ間領域が、高温領域T2,T4,T6よりも低温の低温領域T1,T3,T5として表れる。これは、トラフ4内に密封された空気が舗装3を介して太陽光線で加熱されるので、トラフ4の相互間の外気に触れる部分よりも温度が上昇するからである。
【0037】
上記トラフ間領域を示す低温領域T1,T3,T5の長手方向の両端には、更に低温の線状の低温部L11,L12,L31,32,L51,52が存在する。これら低温部L11,L12,・・・は、デッキプレート2とトラフ4の下側面に沿って配置された横リブ6の配置位置を示している。
【0038】
このように、赤外線熱動画像に、例えば図4のように高温領域T2,T4,T6としてトラフ4の位置が表れ、低温部L11,L12,・・・として横リブ6の位置が表れることにより、鋼製床版1の構造を把握することができる。表1及び2は、日最高気温14.8℃、晴れの気象条件での日最高気温時間帯において、橋梁全体が最高温度に達する時に、高温領域T2,T4,T6と低温領域T1,T3,T5の温度を、80の標本数について測定した結果をまとめたものである。表1及び2から分かるように、トラフ4の設置領域は、トラフ4相互間のトラフ4が配列されていない領域よりも0.4℃高い温度差が生じる。
【表1】

【表2】

【0039】
また、低温部L11,L12,・・・は、高温領域T2,T4,T6よりも1〜1.5℃低い温度差が生じる。このようにして、舗装3の表面を撮影した赤外線熱動画像に基づいて、この舗装3の裏面側に存在する鋼製床版1の部材のトラフ4と横リブ6を把握でき、すなわち、鋼製床版1の構造を把握することができる。
【0040】
(ステップS3)
ステップS2で把握した鋼製床版1の構造に基づいて、鋼製床版1の部材内の水の滞留を検出する。図5は、図4で把握される構造と略同じ構造の鋼製床版1であって、水が滞留している鋼製床版1上の舗装を撮影した赤外線熱動画像の1フレームである。
【0041】
図6は、図5の赤外線熱動画像に表れる構成床版1の構造部材を説明する図であって、構成床版1が有するトラフ4の内部の構造を示す縦断面図である。図6に示すように、トラフ4は、デッキプレート2の下側面に溶接された複数のトラフ部材41,41,・・・で構成されている。トラフ部材41は、鋼製床版1の製作時に、運搬の理由により分割して製作された鋼製床版1の分割ユニットに対応している。鋼製床版1を施工する際、分割ユニットが施工現場に搬入されて組み立てられ、トラフ部材41が接合プレート43とボルトで互いに接合されて、トラフ4が形成される。トラフ部材41の両端の近傍には、接合部を区画するために密閉ダイヤフラム42が設けられている。トラフ部材41の内側の密閉ダイヤフラム42の間は、上端縁がデッキプレート2に溶接されて密閉されるので、母材が露出して防錆処理が施されていない。
【0042】
図5に示すように、複数のトラフ4に対応する領域R1,R2,R3,R4,R5,R6のうち、撮影対象の車線の右端から左に向かって2列目の奥側の領域R2が、他の領域R1,R3,R4,R5よりも温度が最大で1.3℃低くなっている。さらに、図5によれば、上記低温の領域R2を取り囲むように、矩形の枠状の低温部L2が存在している。この低温部L2は、トラフ4の相互間の部分に相当する領域に対して温度が0.6〜0.8℃低くなっている。これは、領域R2に対応するトラフ4内の空気の温度が、他の領域R1,R3,R4,R5に対応するトラフ4内の空気の温度よりも低いことを表している。また、領域R2に対応するトラフ部材41と密閉ダイヤフラム42の温度が、他のトラフ部材41及び密閉ダイヤフラム42や、デッキプレート2の温度よりも低いことを表している。
【0043】
表3及び4は、表1及び2と同じ条件下で、トラフ4に対応する領域R1,R2,R3,R4,R5,R6の温度を、領域R1,R2,R3については200の標本数について測定し、領域R4,R5,R6については150の標本数について測定した結果を、トラフ内の状態と合わせてまとめたものである。なお、領域R1とR4、領域R2とR5、及び、領域R3とR6は、それぞれ同一のトラフ4に相当する領域であり、各領域は密閉ダイヤフラム42で仕切られている。
【表3】

【表4】

【0044】
図5に示されるように、舗装3の熱赤外線動画像に、トラフ4に対応する低温の領域R2と、この領域R2を取り囲む低温部L2とが表れる場合、これに対応するトラフ4内の密閉ダイヤフラム42の間の部分に、トラフ4内の空気の温度と、トラフ4と密閉ダイヤフラム42の温度を低下させる水が存在していると判断することができる。こうして、舗装3の熱赤外線画像に、他の高温領域よりも低温の高温領域と、この高温領域を取り囲む枠状の低温部を検出することにより、その領域に水の滞留を検出することができる。
【0045】
(ステップS4)
ステップS3で検出された水の滞留に基づいて、鋼製床版1の部材の貫通亀裂を検出する。トラフ4は、上端がデッキプレート2の下側面に溶接され、トラフ4内の密閉ダイヤフラム42は、上端縁がデッキプレート2に溶接されていると共に上端縁以外の縁がトラフ部材41の内側面に溶接されている。したがって、トラフ4内の密閉ダイヤフラム42で密閉された領域には、通常は滞水が生じない。ここで、ステップS3でトラフ4内に水の滞留が検出された場合、舗装3への降雨が、デッキプレート2の貫通亀裂7を通じてトラフ4内に侵入したことが想定される。実際に、図5のトラフ4の領域R2に対応する位置を調査したところ、デッキプレート2のトラフ4の溶接部分に貫通亀裂7が発見された。このように、デッキプレート2の下側面に溶接されたトラフ4内の滞水は、デッキプレート2の貫通亀裂7に高い相関性がある。したがって、滞水を検出することにより、デッキプレート2の貫通亀裂を検出することができる。
【0046】
こうして、デッキプレート2の貫通亀裂が検出されると、赤外線熱動画像のフレームに関連付けられている位置情報を抽出し、この位置情報に基づいて損傷現場を特定し、鋼製床版1の補修作業を行う。トラフ4内の滞水は、デッキプレート2に貫通亀裂が生成して比較的短期間で生じるので、本実施形態の検出方法を用いることにより、貫通亀裂の早期発見と補修を行うことができる。したがって、デッキプレート2に貫通亀裂に起因して大きな変形が生じ、また、舗装3に大きな損傷が生成され、道路交通に悪影響を与える不都合を、効果的に防止することができる。
【0047】
本実施形態の橋梁の床版の損傷検出方法によれば、赤外線熱動画像は、舗装3上を走行する路面測定車両の赤外線熱映像カメラで撮影するので、この赤外線熱動画像を取得する際、橋梁の下方に他の構造物や鉄道や河川が存在しても、橋梁の下方の状態に影響を受けることなく撮影の作業を容易に行うことができる。したがって、床版を下方から撮影する従来の方法よりも、床版の損傷検出作業の手間を削減でき、作業にかかる時間と費用を削減できる。また、上記赤外線熱動画像は、鋼製床版1上の舗装3の表面側から撮影されたものであるので、舗装3の全面を撮影できる。したがって、床版を下側面から撮影する場合のように支持部材等が支障となって検査の欠損部分が生じることが無く、鋼製床版1の略全面に対して損傷検出を行うことができる。さらに、上記赤外線熱動画像は動画であるので、道路の比較的長い区間を比較的短時間で撮影することができる。したがって、鋼製床版1の損傷検出作業の効率を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、赤外線熱動画像は、舗装3上を走行する路面測定車両から撮影されるので、舗装3上の道路の交通規制が不要である。したがって、鋼製床版1の損傷検出を実行する際に道路交通に与える影響を少なくできる。
【0049】
また、本実施形態によれば、太陽光線による自然加熱に伴う舗装3の表面の温度分布を赤外線熱映像カメラで撮影するので、従来のように、撮影を行う前に床版を加熱する必要が無い。したがって、鋼製床版1の損傷検出を行う時期を、従来のように舗装の敷設工事に限られることなく、高い自由度で設定することができる。また、床版の損傷検出を行う際、従来のように舗装の敷設工事を行う必要が無いので、道路の交通規制が不要であり、道路交通に与える影響を削減できる。
【0050】
また、本実施形態によれば、赤外線熱動画像の撮影にインジウムアンチモン量子型赤外線熱映像カメラを用いるので、このカメラを車両に搭載し、時速60km以上の速度で走行しながら舗装3の表面の赤外線熱動画像を取得できる。したがって、撮影対象である舗装3上の道路の交通渋滞を引き起こすことなく、赤外線熱動画像の撮影を行うことができる。その結果、道路交通に与える影響が実質的に無い状態で、鋼製床版1の損傷検出作業を行うことができる。
【0051】
上記実施形態において、舗装3の撮影を、日最高気温時間帯に行うことにより、橋梁の温度が全体として最高に達した時点の舗装3の温度分布を取得したが、舗装3の撮影を、日没から3〜4時間が経過した時点で行うことにより、橋梁の温度が全体として低下するときの舗装3の温度分布を取得してもよい。この場合、赤外線熱動画像には、トラフ4の配置領域が、トラフ4の相互間の他の領域よりも低い温度の領域として表れる。また、滞水したトラフ4は、滞水していないトラフ4よりも高い温度の領域として表れ、さらに、滞水領域を取り囲むトラフ部材41と密閉ダイヤフラム42は、更に高い温度の線状部として表れる。
【0052】
また、上記実施形態において、赤外線熱動画像により、鋼製床版1の部材内の滞水を検出したが、鋼製床版1のデッキプレート2の表面側の滞水を検出してもよい。
【0053】
上記実施形態において、赤外線熱動画像の温度分布として表れる各構造部材の温度と互いの温度差は、単なる例示に過ぎず、赤外線熱動画像の撮影日の最高温度、天候、及び、撮影時間帯等に応じて、種々の温度と、温度差と、高低関係が生じ得る。
【0054】
上記実施形態では、橋梁の床版として鋼製床版1の損傷検出を行う場合について説明したが、橋梁の床版としてRC床版の損傷検出を行ってもよい。RC床版の損傷検出を行う場合、RC床版上に敷設された舗装の上を、上記実施形態で用いた路面測定車両と同じ路面測定車両で走行して舗装の表面の赤外線熱動画像を撮影する。この赤外線熱動画像が日の出から約4時間後以降の日中に取得された場合、赤外線熱動画像には、RC床版の内部やRC床版と舗装との間に空気層が形成されて空気が存在する場合、この空気の存在する領域が、空気の存在しない領域よりも高温に表れる。一方、RC床版の内部やRC床版と舗装との間に水が滞留している場合、水が滞留する領域が、水の滞留していない領域よりも低温に表れる。これらから、空気の存在又は水の滞留が検出されると、この領域に対応するコンクリート部分に、空気層や滞水をもたらす空隙やひび割れ、或いは、浮きや豆板等の劣化を検出することができる。このように、舗装の表面側から舗装の表面を撮影してなる赤外線熱動画像に基づいて、この舗装の裏面側に位置するRC床版のコンクリートの温度分布を把握し、温度分布に基づいて所定の領域の空気層や滞水を検出する。その結果、少ない手間により、コンクリート床版のコンクリートの空隙や、ひび割れや、劣化を効果的に検出することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 鋼製床版
2 デッキプレート
3 舗装
4 トラフ
5 縦リブ
6 横リブ
7 デッキプレートの貫通亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舗装の表面側から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、舗装の裏面側に位置して舗装を支持する床版の構成部材を検出する部材検出ステップと、
検出された床版の構成部材に関連して舗装の表面に表れる温度分布パターンに基づいて、床版の内部又は床版の表面の水の滞留を検出する滞水検出ステップと、
検出された水の滞留に基づいて、床版の構成部材の損傷を検出する損傷検出ステップと
を備えることを特徴とする橋梁の床版の損傷検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の橋梁の床版の損傷検出方法において、
上記赤外線熱動画像は、上記舗装の上を走行する車両から撮影されたものであることを特徴とする橋梁の床版の損傷検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載の橋梁の床版の損傷検出方法において、
上記赤外線熱動画像は、インジウムアンチモン量子型赤外線熱映像カメラによって撮影されたものであることを特徴とする橋梁の床版の損傷検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載の橋梁の床版の損傷検出方法において、
上記床版は、上記舗装の裏面を支持する鋼製のデッキプレートと、このデッキプレートの下側に固定された鋼製のトラフを有する鋼製床版であり、
上記部材検出ステップは、舗装の上を走行する車両から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、上記デッキプレートとトラフとの接続部を検出し、
上記滞水検出ステップは、検出された上記デッキプレートとトラフとの接続部の間の領域のうち、他の領域に対して温度差を有する領域を滞水が生じた領域として検出し、
上記損傷検出ステップは、デッキプレートの部分であって、上記滞水が生じた領域に対応する部分に、貫通亀裂の発生を検出することを特徴とする橋梁の床版の損傷検出方法。
【請求項5】
舗装の表面側から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、舗装の裏面側に位置して舗装を支持する床版の構成部材に起因する温度分布を検出する部材温度分布検出ステップと、
検出された床版の構成部材に起因する温度分布のパターンに基づいて、床版の内部又は床版の表面における空気の存在又は水の滞留を検出する空気層・滞水検出ステップと、
検出された空気の存在又は水の滞留に基づいて、床版の構成部材の損傷を検出する損傷検出ステップと
を備えることを特徴とする橋梁の床版の損傷検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の橋梁の床版の損傷検出方法において、
上記床版は、上記舗装の裏面を支持し、鉄筋とコンクリートを有する鉄筋コンクリート床版であり、
上記部材温度分布検出ステップは、舗装の上を走行する車両から撮影された舗装の表面の赤外線熱動画像に基づいて、上記コンクリートの他の領域に対して温度差が生じた領域を検出し、
上記空気層・滞水検出ステップは、検出された領域の他の領域に対する温度差の値に基づいて、上記コンクリートの上記領域に空気層又は滞水を検出し、
上記損傷検出ステップは、空気層又は滞水が生じたコンクリートの部分に、空隙、ひび割れ、又は劣化を検出することを特徴とする橋梁の床版の損傷検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−265704(P2010−265704A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119329(P2009−119329)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(508061549)阪神高速技術株式会社 (20)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】