説明

機器内配線用耐熱電線

【課題】耐熱性、耐湿熱性に優れ、また可撓性や機械的特性なども良好で、さらに価格も安価な絶縁材料を用いた、家電機器の機器内配線用耐熱電線を提供する。
【解決手段】導体外周に、結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体を少なくとも90質量%以上含有する絶縁体層を備える機器内配線用耐熱電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電機器、特に調理用機器の機器内配線用電線として好適に使用される耐熱性、耐湿熱性に優れる電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジ、ガスレンジ、IHクッキングヒータなどの調理用機器における機器内配線用電線として、最高使用温度(最高許容温度)が140〜160℃程度以上で耐湿熱性に優れ、かつ安価な電線の要求がある。
【0003】
従来、この種の用途には、シリコーンゴム、あるいはフッ素樹脂をベースとしたゴム・プラスチック組成物を絶縁材料として用いた電線が一般に使用されている(例えば、特許文献1参照。)。前者のシリコーンゴムをベースとしたものは最高使用温度が180℃程度であり、また、後者のフッ素樹脂をベースとしたものは最高使用温度が200℃程度であり、いずれも優れた耐熱性、耐湿熱性を有している。
【0004】
しかしながら、シリコーンゴムもフッ素樹脂も非常に高価であるうえに、シリコーンゴムは、導体外周に被覆するにあたり熱風加硫装置などの特殊な設備を必要とする難点がある。また、シリコーンゴムは、引張強度や引裂強度などの機械的強度がやや不十分であるという問題もある。
【0005】
一方、フッ素樹脂は、強靭で機械的強度にも優れているものの柔軟性に乏しいという問題がある。この点を改良したいわゆる軟質フッ素樹脂と称するものも開発されているが、価格は一段と高くなり、製品価格の上昇を招くという点で必ずしも好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、最高使用温度(最高許容温度)が140〜160℃程度以上で耐湿熱性に優れ、また可撓性や機械的特性なども良好で、さらに価格も安価な絶縁材料を用いた、家電機器の機器内配線用耐熱電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様である機器内配線用耐熱電線は、導体外周に、結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体を少なくとも90質量%以上含有する絶縁体層を備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様である機器内配線用耐熱電線において、前記絶縁体層は、実質的に前記ブロック共重合体からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である機器内配線用耐熱電線において、結晶性芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートであり、ポリラクトンがポリカプロラクトンであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様のいずれかの態様である機器内配線用耐熱電線において、前記ブロック共重合体は、ポリラクトン含有量が1〜30質量%であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれかの態様である機器内配線用耐熱電線において、結晶性芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートであり、前記ブロック共重合体は、融点が170℃以上、引張強さが20MPa以上、伸びが500%以上、曲げ弾性率が60MPa以上で、かつビカット軟化点が140℃以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、最高使用温度(最高許容温度)が140〜160℃程度以上で耐湿熱性に優れ、また可撓性や機械的特性なども良好で、かつ価格も安価な絶縁材料を用いた、家電機器の機器内配線用耐熱電線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の機器内配線用耐熱電線の一実施形態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
まず、本発明に使用される結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体(以下、単にポリエステル・ポリラクトンブロック共重合体という場合もある)について説明する。
【0017】
この結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体は、結晶性芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリラクトンをソフトセグメントとする共重合体であり、例えば、結晶性芳香族ポリエステルとラクトン類とを連続的に反応させることによって得られる。
【0018】
ここで、結晶性芳香族ポリエステルは、主たる繰り返し単位中に少なくとも1種の芳香族基とエステル結合を有する重合体であり、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートなどが挙げられる。また、これらのポリエステルにイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などが共重合された共重合ポリエステルなどが挙げられ、さらに、これらの混合物などが挙げられる。結晶性芳香族ポリエステルとしては、なかでもポリブチレンテレフタレートが、結晶性に優れており特に好ましい。
【0019】
また、ラクトン類は、開環重合が可能な環状エステルであり、種々の4〜12員環ラクトンや、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。これらのなかでもε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−プロピオラクトン、グリコリドやこれらのアルキル化物、例えばβ−メチル−δ−バレロラクトン、ラクチドなどが好ましい。ラクトン類としては、ε−カプロラクトンが特に好ましい。
【0020】
このような結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体は、両セグメント成分の結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンとを単にブレンドしたものに比べ、耐熱性、耐湿熱性、耐衝撃性、耐油性などに優れているうえに、加工も容易である。また、結晶性芳香族ポリエステルの共重合成分としてポリエーテルを用いたブロック共重合体が知られているが、このような結晶性芳香族ポリエステルとポリエーテルのブロック共重合体に比べ、結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体は、耐熱性、耐湿熱性に優れている。
【0021】
なお、結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体におけるポリラクトンの割合は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜25質量%であることがより好ましい。ポリラクトンの割合が1質量%未満では、可撓性、耐湿熱性 耐衝撃性などが低下し、逆に30質量%を超えると、耐熱性、耐油性などが低下する。
【0022】
本発明において使用される結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体は、融点が170℃以上、JIS K 7113に準拠して測定される引張強さが20MPa以上、同伸びが500%以上、JIS K 7171に準拠して測定される曲げ弾性率が60MPa以上で、かつJIS K 7206(A50)に準拠して測定されるビカット軟化点が140℃以上であることが好ましい。融点が170℃未満では、耐熱性が不十分となる。また、引張強さが20MPa未満では、機器内配線用耐熱電線に必要な機械的強度が不十分となり、伸びが500%未満では、同様に機器内配線用耐熱電線に必要な機械的強度が不十分となり、屈曲性などに問題が生ずるおそれがある。さらに、ビカット軟化点が140℃未満であると、耐熱変形性が不十分となる。より好ましくは、融点が170〜220℃であり、引張強さが20〜30MPaであり、同伸びが500〜800%であり、曲げ弾性率が60〜400MPaであり、ビカット軟化点が140〜210℃である。
【0023】
本発明において好適に使用される結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体としては、下記一般式(I)で表わされるポリブチレンテレフタレート・ポリカプロラクトンブロック共重合体が挙げられる。
【化1】

(式中、mおよびnは、2以上の整数である。)
耐熱性と柔軟性を両立させる観点から、一般式(I)中、mおよびnは、mとnの比について、m/n=0.8〜4.5であることが好ましい。
【0024】
本発明において好適に使用される結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体の市販品を例示すると、例えば、PLACCEL BL6707(ダイセル化学工業(株)製 商品名;融点202℃、引張強さ29MPa、伸び680%、曲げ弾性率140MPa、ビカット軟化点182℃、MI6g/10分)、PLACCEL BL7707(ダイセル化学工業(株)製 商品名;融点208℃、引張強さ30MPa、伸び620%、曲げ弾性率220MPa、ビカット軟化点195℃、MI7g/10分)などが挙げられる。
【0025】
次に、上記結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体を用いた本発明に係る機器内配線用耐熱電線の実施形態を図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、本発明の機器内配線用耐熱電線の一実施形態を示す横断面図である。
【0027】
図1において、符号1は、例えば断面積が2mmからなる銅撚線導体を示し、この銅撚線導体1上には、前述した結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体を押出被覆することによって例えば厚さ0.8mmの絶縁体層2が形成されている。
【0028】
絶縁体層2には、10質量%を超えない範囲で、好ましくは8質量%を超えない範囲で、上記ポリエステル・ポリラクトンブロック共重合体と相溶性の良いポリマーや、難燃剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、加工助剤、着色剤、安定剤などの添加剤を含有させることができる。
【0029】
ポリエステル・ポリラクトンブロック共重合体と相溶性の良いポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートなどの結晶性芳香族ポリエステルが挙げられる。
【0030】
難燃剤としては、グアニジン系、メラミン系などの窒素系難燃剤、リン酸アンモニウム、赤燐などのリン系難燃剤、リン−窒素系難燃剤、ホウ酸亜鉛などのホウ酸化合物、炭酸カルシウムなどが挙げられる。また、酸化防止剤としては、フェノール系の他、リン系、アミン系などが挙げられ、加水分解防止剤としては、芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0031】
なお、これらのポリエステル・ポリラクトンブロック共重合体以外の成分の含有量が過剰になると、所期の耐熱性、耐湿熱性が得られなくなるだけでなく、可撓性や機械的特性なども低下する。
【0032】
本実施形態の機器内配線用耐熱電線は、結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体を少なくとも90質量%以上含有する絶縁体層2を備えており、耐熱性、耐湿熱性に優れるとともに、可撓性、機械的特性なども良好である。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例、比較例1〜3
ポリブチレンテレフタレート・ポリカプロラクトンブロック共重合体(ダイセル化学工業(株)製 商品名 PLACCEL BL6707;PBT/PCL系熱可塑性エラストマと表記)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエーテルブロック共重合体(東レ・デュポン(株)製 商品名 ハイトレル5577R-07;PBT/ポリエーテル系熱可塑性エラストマ(I)と表記)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエーテルブロック共重合体(東レ・デュポン(株)製 商品名 ハイトレル5077;PBT/ポリエーテル系熱可塑性エラストマ(II)と表記)、およびシリコーンゴム(信越化学工業(株)製 商品名 KE-5620W-U)を、汎用の押出成形機を用いて、断面積2.0mmの軟銅撚線導体(7本/0.6mm)上にそれぞれ押出被覆して0.8mm厚の絶縁体層を形成し、外径3.4mmの機器内配線用耐熱電線を製造した。
【0035】
上記実施例および比較例で得られた機器内配線用耐熱電線について、下記に示す方法で引張特性、耐熱性および耐湿熱性を評価した。
[引張特性]
JIS C 3005に基づき、上記電線の絶縁体から長さ150mmの管状試験片を作製し、引張試験(標線50mm、引張速度200mm/分)を行い、引張強さおよび伸びを測定した。
[耐熱性]
上記引張試験の場合と同様にして作製した試料をギヤーオーブン(強制循環式空気加熱老化試験機)に入れて170℃に加熱し、伸びが初期値の半分(保持率50%)に低下する時間を求めた。
[耐湿熱性]
上記引張試験の場合と同様にして作製した試料を、120℃、100%RHのプレッシャークッカー試験装置に入れて加熱し、伸びが初期値の半分(保持率50%)に低下する時間を求めた。
【0036】
これらの結果を、使用した絶縁体材料の種類とともに表1に併せ示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、実施例の機器内配線用耐熱電線は、実用に耐える十分な耐熱性、耐湿熱性を有するとともに、引張特性についてはシリコーンゴムを用いた従来タイプの電線(比較例3)に比べ明らかに向上している。
【符号の説明】
【0039】
1…銅撚線導体、2…絶縁体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体外周に、結晶性芳香族ポリエステルとポリラクトンのブロック共重合体を少なくとも90質量%以上含有する絶縁体層を備えることを特徴とする機器内配線用耐熱電線。
【請求項2】
前記絶縁体層は、実質的に前記ブロック共重合体からなることを特徴とする請求項1記載の機器内配線用耐熱電線。
【請求項3】
結晶性芳香族ポリエステルがポリブチレンテレフタレートであり、ポリラクトンがポリカプロラクトンであることを特徴とする請求項1または2記載の機器内配線用耐熱電線。
【請求項4】
前記ブロック共重合体は、ポリラクトン含有量が1〜30質量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の機器内配線用耐熱電線。
【請求項5】
前記ブロック共重合体は、融点が170℃以上、引張強さが20MPa以上、伸びが500%以上、曲げ弾性率が60MPa以上で、かつビカット軟化点が140℃以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の機器内配線用耐熱電線。

【図1】
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