説明

機械加工用水溶性減摩液

【課題】マグネシウム合金の機械加工に好適に使用することができ、表面改質により加工面を活性化することができ、加工面の接着性や塗装性を改善することができる機械加工用水溶性減摩液を提供する。
【解決手段】無機塩化物、好ましくは塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化カリウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、 塩化カルシウム、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属塩化物と、界面活性剤を含む機械加工用水溶性減摩液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金に代表される軽金属材料の機械加工技術に係わり、均一な加工はもとより、切削表面を清浄化、活性化することができ、もって加工後の金属表面を接着性や塗装性の優れた表面に改質することができる機械加工用水溶性減摩液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の軽量化を目的に、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂材料と共に、アルミニウムやマグネシウムなどを主成分とする軽金属材料の適用が拡大している。
【0003】
これら軽金属材料同士、あるいは軽金属材料と他の材料から成る部材とを接着して一体化する技術の発展は、被着材である軽金属材料の表面改質と接着剤の技術開発に支えられており、このうち被着材である軽金属材料の表面改質、すなわち接着前の処理方法としては、クロムフリー酸性組成物による表面処理方法、例えば、耐食性に優れる皮膜となり得る成分の水溶液で処理した後、水洗を行わずに焼付け・乾燥することによって皮膜を固定化する表面処理方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−195244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、皮膜の生成に化学反応を伴わないため、マグネシウム合金やアルミニウム合金などの様々な金属材料に適用することが可能である。しかし、処理・乾燥によって表面処理皮膜を作るため、車両部材のような複雑な構造物を均一に処理することは困難である。
また、マグネシウム合金については、処理皮膜の耐久性が優れないために、接着性が得られ難いという課題があった。
【0006】
本発明は、軽金属材料に関する従来の表面処理、機械加工技術における上記問題点に鑑みてなされたものである。
そして、その目的とするところは、マグネシウム合金に代表される軽金属材料の機械加工と、表面改質による活性化を両立し、接着性に優れた改質層を形成することができる機械加工用水溶性減摩液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、無機塩化物と、界面活性剤を含む水溶性の液体を用いてマグネシウム合金の表面を研磨したり、切削したりすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の機械加工用水溶性減摩液は、上記知見に基づくものであって、無機塩化物の少なくとも1種と界面活性剤を含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機塩化物と界面活性剤とを含む水溶性減摩液としたから、機械加工に当該減摩液を適用することによって、減摩液中に均一に分散した無機塩化物によって、加工面に均質かつ安定な改質層を形成することができ、加工面の接着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例において接着性の評価に用いたマグネシウム合金試料の形状・寸法を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例において接着性の評価に用いた接着試験片の形状・寸法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の機械加工用水溶性減摩液について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」については、特記しない限り質量百分率を意味するものとする。
【0012】
本発明の機械加工用水溶性減摩液は、上記したように、無機塩化物群から選ばれた少なくとも1種と、界面活性剤を含む水溶性のものであって、このような減摩液を用いて金属材料を研削、研磨、切削、切断加工するのに用いられる。
本発明の水溶性減摩液において、無機塩化物は、界面活性剤と共に含まれており、当該減摩液中に均一に分散されているため、無機塩化物によるマグネシウム合金のような金属材料の加工表面の改質を行うことができ、改質層を均一かつ安定に形成することができる。また、加工後の鉱物油や合成油の残渣も低減することができる。
【0013】
このような水溶性減摩液を用いて機械加工を施すことによって、金属の母材強度の低下を引き起こすことなく、劣化やばらつきのない改質層を加工面に効率的に形成することができ、加工面の接着性や塗装性を改善することができる。また、下地処理としての化成処理やプライマー処理の安定性を改善する効果がもたらされる。
【0014】
なお、本発明の水溶性減摩液を適用することによって、金属表面に改質層が形成したことを確認する方法としては、例えば、X線光電子分光分析方法(XPS)を挙げることができる。
この方法に基づいて、金属原子と、改質層を構成する水酸化物中の酸素原子などとの結合エネルギー値や金属原子と酸素原子との含有率(Atomic%)を求めることによって、改質層の生成が確認されている。
【0015】
本発明の機械加工用水溶性減摩液は、上記したような機械加工、具体的には、砥石やグラインダーを用いた研削加工、研磨紙(サンドペーパー)や研磨布、研磨ベルトなどを用いた研磨加工、バイトやドリル、フライス工具などによる切削加工や旋削加工、鋸などを用いた切断加工など、機械加工全般に適用することができる。
【0016】
また、本発明における機械加工の対象としての金属材料については、マグネシウム合金、中でもAlを好ましくは2%以上含有するマグネシウム合金に適用することが望ましく、具体的には、例えばSAE(米国自動車技術協会規格)J465に規定されるAZ31、AZ31B、AZ61、AZ91、AZ91D、AM50、AM60、AM60Bなどのアルミニウム含有マグネシウム合金を挙げることができる。
ここで、上記「AZ」や「AM」は、添加されている金属元素を示し、「A」はアルミニウム(Al)、「M」はマンガン(Mn)、「Z」は亜鉛(Zn)を意味する。また、これらの表記に続く数字は、これら添加元素の添加割合を示しており、例えば、AZ91であれば、Alが9%であり、Znが1%含まれることを示している。これらマグネシウム合金のうちでは、AZ31、AZ61、AZ91、AM60、AM60Bを代表例として挙げることができる。
【0017】
本発明の水溶性減摩液を用いた機械加工の対象となる部材の製法としては、特に限定されず、例えば金型や砂型による鋳造(ダイカストも含む)、押出し、鍛造、プレスなどの成形方法により得たものを用いることができる。
【0018】
本発明の機械加工用水溶性減摩液に添加される塩化物の種類としては、無機塩化物である限り特に限定されず、例えば、塩化アンモニウムなどを用いることができるが、好ましくは金属塩化物、具体的には、塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化 カリウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、 塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどを、単独、あるいはこれらの2種以上を組み合わせて適用することがより望ましい。
【0019】
このような無機塩化物と界面活性剤を含む水溶性減摩剤を用いてマグネシウム合金を機械加工することにより、当該加工表面の改質層として、例えばMg8−xAl2xCO・nHO(x=2,3,4,5、n=0,1,2,3・・・)で表される複水酸化物を形成させることができる。
上記のような複水酸化物は、接着剤や塗料の成分樹脂に含まれるアクリル基やエポキシ基、イソシアネート基、水酸基などの官能基と、共有結合や水素結合などの化学結合を形成し易い特性を有する。また、当該複水酸化物中に含まれる結晶水や吸着水の凝着力によって、接着剤や塗料の密着性や耐久性を大幅に向上させる機能を発揮し、加工面の接着性や塗装性の改善に寄与するものとなる。
【0020】
なお、加工面の改質層として、このような複水酸化物が生成していることを確認する方法としては、例えばフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)によって観測されたスペクトルから確認することができる
【0021】
本発明において、無機塩化物、とりわけ金属塩化物は、水中において単純に塩素イオン(アニオン)と金属イオン(カチオン)とに乖離(電離)し、水に対する溶解性が高く、水溶液中のOHイオン濃度が増加するため、加工表面における複水酸化物の生成が効率的なものとなる。
【0022】
なお、水溶性減摩液中における上記無機塩化物の添加量としては、0.004モル%以上〜飽和濃度以下の塩素濃度となるように添加することが望ましい。
このような塩素濃度に調整された水溶性減摩液をマグネシウム合金の機械加工に適用することによって、加工後の金属表面に無機塩化物が密着性阻害因子として析出することなく、表面改質層を安定的、かつ均一に形成させることができる。
【0023】
本発明の機械加工用水溶性減摩液に添加される界面活性剤としては、陰イオン系(アニオン系)界面活性剤を用いることができ、例えば、脂肪酸系のものとして脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼン系のものとして直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、高級アルコール系としては、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム、などを挙げることができる。
水溶性減摩液中におけるこれら界面活性剤の添加量としては、0.1%〜1.6%程度とすることが望ましい。
【0024】
また、上記界面活性剤については、その一部にアルコールを含むことが好ましい。アルコールを含むことにより、無機塩化物、水、減摩液中に含まれる鉱物油や合成油の相溶性がさらに高まり、加工面に改質層を安定的、かつ均一に形成することができる。
【0025】
このとき、アルコールの種類としては、炭素数1〜10で、1〜3価のアルコールであることが好ましい。
具体的には、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリンなどを挙げることができ、2種類以上のアルコールを併用することも可能である。
【0026】
このような種類のアルコールを含むことにより、無機塩化物、水、鉱物油や合成油の相溶性や、水溶性減摩液の流動性が向上するため、当該減摩液が金属表面に留まり難くなり、鉱物油や合成油や、無機塩化物の析出物がアルコールと共に揮発するため、加工後の金属表面におけるこれらの残渣を低減することができる。
また、水溶性減摩液中の無機塩化物、水、鉱物油や合成油をより偏りなく均一に相溶させることができるようになり、無機塩化物の偏りによるばらつきや、鉱物油や合成油による阻害を起こすことなく、改質層を均一かつ安定に形成することができる。
【0027】
なお、本発明の水溶性減摩液に含まれるアルコールの濃度については、特に限定されるものではないが、体積比で3〜50%程度とすることが好ましい。
【0028】
本発明の機械加工用水溶性減摩液を用いて機械加工された金属部材は、加工面に改質層が形成されており、当該加工面に面において、接着性樹脂(接着剤)を介して他の部材と接合した状態(接合体)で使用することができる。
ここで、他の部材、すなわち接合の相手部材としては、何ら限定はなく、種々の材料から成る部材や物品などを適用することができる。もちろん、本発明の水溶性減摩液を用いて加工した金属部材同士を接合することも可能である。
【0029】
相手部材の具体例としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂などを含むポリオレフィン樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(PF)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などから成る樹脂成形品や、鉄鋼材料、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金などから成る金属成形品、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維、天然繊維などから成る織物、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)などから成るゴム成形品、ガラスやセラミック製品などが挙げられる。これら部材のうちでは、樹脂成形品や金属成形品が好ましい。
【0030】
また、使用する接着性樹脂としては、水溶性減摩液を用いて機械加工した表面の少なくとも一部、代表的には加工表面全体に塗布され、任意の材料から成る他の部材と接合した後に硬化する樹脂であれば、特に限定されず、種々の接着性樹脂を用いることができる。具体的には、
(1)ポリオレフィン系(ポリエチレン(PE)系、エチレン−酢酸ビニル(EVA)系など)、合成ゴム系(ポリブタジエン(SBS)系、ポリイソプレン(SIS)系など)、ポリアミド系、ポリエステル系などのホットメルト樹脂
(2)エポキシ樹脂
(3)ウレタン樹脂
(4)天然ゴム系、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)系、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)系、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)系、クロロプレンゴム(CR)系、ブチルゴム(IIR)系、ブタジエンゴム(BR)系などの合成ゴム
(5)第二世代アクリル系(SGA)などのアクリル樹脂
(6)ユリア樹脂
(7)メラミン樹脂
(8)フェノール樹脂
(9)変性シリコーンを含むシリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0031】
このような接着性樹脂の加工表面への塗布方法としては、刷毛や筆で直接塗布したり、布に予め含浸させて塗布したり、スプレーやブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、フローコーター、カーテンコーターなどの塗工装置を用いた塗布方法や、ディッピング、塗布ガンなどによる塗布方法があるが、特にこれらに限定される訳ではない。
また、接着性樹脂を塗布し、相手部材と接合した後、接着性樹脂の硬化を促進するために、加熱処理や加湿処理を適宜必要に応じて実施することができる。特に、エポキシ樹脂やウレタン樹脂、シリコーン樹脂を用いる場合、温度40℃〜150℃、湿度30%RH〜100%RHで硬化を促進させることが好ましい。
【0032】
なお、上記した各種接着性樹脂のうちでは、特にアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂から成る群から少なくとも1種を用いることが好ましく、これによって優れた作業性、速硬化性と共に、十分な耐久接着性を実現することができる。
【0033】
上記接着性樹脂の使用方法としては、本発明の機械加工用水溶性減摩液を用いて加工された表面の少なくとも一部に塗布し、任意の材料から成る他の部材と接合した後、硬化させる方法であれば、特に限定されない。ただし、耐久接着性の観点からは、上記接着性樹脂をあらかじめ溶剤で希釈した接着性樹脂溶液を加工表面の少なくとも一部に塗布し、溶剤を揮発・乾燥させた後、塗布ガンを用いて接着性樹脂をさらに塗布し、相手部材と接合・硬化させる方法が好ましい。なお、必要に応じて、相手部材の接合面にも同様に、接着性樹脂溶液をあらかじめ塗布・乾燥させておいてもよい。
【0034】
本発明の水溶性減摩液を用いて機械加工された金属表面には、少なくともその一部に、インキや塗料を用いて印刷や塗装を施すこともでき、上記した接合(接着)の場合と同様の原理に基づく化学的及び物理的効果によって、塗料やインクとの優れた密着性を確保することができる。
【0035】
このときのインキや塗料については、上記機械加工による表面の少なくとも一部、代表的には全面に塗布され、インキや塗料本来の機能を発現することができる限り、何らの限定はなく、種々のインキや塗料を用いることができる。
【0036】
このようなインキの具体例としては、オフセットインキ、印刷インキ、グラビアインキ、建築インキなどを挙げることができる。また、塗料の具体例としては、プラスチック用塗料、金属用塗料、セラミック用塗料、合成皮革用塗料、導電性塗料、電気絶縁塗料、紫外線硬化型塗料、電子線硬化型塗料などを挙げることができる。
このようなインキや塗料の加工表面への塗布方法としては、上述の硬化性樹脂の塗布方法と同様な方法を採用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて、具体的に説明するが、本発明はこのような実施例によって何ら限定されないことは言うまでもない。
【0038】
(実施例1)
水溶性切削油(株式会社村松石油研究所製 ネオクールBio−60)を水で30倍に希釈し、当該希釈液中における含有量が3%となるように、塩化カルシウム(関東化学製)を計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液を得た。
なお、上記水溶性切削油(ネオクールBio−60)は、基油を30〜40%含むものであって、界面活性剤として脂肪酸系界面活性剤を30%以上含有していることから、30倍に希釈した本例の水溶性減摩液においては、上記界面活性剤を1%含むことになる。
【0039】
この水溶性減摩液をマグネシウム合金板(AZ31:25×50×3mm)の表面に塗布しながら、粗さ320番のサンドペーパーを用いて1分間、一定方向に研磨した後、5〜10分ほど放置し、表面を水で洗浄した。
そして、以下に示す方法によって、加工後の表面状態(複水酸化物の形成の有無、表面清浄度の確認)、初期接着性、耐久接着性についてそれぞれ評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
<評価方法>
〈表面状態〉
加工面における複水酸化物の確認方法としては、上記加工処理を施したマグネシウム合金試料を室温に5分間放置して冷却した後、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)を用いて、加工表面に存在する各化合物の吸収ピーク値から、金属原子の結合状態を確認した。これらの情報をもとに、加工表面におけるマグネシウム、アルミニウム元素の結合状態を判定した。
【0041】
加工表面の清浄度については、加工後のマグネシウム合金の表面を、重量既知のろ紙を用いて拭き取り、拭き取り前後のろ紙の重量増加分を拭き取り面積で除した値を下記の基準によって評価した。
◎:0〜0.09g/m
○:0.1〜0.19g/m
△:0.2〜0.29g/m
×:0.3g/m以上
【0042】
〈初期接着性〉
図1に示すように、上記加工処理を施したマグネシウム合金試料1における加工面1aの端部10mmの領域1bに、塗布ガンを用いてシリコーン系接着剤2(TB1217H、スリーボンド社製)を塗布した。次に、図2に示すように、他の部材としてのアルミニウム合金板3(ADC12:25×125×3mm)の表面端部を貼り合せて、室温で168時間養生し、接着試験片とした。なお、上記接着剤の塗布量としては、硬化後の接着性樹脂層2の膜厚が2mmとなるようにした。
そして、このような試験片を用いて引張せん断試験を行った。引張せん断試験はオートグラフ(AG−I 20kN、島津製作所社製)を使用し、50mm/minの引張速度の条件下でせん断強さを測定した。試験後、目視によって接着剤の塗布面積に対する接着剤が凝集破壊している面積の割合を求め、凝集破壊率とした。
【0043】
〈耐久接着性〉
上記した初期接着性評価と同様の方法により、接着試験片を作製後、予め150℃に温調したエンジンオイル5W−30(SMストロングセーブ・X)中に168時間放置し、さらに室温で24時間養生したのち、同様の引張せん断試験を行った。
【0044】
(実施例2)
無機塩化物を塩化カルシウムから塩化ナトリウム(関東化学製)に替えたこと以外は、上記同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液を調製した。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0045】
(実施例3)
上記水溶性切削油(ネオクールBio−60)を水で30倍に希釈し、当該希釈液中に、3%となるように、塩化カルシウム(関東化学製)を計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、次にエタノール(関東化学製)が30vol%となるように計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液を得た。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施した。その結果を表1に併せて示す。
【0046】
(実施例4)
無機塩化物を塩化カルシウムから塩化ナトリウムに替え、アルコールをエタノールからイソプロピルアルコールに替えたこと以外は、上記実施例3と同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液を調製した。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施した。その結果を表1に併せて示す。
【0047】
(実施例5)
無機塩化物を塩化カルシウムから塩化カリウムに替え、アルコールをエタノールからエチレングリコールに替えたこと以外は、上記実施例3と同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液を調製した。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施した。その結果を表1に併せて示す。
【0048】
(実施例6)
アルコールをエタノールからグリセリンに替えたこと以外は、上記実施例3と同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液を調製した。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0049】
(比較例1)
PAO合成油(新日本石油株式会社製 スーパーマルパスDX46)を水で30倍に希釈し、当該希釈液中における含有量が3%となるように、塩化ナトリウムを計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液とした。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことによって得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施した。その結果を表1に併せて示す。
【0050】
(比較例2)
無機塩化物を塩化ナトリウムから塩化カリウムに替えたこと以外は、上記比較例1と同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液を調製した。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことによって得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0051】
(比較例3)
上記のPAO合成油を水で30倍に希釈し、当該希釈液中に、エタノールが30vol%となるように計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液を得た。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことによって得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施した。その結果を表1に併せて示す。
【0052】
(比較例4)
アルコールをエタノールからイソプロピルアルコールに替えたこと以外は、上記比較例3と同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液を得た。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0053】
(比較例5)
上記水溶性切削油(ネオクールBio−60)を水で30倍に希釈したでけでスターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液とした。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことにより得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0054】
(比較例6)
上記水溶性切削油(ネオクールBio−60)を水で30倍に希釈し、当該希釈液中に、エタノールが30vol%となるように計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液とした。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことによって得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施した。その結果を表1に併せて示す。
【0055】
(比較例7)
上記水溶性切削油(ネオクールBio−60)を水で30倍に希釈し、当該希釈液中に、有機塩化物であるトリクロロエチレン(関東化学製)が3%となるように計量、混合した後、スターラーにより攪拌し、本例の機械加工用水溶性減摩液とした。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことによって得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0056】
(比較例8)
有機塩化物をトリクロロエチレンからテトラクロロエチレン(関東化学製)に替えたこと以外は、上記比較例7と同様の操作を繰り返すことによって、本例の機械加工用水溶性減摩液とした。
そして、この水溶性減摩液を用いて同様の研磨加工を繰り返すことによって得られたマグネシウム合金試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0057】
(比較例9)
上記したマグネシウム合金板(AZ31:25×50×3mm)に減摩剤を何も塗布することなく、上記同様の研磨加工を繰り返すことによってマグネシウム合金試料を得た。 そして、当該試料について、各種評価試験を上記同様の要領で実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、本発明の機械加工用水溶性減摩液を用いて表面加工が施された実施例1〜6のマグネシウム合金試料においては、被加工材の表面には、合成油や鉱物油の残渣が少なく、おおむね清浄な状態であった。さらに、水酸化物を含む表面改質層が形成されていることが確認され、このような改質層を介して接着性樹脂により接合された接合体においては、優れた初期接着性、耐久接着性を示すことが認められた。
【0060】
これに対して、無機塩化物や界面活性剤を含まない水溶性減摩液を用いて表面加工を施した比較例1〜9のマグネシウム合金試料においては、その表面に複水酸化物は認められず、合成油や鉱物油の残渣が残る場合が認められ、これら合金試料を用いた接着性樹脂による接合体においては、接着強度も低いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の無機塩化物と界面活性剤を含んでいることを特徴とする機械加工用水溶性減摩液。
【請求項2】
上記無機塩化物が金属塩化物であることを特徴とする請求項1に記載の機械加工用水溶性減摩液。
【請求項3】
上記金属塩化物が塩化リチウム、塩化ルビジウム、塩化カリウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、 塩化カルシウム、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の塩化物であることを特徴とする請求項2に記載の機械加工用水溶性減摩液。
【請求項4】
上記界面活性剤の一部がアルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の機械加工用水溶性減摩液。
【請求項5】
上記アルコールが炭素数1〜10で、1〜3価のアルコールであることを特徴とする請求項4に記載の機械加工用水溶性減摩液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12197(P2011−12197A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158431(P2009−158431)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】