説明

橋梁補修方法および橋梁補修用軸力付与装置

【課題】 橋梁を補修する際、位置調整、荷重調整を良好に行うことができる。
【解決手段】
上記橋梁の斜材13が腐食により破断している場合、図2(A)、(B)に示すように、腐食部13aを切除し、残された部分の端部を第1、第2取付部13x、13yとするとともに、第1、第2取付部13x、13yを挟んで互いに離間する部位を第1、第2定着部13m、13nとする。次に、図2(C)に示すように、橋梁を持ち上げ第1、第2取付部13x、13yを互いに近づける。次に、図2(D)に示すように、第1、第2定着部13m、13n間に軸力付与装置20を掛け渡すようにして設置する。次に、図2(E)に示すように、軸力付与装置20により第1、第2定着部13m、13nを互いに引き寄せる。次に、図2(F)に示すように、軸力付与状態のままで補修材51の両端部を第1、第2取付部13x、13yに当てて固定し、その後で軸力付与装置20を取り外す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁補修方法およびこの橋梁補修に用いられる軸力付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化した橋梁の腐食(劣化)が問題となっており、その補修が注目されている。過去に下路式の鋼ワレントラス橋である木曽川大橋では、斜材(構成材)において床版を貫通する部分で腐食による破断が生じた。
【0003】
上記橋梁の補修は、非特許文献1を参考にして、次のように行われた。最初に、上記斜材の腐食部を切除し、上記斜材の上側部分と下側部分とを残す。上側部分の下端部を後述の第1取付部として提供し、下側部分の上端部を第2取付部として提供する。
次に、破断された斜材近傍の下弦材を仮受ベント上のジャッキ手段により持ち上げ、上記斜材の上側部分をチェーンブロックにより引っ張って斜材の下側部分と同軸に調節する。
次に、補修材の両端部を上記斜材の第1、第2取付部に当て高力ボルトにより固定することにより、補修材を第1、第2取付部に掛け渡す。
【非特許文献1】鋼橋の補修・補強事例集第47〜48頁:平成14年10月、日本橋梁建設協会発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記補修方法では、下弦材を持ち上げた状態で補修材を橋梁の破断斜材に固定した後、上記ジャッキ手段による持ち上げを解除した時、上記補修された斜材に始めて引っ張り荷重が加わることになる。そのため、この修復された斜材や他の斜材の格点を適した高さに調整するのが困難であり、各斜材に加わる引張荷重を適した荷重に調整するのも困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、橋梁に補修材を取り付けて補修する方法において、上記橋梁において、上記補修材が取り付けられるべき取付領域を挟んで互いに離間する部位を、第1、第2定着部とし、上記第1、第2定着部間に軸力付与装置を掛け渡すようにして設置し、上記軸力付与装置により上記第1定着部と第2定着部に、互いを引き寄せる方向の軸力を付与し、この軸力付与状態で上記補修材を上記橋梁の取付領域に当てて固定し、上記補修材固定後に、上記軸力付与装置を橋梁から取り外すことを特徴とする。
【0006】
上記方法によれば、軸力付与装置により軸力を付与した状態で補修材を固定したので、補修材固定後に軸力付与装置を取り外した後に補修材にかかる引張荷重は軸力付与装置で負担した引張荷重とほぼ等しい。その結果、補修後における橋梁の構成材の位置、荷重を予測できるので、それぞれを容易に最適にまたは許容範囲にすることができる。
【0007】
好ましくは、上記取付領域が橋梁の構成材の一部であり、上記第1、第2定着部が当該構成材において設定される。
これによれば、構成材を取り替えずに修復することができる。
【0008】
ある態様では、上記構成材が劣化により破断しており、上記補修材が当該構成材の劣化部を含む部位と取替えるために用いられ、上記軸力付与装置の設置工程に先立ち、上記劣化部を切除し、切除によって残された構成部材の互いに対向する端部を、上記取付領域となる第1、第2取付部として提供し、これら第1、第2取付部を挟むようにしてその外側に位置する上記第1、第2定着部に上記軸力付与装置を掛け渡して上記軸力を付与した状態で、上記補修材の両端部をこれら第1、第2取付部に固定することにより、この補修材を第1、第2取付部間に掛け渡す。
これによれば、破断した構成材の修復を良好に行うことができる。
【0009】
上記態様において好ましくは、上記構成材が垂直または垂直線に対して傾いて配置され、上記軸力付与装置の設置に先立って、ジャッキ手段により上記破断した構成材近傍で橋梁を持ち上げ、上記軸力付与装置を設置して上記軸力を付与した後に、上記ジャッキ手段による持ち上げを解除し、その後で上記補修材を固定する。
これによれば、軸力付与装置の負担を軽減することができる。
【0010】
他の態様では、上記構成材が劣化しているものの未だ破断しておらず、上記補修材が当該構成材の劣化部を含む部位と取替えるために用いられ、上記構成材において、上記劣化部を挟む一対の部位を上記取付領域となる第1、第2取付部として定め、これら第1、第2取付部を挟むようにしてその外側に位置する一対の部位を上記第1、第2定着部として定め、上記第1、第2定着部に上記軸力付与装置を掛け渡して上記軸力を付与した状態で、上記劣化部を切除し、その後で、上記第1、第2取付部に上記補修材の両端部を固定することにより、この補修材を第1、第2取付部間に掛け渡す。
これによれば、劣化により破断されていない構成材の修復を、劣化部切除を伴って良好に行うことができる。また、予め軸力付与装置により軸力を付与した状態で補修を行うので、補修中に破断する心配もない。
【0011】
さらに他の態様では、上記構成材が劣化しているものの未だ破断しておらず、上記構成材の取付領域がこの劣化部を含み、上記第1、第2定着部に上記軸力付与装置を掛け渡して上記軸力を付与した状態で、上記補修材を上記取付領域に固定する。
これによれば、劣化により破断されていない構成材の修復を、劣化部切除を伴なわずに良好に行うことができる。
【0012】
好ましくは、上記軸力付与装置が、第1,第2の定着部材と、これら第1,第2の定着部材間に掛け渡された引き付け手段とを備え、上記第1、第2定着部材を上記第1、第2定着部にそれぞれ着脱可能に固定し、上記引き付け手段により上記第1,第2の定着部材を互いに近づけることにより、上記軸力を付与する。
これによれば、安定して軸力を付与できる。
【0013】
好ましくは、上記引き付け手段が軸力検出手段を備え、この軸力検出手段で検出された軸力が設定値になるように上記軸力を調整する。
【0014】
好ましくは、上記引き付け手段が、上記第1、第2定着部材に掛け渡された鋼棒と、ジャッキとを有し、この鋼棒の一端部が上記第1、第2の定着部材の一方に連結され、その他端部が他方の定着部材を貫通して上記ジャッキに連結され、上記ジャッキは当該他方の定着部材において当該一方の定着部材の反対側に設置され、上記鋼棒を引っ張ることにより、上記軸力を付与する。
これによれば、補修部位には鋼棒が配置されているだけであるから、補修作業を円滑に行うことができる。
【0015】
好ましくは、上記ジャッキは中空のラムチェアを介して上記他方の定着部材に設置され、上記鋼棒には上記ラムチェア内においてナットが螺合されており、上記ジャッキにより鋼棒を引っ張った状態で、上記ナットと上記他方の定着部材との間に調整シムを挿入し、この調整シムの厚さに対応した軸力を維持した状態で、上記補修材の固定を行う。
これによれば、調整シムにより所定の軸力を確実に維持することができる。
【0016】
さらに本発明は、橋梁に補修材を取り付ける際に、橋梁において上記補修材が取り付けられる取付領域を挟んだ第1、第2定着部間に掛け渡され、これら第1、第2定着部に、互いを引き寄せる方向の軸力を付与する軸力付与装置であって、上記第1定着部に着脱可能に固定される第1定着部材と、上記第2定着部に着脱可能に固定される第2定着部材と、上記第1,第2の定着部材間に掛け渡された引き付け手段とを備えたことを特徴とする。
【0017】
好ましくは、上記引き付け手段が、上記第1、第2定着部材間に掛け渡される鋼棒と、ジャッキとを有し、この鋼棒の一端部が上記第1、第2の定着部材の一方に連結され、その他端部が他方の定着部材を貫通して上記ジャッキに連結され、上記ジャッキは当該他方の定着部材において当該一方の定着部材の反対側に設置され、上記鋼棒を引っ張ることにより、上記軸力を付与する。
【0018】
好ましくは、上記引き付け手段が、さらに中空のラムチェアと調整シムとナットを有し、上記ジャッキはこのラムチェアを介して上記他方の定着部材に設置され、上記鋼棒には上記ラムチェア内において上記ナットが螺合されており、上記調整シムは、上記ジャッキにより鋼棒を引っ張った状態で、上記ナットと上記他方の定着部材との間に挿入される。
【0019】
好ましくは、上記鋼棒の一端部が上記一方の定着部材にユニバーサルジョイントを介して連結されている。
これによれば、鋼棒に曲げ荷重がかかるのを抑制ないしは回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、補修後における橋梁の構成材の位置、荷重を容易に最適または許容範囲にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の橋梁補修方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、下路式の鋼ワレントラス橋(トラス橋)を示す。この橋は、橋台1と橋脚2との間、または隣り合う橋脚2間に橋梁10を掛け渡すことにより構成されている。
【0022】
上記橋梁10は、下弦材11と、上弦材12と、これら下弦材11と上弦材12とを連結する多数の斜材13(腹材、構成材)と、下弦材4より若干高い位置に配置された床版14を有している。斜材13と下弦材11との接続部(格点)を符号15で示す。なお、本実施形態では斜材13はH形鋼からなる。
【0023】
上記斜材13がこの床版14を貫通している。図示しないが、床版14において、左右の斜材13で挟まれた部分が、車両通行のための道路となり、斜材13より幅方向外側の部分が歩道となっている。上記斜材13において、床版14の上面と交わる部位が最も腐食し易い。
【0024】
図1の矢印Aで示す斜材13が床版14の上面と交わる箇所で腐食により破断した場合の補修方法について、図2を参照しながら説明する。なお、図2において、破断した斜材13の上側の部分を符号13Uで示し、下側の部分を符号13Lで示す。
【0025】
第1工程では、図2(A)に斜線で示すように、斜材13の腐食部13a(劣化部)を切除する。なお、この腐食部13aは実際に腐食していない部分を含んでいてもよい。
これにより、図2(B)に斜線で示すように、残された上側部分13Uの下端部が第1取付部13x(取付領域)となり、下側部分13Lの上端部(本実施形態では下側部分13Lの大部分を占めているが端部と称する)が第2取付部13y(取付領域)となる。これら取付部13x、13yは腐食されていないH形断面を有し、互いに離れている。
【0026】
上記取付部13x、13yを挟んでその外側に位置する一対の部位が後述する第1、第2の定着部13m、13nとして提供される。本実施形態では、上記第1定着部13mは上側部分13Uにおいて上記第1取付部13xの上側に隣接する。同様に第2定着部13nは下側部分13Lにおいて上記第2取付部13yの下側に隣接する。
次の第2工程では、取付部13x,13yの表面の塗装を削除して平滑にする(接合面の素地調整)。
【0027】
上記斜材13が破断すると、下弦材11は下方に撓み、破断された斜材13の下側の格点15の位置も下方に変位する。
そこで、第3工程では、図1に仮想線で示すように、破断箇所近傍の下弦材11を仮受ベント上のジャッキ手段5で持ち上げ、これにより、図2(C)に矢印で示すように、破断した斜材13の下側の格点15および斜材13の第2取付部13yを上方に変位させる。この格点15の高さは最適とされる高さより低めに調整するのが好ましい。
【0028】
また、上記斜材13が床版14近傍で破断すると、斜材13の上側部分13Uは長尺をなしているため、その自重により本来の位置より垂れる。そこで、上記第3工程では、チェーンブロックの本体を破断された斜材以外の橋梁10の構成材(例えば上弦材12や他の斜材13)に装着し、チェーン端のフックを上記第1取付部13xまたはその近傍に引っ掛けて図2(C)に矢印で示すように引き寄せることにより、上側部分13Uと下側部分Lの互いの軸線を大まかに一致させる。
【0029】
次の第4工程では、図2(D)および図4に示すように、2組の軸力付与装置20を上記斜材13の定着部13m,13n間に掛け渡す(軸力付与装置20の設置)。
【0030】
各軸力付与装置20は、第1定着部13mに着脱可能に固定される第1定着部材21と、第2定着部13に着脱可能に固定される第2定着部材22と、これら定着部材21,22の両端部間に掛け渡された2つの引き付け手段30とを主たる構成要素として備えている。
【0031】
各引き付け手段30は、必要箇所または全長にわたってねじが形成されたPC鋼棒31と、ジャッキ34と、中空のラムチェア35とを備えている。
【0032】
上記鋼棒31の一端部は、上記第2定着部材22を径方向の遊びを有して貫通しており、この一端部に螺合されたナット32が第2定着部材22の下面に係止することにより、鋼棒31が第2定着部材22に連結されるようになっている。
【0033】
上記鋼棒31の他端部は、上記第1定着部材21を径方向の遊びを有して貫通しており、この他端部が上記ジャッキ34に連結されている。
本実施形態のジャッキ34は、油圧駆動式のセンターホールジャッキであり、上記ラムチェア35を介して第1定着部材21の上面に設置されている。
上記鋼棒31の他端部には上記ラムチェア35内においてナット33が螺合されている。なお、図4に示すようにナット33と第1定着部材21との間には、ワッシャ33aが介在されている。
【0034】
上記ジャッキ34は、図4に示すように、油圧によりピストン36を軸方向に変位させるようになっている。このピストン36には、テンションバー37が貫通している。
上記テンションバー37の一端部は、上記ラムチェア35内において上記鋼棒31の上端部にねじ込まれるようにして連結され、他端部がピストン36から上方に突出している。
上記テンションバー37の他端部にはナット38が螺合されており、このナット38とピストン36との間には、ワッシャ38aとロードセル39(軸力検出手段)が介在されている。
【0035】
図2(D)に戻り、上記第4工程である軸力付与装置20の設置工程について説明する。2組の軸力付与装置20は、図3に示すように、H形鋼からなる斜材13の一対のフランジ13fに沿って配置される。
【0036】
図2(D)、図3に示すように、第1定着部材21を、斜材13の上側部分13Uにおける第1定着部13mのフランジ13fに当てた状態で、これら第1定着部21とフランジ13fを貫通するボルト41とナット42により両者を連結する。
【0037】
同様に、第2定着部材22を、斜材13の下側部分13Lにおける第2定着部13nのフランジ13fに当てた状態で、これら第2定着部22とフランジ13fを貫通するボルト41とナット42により両者を連結する。
【0038】
上記のようにして、定着部材21、22は、斜材13の軸方向と直交する方向に延び、その両端部が斜材13から突出した状態で固定される。なお、この定着部材21、22の固定に先立って、定着部13m、13nのフランジ13fには上記ボルト41を貫通させるためのボルト穴13h'(図2(F)にのみ示す)を形成しておく。
【0039】
上記定着部材21,22を定着部13m、13nに固定した後、鋼棒31やジャッキ34、ラムチェア35等を定着部材21,22に組み付ける。
上記のようにして軸力付与装置20を設置した後、次の第5工程では、図4(B)に示すように、ジャッキ34を駆動し、そのピストン36を上方に移動させる。これにより、このピストン36がロードセル39を介してナット38を持ち上げ、これに伴いテンションバー37が鋼棒31を上方に引っ張る。
【0040】
その結果、図2(E)に示すように、斜材13の上側部分13Uの第1取付部13xと下側部分13Lの第2取付部13yが互いに引き寄せられる。換言すれば、上記破断された斜材13の格点15が持ち上げられる。
なお、図4(B)に示すように、ナット33は、ワッシャ33aとともに第1定着部材21の上面に着座した位置から、上方に変位する。
【0041】
上記ロードセル39の検出軸力が設定値に達したら、図2(E)、図4(C)に示すように、調整シム45を、ワッシャ33aと第1定着部材21の上面との間に差し込む。この調整シム45はC字形状をなしており、ラムチェア35の開口35aから挿入して鋼棒31に差し込むことができる。
【0042】
調整シム45の差込後にジャッキ34の駆動を停止する。上記ジャッキ34の駆動停止により、上記調整シム45にはナット35の荷重が付与される。換言すれば、調整シム45が鋼棒31の引っ張り荷重を受け持つ。
【0043】
上記調整シム45の厚さは、橋梁10の多数の格点15が最適高さ(または許容範囲の高さ)になり、補修されるべき斜材13を含む多数の斜材13での引張荷重が最適値(または許容範囲)となるように、予め決定されている。
調整シム45の厚さは、上記補修されるべき斜材13での引張荷重が単位量増加した時の影響値に基づき骨組解析により算出する。
【0044】
本実施形態では、上記調整シム45の差込前における軸力の設定値は、算出された厚みの調整シム45が受け持つ軸力より若干大きい値である。
上記第5工程に相前後して、取付部13x、13yの一対のフランジ13f、ウエブ13wにボルト穴13hを形成する。
【0045】
次の第6工程では、図1のジャッキ手段5による下弦材11の持ち上げ状態を解除し、チェーンブロックを上側部分13Uから外す。
次の第7工程では、図2(F)、図5に示すように、所定長さLの3種類の板状の補修材51,52,53を用いて、上側部分13Lの第1取付部13xと下側部分13Uの第2取付部13yとを連結する。
【0046】
詳述すると、第1補修材51は2枚用意され、その両端部が取付部13x、13yのフランジ13fの外面に当てられる。第2補修材52は4枚用意され、取付部13x、13yのフランジ13fの内面に当てられる。そして、補修材51,52およびフランジ13fを貫通する高力ボルト55と、ナット56により、補修材51,52の端部を取付部13x、13yのフランジ13fに摩擦接合する(固定する)。
【0047】
第3補修材53は2枚用意され、その両端部が上記取付部13x、13yのウエブ13wの両面に当てられる。そして、2枚の補修材53とウエブ13wを貫通する高力ボルト55と、ナット56により、補修材53の端部を取付部13x、13yのウエブ13wに摩擦接合する(固定する)。
【0048】
上記補修材51〜53による連結に先立って、上記取付部13x、13y間には、間詰め用鋼材59が挿入される。この間詰め用鋼材59は、斜材13と等しいH形断面形状を有しており、その長さは上記連結端部13x、13yの間隔と等しい。上記連結の際、間詰め用鋼材59のフランジは取付部13x、13yと同様に、ボルト55とナット56により補修材41,42の中間部に固定され、そのウエブは、取付部13x、13yと同様に、ボルト55とナット56により2枚の補修材53の中間部に固定される。
【0049】
次の第8工程では、図2(F)に示すように軸力付与装置20を補修された斜材13から取り外す。
軸力付与装置20を取り外すと、上記補修材51〜53には引張荷重が付与されるが、この引張荷重は、上記調整シム45の挿入状態で軸力付与装置20が負担した引張荷重と等しく、最適荷重(ないしは許容範囲の加重)である。また、調整シム45の挿入状態で維持されている補修斜材13の下側の格点15の高さも変わらず、ひいては他の格点15の高さも変わらず、全ての格点15において最適高さ(ないしは許容範囲の高さ)が得られる。
【0050】
上記第1実施形態において、図6に示すように第2定着部材22と鋼棒31とをユニバーサルジョイント60を用いて連結してもよい。このユニバーサルジョイント60は、中間要素61と2つの端要素62,63と、中間要素61を端要素62,63に回動可能に連結する連結要素64,65とを備えている。連結要素64,65の回動軸線は互いに直交している。一方の端要素62には、第2定着部材22を貫通するねじ棒66の一端部がねじ込まれ、他方の端要素63に鋼棒31の端部がねじ込まれている。ねじ棒66にはナット32が螺合されていて、上記第2定着部材22の下面に係止される。
【0051】
上記ユニバーサルジョイント60を用いれば、斜材13の上側部分13Uと下側部分13Lの軸線がずれていても、軸力付与装置20を確実に掛け渡すことができる。
ユニバーサルジョイント60は、第1定着部材21に設置されたジャッキ34と鋼棒31との間にも介在させてもよい。この場合、図4において第1定着部材21を貫通する鋼棒の代わりにねじ棒を用い、このねじ棒にテンションバー37を連結するとともに、ナット33を螺合する。そして、このねじ棒と鋼棒31とを上記ユニバーサルジョイント60を介して連結する。
【0052】
上記第1実施形態では下弦材12をジャッキアップした状態で軸力付与装置20を破断斜材13に設置したが、破断による橋梁10の変形量が小さい場合には、この下弦材12のジャッキアップを省いてもよい。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態について図7を参照しながら説明する。本実施形態は、橋梁の斜材13(腹材、構成材)が腐食しているものの、腐食の程度が軽微で破断していない場合の補修方法に関するものである。
【0054】
最初の工程で、図7(A)に示すように、腐食部13a’(劣化部)を間隔をおいて挟む第1定着部13m、第2定着部13nを定め、これら定着部13m、13nに第1実施形態と同じ構成の軸力付与装置20の定着部材21,22を固定することにより、軸力付与装置20を設置する。
【0055】
次に、軸力付与装置20のジャッキ34を駆動し、定着部13m、13nを互いに引き付けるような軸力を発生させる。斜材13には引張荷重が働いているが、軸力付与装置20による軸力発生により、この斜材13に働く引張荷重は減少し、やがてゼロになり、さらに軸力を増大させると圧縮荷重に変わる。
【0056】
次に、ジャッキ34による軸力付与状態で予め算出された厚さの調整シム45をナット33と第1定着部材21との間に介在させる。本実施形態では斜材11の定着部13m、13n間での相対変位量が小さいことが見込まれるので、調整シム45は第1実施形態より薄い。
【0057】
調整シム45を差し込んだ後でジャッキ34の駆動を停止する。その結果、軸力付与装置20の軸力は調整シム45により維持される。
【0058】
上記調整シム45による軸力維持状態で、図7(B)に示すように、腐食部13aを含む領域13z(取付領域)の表面の塗装を削除して平滑にする(接合面の素地調整)。この取付領域13zは腐食部13aの軸方向両側に腐食されていない部位を含む。
【0059】
次に、上記調整シム45による軸力維持状態で、図7(C)に示すように、上記取付領域13zにボルト穴13hを形成し、次に、図7(D)に示すように、取付領域13zに相当する長さの補修材51’を取付領域13zに当てて、高力ボルト55とナットで固定する。斜材13がH形鋼の場合には、第1実施形態と同様にして3種の補修材を固定する。
【0060】
補修材51’の固定が完了した後、図7(D)に示すように軸力付与装置20を取り外す。
なお、上記取付領域13zの素地調整、ボルト穴13hの形成は軸力発生、維持の前に行っても良い。
【0061】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も第2実施形態と同様に、橋梁の斜材13(腹材、構成材)が腐食しているものの、破断していない場合の補修方法に関するものである。腐食の程度は第2実施形態より進んでいる。
第1の工程で図7(A)に示すように軸力付与装置20を斜材13に設置し軸力を付与する点は、第2実施形態と同様である。
【0062】
次の工程では、腐食部13a’を切除する。切除した後で、2つに分かれた取付部の素地調整、ボルト穴形成を行い、第1実施形態と同様に補修材固定、軸力付与装置20の取り外しを行う。図2(E)、図2(F)参照。
この第3実施形態では、腐食部13a’の切除後に、軸力付与装置20のジャッキ34および調整シム35による軸力の再調整を行い、その後で、補修材固定、軸力付与装置20の取り外しを行うようにしてもよい。
【0063】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の形態に採用可能である。例えば、補修される構成材は、断面矩形であってもよい。この場合には、ワンサイドボルトを用い、構成材の4つの外側面に合計4枚の補修材を当てて固定する。
調整シム45をナット33と第1定着部材との間に差し込む代わりに、ナット33を回して下方に移動させ、ワッシャ33aを介して第1定着部材21に締め付けるようにしてもよい。
【0064】
軸力付与に際して、ロードセルの検出情報のみならず隣接する斜材に設けた歪みゲージの検出情報をも監視するようにしてもよい。
本発明は、トラス橋の垂直材、アーチ橋の垂直材や吊材等の補修にも適用することができる。
本発明の補修方法は、斜材等の構成材の一部ではなく、1本の構成材を補修材と置き換える場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の補修方法の第1実施形態が適用される橋梁を示す側面図である。
【図2】(A)〜(F)は、同補修方法を工程順に説明する概略側面図である。
【図3】同補修方法で用いられる軸力付与装置の平面図である。
【図4】(A)〜(C)は同軸力付与装置の引き付け手段の要部を工程順に示す断面図である。
【図5】図2(F)におけるV−V線に沿う横断面図である。
【図6】定着部材と鋼棒の連結構造の変形例を示す概略側面図である。
【図7】(A)〜(D)は、本発明の補修方法の第2実施形態を工程順に説明する概略側面図である。
【符号の説明】
【0066】
5 ジャッキ手段
10 橋梁
12 下弦材
13 斜材(腹材、構成材)
13a、13a' 腐食部(劣化部)
13x、13y 第1、第2の取付部(取付領域)
13z 取付領域
13m、13n 第1、第2の定着部
15 格点
20 軸力調整装置
21,22 第1、第2の定着部材
30 引き付け手段
31 鋼棒
33 ナット
34 ジャッキ
35 ラムチェア
39 ロードセル(軸力検出手段)
45 調整シム
51〜53,51' 補修材
55 ボルト
56 ナット
60 ユニバーサルジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁に補修材を取り付けて補修する方法において、
上記橋梁において、上記補修材が取り付けられるべき取付領域を挟んで互いに離間する部位を、第1、第2定着部とし、
上記第1、第2定着部間に軸力付与装置を掛け渡すようにして設置し、
上記軸力付与装置により上記第1定着部と第2定着部に、互いを引き寄せる方向の軸力を付与し、
この軸力付与状態で上記補修材を上記橋梁の取付領域に当てて固定し、
上記補修材固定後に、上記軸力付与装置を橋梁から取り外すことを特徴とする橋梁補修方法。
【請求項2】
上記取付領域が橋梁の構成材の一部であり、上記第1、第2定着部が当該構成材において設定されることを特徴とする請求項1に記載の橋梁補修方法。
【請求項3】
上記構成材が劣化により破断しており、上記補修材が当該構成材の劣化部を含む部位と取替えるために用いられ、
上記軸力付与装置の設置工程に先立ち、上記劣化部を切除し、切除によって残された構成部材の互いに対向する端部を、上記取付領域となる第1、第2取付部として提供し、
これら第1、第2取付部を挟むようにしてその外側に位置する上記第1、第2定着部に上記軸力付与装置を掛け渡して上記軸力を付与した状態で、上記補修材の両端部をこれら第1、第2取付部に固定することにより、この補修材を第1、第2取付部間に掛け渡すことを特徴とする請求項2に記載の橋梁補修方法。
【請求項4】
上記構成材が垂直または垂直線に対して傾いて配置され、
上記軸力付与装置の設置に先立って、ジャッキ手段により上記破断した構成材近傍で橋梁を持ち上げ、
上記軸力付与装置を設置して上記軸力を付与した後に、上記ジャッキ手段による持ち上げを解除し、その後で上記補修材を固定することを特徴とする請求項3に記載の橋梁補修方法。
【請求項5】
上記構成材が劣化しているものの未だ破断しておらず、上記補修材が当該構成材の劣化部を含む部位と取替えるために用いられ、
上記構成材において、上記劣化部を挟む一対の部位を上記取付領域となる第1、第2取付部として定め、これら第1、第2取付部を挟むようにしてその外側に位置する一対の部位を上記第1、第2定着部として定め、
上記第1、第2定着部に上記軸力付与装置を掛け渡して上記軸力を付与した状態で、上記劣化部を切除し、
その後で、上記第1、第2取付部に上記補修材の両端部を固定することにより、この補修材を第1、第2取付部間に掛け渡すことを特徴とする請求項2に記載の橋梁補修方法。
【請求項6】
上記構成材が劣化しているものの未だ破断しておらず、上記構成材の取付領域がこの劣化部を含み、
上記第1、第2定着部に上記軸力付与装置を掛け渡して上記軸力を付与した状態で、上記補修材を上記取付領域に固定することを特徴とする請求項2に記載の橋梁補修方法。
【請求項7】
上記軸力付与装置が、第1,第2の定着部材と、これら第1,第2の定着部材間に掛け渡された引き付け手段とを備え、
上記第1、第2定着部材を上記第1、第2定着部にそれぞれ着脱可能に固定し、上記引き付け手段により上記第1,第2の定着部材を互いに近づけることにより、上記軸力を付与することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の橋梁補修方法。
【請求項8】
上記引き付け手段が軸力検出手段を備え、この軸力検出手段で検出された軸力が設定値になるように上記軸力を調整することを特徴とする請求項7に記載の橋梁補修方法。
【請求項9】
上記引き付け手段が、上記第1、第2定着部材に掛け渡された鋼棒と、ジャッキとを有し、この鋼棒の一端部が上記第1、第2の定着部材の一方に連結され、その他端部が他方の定着部材を貫通して上記ジャッキに連結され、上記ジャッキは当該他方の定着部材において当該一方の定着部材の反対側に設置され、上記鋼棒を引っ張ることにより、上記軸力を付与することを特徴とする請求項7または8に記載の橋梁補修方法。
【請求項10】
上記ジャッキは中空のラムチェアを介して上記他方の定着部材に設置され、上記鋼棒には上記ラムチェア内においてナットが螺合されており、
上記ジャッキにより鋼棒を引っ張った状態で、上記ナットと上記他方の定着部材との間に調整シムを挿入し、この調整シムの厚さに対応した軸力を維持した状態で、上記補修材の固定を行うことを特徴とする請求項9に記載の橋梁補修方法。
【請求項11】
橋梁に補修材を取り付ける際に、橋梁において上記補修材が取り付けられる取付領域を挟んだ第1、第2定着部間に掛け渡され、これら第1、第2定着部に、互いを引き寄せる方向の軸力を付与する軸力付与装置であって、
上記第1定着部に着脱可能に固定される第1定着部材と、上記第2定着部に着脱可能に固定される第2定着部材と、上記第1,第2の定着部材間に掛け渡された引き付け手段とを備えたことを特徴とする橋梁補修用軸力付与装置。
【請求項12】
上記引き付け手段が、上記第1、第2定着部材間に掛け渡される鋼棒と、ジャッキとを有し、この鋼棒の一端部が上記第1、第2の定着部材の一方に連結され、その他端部が他方の定着部材を貫通して上記ジャッキに連結され、上記ジャッキは当該他方の定着部材において当該一方の定着部材の反対側に設置され、上記鋼棒を引っ張ることにより、上記軸力を付与することを特徴とする請求項11に記載の橋梁補修用軸力付与装置。
【請求項13】
上記引き付け手段が、さらに中空のラムチェアと調整シムとナットを有し、上記ジャッキはこのラムチェアを介して上記他方の定着部材に設置され、上記鋼棒には上記ラムチェア内において上記ナットが螺合されており、
上記調整シムは、上記ジャッキにより鋼棒を引っ張った状態で、上記ナットと上記他方の定着部材との間に挿入されることを特徴とする請求項12に記載の橋梁補修用軸力付与装置。
【請求項14】
上記鋼棒の一端部が上記一方の定着部材にユニバーサルジョイントを介して連結されていることを特徴とする請求項12または13に記載の橋梁補修用軸力付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−280980(P2009−280980A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131552(P2008−131552)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月1日 社団法人土木学会中部支部発行の「平成19年度土木学会中部支部研究発表会 講演概要集」に発表
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】