説明

機能化されたセルロース成形体およびそれの製造のための方法

本発明は、含浸効率の低い機能性物質を含むセルロース成形体およびそれの使用のほか、さらには成形工程後の製造過程でセルロース成形体へ含浸効率の低い機能性物質を導入するための方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸効率の低い機能性物質をセルロース成形体に導入するための方法に関するが、その導入は、成形後の製造工程で全く乾燥過程を経ていないセルロース成形体に対して化学変化なく行われる。つまり、これはリヨセル繊維の機能化のための新しい方法であり、従来型工程では全く不可能な、または一段と高いコストをかけないと達成し得ない各種機能性を組み込むことを可能にする。
【背景技術】
【0002】
セルロース系テキスタイルおよび繊維に対しては、様々な方法で機能化または化学的改質を行うことができる。例えば、繊維の製造過程で物質を紡ぎ込むことができる。化学的誘導は、繊維の製造後でさえ、それが工程の途中であれば行うことができる。その場合は共有結合が形成される。その後繊維は、糸、織物、編物、不織布などの中間段階へと、または完成テキスタイルへと加工することができ、テキスタイル製造過程の最終または途中では染色、スチーミングなどの工程によって、またはバインダー利用下での物質の付与によって外観に変化を加えることができる。
【0003】
紡ぎ込みでは、作業工程での紡糸性が維持され、最終繊維製品の機械的特性が十分なレベルに維持されるためには、添加物の良好な分布が必要となる。そのためには、導入される物質は紡糸原液に溶けるか、または十分に小さな粒子状態に均一および安定に分散できなければならない。さらに、添加物が工程の条件のもと滞留時間の全体に亘り化学的に安定でなければならない。リヨセル法の例としては、TiO顔料の添加による艶消し繊維の製造、分散状カーボンによる原着繊維の製造(Wendlerほか、2005年)、建て染め染料の紡ぎ込み(Manian,A.P.、Ruf,H,Bechtold,T.「Spun−Dyed Lyocell」/Dyes and Pigments第74巻(2007年)519〜524ページ)、イオン交換特性を有する繊維の製造(Wendler F.、Meister F.、Heinze T.、「Studies on the Thermostability of Modified Lyocell Dopes」/Macromolecular Symposia第223巻(1)213〜224ページ(2005))またはスーパーアブソーバにより高い吸水性を有する繊維の製造(US 7052775)がある。
【0004】
リヨセル工程では、溶媒NMMOが化学反応を惹き起こして、脆弱物質を破壊させたり、原着液自体を不安定化させて発熱を誘発することがある。この観点では、例えば酸作用物質は危険である。その上、揮発性および水蒸気逃散性の物質の場合では、真空中での水の蒸発によってセルロースを溶融させるフィルム成形機での作業で蒸発してしまう可能性がある。
【0005】
化学的に不安定な物質としては、エステル(例えば油脂)、アミド(例えばタンパク質)およびアルファグリコシド結合の多糖類(例えば澱粉)等の加水分解しやすい物質がある。そのほかでは、NMMOで酸化する酸化敏感性物質(例えば抗酸化剤およびビタミン)がある。
【0006】
さらに、紡糸浴からの除去が困難であるために溶媒の回収を難しくする物質もある。特に相変化材料(Phase Change Material=PCM)として使用されるパラフィンがその一例である。オクタデカンは相変化材料として使用される。これは、マイクロカプセル化することで閉じ込め、そのマイクロカプセルをバインターによりテキスタイル材料に付着させることができる。そのほか、オクタデカンまたは類似材料はマイクロカプセル(EP 1658395)として、または純形状のままリヨセル繊維に紡ぎ込むことができるとの記述もある。
【0007】
最近の日本の特許出願(JP 2008−303245)に、抗酸化作用を有するオリーブ油のビスコースまたはキュプラ繊維への紡ぎ込みのことが記述されている。この紡糸にも、紡糸工程の循環経路が汚染されるということのほか、オイル不含繊維に比較して繊維の機械的特性が劣るという大きな欠点がある。
【0008】
WO 2004/081279からは、ビスコース法においてカチオン性ポリマーを紡ぎ込むことによりカチオン化繊維を製造するということが公知になっている。紡ぎ込みの方法により、既にポリDADMAC系のリヨセルフィルムも製造されている(Yokota Shingo、Kitaoka takuya、Wariishi Hiroyuki著「Surface morphology of cellulose films prepared by spin coating on silicon oxide substrates pretreated with cationic polyelectrolyte」/Applied Surface Science(2007年)第253巻(9)、4208〜4214ページ)。このように、リヨセルへの紡ぎ込みも同様に可能であるが、このような方法で機能化された繊維は、すべてのカチオン性物質と同じように、染料およびその他の汚染物質も紡糸浴から連れ出す性向がある。したがって、その場合には変色の問題が発生し、それが最終製品にとっては大きな欠点になる。
【0009】
各種のカチオン性澱粉も同様にリヨセル繊維に紡ぎ込まれた(Nechwatal,A.、Michels,C.、Kosan,B.、Nicolai,M.「Lyocell blend fibers with cationic starch:potential and properties」/Cellulose(オランダ、ドルトレヒト)(2004年)、第11巻(2)、265〜272ページ)。つまり、これらの物質はいずれも紡ぎ込みによって導入されたもので、後処理によるものではない。
【0010】
タンパク質の溶解については、既にJohnsonによるリヨセル原特許(1969年、GB 1144048)に記述されている。タンパク質の紡ぎ込みに関しては、例えばWO 2002044278およびJP 2001003224など、そのほかにも多数の特許が存在する。日本の当該公報は、乳タンパク質のビスコースへの紡ぎ込みのことを記述している。しかし、実際の紡糸工程ではNMMOの加水分解活性のために効率が低く、しかも分解生成物が紡糸浴を汚染し溶媒の回収を困難にしている。さらに、酵素のような生物学的に活性なタンパク質の場合では、コントロールの及ばない加水分解とか、あるいは構造変化が起き、品質上の理由から受け容れられないことが多い。
【0011】
生体適合性のある材料としてのゼラチンの適用については何度も記述されている(例えばTalebianほか、2007年)。その優位点は、なかでも、良好な水中膨潤性、生体適合性、生物学的分解性および非増感作用性、さらには低い材料コストである。しかし、材料としてのゼラチンの使用は、例えばゼラチン製フィルムなどの成形体における機械的負荷耐性が極めて限定的で見劣りがするので制限される。それに対する公知の解決策は、担体上への薄層の付与、および例えば二官能アルデヒドによる架橋結合である。本発明の着眼点は、リヨセル繊維細孔へのゼラチンの閉じ込めによるゼラチン含有表面の形成である。その複合材料の機械的特性はリヨセル繊維の如何によって、繊維表面の生物学的特性はゼラチンの如何によって決まる。
【0012】
食品ラップおよび包装用セルロースフィルムにゼラチンを導入するのは、確かに、例えばEP 0878133またはDE 1692203から公知である。AT 007617 U1からは、紡ぎ込みによりゼラチンをビスコース繊維に導入することが公知である。しかし、AT 007617 U1の当工程での効率は約15〜45%に過ぎない。つまり、ゼラチンの大部分が工程途上で消失してしまう。
【0013】
さらに、リヨセル繊維の製造のために紡糸溶液にゼラチンを投入することもWO 97/07266から公知である。そこでは、例えばゼラチンなどの求核性物質の紡糸浴への投入も権利請求されているが、しかし詳しくは記述されていない。紡糸浴にゼラチンが存在すれば、直接的な紡ぎ込みの場合に類似した欠点も現れる。ゼラチンは、確かに熱にはあまり負荷を受けないが、しかし紡糸浴のpH値および20〜30%NMMOの加水分解活性には負荷を受ける。その上、ゼラチンによって溶媒循環経路が汚染され、それが溶媒回収時のトラブル原因にもなる。
【0014】
テキスタイル技術の業界では、セルロース・テキスタイル材を化学的に改質させる多様なパターンの工程が知られている。染料は、水溶液からの染色では繊維中に運び込まれる。あるいはまた捺染の場合ではバインダーによりテキスタイル上に固着される。染料は、化学的素性の如何により、セルロースに対する化学的親和性により付着するか(直接染料)、繊維内への浸透後繊維中で不溶性の凝集体を形成するか(例えば建て染め染料)、またはセルロースと化学的共有結合を形成する(反応性染料)。本発明との関係では特に直接染料が重要である。
【0015】
セルロース系テキスタイルへの直接染料の付与は、原則的には、染料溶液中へのテキスタイルの浸漬、場合によりテキスタイルの加熱およびテキスタイルの乾燥により行う。セルロース繊維の内表面への染料の結合性は、非共有の強い相互作用によって生まれ、何ら化学的反応を必要としない。溶液から優先的に繊維内へと拡散してその中に堆積するという染料の特性は、親和性と称される。これは、溶液と繊維間での染料分布が強く繊維側に片寄るという形で現れる。この分布の尺度が、分布係数、つまり、吸尽染色条件下の平衡時における素材(テキスタイル)中の染料濃度と染浴中の染料濃度との比である。素材と溶液間で高い分布係数Kを示す分子は高い親和性があると称される。分布係数、延いてはまた親和性の尺度としては次式が適用される。
【0016】
K=D/D
式中Dは素材中の染料濃度[mmol/kg]で、Dは溶液中の染料濃度[mmol/L]である。直接染料の場合この分布係数Kは10〜100L/kgまたはそれを上回る値である(Zollinger,H.の寄稿、Color Chemistryの第2改訂版/Chemie出版、ワインハイム、1991年)。
【0017】
その他の機能性はテキスタイル自体におけるポリマーの合成によって達成することができる。それは、例えば防皺加工とか、そのほか「高級加工」または「樹脂加工」と言われるものである。そのような樹脂加工では別な物質を封入することもできる。例えば絹タンパク質のセシリンが高級加工によりテキスタイルに固着されたり(A.Kongdee、T.Bechtold、L.Teufel「Modification of cellulose fiber with silk sericin」/Journal of Applied Polymer Science第96巻(2005年)1421〜1428ページ)、キトサンがテキスタイルに付与されたりしている。そのような樹脂結合の欠点は、脆弱なバイオ分子が機能性を喪失すること、あるいは表面域で作用性のある物質が樹脂内への封入によってその作用を失いかねないことである。
【0018】
リヨセル繊維の未乾燥状態とは、繊維が紡糸工程、紡糸溶液からのセルロースの再生を経て、第1乾燥過程前での溶媒NMMOの洗浄除去を終えた後の状態である。未乾燥状態のリヨセル繊維は、乾燥後に再湿潤させたものとは空隙率が遥かに高いところが異なっている。この空隙率は、既に詳細に特徴付けされている(Weigel,P.、Fink,H.P.、Walenta,E.、Ganster,J.、Remde,H.の寄稿「Structure formation of cellulose man−made fibers from amine oxide solution」/Cellul.Chem.Technol.第31巻、321〜333ページ(1997年)、Fink,HP.、Weigel,P.、Purz,H.の寄稿「Structure formation of regenerated cellulose materials from NMMO solutions/Prog.Polym.Sci.第26巻1473ページ(2001年)、Vickers,M.、NP Briggs,RI Ibbett、JJ Payne、SB Smithの寄稿「Small−angle X−ray scattering studies onLyocell fibers」/Polymer第42巻(2001年)8241〜8242ページ」。未乾燥状態の繊維は、吸水性も同様に高くなる。別の著者が、X線広角度散乱の評価に基づき、乾燥時における結晶率の著しい増大についても報告している(Wei,M.、Yang,G.など、Holzforschung第63巻23〜27ページ(2009年))。
【0019】
【表1】

【0020】
(1)Vickersほか(2001年)、FWHM、X線小角散乱におけるピークブロードニング(半値全幅)、配向測定
(2)Weiほか(2009年)
(3)Finkほか(2001年)
【0021】
未乾燥状態(第1乾燥過程前)のリヨセル繊維は、水に対しても溶解分子に対しても高い受容性を有している。この特性が化学的改質に利用される。商業ベースで使用される例は、フィブリル組織の少ない繊維の製造のためのNHDT(Rohrer,C.、Retzl,P.、Firgo,H.「Lyocell LF−profile of a fibrillation−free fiber」/Chem.Fibers Int.第50巻552ページ、554〜555ページ(2000年))またはTAHT(P.Alwin、Taylor J.の寄稿/Melliand Textilberichte第82巻(2001年)196ページ)による架橋反応である。この化学的改質において必要なことは、反応物質が未乾燥繊維内に浸透すること、およびその反応物質が共有結合により繊維上に固着し得るように、工程条件下で反応が十分な速度で完全に行われることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、前記従来技術を見据えた上での課題は、従来の工程では達成し得ないか、または遥かに高いコストをかけないと達成できない機能性をセルロース繊維内に組み込むことを可能にするコンセプトまたは方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この課題の解決策は、セルロース成形体の製造過程で成形後未乾燥状態のときに機能性物質を化学構造を維持したままセルロース成形体に導入することを特徴とする、セルロース成形体への機能性物質の導入のための方法である。つまり、その場合に、例えば誘導過程および類似の過程によって機能性物質の化学構造に変化が起きることのないようにした方法である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1a】実施例3.1のココヤシ油の付与された繊維、ローダミンBにより染色加工。洗濯前、横断面(20μmの薄層)、倍率800倍。
【図1b】3回洗濯後、横断面(20μmの薄層)、倍率800倍。
【図1c】洗濯前、縦断図、倍率800倍。
【図1d】3回洗濯後、縦断図、倍率800倍。
【図2a】FITCにより着色されたゼラチン含有繊維の蛍光顕微鏡撮影。実施例7の3回洗濯後の時点における「高ゲル強度」。縦断図。
【図2b】薄層(10μm)。
【図3】実施例8の乳清タンパク質を含むFITC着色繊維−ミクロトームで切断されたその横断面の共焦点レーザ顕微鏡での蛍光顕微鏡撮影。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に基づく方法で特に注目されるところは、含浸効率K’の低い、特に含浸効率K’が10未満、さらには5未満の機能性物質をセルロース成形体に耐久的に導入することを初めて可能にしたことである。
【0026】
染料は、通例、染色工程で高い効率と高い速度を可能にするために被染材料に対して高い親和性を生む化学構造を有している。染料関係の文献には、繊維に対する染料の親和性が分布係数Kを通じて記述されている(H.Zollinger/Color Chemistry、VCH出版社(1991年)275ページ)。その場合K=D/Dが成立する。ただし、式中のDは溶液中の平衡濃度(g/l)およびDは繊維上の平衡濃度(g/kg)である。K値は熱力学的な大きさである。
【0027】
ここに記述する発明の目的に使用する含浸係数K’は、供された繊維に対する物質の親和性を特徴付けるものである。この係数は、物質と特定タイプの繊維との特定工程条件下での、例えば所定含浸時間(ここでは15分)および所定温度での組み合わせに適用する。これは、厳格には、動力学的な大きさである。なぜなら、適用される含浸時間では一般的には熱力学的平衡に達しないからである。
【0028】
特定物質、特定溶媒および特定条件を対象として、その含浸効率の値が丁度1.0であるということは、物質が繊維に対して溶媒自体と同じような態様で分布していることを意味する。それに対し、1.0未満の含浸効率というのは、排他作用の存在すること、つまり、繊維は物質に対するより溶媒(多くの場合は水)に対して、より大きな親和性を持っていることを示唆している。逆に、含浸効率が1.0を超えた場合では、繊維が溶媒に対するより物質に対してより強い親和性を持っているということになる。したがって、染料は適用される条件(80℃超への昇温、塩の添加)のもとでは常に1.0を明白に超える含浸効率、殆どの場合では10を明白に超えて100以上に到るまでの値を示している。それは、染料をできる限り完璧に繊維に吸収させるためである。ここに、常用される染料の含浸効率K’を幾つか例示する。
【0029】
【表2】

【0030】
含浸効率計測のための染色作業過程は以下のとおりとした。
乾燥済みまたは未乾燥(湿分100%)のリヨセル繊維を、試験染色機Labomat(Mathis社/スイス オーバハスリ/チューリッヒ)により浴比1:20として1.5g/lの所定染料で処理した。そのために、浴を55℃まで加熱し、繊維を投入し(50℃にクールダウン)、表記の時間処理した。その後繊維を分離し、3バールの加圧で圧搾した(湿分約100%の状態)。上澄み液の光度測定により染料含有量の分析を行った。95℃での処理の場合は浴を65℃に予備加熱して繊維を投入し、4℃/分の割合で加熱昇温し、表記の時間で処理した。
【0031】
本発明に基づく方法に特に有利に適用できる機能性物質として、なかでも以下のものが挙げられる。
【0032】
低分子量または高分子量の疎水性(親油性)物質、例えば
・オリーブ油、ブドウ種子油、ゴマ油、亜麻仁油などのオイル
・ココヤシ油などの油脂
・パラフィンおよびその他の炭化水素
・羊毛蝋およびその誘導体などの蝋、蜜蝋、カルナウバ蝋、ホホバ油
・シェラックなどの樹脂
・脂溶性作用物質、例えばスキンケアビタミン、セラミド用の担体として用いられるオイル、脂肪、蝋など
・有機溶媒に溶ける、または乳化し得る防燃性物質
・特定溶媒に溶ける染料、例えば、いわゆるHigh-VIS染料
・殺虫剤、例えばパーメスリンなどのピレスロイド
【0033】
親水性の非荷電ポリマー、例えば
・中性多糖類、例えばキシラン、マンナン、澱粉およびそれらの誘導体
【0034】
アニオン性ポリマー、例えば
・ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸
・ポリガラクトロネート(ペクチン)などのアニオン基を有する多糖類、カラゲナン、ヒアルロン酸
・中性ポリマーからのアニオン性誘導体
【0035】
カチオン性ポリマー、例えば
・ポリDADMAC、ポリアミノ酸、…
・中性ポリマーからのカチオン性誘導体、例えばカチオン性澱粉
【0036】
タンパク質、例えば
・構造タンパク質:ゼラチン、コラーゲン、乳タンパク質(カゼイン、乳清タンパク質)
・酵素
・機能性タンパク質
【0037】
物質の組み合わせ−複合天然物質、例えば
・アロエベラ、ブドウ種子のエキスまたはオイルなどの化粧品原料、植物起源の抗酸化性混合物、エッセンシャルオイル
・朝鮮人参などの健康食品
【0038】
本発明の方法では、機能性物質は適当な溶媒に溶かすか、適当な乳化媒質中で乳化液の状態にしなければならない。固形粒子として存在する物質については、本発明の方法ではセルロース成形体に導入することはできない。
【0039】
本発明の方法には、原則として、あらゆる種類のセルロース成形体を適用することができる。この方法で取り扱う対象は、主として繊維、フィルムまたは粒子である。ここでの繊維とは、連続フィラメントも従来サイズにカットしたステープルファイバーおよびその他短繊維も含めた意味である。フィルムとは、平たいセルロース成形体のことであるが、フィルムの厚さには原則として制限がない。
【0040】
成形は、好ましくは、セルロース含有紡糸溶液を押出ノズルから押し出すことによって行う。それは、その方法によれば、多量のセルロース成形体が極めて統一された形態で製造できるからである。その場合の繊維の製造方法としては、押出ノズルによる従来型押出成形装置での方法だけでなく、特にメルトブロー法などの代替法も適用の対象になる。フィルムの製造には、平坦フィルムの製造のためのスリットノズルも、チューブ状のフィルムの製造のためのリング型スリットノズルも使用することができる。そのほか、例えばフィルム製造のためのドクター法など別種成形方法も適用可能である。これらの方法はいずれも、当業者間では原則として公知である。
【0041】
セルロース成形体のその他可能な対象としては、顆粒、球形粉末またはフィブリドなどの粒子構造体がある。顆粒を母原料とする球形粉末の製造についてはWO 2009036480(A1)に、フィブリド懸濁液の調製についてはWO 2009036479(A1)に記述されている。これらの粒子系が未乾燥状態にある限り、本発明の方法により活性物質を付与することが可能である。
【0042】
セルロース成形体のそのほかの可能な形態として、スパンボンド不織布(「メルトブロー法」)、スポンジ、ハイドロゲルおよびエアロゲルがある。
【0043】
セルロース成形体の内部構造への到達可能性、つまり含浸効率は、原則として、多孔質成形体の形成によって高めることができる。空隙率を高める方法は当業者間では公知である。
【0044】
セルロース含有紡糸溶液で特に好ましいのは、直接溶解法、それも特にリヨセル法によって調製された紡糸溶液である。そのような紡糸溶液の調製に関しては、ここ数十年間に発行された多様な出版物、なかでもWO 93/19230から当業者間では公知である。このことは、機能性物質の紡ぎ込みに比べ本発明にとっての特別な利点である。それは、機能性物質の特性に適合させるために公知の方法を、特に紡糸溶液の調製および溶媒の回収の面で高いコストをかけて変更しなければならないということがないからである。
【0045】
本発明の方法は、例えばリヨセル繊維のフィブリル化性向を抑えるために未乾燥状態で化学的架橋結合が行われるセルロース成形体にも適用することができる。その場合、本発明の方法は化学的架橋結合の前に、または後に行うことができる。本発明の方法は、有機性および無機性の艶消し剤、防燃剤などの物質が既に紡ぎ込まれたセルロース成形体への適用にも同様に適している。
【0046】
それは、本発明の方法では、その導入が沈殿浴からのセルロース成形体の取り出しとそのように処理されたセルロース成形体の乾燥との中間過程で行われるからである。本方法では導入対象の機能性物質はこの段階でしか現れない。その場合に必要な物質循環が極めて閉鎖的に実施でき、例えば紡糸溶液調製時の排気循環および溶媒回収時の循環工程から完全に分離させることができる。しかも、その結果として、機能性物質は高温、低圧およびその他不都合な条件下に曝されることがない。このようにして、従来技術の本質的問題が解消される。
【0047】
導入される機能性物質の特性によっては、導入は溶媒交換後に行うことも容易に可能である。この溶媒交換も、原則として公知の作業過程および装置によって行うことができる。本発明の実施例では然るべき作業処方がモデル例として記述されている。大規模工業的作業方法への転用は、当業者にとっては問題なく行え、発明的行為を付け加えなくても可能である。
【0048】
機能性物質をセルロース成形体に固着させるには、機能性物質の導入後にこの成形体を、好ましくはスチーミングする。本発明でのスチーミングとは、温度上昇を伴う蒸気雰囲気中での処理、特に、好ましくは80℃を超えて、当該物質の熱安定性、使用装置の耐圧性および経済性により制限される温度を上限とする、然るべき温度での飽和蒸気を含む雰囲気中での処理のことを言う。通例では、温度は90〜120℃が有意である。この作業過程は、例えば、然るべき後処理作業空間、場合によっては既設後処理作業空間の練条機で容易に行うことができる。
【0049】
含浸効率K’が10未満、好ましくは5未満の機能性物質を含む、上記方法により製造されたセルロース成形体も本発明の対象である。
【0050】
本発明による成形体と、同じ機能性物質が従来技術に従って紡ぎ込まれたセルロース成形体との本質的相違点は、本発明による成形体の場合製造工程で発生する高い温度によって、または溶媒NMMOの加水分解活性によって機能性物質に変化が生じるということがないところにある。そのような変化は、当業者であれば、完成したセルロース成形体の機能性物質からの特徴的な分解生成物を通して、あるいはまたその化学的または構造的変化を通して確認することができる。
【0051】
上記方法で製造可能なセルロース成形体は、機能性物質の濃度分布としては、中心部を最低濃度とする連続的に一定性のない濃度分布を有している。これは、換言すれば、機能性物質の濃度はその最外層よりも内部のほうが低いことを意味している。その濃度の低下は、例えば、後続のコーティングの場合に見られるような急激なものではない。成形体の横断面には機能性物質が、原則として到る所に、場合によっては成形体の中心部をも含めたあらゆる領域に存在する。機能性物質が後続の加工過程で洗い落とされるとしたら、それは最外層からだけと思われる。機能性物質のこの分布態様は、本発明に基づく成形体に特有のもので、従来技術による公知の方法では達成されない。
【0052】
機能性物質の分布は、公知の方法、例えば薄層マイクロ写真の光度測定による評価またはEDAXなどの空間分解分光法または本発明による成形体の横断面に対する空間分解式ラマン分光分析によって確認することができる。
【0053】
機能性物質の含浸効率K’は、好ましくは10未満、より好ましくは5未満とする。
【0054】
本発明によるセルロース成形体は、好ましくは、例えばオイルのような、NMMO中で十分な安定性がなく、NMMOの回収に支障を及ぼしたり、または紡糸安定性を損なうような機能性物質を含むものとする。
【0055】
本発明によるセルロース成形体に使用する機能性物質は、特に好ましくは、下記の物質群から選択されたものとする。
【0056】
a.低分子量または高分子量の疎水性(親油性)物質、例えば
オリーブ油、ブドウ種子油、ゴマ油、亜麻仁油などのオイル、
ココヤシ油などの油脂、
パラフィンおよびその他の炭化水素、
羊毛蝋およびその誘導体などの蝋、蜜蝋、カルナウバ蝋、ホホバ油、
シェラックなどの樹脂、
脂溶性作用物質、例えばスキンケアビタミン、セラミド用の担体として用いられるオイル、脂肪、蝋など、
有機溶媒に溶ける、または乳化し得る防燃性物質、
特定溶媒に溶ける染料、例えば、いわゆるHigh-VIS染料、
殺虫剤、例えばパーメスリンなどのピレスロイド
【0057】
b.親水性の非荷電ポリマー、例えば
中性多糖類、例えばキシラン、マンナン、澱粉およびそれらの誘導体
【0058】
c.アニオン性ポリマー、例えば
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸
【0059】
d.ポリガラクトロネート(ペクチン)などのアニオン基を有する多糖類、カラゲナン、ヒアルロン酸
【0060】
e.中性ポリマーからのアニオン性誘導体
【0061】
f.カチオン性ポリマー、例えば
ポリDADMAC、ポリアミノ酸、
中性ポリマーからのカチオン性誘導体、例えばカチオン性澱粉
【0062】
g.タンパク質、例えば
構造タンパク質:ゼラチン、コラーゲン、乳タンパク質(カゼイン、乳清タンパク質)、
酵素または機能性タンパク質
【0063】
h.複合天然物質の組み合わせ、例えば
アロエベラ、ブドウ種子のエキスまたはオイルなどの化粧品原料、
植物起源の抗酸化性混合物、エッセンシャルオイルまたは
朝鮮人参などの健康食品
【0064】
本発明によれば、これらの成形体を糸、テキスタイル、ゲルまたは複合材料の製造のために使用することができる。
【0065】
本発明は種々様々な技術分野にも、医療、化粧品および健康の分野にも適用することができる。
【0066】
医療分野で使用される、創傷の処置および治療のための材料は、機械的特性を決定づける担体と生体適合性のある、特に皮膚および傷口表面に適合するコーティング加工材とから構成されることが多い。そのような複合材料は、本発明によれば、担体としてのリヨセル繊維と封入されるバイオ分子、例えばゼラチンまたはヒアルロン酸とで比較的容易に製造することができる。
【0067】
別な適用材料として単独で、あるいは上記のような傷口に適合する材料との組み合わせで、緩やかに、しかもコントロール下で遊離する薬効作用物質を組み込むことも可能である。
【0068】
生体に適合するように表面の改質された繊維材料、テキスタイル材料またはフィルムは、培養細胞成長のための担体として、いわゆる「骨格」としての人工組織の製造のために、または人体固有細胞を含むインプラント材の埋め込み用にも適用される。
【0069】
酵素のような機能性タンパク質の技術的適用の場合、しばしば従来技術によって固定化されているが、担体への化学的結合に関しては、その結合が偶然にも活性中枢の付近で行われる場合、またはタンパク質の構造が結合反応によって変化する場合には活性の損失を想定しておかねばならないことが多い。本発明によれば、機能性タンパク質および酵素は、未乾燥繊維の空隙内へ閉じ込めることによってテキスタイルの担体材料に堅固に結合させることができる。これは、タンパク質を化学的共有結合なしに固定化させる可能性を意味しており、それにより、公知の固定化方法に見られる前記欠点が回避されることにもなる。
【0070】
防燃性テキスタイルの製造の場合、従来技術では、当該物質を化学繊維内に紡ぎ込むことによって、または完成したテキスタイルの仕上加工によって固着を行う。仕上加工で添加される物質は、長期に亘る耐洗濯性に欠けることが多い。防燃剤のなかには、溶媒の回収に支障を来たすことから、紡ぎ込みの方法ではリヨセル繊維へ導入することのできないものがある。有機溶媒に溶ける物質の結合は、本発明によれば、繊維にその溶液を含浸させ、乾燥時にそれを閉じ込めることで行うことができる。
【0071】
本発明による成形体は、着色製品、特にHigh-Vis着色製品の製造にも使用することができる。
【0072】
セルロース/タンパク質から成る複合繊維は、本発明では、溶解したタンパク質を未乾燥のリヨセル繊維内に閉じ込めることによって製造し得る。
【0073】
化粧用繊維業界は注目度がますます高まっている市場である。乾燥肌は国民全体としては増える方向にある。この問題は年齢を重ねるにしたがってより頻繁に現れるからである。この現状から、化粧品には肌の状態を改善するために保湿作用のある物質が使用されている。水と結合する繊維は皮膚の保湿状態を改善させる作用を有することが指摘されている(Yao,L.、Tokura H.、Li Y.、Newton E.、Gobel M.D.I./J.Am.Acad.Dermatol.第55巻910〜912ページ(2006年))。それによると、木綿とポリエステルの比較では乾燥肌の保湿に関しては木綿のほうが明らかに有効な作用を示した。したがって、例えば本発明に基づき導入された乳タンパク質により水との結合機能が追加補強された、より強力に水と結合するリヨセル系テキスタイルは上記の趨勢を今後継続的に推し進めよう。
【0074】
スキンケアオイルの皮膚に対する有効な作用は公知である。油脂は皮膚を平滑化し保護する(Lautenschlager,H.、「Fettstoffe−die Basis der Hauptpflege」/Kosmetische Praxis 2003年(6)、6〜8ページ)。現在化粧品に特に使用されているのは、例えば扁桃油およびブドウ種子油である。これらのオイルは、本発明の方法によればリヨセル繊維に閉じ込めることができ、そうすれば、そこから緩やかに遊離する。羊毛蝋は、皮膚に重要なバリア機能を付与するコレステリンを含んでいる(Lautenschlager,H.、「Fettstoffe−die Basis der Hauptpflege」/Kosmetische Praxis 2003年(6)、6〜8ページ)。化粧品に関する当文献には、リノール酸を化粧品の成分として皮膚に付与することが可能であることも記述されている(Lautenschlager,H.、「Essentielle Fettsauren−Kosmetik von innen und aussen」/Beauty Forum 2003年(4)、54〜56ページ)。この物質は必須脂肪酸であり、バリア機能の妨害に対抗する作用がある。
【0075】
近年、微量栄養素の役割もますます衆目を集めている。2006年発表のKuglerの解説(Kugler,H.−G.、「UV Schutz der Haut」/CO−Med 2006(3)1〜2ページ)によると、近年UV光の強度が高まり、それが皮膚保護対策の需要拡大をもたらしていることには争いがないとのことである。その対象は、然るべき皮膚防護衣、日焼け止め製品であることに疑いないが、そのほか、抗酸化物質の豊富な栄養の摂取および微量栄養素の最適な供給によるいわゆる「内からのスキンケア」も含まれる。
【0076】
皮膚の健康には栄養構成分としての微量栄養素が重要であると認められている。その多くは皮膚から吸収することができる。微量栄養素は化粧品調製原料に使用されることが増えてきている。そのような物質をテキスタイルを通して付与することは、皮膚への塗布に代わる興味深い方法である。1つには塗布作業が省け、また1つには付与過程が比較的長時間に亘って配分され、そのため、少量しか必要でない物質の場合には極めて有利な効果を引き出すことができる。
【0077】
ラジカル捕捉剤は健康ビジネスの分野にとっては興味惹く製品である。人体細胞の酸化ストレスからの保護は、すべての器官、特に皮膚の健康維持にとっては重要な役割を果たしている(Lautenschlager,H.、「Radikalfanger−Wirkstoffe im Umbruch」/Kosmetische Praxis2006(2)、12〜14ページ)。植物性フェノール物質系の各種ビタミン(C、E、A)のほか、ゼラチンなど特定のタンパク質についても抗酸化作用が報告されている(http://www.gelita.com/DGF−deutsch/index.html)。
【0078】
微量栄養素はストレスの緩和と関連付けられる(Kugler,H−G.、「Stress und Mikronahrstoffe」/Naturheilkunde 2/2007)。これによると、なかでもアミノ酸が特別推奨されている。例えば乳タンパク質を含むタンパク質含有繊維は、加水分解により緩やかにアミノ酸を放出するので、皮膚の微量栄養に寄与し得ることとなり、それが組織全体に有益に作用する。
【実施例】
【0079】
以下では、本発明を実施例を手掛かりに説明する。それらは、本発明で展開される可能な実施形態を意味している。本発明は、決してこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0080】
繊維の製造:
WO 93/19230の教示どおりにリヨセル繊維を製造し、紡ぎたての未乾燥状態で使用した。
ビスコース繊維およびモダール繊維は常用の工業的方法に従って製造した(Gotze、Chemiefasern nach dem Viscoseverfahren/Springer社、ベルリン、1967年)。
【0081】
乾燥重量測定:
「atro」は、以下では、105℃で4時間乾燥した後の繊維の絶対乾燥質量としての重量を意味している。
【0082】
物質付着重量:
物質の付着重量は、乾燥繊維の重量を100%として重量%で表示する。
【0083】
抽出による付着重量測定:
別途指示がなければソックスレー抽出法により、エタノール中で繊維から抽出可能成分を取り出し、溶媒の蒸発後に重量測定した。
【0084】
スチーミング:
ラボスチーマー(DHE57596タイプ−Mathis社/スイス オーバハスリ/チューリッヒ)により100℃の飽和蒸気中で行った。
【0085】
繊維製品およびテキスタイル製品の洗濯:
「家庭洗濯のシミュレーション」:
試験染色機Labomat(BFA12タイプ/Mathis社、スイス オーバハスリ/チューリッヒ)に700mlの水道水を入れ、1.3g/lのECE洗剤を添加して60℃で30分間処理した。洗濯を繰り返し行う場合は繊維を硬水流により中間水洗し、次にパディング機に通して3バールの加圧で圧搾した。
【0086】
「アルカリ家庭洗濯」:
試験染色機Labomatの浴比を1:50とし、1g/lのNaCOを添加して60℃で30分間処理した。
【0087】
羊毛染色:
処方:
3% Lanaset Navy Blue(染料)
2g/l 酢酸ナトリウム
5% 芒硝
2% Albegal SET
1g/l Persoftal
pH値4.5〜5.0(酢酸により調整)
【0088】
最初に助剤をすべて投入し、40〜50℃で10分間処理する。次に染料を添加して、その時点から10分間染色し、その後30〜50分間で98℃に昇温して(1.6℃/分の割合)98℃で20〜40分間染色し、その後80℃にクールダウンして水洗する。
羊毛染色物の色濃度(intensity)はCIELAB法により測定した。
【0089】
物質の「含浸効率」の測定のための標準作業法
【0090】
繊維試料としては未乾燥リヨセル繊維を使用する。
該物質を含む5%水溶液またはそれぞれ所定の媒質で調製した5%エマルジョンを含む浴比1:20の含浸浴にこの試料を投入して50℃の温度で15分間含浸させる。含浸には「Labomat」タイプの試験染色機を使用する。その場合、先ず含浸浴を試験温度にまで予備加熱し、続いて繊維を投入する。含浸効率の測定には、機能性物質の親和性の如何により、下記両方法のいずれか1つを適用する。
【0091】
方法1:
15分の含浸時間の経過後に、含浸浴中の物質濃度の低下を光度測定法により計測する。この方法は親和性の高い物質(K’値が5を超える程度の物質)に適している。その場合であれば溶液中の物質濃度に明白な低下が現れるからである。繊維への親和性が低い物質の場合では、溶液中の物質濃度が含浸前と後とであまり違わないので、信頼の置ける測定を得るのは不可能であろう。したがって、そのような場合には第2の方法を適用する。しかし、2つの方法から得られた値が同等であることは明らかである。
【0092】
方法2:
15分の含浸時間の経過後に、Labomatから含浸繊維を取り出してパディング機により3バールの加圧で圧搾し、続いて圧搾後の繊維の湿分を測定する。その後、圧搾繊維を乾燥棚にて105℃で4時間乾燥させる。乾燥したこの繊維の上の物質濃度を適当な方法により、例えば窒素含有物質であれば窒素分析(例えばケールダル法)を通じて、脂肪であれば抽出および抽出物の重量測定を通じて算定する。本方法は親和性の低い物質にも適している。
【0093】
上記条件では有効な含浸が得られない特定の物質の場合では、実際の条件で含浸効率を求めるために、溶媒、投入物質濃度、温度および含浸に使用する装置を変更するというのは、原則として可能であろう。含浸効率K’は次式を用いて算出する。
【0094】
K’=Dft/Dso・100/F
式中Dsoは溶液中の初期濃度(g/kg)、Fは圧搾後の湿分および活性物質の総含量(乾燥時の繊維重量を100%として%表示)およびDftは時間t(=15分)における繊維上の濃度(g/kg)である。
【0095】
なお、方法1ではDftは含浸後の溶液濃度から計算する。
【0096】
=(Dso−Dst)・V
式中Dsoは溶液中の機能性物質の初期濃度(g/l)、Vは溶液の初期体積(l)およびDstは時間t=15分における溶液中の機能性物質濃度(g/l)である。
【0097】
方法2ではDftは直接繊維上の濃度(吸着量)から求める。
【0098】
実施例1:溶媒中からの蝋の結合
【0099】
羊毛蝋アルコールは、ラノリン(羊毛蝋)の加水分解生成物であり、それには羊毛蝋のアルコールが純粋形態で含まれている。天然の羊毛蝋をエステル化する脂肪酸は製造時にほぼ完全に分離される。それにより、製品は非常に耐久性があり、加水分解に対して安定である。使用した羊毛蝋アルコール(Lanowax EP/Parmentier社、ドイツ フランクフルト)のバッチは下記の特性を有していた。
【0100】
融点66℃、鹸化値2.3mgKOH/kg、酸価0.97mgKOH/g、コレステロール31.4%、灰分0.05%。
【0101】
メーカーの説明書によると、羊毛蝋アルコールの組成は薬品品質では次のとおりである(平均値)。
【0102】
ラノステロールおよびジヒドロラノステロール:44.2%、コレステロール:32.5%、脂肪族アルコール:14.7%、脂肪族ジオール:3.2%、炭化水素:0.9%、同定不明物質:4.5%。
【0103】
乾燥重量50g、繊度1.3dtexまたは6.7dtexの未乾燥リヨセル繊維を、予め溶媒交換することなく10%の羊毛蝋アルコールのイソプロパノール溶液(Lanowax EP/Parmentier社、ドイツ フランクフルト、含浸効率K’=0.74)により浴比1:20で10分間に亘り処理した。溶剤交換はその時点で自然に行われた。バッチ全体の残留水分は計算上では6.8%である。繊維は、パディング機により3バールの加圧で圧搾し、過剰蝋溶液を取り除いて105℃で4時間乾燥させた。そのように処理した繊維を60℃で3回洗濯した(家庭洗濯のシミュレーション)。蝋含有量を重量分析およびエタノール中での抽出により算定した。
【0104】
乾燥後の繊維製品は殆ど粘着性がなく容易に開毛できた。
【0105】
参照試料として、繊度1.3dtexおよび6.7dtexの乾燥繊維を同じように処理した。ただ、これらの場合では含浸前に繊維を105℃で4時間乾燥させた。これらの試料の場合第3洗濯後の時点では蝋付着量が明らかに少なく、そのことより、本発明に従って処理した繊維は耐洗濯性が相当改良されているのが明白に認められた。
【0106】
【表3】

【0107】
実施例2:ポリDADMACの結合
【0108】
カチオン化繊維は、例えば濾過材として製造される。セルロース繊維上でのカチオン性機能は、純粋なセルロースでは達成し得ない追加の染色工程、例えば羊毛用酸性染料による染色を可能にする。
【0109】
カチオン性ポリマー ポリDADMAC(=ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、Sigma Prod.No.522 376、超低分子量MW<100,000、含浸効率:未乾燥リヨセルの場合K’=1.4、乾燥リヨセルの場合K’=1.14、未乾燥または乾燥ビスコースの場合それぞれK’=0.87または0.75)を1%水溶液として、未乾燥および乾燥した繊維および編物に含浸法(15分処理)により付与した後、パディング機により1バールの加圧で圧搾し、100℃の飽和蒸気中で10分間スチーミングして、その後105℃で4時間乾燥させた。そのようにして得られた繊維を、その後、1:3に希釈したAvivage B 306、浴比1:20で処理し、乾燥し、カーディングし、紡糸し、編んだ。
【0110】
その編物に対し穏やかなアルカリ予備洗濯を行った。
【0111】
ポリマーの検出には、窒素の元素分析および繊維またはそれより作られた編物の羊毛染色物を利用した。色濃度はCIELAB法によって測定した。染色物の濃厚度は、濃厚度=100−Lとして、輝度Lから算出する。
【0112】
羊毛染色後にポリDADMAC付着物(ポリDADMACと羊毛染料とからの総窒素量として)の耐久性を、1つには繊維について、また1つには編物について、それぞれ5回の家庭洗濯後に濃厚度(=100−輝度[L])の光度測定から判定した(表2参照)。
【0113】
比較のため、羊毛染料に染着可能な公知の繊維を同じ染色作業法により処理した。TENCEL(登録商標)参照試料は、Lenzing(株)の1.3dtex/39mmタイプのテキスタイル商品であり、「Rainbow」はLenzing(株)のカチオン化ビスコース繊維である。
【0114】
結果に見られるとおり、本発明の方法によりポリDADMACで機能化したTENCEL(登録商標)繊維の色強度および耐洗濯性とも、羊毛および「Rainbow」タイプのビスコースの領域内にあった。これは、1つには含浸に対する本発明による方法の利点を、また1つには如何にすれば羊毛との混合に好適なセルロース繊維を容易に、且つ効果的に製造し得るかを示している。
【0115】
【表4】

【0116】
実施例3:溶媒交換による油脂の結合
【0117】
実施例3.1
【0118】
使用したココヤシ油(Ceres/VFI社)は次の特性を有していた。
融点 約28℃
組成:飽和脂肪酸 92g
単不飽和脂肪酸 5g
多不飽和脂肪酸 2g
トランス脂肪酸 1g
【0119】
このココヤシ油の含浸効率K’は、溶媒交換後のエタノールでの含浸では0.68であった。繊度1.3dtex、含水量91.7gである39gの(atro)未乾燥リヨセル繊維を、浴比1:50の無水エタノール中で4時間含浸させることで、水をほぼ完全にエタノールへと切り換えた。そのようにして得たエタノール湿潤繊維を遠心脱水し、それに対して、エタノールに40重量%のココヤシ油を加えた混合液を振盪下で72時間含浸させた。処理した繊維を乾燥棚において真空下60℃で2時間、続いて乾燥棚において大気圧のもと105℃で2時間乾燥させた。繊維を洗濯袋に入れて洗濯機にかけ、追加投入の2kgの洗濯物と共に洗剤の添加下、蛍光増白剤(ECE規定の染色堅牢度試験用洗剤)の添加なしに60℃で洗濯し秤量した。その後繊維を夜通し風乾させた。さらに2回洗濯を繰り返し行った(計3回の洗濯)。脂肪含量を重量分析および抽出によって算定した。
【0120】
洗濯前および第3回洗濯後の繊維について、ローダミンBでの染色後に蛍光顕微鏡で観察した結果、繊維内/繊維上のココヤシ油の分布が明らかになった。分布は横断面全体に亘り均一で繊維に沿っていた(図1a〜図1d)。
【0121】
実施例3.2
【0122】
繊度1.3dtexの79gの(atro)未乾燥リヨセル繊維を、(分析用)エタノールの入った浴比1:20の超音波浴で2時間処理した。この時間の経過中に温度を約50℃に上げた。続いて、試験室用遠心脱水機(1,475回/分)により5分間遠心脱水した。その後、超音波浴において40%ココヤシ油/エタノール混合液で同様に2時間処理し、試験室用遠心脱水機で15分間遠心脱水した。次に、繊維を60℃の真空乾燥棚で2時間、続いて105℃の常圧乾燥棚でさらに2時間乾燥させた。その後繊維を洗濯袋に入れ、ECE規定の染色堅牢度試験用洗剤の添加下(約2kgの随伴織物と共に)60℃で3回洗濯し、1,200回/分の速度で遠心脱水した。繊維はこの洗濯工程の後風乾した。洗濯前後の脂肪付着量をエタノール抽出によって算定した。
【0123】
実施例3.3
【0124】
今回使用したオリーブ油の含浸効率K’は、溶媒交換後のエタノールでの含浸測定では0.89であった。繊度1.3dtexの78gの未乾燥リヨセル繊維を、無水エタノールを含む浴比1:20の超音波浴で2時間含浸させることで、水をほぼ完全にエタノールへと切り換えた。そのようにして得たエタノール湿潤繊維に、超音波浴において、エタノールに40重量%のオリーブ油を加えた混合液を2時間含浸させた。繊維をパディング機により3バールの加圧で圧搾することにより過剰な脂肪溶液を取り除き、真空乾燥棚で2時間、次に105℃で2時間乾燥させた。その後繊維を洗濯袋に入れ、ECE規定の染色堅牢度試験用洗剤の添加下(約2kgの随伴織物と共に)60℃で3回洗濯し、1,200回/分の速度で遠心脱水した。繊維はこの洗濯工程の後風乾させた。脂肪含量をエタノール抽出によって算定した。結果は表3のとおりである。
【0125】
【表5】

【0126】
実施例4:二重の溶媒交換によるパラフィンの結合
【0127】
繊度1.3dtexおよび乾分19%の100gの未乾燥リヨセル繊維を、浴比1:50の無水エタノール中で4時間含浸処理し、その後遠心脱水することで水をほぼ完全にエタノールへと切り換えた。エタノールによる第2溶媒交換は浴比1:50で、その後のトルエンによる溶媒交換も浴比1:50で行った。そのようにして得られたトルエン湿潤繊維に、75重量%のオクタデカンのトルエン溶液を25℃で4時間含浸させた。上記二重の溶媒交換後のトルエンにおける含浸効率は0.18であった。遠心脱水により繊維から過剰分のオクタデカン/トルエン溶液を取り除いた後繊維を風乾させ、次に60℃で2時間、さらに120℃で2時間乾燥させた。その後繊維を家庭洗濯条件(洗濯機により60℃で30分、2kgの随伴ポリエステル織物使用、各洗濯後に風乾)で3回処理した。先ず重量分析によりオクタデカン含有量を算定し、追加として、ソクスレー抽出器によるトルエンでの抽出により抽出可能なオクタデカン量を算定した。それより、抽出し得るオクタデカンは極微量に過ぎないことが明らかになった。72.6%のHSOによる25℃での繊維の酸加水分解の後に、加水分解生成物を抽出し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。それにより、実際にはセルロースの構造内に閉じ込められていたオクタデカンの量が算定し得た。
【0128】
【表6】

【0129】
驚いたことに、二重の溶媒交換後に、本発明の実施過程でセルロース構造とは異質な物質により高い負荷を受けた後でも、機械的繊維データは良好な値を維持していた。
【0130】
実施例5:水/エタノールエマルジョンからのオリーブ油の結合
【0131】
水/エタノールエマルジョンにおけるオリーブ油の含浸効率K’は0.33と測定された。繊度1.3dtexの212gの未乾燥リヨセル繊維(乾燥重量100g)を、1000gのオリーブ油、480gのエタノール、368gの水および40gの乳化剤(Emulsogen T/Clariant社)から成るエマルジョンを含む超音波浴により50℃で15分間含浸処理し、その後パディング機により1バールの加圧で圧搾した。湿潤繊維集魂を分割し、異なった条件で固着させた。その後繊維を異なった条件で乾燥させ、硬水での中間水洗を伴う60℃での家庭洗濯シミュレーション作業を3回行った(条件および結果は表5参照)。Labomatで固着させ、105℃で4時間に亘り乾燥させた繊維は、繊度1.4dtexの場合で25.9cN/texの強度および9.0%の延伸性を有している。
【0132】
【表7】

【0133】
この実施例からも、本発明の実施過程でセルロース構造とは異質な物質により高い負荷を受けたにも拘わらず、機械的繊維データは良好な値を維持しているのが分る。
【0134】
実施例6:水性エマルジョンからのオリーブ油の結合
【0135】
水性エマルジョンにおけるオリーブ油の含浸効率K’は0.24と測定された。第1試験シリーズ(実施例6.1〜6.2)では繊度1.3dtexの207.3gの未乾燥リヨセル繊維(乾燥重量100g)を、1000gのオリーブ油、893gの水および60gの乳化剤(Emulsogen T/Clariant社)から成るエマルジョンを含む超音波浴により50℃で15分間含浸処理し、その後パディング機により1バールの加圧で圧搾した。湿潤繊維集魂を分割し、異なった条件で固着させた。その後繊維を異なった条件で乾燥させ、硬水での中間水洗を伴う60℃での家庭洗濯シミュレーション作業を3回行った(条件および結果は表6a参照)。この実施例も、セルロース構造とは異質な物質により高い負荷を受けた場合でも、機械的繊維データは良好な値のまま維持されることを示している。
【0136】
【表8】

【0137】
第2試験シリーズ(実施例6.3〜6.8)では上記スチーミングまたはLabomatにより処理した試料を、過剰分のオイルを取り除くため、第1乾燥の前に中間洗浄過程(浴比1:50の40℃の水浴で機械的運動を伴う)に通した。それにより、乾燥後には繊維の組織は開毛し易くなった。3回の洗濯後の時点でオリーブ油の付着量が比較的多く残ったままなのは、つまり良好な耐洗濯性を示したのは、実施例6.5と6.8だけであった。この試験シリーズが示しているように、固着条件と乾燥条件との調和の良い組み合わせが結果に大きな影響を与えている。
【0138】
【表9】

【0139】
実施例7:ゼラチンの結合
【0140】
ゼラチンは、典型例で約15,000〜250,000g/molのモル質量を有するタンパク質であり、主として、動物の皮膚および骨に含まれるコラーゲンの酸性条件下(「タイプAのゼラチン」)またはアルカリ条件下(「タイプBのゼラチン」)での加水分解によって得られる。コラーゲンは、多くの動物組織内に基質として含まれている。天然のコラーゲンは約360,000g/molのモル質量を有している。
【0141】
ゼラチンは水中、特に熱間では当初急激に膨潤し、粘性溶液を形成しながら溶けていくが、約35℃を下回ると約1重量%がゲル状に固化する。ゼラチンはエタノール、エーテルおよびケトンには溶けず、エチレングリコール、グリセリン、フォルムアミドおよび酢酸には溶ける。
【0142】
コラーゲンおよびゼラチンは、医薬品の分野では、その生体適合化のための表面改質に用いられているが、その表面は非常に敏感である。本発明の方法によれば、セルロースの機械的特性とゼラチン表面の生体適合性とが組み合わされる。まさにそのような適用にとっては成形体としてのフィルムが有用である。コラーゲンおよびその加水分解生成物は、化粧品の分野では湿分供給体として、および皮膚保護物質として使用される。
【0143】
ゼラチンの重要な特性は、溶液中では約60℃を超えると希液状(ゾル状)になるが、冷却するとゲル状に移行する点である。市販のゼラチンは、タイプ間で、ブルーム値(単位°)として測定されるゲル強度、つまりゲルにおける重りの進入の機械的測定の観点からは異なっている。ゲル強度はゼラチンの(平均)分子量と関係する。ゲル強度50〜125(低ブルーム値)は平均分子量20,000〜25,000に、ゲル強度175〜225(中等ブルーム値)は平均分子量40,000〜50,000に、ゲル強度225〜325(高ブルーム値)は平均分子量50,000〜100,000に相当する(シグマアルドリッチ社による各種タイプのゼラチンのデータ、2008年)。
【0144】
【表10】

【0145】
使用した全タイプのゼラチンに対する測定によると、試験室条件(25℃、空気中湿度40%)での平均含湿量は12%、窒素含有量は18%(絶対乾燥時)であった。表7aは、これらゼラチン各タイプのその他の属性を示している。
【0146】
実施例7a:乾燥温度の影響
【0147】
繊度1.3dtexの108gの未乾燥リヨセル繊維(含湿分140%、乾燥重量45g)を、10%ゼラチン水溶液(「低ゼラチン強度」)により浴比1:20、50℃で15分間含浸させた。このゼラチンの水中での含浸効率K’は0.46であった。繊維はパディング機により1バールの加圧で圧搾し、密閉ポリ袋中80℃で1時間スチーミングした。その後繊維を3部に分け、異なった条件で乾燥させた(表7b)。繊維に結合していない過剰分のゼラチンを取り除くために、乾燥させた繊維をLabomatにより水で予備洗濯(浴比1:50、60℃で30分)した後に60℃で18時間乾燥させた。その後耐洗濯性を3回のアルカリ洗濯によって試験した。ゼラチン付着量は窒素元素の分析によって算定した。結果は表7bのとおりである。
【0148】
【表11】

【0149】
実施例7b:スチーミング条件による影響
【0150】
繊度1.3の125gの未乾燥リヨセル繊維(含湿分108%、乾燥重量60g)を、20%ゼラチン(「食用ゼラチン」)水溶液により浴比1:20、60℃で3時間含浸させた。このゼラチンの水中での含浸効率K’は0.31であった。繊維はパディング機により1バールの加圧で圧搾し、試験室用スチーマーにより100℃で10分間または1時間スチーミングした。その後、繊維に結合していない過剰分のゼラチンを取り除くために、繊維を水で洗った後に(浴比1:100、40℃)105℃で4時間乾燥させた。次に、乾燥させた繊維をLabomatにより水で予備洗濯(浴比1:50、60℃で30分)した後に60℃で18時間乾燥させた。その後耐洗濯性を3回のアルカリ洗濯によって試験した。ゼラチン付着量は窒素元素の分析によって算定した。結果は表7cのとおりである。
【0151】
【表12】

【0152】
実施例7c:ゼラチンの各種タイプによる影響
【0153】
繊度1.3の66gの未乾燥リヨセル繊維(含湿分120.4%、乾燥重量30g)を、各種タイプのゼラチンの10%または3%水溶液(表7d)により浴比1:20、60℃で15分間含浸させた。各種タイプのゼラチン、「食用ゼラチン」、「低ゲル強度」、「中等ゲル強度」および「高ゲル強度」のゼラチンは、水中での含浸効率K’としてそれぞれ0.31、0.46、0.78および0.71の値を示した。繊維をパディング機により3バールの加圧で圧搾し、試験室用スチーマーにより100℃で10分間スチーミングした。その後、繊維に結合していない過剰分のゼラチンを取り除くために、水で洗浄した後(浴比1:100、40℃)105℃で4時間乾燥させた。本実施例では、乾燥した繊維の予備洗濯は行わなかった。前記作業の後に、耐洗濯性を3回のアルカリ洗濯によって試験した。ゼラチン付着量は窒素元素の分析によって算定した。結果は表7dのとおりである。
【0154】
【表13】

【0155】
繊維上および繊維内のゼラチンの分布状態を可視化するため、タンパク質をFITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)により選択的に着色した。この色素はタンパク質のアミノ基とで共有結合をなす。図2aおよび2bは、実施例7c.4からの繊維のモデル例として、タンパク質が繊維横断面の全体に存在し、しかも表面に集中していることを示している。
【0156】
要約すれば、実施例7は、本発明の方法によると、ゼラチンの場合も繊維内で持続的に固着する一方で、他方、表面での集中的堆積により機能性にとって不可欠なゼラチンの量を少なく抑え得ることを示している。
【0157】
実施例8:乳清タンパク質の結合
【0158】
乳清タンパク質は牛乳から採取される。それは乳タンパク質の非凝集状の水溶性成分であり、約50%のβ−ラクトグルブリン、20%のα−ラクタールブミンおよびその他幾つかのタンパク質から成っている。これは、カゼインとは違ってミセルを形成せず、その分子量は15,000〜25,000と比較的低い領域にある。市販の乳タンパク質はある一定量の乳糖および低比率の乳脂を含んでいる。
【0159】
208gの未乾燥リヨセル繊維(atro100g、含湿分108.3%の繊度1.3dtex/38mmタイプ)に、15%の乳清タンパク質溶液(Globulac 70N/Meggle(有)、ドイツ バッサーブルク、タンパク質含量>70%、水中測定での含浸効率K’=0.23)を50℃で10分間含浸させた。パディング機による3バール加圧での圧搾後、不織繊維を分割した。半分にはスチーム処理しなかった(繊維8.1)。他の半分は100℃でスチーミングした(5分間)(繊維8.2)。繊維をビーカー内に入れ、浴比1:100、40℃の条件として水で洗った。湿潤繊維を7.5g/lのAvivage B 304により浴比1:20で処理した。その後、繊維を60℃で乾燥させた。乾燥後の繊維は容易に開毛できた。繊維をカーディングして糸に紡ぎ、編物にした。乳清タンパク質の付着量を窒素元素の分析により算定した。タンパク質の窒素含有量は、カゼインから知られているように15%と想定した。
【0160】
結果は表8に示している。明白に認められるように、ここでもスチーミングは、1つには後続加工前の段階での繊維の機能性物質含量をより高く維持させ、また1つには後続加工過程でテキスタイルの経糸に見られる、さらには日常の使用時に現れる機能性物質の著しい損失を防止させる、繊維上でのタンパク質の固着にとって必要な条件である。スチーム処理しなかった繊維のタンパク質含量は、6回目の洗濯の後では既に検出限界を下回っていたので計測できなかった。
【0161】
【表14】

【0162】
繊維上および繊維中の乳清タンパク質の分布状態を可視化するために、タンパク質をFITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)により選択的に着色した。この色素はタンパク質のアミノ基とで共有結合をなす。
【0163】
図3は、実施例8からの繊維のモデル例として、タンパク質が繊維横断面の全体に存在し、しかも表面に集中していることを示している。
【0164】
実施例9:ポリアクリル酸の結合
【0165】
ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸は親水性で水溶性のポリマーであり、工業的に粘稠助剤、凝集助剤および分散助剤としてしばしば用いられている。アクリル酸のセルロース表面でのグラフト反応により、誘導体としてのセルロース繊維を製造することができる。例えば、臭いを吸収する作用のある市販製品「Deocell」繊維である。しかし、この反応は技術的に煩雑であるため実施には高いコストが掛る。
【0166】
未乾燥リヨセル繊維を、超音波浴において表11に挙げた各アクリル化合物の25%水溶液により15分間含浸処理し、100℃で20分間スチーミングした後、0.025MのHSOにより、溶液のpH値が弱酸性になるまで洗浄して、次に脱塩水により5回水洗し、続いて105℃で1時間、さらに60℃で18時間乾燥させた。アクリル化合物の水中での含浸効率K’は0.52(分子量9,500)〜0.62(分子量100,000)であった。ポリマーの結合量はpH3.5〜pH9でのカルボキシル基の滴定により求めた。耐洗濯性は3回の洗濯(家庭洗濯シミュレーション)によって測定した。結果は表9に示してある。
【0167】
このようにして、特に分子量が高い場合は、グラフト反応、すなわち共有結合の形成によって得られる繊維に耐洗濯性の近似した繊維を製造することができた。
【0168】
上記のようにして得られた繊維について、臭いに対する吸収作用を試験した。その場合、様々な濃度のアンモニア溶液を試料にスプレー掛けし、続いて臭いの強度を臭覚によって判定した。臭いの強度は表示の等級分類(0=認められない、5=強い)によって表した。
【0169】
【表15】

【0170】
実施例10:蝋内でのビタミンEの「スローリリース」試験
【0171】
実施例1に準拠して、繊度1.3dtexまたは6.7dtexの乾燥重量50gの未乾燥リヨセル繊維を、溶媒交換の先行実施なしに10%の羊毛蝋アルコールのイソプロパノール溶液(Lanowax EP/Parmentier社、ドイツ フランクフルト)により浴比1:20で10分間に亘って処理した。なお、本実施例では蝋溶液には蝋の量を基準として5.33mg/kgの量の酢酸トコフェロール(ビタミンE)を投入した。溶剤交換はその時点で自然に行われたが、バッチ全体の残留水量は計算では6.8%であった。繊維は、パディング機により3バールの加圧で圧搾し、そうして過剰分の蝋溶液を取り除いてから105℃で4時間乾燥させた。その後繊維を60℃で3回洗濯した(家庭洗濯シミュレーション)。蝋含量を重量分析およびエタノール中での抽出により算定した。ビタミンEの測定は、HPLCによる抽出により行った。
【0172】
【表16】

【0173】
ここでは、ビタミンEは繊維内で蝋と共に堅固に保持されるものの、しかし洗濯時にはビタミンEの付着量に減少が起きるということが確認できた。このことより、蝋系担体に脂溶性のスキンケア性物質を含ませて繊維に導入し、続いて、当物質を蝋/繊維マトリックスから緩やかに遊離させるという目的には、この方法を適用し得ると結論付けることができる。恐らく、蝋は繊維内で親油性のナノカプセルを形成するのであろう。つまり、繊維は、いわば作用物質のコントロール下での放出のための系(いわゆる「スローリリース」系)である。
【0174】
このようにして、繊維と機能性物質、例えばビタミンまたは香料との間で何回かの付着、離脱の繰り返しが可能である。
【0175】
実施例11:溶媒からのパーメスリンの結合
【0176】
パーメスリンはピレスロイド群からの合成殺虫剤である。これは、昆虫に対して幅広い効能を有する上に、人間を含めた温血動物への毒性は少ないので広く適用されている。パーメスリンは、テキスタイル分野では、例えば衣蛾による食害の防止に(カーペット)、そのほか蚊およびダニなどの病気媒介体(ベクター)から身を護るための防護衣に適用される。
【0177】
パーメスリンを未乾燥リヨセル繊維に対して2種の方法で付与した:
溶剤交換を先行実施する方法および直接、水を含む未乾燥繊維に付与する方法
【0178】
実施例11a)自然進行による溶媒交換の場合
【0179】
繊度1.3dtex、乾燥重量15gの未乾燥リヨセル繊維を、溶媒交換の先行実施なしに、2%または5%のパーメスリン(P100/Thor Chemie社、ドイツ シュパイヤー)のイソプロパノール溶液により浴比1:20、室温で15分間処理した。その時点で溶媒交換が自然に行われた。バッチ全体の残留水量は計算上では5.7%であった。繊維は、パディング機による3バール加圧での圧搾により過剰分のパーメスリン溶液を取り除いた後に105℃で4時間または60℃で18時間乾燥させた。乾燥後、繊維を家庭洗濯のシミュレーション作業で処理した。
【0180】
続いて、パーメスリン付着量をエタノールでの抽出(ソクスレー)およびそれに続くHPLC分析によって算定した。
【0181】
【表17】

【0182】
実施例11b)溶媒交換を先行実施する場合
【0183】
繊度1.3dtex、乾燥重量20gの未乾燥リヨセル繊維を、溶媒交換のために400mlのイソプロパノールで1時間処理した。パディング機により過剰分の溶媒を3バールの加圧下で搾り出した。
【0184】
続いて、パーメスリン(P100/Thor Chemie社、ドイツ シュパイヤー)の2%または5%イソプロパノール溶液により浴比1:20、室温で15分間処理した。繊維は、パディング機による3バール加圧での圧搾により過剰分のパーメスリン溶液を取り除いた後に105℃で4時間または60℃で18時間乾燥させた。乾燥後、繊維を家庭洗濯のシミュレーション作業で処理した。
【0185】
パーメスリン付着量は、エタノールでの抽出(ソクスレー)およびそれに続くHPLC分析によって算定した。
【0186】
【表18】

【0187】
本方法は工業規模では、例えばバラ毛染め染色機で実施することができる。
【0188】
実施例12:セルロース顆粒および粉末の改質
【0189】
既に詳細に記述したセルロース繊維の機能化に加え、本発明の方法に従ってセルロースの顆粒または粉末の処理も行った。その場合、顆粒または粉末の製造はWO 2009/036480に記述された方法に準拠して行った。機能化は、実施例2と同じようにポリDADMACの使用下で行った。すなわち、先ず含浸処理して、次にスチーミングを行い、その後試料を乾燥させた。乾燥させた当試料を弱アルカリ性で洗濯し、水で後洗いした後に改めて乾燥させた。試験12.1では、原材料として未乾燥セルロース顆粒(粒径約1〜2mm)を、試験12.2では乾燥および粉砕処理済みの粉末(x50=50μm、x90=120μm)を使用した。試験12.3には、試験12.1からの負荷を受けた顆粒を使用したが、その場合乾燥後に衝撃式ミル(UPZ 100/Hosokawa Alpine社)により同様に粉末状に粉砕した。それによりx50=60μmおよびx90=125μmの粉末が得られた。得られたそれぞれの粒子のポリDADMAC含量は、実施例2に記述されているように、窒素含有量を通じて測定した。結果は表13にまとめた。顆粒または粉末に対しては、繊維に対して行うのと同じような洗濯試験または染色試験は実施しなかった。未乾燥のセルロース顆粒には、乾燥処理済みのセルロース粉末に比べて相当多くのポリDADMACを付着させ得ることが明白に認められる。顆粒が乾燥および粉砕された場合、ポリDADMAC含量は変わらずに高く維持される。
【0190】
【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含浸効率K’が10未満、好ましくは5未満の機能性物質を含むセルロース成形体であって、成形後の製造過程で未乾燥セルロース成形体へ前記機能性物質を導入するという方法によって製造されたことを特徴とするセルロース成形体。
【請求項2】
成形体内に分布した機能性物質を含むセルロース成形体であって、前記機能性物質の濃度分布が、成形体の中心部を最低濃度とする連続的に一定性のない濃度分布であることを特徴とするセルロース成形体。
【請求項3】
前記機能性物質の含浸効率K’が10未満、好ましくは5未満であることを特徴とする、請求項2に記載のセルロース成形体。
【請求項4】
前記機能性物質が、NMMO中では十分な安定性がなく、NMMOの回収に支障を及ぼすまたは紡糸安定性を損なうことを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロース成形体。
【請求項5】
前記機能性物質が、
a.低分子量または高分子量の疎水性(親油性)物質、特にオリーブ油、ブドウ種子油、ゴマ油、亜麻仁油などのオイル、
ココヤシ油などの油脂、
パラフィンおよびその他の炭化水素、
羊毛蝋およびその誘導体などの蝋、蜜蝋、カルナウバ蝋、ホホバ油、
シェラックなどの樹脂、
脂溶性作用物質、特にスキンケアビタミン、セラミド用の担体として用いられるオイル、脂肪、蝋、
有機溶媒に溶ける、または乳化し得る防燃性物質、
特定溶媒に溶ける染料、例えば、いわゆるHigh-VIS染料、
殺虫剤、特にパーメスリンなどのピレスロイド
b.親水性の非荷電ポリマー、特に中性多糖類、なかでもキシラン、マンナン、澱粉およびそれらの誘導体
c.アニオン性ポリマー、特にポリアクリル酸、ポリメタクリル酸
d.ポリガラクトロネート(ペクチン)などのアニオン基を有する多糖類、カラゲナン、ヒアルロン酸
e.中性ポリマーからのアニオン性誘導体
f.カチオン性ポリマー、特にポリDADMAC、ポリアミノ酸、中性ポリマーからのカチオン性誘導体、特にカチオン性澱粉
g.タンパク質、特に、ゼラチン、コラーゲン、乳タンパク質(カゼイン、乳清タンパク質)などの構造タンパク質、酵素または機能性タンパク質
h.複合天然物質の組み合わせ、特にアロエベラ、ブドウ種子のエキスまたはオイルなど、
植物起源の抗酸化性混合物、エッセンシャルオイル、および
朝鮮人参などの健康食品
からなる群から選択されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロース成形体。
【請求項6】
糸、テキスタイル、ゲルまたは複合材料の製造のための、請求項1〜5に記載の成形体の使用。
【請求項7】
化粧品、健康食品、医薬品、防燃性製品または着色製品、特にHigh-Vis着色製品の製造のための、請求項1〜5に記載の成形体の使用。
【請求項8】
機能性物質のセルロース成形体への導入のための方法であって、
前記導入が、成形後の製造過程で未乾燥セルロース成形体に対して行われる、方法。
【請求項9】
前記機能性物質の含浸効率が低い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記機能性物質の含浸効率K’が10未満、好ましくは5未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記機能性物質が溶解または乳化された状態にある、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロース成形体が繊維、フィルム、顆粒、粉末、フィブリド、スパンボンド不織布、スポンジ、エアロゲルまたはハイドロゲルの形状である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記成形がセルロース含有紡糸溶液の押出ノズルからの押出によって行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記セルロース含有紡糸溶液が直接溶解法によって、好ましくはリヨセル法によってNMMOを溶媒として調製されたものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記導入が、前記セルロース成形体の沈殿浴からの取り出しとそれの乾燥との中間過程で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記導入が、溶剤交換の後に行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記セルロース成形体が前記機能性物質の導入後にスチーミングされる、請求項8に記載の方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図1c】
image rotate

【図1d】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−515874(P2013−515874A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546292(P2012−546292)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000479
【国際公開番号】WO2011/079331
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(500077889)レンツィング アクチェンゲゼルシャフト (20)
【Fターム(参考)】