説明

機器劣化評価支援方法及び機器劣化評価支援装置

【課題】多数の正常運転状態があっても、機器の劣化を精度よく評価する。
【解決手段】機器劣化評価支援装置1は、まず、機器運転の初期段階における物理データ(音響レベル、機器出力及び外気温度のサンプルデータ)を取得し、記憶する(S401)。次に、多変量解析の手法により、独立変数である機器出力及び外気温度と、従属変数である音響データとの間の関係式を導出し、記憶する(S402)。その後、機器劣化評価のために、その時点における物理量のデータを取得し、記憶する(S403)。そして、評価時の独立変数である初期出力データ及び初期温度データを、関係式に代入することにより、固有の従属変数である音響データを算出し、記憶する(S404)。続いて、評価時の従属変数である評価時音響データから、児湯の従属変数である固有音響データを減算し、その減算値を差分データとして記憶し(S405)、差分データを出力する(S406)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器が発する物理量に基づいて、機器劣化の評価を支援する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音響診断は、診断の基となる音情報が「点(スポット)」ではなく、「面(ゾーン)」情報であるため、全体的・立体的・網羅的に機器の状態を把握できること、また、音情報が非接触で収集可能であるため、機器を停止する必要がなく、安全性及び効率性に優れていることから、様々な機器のメンテナンスに利用されている。一方、上記に述べた利点の裏を返せば、音響診断には、機器・設備の劣化や変調による変動分以外(機器固有の雑音。例えば、機器出力、温度、圧力等を含む運転状態の影響による変化分)も取り込んでしまうという欠点がある。そこで、音響診断の際に雑音を排除するための様々な方法が開発されている。例えば、監視対象となる機器の正常音を基にフィルタ(基準波形)を作製し、その正常音と、診断時の機器の音との差分から異常を判断する方法がある(図5及び非特許文献1の38ページ「3.2 逆フィルタ法」を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】堀田洋、“音響診断技術とその活用事例”、[online]、2004年2月、株式会社山武アドバンスオートメーションカンパニー、[平成22年1月12日検索]、インターネット<http://jp.yamatake.com/corp/rd/tech/review/pdf/2004_2/2004_2_06.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記に述べたように、音響データには機器の劣化や変調による変動分以外(機器固有の運転状態による変化分)も含まれるため、劣化や変調のない正常状態の音響データは、異なる運転状態に応じて複数存在することになる。
【0005】
このため、従来の方法では、機器運転の初期段階において、運転状態が変化する都度、正常な音響データを取得し、その音響データに基づいてフィルタを作製した後、作製した複数のフィルタを、異常診断時の運転状態に応じて切り替えて使用する必要があった(図5及び非特許文献1の42ページ「4.3 オンライン形の監視システム」を参照)。
【0006】
ところが、この方法は、運転状態の数が少ない場合には対応できるが、影響を受ける因子が多く、また、各々の因子の変化パターンも多く存在する場合には、多数のフィルタが必要になり、対応しきれないことがあった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、多数の正常運転状態があっても、機器の劣化を精度よく評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、コンピュータにより、機器の劣化を評価するための支援を行う方法(機器劣化評価支援方法)であって、前記コンピュータは、前記機器に係る複数の物理量であって、他の物理量に依存しない独立物理量と、当該独立物理量に依存する従属物理量とを含む複数の物理量の、前記機器の正常時における値を正常時物理量として取得するステップと、取得した前記正常時物理量の、前記独立物理量と、前記従属物理量との関係を示す関係式データを導出し、記憶するステップと、前記複数の物理量の、前記機器の評価時における値を評価時物理量として取得するステップと、取得した前記評価時物理量の独立物理量と、前記関係式データとに基づいて、その独立物理量に対する従属物理量を固有従属物理量として算出するステップと、取得した前記評価時物理量の従属物理量と、算出した前記固有従属物理量との差分を算出し、出力するステップと、を実行することを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、劣化評価時の物理量のうち、従属物理量には、機器の正常、異常にかかわらず存在する固有分と、機器の劣化や変調による変動分とが含まれる。そこで、機器が正常な時に、独立物理量と、従属物理量の固有分とを取得し、それらの関係式を求めておく。その後、機器の劣化を評価する際に、機器に係る独立物理量及び従属物理量を取得し、取得した独立物理量を関係式に適用し、従属物理量の固有分を求める。そして、取得した従属物理量と、関係式により求めた固有分との差分をとれば、その差分が機器の劣化や変調による変動分に相当する。これによれば、その差分に基づいて、機器の劣化状況を精度よく評価することができる。
【0010】
また、正常時の関係式を用いることにより、いかなる組合せの独立物理量に関しても、変動分を含まない固有分だけの従属物理量を求められる。これによれば、機器の状態ごとのフィルタを準備することなく、多数の正常運転状態があっても機器の劣化を精度よく評価することができる。
【0011】
また、本発明は、上記機器劣化評価支援方法において、前記コンピュータが、前記正常時物理量及び前記評価時物理量を取得する際に、前記独立物理量として前記機器の出力及び温度を取得し、前記従属物理量として前記機器が発する音響レベルを取得することとしてもよい。
この方法によれば、比較的簡単に測定又は取得可能な物理量を用いて、機器の劣化評価を行うことができる。特に、発電機のガスタービンの劣化評価を行う際に有効である。
【0012】
また、本発明は、上記機器劣化評価支援方法において、前記コンピュータが、前記関係式データを導出する際に、多変量解析の手法を使用することとしてもよい。
この方法によれば、多変量解析の手法を使用することにより、機器に係る物理量の独立物理量が何個あっても劣化の評価が可能になる。
【0013】
また、本発明は、上記機器劣化評価支援方法において、前記コンピュータが、前記差分が所定値より大きい場合に、前記機器が劣化していると判定し、その旨を出力することとしてもよい。
この方法によれば、劣化評価時の従属物理量と、関係式データによって計算される従属物理量の固有分との差分(機器の劣化や変調による変動分)が、所定値より大きい場合に、当該機器が劣化していると判定し、その旨を出力する。これによれば、コンピュータから評価結果を取得することができる。
【0014】
なお、本発明は、機器劣化評価支援装置を含む。その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多数の正常運転状態があっても、機器の劣化を精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】機器劣化評価支援装置1のハードウェア構成を示す図である。
【図2】機器運転の初期段階における物理量から、独立変数と、従属変数との間の関係式を導出する様子を表す概要図である。
【図3】機器劣化評価支援装置1の記憶部17に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は事前データ17Aの構成を示し、(b)は処理データ17Bの構成を示す。
【図4】機器劣化評価支援装置1の処理を示すフローチャートである。
【図5】正常音と、診断時の機器の音との差分から異常を判断する従来の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係る機器劣化評価支援装置は、機器が発する何等かの物理量(例えば、音、振動、熱等)に基づいて機器劣化を評価する際に、評価のために取得した物理量から、劣化以外の要因による物理量を排除するための手法を提供する装置であり、正常運転時の物理量のうち、独立変数(独立物理量)の運転状態と、従属変数(従属物理量)の基準波形(運転状態に基づく基準信号)とを用いて、正常時の運転状態と、基準値との関係式を導出し、その関係式を用いて、劣化評価時の測定信号から機器の劣化や変調による変動分だけを取り出すものである。
【0018】
例えば、発電機の出力(独立変数の一例)が変わると、タービンの発する音響(従属変数の一例)が変わるので、まず、正常運転時において、発電機の出力と、音響との複数の組合せデータを測定し、その間の関係式を求めておく。その後、発電機の劣化を評価する際に、発電機の出力及び音響を測定し、測定した出力及び求めた関係式から出力に対する固有の音響を算出し、測定した音響と、算出した音響との差分をとり、その差分により劣化を評価する。
【0019】
≪装置の構成と概要≫
図1は、機器劣化評価支援装置1のハードウェア構成を示す図である。機器劣化評価支援装置1は、音響測定部11、出力取得部12、温度測定部13、表示部14、入力部15、処理部16及び記憶部17を備え、各部がバス18を介してデータを送受信可能なように接続されている。音響測定部11は、監視対象の機器から発する音響レベルを測定する部分であり、例えば、マイクロフォンを備えたパラボラ集音器等の集音装置によって実現される。評価対象機器が発電機のタービンの場合、集音装置は、タービンそのものに設置するのではなく、タービンから少し離れた位置に置くことで、タービン全体の音を収集するようにする。これには、集音装置を設置しやすいという利点がある。出力取得部12は、監視対象の機器の出力データを取得する部分であり、例えば、機器(発電機のガスタービン等)の運転装置が常時監視している出力値を電気信号により入力する。温度測定部13は、機器周辺の外気温度を測定する部分であり、例えば、PC(Personal Computer)に接続して測定データを回収可能な温度記録計等により実現される。なお、音響測定部11、出力取得部12及び温度測定部13は、測定又は取得した物理量のデータを処理部16に出力するものとする。
【0020】
表示部14は、処理部16からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部15は、オペレータがデータ(例えば、機器劣化判定の閾値のデータ等)を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。処理部16は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、機器劣化評価支援装置1全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部17は、処理部16からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。なお、機器劣化評価支援装置1は、スタンドアロンの装置(PC等)であってもよいし、複数の端末とネットワークを介して通信可能となっている装置(サーバ等)であってもよい。
【0021】
≪関係式の導出について≫
図2は、機器運転の初期段階における物理量から、独立変数と、従属変数との間の関係を示す関係式を導出する様子を表す概要図である。まず、機器劣化評価支援装置1は、機器の各運転状態(機器出力、外気温度)における音響レベルを、運転開始時の初期段階において測定する。これは、初期段階では、機器がまだ劣化していないので、音響データに劣化や変調による変動分が含まれない、すなわち、音響データに当該機器に固有の音だけが含まれると考えられるからである。そのとき、音響レベル、機器出力及び外気温度のサンプルデータを極力多く取得する。これにより、導出する関係式の精度を向上させることができる。
【0022】
次に、機器劣化評価支援装置1は、各物理量のサンプルデータから、音響レベルに影響を与える機器出力及び外気温度(独立変数)と、音響レベル(従属変数)との間の関係式を導き出す。すなわち、図2に示す関係式(Y=b+b+b、Y:音響レベル、X:機器出力、X:外気温度)における、係数b、b及びbを求める際に、各サンプルデータに関して、音響レベルの測定値yと、機器出力及び外気温度を関係式に代入して得られる、音響レベルの予測値yとの残差の合計が最小になるように、3つの係数を決定する。図2の例では、独立変数が2つなので、関係式が空間座標における平面を表す。このとき、音響レベルへの影響の小さいパラメータ(独立変数)については、その係数bnが小さくなる。例えば、外気温度Xが音響レベルYに与える影響が小さければ、係数bは小さい値に調整される。以上によれば、関係式は、機器出力及び外気温度に対する音響レベルの基準値を提供するものであり、多数の運転状態に応じた多数のフィルタの役割を果たすと言うことができる。
【0023】
なお、本例では、独立変数を2個しか設定していないが、何個あってもよい。例えば、気圧や湿度を独立変数として設定してもよい。また、評価対象機器が発電機のガスタービンである場合に、機器出力や外気温度以外に、ガスの中に含まれる粉塵の量をガスセンサで測定したデータを含めてもよい。
【0024】
独立変数と、従属変数との間の関係式を導出する具体的な手法としては、多変量解析がある。多変量解析は、多種多様な特性を持つ多量のデータから、その相互関連を分析して、特徴を要約したり、事象の背後にある要因を探し出したりして予測や分類を行う方法である。多変量解析の手法としては、重回帰分析、判別分析、主成分分析、因子分析、分散分析、クラスター分析等がある。
【0025】
≪データの構成≫
図3は、機器劣化評価支援装置1の記憶部17に記憶されるデータの構成を示す図である。図3(a)は、事前データ17Aの構成を示す。事前データ17Aは、実際に機器の劣化を評価する前に予め記憶されるデータであり、多変量解析プログラム17A1及び劣化判定閾値17A2を含む。多変量解析プログラム17A1は、独立変数と、従属変数との間の関係式を導出するためのプログラムの1つであり、音響レベル、機器出力及び外気温度のサンプルデータを複数入力すると、図2に示す関係式(Y=b+b+b、Y:音響レベル、X:機器出力、X:外気温度)の係数b、b及びbを出力する。例えば、マイクロソフト社のExcel(登録商標)の分析ツール(回帰分析)が用いられる。劣化判定閾値17A2は、機器の劣化を判定するための閾値であり、音響レベルの測定値と、機器出力及び外気温度を関係式に代入して得られる音響レベルの予測値との差分に対して比較される。なお、劣化判定閾値17A2は、後記する関係式データ17B4を導出する際の、初期段階に取得した従属変数と、当該関係式データ17B4により算出した従属変数との残差より大きいものとする。さらに、独立変数の組合せや対応する残差に応じて異なる値としてもよいが、この場合は、事前ではなく、劣化評価支援の処理中に設定されることになる。
【0026】
図3(b)は、処理データ17Bの構成を示す。機器劣化評価支援装置1の処理において、生成され、参照されるデータであり、初期音響データ17B1、初期出力データ17B2、初期温度データ17B3、関係式データ17B4、評価時音響データ17B5、評価時出力データ17B6、評価時温度データ17B7、固有音響データ17B8及び差分データ17B9を含む。初期音響データ17B1は、機器運転の初期段階において測定された、機器が発する音響レベルのデータであり、実際には、所定時間内の波形データが記憶されるが、多変量解析の際には、特徴抽出処理による一定値(例えば、平均値、波高値、特定周波数のパワースペクトル値等)が用いられる。初期出力データ17B2は、機器運転の初期段階において取得された、機器出力のデータである。初期温度データ17B3は、機器運転の初期段階において測定された、機器周辺の外気温度のデータである。関係式データ17B4は、初期音響データ17B1と、初期出力データ17B2及び初期温度データ17B3との間の関係を示す関係式のデータであり、具体的には、図2に示す関係式の係数b、b及びbが記憶される。
【0027】
評価時音響データ17B5は、機器劣化を評価するために測定された、機器が発する音響レベルのデータであり、実際には、所定時間内の波形データが記憶されるが、劣化評価の際には、特徴抽出処理による一定値(例えば、平均値、波高値、特定周波数のパワースペクトル値等)が用いられる。評価時出力データ17B6は、機器劣化を評価するために取得された、機器出力のデータである。評価時温度データ17B6は、機器劣化を評価するために測定された、機器周辺の外気温度のデータである。固有音響データ17B8は、評価時の運転状態から予測される、機器が正常な場合の音響レベルのデータであり、評価時出力データ17B6及び評価時温度データ17B6を関係式データ17B4に代入することにより算出され、記憶される。差分データ17B9は、評価時の音響データと、その時の運転状態から予測される正常時の音響データとの差分のデータであり、機器劣化や変調による音響データの変動分を示し、具体的には、評価時音響データ17B5から固有音響データ17B8を減算することにより算出され、記憶される。
【0028】
≪装置の処理≫
図4は、機器劣化評価支援装置1の処理を示すフローチャートである。本処理は、機器劣化評価支援装置1において、主として処理部14が記憶部15のデータを参照、更新しながら、機器の劣化を評価するための支援を行うものである。
【0029】
まず、機器劣化評価支援装置1は、機器運転の初期段階における物理量データ、すなわち、音響レベル、機器出力及び外気温度のサンプルデータを取得し、それぞれを初期音響データ17B1、初期出力データ17B2及び初期温度データ17B3として記憶部17に記憶する(S401)。
【0030】
次に、機器劣化評価支援装置1は、多変量解析の手法により、独立変数である機器出力及び外気温度と、従属変数である音響データとの間の関係式を導出し、記憶部17に記憶する(S402)。詳細には、多変量解析プログラム17A1を記憶部17から所定のメモリ上にロードし、初期音響データ17B1、初期出力データ17B2及び初期温度データ17B3の複数の組合せを入力データとして設定し、当該プログラムを実行する。その結果、当該プログラムの出力データとして係数b1、b2及びb0を取得し、それらの係数を関係式データ17B4として記憶部17に記憶する。
【0031】
その後、入力部15を通して機器劣化評価のトリガを与えられると、その評価のために、機器劣化評価支援装置1は、その時点における物理量のデータ、すなわち、音響レベル、機器出力及び外気温度のデータを取得し、それぞれを評価時音響データ17B5、評価時出力データ17B6及び評価時温度データ17B7として記憶部17に記憶する(S403)。次に、評価時の独立変数である評価時出力データ17B6及び評価時温度データ17B7を、関係式データ17B4により規定される関係式に代入することにより、評価時の独立変数に対する従属変数である音響レベルを算出し、固有音響データ17B8として記憶部17に記憶する(S404)。
【0032】
そして、機器劣化評価支援装置1は、評価時の従属変数である評価時音響データ17B5から、固有の従属変数である固有音響データ17B8を減算し、その減算値を差分データ17B9として記憶部17に記憶する(S405)とともに、記憶した差分データ17B9を出力する(S406)。差分データ17B9の出力では、表示部14に表示したり、機器劣化評価支援装置1に接続されたプリンタ等の印刷装置に印刷したり、インターネット等の通信網を介して機器劣化評価支援装置1と通信可能な端末に送信したりする。
【0033】
続いて、機器劣化評価支援装置1は、差分データ17B9が劣化判定閾値17A2より大きいか否かを判定し(S407)、劣化判定閾値17A2より大きい場合には(S407のYES)、評価時の音響データが正常と予測される音響データから閾値を超えて乖離しており、機器劣化が進んでいると考えられるので、機器が劣化している旨を出力する(S408)。機器劣化の出力では、表示部14に表示したり、機器劣化評価支援装置1に接続されたプリンタ等の印刷装置に印刷したり、インターネット等の通信網を介して機器劣化評価支援装置1と通信可能な端末に送信したりする。差分データ17B9が劣化判定閾値17A2と同じか、より小さい場合には(S407のNO)、評価時の音響データが正常と予測される音響データに近く、機器劣化が進んでいないと考えられるので、機器劣化出力の処理(S408)をスキップする。
【0034】
なお、上記実施の形態では、図1に示す機器劣化評価支援装置1内の各部を機能させるために、処理部16で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る機器劣化評価支援装置1が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0035】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、評価時音響データ17B5には、機器の正常、異常にかかわらず存在する固有分と、機器の劣化や変調による変動分とが含まれる。そこで、機器が正常な時に、初期音響データ17B1、初期出力データ17B2及び初期温度データ17B3の複数の組合せを取得し、それらの関係式データ17B4を求めておく。その後、機器の劣化を評価する際に、機器に係る評価時音響データ17B5、評価時出力データ17B6及び評価時温度データ17B7を取得し、評価時出力データ17B6及び評価時温度データ17B7を関係式データ17B4に適用し、固有音響データ17B8を求める。そして、取得した評価時音響データ17B5と、求めた固有音響データ17B8との差分データ17B9をとれば、その差分データ17B9が機器の劣化や変調による変動分に相当する。これによれば、その差分データ17B9に基づいて、機器の劣化状況を精度よく評価することができる。
【0036】
また、関係式データ17B4を用いることにより、評価時出力データ17B6及び評価時温度データ17B7のいかなる組合せに対しても、機器劣化による変動分を含まない固有音響データ17B8を求められる。これによれば、機器の状態ごとのフィルタを準備することなく、多数の正常運転状態があっても、機器の劣化を精度よく評価することができる。
【0037】
そして、様々な業種において設備保全業務の効率化を図ることができる。さらに、機器の異常を精度よく発見できるので、機器の延命にも大きく寄与し、環境問題の改善を図ることができる。
【0038】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0039】
(1)上記実施の形態では、多変量解析の手法により、初期段階における独立変数と、従属変数との関係式を導出するように記載したが、他の手法を用いるようにしてもよい。例えば、独立変数が1つの場合、最小二乗法を用いるようにしてもよい。
【0040】
(2)上記の機器劣化評価支援方法は、音響による診断だけでなく、振動や熱による診断等の様々な機器診断に適用することができる。これにより、さらに様々な業種において、設備保全業務の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 機器劣化評価支援装置(コンピュータ)
16 処理部
17 記憶部
17A2 劣化判定閾値(所定値)
17B1 初期音響データ(正常時物理量、従属変数)
17B2 初期出力データ(正常時物理量、独立変数)
17B3 初期温度データ(正常時物理量、独立変数)
17B4 関係式データ
17B5 評価時音響データ(評価時物理量、従属変数)
17B6 評価時出力データ(評価時物理量、独立変数)
17B7 評価時温度データ(評価時物理量、独立変数)
17B8 固有音響データ(固有従属変数)
17B9 差分データ(差分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより、機器の劣化を評価するための支援を行う方法であって、
前記コンピュータは、
前記機器に係る複数の物理量であって、他の物理量に依存しない独立物理量と、当該独立物理量に依存する従属物理量とを含む複数の物理量の、前記機器の正常時における値を正常時物理量として取得するステップと、
取得した前記正常時物理量の、前記独立物理量と、前記従属物理量との関係を示す関係式データを導出し、記憶するステップと、
前記複数の物理量の、前記機器の評価時における値を評価時物理量として取得するステップと、
取得した前記評価時物理量の独立物理量と、前記関係式データとに基づいて、その独立物理量に対する従属物理量を固有従属物理量として算出するステップと、
取得した前記評価時物理量の従属物理量と、算出した前記固有従属物理量との差分を算出し、出力するステップと、
を実行することを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の機器劣化評価支援方法であって、
前記コンピュータは、
前記正常時物理量及び前記評価時物理量を取得する際に、
前記独立物理量として前記機器の出力及び温度を取得し、前記従属物理量として前記機器が発する音響レベルを取得する
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の機器劣化評価支援方法であって、
前記コンピュータは、
前記関係式データを導出する際に、多変量解析の手法を使用する
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の機器劣化評価支援方法であって、
前記コンピュータは、
前記差分が所定値より大きい場合に、前記機器が劣化していると判定し、その旨を出力する
ことを特徴とする機器劣化評価支援方法。
【請求項5】
機器の劣化を評価するための支援を行う装置であって、
前記機器に係る複数の物理量であって、他の物理量に依存しない独立物理量と、当該独立物理量に依存する従属物理量とを含む複数の物理量の、前記機器の正常時における値を正常時物理量として取得する手段と、
取得した前記正常時物理量の、前記独立物理量と、前記従属物理量との関係を示す関係式データを導出し、記憶する手段と、
前記複数の物理量の、前記機器の評価時における値を評価時物理量として取得する手段と、
取得した前記評価時物理量の独立物理量と、前記関係式データとに基づいて、その独立物理量に対する従属物理量を固有従属物理量として算出する手段と、
取得した前記評価時物理量の従属物理量と、算出した前記固有従属物理量との差分を算出し、出力する手段と、
を備えることを特徴とする機器劣化評価支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の機器劣化評価支援装置であって、
前記正常時物理量及び前記評価時物理量を取得する際に、
前記独立物理量として前記機器の出力及び温度を取得し、前記従属物理量として前記機器が発する音響レベルを取得する
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の機器劣化評価支援装置であって、
前記関係式データを導出する際に、多変量解析の手法を使用する
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の機器劣化評価支援装置であって、
前記差分が所定値より大きい場合に、前記機器が劣化していると判定し、その旨を出力する
ことを特徴とする機器劣化評価支援装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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