説明

機能強化型窒化ホウ素組成物及びそれで作った組成物

【課題】少なくとも有機シリコン化合物を含むコーティング層でその表面が処理された窒化ホウ素組成物を提供する。
【解決手段】
1つの実施形態では、窒化ホウ素粉末表面は最初に、焼成工程によるか又は少なくとも無機化合物でコーティングすることによるかのいずれかによって処理され、表面が、有機シリコン化合物の少なくとも1つの官能基に反応する官能基を少なくとも含む複数の反応部位を有するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素を含むポリマーベースの組成物又は混合物を形成することを含む用途に用いる窒化ホウ素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素(「BN」)は、種々の結晶構造で入手され、研磨剤から滑沢剤まで種々の用途がある。六方晶系窒化ホウ素(「hBN」)は、黒鉛と同様の六方晶系層構造である。この特性により、窒化ホウ素は、熱伝導用途、電気絶縁用途、耐食性用途、潤滑用途、パーソナルケア用途における利用、及びプラスチック添加剤としての利用が見出されている。先行技術では、高温反応で無機原料から黒鉛の構造に類似した小板形態及び六方晶系構造のBN粒子の白色粉末を製造することができる。
【0003】
h−BN粒子が小板形態であるため、h−BN粒子を含むポリマー組成物は通常、同程度の容量充填の球状アルミナを含む組成物よりもはるかに粘性が高い。小板BNは充填剤としてポリマーに加えると、レオロジー特性が不足したブレンド材料が形成される。30重量%のBNを超えて充填すると、ブレンド材料は、シリンジのような機械的ディスペンサから計量分配するのが困難なほどに粘稠になる。また、hBNの密度はアルミナよりもはるかに小さいが、hBN充填シリコーン複合材では、アルミナ充填複合材よりも大きい粒子沈降を示す。粘性及び充填剤分離の両方の問題を緩和するために、hBNの表面処理が試みられている。
【0004】
特許文献1には、結合剤で互いに結合してその後スプレー乾燥した不規則な非球状粒子の球形凝集塊の乾燥粉末を形成してBNを製造する方法が開示されている。球形BN凝集塊は、35〜50重量%レベルでポリマーと組み合わせ、粘性が約300cp以下の組成物を形成することができる。特許文献2には、剥離剤、潤滑剤、低摩擦材料、コーティング材料等のような用途で、0.1〜5重量%の量のチタネートカップリング剤、シランカップリング剤及び非イオン性カップリング剤で少なくとも処理してBNの湿潤性を改善したBN粉末が開示されている。特許文献3には、平均粒径が少なくとも60ミクロンでありかつカップリング剤でコーティングしたBN粉末を少なくとも60重量%有し、熱伝導性組成物の熱伝導率が少なくとも15W/m°Kである熱伝導性鋳造可能ポリマーブレンドが開示されている。
【0005】
さらに、BN粉末は、湿潤状態では分解することが知られている。従って、BN粉末を処理して疎水性を高くすることが有利であることになる。
【0006】
【特許文献1】第6,731,088号
【特許文献2】日本特許出願公開第05−0515401号
【特許文献3】第6,162,849号
【特許文献4】米国特許第6,652,822号
【特許文献5】米国特許公開第US2001/0021740号
【特許文献6】米国特許第5,898,009号
【特許文献7】米国特許第6,048,511号
【特許文献8】米国特許公開第2005.0041373号
【特許文献9】米国特許公開第US20040208812A1号
【特許文献10】米国特許第6,951,583号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
改良型BN組成物、特に、それに限定されないが、自動車及び電子機器用途を含む用途に充填剤として大量に用いることができるBN組成物、並びに湿潤状態に耐えるBN粒子が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施形態では、本発明は、その表面がシロキサン及びシラゼンの群から選択された少なくとも1つの有機シリコン化合物で処理された窒化ホウ素粉末に関する。
また、本発明は、シロキサン及びシラゼンの群から選択された少なくとも1つの有機シリコン化合物を含む少なくともコーティング層でその表面を処理することによって、窒化ホウ素粉末を処理する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書で用いる場合、関連する基本的な機能を変更せずに変化させることができるあらゆる定量的表現を修正するために近似言語を用いることができる。従って、「約」及び「実質的に」のような1つ又は複数の用語によって修飾された値は、場合によっては、特定した正確な値に限定されないものとすることができる。
本明細書で用いる場合、「機能化した」という用語は、「表面機能化した」、「機能化表面」、「コーティングした」、「表面処理した」又は「処理した」と交換可能に用いることができ、本発明のカップリング剤で凝集塊形態又は小板形態の窒化ホウ素構成要素をコーティングすることを意味する。
【0010】
本明細書で用いる場合、「カップリング剤」というのは、「コーティング化合物」、「コーティング組成物」又は「機能化剤」と交換可能に用いることができる。カップリング剤として用いるシリコーン化合物は、BNを用いることになっている最終用途、例えばパーソナルケア、熱管理、ポリマーマトリクス、タイヤ用途等に基づいて選択される。
【0011】
本明細書で用いる場合、「機能化」又は「機能化した」という用語は、BN表面上に複数の官能基を与えるようなBN表面の修正に関する。本明細書で用いる場合の「機能化表面」とは、複数の官能基が直接的又は間接的のいずれかで電子対を共有して取り付けられるように修正されたコーティングを意味する。1つの実施形態では、BN粒子は、式(RR’SiO−)n(式中、R、R’は、同じ又は異なるものでありかつH、アルキル(線状又は分枝)、アリール及び置換アリールの群から選択され、nは、環状化合物に対しては3〜16、線状化合物に対しては2〜1百万の範囲の値である)を有する少なくとも1つの有機シロキサン化合物によってその表面が機能化される。別の実施形態では、BN粒子は、一般式HN(SiR3)(SiR’3)(式中、R又はR’は、同じ又は異なるものとすることができかつH、線状又は分枝アルキル(alky)、アリール及び置換アリールの群から選択される)のシラゼンで処理される。さらに別の実施形態では、BN粒子は、一般式H2N(SiR3)(式中、Rは、H、線状又は分枝アルキル(alky)、アリール及び置換アリールの群から選択される)のシラゼンで処理される。
【0012】
窒化ホウ素成分
開始材料として、非コーティングBN成分は、当技術分野で公知の方法によって作られた結晶性又は部分結晶性窒化ホウ素粒子を含む。これらには、特許文献4に開示されているようなプラズマガスを用いる方法で生成されたミクロン寸法の範囲の球状BN粒子、特許文献5に開示されているような結合剤によって互いに結合されてその後スプレー乾燥された不規則な非球状BN粒子で形成された球状窒化ホウ素凝集塊を含むhBN粉末、特許文献6及び特許文献7に開示されているような加圧成形法により生成されたBN粉末、特許文献8に開示されているようなBN凝集粉末、特許文献9に開示されているような高熱拡散性のBN粉末、及び特許文献10に開示されているような高度デラミネートBN粉末が含まれる。これらにはまた、小板形態のBN粒子が含まれる。
【0013】
1つの実施形態では、BN粉末の平均粒径は、少なくとも50ミクロン(μm)である。別の実施形態では、BN粉末の平均粒径は5〜500μmである。第3の実施形態では、10〜100μmである。第4の実施形態では、BN粉末の平均粒径は30μmである。1つの実施形態では、BN粉末は、平均粒径が10μmを超えるhBN小板の不規則な形状の凝集塊を含む。
別の実施形態では、BN粉末は、hBN小板の球状凝集塊の形態である。球状BN粉末の1つの実施形態では、凝集塊の平均凝集塊の大きさの分布(ASD)又は直径は、10〜500μmである。別の実施形態では、BN粉末は、ASDが30〜125μmの範囲の球状凝集塊の形態である。1つの実施形態では、ASDは、74〜100ミクロンである。別の実施形態では、10〜40μmである。
【0014】
1つの実施形態では、BN粉末は、b軸線に沿った平均長さが少なくとも約1ミクロン、典型的には約1〜20μmの間、厚さが約5ミクロン以下の小板の形態である。別の実施形態では、粉末は、平均アスペクト比が約50〜約300の小板の形態である。
1つの実施形態では、BNは、結晶度が少なくとも0.12の高秩序六方晶系構造のh−BN粉末である。別の実施形態では、BN粉末の結晶化度は、約0.20〜約0.55、さらに別の実施形態では、約0.30〜約0.55である。さらに別の実施形態では、BNの結晶度は、少なくとも0.55である。
BN粉末がポリマー複合材内の充填剤として用いられる用途、例えば高熱伝導性が必要なマイクロプロセッサパッケージングでは、10〜40容量%のBN粉末は、約5〜25μmの平均粒径を示し、約60〜90容量%の粒子は、約40〜80μmの平均粒径を示す。
【0015】
1つの実施形態では、機能化する前に、BN粉末は、約300°Fに維持した強制空気オーブンで少なくとも6時間乾燥させ、その後、処理する前又は混合する前には120°Fに維持される。別の実施形態では、機能化する前に、BNは、少なくとも1800°Cの温度で約1〜4時間焼結させる。焼結するのに適切な雰囲気には、窒素及びアルゴンのような不活性気体が含まれる。1つの実施形態では、焼結は、真空内で行われる。別の実施形態では、開始hBN粒子は、最初に2%氷酢酸水溶液で洗浄して、粉末加工工程からの残留表面不純物が除去される。典型的には、5〜10重量%のBN固体を水に懸濁して洗浄を行う。混合物は、80〜100°Cで数時間撹拌され、その後真空ろ過される。BN粒子は次に、新しい脱イオン水で再び洗浄した後に110°Cの空気循環オーブンで乾燥させ、その後、次の段階で機能化/コーティングすることができる。
【0016】
BN表面の反応部位を増加させるための任意選択的な焼成
1つの実施形態では、非コーティングBN粉末粒子は、BN中の酸素原子の数を少なくとも100%ほど増大させるのに十分な高温で十分な時間焼成される。別の実施形態では、BN粉末粒子は、酸素原子を少なくとも1%含む粉末を得るのに十分な時間焼成される。第3の実施形態では、BN粉末粒子は、処理粉末の元素組成が少なくとも3%の酸素原子を有するようになるのに十分な時間及び十分な温度で焼成される。焼成の手段として、酸化環境(例えば空気)が確実に達成される限り、電気炉、ガス炉、回転窯及び連続炉を用いることができる。
【0017】
1つの実施形態では、球状BN粉末の焼成は、以下にグラフィカル表示として示すように、少なくとも8時間にわたり最低でも850°Cで表面酸化を増大させ、これにより、BN表面上に、有機シリコン化合物でさらに機能化するための反応部位を増加させることができる。
【化1】

【0018】
BN表面上の反応部位を増加させるための任意選択的な粉砕
第2の実施形態では、BN粒子の表面層を酸化して反応部位を形成するための任意選択的な焼成段階に加えて又はその代わりに、BN粒子は、従来型の装置により粉砕して、有機シリコン化合物とより良好に反応することができる部位を露出させる。1つの実施形態では、BN粒子は、ジェットミリング法で粉砕し、大きさが0.1〜60ミクロンの間の小板形態のhBN粉末を生成する。この大きさは、各粒子がそのような大きさであるのではなくルーズ結合した超微細サブミクロンの結晶の集塊であるので、公称である。
【0019】
BN表面上の反応部位を増加させるための任意選択的なコーティング
1つの実施形態では、BN粉末は最初に、少なくとも1つの金属酸化物又は水酸化物でコーティングされる。実施例には、BN粉末に対して0.5〜約10重量%の範囲の無機化合物の量での、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ボリア、チタニア、セリア、ゲルマニア、酸化タンタル、酸化セシウム、酸化イットリウム、コロイド状イットリア、マグネシア、トリア、リン酸塩及びその混合物が含まれる。1つの実施形態では、第1のコーティング材料は、大きさが平均10〜100nmの個々のコロイド状シリカ粒子由来の酸化シリコンを含む。第2の実施形態では、BN粒子は、平均粒径が20〜50nnの範囲のコロイド状シリカ粒子の水溶液で湿潤コーティングされる。
【0020】
1つの実施形態では、第1のコーティング材料は、金属酢酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩及びその混合物から成る群から選択される。1つの実施形態では、BNは、約1〜約5重量%の無機化合物でコーティングされる。幾つかの実施形態では、これらの材料は、熱処理されると分解して酸化物を形成し、反応部位を形成する。1つの実施形態では、第1のコーティング材料は、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム及び硝酸カルシウムの群から選択され、これらは、分解すると、酸化カルシウムのコーティングを生じ、BN表面上の反応部位の数が増加する。別の実施形態では、第1のコーティング材料は、硫酸アルミニウム、アルミニウムプロポキシド、ケイ酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、酢酸アルミニウム等の少なくとも1つから選択され、これは、焼結されると分解してBN粒子の表面上にα酸化アルミニウムコーティングを形成し、反応部位の数が増加する。
【化2】

【0021】
カップリング剤でのBNの表面機能化
BN粉末(非コーティングか又は任意選択的に第1のコーティング層でコーティングしたかのいずれか)は、シロキサン及びシラゼンの群から選択された少なくとも1つの有機シリコン化合物でコーティング又は機能化される。
1つの実施形態では、有機シロキサン化合物は、式(RR’SiO−)n(式中、R、R’は、同じ又は異なるものでありかつH、アルキル(線状又は分枝)、アリール及び置換アリールの群から選択される)のものである。この化合物は、線状構造、環状構造又は複合線状/環状構造の形態とすることができる。環状シロキサンに対しては、nは、3〜16の範囲の値であり、また線状シロキサンに対しては、nは、2〜1百万の範囲の値である。1つの実施形態では、線状構造形態の有機シロキサン化合物は、式
【化3】


を有し、式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立してメチル又はフェニルであり、mは1〜10である。実施例には、ヘキサメチルジシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ジフェニルテトラメチルジシロキサン、オリゴ又はポリジメチルシロキサン、オリゴ又はポリジエチルシロキサン、オリゴ又はポリフェニルメチルシロキサン、オリゴ又はポリメチルヒドロシロキサン、オリゴ又はポリエチルヒドロシロキサン、オリゴ又はポリフェニル水素シリコーン、オリゴ又はポリメチルエチルシロキサン、オリゴ又はポリフェニルエチルシロキサン、オリゴ又はポリジフェニルシロキサン、オリゴ又はポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、オリゴ又はポリエチルトリフルオロプロピルシロキサン、テトラクロロフェニルメチルシリコーン、テトラクロロフェニルエチルシリコーン、テトラクロロフェニル水素シリコーン、テトラクロロフェニルフェニルシリコーン、オリゴ又はポリメチルビニルシロキサン、及びオリゴ又はポリエチルビニルシロキサンが含まれる。
【0022】
有機シロキサン化合物は、線状とする必要はなく、環状とすることもできる。環状構造形態の有機シロキサン化合物の実施例には、式
【化4】

のものが含まれ、式中、qは2〜10である。具体的な実施例には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン(DPh3)、オクタフェニルシクロテトラシロキサン(DPh4)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(D4H)及びペンタメチルシクロペンタシロキサン(D5H)が含まれる。また、他の官能基を備えた有機シロキサンを用いることができるのと同様に、カップリング剤として線状及び環状化合物の混合物を用いることもできる。1つの実施形態では、カップリング剤は、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、トリメチルシクロトリシロキサン((D3H)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(D4H)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ペンタメチルシクロペンタシロキサン(D5H)の群から選択される。別の実施形態では、カップリング剤は、少なくとも1つのSi−H結合を含む線状又は環状シロキサン化合物から選択される。
【0023】
1つの実施形態では、有機シリコン化合物は、式NHn(SiR1R2R3)3ーn(式中、R1、R2、R3は、ヒドロカルビル基又はH、nは、1又は2)の線状構造、環状構造又は複合線状/環状構造のシラゼンである。具体的な実施例には、ヘキサメチルジシラゼン又はテトラメチルジシラゼンが含まれる。
【0024】
1つの実施形態では、有機シリコン化合物の1つ又はそれ以上のメチル基を1つ又はそれ以上の官能基又は構成成分で置換して、本発明のカップリング剤でコーティングされたBN粒子の疎水性をさらに増大させることができる。官能基の具体的な実施例には、トリフルオロプロピル及びパーフルオロプロピルのようなフルロカービルが含まれる。
【0025】
有機シリコンカップリング化合物は、BNに対してストレートで(すなわち、担体又は他の同時供給物が存在しない状態で)又は有機担体と共に付加することもがきる。これらの有機シリコン化合物は、気体、液体又は固体の形態で用いることができる。固体有機シリコン化合物は、BN粒子に付加する前に最初に液体担体に溶解することができる。
【0026】
1つの実施形態では、開始剤、分散剤、消泡剤、付着促進剤及び他の普通の添加剤を任意選択的にカップリング剤と組み合わせることができる。開始剤の実施例には、熱開始剤、化学的開始剤、電子ビーム開始剤及び光開始剤が含まれる。
【0027】
本発明のBNを機能化するのに用いるカップリング剤の量は、コーティング方法及び最終用途によって決まる。1つの実施形態では、十分な量のカップリング剤を用いて、BN粒子の表面上に単層のシリコーンコーティングを得る。1つの実施形態では、十分な量の有機シリコン化合物を用いて、BN粒子の表面の少なくとも30%をコーティングする。別の実施形態では、BN表面上のコーティングは、多層である。
【0028】
1つの実施形態では、BNは、気相状態でカップリング化合物を含む供給流と接触させることによってコーティングされる。第2の実施形態では、BNは、十分な時間にわたってカップリング化合物と混合されかつ任意選択的に十分な温度まで加熱されて、機能化工程を可能にする。第3の実施形態では、カップリング剤は、処理するBNの2〜30重量%の量で用いられる。別の実施形態では、有機シリコンカップリング剤は、処理するBNの5〜15重量%の量で用いられる。
【0029】
BN組成物を調製する方法
本発明のBN組成物を調製するには種々の方法があり、これらの方法では、カップリング剤は、液体又は蒸気として付加される。
1つの実施形態では、BN粒子は、25〜200°Cの範囲の温度で30分〜2時間にわたって有機シリコンカップリング剤と混合される。1つの実施形態では、混合温度は、>60°Cである。第2の実施形態では、90〜150°Cの範囲である。混合は、当技術分野で公知の装置、例えば二ロール式ミルミキサ、Banburyミキサ或いはHaake又はBrabenderミキサを用いて行うことができる。混合した後、材料は、任意選択的に溶媒中で処理され、その後この溶媒が除去される。溶媒は、有機溶媒又は水とすることができる。有機溶媒の実施例には、トルエン、キシレン等のような芳香族溶媒、ヘキサン、オクタン等のような炭化水素溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル、エチルエーテル等のようなエーテル、及びエタノール等のようなアルコールが含まれる。1つの実施形態では、溶媒は、カップリング剤の100重量部に基づいて30〜3000重量部の量で用いられる。
【0030】
機能化工程の別の実施形態では、カップリング化合物は、100〜300°Cの温度で蒸気としてBN表面上に付加される。さらに別の実施形態では、BN粒子は、100〜200°Cの間の温度で気体カップリング剤によって処理される。シリコーン化合物がストレートで付加される場合には、例えば約0.5トル〜大気圧未満までの低い圧力を用いることができる。1つの実施形態では、有機シリコンカップリング剤は、同時供給水素(すなわち、H2)及び有機担体とともに付加される。有機担体は、炭化水素、特にトルエン、ベンゼン、キシレン及びトリメチルベンゼンのような芳香族炭化水素とすることができる。有機担体は、供給原料の50〜99%を占めることができる。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、カップリング剤で処理した後、機能化BN粉末製品はさらに、少なくとも約1600°Cの温度で約1〜12時間焼結されて、BNの熱拡散性、不純物及び結晶構造を改善される。焼結は一般的に、不活性ガス、窒素及びアルゴンを含む雰囲気中で1800°C〜2400°Cの範囲で数時間である。焼成(焼結)が完了すると、BN製品は一般的に、焼結を行った炉内で冷却される。
シリコーンカップリング剤によるBN粉末の機能化の確認は、反応後にコーティングBN粉末をDRIFT−IR、X線光電子分光計(XPS)及び飛行時間二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)のような方法を用いて適切に分析することによって行うことができる。
【0032】
表面機能化BNを含む組成物
本発明の方法によって表面機能化したBNは、粉末の形態で用いるか、或いは水性媒体又はイソプロパノール、メタノール、エタノール等の非水性媒体中に約60〜80重量%の固体BNのペーストの形態に組み入れることができる。ポリマーと組み合わせる場合には、粉末又はペーストの形態の表面機能化BNは、組成物の総重量に対してBN10〜80重量%の量で用いられる。得られた組成物の熱伝導率は、1〜25W/mKの間である。ポリマーマトリクスの実施例には、ポリエステル、フェノール、シリコーンポリマー(例えば、シリコーンゴム、シリコーン流体)、アクリル、エポキシ、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリカーボネート、ポリイミド又はポリスルホンが含まれる。ポリマーは、室温で液体とすることができ、或いは溶融処理可能とすることもできる。ポリマー化合物は、ミル、Banbury、Brabender、一軸又は二軸式スクリュー押出機、連続ミキサ、混練機等のような装置内での溶融混合を用いて公知の方法によって調製することができる。
【0033】
1つの実施形態では、表面機能化BNは、最大90%までのレベルで充填剤として用いて、熱伝導率を最大40W/mKまで増大させる。1つの実施形態では、ポリマーマトリクスは、エラストマーを含む。そのようなエラストマーには、それに限定されないが、1,3ブタジエン、スチレン、イソプレン、イソプチレン、2,3−ジメチル−l,3−ブタジエン、アクリロニトリル、エチレン及びプロピレンのホモ又はコポリマーが含まれる。また、それらのいずれかのブレンドを用いることもできる。エラストマー組成物には、例えばイオウ、イオウ供与体、活性剤、促進剤、過酸化物、及びエラストマー組成物の加硫を行うために用いる他の系のような1つ又はそれ以上の硬化剤を含むことができる。別の実施形態では、ポリマーマトリクスには、液晶ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリフタルアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド及びその混合物の少なくとも1つが含まれる。
【0034】
表面機能化BNを用いる用途及び物品
1つの実施形態では、表面機能化BNにより、未処理BNを充填した同じ複合材に比較して、複合材の粘性が殆ど増大しない状態でBNの充填濃度を上昇させることができ、それによって、熱伝導性が高まりかつ粘性が低下するか、充填ポリマー複合材の粘性が低下してその加工性が向上するかのいずれかとなる。1つの実施形態では、ポリマーに表面機能化BN粉末をブレンドすると、得られたポリマー複合材の粘性は、有機シリコン剤で表面機能化していない同量の窒化ホウ素粉末を含むポリマー組成物の粘性に比較すると少なくとも20%ほど低下する。別の実施形態では、ポリマーに表面機能化BN組成物を20重量%を超える量でブレンドすると、得られた複合材の粘性は、等量の未処理BN粉末を含む組成物の粘性よりも少なくとも50%ほど低くなる。
【0035】
本発明の有機シリコンカップリング剤で機能化したBN粉末を含むポリマー複合材は、シャンプー、ローション及びクリームのようなパーソナルケア用途から、マイクロプロセッサパッケージングに用いるための物品、シート、フィルム及び部品用途、自動車用の部品、構成要素、タイヤ及び軸受ハウジング用途、並びにマイクロプロセッサと集積回路チップとのヒートシンク、プラスチックボールグリッドアレイパッケージ、クォドフラットパック及び他の普通の表面装着集積回路パッケージ等のような熱交換器用途、特に純アルミナ(約25W/m°K)の熱伝導率に近い高熱伝導率が必要な用途のような産業用途までの範囲の用途に用いることができる。
【0036】
実施例
本明細書では、本発明を説明するために実施例を示すが、これら実施例は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
この実施例では、BN粉末は、オハイオ州クリーブランドに所在のGeneral Electric Company、Quartz事業部からPTX60(平均粒径が60ミクロンの六方晶系小板BNの球状凝集塊)、PT120(平均粒径が12ミクロンの六方晶系小板BN)、及びPT110(平均粒径が45ミクロンの六方晶系小板BN)として市販されているものである。開始BN粉末の酸素レベルは、0.4%未満である。
実施例1
この実施例では、大幅に過剰な環状シロキサンテトラメチルシクロテトラシロキサンD4H(10.1g)をPTX60(2.25g)と混合し、120°Cのオーブンで72時間にわたって加熱して、大きな凝集塊を形成する。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、BN表面のSiを検出すると、室温と800°Cとの間の累積損失は6%質量である(TGAによる結果)。
【0037】
実施例2
この実施例では、表面機能化に少量のテトラメチルシクロテトラシロキサンD4Hを用い、例えば、4.2gのD4を10.1gのPTX60と混合し、110°Cのオーブンで2.5時間加熱する。次に、混合物をヘキサンで洗浄して乾燥する。得られた粉末に対するDynamic Head Space Desportion試験では、環状シロキサンの発生を示す。TGAでは、室温と600°Cとの間の累積質量損失が5.5%であることを示す。水を入れたフラスコに乾燥粉末を入れ、振盪し、放置する。機能化PTX60粉末を水に懸濁し、振盪する。振盪を止めてほぼ30秒後に、処理BN粉末は水層から分離して、透明なBN上部層と透明な水下部層を形成する。このことは、本発明の機能化BNが極めて良好に水をはじくことを示唆している。
【0038】
実施例3
1.642gのPT120を0.117gの無水琥珀酸機能化エトキシシランと共に還流テトラヒドロフラン(THF)中で1晩加熱する。混合物をろ過し、付加的なTHEで洗浄する。〜0.4gの化合物を10.5mLの水に懸濁し、同様の充填での未処理BNのpH〜8に対してpHが〜5となるように調整する。DRIFT分析により、BNに新しい表面炭化水素基が存在することが確認される。
【0039】
比較実施例1
この実施例では、GE Advanced CeramicsのPT120BN粉末を、酸性化したイソプロパノール中で室温で4日間、その後、60°Cで30時間撹拌する。アルコール処理BN粉末では、疎水性に何ら大きな改善は見られない(水と共に振盪)。
比較実施例2
この実施例では、未処理PTX60を水と混合し、振盪する。振盪を止めて10分後に、BNは、依然として水中に濁った懸濁液を形成しており、未処理BN粉末は、実施例2の処理BNのようには水をはじかないことを示している。
【0040】
比較実施例3
0.456gの固化オクチルイソシアネートを55°Cで60時間、21gのテトラヒドロフランに懸濁した3.95gのPT120窒化ホウ素粉末と共に加熱する。その後、混合物をろ過し、洗浄し、オーブンで乾燥させる。処理粉末では、未処理窒化ホウ素粉末に優る改善した水非混和性を示す。しかしながら、処理粉末は、水で振盪した後、振盪を止めて30秒後には濁った懸濁液を形成し、このことは、この処理粉末は、実施例2の処理粉末ほど効果的に水をはじかないことを示唆している。
【0041】
この記載した説明では、本発明を開示するために最良の形態を含む実施例を用いており、あらゆる当業者が本発明を製作しかつ利用するのを可能にしている。
本発明の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定まり、当業者が思い付く他の実施例を含むことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素粉末を含む窒化ホウ素組成物であって、該窒化ホウ素粉末が、
(RR’SiO−)(式中、R、R’は、同じ又は異なるものでありかつH、アルキル、アリール及び置換アリールの群から選択され、nは、環状化合物に対しては3〜16の範囲、線状化合物に対しては2〜1百万の範囲の値である)、及び
NH(SiR3−n(式中、R、R、Rは、ヒドロカルビル基又はHであり、nは1又は2である)
から選択された式を有する少なくとも有機シリコン化合物でその表面を処理される、
窒化ホウ素組成物。
【請求項2】
前記有機シリコン化合物が、少なくとも1つのSi−H結合を含む有機シロキサンである、請求項1記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項3】
前記有機シリコン化合物が、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D)、トリメチルシクロトリシロキサン((D)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(D)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D)、ペンタメチルシクロペンタシロキサン(D)の群から選択される、請求項1及び請求項2のいずれか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項4】
前記窒化ホウ素粉末表面が最初に、前記有機シリコン化合物の少なくとも1つの官能基に反応する官能基を少なくとも含む複数の反応部位を該表面が有するように処理され、
前記表面が、焼成工程、前記窒化ホウ素粉末を無機化合物でコーティングすること、並びに前記窒化ホウ素粉末を0.5〜約10重量%の金属酸化物及び水酸化物の少なくとも1つでコーティングすることの1つによって処理される、
請求項1及び請求項2のいずれか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項5】
前記窒化ホウ素粉末が最初に、該窒化ホウ素粉末をアルミナ、シリカ、ジルコニア、ボリア、チタニア、セリア、ゲルマニア、酸化タンタル、酸化セシウム、酸化イットリウム、コロイド状イットリア、マグネシア、トリア、リン酸及びその混合物の少なくとも1つでコーティングすることによって処理される、請求項1から請求項4のいずれか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項6】
前記窒化ホウ素粉末の平均粒径が、少なくとも50ミクロンである、請求項1から請求項5のいずか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項7】
前記窒化ホウ素粉末が、結合剤によって互いに結合されてその後スプレー乾燥された不規則な球状粒子の球形凝集塊、アスペクト比が約50〜約300の六方晶系窒化ホウ素小板、及びその混合物の少なくとも1つを含む、請求項1から請求項6のいずれか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項8】
前記窒化ホウ素粉末が、平均直径が約2μm〜約20μmの六方晶系窒化ホウ素小板を含む、請求項1から請求項7のいずれか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項9】
前記窒化ホウ素粉末が、平均粒径が少なくとも10μmの六方晶系窒化ホウ素小板の不規則な形状の凝集塊を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の窒化ホウ素組成物を含む物品。
【請求項11】
ポリマー複合材であって、
溶融処理可能なポリマー、液体ポリマー組成物、フェノール、エポキシ、シリコーン樹脂、液晶ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド及びその混合物から成る群から選択されたポリマーマトリクスと、
窒化ホウ素の粒子を含む充填材料と、を含み、
前記窒化ホウ素が、その表面をシロキサン及びシラゼンの群から選択された少なくとも有機シリコン化合物で処理され、
前記コーティング化合物が、前記窒化ホウ素の表面の少なくとも10%に付着する、
ポリマー複合材。
【請求項12】
窒化ホウ素粉末を生成する方法であって、
前記窒化ホウ素の少なくとも一部分上に複数の反応部位を導入する段階と、
前記窒化ホウ素をシロキサン及びシラゼンの群から選択された少なくとも有機シリコン化合物でコーティングする段階と、を含み、
前記有機シリコン化合物が、最終コーティング層の少なくとも1つの官能基に反応する官能基を少なくとも有する、
方法。

【公開番号】特開2008−94701(P2008−94701A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−323725(P2006−323725)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(506390498)モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インク (85)
【Fターム(参考)】