説明

機械的強度が向上した繊維強化ポリイミド材料の製造方法

【課題】マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料において、一旦成形した後に、その機械的強度を向上させることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法を提案すること。
【解決手段】マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料に電子線を照射することによって、機械的強度が向上した繊維強化ポリイミド材料を得ることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法。好ましくは、電子線の照射線量が0.01〜1MGyであり、マトリックス樹脂が付加型ポリイミド前駆体によって形成されたポリイミド材料であり、付加型ポリイミド前駆体が、付加反応基としてフェニルエチニル基を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料に電子線を照射することによって、機械的強度が向上した繊維強化ポリイミド材料を得ることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などを用いた繊維強化プラスチック(FRP)は比強度が高いので、軽量化に有効であり、航空機や自動車や風力発電機器などの材料として適応が拡大している。繊維強化プラスチックは、炭素繊維やガラス繊維などの繊維を通常はエポキシ樹脂などのマトリックス樹脂で固めて製造される。ところで、マトリックス樹脂として使用されているエポキシ樹脂は、長時間使用の温度はでも100℃程度であり耐熱性において限界がある。このため、200℃を越える温度域で長期間使用できる繊維強化プラスチックが検討されている。繊維強化プラスチックの耐熱性を高める手段としては、マトリックス樹脂を耐熱性の高いポリイミド材料にすることが有効な手段であり、米国・NASAの「PMR−15」「PETI−5」等のポリイミド材料をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックが開発された。
【0003】
特許文献1には、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として用いることができる、フェニルエチニル無水フタル酸を末端基に持つイミドオリゴマ−とそれから得られるポリマ−について記載がある。
特許文献2には、低溶融粘度イミド樹脂を用いた樹脂トランスファー成形法や樹脂圧入法による繊維強化プラスチックの製造方法が記載されている。
特許文献3には、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸化合物と芳香族ジアミン化合物と4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸とを反応して得られる末端変性イミドオリゴマーと繊維状補強材との複合材を加熱硬化してなる繊維強化プラスチックが開示されている。ここには、末端変性イミドオリゴマー溶液を含浸液とする方法に加えて、末端変性アミック酸オリゴマー溶液も含浸液として用いることができることが記載されている。
非特許文献1には、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチックに低エネルギーの電子線照射をすると衝撃強度が向上したことが開示されているが、他の繊維強化プラスチックについては記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5567800号公報
【特許文献2】特表2003−526704号公報
【特許文献3】特開2000−219741号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本金属化学会誌 第70巻 第5号(2006)461−466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料は、極めて複雑な成形プロセスが要求されるため、成形性を重視した場合には、必ずしも機械的強度を最適化することが容易ではなかった。このため、成形後に材料の機械的強度を向上することができれば有用であった。
本発明は、マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料において、一旦成形した後に、その機械的強度を向上させることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の項に関する。
1. マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料に電子線を照射することによって、機械的強度が向上した繊維強化ポリイミド材料を得ることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
2. 電子線の照射線量が0.01〜1MGy、好ましくは0.2〜0.6MGyであることを特徴とする前記項1に記載の繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
3. マトリックス樹脂が付加型ポリイミド前駆体によって形成されたポリイミド材料であることを特徴とする前記項1〜2のいずれかに記載の繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
4. 付加型ポリイミド前駆体が、付加反応基としてフェニルエチニル基を含むことを特徴とする前記項3に記載の繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料において、一旦成形した後に、その機械的強度を向上させることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例3における電子線照射後の繊維強化ポリイミド材料のワイブル係数と電子線照射線量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるポリイミド材料は、イミド環骨格を含有するものであればよく、いわゆるポリイミドでも、イミド環骨格を含有する変性ポリイミド材料でもよい。いずれの場合でも、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とで構成された芳香族イミド環骨格を含有するものが耐熱性の点で好ましい。
ポリイミド材料がいわゆるポリイミドの場合には、ポリイミド或いはポリイミド前駆体を用いて、繊維強化ポリイミド材料を好適に形成することができる。ポリイミド前駆体としてはポリアミド酸があるが、ポリアミド酸を用いる場合には、加熱処理による熱的イミド化、或いは無水酢酸や触媒を用いた化学的イミド化によってポリイミドを形成する必要がある。
ポリイミド或いはポリアミド酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分、好ましくは芳香族テトラカルボン酸成分(好ましくはテトラカルボン酸に無水物)と芳香族ジアミン成分(好ましくはジアミン)とから従来公知の方法によって好適に得ることができる。例えば、有機溶媒中、両成分を例えば120℃以上に加熱して脱水イミド化しながら反応すればポリイミドを、イミド化を抑制するように例えば80℃以下の低温に保持して反応すればポリアミド酸を好適に得ることができる。
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とは、限定はなくいずれも従来公知のものを好適に用いることができる。
【0011】
また、ポリイミド材料としては、成形性を良好にするために、付加反応できる反応基を例えば末端に有する付加型ポリイミド前駆体が好ましい。
付加型ポリイミド前駆体は、必ずしも「ポリ」イミドを得るものではなく、必要に応じて重合、イミド化するとともに、付加反応基が付加反応(硬化反応)して、最終的に、イミド環骨格を有するユニットが付加反応によって硬化した硬化体を得ることができるものであり、好ましくは末端に付加反応基を有するイミドオリゴマーの付加反応基が付加反応(硬化反応)した硬化体を得ることができるものである。
【0012】
付加型ポリイミド前駆体としては、1)テトラカルボン酸エステル、ジアミン、付加反応基を有するジカルボン酸エステルまたは付加反応基を有するアミンを、全体のジカルボキシル基とアミノ基との当量数がほぼ等しくなるように、実質的にモノマーのままで混合したモノマー混合物、2)末端に付加反応基を有するアミック酸オリゴマー、3)末端に付加反応基を有するイミドオリゴマー、を好適に挙げることができる。
【0013】
なお、モノマー混合物、アミック酸オリゴマー或いはイミドオリゴマーは、いずれも、テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、付加反応基を有するジカルボン酸類または付加反応基を有するアミン類は、全体のジカルボキシル基とアミノ基との当量数がほぼ等しくなるようになっている。したがって、これらはいずれも、必要に応じて重合、イミド化するとともに、付加反応基が付加反応(硬化反応)して、最終的に、イミド骨格を有するユニットが付加反応によって硬化した硬化体を得ることができるものである。
【0014】
以下限定されるものではないが、付加型ポリイミド前駆体について、好ましい具体例によって説明する。
付加型ポリイミド前駆体の好ましい一例としては、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーがある。この末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーは、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、及び分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物を、各酸基の当量の合計と各アミノ基の合計とが概略等量となるように使用して、好適には溶媒中で反応させることによって容易に得ることができる。反応の方法は、100℃以下特に80℃以下の温度で好ましくは0.1〜50時間重合してアミド酸結合を有するオリゴマーを生成し、次いでイミド化剤によって化学イミド化する方法或いは140〜270℃程度の高温で加熱して熱イミド化する2工程からなる方法が好適である。また、はじめから140〜270℃の高温で好ましくは0.1〜50時間重合・イミド化反応を行わせる1工程からなる方法が好適である。
【0015】
これらの反応で用いる溶媒は、限定されるものではないが、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、γ−ブチルラクトン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性溶媒が、溶解性に優れるので好適である。
【0016】
また、前記反応によって得られた、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマー反応溶液に、例えば水、アルコール、ヘキサンなどの溶解性が低い非溶媒を混合することによって、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを粉末として好適に析出させることができる。この粉末はろ過などの手段によって容易に溶媒と分離できる。この粉末を末端の付加反応基が反応する温度以下の温度、例えば100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは室温(25℃)で、必要に応じて減圧下に乾燥させることによって、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマー粉末を好適に得ることができる。
【0017】
芳香族イミドオリゴマーの末端の付加反応基は、繊維強化ポリイミド材料を製造する際に、加熱によって硬化反応(付加重合反応)を行う基であれば特に限定されないが、製造の際に好適に硬化反応を行うことができること、及び得られた硬化物の耐熱性が良好であることを考慮すると、好ましくはフェニルエチニル基、アセチレン基、ナジック酸基、マレイミド基からなる群から選ばれるいずれかの反応基であり、より好ましくはフェニルエチニル基、アセチレン基のいずれかであり、更に好ましくはフェニルエチニル基である。
フェニルエチニル基は、硬化反応によるガス成分の発生がなく、しかも得られた硬化体の耐熱性が優れ且つ破断伸びが優れるなど機械的な強度も良好である。
これらの付加反応基は、分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物が、芳香族イミドオリゴマーの末端のアミノ基又は酸無水物基と、好適にはイミド環を形成する反応によって、芳香族イミドオリゴマーの末端に導入される。
分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物は、例えば4−(2−フェニルエチニル)無水フタル酸、4−(2−フェニルエチニル)アニリン、4−エチニル−無水フタル酸、4−エチニルアニリン、ナジック酸無水物、マレイン酸無水物などを好適に例示することができる。
【0018】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを形成するテトラカルボン酸成分としては、好ましくは2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一つのテトラカルボン酸二無水物、より好ましくは2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたものである。
これらのテトラカルボン酸成分は、得られる末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーが、低融点になり易く、また溶融粘度が低粘度になり易いので好適である。しかも、硬化物の耐熱性や機械的特性も優れたものになる。
【0019】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーを形成するジアミン成分としては、限定するものではないが、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、2,6−ジエチル−1,3−ジアミノベンゼン、4,6−ジエチル−2−メチル−1,3-ジアミノベンゼン、3,5−ジエチルトルエンー2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミンなどのベンゼン環を1個有するジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6−ジエチル−4−アミノフェノキシ)メタン、ビス(2−エチル−6−メチルー4−アミノフェニル)メタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル,6−メチルアニリン)、2,2―ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2―ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ベンチジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ジメチルベンチジン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、などのベンゼン環を2個有するジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン,1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、 1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンゼン環を3個有するジアミン2,2−ビス[4−[4−アミノフェノキシ]フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−[4−アミノフェノキシ]フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン環を4個有するジアミンなどを単独で乃至複数種混合して用いることが好適である。
【0020】
これらの中でも、1,3−ジアミノベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及び2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンからなる群から選ばれる少なくとも二つの芳香族ジアミンによって構成された混合ジアミンを用いることが好適であり、特に、1,3−ジアミノベンゼンと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合せ、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合せからなる混合ジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミン、及び2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合せからなる混合ジアミンを用いることが、耐熱性と成形性との両方を考慮したときに好適である。
【0021】
末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーは、イミドオリゴマーの繰返し単位の繰返し数(化学式(1)のnに相当する)が、0〜20、好ましくは0〜15、より好ましくは0〜10、特に好ましくは1〜5程度であって、GPCによるスチレン換算の数平均分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下のものである。この繰返し単位は、製造方法によって、単一ではなく、ある範囲で分布を持った物の混合物になる。本発明においては、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーの繰返し単位の繰返し数は、平均値として、好ましくは0.5〜20、より好ましくは0.5〜15、さらに好ましくは0.5〜10、特に好ましくは0.5〜5である。
繰返し単位の繰返し数が前記範囲内であることは、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーの溶融温度や溶融粘度に直接的な影響を与えるので、繊維強化ポリイミド材料の成形性において極めて重要である。すなわち、繰返し単位の繰返し数が大きくなると、末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーの溶融温度が高くなったり、溶融温度が低い場合でも溶融粘度が大きくなったりするので、繊維強化ポリイミド材料を好適に得ることが難しくなることがある。
【0022】
なお、繰返し単位の繰返し数は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、及び分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物の割合を変えることによって容易に調節できる。すなわち、分子内に付加反応基と共に無水物基又はアミノ基を有する化合物は得られる芳香族イミドオリゴマーの末端基(エンドキャップ)を構成するので、この化合物の割合を高くすると、低分子量化して繰返し単位の繰返し数は小さくなる。一方、この化合物の割合を小さくすると、高分子量化して繰返し単位の繰返し数は大きくなる。
【0023】
本発明で用いる末端に付加反応基を有する芳香族イミドオリゴマーは、限定されるものではないが、下記化学式(1)であることが特に好適である。
【0024】
【化1】

ここで、Rは芳香族ジアミン残基を表し、好ましくは1,3−ジアミノベンゼンと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合せからなる芳香族ジアミン残基、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンからなる芳香族ジアミン残基、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合せからなる芳香族ジアミン残基、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合組み合せからなる芳香族ジアミン残基、或いは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと1,3−ビス(4−アミノフェニキシ)ベンゼンとの組み合組み合せからなる芳香族ジアミン残基のいずれかを表す。
また、nは0〜20の整数を表し、nの下限値は好ましくは1であり、nの上限値は好ましくは15、より好ましくは10、特に好ましくは5である。
nが20を越えるものは、成形性が悪くなることがあるので好ましくない。
【0025】
本発明の繊維強化ポリイミド材料は、好ましくは繊維のシート(不織布、織物、一方向材)に前記付加型ポリイミド前駆体の溶液又は粉末を含浸したプリプレグを用いて好適に成形される。このプリプレグは、付加型ポリイミド前駆体溶液や粉末を長繊維のシートに含浸(粉末の場合は混合)させ、必要により、溶媒の一部を加熱などで蒸発除去させることによって予備的調整をするのが好適である。プリプレグには、成形の際の良好な取扱い性(ドレープ性、タック性)を確保するための適切な揮発分含有量と、得られる繊維強化ポリイミド材料が適切なポリイミド材料を含有するように付加型ポリイミド前駆体の付着量が決定される。このためには、デップ法、キャスト法等の方法で、付加型ポリイミド前駆体を繊維に含浸させ、次いで熱風オーブン等で加熱乾燥して余分な揮発分を蒸発除去することが好適である。通常、所定量の加付加型ポリイミド前駆体を繊維のシートに含浸させ、加熱乾燥する条件として、温度範囲:40〜150℃、時間範囲:0.5〜30分とすることで、プリプレグとしての好ましい樹脂含有量(Rc):20〜60wt%、揮発分含有量(Vc):10〜25wt%のプリプレグを好適に調製できる。
【0026】
本発明において、繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、石英繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などの耐熱性、高強度、高弾性率を有する長繊維を好適に挙げることができる。具体的には、炭素繊維として、東レ(株)社製“トレカT800”、“トレカT300”、東邦テナックス(株)社製“テナックスHTS40”、“テナックスIMS60”等が、ガラス繊維として、日東紡(株)社製“RS460A−782”、石英繊維として、サンゴバン(株)社製“Quartzel(R)シリーズ、炭化ケイ素繊維として、日本カーボン(株)社製”ニカロン“、”ハイニカロン”、宇部興産(株)社製”チラノ繊維“などを例示できる。これらの繊維は単独で用いても良いし、また複数を併用しても構わない。いずれの場合も、好適な引張弾性率(複数併用する場合には重量平均の引張弾性率)を有することが好ましい。
これらの中で、経済的にはガラス繊維が好ましく、また高い剛性を保持したまま軽量性を確保するために、弾性率と密度との比である比弾性率が高い炭素繊維を使用することが好ましい。炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル(PAN系)、ピッチ系、セルロース系、炭化水素による気相生長系炭素繊維、黒鉛繊維などを用いることができ、これらを2種類以上併用してもよい。好ましくは、剛性と価格のバランスに優れるPAN系炭素繊維がよい。
【0027】
本発明の繊維強化ポリイミド材料は、前記のような繊維と例えば付加型ポリイミド前駆体のようなポリイミド材料とからなるプリプレグを用いて、オートクレーブ成型、レジンインフィユージョン成型、レジントランスファー成型などの従来公知の方法で成形されたものを好適に用いることができる。成形条件は特に限定はないが、付加型ポリイミド前駆体の場合には、例えば特許文献1〜3に記載されているような条件であって、溶媒が充分に除去され且つ必要に応じて重合、イミド化反応と付加反応とが完了するように行う必要がある。
【0028】
なお、本発明において、繊維強化ポリイミド材料は、電子線照射により機械的強度を向上される上で、成型品の厚みは0.1〜20mm程度、好ましくは0.2〜10mm程度の厚みとすることが好適である。
【0029】
電子線照射は、単位時間あたりの照射量を、繊維強化ポリイミド材料の大きさ、厚み、繊維の種類、繊維含有率(体積分率)により調整することで、より効率的に機械的強度の向上効果を発現することができる。単位時間あたりの照射量が少ないと機械的強度の向上効果が発現し難くなり、単位時間あたりの照射量が多すぎると熱劣化等により機械的強度が減少する場合がある。
また、電子線照射は繊維強化ポリイミド材料の表面に対して均質処理することが好ましい。不均質な場合には電子線照射による効果が不均一になるので好ましくない。
電子線照射の際の雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中、大気(空気)中でもよく、それ以外に、水蒸気雰囲気、酸ンまたはアルカリ性のガス雰囲気中でも、行うことができる。
電子線照射方法としては特に限定はないが、0.01〜0.1MGy程度の低エネルギーの照射を繰返し行うことで、総線量としては0.01〜1MGyの照射にすることが好ましく、特に0.2〜0.6MGyの照射にすることが好ましい。0.01MGy以下では機械的強度向上効果が少なく、1MGy以上では機械的強度の低下を招く場合がある。
なお、電子線照射による効果は、機械的強度の向上に限定されるものではなく、接着性、摩擦抵抗、表面電気抵抗などの機械的強度の向上以外の特性についても向上効果を得ることができる場合がある。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実験例によって詳しく説明する。なお、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
繊維強化ポリイミド材料として宇部興産(株)製 PETI−プレート(炭素繊維として東レ(株)製トレカT300 3K平織クロス10層を使用し、マトリックス樹脂として宇部興産製 PETI330[4-フェニルエチニル無水フタル酸を末端基とする付加型ポリイミド]を使用して成形した繊維強化ポリイミド材料、厚さ:2mm)に以下の方法で電子線照射を行った。
(電子線照射方法)
装置として(株)岩崎電気製エレクトロンカーテンプロセッサー Type CB175/15/180Lを用い、加速電圧:170V、照射電流:2mA、窒素雰囲気中で、ベルトコンベアー速度を10m/分としてベルトコンベアー上に耐熱コンポジットを乗せ電子線照射を行った。このときの照射時間は0.23秒、照射線量は0.043MGyとした。この照射条件で同一の繊維強化ポリイミド材料について、両面を各3回の合計6回の電子線照射を行った。
電子線照射後の繊維強化ポリイミド材料を10×80mmの試験片に切削加工し、JIS K7077に準拠してシャルピー衝撃試験を実施した。試験数は11個とした。
【0032】
〔実施例2〕
電子線照射回数を両面各20回合計40回としたこと以外は、実施例1と同様の処理をした耐熱コンポジットを、実施例1と同様にしてシャルピー衝撃試験を実施した。試験数は11個とした。
【0033】
〔比較例〕
繊維強化ポリイミド材料として、電子線照射を行っていない宇部興産(株)製 PETI−プレートについて、実施例と同様にしてシャルピー衝撃試験を実施した。試験数は11個とした。
【0034】
実施例1,2及び比較例1のシャルピー衝撃試験の結果をメディアン・ランク法、
Pf = ( i - 0.3 ) / ( n + 0.4 )
(Pf :破壊確率、i :順序数、n :サンプル数)に従い解析した結果(破壊確率によるシャルピー衝撃値)を表1に示す。表1に示す通り、電子線照射によるシャルピー衝撃値の向上効果が確認できた。
【0035】
【表1】

【0036】
〔実施例3〕
繊維強化ポリイミド材料として宇部興産(株)製 PETI−プレート(炭素繊維として東レ(株)製トレカT300 3K平織クロス10層を使用し、マトリックス樹脂として宇部興産製 PETI330[4-フェニルエチニル無水フタル酸を末端基とする付加型ポリイミド]を使用して成形した繊維強化ポリイミド材料、厚さ:2mm)について、電子線照射量を変更したこと以外は実施例1と同様の方法で電子線照射を行い、電子線照射後の繊維強化ポリイミド材料についてシャルピー衝撃試験を実施した。なお、実施した電子線照射量は、0.13MGy、0.30MGy、0.86MGy(以上試料数:11)、0.22MGy、0.43MGy、0.65MGy(以上試料数:6)とした。
この結果を、セラミックス材料の強度解析に用いられるワイブル分布関数に適用してワイブル係数を求めた。
(ワイブル関数)
f=1−exp[−(auc/a0n
uc:シャルピー衝撃値
0:Pf=0.632の時のauc
n:ワイブル係数
得られたワイブル係数(n)と電子線照射線量(D)の関係は、図1のとおりであり、電子線の照射線量が0.2〜0.6MGyであることがより好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によって、マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料において、一旦成形した後に、その機械的強度を向上させることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂がポリイミド材料からなる繊維強化ポリイミド材料に電子線を照射することによって、機械的強度が向上した繊維強化ポリイミド材料を得ることを特徴とする繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
【請求項2】
電子線の照射線量が0.01〜1MGyであることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
【請求項3】
マトリックス樹脂が付加型ポリイミド前駆体によって形成されたポリイミド材料であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の繊維強化ポリイミド材料の製造方法。
【請求項4】
付加型ポリイミド前駆体が、付加反応基としてフェニルエチニル基を含むことを特徴とする請求項3に記載の繊維強化ポリイミド材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57947(P2011−57947A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212437(P2009−212437)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】