機械的特性算出プログラム及び機械的特性計測装置


【課題】計測のための加工を要することなく、微小変位領域においても試料の破壊応力と破壊ひずみを精度よく計測する。
【解決手段】特性計測部1が、圧子1bによって試料Dに圧力を加えることにより試料Dの弾塑性領域AEPにおける荷重−変位特性を計測する。特性算出部2aが、試料Dと圧子1bの形状を含む荷重−変位特性の計測状態の数値モデルを利用して、設定された試料Dの弾性率、降伏応力、破壊応力、及び破壊ひずみにおいて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うことにより、試料Dの荷重−変位特性を算出し、特性計測部1により計測された荷重−変位特性と算出された荷重−変位特性とが弾塑性領域AEPにおいて略同一となるまで破壊応力と破壊ひずみを変化させて収束演算を行うことにより、試料Dの破壊応力と破壊ひずみを算出する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小部品の破壊応力と破壊ひずみを計測する機械的特性算出プログラム及び機械的特性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、破壊応力や破壊ひずみ等の材料の破壊強度を計測する際には、計測対象の材料から作製された試験片の両端を引っ張ることにより破壊強度を計測する引張試験機が用いられる。ところで近年、装置の小型化,薄型化,及びマイクロマシンの開発等の背景から、微小部品の破壊強度を計測する必要性が増してきている。しかしながら、引張試験機を用いて微小部品の破壊強度を計測する場合には、微小な試験片を作製する必要があるために、多くの労力を要する。また、微小な試験片を引張試験機に取り付ける際に試験片を破壊してしまったり、試験片の軸と引張試験機の軸とが一致していない状態で試験片に応力を加えてしまうことによって計測精度が悪くなることがある。このような背景から、所定の材料試験デバイスに試験片を一体的に形成することにより、試験片自体を試験機に直接取り付ける作業を不要にした試験機が提案されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特許第2844181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の試験機では、試験片を所定の材料試験デバイスに加工する必要があるために、単結晶シリコン等のようにエッチングによる加工が可能である材料でなければ破壊強度を計測することができない。また一般に、微小部品の破壊強度は製造方法や製造条件によって大きく変化するために、実際の微小部品の破壊強度を実際の形状とは異なる形状の試験片から正確に計測することは難しい。
【0004】
本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、その目的は、計測のための加工を要することなく、試料の破壊応力と破壊ひずみを精度よく計測することが可能な機械的特性算出プログラム及び機械的特性計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る機械的特性算出プログラムは、試料の弾性率と降伏応力を取得する第1の処理と、圧子によって前記試料に圧力を加えることにより計測された、試料の弾塑性領域における荷重−変位特性を入力する第2の処理と、試料の破壊応力と破壊ひずみを設定する第3の処理と、試料と圧子の形状を含む荷重−変位特性の計測状態の数値モデルを利用して、第1の処理により取得した試料の弾性率と降伏応力、及び第3の処理により設定した試料の破壊応力と破壊ひずみにおいて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うことにより、試料の荷重−変位特性を算出する第4の処理と、第2の処理において入力された荷重−変位特性と第4の処理により算出された荷重−変位特性とが弾塑性領域において略同一となるまで破壊応力と破壊ひずみを変化させて収束演算を行うことにより、試料の破壊応力と破壊ひずみを算出する第5の処理とをコンピュータに実行させる。
【0006】
本発明に係る機械的特性計測装置は、圧子によって試料に圧力を加えることにより試料の弾塑性領域における荷重−変位特性を計測する特性計測部と、試料と圧子の形状を含む荷重−変位特性の計測状態の数値モデルを利用して、設定された試料の弾性率、降伏応力、破壊応力、及び破壊ひずみにおいて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うことにより、試料の荷重−変位特性を算出し、特性計測部により計測された荷重−変位特性と算出された荷重−変位特性とが弾塑性領域において略同一となるまで破壊応力と破壊ひずみを変化させて収束演算を行うことにより、試料の破壊応力と破壊ひずみを算出する処理部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る機械的特性算出プログラム及び機械的特性計測装置によれば、計測のための加工を要することなく、微小変位領域においても試料の破壊応力と破壊ひずみを精度よく計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる機械的特性計測装置の構成と動作について説明する。なお、図面の記載において同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0009】
〔機械的特性計測装置の構成〕
本発明の実施形態となる機械的特性計測装置は、特性計測部1と、処理部2と、記憶部3と、入力部4と、出力部5とを主な構成要素として備える。特性計測部1は、試料Dを固定する金属製の固定部1aと、試料Dの一部と接触して試料Dに圧力を加える圧子1bと、固定部1aに直交するように立てた状態で固定部1aに設けられた支柱1fと、支柱1fに設けられたレール(図示せず)上を動作する駆動部1dと、駆動部1dに設けられ圧子1bを支持する圧子支持体1gと、圧子支持体1gに設けられ圧子1bに加わる荷重を計測する荷重センサ1cと、駆動部1dを制御すると共に駆動部1dの変位と荷重センサ1cの出力とを取得する入出力部1eとを備え、試料Dの荷重−変位特性を取得する。
【0010】
固定部1aは、真鍮やステンレスで直方体形状に形成された金属板であり、圧子1bにより加えられる圧力に対して変形しない十分な強度を有し、計測時には水平面に配置される。固定部1aは試料Dを固定するための固定手段(図示せず)を有し、試料Dは圧子1bにより圧力が加えられても動かないように固定されている。固定手段としては、固定部1aにねじ止めされる2つの板片により試料Dの両端部を固定部1aの試料Dを置く面との間で挟み込むものでよい。
【0011】
支柱1fは、真鍮やステンレス等の金属で四角柱形状に形成されたものであり、固定部1aの一側面の幅方向の中央に、固定部1aの試料Dを置く面に直交するように設けられている。支柱1fの長さ方向にはレールが設けられており、駆動部1dがレールに沿って動作できるようにしている。
【0012】
駆動部1dは、リニアステッピングモータであり、支柱1fのレールはリニアステッピングモータの固定部側となっている。駆動部1dは、ケーブルC2により入出力部1eと接続されており、入出力部1eにより制御される。そして、駆動部1dは、側面視でL字状の圧子支持体1gにより圧子1bと接続され、駆動部1dが上下に動くと圧子1bが試料Dの方向に上下に動作するようになっている。
【0013】
圧子1bは、ダイヤモンドで三角錐形状に形成されたものであり、十分な強度を有し、圧力により変形しないように形成されている。圧子1bは取付部に圧子の形状等の種類に応じて一意的に定まる電極パターンを有している。圧子1bの形状としては、三角錐形状のほかに円錐や角錐の形状であってもよい。
【0014】
圧子支持体1gは、真鍮やステンレス等の金属で側面視でL字状に形成されたものであり、一方の端部には駆動部1dが接続され、他方の端部には圧子1bを試料Dに接触可能なように接続する圧子接続部1gaを有している。圧子接続部1gaは、ケーブルC3により入出力部1eと接続されており、入出力部1eにより圧子1bが接続されると圧子1bの電極パターンの情報を検出できるようにしている。また、圧子支持体1gは、圧子接続部1gaの側に荷重センサ1cを介在させ、圧子1bに加わる荷重、つまり圧子1bが試料Dに加えた荷重を計測するようにしている。
【0015】
荷重センサ1cは、ロードセルであり、ケーブルC1により入出力部1eに接続され、入出力部1eによりロードセルの出力を検出できるように構成されている。入出力部1eは、制御部1eaと計測情報取得部1ebとを有し、計測装置の内部で処理部2に接続され、処理部2から計測信号が入力されると、圧子1bの変位に対する荷重を出力する。また、処理部2から計測条件取得信号が入力されると、圧子1bに固有の番号等、圧子1bの種類の情報を出力する。
【0016】
制御部1eaは、ケーブルC2を介して駆動部1dに接続され、制御信号を駆動部1dに出力することにより駆動部1dを制御して移動させると共に、その移動による変位量を取得する。従って、この実施形態では、制御部1eaは、圧子1bの変位を計測する変位計測部の機能を兼ねている。但し、制御部1eaが変位計測部の機能を兼ねている必要は特になく、レーザ変位計等のように変位計測部を単体で備えてもよい。
【0017】
計測情報取得部1ebは、ケーブルC1により荷重センサ1cと接続され、荷重センサ1cから荷重に比例する電圧値を取得し、記憶部3の計測パラメータ情報3bに記憶されている荷重センサ1cに対する変換係数をその電圧値に掛けて荷重に変換する。一方、計測情報取得部1ebは、ケーブルC3により圧子接続部1gaと接続され、圧子接続部1gaから圧子1bの電極パターン情報を取得し、記憶部3の記憶パラメータ情報3bに記憶されている圧子情報の中から取得した電極パターン情報を検索し、圧子1bの種類を取得する。
【0018】
記憶部3は、揮発性メモリと不揮発性メモリにより構成され、特性算出プログラム3aと、計測パラメータ情報3bと、計測結果データ3cと、解析モデルデータ3dとを記憶する。特性算出プログラム3aは、不揮発性メモリ上に記憶され、後述の処理部2の特性算出部2aにより読み出されて実行される。
【0019】
計測パラメータ情報3bは、不揮発性メモリ上に記憶され、荷重センサ1cの種類毎の変換係数と、圧子1bに関する情報を収めた圧子情報を有する。変換係数は、荷重センサ1cから出力される電圧値を荷重に変換するための数値である。また、圧子情報は、圧子1bの種類と電極パターンとを対応づけた電極パターン情報と、圧子1bの種類毎の形状を示した圧子形状情報とを有する。
【0020】
計測結果データ3cは、特性計測部1により計測した荷重−変位特性を、変位と荷重を対にした点列で揮発性メモリ上に記憶されている。解析モデルデータ3dは、計測時の状態をモデル化したものであり、外形データ及び有限要素法用の分割図のデータが揮発性メモリ上に記憶されている。ここで、外形データは、閉領域を形成する頂点座標と、各頂点の接続関係とを有している。有限要素法用の分割図のデータは、空間を分割する要素データと、要素を形成する節点データと、節点の座標データ等を有する。
【0021】
処理部2は、中央処理装置を有するコンピュータであり、入出力部1eと、記憶部3と、入力部4と、出力部5と接続され、プログラムを処理することにより各部を制御する。処理部2は、記憶部3に記憶された特性算出プログラム3aを読み込み、実行することにより、破壊応力と破壊ひずみを求める特性算出部2aを有する。特性算出部2aは、記憶部3から特性算出プログラム3aを読み込み、実行する。
【0022】
〔特性計測処理〕
図2に示すフローチャートは、オペレータが入力部4を介して計測開始指示を入力したタイミングで開始となり、特性計測処理はステップS1の処理に進む。
【0023】
ステップS1の処理では、特性算出部2aが、出力部5を介して計測条件データの入力をオペレータに促し、オペレータが入力部4を介して計測条件データの入力を完了したタイミングで特性計測処理をステップS2の処理に進める。ここで、本実施形態では、計測条件データとして、圧子1bを押し込む変位の範囲,圧子1bを1回に移動させる変位刻み,試料Dの外形データが設定され、オペレータにより入力された計測条件データは計測パラメータ情報3bとして記憶部3に記憶される。また、圧子1bを押し込む変位の範囲は、図3に示すように、圧子1bの始点位置SPと終点位置EPの座標値により指定される。
【0024】
なお、本実施形態では、圧子1bが試料Dに接する状態の変位量を0とし、圧力が大きくなる変位の方向を正方向としている。また、圧子1bを1回に移動させる変位刻みは小さければ小さいほど計測点は多くなる。また、試料Dの外形データは、基本的に試料Dの輪郭を形成する点の座標値を入力することにより指定されるが、試料Dの外形が直方体等のような簡単な形状である場合には、縦,横,厚みの値を入力することにより指定し、特性算出部2aは縦,横,厚みの値から試料Dの輪郭を形成する各点の座標値を算出するようにしてもよい。
【0025】
ステップ2の処理では、特性算出部2aが、ステップS1の処理により入力された変位の範囲内で試料Dの荷重−変位特性を計測する。具体的には、特性算出部2aは、駆動部1dにより圧子1bを変位の始点位置SPまで移動させるように入出力部1eに制御信号を出力すると共に、計測信号を入出力部1eに出力する。入出力部1eは、制御部1eaにより得られる変位量と計測情報取得部1ebにより得られる荷重とを特性算出部2aに出力する。そして、特性算出部2aは、取得した変位量と荷重とを関連づけさせて計測結果データ3cとして記憶部3に記憶する。
【0026】
次に、特性算出部2aは、ステップS1の処理により入力された変位刻み分だけ正方向に圧子1bを変位させるように入出力部1eに制御信号を出力すると共に、計測信号を入出力部1eに出力する。そして、特性算出部2aは、入出力部1eから取得する変位と荷重とを関連づけさせて計測結果データ3cとして記憶部3に記憶する。特性算出部2aは、圧子1bが変位の終点位置EPにくるまでこの動作を繰り返し実行する。
【0027】
また、特性算出部2aは、計測終了時に使用された圧子1bの電極パターンの情報を計測情報取得部1ebを介して取得し、取得した情報を計測パラメータ3bとして記憶部3に記憶する。これにより、ステップS2の処理は完了し、特性計測処理はステップS3の処理に進む。なお、このステップS2の処理が完了すると、特性算出部2aは図3に示すような荷重−変位特性のグラフを出力することができる。図3に示すグラフ中の領域AELは弾性領域を示し、領域AEPは弾塑性領域を示す。
【0028】
ステップS3の処理では、特性算出部2aが、ステップS2の処理により計測された荷重−変位特性から破壊が顕著になる領域CAを特定する。具体的には、破壊領域CAは、図3に示すように、弾塑性領域AEPの後半部分から始点位置ASと終点位置AEとをオペレータが入力部4から入力することにより、2点で特定される。これにより、ステップS3の処理は完了し、特性計測処理はステップS4の処理に進む。
【0029】
ステップS4の処理では、特性算出部2aが、ステップS1の処理により入力された計測条件データに基づいて数値解析モデルを作成し、作成された数値解析モデルのデータを解析モデルデータ3dとして記憶部3に記憶する。具体的には、特性算出部2aは、計測情報取得部1ebにより取得された圧子1bの電極パターン,計測パラメータ情報3bとして記憶されている電極パターン情報,及び圧子1bの形状情報を用いて導出した圧子1bの外形データと、ステップS1の処理により入力された試料Dの外形データとを用いて、ドロネイ変換法,格子法,逐次法,バブル法,デラウニー法等の自動メッシュ方法により有限要素解析に用いる数値解析モデルである分割図データを生成する。なお、四面体要素の場合には、この処理により図4に示すような数値解析モデルが生成される。また、本実施形態では、計算時間を短くするために、モデルの対称性を利用して計測モデルの半分のみを数値解析モデルにしている。これにより、ステップS4の処理は完了し、特性計測処理はステップS5の処理に進む。
【0030】
ステップS5の処理では、特性算出部2aが、出力部5を介して試料Dの弾性率と降伏応力を入力するようにオペレータに促し、オペレータが試料Dの弾性率と降伏応力の入力を完了したタイミングで特性計測処理をステップS6の処理に進める。なお、試料Dの弾性率と降伏応力は、弾性率と降伏応力の影響が共に現れる弾性領域AELと弾塑性領域AEPに跨る連続領域において、押し込み試験により得られた荷重−変位特性の計測結果と計測状態の数値モデルによる破壊を考慮しない力学的シミュレーションにより得られた荷重−変位特性とを比較し、弾性率と降伏応力を変化させながら荷重−変位特性が略同一になるまで収束計算を行うことにより、決めることができる。但し、本発明では、弾性率と降伏応力の決定方法は上述のものに限られることはなく、例えば文献値を用いるようにしてもよい。
【0031】
ステップS6の処理では、特性算出部2aが、ステップS5の処理により入力された試料Dの弾性率と降伏応力の値を既定値として設定する。これにより、ステップS6の処理は完了し、特性計測処理はステップS7の処理に進む。
【0032】
ステップS7の処理では、特性算出部2aが、特性算出プログラム3a内で予め設定されている所定値を試料Dの破壊応力と破壊ひずみの初期値として設定する。なお、本実施形態では、破壊応力と破壊ひずみの3つの組を設定し、破壊応力と破壊ひずみの座標系における点間の距離が等しくなるように初期値を設定する。これにより、ステップS7の処理は完了し、特性計測処理はステップS8の処理に進む。
【0033】
ステップS8の処理では、特性算出部2aが、解析モデルデータ3dとして記憶されている数値解析モデルを用いて、弾性率と降伏応力の既定値,及び破壊応力と破壊ひずみの3組の初期値において破壊を考慮した力学的シミュレーションを実行することにより、破壊領域CAの荷重−変位特性を算出する。なお、本実施形態では、力学的シミュレーション手法は、変位に対して受ける応力(又は荷重)と変形量を考慮できるように弾塑性構成式を有限要素法により離散化したものであり、設定した破壊ひずみに達した要素を除去することにより破壊を考慮する破壊要素除去型解析モデルを使用するものである。市販されている有限要素法プログラムでは、ABAQUS社製のABAQUS Standard(登録商標)等を用いればよい。また、上述の機能を有する有限要素法プログラムは一般的なものであるので、専用プログラムとして作成してもよい。このような処理によれば、特性算出部2aは、破壊領域CAにおいて荷重−変位特性を算出することができ、3つの離散的な点列を得ることができる。なお、特性算出部2aは、設定した破壊ひずみに達した要素の剛性を低下させることによって破壊を考慮する破壊要素剛性低下型解析モデルを用いて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うようにしてもよい。また、特性算出部2aは、設定した破壊ひずみに達した要素を分割することによって破壊を考慮する破壊要素分離型解析モデルを用いて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うようにしてもよい。図3に示す例では、複数の点列のうち、1つのみを白丸で示している。なお、これにより、ステップS8の処理は完了し、特性計測処理はステップS9の処理に進む。
【0034】
ステップS9の処理では、特性算出部2aが、荷重−変位特性の計測値と算出値とを比較し、以下の数式1に示す評価関数fの値を算出する。なお、以下の数式1において、x1は破壊応力,x2は破壊ひずみ、djは変位、Fm(dj)は荷重−変位特性の計測値,Fc(dj,xi)は荷重−変位特性の算出値,Nは評価するポイント数を示す。なお、本実施形態では、破壊応力と破壊ひずみの3つの組を初期値として算出しているので、評価関数fの値も3つ算出されることになる。これにより、ステップS9の処理は完了し、特性計測処理はステップS10の処理に進む。
【数1】

【0035】
ステップS10の処理では、特性算出部2aが、複数の評価関数fの値の差が所定値以下であるか否かを判別する。そして、判別の結果、差が所定値以下である場合、特性算出部2aは、計算が収束したと判定し、特性計測処理をステップS11の処理に進める。一方、差が所定値以下でない場合には、特性算出部2aは、計算は収束していないと判定し、特性計測処理をステップS12の処理に進める。
【0036】
ステップS11の処理では、特性算出部2aが、破壊応力と破壊ひずみの値の平均値を算出し、算出された値を出力部15に出力する。なお、計算が収束した結果、荷重−変位特性の計測結果と力学的シミュレーションにより得られた荷重−変位特性は破壊領域CAにおいて略同一となっている。これにより、ステップS11の処理は完了し、一連の特性計測処理は終了する。
【0037】
ステップS12の処理では、特性算出部2aは、NelderとMeadによって提案されたシンプレックス法により破壊応力と破壊ひずみの値を再度設定する。具体的には、初期値として設定した破壊応力と破壊ひずみの組を頂点x(k=1〜3)とし、そのうち評価関数fの値が最大になったものをx,評価関数の値が2番目に大きいものをx,評価関数fの値が最小であったものをx,及びxのうち以外のものを平均したxの4点を特徴的な点として区別する。なお、本実施形態は収束計算手法としてシンプレックス法を用いたものであるが、応答曲面法等のその他の収束計算手法を用いて収束計算を行ってもよい。
【0038】
そして、特性算出部2aは、以下の数式2に示す鏡映点x,拡張点x,収縮点xを算出する手続と、頂点xを縮小する手続との4つの手続を行うことにより、鏡映点x,拡張点x,収縮点x,及び頂点xを破壊壊応力と破壊ひずみの探索点として再設定する。なお、以下の数式2において、a=1,b=2,c=1/2とする。これにより、ステップS12の処理は完了し、特性計測処理はステップS8の処理に戻る。
【数2】

【0039】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態となる機械的特性計測装置では、特性計測部1が、圧子1bによって試料Dに圧力を加えることにより試料Dの弾塑性領域AEPにおける荷重−変位特性を計測し、特性算出部2aが、試料Dと圧子1bの形状を含む荷重−変位特性の計測状態の数値モデルを利用して、設定された試料Dの弾性率、降伏応力、破壊応力、及び破壊ひずみにおいて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うことにより、試料Dの荷重−変位特性を算出し、特性計測部1により計測された荷重−変位特性と算出された荷重−変位特性とが弾塑性領域AEPにおいて略同一となるまで破壊応力と破壊ひずみを変化させて収束演算を行うことにより、試料Dの破壊応力と破壊ひずみを算出する。従って、本発明の実施形態となる機械的特性計測装置によれば、微小変位領域においても試料の破壊応力と破壊ひずみを精度よく計測することができる。また、押し込み試験の結果得られる荷重−変位特性を用いて試料の破壊応力と破壊ひずみを算出するので、破壊応力と破壊ひずみを計測するために試料を加工する必要がない。
【0040】
また、本発明の実施形態となる機械的特性計測装置によれば、破壊を考慮しない力学的シミュレーションを実行することにより試料Dの弾性率と降伏応力を取得することができるので、短時間で精度よく試料Dの破壊応力と破壊ひずみを計測することができる。また、本発明の実施形態となる機械的特性計測装置によれば、弾塑性領域AEPとして破壊の効果が顕著に現れる弾塑性領域の後半部分を中心に用いるので、試料Dの破壊応力と破壊ひずみを精度よく算出することができる。
【0041】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態となる機械的特性計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態となる機械的特性計測処理の流れを示すフローチャート図である。
【図3】試料の荷重−変位特性の一例を示す図である。
【図4】圧子が試料に押し込まれた時の数値解析モデルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1:特性計測部
1a:固定部
1b:圧子
1c:荷重センサ
1d:駆動部
1e:入出力部
1ea:制御部(変位計測部)
1eb:計測情報取得部
1f:支柱
1g:圧子支持体
2:処理部
2a:特性算出部
3:記憶部
3a:機械的特性算出プログラム
3b:計測パラメータ情報
3c:計測結果データ
3d:解析モデルデータ
4:入力部
5:出力部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の弾性率と降伏応力を取得する第1の処理と、
圧子によって前記試料に圧力を加えることにより計測された、試料の弾塑性領域における荷重−変位特性を入力する第2の処理と、
前記試料の破壊応力と破壊ひずみを設定する第3の処理と、
前記試料と前記圧子の形状を含む荷重−変位特性の計測状態の数値モデルを利用して、前記第1の処理により取得した試料の弾性率と降伏応力、及び前記第3の処理により設定した試料の破壊応力と破壊ひずみにおいて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うことにより、試料の荷重−変位特性を算出する第4の処理と、
前記第2の処理において入力された荷重−変位特性と前記第4の処理により算出された荷重−変位特性とが前記弾塑性領域において略同一となるまで破壊応力と破壊ひずみを変化させて収束演算を行うことにより、試料の破壊応力と破壊ひずみを算出する第5の処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする機械的特性算出プログラム。
【請求項2】
請求項1に記載の機械的特性算出プログラムであって、
前記第1の処理では、破壊を考慮しない力学的シミュレーションを行うことにより試料の弾性率と降伏応力を取得することを特徴とする機械的特性算出プログラム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の機械的特性算出プログラムであって、
前記第5の処理では、前記弾塑性領域として破壊の効果が顕著に現れる弾塑性領域の後半部分を中心に用いることを特徴とする機械的特性算出プログラム。
【請求項4】
圧子によって試料に圧力を加えることにより試料の弾塑性領域における荷重−変位特性を計測する特性計測部と、
前記試料と前記圧子の形状を含む荷重−変位特性の計測状態の数値モデルを利用して、設定された試料の弾性率、降伏応力、破壊応力、及び破壊ひずみにおいて破壊を考慮した力学的シミュレーションを行うことにより、試料の荷重−変位特性を算出し、前記特性計測部により計測された荷重−変位特性と算出された荷重−変位特性とが弾塑性領域において略同一となるまで破壊応力と破壊ひずみを変化させて収束演算を行うことにより、試料の破壊応力と破壊ひずみを算出する処理部と
を備えることを特徴とする機械的特性計測装置。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【公開番号】特開2007−93303(P2007−93303A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定張力または定圧縮力によるもの
【出願番号】特願2005−280874(P2005−280874)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 圧縮、耐圧試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験 | 破断試験(試験片破断)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 降伏点
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 破壊強度
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 弾性率 | 伸び弾性率(縦弾性係数)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | シュミレーション装置を有するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定された変化量の取扱い | データの電気的処理 | 演算処理