機械的特性算出プログラムおよび機械的特性計測装置


【課題】微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出できる機械的特性算出プログラムと機械的特性計測装置を提供する。
【解決手段】圧子1bにより試料Dに圧力をかけて計測した試料Dの荷重−変位特性の計測結果を入力するステップS2と、荷重−変位特性の弾性領域AEPと弾塑性領域AELにまたがる連続領域CAを特定するステップS3と、試料Dの弾性率と降伏応力との初期値を設定するステップS5と、試料Dの形状と圧子1bの形状を含む計測状態の数値モデルを生成して力学的シミュレーションを行うことにより荷重−変位特性を求めるステップS6と、荷重−変位特性の計測結果と力学的シミュレーションの結果とを比較して連続領域CAにおいて略同一となるまで弾性率と降伏応力を変化させて収束計算を行い、弾性率と降伏応力を求めるステップS6,S7,S8,S10とをコンピュータに行わせる機械的特性算出プログラムとしている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小サイズの試料の弾性率と降伏応力を算出する微小部品の機械的特性算出プログラムと機械的特性計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性率と降伏応力などの機械的特性を計測するために、引張試験機や硬度計が用いられてきた。引張試験機は、機械的特性を計測する対象の材料で試験片を作製し、その両端を引っ張ることにより機械的特性を計測するものである。また、微小硬度計は、計測対象の微小部品に圧子を押し込むことにより機械的特性を計測するものである。
【0003】
近年、装置の小型化、薄型化及びマイクロマシンの開発などにより、微小部品の機械的特性を計測する必要性が増してきている。しかしながら、上述の引張試験機を、微小部品の機械的特性の計測に用いようとすると、試料として微小な試験片を作製する必要があり、微小で壊れやすい試験片を引張試験機に取り付ける際に破壊したり、試験片の軸と引張の軸が一致せずに応力が加えられるなどの問題がある。特許文献1に示すように、この問題点について改善したものも存在するが、試験片を指定の材料試験デバイスに加工する必要があり、単結晶シリコンのようなエッチングによる加工が可能である材料でなければ、適用することが難しい。さらに、微小部品の機械的特性は、製造方法や製造条件で大きく変化することが知られており、機械的特性を知りたい使用状態以外の形状にして計測することは困難である。
【0004】
一方、微小硬度計を用いた計測では、微小部品を圧子により直接に変位させるので、微小部品そのものの荷重−変位特性を得ることができる。このようにして実測した荷重−変位特性から降伏応力や加工硬化係数などの機械的特性を得る技術は、例えば特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開平9−218142号公報
【特許文献2】特開平9−288050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、荷重−変位特性にフィッティングする二次関数の係数と機械的特性とを対応付けたデータベースを用いて、荷重−変位特性から上述の機械的特性を導出している。そのため、結果的に降伏応力が一定となったところで荷重−変位特性とフィッティングすることになる。しかしながら、微小変位の領域では、降伏応力の値が変位によって変化するので、特許文献2に記載された技術では、精度よく機械的特性を得ることができない。
【0006】
本願発明は、上述のような課題を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、微小部品の微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出できる機械的特性算出プログラムと機械的特性計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、圧子により試料に圧力をかけて計測した試料の荷重−変位特性の計測結果を入力するステップと、前記荷重−変位特性の弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域を特定するステップと、前記試料の弾性率と降伏応力との初期値を設定するステップと、前記試料の形状と圧子の形状を含む計測状態の数値モデルを生成して力学的シミュレーションを行うことにより荷重−変位特性を求めるステップと、荷重−変位特性の計測結果と前記力学的シミュレーションの結果とを比較して前記連続領域において略同一となるまで弾性率と降伏応力を変化させて収束計算を行い、弾性率と降伏応力を求めるステップとをコンピュータに行わせる機械的特性算出プログラムとしている。
【0008】
したがって、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域において、押し込み試験により得られた荷重−変位特性の計測結果と計測状態の数値モデルによる力学的シミュレーションにより得られた荷重−変位特性とを比較し、弾性率と、降伏応力を変化させつつこれらの荷重−変位特性が略同一になるまで収束計算を行うので、微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。また、押し込み試験により荷重−変位特性を用いるので、計測のために試料を作成することなく微小部品そのものの状態で弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の機械的特性算出プログラムにおいて、前記連続領域は、荷重−変位特性において変位が大きくなるにつれ弾性領域から弾塑性領域に変化する領域を用いることを特徴としている。
【0010】
したがって、変位が大きくなるにつれ弾性領域から弾塑性領域に変化する領域は、弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域のうち最小のものであるので、最小の変位領域における弾性率と降伏応力とを求めることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の機械的特性算出プログラムにおいて、前記連続領域は、荷重−変位特性において負荷状態の弾塑性領域から除荷状態の弾性領域に変化する領域を用いることを特徴としている。
【0012】
したがって、負荷状態から除荷状態に転換する変位を変化させることにより、任意の変位領域を弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域とすることができるので、任意の変位における弾性率と降伏応力とを求めることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、試料を固定する固定部と、試料の一部に接触可能な圧子と、圧子を試料方向に移動させる駆動部と、圧子に加わる荷重を計測する荷重センサと、圧子の変位を計測する変位計測部と、駆動部を制御する制御部とを有し、荷重−変位特性を取得する特性計測部と、請求項1乃至3のいずれかに記載の機械的特性算出プログラムにより弾性率と降伏応力とを求める特性算出部と、を備える機械的特性計測装置としている。
【0014】
したがって、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域において、特性計測部により得られた荷重−変位特性の計測結果と特性算出部による力学的シミュレーションにより得られた荷重−変位特性とを比較し、弾性率と、降伏応力を変化させつつこれらの荷重−変位特性が略同一になるまで収束計算を行うので、微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。また、押し込み試験により荷重−変位特性を用いるので、計測のために試料を作成することなく微小部品そのものの状態で弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域において、弾性率と、降伏応力を変化させつつ、計測結果と力学的シミュレーション結果の荷重−変位特性とが略同一になるまで収束計算を行うので、微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる機械的特性算出プログラム及び機械的特性計測装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本願発明の機械的特性計測装置(以後、単に特性計測装置と称する)の実施形態を図1〜図6を用いて説明する。この特性計測装置は、特性計測部1と、処理部2と、記憶部3と、入力部4と、出力部5とを有して構成されている。
【0017】
特性計測部1は、試料Dを固定する金属製の固定部1aと、試料Dの一部と接触して試料Dに圧力を加える圧子1bと、固定部1aに直交するように立てた状態で固定部1aに設けられる支柱1fと、支柱1fに設けられたレール(図示せず)上を動作する駆動部1dと、駆動部1dに設けられ圧子1bを支持する圧子支持体1gと、圧子支持体1gに設けられ圧子1bに加わる荷重を計測する荷重センサ1cと、駆動部1dを制御するとともに駆動部1dの変位と荷重センサ1cの出力とを取得する入出力部1eとを有して構成され、荷重−変位特性を取得するものである。
【0018】
固定部1aは、真鍮やステンレスで直方体形状に形成された金属板であり圧子1bにより加えられる圧力に対して変形しない十分な強度を有しており、計測時には、水平面に配置される。この固定部1aは、試料Dを固定するための固定手段(図示せず)を有しており、試料Dは、圧子1bにより圧力が加えられも動かないように固定されている。この固定手段としては、例えば、固定部1aにねじ止めされる2つの板片により、試料Dの両端部を固定部1aの試料Dを置く面との間で挟み込むものでよい。
【0019】
支柱1fは、例えば真鍮やステンレスなどの金属で四角柱状形成されたものであり、固定部1aの一側面の幅方向の中央に、固定部1aの試料Dを置く面に直交するように設けられている。この支柱1fは、長さ方向にレールが設けてあり、駆動部1dがレールに沿って動作できるようにしている。
【0020】
駆動部1dは、リニアステッピングモータであり、支柱1fのレールは、リニアステッピングモータの固定部側となっている。この駆動部1dは、ケーブルC2により入出力部1eと接続されており、入出力部1eにより制御される。そして、この駆動部1dは、側面視でL字状の圧子支持体1gにより圧子1bと接続され、駆動部1dが上下に動くと、圧子1bが試料Dの方向に上下に動作するようになっている。
【0021】
圧子1bは、例えばダイヤモンドで三角錐形状に形成されたものあり、十分な強度を有し、圧力により変形しないように形成されている。この圧子1bは、取り付け部に圧子の形状などの種類に応じて一意的に定まる電極パターンを有している。圧子1bの形状としては、三角錐形状の他に、円錐や角錐の形状であってもよい。
【0022】
圧子支持体1gは、例えば真鍮やステンレスなどの金属で側面視でL字状に形成されたものであり、一方の端部には駆動部1dが接続され、もう一方の端部には圧子1bを試料Dに接触可能なように接続する圧子接続部1gaを有している。圧子接続部1gaは、ケーブルC3により入出力部1eと接続されており、入出力部1eにより圧子1bが接続されると圧子1bの電極パターンの情報を検出できるようにしている。また、圧子支持体1gは、圧子接続部1gaの側に荷重センサ1cを介在させ、圧子1bに加わる荷重、つまり、圧子1bが試料Dに加えた荷重を計測するようにしている。
【0023】
荷重センサ1cは、例えばロードセルであり、ケーブルC1により入出力部1eに接続され、入出力部1eによりロードセルの出力が検出できるようにされている。
【0024】
入出力部1eは、制御部1eaと、計測情報取得部1ebとを有して構成され、計測装置の内部で処理部2に接続されており、処理部2から計測信号が入力されると、圧子1bの変位に対する荷重を出力する。また、処理部2から計測条件取得信号が入力されると、例えば圧子1bに固有の番号など、圧子1bの種類の情報を出力する。
【0025】
制御部1eaは、ケーブルC2を介して駆動部1dに接続されており、制御信号を駆動部1dに出力することにより駆動部1dを制御して移動させるとともに、その移動による変位を取得することができる。したがって、この実施形態においては、制御部1eaは、圧子1bの変位を計測する変位計測部の機能を兼ねている。ただし、制御部1eaが変位計測部の機能を兼ねている必要は特になく、例えばレーザ変位計などのような変位計測部を単体で備えていてもよい。
【0026】
計測情報取得部1ebは、ケーブルC1により荷重センサ1cと接続されており、荷重センサ1cから荷重に比例する電圧値を取得し、記憶部の計測パラメータ情報に記憶されている荷重センサ1cに対する変換係数をその電圧値に掛けて荷重に変換する。一方、計測情報取得部1ebは、ケーブルC3により圧子接続部1gaと接続されており、圧子接続部1gaから圧子1bの電極パターン情報を取得し、記憶部の計測パラメータ情報3bに記憶されている圧子情報の中から取得した電極パターン情報を検索し、圧子1bの種類を取得する。
【0027】
記憶部3は、揮発性メモリと不揮発性メモリで構成され、機械的特性算出プログラム3a(以後、単に特性算出プログラム3aと称する)と、計測パラメータ情報3bと、計測結果データ3cと、解析モデルデータ3dとを記憶する。特性算出プログラム3aは、不揮発性メモリ上に記憶され、後述の処理部2の特性算出部2aにより読み出されて実行される。
【0028】
計測パラメータ情報3bは、不揮発性メモリ上に記憶され、荷重センサ1cの種類ごとの変換係数と、圧子1bに関する情報を収めた圧子情報とを有している。変換係数は、荷重センサ1cから出力される電圧値を荷重に変換するための数値である。また、圧子情報は、圧子1bの種類と電極パターンとを対応づけた電極パターン情報と、圧子1bの種類ごとの形状を示した圧子形状情報とを有している。
【0029】
計測結果データ3cは、特性計測部1により計測した荷重−変位特性を、変位と荷重を対にした点列で揮発性メモリ上に記憶されている。解析モデルデータ3dは、計測時の状態をモデル化したものであり、外形データ及び有限要素法用の分割図のデータが揮発性メモリ上に記憶されている。ここで、外形データは、閉領域を形成する頂点座標と、各頂点の接続関係とを有している。有限要素法用の分割図のデータは、空間を分割する要素データと、要素を形成する節点データと、節点の座標データなどを有している。
【0030】
処理部2は、中央処理装置を有するコンピュータであり、入出力部1eと、記憶部3と、入力部4と、出力部5と接続され、プログラムを処理することにより各部を制御する。この処理部2は、記憶部3に記憶された特性算出プログラム3aを読み込み、実行することで弾性率と降伏応力とを求める特性算出部2aを有して構成されている。
【0031】
特性算出部2aは、記憶部3から特性解析プログラム3aを読み込み、実行する。この特性算出部2aの動作を図2を用いて説明する。まず、入力部4から計測開始の指示を入力すると、特性計測装置は、計測動作を開始する。すると、特性算出部2aは、出力部5を介して計測条件を入力するように要求する。ここで、計測条件とは、計測モードと、圧子1bを押し込む変位の範囲と、圧子1bを1回に移動させる変位刻み、試料Dの外形データであり、特性計測装置の使用者は、これらの計測条件を入力部4から入力する(ステップS1)。上述の入力された情報は、記憶部3に計測パラメータ情報3bとして記憶される。
【0032】
ここで、計測モードとは、荷重−変位特性の弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAとして、変位が大きくなるにつれ弾性領域から弾塑性領域に変化する領域を用いるか、負荷状態の弾塑性領域から除荷状態の弾性領域に変化する領域を用いるかの違いを定めている。本明細書においては、前者をモード1、後者をモード2と呼ぶことにする。
【0033】
また、圧子1bを押し込む変位の範囲は、その指定の仕方が計測モードによって異なる。計測モードがモード1の場合は、図3に示すように、変位の始点SPと終点EPとを入力する。計測モードがモード2の場合は、図4に示すように、変位の始点SPと、除荷開始点RPと、終点EPとを入力する。ここで、圧子1bが試料Dに接する状態の変位を0として、圧力が大きくなる変位の方向を正方向としている。また、圧子1bを1回に移動させる変位は、小さければ小さいほど計測点は多くなる。
【0034】
さらに、試料Dの外形データは、基本的に試料の輪郭を形成する点の座標を入力することにより行うが、直方体のような簡単な形状のときには、縦、横、厚みを要求し、特性算出部2aは、各点の座標を発生させるようにしてもよい。
【0035】
特性計測部2aは、計測条件の入力がされると、入力された圧子1bを押し込む変位の範囲で荷重−変位特性の計測を行う(ステップS2)。荷重−変位特性の計測は、詳細には次のように行う。まず、特性算出部2aは、駆動部1dにより圧子1bを変位の始点SPまで移動させるように入出力部1eに制御信号を出力し、さらに計測信号を入出力部1eに出力する。すると、入出力部1eは、制御部1eaにより得られる変位と、計測情報取得部1ebにより得られる荷重とを特性算出部2aに出力する。そして、特性算出部2aは、取得した変位と荷重を、記憶部3の計測結果データ3cに記憶させる。特性算出部2aは、上述の変位刻みの分だけ正方向に圧子1bを変位させるように入出力部1eに制御信号を出力し、さらに計測信号を入出力部1eに出力する。そして、特性算出部2aは、入出力部1eから取得する変位と荷重を、記憶部3の計測結果データ3cに記憶させる。特性算出部2aは、この動作を変位の終点EPまで継続する。
【0036】
ここで、計測モードがモード2の場合には、特性算出部2aは、除荷開始点RPを超えた後は、変位刻みの分だけ負方向に圧子1bを変位させるように制御する。特性算出部2aは、始点SPから終点EPまでの荷重−変位特性が求まると、出力部5に図3及び図4に示すような荷重−変位特性のグラフC,C’を出力する。したがって、このステップにより、圧子1bにより試料Dに圧力をかけて計測した試料Dの荷重−変位特性の計測結果が記憶部3の計測結果データ3cに入力される。ここで、弾性領域は、AEL及びAEL’で表される領域であり、弾塑性領域は、AEP及びAEP’で表される領域である。
【0037】
また、特性算出部2aは、計測終了時に使用された圧子1bの電極パターンの情報を計測情報取得部1ebを介して取得し、記憶部3に計測パラメータ情報3bとして記憶する。
【0038】
次に、特性算出部2aは、計測された荷重−変位特性から弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAを特定する(ステップS3)。具体的には、計測モードがモード1の場合には、連続領域CAは、図3に示すように、連続領域CAの変位の始点ASと、終点AEとを特性計測装置の使用者が入力部4から入力することにより2点で特定される。また、計測モードがモード2の場合には、始点ASと、終点AEとの間に除荷開始点RPが補われて3点により特定される。なお、ここでは、特性計測装置の使用者が入力部4から変位の範囲を入力することにより連続領域CAを特定する場合について説明したが、計測モードがモード1の場合には、荷重−変位特性において弾性領域と弾塑性領域との間が変曲点となっていることを利用して変曲点を探索し、その変曲点の両側の所定の範囲を連続領域CAとするように特性算出部2aにより自動的に定めてもよい。また、計測モードがモード2の場合には、除荷開始点RPの両側の所定の領域を連続領域CAとするように、特性算出部2aにより自動的に定めてもよい。連続領域CAの情報は、記憶部3の解析モデルデータ3dに記憶される。
【0039】
さらに、特性算出部2aは、計測条件の情報に基づいて数値解析の解析モデルを作成する(ステップS4)。具体的には、計測情報取得部1ebにより取得された圧子1bの電極パターンと、計測パラメータ情報3bに記憶された電極パターン情報と、圧子形状情報とを用いて導出した圧子1bの外形データと、ステップS1で入力された試料Dの外形データとを用いて、ドロネイ変換法、格子法、逐次法、バブル法、デラウニー法などの自動メッシュ手法により有限要素解析に用いる数値解析モデルである分割図データを生成する。すると、例えば、四面体要素の場合には図5のように、六面体要素であれば図6のようにモデル生成がされる。ここでは、計算時間を短くするため、モデルの対称性を利用して計測モデルの半分のみを数値モデルにしている。得られた数値解析モデルは、記憶部3に解析モデルデータ3dとして記憶される。
【0040】
そして、特性算出部2aは、特性算出プログラム3a内に初期値データとして有している所定の値を試料Dの弾性率と降伏応力の初期値として設定する(ステップS5)。ここでは、初期値として、弾性率と降伏応力の3つの組を設定し、弾性率と降伏応力の座標系における点間の距離が等しくなるように設定する。さらに、特性算出部2aは、解析モデルデータ3dに記憶された数値解析モデルについて、連続領域CAを弾性率と降伏応力の3組の初期値において、上述の計測で求めた圧子を変位させたときの荷重−変位特性を有限要素法を用いた力学的シミュレーションを行うことにより算出する(ステップS6)。ここで用いる力学的シミュレーション手法では、変位に対する受ける応力(もしくは荷重)と変形量を考慮することができるように弾塑性構成式を有限要素法により離散化したものであり、市販されている有限要素法プログラムでは、例えば、ABAQUS Inc.のABAQUS Standard(R)などを用いれば良い。また、上述の機能を有する有限要素法プログラムは、一般的なものであるため、専用プログラムとして作成しても良い。
【0041】
荷重−変位特性を有限要素法で解析している状態を図6(a)〜(c)に示す。図6を見ると、圧子1bが変位するとともに試料Dの表面が変形して、圧子1bが試料Dにめり込んでいく状態がよくわかる。このようにして、特性算出部2aは、連続領域CAにおいて荷重−変位特性を算出することができ、3つの離散的な点列で得ることができる。図3及び図4では、複数の点列のうち1つのみを白丸で示している。
【0042】
次に、荷重−変位特性の計測値と算出値を比較して以下の評価関数fの値を算出する(ステップS7)。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、x1は、降伏応力、x2は、弾性率、djは、変位、Fm(dj)は、荷重−変位特性の計測値、Fc(dj,xi)は、荷重−変位特性の算出値、Nは、評価するポイント数である。ここでは、初期値として弾性率と降伏応力の3つの組で算出しているので、評価関数の値としても3つの値が求まることになる。
【0045】
次に、複数の評価関数fの値の差が所定値以下かどうかで収束判定を行う(ステップS8)。収束していれば(Yes)、そのときの弾性率と降伏応力の値をそれぞれ平均して出力部5に出力して終了する(ステップS9)。ここで、収束した結果、荷重−変位特性の計測結果と力学的シミュレーションの結果とは、連続領域CAにおいて略同一となっている。
【0046】
一方、収束していなければ(No)、NelderとMeadによって提案されたシンプレックス法により、降伏応力と弾性率の値の再設定を行う(ステップS10)。具体的には、初期値として設定した降伏応力と弾性率の組を頂点xk(k=1〜3)とし、そのうち評価関数fの値が最大となったものをxh、評価関数fの値が2番目に大きいものをxs、評価関数fの値が最小であったものをxl、xkのうちxh以外のものを平均したxaの4点を特徴的な点として区別する。そして、次に示す鏡映点xr、拡張点xe、収縮点xcを求める手続と、頂点xkを縮小する手続との4つの手続を行って降伏応力と弾性率の探索点を再設定する(ここで、a=1、b=2、c=1/2としている)。
【0047】
【数2】

【0048】
そして、再設定された降伏応力の探索点、すなわち、鏡映点xr、拡張点xe、収縮点xc、及び、頂点xkについて荷重−変位特性を算出し(ステップS6)、それぞれの探索点について評価関数の値を求め(ステップS7)、複数の評価関数fの値の差が所定値以下かどうかで収束判定を行う(ステップS8)。収束していれば(Yes)、そのときの弾性率と降伏応力の値をそれぞれ平均して出力部5に出力して終了する(ステップS9)。一方、収束していなければ(No)、上述のシンプレックス法の手続により、降伏応力と弾性率の探索点の再設定を行う(ステップS10)。このステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS10のループをステップS8で収束判定されるまで繰り返し行う。
【0049】
本願発明の特性計測装置によれば、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAにおいて、押し込み試験により得られた荷重−変位特性の計測結果と計測状態の数値モデルによる力学的シミュレーションにより得られた荷重−変位特性とを比較し、弾性率と、降伏応力を変化させつつこれらの荷重−変位特性が略同一になるまで収束計算を行うので、微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。また、押し込み試験により荷重−変位特性を用いるので、計測のために試料を作成することなく微小部品そのものの状態で弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。
【0050】
さらに、計測モードとしてモード1を用いることにより、弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAのうち最小のものを設定できるので、最小の変位領域における弾性率と降伏応力とを求めることができる。一方、計測モードとしてモード2を用いることにより、任意の変位領域を弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAとすることができるので、任意の変位における弾性率と降伏応力とを求めることができる。
【0051】
なお、この実施形態においては、入力部4は、キーボードであり、出力部5は、液晶ディスプレイであるが、通信線のような他の入力装置や出力装置を用いることも可能である。そのようにすれば、例えば、上述の外形データをCAD(Computer Aided Design)システムのモデル情報を外部から直接入力することもでき、計測結果を外部に出力することができる。
【0052】
また、別の実施形態として、本願発明の特性算出プログラムは、特性計測部1を有する特性計測装置内で用いるだけでなく、荷重−変位特性の計測結果を有していれば、汎用のコンピュータ上で動作させて降伏応力及び弾性率を算出することができる。この実施形態について、図7及び図8を用いて説明する
図7に示す汎用コンピュータ10は、内部に中央処理装置とハードディスクを備えるとともに、入力部4であるキーボードと、出力部5であるディスプレイと、フレキシブルディスクにアクセスできるフレキシブルディスクドライブ11と、CD−ROMにアクセスできるCD−ROMドライブ12が接続されている。そして、この汎用コンピュータ10は、実行するプログラムをフレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROMなどの記憶媒体から読み込んで、オペレーティングシステム上で実行させ動作させる。
【0053】
ここで、特性算出プログラム3a’は、記憶媒体であるCD−ROM13に記憶されており、初回使用時に汎用コンピュータ10のハードディスクにインストールされることにより、汎用コンピュータ10で使用できるようになる。また、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAを含んで計測機器で計測された荷重−変位特性の計測結果データ3c’は、荷重と変位を対にした数値データとしてフレキシブルディスク14に記憶されている。
【0054】
次に、特性算出プログラム3a’の動作を図8を用いて説明する。特性算出プログラム3a’の動作は、上述の特性算出プログラム3aの動作に類似しており、同じ処理内容については同じ符号を付け、説明を省略する。
【0055】
まず、特性算出プログラム3a’を起動すると、特性算出プログラム3a’はディスプレイに計測条件を入力するように要求する。ここで、計測条件とは、計測機器で計測されたときの計測モードと、試料Dの外形データ、及び圧子の外形データであり、使用者は入力部4からこれらのデータを入力する(ステップS11)。ここで、データ形式は、先の実施形態のものと同様である。
【0056】
そして、特性算出プログラム3a’は、フレキシブルディスク14に記憶された荷重−変位特性の計測結果データ3c’を読み込む(ステップS12)。このデータ内容から圧子1bを押し込む変位の範囲と、圧子1bを1回に移動させる変位刻みを取得する。その後の処理は、特性算出プログラム3aと同様である。
【0057】
このように、荷重−変位特性を計測器で計測し、計測結果を読み込むようにしても、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域CAにおいて、押し込み試験により得られた荷重−変位特性の計測結果と計測状態の数値モデルによる力学的シミュレーションにより得られた荷重−変位特性とを比較し、弾性率と、降伏応力を変化させつつこれらの荷重−変位特性が略同一になるまで収束計算を行うので、微小変位領域においても弾性率と降伏応力とを精度よく算出することができる。
【0058】
なお、特性算出プログラム3a’や計測結果データ3c’を、記憶媒体を用いて汎用コンピュータ10に入力するものについて説明したが、それに限ることはなく、汎用コンピュータ10が通信機能を有し、ネットワークに接続しているのであれば、ネットワーク経由で入力しても良い。
【0059】
なお、実施形態において、特性算出プログラム3a,3a’の収束計算にシンプレックス法を用いるものについて説明したが、それに限るものではなく、他の収束計算手法を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】機械的特性計測装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】機械的特性計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】計測モードがモード1のときの荷重−変位特性を示すグラフである。
【図4】計測モードがモード2のときの荷重−変位特性を示すグラフである。
【図5】力学的シミュレーションの数値解析モデル(分割図)の一例を示す図である。
【図6】圧子が試料に押し込まれたときの数値解析モデルを示す図である。
【図7】機械的特性算出プログラムを動作させる汎用コンピュータの外観図である。
【図8】機械的特性算出プログラムの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1 特性計測部
1a 固定部
1b 圧子
1c 荷重センサ
1d 駆動部
1e 入出力部
1ea 制御部(変位計測部)
1eb 計測情報取得部
1f 支柱
1g 圧子支持体
2 処理部
2a 特性算出部
3 記憶部
3a,3a’ 機械的特性算出プログラム
3b 計測パラメータ情報
3c,3c’ 計測結果データ
3d 解析モデルデータ
4 入力部
5 出力部
10 汎用コンピュータ
AEL,AEL’ 弾性領域
AEP,AEP’ 弾塑性領域
CA 連続領域
D 試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧子により試料に圧力をかけて計測した試料の荷重−変位特性の計測結果を入力するステップと、前記荷重−変位特性の弾性領域と弾塑性領域にまたがる連続領域を特定するステップと、前記試料の弾性率と降伏応力との初期値を設定するステップと、前記試料の形状と圧子の形状を含む計測状態の数値モデルを生成して力学的シミュレーションを行うことにより荷重−変位特性を求めるステップと、荷重−変位特性の計測結果と前記力学的シミュレーションの結果とを比較して前記連続領域において略同一となるまで弾性率と降伏応力を変化させて収束計算を行い、弾性率と降伏応力を求めるステップとをコンピュータに行わせる機械的特性算出プログラム。
【請求項2】
前記連続領域は、荷重−変位特性において変位が大きくなるにつれ弾性領域から弾塑性領域に変化する領域を用いることを特徴とする請求項1記載の機械的特性算出プログラム。
【請求項3】
前記連続領域は、荷重−変位特性において負荷状態の弾塑性領域から除荷状態の弾性領域に変化する領域を用いることを特徴とする請求項1記載の機械的特性算出プログラム。
【請求項4】
試料を固定する固定部と、試料の一部に接触可能な圧子と、圧子を試料方向に移動させる駆動部と、圧子に加わる荷重を計測する荷重センサと、圧子の変位を計測する変位計測部と、駆動部を制御する制御部とを有し、荷重−変位特性を取得する特性計測部と、
請求項1乃至3のいずれかに記載の機械的特性算出プログラムにより弾性率と降伏応力とを求める特性算出部と、
を備える機械的特性計測装置。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【公開番号】特開2006−194605(P2006−194605A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定張力または定圧縮力によるもの
【出願番号】特願2005−3714(P2005−3714)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 圧縮、耐圧試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 降伏点
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 弾性率 | 伸び弾性率(縦弾性係数)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | シュミレーション装置を有するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | コンピュータ装置を内蔵するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 荷重
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 変位
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定された変化量の取扱い | データの電気的処理 | 演算処理