説明

機械構造用部品及びその製造方法

【課題】簡易な方法で効果的に高剛性化を図ることができる機械構造用部品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】機械構造用部品は、鉄鋼材料よりなる基材2と、基材2の表面20に肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより形成してなる1層又は複数層の肉盛溶接層31を備えた肉盛溶接部3とを有してなり、肉盛溶接層31は、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を体積率で10〜70%分散させた高剛性鋼よりなると共に、基材2よりもヤング率が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な方法で効果的に高剛性化を図ることができる機械構造用部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造用鋼等の鉄鋼材料は、他の合金に比べ安価に入手可能であり、しかも合金の添加、焼入れ、焼戻し等の熱処理、浸炭、窒化等の表面硬化処理の実施によって、強度、靭性等の機械的特性を大幅に改善することができる。ところが、これらの機械的特性を改善しても、剛性はほとんど変化しないため、剛性を高める技術が強く要望されていた。
【0003】
近年、上記要望に対応するために、高剛性鋼と呼ばれる材料が開発されている。この鋼は、通常の鋼に比べヤング率が高いため、高剛性化を図ることができる。また、鋼であることから、通常の鋼と同様に熱処理等による機械的特性の向上を図ることができる。このような高剛性鋼としては、例えば、特許文献1に示される鋼が開示されている。
【0004】
特許文献1には、鉄又は鉄合金からなるマトリックス中に4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むホウ化物又は/及びその複合化物を所定量分散させたことを特徴とする高剛性鋼について記載されている。この高剛性鋼は、高剛性のホウ化物を鋼のマトリックス相中に分散させることによって、鋼の持つ優れた特性を活かしつつヤング率を高めたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−218069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された高剛性鋼は、溶製法を用いて比較的大きな鋼塊を製造することにより、後述の焼結法と比較して多量生産が可能であるが、TiB2等の高硬度のホウ化物を分散させるため、加工性が非常に悪く、複雑な形状の部品の製造は非常に困難である。また、溶製法以外にも、焼結法を用いて製造することも可能であるが、この場合には、大幅なヤング率の向上が可能である反面、溶製法に比べ多量生産がし難いという問題が生じる。
【0007】
このようなことから、比較的容易な方法で効果的に高剛性化を図ることができる機械構造用部品及びその製造方法が望まれている。
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、簡易な方法で効果的に高剛性化を図ることができる機械構造用部品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、鉄鋼材料よりなる基材と、
該基材の表面に肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより形成してなる肉盛溶接層を1層又は複数層備えた肉盛溶接部とを有してなり、
上記肉盛溶接層は、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を体積率で10〜70%分散させた高剛性鋼よりなると共に、上記基材よりもヤング率が高いことを特徴とする機械構造用部品にある(請求項1)。
【0010】
また、上記第1の発明の機械構造用部品を製造する方法の発明として、次の第2の発明がある。
第2の発明は、鉄鋼材料よりなる基材を準備し、
該基材の表面に肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を体積率で10〜70%分散させた高剛性鋼よりなると共に、上記基材よりもヤング率が高い肉盛溶接層を1層又は複数層備えた肉盛溶接部を形成することを特徴とする機械構造用部品の製造方法にある(請求項8)。
【発明の効果】
【0011】
上記機械構造用部品は、基材の表面に肉盛溶接によって形成された1層又は複数層の肉盛溶接層を備えた肉盛溶接部を有している。そして、該肉盛溶接層は、ホウ化物又は/及びその複合化物を上記特定の範囲の体積率で分散させた高剛性鋼よりなると共に、基材よりもヤング率が高い。そのため、上記肉盛溶接部を設けた部位において、高剛性化を図ることができる。そして、高剛性化が必要な部位を選択的に高剛性化することで、部品全体の機械的特性を向上させることができる。
【0012】
また、高剛性化が必要な部位に肉盛溶接をするだけで、選択的に部品の高剛性化を図ることができるので、部品全体を高剛性鋼により構成する場合に比べて、高剛性化に必要な材料が少なくて済むため、低コストで高剛性化を図ることができる。また、加工代も必要最低限に抑えることができ、製造性を高めると共に製造コストを抑えることができる。
【0013】
また、上記肉盛溶接部は、基材の表面に肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより形成する。すなわち、肉盛溶接用原料を溶接によって溶融凝固させることにより形成する。そのため、溶接時において、肉盛溶接用原料を急速凝固させ、高剛性化に寄与する上記ホウ化物又は/及びその複合化物の粒子を微細分散させることができる。これにより、強度特性(特に疲労強度)を向上させることもできる。
【0014】
このように、本発明によれば、簡易な方法で効果的に高剛性化を図ることができる機械構造用部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、基材の表面に肉盛溶接部を形成した様子を示す説明図。
【図2】実施例2における、本発明の適用例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記第1及び第2の発明において、上記肉盛溶接層(肉盛溶接部)に分散させるホウ化物をFe以外では、4A族、5A族、6A族元素に限定したのは、上記特許文献等ですでに公知となっている通り、これらのホウ化物のヤング率が高く、ヤング率を高めるのに適しているからである。
【0017】
また、上記肉盛溶接層(肉盛溶接部)に分散させた上記ホウ化物及び/又はその複合化物の体積率を10〜70%としている。
上記体積率が10%未満の場合には、肉盛溶接層自体は基材よりも剛性が高くなるが、部品全体としては高剛性化の効果が十分に得られないおそれがある。一方、70%を超える場合には、溶接が困難となるおそれがある。また、溶接後においては、加工が困難となる。
【0018】
なお、上記肉盛溶接層(肉盛溶接部)は、上記ホウ化物及び/又はその複合化物の体積率が10〜70%であれば、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相の組成は問わず、高剛性の肉盛溶接層を得ることができる。ただし、Ti等のホウ化物及び/又はその複合化物を形成している元素は、炭素と結合し易いため、マトリックス相に含まれる炭素量は、少ないほうが望ましい。
【0019】
また、上記肉盛溶接部は、質量%で、Ti:4.2〜40.0%、B:1.8〜18.0%を含有し、かつ、上記ホウ化物又は/及びその複合化物のうち、体積率で50%以上がTiB2であることが好ましい(請求項2、9)。
ここで、TiB2は、ホウ化物の中でもヤング率が高く、密度が低いという特徴を有している。また、凝固時にTiとBを含む原料を添加することによって、容易に安定したホウ化物として生成させることができる。したがって、ヤング率向上効果及び製造性の点を考慮すると、他のホウ化物を使用する場合と比較して大きく優れているため、分散させる上記ホウ化物又は及びその複合化物のうち、体積率で50%以上をTiB2とすることが好ましい。一方、体積率が50%未満の場合には、ヤング率向上効果が小さくなるおそれがある。
【0020】
また、上記ホウ化物又は/及びその複合化物に含まれるTiB2の体積率を50%以上とするためには、添加するTi、Bの量を適切に調整することが好ましく、その範囲をTiは4.2〜40.0%、Bは1.8〜18.0%とすることが好ましい。また、TiB2以外のホウ化物の生成を抑制するためには、TiとBの添加量のバランスがとれていることが必要であり、特にBがTiの添加量と比較して過剰添加でないことが好ましい。すなわち、TiとBの配合比が原子数比で1:2(質量比でTi/B=2.215)に近くなるようにすることが好ましい。これにより、TiB2の比率を高めることができる。
【0021】
また、上記肉盛溶接部は、ヤング率の異なる複数の上記肉盛溶接層を積層して構成されており、該肉盛溶接層のヤング率は、上記基材に近いほど低く、該基材のヤング率との差が小さくなっていることが好ましい(請求項3、10)。
この場合には、上記肉盛溶接部における複数の上記肉盛溶接層にヤング率の傾斜を持たせ、さらに隣接する上記基材と上記肉盛溶接層との間及び該肉盛溶接層同士の間のヤング率の差を小さくすることができる。そのため、ヤング率の差が大きい場合に生じる溶接界面での剥離を抑制することができる。
なお、上記肉盛溶接層のヤング率は、上記ホウ化物及び/又はその複合化物の体積率を変更することによって調整することができる。
【0022】
また、隣接する上記基材と上記肉盛溶接層との間及び該肉盛溶接層同士の間のヤング率の差は、40GPa以下であることが好ましい(請求項4、11)。
上記肉盛溶接部にかかる負荷応力は、部品によって異なる。したがって、負荷が大きい部品に本発明を適用する際、ヤング率の差が40GPaを超える場合には、隣接する上記基材と上記肉盛溶接層との間又は該肉盛溶接層同士の間の溶接界面において剥離が生じるおそれがある。そのため、ヤング率の差が40GPaを超える場合には、両者の間にヤング率の値が中間の上記肉盛溶接層をもう1層又は複数層設け、ヤング率の差が小さくなるようにすることが好ましい。
【0023】
また、上記肉盛溶接部を複数の上記肉盛溶接層によって構成した場合には、該肉盛溶接層の厚みは、各層同じ厚みとしてもよいし、各層異なる厚みとしてもよい。また、本発明の目的は、剛性を高めることであるため、例えば最も高いヤング率からなる上記肉盛溶接層の厚みを他の層に比べて厚くすることにより、得られるヤング率を高めることが可能である。
【0024】
上記製造方法に用いる上記肉盛溶接用原料は、溶接することによって上記高剛性鋼となり得る粉末原料又は該粉末原料を所定形状に固めた原料よりなることが好ましい(請求項12)。
この場合には、上記肉盛溶接用原料の均一性を十分に確保することができるため、溶接することによって得られる高剛性鋼よりなる上記肉盛溶接部の品質安定化を図る、つまりヤング率のばらつきを低減することができる。
また、上記肉盛溶接用原料として、1又は複数種類の粉末を混合したものを使用することにより、上記肉盛溶接層(肉盛溶接部)の成分調整が容易となる。また、従来の溶製法等に比べて製造コストを大幅に低減することができる。
【0025】
上記肉盛溶接原料として粉末原料を用いる場合には、粉末ができるだけ均一となるように混合することが好ましい。混合が十分でなく不均一な場合には、溶接後の性能が場所によって不均一となる可能性があるので、注意が必要である。
また、粉末原料の混合方法としては、特に制約はなく、V型混合機、ボールミル、振動ミル等を用いることができる。
【0026】
上記肉盛溶接原料として粉末原料を所定形状に固めた原料、例えば粉末原料を棒状に圧粉成形して焼結した溶接棒を用いる場合には、圧延、引抜等によって狙いとする寸法形状に加工することが好ましい。
なお、粉末原料を焼結して溶接棒を作製する場合、焼結工程では、焼結中に雰囲気ガスと原料粉末とが反応することによる酸化物の生成を抑制する必要がある。また、酸化物が生成しても、その生成量が使用上問題となるレベル以下に抑えることが必要である。
【0027】
上記粉末原料としては、狙いとする成分に調整されたアトマイズ粉末を用いることができ、それ以外にもホウ化物原料とそれ以外の原料とを混合した混合粉末を用いることができる。
上記ホウ化物原料としては、すでにホウ化物となっている市販の粉末や、4A族元素、5A族元素、6A族元素を含む粉末(フェロアロイ粉末等)とフェロボロン粉末との混合粉末等を用いることができる。これらは、溶接時の凝固する際に起きる反応等により、ホウ化物又はその複合化物を生成する。
上記ホウ化物原料以外の原料としては、4A族元素、5A族元素、6A族元素を含む粉末フェロアロイ粉末や、最終的に目的とする成分に近い成分からなる粉末(例えば、Fe−Crを主体とするのであれば、ステンレス鋼粉末)や、純鉄等の金属粉末等を用いることができる。
【0028】
また、上記粉末原料の粒径は、20〜300μmであることが好ましい。
粉末原料の粒径が20μm未満の場合には、溶接時において、粉末原料が粉末供給経路に詰まったり、飛散したりして溶接作業性を極端に低下させるおそれがある。一方、300μmを超える場合には、溶接時に溶融不良を起こしたり、上記肉盛溶接層(肉盛溶接部)内のホウ化物が粗大化したりするおそれがある。よって、大粒の粉末原料を使用する場合には、ボールミル、振動ミル、アトライタ等の各種粉砕機で粉砕し、所望の粒度まで調整することが必要である。
【0029】
また、上記肉盛溶接用原料の溶接は、粉体プラズマ溶接、粉体レーザー溶接、TIG溶接、アーク溶接のいずれかの方法を用いて行うことが好ましい(請求項13)。
例えば、上記肉盛溶接用原料として粉末原料を用いた場合には、粉体プラズマ溶接や粉体レーザー溶接を用いて行うことが好ましい。また、上記肉盛溶接用原料として粉末原料を圧粉成形又は焼結した溶接棒を用いた場合には、TIG溶接やアーク溶接を用いて行うことが好ましい。これにより、肉盛溶接を容易に行うことができる。
【0030】
溶接方法は、高剛性化を図りたい部位の形状や領域の大きさ等によって、適宜選定すればよい。
また、溶接時には、大気との接触及び酸化物の生成を防止することができる溶接方法及び溶接条件とすることが好ましい。また、溶接条件(例えば、電流、溶接速度等)は、使用する上記肉盛溶接用原料や溶接手法によって異なり、欠陥(溶融不良等)を起こさない条件を選定することが好ましい。
【0031】
また、溶接時における予熱は、特に制約はないが、溶接性を良くするために、300〜500℃程度にすることが好ましい。ただし、予熱によって部品性能が変化するものは、できるだけ予熱しないほうが良い。
また、溶接時における後熱は、溶接後の欠陥生成防止のために重要であり、400〜500℃程度に再加熱した後に徐冷することが好ましい。ただし、後熱によって部品性能が変化するものは、後熱温度を下げたり、ピーニングをすることにより残留応力を除去したりする等の必要がある。また、溶接後に調質処理等によって変態点以上の温度に加熱する部品は、後熱を省略しても問題ない。
【0032】
また、上述した上記肉盛溶接部は、ホウ化物を含有している。ホウ化物自体は、Tiホウ化物も含め、極めて高硬度の物質であるため、これらが多量に分散された上記肉盛溶接部は、通常の機械構造用鋼に比べて加工が難しくなる。
特に、肉盛溶接を行った場合には、最後に最終目的の形状に機械加工する必要があるため、本発明のようにホウ化物を分散させた上記肉盛溶接層を肉盛溶接して上記肉盛溶接部を形成した場合には、数個単位の単品加工性はクリアできるものの、最低数百個、多ければ数万個以上のレベルで量産するような場合に要求される量産加工性はクリアできない場合が生じる。
したがって、量産加工性が要求される場合には、上記肉盛溶接部の表面にさらに加工が容易な層を設けることが好ましい。
【0033】
そこで、例えば、上記肉盛溶接部の表面には、外表面肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより形成してなる外表面肉盛溶接層が設けられており、該外表面肉盛溶接層は、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相を有すると共に、該マトリックス相中への4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物の分散量が体積率で10%未満である鉄鋼材料よりなる構成とすることが好ましい(請求項5、14)。
【0034】
すなわち、この場合には、上記基材の表面に上記肉盛溶接部を設け、さらに仕上げ面となる部分に、上記ホウ化物又は/及びその複合化物の体積率が上記肉盛溶接部よりも低く(10%未満)又はこれらを全く含有しておらず(0%)、上記肉盛溶接部に比べて加工が容易な上記外表面肉盛溶接層を設ける。そのため、外表面を上記肉盛溶接部とする場合に比べて加工性を高めることができる。これにより、高剛性化という本発明の効果を維持しつつ、仕上げ加工が容易となり、加工性、特に量産加工性を高めることができる。
また、上記外表面肉盛溶接層に分散させた上記ホウ化物又は/及びその複合化物の体積率が10%以上の場合には、外表面の加工性を高めるという効果を十分に得ることができないおそれがある。
【0035】
また、上記外表面肉盛溶接層は、上記ホウ化物又は/及びその複合化物の含有量が0
%であることが好ましい(請求項6、15)。
この場合には、上記ホウ化物又は/及びその複合化物が含有されている場合よりも、上記外表面肉盛溶接層の加工性をさらに高めることができる。そのため、仕上げ加工がさらに容易となり、量産加工性をより一層高めることができる。
【0036】
また、上記外表面肉盛溶接用原料の形態としては、上記肉盛溶接用原料と同様に、粉末原料又は該粉末原料を所定形状に固めた原料(溶接棒等)を用いることができる。
また、上記外表面肉盛溶接用原料の溶接方法としては、上記肉盛溶接用原料と同様に、粉体プラズマ溶接、粉体レーザー溶接、TIG溶接、アーク溶接等の方法を用いることができる。
【0037】
また、上記外表面肉盛溶接原料に用いる材料としては、仕上げ加工を容易にすることを目的として形成される層であるため、加工性に最も影響の大きいホウ化物やその複合化物の含有量を10%未満又は0%とした鉄鋼材料を選択することが好ましい。
また、上記外表面肉盛溶接原料として用いる材料を選択する際には、肉盛溶接後において得られる部品強度等の特性を考慮して選択することが必要である。特に、表面の状態(材料組成、組織、硬度等)は、部品強度に及ぼす影響が大きいことが多く、基本的には基材と同じ材料か、それが困難である場合には可能な限り基材に近い特性が得られる材料を選択し、必要な熱処理を行うことが理想的である。
【0038】
しかしながら、基材の材質によっては、溶接性が悪く、溶接自体が困難な場合がある。そのような場合には、以下に説明する考え方で材料を選択し、上記外表面肉盛溶接原料として用いればよい。
例えば、剛性を高める以外に特に優れた特性が要求されないような場合には、低炭素鋼の溶接棒のように比較的安価で溶接性が良い材料を選択することが望ましい。
また、強度、耐食性、耐熱性等の特殊な特性が要求される場合には、それぞれの要求特性に応じた最適なステンレス鋼、耐熱鋼、高合金鋼等の溶接棒、溶接ワイヤ、粉末等の材料を選択することが望ましい。このような材料としては、例えば、JIS規格によるZ3211、Z3221、Z3223、Z3251、Z3316、Z3317、Z3321、Z3323、Z3324、Z3326等が挙げられる。
【0039】
また、上記外表面肉盛溶接層と該外表面肉盛溶接層に隣接する上記肉盛溶接部における上記肉盛溶接層との間のヤング率の差は、40GPa以下であることが好ましい(請求項7、16)。
上記肉盛溶接部及び上記外表面肉盛溶接層にかかる負荷応力は、部品によって異なる。したがって、負荷が大きい部品に本発明を適用する際、ヤング率の差が40GPaを超える場合には、隣接する上記外表面肉盛溶接層と上記肉盛溶接部における上記肉盛溶接層との間において剥離が生じるおそれがある。
【0040】
また、上記外表面肉盛溶接層を肉盛溶接する際に、すでに肉盛溶接済みの上記肉盛溶接層との間でヤング率の差が大きい場合(ヤング率の差が40GPaを超える場合)には、その間に中間のヤング率からなる上記肉盛溶接層を肉盛溶接し、ヤング率の差が40GPa以下となるようにすることが好ましいことは、上述したとおりである。
【0041】
また、上記外表面肉盛溶接層は、すでに説明したように仕上げ加工を容易にすることを目的としており、その厚みは最終仕上げのための機械加工を可能にするために必要な最低限の厚さとすることが好ましい。すなわち、ホウ化物を分散し、ヤング率を高めた上記肉盛溶接層を形成して部品の高剛性化を図ったとしても、例えばヤング率が通常レベルである加工容易な上記外表面肉盛溶接層の厚みを厚くした場合には、高剛性化の効果が十分に得られないおそれがある。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる機械構造用部品について説明する。
本例では、表1に示すごとく、肉盛溶接用原料としての16種類の溶接材(溶接材a〜p)及び外表面肉盛溶接用原料としての3種類の溶接材(溶接材x、y、z)を用意し、表2に示すごとく、本発明の実施例としての供試材(実施例E1〜E22)、比較例としての供試材(比較例C1〜C5)を作製し、ヤング率、剥離性、溶接性、単品加工性、量産加工性を評価する試験を行った。
【0043】
具体的には、図1(a)、(b)に示すごとく、基材2の表面20に各種溶接材(溶接材a〜p)を所定の条件で肉盛溶接した後、機械加工により所定の形状に切り出した。これにより、基材2の表面20に1層又は複数層の肉盛溶接層31を備えた肉盛溶接部3を形成した供試材1(実施例E1〜E15、比較例C1、C2)を作製した。なお、一例として、図1(a)には、肉盛溶接層31が1層のもの、図1(b)には、肉盛溶接層31が2層のものを示してある。
また、さらに、図1(c)に示すごとく、肉盛溶接部3上に溶接材x、y、zを所定の条件で肉盛溶接した。これにより、肉盛溶接部3上に外表面肉盛溶接層4を形成した供試材1(実施例E16〜E22、比較例C3〜C5)を作製した。
【0044】
本例において、基材としては、SKD61を用い、所定の焼入焼戻し処理された鋼材から15×100×130mmの寸法としたものを用いた。基材のヤング率は、210GPaである。
また、溶接材a〜pの材料としては、粒径40〜70μmの二ホウ化チタン(TiB2)、粒径50〜150μmのフェロボロン(Fe−20%B)、粒径50〜150μmのフェロチタン(Fe−40%Ti)、粒径40〜100μmのチタン(Ti)、粒径50〜150μmの鉄基材(Fe−3%Cr−0.4%Mo)、粒径1.0〜1.5μmのホウ化タンタル(TaB2)、粒径50〜150μmのフェロクロム(Fe−70%Cr)、粒径50〜150μmのフェロモリブデン(Fe−70%Mo)、粒径50〜150μmのフェロニオブ(Fe−70%Nb)、粒径50〜150μmのフェロバナジウム(Fe−80%V)の各粉末を、肉盛溶接部のホウ化物及びその複合化物(以下、適宜、ホウ化物という)の体積率等が所定の値となるように混合した混合粉末を用いた。また、これらの溶接材a〜pの形態としては、上記混合粉末又はこれを棒状に圧粉成形して焼結してなる溶接棒を用いた。
【0045】
また、溶接材xは、T−SD−1(特殊電極製)の溶接棒であり、その組成がJIS規格によるSKD61相当である。
また、溶接材yは、NCF08(特殊電極製)の溶接棒であり、その組成がJIS規格によるSUS304相当である。
また、溶接材zは、Fe−0.1%C−3.0%Crの鉄鋼材料の粉末(粒径50〜150μm)よりなる。
なお、これらの溶接材x、y、zは、いずれもホウ化物及びその複合化物の含有量が0%である。
【0046】
また、溶接方法としては、粉体プラズマ溶接を用いた。溶接条件は、溶接電流:180A、プラズマガス:3L/min、シールドガス:15L/min、キャリアガス:5L/min、供給量:25g/min、溶接速度:80mm/min、ウィービング幅:12mmとした。
【0047】
次に、各種溶接材(溶接材a〜p、x、y、z)を肉盛溶接して形成された肉盛溶接層及び外表面肉盛溶接層の特性について、表1に示す。
ホウ化物の種類の判定は、肉盛溶接層又は外表面肉盛溶接層についてEPMA分析装置を用いて行った。
ホウ化物の体積率は、肉盛溶接層又は外表面肉盛溶接層における任意に選択した面積が1mm2の視野を対象に、画像解析装置を用いて面積率(=体積率)を測定するという手順により求めた。なお、表中には、ホウ化物及びその複合化物の体積率が本発明の範囲(10〜70%)から外れているものを×印として示した。
ホウ化物に占めるTiB2の比率は、色調判別によりTiB2と判断できた粒子の面積率(=体積率)を画像解析装置で測定することにより求めた。
ヤング率は、肉盛溶接層又は外表面肉盛溶接層単独のヤング率であり、後述の方法と同様の方法で測定した。
【0048】
表1に示すごとく、溶接材a、hを肉盛溶接して形成された肉盛溶接層は、ホウ化物及びその複合化物の体積率が本発明の範囲(10〜70%)から外れている。
また、溶接材x、y、zを肉盛溶接して形成された外表面肉盛溶接層は、最終仕上げ加工を容易にするために溶接した層であって、ホウ化物及びその複合化物の含有量が0%のものである。
【0049】
【表1】

【0050】
次に、作製した供試材(実施例E1〜E22、比較例C1〜C5)を表2に示す。
機械加工により切り出した供試材の厚みは、基材と肉盛溶接部との合計で10mmとなるようにした。また、肉盛溶接部を複数の肉盛溶接層により構成する場合には、各肉盛溶接層が均等な厚みとなるようにした。ただし、実施例E20及び比較例C5については、表2に示すとおり、溶接材nからなる層の厚みを変更して作製した。なお、表中の「層の構成」には、基材に対して溶接した複数の溶接材を左から順に記載した。
また、層間ヤング率の最大差とは、隣接する肉盛溶接層同士の間、基材と肉盛溶接層との間、肉盛溶接層と外表面肉盛溶接層との間のヤング率の差のうち最大のものである。
【0051】
表2に示すごとく、実施例E2〜E5、E7、E14は、肉盛溶接部が複数の肉盛溶接層により構成されており、その肉盛溶接層のヤング率が基材に近いほど低く、基材から遠いほど高くなっている。
また、実施例E17、E18は、肉盛溶接部が複数の肉盛溶接層により構成されており、その肉盛溶接層のヤング率が中央へ行くほど高く、外側へ行くほど(基材又は外表面肉盛溶接層に近いほど)低くなっている。本例では、実施例E17は、中央の溶接材eを溶接材d、bで順に挟み込むようなサンドイッチ構造となっている。また、実施例E18も、中央の溶接材gを溶接材f、e、d、bで順に挟み込むようなサンドイッチ構造となっている。さらに、実施例E17、E18は、肉盛溶接部を基材とその基材のヤング率に近いヤング率を有する溶接材zで挟み込むようなサンドイッチ構造となっている。
また、実施例16、E19〜E22、比較例C3〜C5についても、肉盛溶接部を基材とその基材のヤング率に近いヤング率を有する溶接材x、y、zで挟み込むようなサンドイッチ構造となっている。
【0052】
【表2】

【0053】
次に、表2に示す供試材(実施例E1〜E22、比較例C1〜C5)について、各試験及びその評価を行った。
ヤング率は、供試材より10×10×10mmの立方体試験片を切り出し、水晶振動子を用いた複合振動子法により測定した。水晶振動子の共振周波数は、110.25KHzである。測定方向は、積層した肉盛溶接層及び外表面肉盛溶接層に対して垂直な方向(積層方向)である。そして、基材のヤング率(210GPa)に対してヤング率向上効果が5%以下の場合には、基準を満たさないものとした。
【0054】
剥離性は、供試材より10×10×50mmの試験片を切り出し、25tオートグラフを用いて3点曲げ試験により試験片を破断させ、得られた破面及び試験片側面を観察して亀裂が存在しなければ、破面形態の基準を満たすものとした。
また、部品によっては、要求強度が低いものもあり、その判断基準として得られた荷重−変位線図の最大荷重の75%をしきい値とし、それ以下で急激な荷重変化が認められなければ、荷重変化の基準を満たすものとした。ここで、荷重−変位線図の急激な荷重変化とは、一般にチップインと呼ばれる亀裂の発生により生じたものである。
【0055】
溶接性は、供試材について、溶接内部に溶融不良や30μm以上の連続するブローホールがなければ、基準を満たすものとした。
単品加工性は、供試材についてエンドミルによる切削試験を行い、切削距離500mmにおいて刃具磨耗量が所定量(0.3mm)以下であれば、刃具を交換することなく単品加工が可能とみなすことができ、基準を満たすものとした。
量産加工性は、供試材についてエンドミルによる切削試験を行い、切削距離5000mmにおいて刃具磨耗量が所定量(0.3mm)以下であれば、刃具を交換することなく100個単位での連続加工が可能とみなすことができ、基準を満たすものとした。
【0056】
そして、表2に示すごとく、ヤング率の評価は、基準を満たさないものを×印として示した。
また、剥離性のうちの破面形態(破断後の破面及び試験片側面の亀裂有無)の評価は、基準を十分に満たしているものを◎印、基準を満たしているものを○印、基準を満たしていないものを×印として示した。
また、剥離性のうちの荷重変化の評価は、基準を満たしているものを○印、基準を満たしていないものを×印として示した。
【0057】
また、溶接性の評価は、基準を十分に満たしているものを◎印、基準を満たしているものを○印、基準を満たしていないものを×印として示した。
また、単品加工性の評価は、基準を満たしており、切削距離500mmにおける刃具磨耗量が0.2mm以下であるものを◎印、0.2mm超え0.3mm以下であるものを○印、基準を満たしていないものを×印として示した。
また、量産加工性の評価は、基準を満たしており、切削距離5000mmにおける刃具磨耗量が0.1mm以下であるものを◎印、0.1mm超え0.3mm以下であるものを○印、基準を満たしていないものを×印として示した。
【0058】
次に、本発明の実施例としての供試材(実施例E1〜E22)における作用効果について、比較例としての供試材(比較例C1〜C5)と比較して説明する。
表2の結果からわかるように、本発明の実施例E1〜E12は、肉盛溶接層が、ホウ化物及びその複合化物を上記特定の範囲の体積率(10〜70%)で分散させた高剛性鋼よりなると共に、基材よりもヤング率が高い。また、層間ヤング率の最大差が40GPa以下である。そのため、ヤング率、剥離性(破面形態・荷重変化)、溶接性及び単品加工性については基準を満たしていた。
【0059】
また、実施例E13〜E15は、層間ヤング率の最大差が40GPaを超えているため、3点曲げ試験により破断に至るまでには、チップインと呼ばれる亀裂の発生が認められ、剥離性のうちの破面形態については基準を満たさなかった。しかし、最大荷重の75%までの範囲では、亀裂の発生は生じなかったため、荷重変化については基準を満たしていた。また、その他のヤング率、溶接性及び単品加工性については基準を満たしていた。
したがって、比較的負荷の小さい部品に対しては、剥離性についても問題がなく、適用が可能であると考えられるが、負荷の大きい部品に適用する場合には、層間ヤング率の最大差を40GPa以下にすることが好ましいことが確認できた。
【0060】
本発明の実施例E1〜E15に対して、比較例C1は、肉盛溶接層(溶接材a)におけるホウ化物の体積率が低いため、ヤング率については基準を満たさなかった。すなわち、高剛性化の効果を十分に得ることができなかった。
また、比較例C2は、肉盛溶接層(溶接材h)におけるホウ化物の体積率が高く、層間ヤング率の最大差も40GPaを超えている。そのため、高いヤング率が得られるが、剥離性(破面形態・荷重変化)、溶接性及び単品加工性については基準を満たさなかった。
【0061】
また、同表の結果からわかるように、実施例E1〜E15は、外表面が体積率で10%以上のホウ化物を含有する高剛性鋼よりなる肉盛溶接部であり、加工が容易であるとはいえず、数個程度の加工であれば刃具を交換しなくても済む単品加工性については基準を満たしていたが、量産加工性については基準を満たさなかった。
一方、実施例E16〜E22は、肉盛溶接部の外側にホウ化物を含有しない外表面肉盛溶接層を設けることにより、外表面が体積率で10%以上のホウ化物を含有する高剛性鋼よりなる肉盛溶接部である実施例E1〜E15に比べて、加工性を高めることができる。そのため、量産加工性についても基準を満たすものとなった。
【0062】
なお、外表面肉盛溶接層は、ホウ化物を全く含有しない層だけでなく、体積率で10%未満のホウ化物及びその複合化物を含有する層であっても、加工性を改善する効果が得られる。これは、ホウ化物の体積率が9%である溶接材a(表1参照)を用いて肉盛溶接部を形成した比較例C1の量産加工性の評価が○であることからも明らかである(表2参照)。
しかしながら、加工性をより優れたものとする場合には、ホウ化物を0%とした材料を用いたほうが望ましいのはもちろんである。
【0063】
本発明の実施例E16〜E22に対して、比較例C3は、肉盛溶接部の外側に外表面肉盛溶接層を設けたものの、肉盛溶接層(溶接材a)におけるホウ化物の体積率が低いため、ヤング率について基準を満たさなかった。すなわち、高剛性化の効果を十分に得ることができなかった。
また、比較例C4は、同様に肉盛溶接部の外側に外表面肉盛溶接層を設けたものの、層間ヤング率の最大差が40GPaを超えているため、剥離性(破面形態・荷重変化)について基準を満たさなかった。
また、比較例C5は、同様に肉盛溶接部の外側に外表面肉盛溶接層を設けたものの、肉盛溶接層(溶接材n)の厚みが薄かったことで高剛性化の効果を十分に得ることができず、ヤング率について基準を満たさなかった。
【0064】
このように、上記の結果から、本発明は、機械構造用部品について、高い剛性が必要な部位に肉盛溶接を行い、ホウ化物を上記特定の範囲の体積率で分散させた高剛性鋼よりなる肉盛溶接部を設けることにより、その部位について高剛性化を図ると共に、高剛性化が必要な部位を選択的に高剛性化することで、部品全体の機械的特性を向上させることができることがわかった。また、溶接性、単品加工性についても、十分に確保することができることがわかった。また、層間ヤング率の最大差を上記特定の範囲とすることにより、負荷が大きい部品に対しても剥離性を十分に確保することができることがわかった。
【0065】
また、肉盛溶接部上にさらに外表面肉盛溶接層を設けることにより、外表面がホウ化物を体積率で10%以上含有する高剛性鋼よりなる肉盛溶接部である場合に比べて、加工性を高めることができることがわかった。そして、これにより、高剛性化という本発明の効果を維持しつつ、仕上げ加工が容易となり、加工性、特に量産加工性を高めることができることがわかった。
【0066】
(実施例2)
本例は、本発明の機械構造用部品の適用例について説明したものである。
図2(a)は、エンジン等に用いられる機械構造用部品であるクランクシャフト1aに適用した例である。本例では、クランクシャフト1aのショルダー部11aに肉盛溶接部3を形成してある。
図2(b)は、同じくエンジン等に用いられる機械構造用部品であるコンロッド1bに適用した例である。本例では、コンロッド1bのピン受け部11bに肉盛溶接部3を形成してある。
図2(c)は、CVT(無段変速機)に用いられる機械構造用部品であるCVTシャフト1cに適用した例である。本例では、CVTシャフト1cの軸部11c及び軸付け根部12cに肉盛溶接部3を形成してある。
【0067】
いずれの例においても、必要な部位を選択して肉盛溶接を行い、肉盛溶接部を設けることにより、機械構造用部品について、簡易な方法で効果的に高剛性化を図ることができる。そのため、従来提案されていた溶製高剛性鋼を用いて部品全体を高剛性鋼で製造する場合に比べて、はるかに低コストで高剛性化を達成することができ、その効果は極めて顕著である。
【0068】
また、本例において、肉盛溶接部上に、さらに実施例1において示した外表面肉盛溶接層を設けることにより、外表面がホウ化物を体積率で10%以上含有する高剛性鋼よりなる肉盛溶接部である場合に比べて、加工性を高めることができる。これにより、上述したような機械構造用部品の仕上げ加工が容易となり、加工性、特に量産加工性を高めることができる。
【符号の説明】
【0069】
2 基材
20 表面
3 肉盛溶接部
31 肉盛溶接層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料よりなる基材と、
該基材の表面に肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより形成してなる肉盛溶接層を1層又は複数層備えた肉盛溶接部とを有してなり、
上記肉盛溶接層は、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を体積率で10〜70%分散させた高剛性鋼よりなると共に、上記基材よりもヤング率が高いことを特徴とする機械構造用部品。
【請求項2】
請求項1において、上記肉盛溶接部は、質量%で、Ti:4.2〜40.0%、B:1.8〜18.0%を含有し、かつ、上記ホウ化物又は/及びその複合化物のうち、体積率で50%以上がTiB2であることを特徴とする機械構造用部品。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記肉盛溶接部は、ヤング率の異なる複数の上記肉盛溶接層を積層して構成されており、該肉盛溶接層のヤング率は、上記基材に近いほど低く、該基材のヤング率との差が小さくなっていることを特徴とする機械構造用部品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、隣接する上記基材と上記肉盛溶接層との間及び該肉盛溶接層同士の間のヤング率の差は、40GPa以下であることを特徴とする機械構造用部品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記肉盛溶接部の表面には、外表面肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより形成してなる外表面肉盛溶接層が設けられており、該外表面肉盛溶接層は、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相を有すると共に、該マトリックス相中への4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物の分散量が体積率で10%未満である鉄鋼材料よりなることを特徴とする機械構造用部品。
【請求項6】
請求項5において、上記外表面肉盛溶接層は、上記ホウ化物又は/及びその複合化物の含有量が0%であることを特徴とする機械構造用部品。
【請求項7】
請求項5又は6において、上記外表面肉盛溶接層と該外表面肉盛溶接層に隣接する上記肉盛溶接部における上記肉盛溶接層との間のヤング率の差は、40GPa以下であることを特徴とする機械構造用部品。
【請求項8】
鉄鋼材料よりなる基材を準備し、
該基材の表面に肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を体積率で10〜70%分散させた高剛性鋼よりなると共に、上記基材よりもヤング率が高い肉盛溶接層を1層又は複数層備えた肉盛溶接部を形成することを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記肉盛溶接部は、質量%で、Ti:4.2〜40.0%、B:1.8〜18.0%を含有し、かつ、上記ホウ化物又は/及びその複合化物のうち、体積率で50%以上がTiB2であることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、上記肉盛溶接部は、ヤング率の異なる複数の上記肉盛溶接層を積層して構成されており、該肉盛溶接層のヤング率は、上記基材に近いほど低く、該基材のヤング率との差が小さくなっていることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項において、隣接する上記基材と上記肉盛溶接層との間及び該肉盛溶接層同士の間のヤング率の差は、40GPa以下であることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項において、上記肉盛溶接用原料は、溶接することによって上記高剛性鋼となり得る粉末原料又は該粉末原料を所定形状に固めた原料よりなることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項において、上記肉盛溶接用原料の溶接は、粉体プラズマ溶接、粉体レーザー溶接、TIG溶接、アーク溶接のいずれかの方法を用いることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項において、上記肉盛溶接部の表面に外表面肉盛溶接用原料を供給して溶接することにより、純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相を有すると共に、該マトリックス相中への4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物の分散量が体積率で10%未満である鉄鋼材料よりなる外表面肉盛溶接層を形成することを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項15】
請求項14において、上記外表面肉盛溶接層は、上記ホウ化物又は/及びその複合化物の含有量が0%であることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15において、上記外表面肉盛溶接層と該外表面肉盛溶接層に隣接する上記肉盛溶接部における上記肉盛溶接層との間のヤング率の差は、40GPa以下であることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−167492(P2010−167492A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244295(P2009−244295)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000116655)愛知製鋼株式会社 (141)
【Fターム(参考)】