説明

機械的性質及び熱的性質に優れる光学フィルム

【課題】優れた機械的強度と熱収縮性とを両立するアクリル系樹脂を含む光学フィルムを提供すること。
【解決手段】光学フィルムがアクリル系樹脂からなる場合には、延伸倍率を50〜200%の範囲内にすることにより、また、光学フィルムがアクリル系樹脂とスチレン系樹脂とからなる場合には、延伸倍率を30〜150%の範囲内にすることにより、優れた機械的強度と熱収縮性を両立することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造に用いられる光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂を含むフィルムは、透明性、耐熱性に優れるため、様々な光学素子を製造するための光学フィルムとして利用されている。特に、アクリル系樹脂を含むフィルムは、厚み方向レタデーション(Rth)を負の値に設計することが可能であるため、Rthが負の値であることが望まれるIPSモードの液晶表示装置用の偏光板保護フィルムや位相差フィルムを製造するための光学フィルムとして利用が試みられている。
しかし、アクリル系樹脂を含むフィルムには、機械的強度に劣るという問題がある。例えば、光学フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光フィルムに積層する必要があるが、その際に様々な機械的応力を受けるため、光学フィルムの機械的強度が小さいと損傷してしまう。
アクリル系樹脂を含むフィルムの機械的強度を上げる方法としては、フィルムを延伸加工することが知られている。しかし、延伸加工を受けたフィルムには、製品製造工程や、製品の使用時に、周囲の高い温度雰囲気により、熱収縮による寸法変化を起こすという別の問題が発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、優れた機械的強度と熱収縮性とを両立するアクリル系樹脂を含む光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、アクリル系樹脂を含むフィルムにおいては、その組成に合わせて適切な延伸倍率で延伸することにより、熱収縮率を低下させることなく機械的強度を向上させることができることを見出した。
【0005】
すなわち、光学フィルムがアクリル系樹脂からなる場合には、延伸倍率を50〜200%の範囲内にすることにより、また、光学フィルムがアクリル系樹脂とスチレン系樹脂とからなる場合には、延伸倍率を30〜150%の範囲内にすることにより、優れた機械的強度と熱収縮性を両立することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アクリル系樹脂を含む光学フィルムの機械的強度(靭性)及び熱収縮による寸法変化を大きく改善することができ、これにより液晶テレビに代表される薄型ディスプレイ等に有用なフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、アクリル系樹脂(A)について説明する。
本発明においてアクリル系樹脂(A)とは、(メタ)アクリル系単量体を単量体成分として含む重合体をいう。ここで、(メタ)アクリル系単量体とは、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体をいい、(メタ)アクリル系単量体の共重合割合は40質量%以上であることが好ましい。
【0008】
アクリル系樹脂(A)としては、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体が好適な例として挙げられる。
【0009】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体の具体例としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したもの等が挙げられる。
【0010】
ここで、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体には、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体が共重合されたものも含まれる。
アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸酸アルキルエステルと共重合可能なメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類等が挙げられる。これらは一種又は二種以上組み合わせて使用することもできる。
メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体成分を共重合する場合、その共重合割合は、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルに対して、60質量%未満であることが好ましい。さらに好ましくは50質量%以下であり、とりわけ好ましくは40質量%以下である。60質量%未満であると全光線透過率などの光学特性に優れるため好ましい。
【0011】
また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0012】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体の質量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましい。重合体の質量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が好ましい。さらに好ましい範囲は7万〜15万である。
【0013】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けることが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0014】
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物を用いることができる。
特に、90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。
これらの開始剤は、例えば、0.005〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0015】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において一般に用いられる任意のものが使用でき、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。
これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂(A)の重合度が好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で添加する。
【0016】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体の中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体又はメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体(A−1)が、耐熱性、透明性等光学材料に求められる特性を有しているため好ましい。
メタクリル酸メチルと共重合させる単量体としては、特にアクリル酸アルキルエステル類が、耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られるメタクリル系樹脂の成形加工時の流動性が高いため好ましい。メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上14質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがとりわけ好ましい。
アクリル酸アルキルエステル類の中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、少量メタクリル酸メチルと共重合させるだけでも前述の成形加工時の流動性の改良効果が著しく得られるため好ましい。
【0017】
メタクリル酸メチルの単独重合体又はメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体(A−1)の中でも、メタクリル酸メチル単独重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体が好ましく、成形加工時の流動性と耐熱性をバランスよく兼ね備えているという点で、とりわけ、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体が好ましい。
【0018】
また、アクリル系樹脂(A)の別の好適な例としては、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルと、他の2種類以上の単量体とを共重合させた3元以上の共重合体(A−2)が挙げられる。
メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルと共重合させる他の単量体成分としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン及びp−t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド等のマレイミド類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる
【0019】
3元以上の共重合体(A−2)の中でも特に好適なものとして、耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)が好適に挙げられる。
【0020】
本発明において、耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)とは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び下記一般式[1]で表される化合物単位を含む共重合体である。
【0021】
一般式[1]
【化2】

【0022】
(式中、XはO又は、N−Rを示す。Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルカン基である。)
【0023】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルが挙げられる。なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0024】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)の第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン、などが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。
【0025】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)の第三の単量体成分である一般式[1]で表される単位のうち、XがOであるものとしては、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が挙げられる。これらのなかでも、無水マレイン酸が最も好ましい。また、XがN−Rであるものとしては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体が挙げられる。
【0026】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)を構成する単量体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の点から、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が40質量%以上90質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が5質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
より好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が42質量%以上83質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が12質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位が5質量%以上18質量%以下である。
さらに好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が45質量%以上78質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が16質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位が6質量%以上15質量%以下である。
【0027】
また、上記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の割合(芳香族ビニル化合物単量体単位の共重合割合/一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合)が1倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0028】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)には、上記した必須構成単量体成分に加え、必要に応じ共重合可能な他の単量体を共重合して得られた耐熱アクリル樹脂も包含される。
ここで用いられる共重合可能な他の単量体として、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐1,3‐ブタジエン(イソプレン)、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエン、1,3‐ヘキサジエン等の共役ジエン等が挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
【0029】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)を製造する方法としては、ラジカル開始剤を使用した塊状重合が適した方法であるが、溶液重合、乳化重合を用いることも可能である。
水系懸濁重合は、無水マレイン酸を単量体成分として用いる場合には、その水溶性が高いため、終始安定な懸濁系を保つことが困難であり、推奨されない。
【0030】
一般的なラジカル開始剤の中で、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ系開始剤、及び過酸化系開始剤のうち、ベンゾイルパーオキサイドを該耐熱アクリル系樹脂の重合に使用した場合、得られるポリマーが着色することがある。
過酸化系開始剤としてラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用すると、耐熱アクリル樹脂(A−2−1)の着色はない。もっとも、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用したポリマーは、耐水性が低く、熱水に浸漬した場合の重量増加が大きく、表面が白化することがある。
したがって、耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)の重合には、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドを適用することが好ましい。
【0031】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)の好ましい重合方法としては、特公昭63−1964号公報に記載の方法が挙げられる。
【0032】
耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、成形品の強度の観点から10g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
【0033】
また、3元以上の共重合体(A−2)の別の好適な例として、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−2−2)が挙げられる。この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−2−2)は、耐熱性に優れると共に、これから得られる成形体のレタデーション設計が容易であることから、光学材料に適している。
この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−2−2)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル、第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、前述の耐熱アクリル系樹脂(A−2−1)において例示したものを用いることができる。
また、6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−2−2)の第三の単位である6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ、共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が生成される。
6員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−2−2)は、特公平02−26641号、特開2006−266543号、特開2006−274069号、特開2006−274071号、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0034】
本発明においては、組成、分子量など異なる複数種類のアクリル系樹脂(A)を併用することができる。
【0035】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体はスチレン系樹脂(B)との相溶性が高いので、光学フィルムをアクリル樹脂(A)とスチレン樹脂(B)とから構成する場合には、アクリル系樹脂(A)として、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体を用いることが特に好ましい。
【0036】
次に、スチレン系樹脂(B)について説明する。
本発明において、スチレン系樹脂(B)とは、少なくともスチレン系単量体を単量体成分として含む重合体をいう。ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいう。
【0037】
スチレン系単量体の具体例としては、スチレンの他に、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレンなどのビニル芳香族化合物単量体などが挙げられ、代表的なものはスチレンである。
【0038】
スチレン系樹脂(B)は、スチレン系単量体成分に他の単量体成分を共重合したものでよい。共重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられ、これらの2種以上を共重合してもよい。
このような他の単量体成分の共重合割合は、スチレン系単量体成分に対して、50質量%以下であることが好ましい。
【0039】
スチレン系樹脂(B)としては、特に、スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−1)、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)が、耐熱性、透明性等の光学材料に求められる特性を有しているため好ましい。
また、スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−1)、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)は、メタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体との相溶性が高いことから、アクリル系樹脂(A)としてメタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体を用いる場合に特に好ましい。
【0040】
スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−1)の場合、共重合体中のアクリロニトリルの共重合割合は1〜40質量%であることが好ましい。さらに好ましい範囲は1〜30質量%であり、とりわけ好ましい範囲は1〜25質量%である。共重合体中のアクリロニトリルの共重合割合が1〜40質量%の場合、透明性に優れるため好ましい。
【0041】
スチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)の場合、共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1〜30質量%である。共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
【0042】
スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)の場合、共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合が0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1質量%〜30質量%である。共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
これらの中でも、耐熱性の観点から、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)が特に好ましい。
【0043】
スチレン系樹脂(B)として、組成、分子量など異なる複数種類のスチレン系樹脂を併用することもできる。
スチレン系樹脂(B)は、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化又は溶液重合方法により得ることができる。また、スチレン系樹脂(B)は、共役ジエンやスチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
【0044】
本発明において、「アクリル系樹脂(A)からなる光学フィルム」、「アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる光学フィルム」とは、それぞれ、光学フィルムを構成する重合体の合計100質量部に対して、アクリル系樹脂(A)が80質量部以上、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の合計が80質量部以上である光学フィルムをいい、光学フィルムを構成する重合体の合計100質量部に対して20質量部以下の範囲で他の重合体を混合することができる。混合することができる重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂:及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
混合する他の重合体の割合は、光学フィルムを構成する重合体の合計100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは0質量部である。
【0045】
また本発明においては、光学フィルムに、本発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤を添加することができる。
混合することができる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0046】
ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、ラクトン系化合物は、これを添加した樹脂組成物の光弾性係数の絶対値を小さくする効果があり好ましい。最も好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらは単独で用いても、2種以上併用して用いても構わない。
【0047】
紫外線吸収剤が、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10-4Pa以下である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10-6Pa以下であり、とりわけ好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10-8Pa以下である。成型加工性に優れるとは、例えばフィルム成形時に、低分子化合物のロールへの付着が少ないことなどを示す。ロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるため、光学用材料として好ましくないものとなる。
【0048】
紫外線吸収剤が、融点(Tm)が80℃以上である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は融点(Tm)が130℃以上であり、とりわけ好ましい範囲は融点(Tm)が160℃以上である。
紫外線吸収剤が、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の紫外線吸収剤の重量減少率が50%以下である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は重量減少率が15%以下であり、とりわけ好ましい範囲は重量減少率が2%以下である。
【0049】
本発明の光学フィルムは、380nmにおける分光透過率が5%以下かつ400nmにおける分光透過率が65%以上であることが好ましい。紫外領域である380nmの分光透過率が低いほど偏光子や液晶素子の劣化を防ぎ、可視領域である400nm分光透過率が高いほど色再現性に優れるため、光学フィルムとして好ましく用いることができる。光学フィルムの380nmにおける分光透過率をこの範囲内に設計するには、紫外線吸収剤の量が、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%より多いと、光学フィルムの380nmにおける分光透過率を小さくすることができ、10質量%より少ないと、光学フィルムの光弾性係数の増加が小さく、成型加工性、機械強度も向上するため好ましい。紫外線吸収剤の量のより好ましい範囲は、0.3質量%以上8質量%以下、さらに好ましい範囲は0.5質量%以上5質量%以下である。
【0050】
紫外線吸収剤の量は、核磁気共鳴装置(NMR)によりプロトンNMRを測定し、ピークシグナルの積分値の比から求める方法や、又は良溶媒を用い樹脂から抽出後、ガスクロマトグラフ(GC)で測定する方法等により定量できる。
【0051】
また本発明においては、光学フィルムに、本発明の目的を損なわない範囲で各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。配合することができる添加剤としては、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
例えば、二酸化珪素等の無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン,ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤,ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、難燃剤、帯電防止剤有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤などが挙げられる。
【0052】
紫外線吸収剤とその他の添加剤の総添加量は、光学フィルムを構成する重合体の合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下である。
【0053】
光学フィルムがアクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)とからなる場合、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の含有量は、光学フィルムを構成する重合体の合計100質量部に対して、それぞれ、20質量部以上であることが好ましい。
【0054】
アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の質量比((A)/(B))は、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)、の種類にも依存するが、20/80〜80/20であることが好ましく、25/75〜40/60であることがとりわけ好ましい。
【0055】
次に、本発明の光学フィルムの製造方法について説明する。
光学フィルムが、アクリル樹脂(A)とスチレン樹脂(B)からなる場合や、その他の重合体、紫外線吸収剤等の添加剤を含む場合には、予めこれらの材料を溶融混錬して樹脂組成物を製造し、その後、フィルムに成形することができる。
樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)、必要に応じてその他の成分を添加して溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。
【0056】
本発明における延伸前の光学フィルムの成形方法に限定はなく、例えば、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、発泡成形、キャスト成形等、公知の方法で成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
【0057】
例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押し出し成形することができる。
押し出し成形により光学フィルムを製造する場合は、アクリル樹脂(A)、スチレン樹脂(B)、その他の重合体、紫外線吸収剤等の添加剤を含む樹脂組成物を事前に製造する代わりに、押し出し成形時に溶融混錬して成形することもできる。
また、アクリル系樹脂(A)の溶媒、又はアクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)に共通な溶媒、例えば、クロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒を用いて、樹脂を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形もすることができる。
好ましいフィルム製膜方法は、金型にTダイを用いる溶融押出法である。Tダイから吐出されたフィルムは金属ロール、ゴムロール、金属ベルト等により片面又は両面を冷却しつつ引取りながら製膜する。
【0058】
本発明においては、さらに、未延伸フィルムを機械的流れ方向(MD方向)又は機械的流れ方向に直行する方向(TD方向)に一軸延伸、又はMD方向、TD方向に二軸延伸する。
二軸延伸方法としては、例えば、ロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等が挙げられる。
【0059】
本発明において、光学フィルムを延伸する際の延伸温度は、光学フィルムがアクリル系樹脂(A)からなる場合には、100℃乃至170℃であることが好ましく、より好ましくは110℃乃至160℃、さらに好ましくは125℃乃至145℃である。
また、光学フィルムがアクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる場合には、延伸温度は90℃乃至160℃であることが好ましく、より好ましくは100℃乃至150℃、さらに好ましくは115℃乃至135℃である。
【0060】
本発明において、光学フィルムが一軸延伸フィルムである場合、その延伸倍率は、光学フィルムがアクリル系樹脂(A)からなる場合には、50%以上200%以下であり、70%以上170%以下であることが好ましく、80%以上150%以下であることがより好ましい。
また、光学フィルムがアクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる場合には、30%以上150%以下であり、40%以上140%以下であることが好ましく、50%以上120%以下であることがとりわけ好ましい。
延伸倍率をこの範囲にすることにより、優れた耐折強度及び熱収縮率を有する一軸延伸光学フィルムが得られる。
【0061】
光学フィルムが二軸延伸フィルムである場合、光学フィルムがアクリル系樹脂(A)からなる場合には、MD方向、TD方向の延伸倍率は、共に、50%以上200%以下であり、70%以上170%以下であることが好ましく、80%以上150%以下であることがより好ましい。
また、光学フィルムがアクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなる場合には、MD方向、TD方向の延伸倍率は、共に、30%以上150%以下であり、40%以上140%以下であることが好ましく、50%以上120%以下であることがとりわけ好ましい。
延伸倍率をこの範囲にすることにより、優れた耐折強度及び熱収縮率を有する二軸延伸フィルムが得られる。
【0062】
本発明の光学フィルムには、一軸延伸、二軸延伸いずれを施してもよいが、二軸延伸をした場合、MD、TD両方向に耐折回数が大きくなるため好ましい。
【0063】
本発明において、光学フィルムの耐折強度は、延伸を施した方向において1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.4以上であり、さらに好ましくは1.8以上である。
光学フィルムの耐折強度は、延伸倍率を本発明で規定する範囲にすることによって制御することができる。
ここで、耐折強度とは、フィルムの機械的強度を示す指標であり、以下の式で表される。
耐折強度=Logn
nは、JIS P 8115で規定される耐折強さ試験方法に従って測定した耐折回数である。
【0064】
延伸倍率は、得られた延伸フィルムをガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で収縮させ以下の関係式から延伸倍率を決定できる。また、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができる。
延伸倍率(%)=[(収縮前の長さ/収縮後の長さ)−1]×100
【0065】
本発明において、光学フィルムの80℃で140時間過熱したときの熱収縮率の絶対値は、延伸を施した方向において0.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.15%以下であり、さらに好ましくは、0.1%以下である。
光学フィルムの熱収縮率は、延伸倍率を本発明で規定する範囲にすることによって制御することができる。
ここで、熱収縮率とは、ISO 7823−1で規定される、フィルムの加熱による収縮のし易さを示す指標であり、以下の式で表される。
熱収縮率(%)=(Lo−L1/Lo)×100
(ここで、Loは加熱前のフィルムの長さ、L1は加熱後の長さである。)
【0066】
本発明における光学フィルムの厚さは、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以上300μm以下、さらに好ましくは5μm以上300μm以下である。
【0067】
本発明において、平面方向のレタデーション(Re)と厚み方向のレタデーション(Rth)を次のように定義する。
Re=(nx−ny)×d、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
(式中、nx:成形体面内において屈折率が最大となる方向をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:成形体面内においてx方向に垂直な方向をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:成形体厚み方向の主屈折率、d:成形体の厚み(nm)である。)
【実施例】
【0068】
次に実施例によって本発明を具体的に説明する。
本発明及び実施例で用いた評価法を説明する。
(1)評価方法
【0069】
(I)分子量の測定
GPC(東ソー(株)製GPC−8020、検出RI、カラム昭和電工製Shodex K−805、801連結)を用い、溶媒はクロロホルム、測定温度40℃で、市販標準ポリスチレン換算で質量平均分子量を求める。
【0070】
(II)面内レタデーション(Re)及び厚み方向レタデーション(Rth)
(面内レタデーション(Re)の測定)
シックネスゲージを用いてフィルムの厚さd(nm)を測定する。この値を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、測定面が測定光と垂直になるように試料を配置し、23℃で回転検光子法により面内レタデーション(Re)を測定・算出する。
(厚み方向レタデーション(Rth)
Metricon社製レーザー屈折計Model2010を用いて、23℃で光学フィルムの平均屈折率nを測定する。そして、平均屈折率nとフィルム厚さd(nm)を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、23℃で厚み方向レタデーション(Rth)を測定・算出する。
【0071】
(III)耐折強度の測定
長さ110mm×幅15mmに裁断したサンプルを用い、JIS P 8115(国際標準化機構:ISO5626)に従って、そのMD、TD方向の耐折回数を測定し、その平均値nから、フィルムの耐折強度Lognを求めた。下記に試験条件を記載する。
(試験条件)
試験機:MIT耐揉試験機(東洋製機製作所)
荷重:4.9N (=500g)
折り曲げ角度:±135°
折り曲げ速度:175cpm
試験片つかみ具
先端半径:R=0.38mm
開き:0.25mm
【0072】
(IV)熱収縮率の測定
長さ120mm×幅120mmに裁断したサンプルを用い、ISO 7823−1に従って、そのMD方向、TD方向の熱収縮率を測定した。具体的な手順を示す。
サンプルの中心に縦と横に線を引き、その交点から左右、上下50mmの位置に票点を印した。80℃に加熱された循環型熱風機(ESPEC社 PHH−101)に無重力状態で吊るして140時間保持した。その後、サンプルを取り出して放冷後、上記の票点間の長さを読み取って加熱後の長さ(mm)とした。
熱収縮率を以下の式に従って算出した。
熱収縮率(%)=(Lo−L1/Lo)×100
(ここで、Loは、加熱前の長さ(100mm)、L1は加熱後の長さ(mm)である。)
【0073】
(2)原料の準備
【0074】
(I)アクリル系樹脂(A)の準備
i)アクリル系樹脂(A−2−1)の準備
特公昭63−1964に記載の方法で、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。得られた共重合体の組成は、メタクリル酸メチル74質量%、スチレン16質量%、無水マレイン酸10質量%であり、共重合体メルトフローレート値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は1.6g/10分であった。
【0075】
ii)メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(A−1)
メタクリル酸メチル89.2重量部、アクリル酸メチル5.8重量部、及びキシレン5重量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294重量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115重量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(B−1)のペレットを得た。得られた共重合体のアクリル酸メチルの共重合割合は6.0%、重量平均分子量は145,000、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃3.8kg荷重のメルトフロー値は1.0g/分であった。
【0076】
(II)スチレン系樹脂(B)の準備
i)スチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン75.2質量%、メタクリル酸4.8質量%、エチルベンゼン20質量%を調合液とし、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを用いた。この調合液を1L/hr.の速度で連続して、内容積2Lの攪拌機付きの完全混合重合器へ供給し、136℃で重合を行った。
固形分49%を含有する重合液を連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出した。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)は無色透明で、中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合92質量%、メタクリル酸の共重合割合8質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は5.2g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.8×10-12Pa-1であり、固有複屈折は負であった。
【0077】
ii)スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン91.7質量部、無水マレイン酸8.3質量部の比率で合計100質量部を準備した。(ただし、両者は混合しない。)メチルアルコール5質量部、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部をスチレンに混合し、第1調合液とした。0.95kg/hr.の速度で連続して内容積4Lのジャケット付き完全混合重合機に供給した。
一方、70℃に加熱した無水マレイン酸を、第二調合液として0.10kg/hr.の速度で同一重合機へ供給し、111℃で重合を行った。重合転化率が54%となったところで、重合液を重合機から連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出し、スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)を得た。
得られたスチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)は無色透明で、中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合は85質量%、無水マレイン酸単位の共重合割合は15質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重のメルトフローレート値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.1×10-12Pa-1であり、固有複屈折は負であった。
【0078】
(III)紫外線吸収剤
紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系化合物(旭電化(株)社製、アデカスタブLA−31(融点(Tm):195℃)を用いた。理学電気(株)社製、ThermoPlus TG8120を用いて、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の質量減少率を測定したところ、0.03%であった。
【0079】
[実施例A1〜A5、B1〜B9、比較例A1〜A3、B1〜B6]
表1、表2に記載のアクリル系樹脂(A)、スチレン系樹脂(B)を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、表1、表2に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1、表2に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、実施例A1、A2、B1、B2、B5、B6、比較例A1、B2、B5の一軸延伸フィルムを得た。
さらに、一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表2に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、実施例A3〜A5、B3、B4、B7〜9、比較例A2、3、B1、B3、B4、B6の二軸延伸フィルムを得た。
このようにして製造したフィルムの組成、押し出し成形条件、フィルムの厚み、面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)、耐折強度、熱収縮率の絶対値を表1、表2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
延伸倍率が本発明の範囲内にある実施例A3〜A5、B1〜B9のフィルムは、いずれも、優れた耐折強度と、熱収縮率の絶対値を示した。これに対し、延伸倍率が本発明において規定される範囲から外れる比較例A1〜A3、B1〜B6のフィルムは、耐折強度か熱収縮率のいずれかが劣っていた。
【0083】
具体的には、一軸延伸フィルムの場合、延伸倍率が本発明の範囲より大きい比較例B2のフィルムは、耐折強度は優れているが、熱収縮率の絶対値が大きかった。逆に、延伸倍率が本発明の範囲より小さい比較例A1、B5のフィルムは、熱収縮率の絶対値は小さいが、耐折強度は劣っていた。
また、同様の傾向が二軸延伸フィルムについても確認できた。
すなわち、延伸倍率が本発明の範囲より大きい比較例A2、B1、B4、B6のフィルムは、その延伸方向において、耐折強度は優れているが、熱収縮率の絶対値が大きかった。逆に、延伸倍率が本発明の範囲より小さい比較例A3、B3、B6のフィルムは、その延伸方向において、熱収縮率の絶対値は小さいが、耐折強度は劣っていた。
そして、このような傾向は、光学フィルムが、アクリル系樹脂からなる場合とアクリル系樹脂とスチレン系樹脂からなる場合とに共通して確認できた。
さらに、このような傾向は、光学フィルムが、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂からなる場合において、スチレン系樹脂がスチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)である場合とスチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)である場合とに共通して確認できた。
【0084】
以上より、優れた耐折強度と小さな熱収縮率の絶対値を併せ持つフィルムを得るには、光学フィルムの組成に応じて特定の延伸倍率で延伸することが必要であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の光学フィルムは、機械的強度と熱収縮性に優れるので、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、タッチパネル、太陽電池に用いられる透明基盤等や、その他、光通信システム、光交換システム、光計測システム等の分野における、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなど様々な光学素子を製造するたに使用できる。
特に、本発明の光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルムを製造するために好適に用いることができる。
とりわけ、本発明の光学フィルムは、厚み方向レタデーション(Rth)が負の値であることが望まれるIPSモードの液晶表示装置用の偏光板保護フィルムや位相差フィルムを製造するために好適に用いることができる。具体的には、本発明の光学フィルムは、テレビ、パソコン、携帯電話、カーナビゲーション、医療機器、産業機器等の各種ディスプレイに用いられるIPSモードの液晶表示装置の画質向上に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A)からなり、機械的流れ方向(MD方向)又は機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)に一軸延伸された光学フィルムであって、延伸倍率が50%〜200%の範囲内にある光学フィルム。
【請求項2】
アクリル系樹脂(A)からなり、機械的流れ方向(MD方向)及び機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)に二軸延伸された光学フィルムであって、MD方向、TD方向の延伸倍率が共に50%〜200%の範囲内にある光学フィルム。
【請求項3】
アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなり、機械的流れ方向(MD方向)又は機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)に一軸延伸された光学フィルムであって、延伸倍率が30%〜150%の範囲内にある光学フィルム。
【請求項4】
アクリル系樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)からなり、機械的流れ方向(MD方向)及び機械的流れ方向に直交する方向(TD方向)に二軸延伸された光学フィルムであって、縦延伸(MD)方向、横延伸(TD)方向の延伸倍率が共に30%〜150%の範囲内にある光学フィルム。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物単位と(メタ)アクリル系単量体単位とを含む共重合体である、請求項1から4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂(A)が、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位と、芳香族ビニル化合物単位と、一般式[1]で表される化合物単位を含む共重合体である請求項5に記載の光学フィルム。
【化1】

(ただし、一般式[1]において、Xは、O又はN−Rを表す。ここで、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルカン基である。)
【請求項7】
前記スチレン系樹脂(B)が、スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−1)である請求項3又は4に記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂(B)が、スチレン−メタクリル酸共重合体(B−2)である請求項3又は4に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記スチレン系樹脂(B)が、スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−3)である請求項3又は4に記載の光学フィルム。
【請求項10】
延伸を施した方向において、耐折強度が1.0以上であり、80℃で140時間加熱したときの熱収縮率の絶対値が0.2%以下である請求項1から9いずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項11】
請求項1から10いずれか1項に記載の光学フィルムからなる偏光板保護フィルム。
【請求項12】
請求項1から10いずれか1項に記載の光学フィルムからなる位相差フィルム。

【公開番号】特開2008−216586(P2008−216586A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53242(P2007−53242)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】