説明

機器排水管の電磁シールド構造

【課題】従来の排水用の陶器製衛生機器等を電磁シールドルーム内部に設置する場合、これと接続された金属製排水管が電磁シールド区域の内側と外側を貫通しているため、漏洩電波が衛生機器に設けられた封水部以外のあらゆる場所を通過して金属製排水管の内部へ侵入する。従って、金属製排水管の内径のカットオフ効果によりカットオフできない高周波電波は減衰されず、電磁シールド効果は不十分であった。
【解決手段】排水用機器を金属製に変更し、その封水部を利用して高周波電波を減衰させる。低周波については、金属製排水管の内径によるカットオフ効果を利用して漏洩電波を減衰させることにより、電磁シールドを実施出来る。この結果、従来は電磁シールドルームの外部に設置していた、封水部を有する排水用機器を、電磁シールドルームの内部に設置出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器などの衛生機器、洗面器、台所の流し等の、水を満たす封水部を有する排水用機器に接続され、電磁シールド構造体の内外を貫通する排水管の電磁シールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
排水管の電磁シールド構造に関する文献として、特許文献1がある。これは、電磁シールド構造体に設置される給排水管のうち、電磁シールドを貫通する部分をシールドカバー管で覆うとともに、その突出長さをシールドカバー管の4倍以上とし、かつ、当該シールドカバー管を電磁シールド部材に電気的に接続している給排水管の電磁シールド構造を提案している。しかし、給排水管外部の電磁シールド構造のみを検討しており、給排水管内部を通過して漏洩する電磁波のシールドについては記載されていない。
【0003】
また、従来から電磁シールド工事において、電磁シールドの内外を貫通する貫通管にて電波を減衰させる為には導波管におけるカットオフ効果を用いている。ある周波数の電波を減衰するにあたり、導電性の優れた金属製の貫通管を使用し、貫通管の内径が基本モードを遮断できる値であれば他のモードも減衰できる。要求される周波数及び減衰量に適した貫通管の内径と長さを確保することによって、必要な電磁シールド性能を確保している。
【0004】
しかし、貫通管にて減衰させる電波の周波数が高くなるに従い減衰に必要な金属性貫通管の内径は小さくなり、使用用途が限られてくる。衛生機器等の排水用の配管として使用するためには、目詰まりせずに流れる内径が必要であり、比較的低い周波数対応の電磁シールド構造物での使用に限られる。よって、高い周波数の電波を減衰する必要のある電磁シールド構造物においては、排水用機器を電磁シールドルームの外部に配置する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−199788号公報(第1頁−32頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、電磁シールド構造体である電磁シールドルームなどの外部に設置していた封水部を有する衛生機器等をそのままシールドルーム内部に設置すると、漏洩電波が封水部以外のあらゆる場所を通過して金属製排水管の内部へ侵入するため、金属製排水管の内径のカットオフ効果によりカットオフできない高周波電波は減衰されず、電磁シールド効果は不十分であるという問題があった。
【0007】
この発明は前述の問題点を解決するためになされたものであり、従来、高い周波数の電波減衰性能を要求される電磁シールド構造物においては、電磁シールド出来ないために、電磁シールドルームの外部に設置せざるを得なかった排水用機器について充分に電磁シールドを実施し、電磁シールドルーム内部に設置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る機器排水管の電磁シールド構造は、電波シールド材によって形成された電磁シールド面と、この電磁シールド面に設置され、金属で覆われた前記機器と、この機器の内部に設けられ水を満たす封水部と、この封水部とシールして接続され、前記電磁シールド面と電気的に接続された排水管とを備え、前記封水部にて漏洩電波の高周波成分を減衰させ、前記排水管にて漏洩電波の低周波成分を減衰させ電磁シールドすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属で覆われた排水用機器の封水部を利用して高周波の漏洩電波を減衰させ、金属製排水管の内径によるカットオフ効果を利用して低周波の漏洩電波を減衰させることにより、電磁シールドを実施出来る。この結果、従来は電磁シールドルームの外部に設置していた、便器、洗面器などの封水部を有する機器を、電磁シールドルーム内部に設置することが出来るという格別の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる衛生機器排水管の電磁シールド構造を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係わる金属製衛生機器が有する封水部における電波減衰性能(減衰量40dBの場合)を示すグラフである。
【図3】従来の機器排水管の電磁シールド構造を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態を説明する前に、図3により、従来、電磁シールドルームの外部に設置していた便器などの衛生機器を、そのまま電磁シールドルームの内部に設置する例について説明する。図において、8は排水のために使用する陶器製の衛生機器、9はこの陶器製衛生機器8の内部に設けられ水を満たす封水部、10はこの封水部9とシールして接続され、電磁シールド面11に固定されかつ電気的に接続された金属製排水管、11は電波シールド材によって形成される電磁シールド構造体の一部である電磁シールド面、12には漏洩する電波の伝搬経路を示す。漏洩電波は,封水部9以外のあらゆる場所を通過して金属製排水管10の内部へ侵入する。従って、金属製排水管の内径によりカットオフできない高周波電波は減衰されなかった。
【0012】
図1には、本実施の形態に係る機器排水管の電磁シールド構造の構成図を示す。図において、1は電気的に連続した構造体である便座などの金属製衛生機器、2はこの金属製衛生機器1に設けられ水を満たす封水部、3はこの封水部2と機械的にシールして接続され、電磁シールド面4に固定されかつ電気的に接続された金属製排水管4は、電波シールド材によって形成される電磁シールド構造体の一部である電磁シールド面であり、金属製衛生機器1を支持し、金属製衛生機器1及び金属製排水管3と電気的に連続となるように接続する。5は電波伝搬経路であり、高周波の漏洩電波は封水部2にて減衰され、低周波の漏洩電波については金属製排水管3にて減衰される。
【0013】
次に作用について説明する。高い周波数帯を減衰させるために金属製排水管3に水を満たす区間が必要となるが、排水管本来の機能を損なわない為に、衛生機器1の封水部分を利用している。但し、封水部分は電気的に連続した金属で覆われている必要があるので、この条件を満たす金属製の衛生機器1を使用する。金属製衛生機器1の封水部2の短い距離(100mm〜200mm程度)で減衰できない低い周波数(2.3GHz以下)については、金属製排水管3のカットオフ効果を利用して減衰させる。その際、金属製衛生機器1と金属製排水管3を電気的に連続となるように接続し、それらを設置する電磁シールド構造体の電磁シールド面4に対しても電気的に連続となるように接続する。この結果、封水部2にて高い周波数の漏洩電波を減衰させ、それ以下の低い周波数の電波については金属製排水管3にて減衰させることができる。
【0014】
低い周波数の電波については、目詰まりしない内径の金属製貫通管内を通過させること(カットオフ効果)によって減衰させる構造とする。円形導波管の遮断周波数は、次式により表される。(「大学講義シリーズ 電波伝送工学 コロナ社」を参照。)
【0015】
【数1】

【0016】
上記(1)式におけるχnm’については、それぞれのモードにおいて数値が決っており、円形導波管の遮断波長の最も長い(遮断周波数の最も低い)基本モードにおいては、
1.8412となる。よって、(1)式は次のようになる。
【0017】
【数2】


目詰まりしない内径を75mmとすると、(2)式より、若干の性能マージンを見込んでも2.3GHz以下の周波数であればこの排水管で減衰させることができる。
【0018】
減衰量と管長の関係は、次式で表される。(「ARCHITECTURAL ELECTROMAGNETIC SHIELDING HANDBOOK(IEEE PRESS)」を参照。)
【0019】
【数3】

【0020】
必要な排水管長さは、要求される減衰量によって決める。目詰まりしない内径の金属製排水管で減衰させることのできない高周波の電波については、水中を通過させることによって短い距離で電波を減衰させる。水を満たした金属管内における電波の減衰量は次の損失媒質中の導波管損失の式で示すことができる。(「マイクロ波およびミリ波回路」(丸善)参照)
【0021】
遮断波長λcについては、水を満たす金属管の内径を75mmとした時に(2)式から求められる遮断周波数fc(Hz)により定まる。(4)式〜(7)式により、水中を通過する周波数毎の単位長さ当たりの減衰量が算出できる。例えば3GHzの周波数の場合は1m当たり225dB減衰することとなる。
【0022】
【数4】

【0023】
図2には、金属製の衛生機器1が有する封水部2における電波減衰性能(減衰量40dBの場合)を示すグラフである。図において、横軸は周波数、縦軸は封水部の水深(距離)を示す。3GHz付近の周波数では、約180mmの水深で減衰することがわかる。18GHz付近の周波数では、約5mmの水深で減衰することがわかる。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態によれば、金属で覆われた機器1の封水部2を利用して高周波電波を減衰させ、金属製排水管3の内径によるカットオフ効果を利用して低周波の漏洩電波を減衰させることにより、電磁シールドを実施出来る。この結果、従来は電磁シールドルームの外部に設置していた、便器、洗面器などの封水部を有する機器を、電磁シールドルーム内部に設置することが出来るという格別の効果を奏する。
【0025】
なお、機器1の内部に設けられ水を満たす封水部2は、機器に元から付属のものを利用する場合について説明したが、新規に封水部2を追加できることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1 金属製衛生機器(機器)
2 封水部
3 金属製排水管(排水管)
4 電磁シールド面
5 電波伝搬経路
8 陶器製の衛生機器
9 封水部
10 金属製排水管
11 電磁シールド面
12 従来の漏洩電波の伝搬経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水用に設置された機器及びこれに接続され電磁シールド構造体の内外を貫通する排水管を通過して漏洩する電磁波をシールドする機器排水管の電磁シールド構造であって、
電波シールド材によって形成された電磁シールド面と、
この電磁シールド面に設置され、金属で覆われた前記機器と、
この機器の内部に設けられ水を満たす封水部と、
この封水部とシールして接続され、前記電磁シールド面と電気的に接続された排水管とを備え、
前記封水部にて漏洩電波の高周波成分を減衰させ、前記排水管にて漏洩電波の低周波成分を減衰させ電磁シールドすることを特徴とする機器排水管の電磁シールド構造。
【請求項2】
前記機器が金属製の衛生機器であること
を特徴とする請求項1に記載の機器排水管の電磁シールド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−30554(P2013−30554A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164486(P2011−164486)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】